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勇者「ドーナツの世界?!」 第5話

178 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:03:10 ID:pRId0q7A
第5話 忍び寄る闇
~海・客船~
港町から大河を下り、三日が過ぎた。
客船なのでゆったりとしていて、客室の内装もおしゃれな感じだ。
私は船内放送で海に出たことを知り、勇者さまと二人で甲板に上がった。


魔法使い「勇者さま、水平線が丸いです! この世界って、本当に球体なんですね!」

勇者「そうみたいだな。俺もはじめて見たよ」

魔法使い「私たち、一ヶ月後には南の大地に着くわけですよね。極南の地が闇に覆われているといううわさは、本当でしょうか?」

勇者「それを確認して来るのが、俺と僧侶さんの仕事だよ」

魔法使い「私は思うのですが、極夜ではないでしょうか。自転軸が傾いているので、日が昇らない世界があるのは当然のことだと思うんです」

勇者「それだと話が簡単で良いんだけどなあ。でも今は夏だから、日が沈まない白夜のはずだろ。パズルの意味とか、行けばすべて分かると思うよ」

魔法使い「そうですね」


179
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:07:20 ID:pRId0q7A
勇者「ところで魔法使いちゃん、髪が伸びてきたんじゃない?」

魔法使い「そうなんです。早く前髪を切りたくて、気になっているんです」

勇者「じゃあ、補給で街に停泊したときに美容室に行くといいよ」

魔法使い「はいっ、そうさせてもらいます。あの、勇者さまはどんな髪型が好きですか//」


私は基本的に髪を束ねたりはせず、いつもミディアムヘアにしている。
そのほうが楽だし、女魔法使いといえばストレートヘアというイメージがあるからだ。
だけど、この機会に髪型を変えてみるのも悪くない。
そしてそれならば、勇者さまが好きな髪型にしてアピールをしたい。


勇者「う~ん、ツインテールが似合いそうだと思う」

魔法使い「ツインテールですか? 参考にしてみます♪」


180
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:36:17 ID:pRId0q7A
僧侶「二人とも見ないと思ったら、甲板にいたんだ。もしかして、仲良くデートしていたの?」

魔法使い「えへへ//」

勇者「ちょっと風に当たろうと思ってね。それより、それはもしかして……」

僧侶「そうです、釣竿です!! 海に入ったんだし、美味しいお魚がいっぱい泳いでいるはずなんです!」

魔法使い「私もやりたいっ!」

僧侶「そう言うだろうと思って、もう一本持ってきたよ」

魔法使い「たくさん釣って、新鮮なお魚が楽しみです♪」

勇者「マイペースだな、この二人は――」


181
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:41:47 ID:pRId0q7A
僧侶「ところで勇者さま、豪華客船と海に相応しいシチュエーションパズルに挑戦しませんか?」

勇者「シチュエーションパズル?」

僧侶「出題者が問題を出して、回答者が出題者に『はい』または『いいえ』で答えられる質問をしながら、答えを推理するパズルです」

勇者「なるほど、了解」

僧侶「では問題です。ある日、水兵の男がレストランに行き、ウミガメのスープを注文しました。しかし、船で食べたスープとは味が違います。怒った男はシェフを呼び、問いただしました」


『何だこれは!』
『ウミガメのスープでございます』


僧侶「その日の夜、ショックを受けた男は自殺してしまいました。なぜでしょうか?」

魔法使い「うわぁ……」ゲンナリ

僧侶「知ってても、答えを教えてはいけませんよ。では勇者さま、質問タイムです」


182
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:46:48 ID:pRId0q7A
勇者「なぜショックを受けたんだろ?」

僧侶「それを推理してください」

勇者「船とレストランではシェフが違うのだから、味が違うのは当然だと思うけどなあ」

僧侶「はい、そうですね」

魔法使い「勇者さま。シェフによる味の違いは、美味しいか不味いかですよね。もっと別の理由があると思いませんか?」

勇者「あっ、なるほどね。男が船で食べたのは、ウミガメのスープですか?」

僧侶「いいえ」


この問題は、ウミガメ以外の肉をウミガメとして偽った理由がポイントになる。
なぜ偽る必要があったのか――。


183
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:56:33 ID:pRId0q7A
勇者「何の肉か知っていれば、男はスープを食べましたか?」

僧侶「いいえ。彼なら食べなかったと思います」

勇者「船で食料が不足しましたか?」

僧侶「はい」

勇者「その肉は人間ですか?」

僧侶「はい」

勇者「つまり自殺した理由は、船で人間の肉を食べていたことに気付いたからだ!」


184
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 23:03:30 ID:pRId0q7A
僧侶「残念、惜しいけど不正解です。その答えでは、人間の肉を食べることになった原因が分かりません」

勇者「それもそうか」

僧侶「正解は『乗っていた船が遭難してしまい、そのときに食べていた肉が自分の仲間の肉だったことに気付いてしまい、男はショックで自殺した』でした」

勇者「ちょっと待て。これのどこが豪華客船と海に相応しいんだよ!」

僧侶「えへへ。そうならないように魚を釣りましょう♪」

魔法使い「そうですね」


そして、私は僧侶さんと魚釣りを始めた。
しかし一時間が過ぎ、二時間が過ぎても釣れることはなかった。
きっと航行中の客船からでは、動きが速くて食らい付く余裕がないのだろう。
残念ながら、遭難すると助かりそうにないようだ。


185
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:00:01 ID:/6tJWevM
~海の都~
一週間が過ぎた頃、客船は海の都に停泊した。
ここで食料や燃料を補給し、二日後に次の街に向けて出航する予定になっている。
その間は自由に観光が出来るので、私たちは客船を降りて街に出た。


魔法使い「やっと街に着きましたね」

勇者「船はまた明後日に出航だから、それまでこの街でゆっくりしよう」

僧侶「そうですね。海の幸を堪能するぞ~っ!」

魔法使い「この都は『ウニ』を使った海鮮丼がおすすめだそうですよ」

勇者「じゃあ、お昼は海鮮丼を食べに行こうか」

僧侶「それなら、このお店が良いですよ。ガイドブックでおすすめ店になっています」

魔法使い「この近くですね。勇者さま、早く行きましょう!」


186
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:01:01 ID:/6tJWevM
~海鮮屋~
おすすめの店に着き、みんなで海鮮丼を注文した。
そして運ばれてきた丼には、溢れんばかりの鮮魚が豪快に盛り付けられていた。


魔法使い「お刺身がキラキラしていて、すごく美味しそうですね。この黄色いのがウニなのかなあ」

僧侶「そうそう。黄金の輝きとコクがあって、口の中でとろける感じがすごく絶品だよ」

魔法使い「ほんとだ、すごく濃厚で美味しいです! 客船のビュッフェもおしゃれで美味しいけど、豪快な大衆料理も良いですよね」

勇者「何だか魔法使いちゃん、僧侶さんみたいになってきたなあ」

魔法使い「だって、村では食べられない料理ばかりで幸せなんだもん♪」

僧侶「そうだよね。せっかく旅をしているんだから、存分に楽しまないと!」

魔法使い「はいっ!」


187
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:03:00 ID:/6tJWevM
僧侶「そう言えば、この都にはダブルスキルの支援施設があるみたいですよ。観光地図に載ってました」

魔法使い「ダブルスキルの支援施設?」

僧侶「衛兵の軍事訓練をしたり、新しい能力を養成する施設のことだよ」

勇者「やっぱり、この国は底が知れないな。本格的な訓練施設は城下にあるのだろうけど、その施設の一部が他国の人も集まる場所に建設されているってことは、総合的な軍事力が高いことを知らしめることにもなるからな」

僧侶「そうですよね。だけど今は各国が協力体制を敷いているので、私たちも利用できるはずです。行ってみませんか?」

勇者「そうは言っても、一日二日で修得できる技術なんて何もないだろ」

僧侶「そうですが、ちょっと欲しいものがありまして……。それを買いたいのです」

勇者「そういうことなら、まあ寄ってみるか」


188
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:11:53 ID:/6tJWevM
~支援施設~
僧侶「お~、ありました! 私の暇つぶし」

勇者「受付を素通りしてどこに行くのかと思えば、欲しいものってパズルかよ!!」

僧侶「これはポリオミノの一種で、ペントミノというものです。正方形5個の辺同士がくっつきあって出来る、全12種類の形をピースとした詰め込みパズルなんですよ。ここでは立方体のものも販売されていました」

魔法使い「これって、神の遺産ですよね」

勇者「へえ、そうなんだ。どんな意味があるの?」

僧侶「ペントミノは、この6×10の長方形の枠に隙間なく詰める方法が約2000通りあります。それが人間の能力の可能性を表しているのです」

勇者「人間の可能性か……」

僧侶「はい。でも本来の意味は、神様は世界を破壊して創りかえることが出来るという、絶対的な存在を畏怖するためのパズルだったんですけどね」

勇者「いくら何でも、それは変わりすぎだろ!」

僧侶「でもそういう訳で、支援施設には必ずペントミノが置いてあるんです」


189
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:24:16 ID:/6tJWevM
魔法使い「ちなみに正方形6個を使ったヘクソミノは、世界の扉を表しているそうです。そう言われる理由が面白くて、長方形の枠に詰め込もうとしても凸型になってはみ出してしまうからなんですよ」

勇者「世界の扉……ねえ。その先には一体何があるんだろうな」

魔法使い「精霊神話の一節によれば、扉が閉ざされると魔法を失うらしいです。詳しい記述はありませんけど、この世界の外にはこことは違う世界があるのかもしれません」

勇者「たかがパズルなのに、壮大だなあ」

魔法使い「だから、私たち魔道師には欠かせない知識なんです」

勇者「ふうん……」

僧侶「あ、そうだ。ここって、1日体験入学みたいなことってしてないかな」

勇者「1日体験入学?」

僧侶「魔法使いちゃんが女僧侶に興味が湧いてきたみたいで、少しずつ魔法医学の勉強をしているんです。それで、国の施設で経験させてあげたいなと思いまして」

勇者「そういうことなら、受付で聞いてみようか。魔法使いちゃんはどうする?」

魔法使い「私、ぜひやってみたいです!」


190
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:46:19 ID:/6tJWevM
――「エルグの城の衛兵……おっと、勇者じゃないか」


受付に並んでいると、いかつい格好の男性が勇者さまに話しかけてきた。
彼が装備している鎧には、山すその都……つまりバロックの国の紋章が付けられている。
エルグの国と同盟関係なので、きっと知り合いなのだろう。


勇者「奇遇だな。こんな所で何をやってるんだ?」

僧侶「あの、勇者さま。この方はどなたですか?」

勇者「山すその都でお世話になっていた、バロックの城の兵士だよ。バトルマスターで、なかなかの腕前だよ」

僧侶「そうでしたか。こんにちは」

魔法使い「こんにちは」ペコ

バトマス「おうっ。こいつがうわさのロリっ子魔法少女か。なかなか可愛いじゃねえか」

魔法使い「ろ……ロリっ子魔法少女?!」アセアセ

バトマス「一丁前に照れやがって。ガハハ……」


191
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:54:04 ID:/6tJWevM
勇者「ところで、ここで何やってんだよ。まさか、お前もパズルを買いに来たのか?」

バトマス「何、馬鹿なこと言ってんだ。船旅ばかりだと身体が鈍るだろ。だから、郊外の施設で身体を動かしてきたんだ。お前も行っといたほうがいいぞ」

勇者「そんなものがあるのか。考えてみるよ」

魔女「バトマスさん、お待たせしました」

剣士「勇者、久しぶりだな」

賢者「あら、エルグの皆さん。お城でのお勤めが終わったのですね。ご苦労様です」

勇者「どうも、お疲れさまです……」


192
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:01:00 ID:/6tJWevM
魔法使い「魔女さん、こんにちは」

魔女「こんにちは。ちゃんと精霊魔法の練習してる?」

魔法使い「はいっ!」


魔女さんは私が山すその都に滞在していたときに、お城で精霊魔法の指導をしてくれた国家魔道師の一人だ。
最上級クラスの女魔道師で、精霊たちを使役して現象を支配することが出来る。
そしてスイーツのお店やファッションに詳しくて、訓練以外でも親しくしてくれたので仲がいい。


魔女「うんうん、偉いねえ」

魔法使い「魔女さんのおかげで、複数の精霊魔法を組み合わせて使えるようになりましたよ」

魔女「物理現象は複数の精霊が関わって引き起こされているの。だから、すべての精霊を自在に操れるようにならないと駄目だからね」

魔法使い「もっともっと頑張ります!」


193
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:03:00 ID:/6tJWevM
賢者「ところで、私たちは明日出航なんです。よろしければ、今夜は親睦を兼ねて食事に行きませんか?」

僧侶「いいですね。それなら気になる料亭があるので、そこに行きませんか!」

勇者「そんなことまで調べてるんだ」

僧侶「えへへ、当たり前です」ブイ

バトマス「お前らは家族旅行かよ、いい気なもんだな」

賢者「では店はお任せしますので、財布は任せてください。非公式の村娘が従軍していては、資金のやりくりが大変でしょう」

勇者「それは助かります」

魔法使い「……すみません」

バトマス「じゃあ、日没にここで落ち合おうか。また後でな」

勇者「おうっ!」


194
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:20:01 ID:/6tJWevM
魔女さんたちと別れた後、ようやく受付の順番が回ってきた。
そして女僧侶コースの体験入学について聞いてみると、講座は明後日だということが分かった。
どうやら、出航の日と重なっているようだ。


僧侶「残念だったね」

魔法使い「はい、受けたかったです……」

勇者「あの、先ほど知人から郊外の施設を使えると聞いたのですが、それは大丈夫ですか?」

受付「それでしたら、明日の午後に予約が空いております。実戦形式で行われるアトラクションとなりますので、装備を整えてご利用ください。予約されますか?」

勇者「じゃあ、お願いします」

受付「それでは技量に応じた登録が必要ですので、利用される方は適正検査をお願いします」

勇者「二人はどうする?」

僧侶「魔法使いちゃんは実戦経験が少ないし、私たちも参加しておきます」

魔法使い「女僧侶の講座がムリだったので、こっちを頑張りたいです」

勇者「そっか。じゃあ、三人で利用しよう」

受付「では、そちらのフロアにお願いします」


195
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:26:57 ID:/6tJWevM
~大神官の間~
魔法使い「何だか緊張しますね。適性検査って、どういうことをするのでしょうか」

勇者「きっと魔道具か何かで、レベルや魔力を測るんじゃないかな」

魔法使い「ああ、なるほど」

勇者「アトラクションだし、そんなに身構えなくてもいいと思うよ」

魔法使い「そうですよね」


今日は登録するだけだし、実戦形式というのもバロックの城で受けていた訓練メニューと同じようなものかもしれない。
私はそう思い、少し肩の力を抜いた。
それからしばらくして、勇者さまが大神官様に呼ばれた。


勇者「それじゃあ、行ってくる」


勇者さまが別室に入っていき、僧侶さんと二人きりになる。
雑談を交わしながら順番を待ち、勇者さまが戻ってくると次は僧侶さんが呼ばれた。
そして最後に、私が別室に呼ばれた。


196
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:37:58 ID:/6tJWevM
大神官「それでは、魔法使い殿」

魔法使い「はいっ、失礼します」

大神官「勇者一行にしては、可愛らしいお嬢さんだ」

魔法使い「勇者さまに無理を言って、同行させてもらっています。色んな経験が出来て、今はとても楽しいです」

大神官「そうかそうか。では、始めよう」

魔法使い「お願いします」


そう言うと、大神官様が手をかざした。
足元に魔法陣が展開されて、運命の断片を読み取る魔法が行使される。
どうやら、占いをしてくれるようだ。


大神官「魔法使い殿は、精霊魔法を使いこなせているようですな。可能性に溢れており、鍛錬を怠らなければ多くのことを修得することが出来るであろう」

魔法使い「そうなんですね。私、絶対に頑張ります!」

大神官「しかし、あなたには闇が見える。それを乗り越えてくれることを、わしは期待しておるぞ」ナデナデ

魔法使い「は、はい……。ありがとうございました」


197
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:41:17 ID:/6tJWevM
~受付ルーム~
受付「お疲れ様でした。以上ですべての登録が終わりました。明日、担当の者が誘導しますので、そちらで説明を受けて下さい」

勇者「はい、ありがとうございました」

魔法使い「アトラクションって、どんなことをするんだろ。何だか、楽しみになってきました」

僧侶「はあっ……そうだね」

勇者「どうしたの? 何だか落ち込んでいるみたいだけど」

僧侶「大神官様に『闇に飲み込まれたら、すべてを滅びへと導くことになるだろう』と言われてしまったんです」

勇者「闇というのは、これから行くところのことだろうな。俺は真の勇者に『なりうる』と言われたし、そのためには二人の力が必要なんだ。僧侶さんが言われたことは、つまりはそういうことなんだろうと思う」

僧侶「そうかもしれないですね。闇に立ち向かって、勇者さまと一緒に未来を切り開きたいです」

勇者「そうだな、一緒に頑張ろう。ところで、この後どうする?」

僧侶「私は料亭を予約してきます」

魔法使い「私は美容室に行きたいです」

勇者「そっか。じゃあ、一度解散しようか」


198
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 22:55:54 ID:/6tJWevM
~美容室~
私は二人と別れて、美容室にやってきた。
スキンケアはいつもしているけど、髪の毛は自分でカットすると変になってしまう。


美容師「お客様。今日はどのようにセットなさいますか」

魔法使い「前髪を短くして揃えてほしいです。あと、ツインテールが似合うようにお願いします」

美容師「かしこまりました。お客様は旅の方ですか」

魔法使い「そうです。エルグ地方から来ました」

美容師「それは遠い場所から来られたのですね。ちなみに、どこに行かれるのですか?」

魔法使い「南の都です」

美容師「あそこは魔術の研究が盛んな街ですよね。もしかして、留学生なんですか」

魔法使い「いえ、そうではないんですけど――」


美容師さんと他愛ない会話を楽しむ。
そんな時間はあっという間に過ぎて行き、気が付くと髪型がツインテールにセットされていた。
そしてアレンジの仕方をアドバイスしてもらい、美容室を後にした。

勇者さまは可愛いと言ってくれるかなあ。
そう思うと、あまい期待で胸がいっぱいになった。


199
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 22:59:54 ID:/6tJWevM
~支援施設~
日が傾き始め、待ち合わせの時間が迫ってきた。
すでに魔女さんたちは全員来ていて、支援施設の中で涼んでいる。
後は勇者さまだけとなり、私は待ちきれずに外で迎えることにした。

それから十分ほど待って、ようやく勇者さまが来た。
大きく手を振って、勇者さまに駆け寄る。


魔法使い「勇者さま、ずっと待ってましたよ!」

勇者「ごめんごめん、お待たせ。魔法使いちゃん、髪型変えたんだ」

魔法使い「はいっ// 勇者さまがツインテールが好きだと言っていたので、そうしてみたんです」

勇者「そうなんだ、すごく可愛いよ。似合ってると思う」

魔法使い「えへへ、うれしいです//」


やっぱり、この髪型にして良かった。
私は勇者さまに寄り添い、さり気なく手を繋いだ。


魔法使い「魔女さんたちは、もう中で待っています。早く行きましょ」

勇者「そうなんだ。じゃあ、行こうか」


200
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 19:42:05 ID:HEkQYNWI
~料亭~
勇者「何だか、敷居が高そうな料亭だなあ」

賢者「敷居が高そうって言うか、値段も高そうなんだけど……」


賢者さんはそう言うと、料亭を見上げた。
とても古風な佇まいをしていて、その外観からは風格さえ感じる。
私から見ても、ここの料理は高いんだろうなというのが容易に想像できる。


勇者「お金、大丈夫?」

僧侶「私たちは同盟国ですし、必要経費ってことで何とかなりますよねえ」

賢者「そ、そうね。このくらいなら許容範囲ですよ」


賢者さんは苦笑いをして、一番に料亭の門構えをくぐった。
その後を付いて中に入ると、お店の人が座敷部屋に案内してくれた。


201
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 19:49:55 ID:HEkQYNWI
座敷部屋では男女が別々のテーブルに分かれ、それぞれが談笑を始めた。
みんなで一緒に食べるのかと思っていたけど、そうではなかったようだ。
だけど勇者さまと話をしたければ席を移動すれば良いだけだし、私は鮮魚料理を待つことにした。

やがて食事が用意され、男性席ではバトマスさんが武勇伝を語り始めた。
支援施設が行う実戦訓練は、想像していた以上にハードだったらしい。


バトマス「――それで、魔物どもを叩き斬ってやったんだ。あの模擬戦は、本気でやらねえと逆に殺されるんじゃねえかってくらいハードだったぜ」

剣士「あんな設備で訓練しているのかと思うと、この国の衛兵は敵に回したくないと考えるのも頷けるというものだ」

勇者「そんなにきついのか。大丈夫かな……」

バトマス「最初のフロアで全滅するんじゃねえか?」

勇者「いやいや、それはないから」

バトマス「でもお前んとこの女魔道師は、うちの魔道師連中が気に入ってるみたいだが、所詮は女子供だ。ろくに魔法を使いこなせないだろ」

勇者「それが中々の使い手で、もう並みの魔道師では勝てないと思う」

バトマス「本当かよ。それにもう一人は女僧侶だろ。精霊魔術の才能がなくて治癒しか出来ない、ただの能無しじゃないか。塔に入った瞬間、全滅しそうだな」

勇者「お前、飲みすぎだぞ。もう、それくらいにしとけ」


202
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 20:09:31 ID:HEkQYNWI
バトマス「お前はなあ、女僧侶と女子供なんかに好き勝手されて、男の威厳が足りないんだよ。女なんか力を誇示して、さっさと押し倒してしまえよ」

勇者「うちでそんなことをしたら、僧侶さんに瞬殺されるから」

バトマス「はあ? 能無しの女僧侶にそんなことが出来る訳ねえだろ」

剣士「それはともかく、俺も小隊としては不安が多いパーティーだと思う」

勇者「俺たちは少数精鋭なんだ」

バトマス「何が少数精鋭だ。使えるのは、お前くらいなもんじゃないか。仲良く観光旅行をしてるんじゃねえよ!」

勇者「まあ、旅は楽しいほうが良いだろ」

バトマス「うちの女みたいなことを言いやがって。これは遊びじゃなくて、任務だろうが!」

勇者「分かってるって」

魔法使い「……」


お酒を飲んで酔っているせいかもしれないけど、失礼な人だ。
女なんか押し倒してしまえばいいとか、僧侶さんが能無しとか、私たち女性を何だと思っているのだろうか。
少し不愉快な気分になってきたので、私は男性たちの会話に聞き耳を立てるのを止めることにした。


203
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 20:29:05 ID:HEkQYNWI
魔法使い「賢者さん、少し質問してもいいですか」

賢者「良いけど、どんなこと」

魔法使い「私は治癒魔法の勉強もしたいと思っているんですけど、賢者さんはどんな魔法が使えるんですか?」


私はお酒を飲んでご機嫌な様子の賢者さんに話しかけた。
精霊魔法と治癒魔法を使える職業といえば、女賢者が代表的だ。
どうすれば女賢者になれるのか、勉強のコツなどをぜひ教えてもらいたい。


賢者「私は治癒魔法がメインで、精霊魔法を補助的に使える感じかしら。それと、女神の加護があるから電撃魔法も使えるわね。もしかして、魔法使いちゃんも女賢者になりたいの?」

魔法使い「はい。魔女さんみたいな女魔道師になって、僧侶さんみたいな女僧侶になりたいです」

賢者「ええっ、それはもう女賢者じゃなくて聖人クラスですよ。それが実現できたら、歴史に名前を残せるんじゃないかしら」

魔法使い「そうなんですか?!」

賢者「そうですよ。僧侶ちゃんのことを女僧侶だからと馬鹿にしている方が多いですけど、彼女は神官クラスの実力者なの。精霊魔術と魔法医学を極めるなら、かなり努力しないと中途半端な実力になってしまいますよ」

魔法使い「そっか、そんなに大変なことなんですね」

僧侶「魔法医学は私が教えてあげるから、船の中でじっくり勉強していきましょ」

魔法使い「はい、お願いします!」


204
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 21:06:29 ID:HEkQYNWI
僧侶「ところで、話が変わるんだけど……。そっちのメンバーでは、殿方の性欲をどのように処理しているんですか?」

魔女「な……、何言っちゃってんのよ//」

僧侶「だって、そちらは殿方が二人もいらっしゃいますし、生理現象ですから避けて通れないですよね」

魔女「そんなの知る訳ないでしょ//」

僧侶「あれ、どうしているのか知らないんですか」

魔女「だって、あたしたちは任務で一緒にいるだけだし」アセアセ

賢者「逆に知りたいのですけど、そちらはどうされているのですか?」

僧侶「勇者さまと話し合って、一人でしやすいように工夫しています」

魔女「ええっ?!」

賢者「そちらは性に対して、親和的な姿勢なのですね」

僧侶「そうですか? 他のパーティーの方と話す機会は中々ないですし、普通はどうなのかなって思って」

魔女「そんなことを一緒に話し合うとか、絶対に有り得ないわ」


205
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 21:31:48 ID:HEkQYNWI
魔法使い「じゃあ、男性にエッチなことを我慢させているんですか? そんなの可哀想です」

魔女「可哀想って言われても、あたしには関係ないし。自分たちで勝手にしてるんじゃないの?」

賢者「あの二人は慰安所を利用して、そこで遊んでいるみたいです。費用がかさみますけど、仕方がないので容認してあげています」

魔女「うわっ、そんな所に行ってるんだ。あいつら最低ね」

賢者「私たちに迷惑を掛けるよりも、その方が良いではありませんか」

魔女「まあ、それもそうね」

魔法使い「あの……、慰安所って何ですか?」

魔女「えっ?! 魔法使いちゃんには、まだ早いんじゃないかな……」アセアセ

僧侶「慰安所っていうのは、殿方が金銭を支払って公娼登録をした女性と性行為をするためにある風俗営業施設のことだよ」

魔法使い「あわわ// お金を払って女性と交わるんですか?!」

僧侶「勇者さまがいつも読んでいるエッチな本も、金銭を支払って購入したものでしょ。殿方は射精をしない訳にはいかないから、何らかの形で公娼制度を利用して性欲を解消しているの」

魔法使い「それは分かるけど、お金で女性と交わるのは駄目だと思います」


206
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 21:51:48 ID:HEkQYNWI
僧侶「魔法使いちゃん、殿方が頻繁に一人でなさるのはどうして?」

魔法使い「それは、相手がいないのに射精しなければならないからです」

僧侶「じゃあ女性と一緒に旅をしているけど、その女性とは愛し合う関係ではない場合、殿方はどうすればいいと思う?」

魔法使い「それは、もちろん一人でするべきです!」

僧侶「私も一人でするべきだと思う。だけど残念なことに、嫌がる女性を無理やり強姦する人もいるの。だから、女性を守るために慰安所が必要なんです。公娼の女性たちは、私たちのために頑張ってくれているんですよ」

魔女「ちょっと、そんなことまで教えちゃうの?!」

僧侶「隠したり誤魔化すよりも、ちゃんと教えたほうが良いと思うから」

賢者「確かに、そうかもしれませんね。私たちは公娼制度があるおかげで、今のところは強姦されずに済んでいるわけですし。魔法使いちゃんもお年頃だから、性犯罪に遭ってからでは遅いですものね」

魔法使い「教えてくれてありがとうございます。慰安所のおかげで傷付く女性が減るなら、私たちは感謝しないといけないですよね」

魔女「そうだね、本当に感謝しないといけないよね」

魔法使い「だけど、勇者さまが慰安所を利用するのは絶対にいやです!」

僧侶「じゃあ、また私たちの水着姿で満足してもらいましょうか//」

魔法使い「そう言いつつ、勇者さまを誘惑するつもりですね。私、負けませんから!」


207
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 22:58:53 ID:HEkQYNWI
魔女「ああ、二人ともそういうことなんだ」クスクス

魔法使い「そ、そういうことって……//」

魔女「何だか、僧侶ちゃんたちは楽しそうでうらやましいわ。うちのリーダーは賢者さんなのに、あいつらが偉そうにしてて嫌になっちゃう!」

賢者「はあ、本当にそうですよね」

魔女「任務じゃなければ、絶対に一緒にはいたくないわ」

バトマス「おい、女ども。酒を注ぎに来い!!」

賢者・魔女「はいはい……、噂をすれば何とやら」

バトマス「お前らもだ! 女なら男をもてなせ!」

魔法使い「あ、あの……。女なら男をもてなせって、どういう意味なんですか?」

バトマス「隣に座って、俺にお酌をしろって言ってんだよ」

僧侶「それならそうと、もう少し言い方があると思うんですけど。美味しい料理とお酒を、みんなで楽しく食べましょうよ」

バトマス「女の癖に口答えするな! 金を払うのは俺たちだろうが!」

勇者「もういい加減にしろよ。みんな困ってるだろ!」


208
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 23:22:57 ID:HEkQYNWI
魔法使い「僧侶さん、私たちもお酌をしたほうが良いんですかねえ……」

僧侶「ううん、そんな必要はないから。睡眠魔法!」

バトマス「zzz」

僧侶「あらあら、飲み過ぎですよ。さっ、みんなで楽しく食べましょ」

魔女「そ……そうだね」

剣士「なるほど、確かに瞬殺されそうだな。今なら彼女のナイフでひと突きだ」ククッ

勇者「とりあえず、これでゆっくり食べられそうだ。僧侶さん、ありがとう」

僧侶「いえいえ。みんなで食べているのに、こういうモラルがない人は嫌いですから」

魔法使い「そうですよね! 勇者さま、そっちに行っても良いですか?」

勇者「いいよ。魔法使いちゃんは飲めないし、一緒に食べようか」

魔法使い「はいっ♪」


私は熟睡させられたバトマスさんを尻目に、みんなと鮮魚料理を楽しんだ。
そして食事が終わったときには、夜も遅い時間になっていた。


209
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 23:22:57 ID:HEkQYNWI
~訓練施設~
翌日の午後、私たちは予約をした訓練施設にやってきた。
街から少し外れた郊外にあり、敷地の中には建屋だけではなく、洞窟や塔のような建造物まで建っていた。
受付の女性によると、様々な状況で訓練を受けることが出来る本格的な施設とのことだ。


案内人「お待ちしておりました。勇者殿」

勇者「はい」

案内人「当アトラクションは実戦形式となっておりまして、勇者殿には塔を上っていただきます」

勇者「あの塔ですか」

案内人「はい。訓練メニューは、各フロアで戦いながら最上階の4階を目指すことです」

勇者「勝ち抜き方式ということですか?」

案内人「そうです。各フロアの者が結託して、総力戦を仕掛けるようなことはありません。それぞれのフロアで敵を倒し、階段を上って最上階を目指してください」

勇者「なるほど」


210
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 23:34:40 ID:HEkQYNWI
案内人「それでは、皆様に身代わりの腕輪を支給します」

僧侶「強力な蘇生魔法が込められた魔道具みたいですね」

案内人「さすが僧侶殿。この腕輪には転移魔法も込められていますので、必ず装備してください。蘇生魔法と同時に発動して、塔の外に出られるようになっています」

僧侶「最上階まで行けた場合、この魔道具はいただけるのですか?」

案内人「差し上げることは出来ません。その場合は返却していただきます」

僧侶「そうなんですね。良いものなのに残念です……」

案内人「もう宜しいですか? 装備しなかったことによる損害は、一切責任を持ちません。こちらがその誓約書になります」

勇者「どうする、魔法使いちゃん。この訓練、冗談抜きで危ないみたいだけど」

魔法使い「あ、あの、頑張ります!」

勇者「そっか。じゃあ、頑張ろうか」

魔法使い「はいっ」


211
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 17:36:38 ID:jnI.Pdpo
~最初のフロア~
案内人「それでは扉を開けますので、中にどうぞ」

ギイィィッ
ガチャン

魔法使い「うわあ、広いですねぇ」


私は塔の中に入り、周囲を見回した。
玄関口は開放的なスペースになっていて、奥には通路が見える。
その先に、階段や別の部屋があるのかもしれない。


僧侶「魔法使いちゃん、迂闊に歩き回ると危ないわよ。実戦形式だということを忘れないで」

魔法使い「あ、はいっ」

勇者「ちっ……」


突然、勇者さまが剣を抜いて案内人を一閃した。
案内人は胸から血を噴き出し、悶絶しながら崩れ落ちる。
それは一瞬の出来事だった。


212
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 18:14:54 ID:jnI.Pdpo
・・・
・・・・・・
案内人「ぐおぉおぉぉっ!」

魔法使い「えっ、ええっ?!」

僧侶「ゆ、勇者さま、何を……!」


僧侶は唐突な出来事に驚き、勇者を問いただした。
しかしその瞬間、案内人の体内で得体の知れない変化が起きていることに気が付いた。
全身の生体エネルギーが収束していき、魔力と激しく融和しているのだ。
さらに、爆発的に発生しているエネルギーを全身に溜め込んでいる。

そう、
これは自爆魔法だ!


僧侶「うそでしょ、こんなの有り得ない――」


213
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 18:27:35 ID:jnI.Pdpo
自爆魔法を止める方法は、二つある。
その一つが即死魔法だ。

即死魔法を使えば、すべての生体エネルギーを霧散させることが出来るからだ。
つまり魔力と融和する反応が起きなくなるので、爆発的なエネルギーが発生しなくなるのだ。
しかし魂も霧散してしまい、案内人は蘇生できなくなってしまう。

もし生命を司る賢者の石があればそれを代償にすることで蘇生させることができるが、とても高価な魔道具なので持ち合わせてはいない。
従って、案内人に即死魔法を行使することは出来ない。
山賊たちに行使したときと違い、気絶させる程度では意味がないからだ。

僧侶は横目で魔法使いを見遣った。
血塗れの案内人を見て、動けずに立ちすくんでいる。
それは人が斬られたからか、それとも膨れ上がるエネルギーに気付いたからか。
どちらにしても、彼女には残酷なものを見せることになる。

自爆魔法を止める、もう一つの方法。
その魔法だけは、純粋な少女である魔法使いには見せたくなかった。
だけど、もう迷っている時間はない――。


214
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 18:45:28 ID:jnI.Pdpo
僧侶「破壊魔法!!」


その魔法が発動した瞬間、案内人の体組織が破壊された。
脳や内臓が潰され、次々と血管や神経が切断されていく。

ボキッ
グチャッ……

骨が砕ける音。
その砕けた骨で、人肉がかき混ぜられる音。
そして全身の体細胞が破裂して、肉塊がぐちゃぐちゃと流れ出す。

すべての核と細胞質。
自爆魔法を発動するためのユニットが破壊され、まるで汚物のようになっていく案内人。
どろりと溶けて、自爆することなく絶命した。

その直後、悲鳴が聞こえた。


魔法使い「いやあぁぁぁっ!!」


215
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:03:20 ID:jnI.Pdpo
・・・
・・・・・・
勇者「魔法使いちゃん!」

魔法使い「いやっ、いやあああぁぁっっ!」


私は勇者さまに取り押さえられ、強く抱きしめられた。
そして、たくさんの涙が溢れてきた。

私は精霊魔法が使えるので、村では小動物の狩りを手伝っていた。
そして港町では、生きたまま食べる残酷な鯉料理を食べたこともある。
そう、私はこの手でたくさんの命を奪ってきた。
だけどそれは生きるためで、食べられることに感謝していた。

しかし、今回は違う。
人が人を殺したのだ。
ついさっきまで、一緒に話をしていた人を――。


216
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:10:06 ID:jnI.Pdpo
私は今まで、人が死ぬところを見たことがない訳ではない。
冬が近付くと、村の畑にグリズリーが下りてくることがある。
そんなグリズリーに、農家のおじさんが畑で襲われて殺される姿を目撃した。

腹を抉られ、腕を噛み千切られ、全身が血塗れになっていた。
そしてそのまま、悶えながら死んでいった。
病気や寿命で亡くなった人も見たことがある。
村での生活は、ときどきそのようなことがある。

だけど、溶けて崩れ落ちていく死体は見たことがない。
骨が皮膚を突き破り、肉をかき混ぜながら砕けていく。
人が人ではない、どろどろの赤黒い肉塊になって溶けていく。
そんな無残な姿にして、人が人を殺せるなんて。
そんなの、普通じゃない――。

なぜそこまでする必要があったのか、その理由は分かる。
分かるけど……受け入れられない。

そう思った直後、私は膨大な魔力を感じて顔を上げた。
案内人が着けていた魔道具が、死んだことを感知して発動したのだ。
それは強力な爆発魔法だった。


みんな死ぬ――。


217
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:38:57 ID:jnI.Pdpo
魔法使い「火精霊っ!」


私は条件反射的に火精霊を召喚した。
その瞬間、腕輪の爆発魔法が解放された。


僧侶「全体防御魔法!!」

勇者「伏せろっ!」


その言葉と同時、私は勇者さまに押し倒された。
そして間髪入れずに、激しい爆風が襲ってきた。


ドゴオオォォーーンッッ


僧侶「きゃあぁっ!」

勇者「ぐっ、僧侶さんっ!」


僧侶さんが吹き飛ばされ、壁に激しく叩きつけられた。
さらに案内人だった肉塊が、爆発で飛び散って周囲に拡散する。
しかしそんな爆風が吹き荒れる中、激しい爆炎は渦を巻きながら虚空に消えていった。
私が召喚した火精霊が、爆炎を強引に相殺させたのだ。
やがて、すべてが収まり静寂が訪れた。


218
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:44:54 ID:jnI.Pdpo
僧侶「勇者さま、大丈夫ですか……」

勇者「俺は大丈夫だ。魔法使いちゃん、立てるか?」

魔法使い「……はい」


私は勇者さまの手を取り、力なく立ち上がった。
そして、全身に浴びた血肉に気付いて嫌悪感を感じた。
お気に入りのローブがどろどろの血肉で汚れてしまい、生暖かいぬめっとした感触で気持ち悪い。

……!!
この血肉は、さっきまで生きていた案内人だったのだ。
それなのに気持ち悪いと思ってしまった自分に、嫌悪感を感じた。

そう思った瞬間、案内人が装備していた二つ目の魔道具が発動した。
すると飛び散った血肉がすべて集まり、体組織が作られていった。
ローブの汚れもきれいになり、その一方では器官が作られ人の姿を成していく。
やがて蘇生された案内人は、塔の外に転移された。


219
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 20:09:55 ID:jnI.Pdpo
勇者「何だよ、これ……。こんなことが許されるのかよ!」

魔法使い「私、人が死んだのに気持ち悪いって、それを気持ち悪いって――」

僧侶「魔法使いちゃん……」

勇者「よく頑張ったね、ありがとう」

魔法使い「勇者さまっ、うわああぁぁぁん!」


私は勇者さまの胸に顔をうずめて、激しく咽び泣いた。
溢れ出る感情は涙となり、頬を伝って流れていく。


僧侶「勇者さま、魔法使いちゃんはショックを受けています。私もまさか、非人道的な手段で襲ってくるとは思わなくて……。正直に言って、こんなのはつらいです。魔法使いちゃんの前で、攻撃魔法として人に向けたくなかったのに――」

勇者「僧侶さんは間違っていない。間違ってないから!」

僧侶「でも、私のせいで魔法使いちゃんは――」


220
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 20:29:57 ID:jnI.Pdpo
勇者「とりあえず、これからどうするか考えよう」

僧侶「そんなの、考えるまでもないじゃないですか。もう帰りましょう!」

勇者「そう……だな」

僧侶「きゃっ!」バチッ

勇者「まさか強力な結界魔法?! 僧侶さん、大丈夫か!」

僧侶「……大丈夫です。どうやら私たち、塔の中に閉じ込められたみたいですね」

勇者「そうなると、帰る方法は3つだけだな」


1、最上階の出口から出る。
2、予約時間が過ぎるのを待つ。
3、魔道具が発動する条件を満たす。


僧侶「私は予約時間が過ぎるのを待つほうが良いと思います!」

勇者「それがベストかもしれないな。だけど、俺は上に行くことも考えている」


221
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 20:39:42 ID:jnI.Pdpo
僧侶「ちょっと待ってください! 上に行くって、本気なんですか?!」

勇者「少し気になることがあるんだ」

僧侶「案内をしてくださっていた方が、いきなり自爆魔法を行使してきたんですよ! それを防いだら、爆発魔法の魔道具が発動したんですよ!」

僧侶「魔法使いちゃんが頑張ってくれなかったら、みんな死んでいたかもしれません。こんなの異常です! 私は反対ですっ!」

勇者「だから、実戦形式なんだろ。残念だけど、実戦は命の奪い合いだ」

僧侶「確かにその通りです。だけど、こんなやり方は訓練とは言いません。今のなんて、人間爆弾じゃないですか! 生き返るなら自爆をしてもいいんですか?! そんなの、戦争だとしても非人道的で常軌を逸しています」

勇者「僧侶さんの気持ちも分かる。だから、少し落ち着いてほしい」

僧侶「……この状況で、落ち着いていられるとお思いですか! 私たちだけなら、上に行っても良いです。でもこれ以上、魔法使いちゃんに残酷な場面を見せたくないんです!」

勇者「分かってる。だから、俺が一人で行ってくる」


222
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 21:21:44 ID:jnI.Pdpo
僧侶「ルール上、ここはもう安全です。一人で上に行くのは危険だと思います!」

勇者「もし異常事態が起きているなら、そのルールが守られる保障はないだろ。だから、確かめないといけないんだ」

僧侶「それは……」

勇者「昨日バトマスたちは、『本気でやらないと殺されそうだった』と言っていた。だけど、あいつは『模擬戦』と表現したんだ。何か印象が違いすぎると思わないか?」

僧侶「昨日、私たちの技量を測っていましたよね。レベルに応じた結果が、この仕打ちかもしれません」

勇者「そうかもしれないし、そうではないかもしれない。ひとつ不審な点があるんだ。案内人を蘇生させたあの魔道具、僧侶さんは何だと思う?」

僧侶「……私には分かりません。賢者の石や修復蘇生魔法、それらを超える何かだと思います」

勇者「おかしいだろ。そんな魔道具を使えば、支援施設は採算が取れないじゃないか。この腕輪も安全のために装備しているけど、発動させないほうが支援施設は利益が増えるんだ」

僧侶「利益って……。でも、そう考えるとそうですよね」

勇者「だから、俺は異常事態が起きていると思うんだ」

僧侶「そう……でしょうね」


223
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 21:28:55 ID:jnI.Pdpo
勇者「とりあえず、採算度外視の実戦訓練の可能性もある。それを確かめるために、俺は2階の様子を見てくるよ。僧侶さんは魔法使いちゃんを頼む」


勇者さまはそう言うと、優しく抱き締めてくれていた腕を放した。
そして私は、ぼんやりと立ち尽くす。


僧侶「分かりました。もし何かが起きているなら、この先も卑劣な罠があるかもしれません。だから、このネックレスを持って行ってください」

勇者「これは?」

僧侶「私が作った、治癒魔法の装身具です。いざという時のために、魔法を込めているんです」

勇者「ありがとう。それじゃあ、行ってくるよ。僧侶さんも一応、外からの敵に警戒しておいてくれ」

僧侶「はい。勇者さま、必ず戻ってきてくださいね」


224
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 22:36:11 ID:7KqjtCnc
魔法使い「僧侶さん……」グスッ


勇者さまが通路に消えた後、私は沈うつな表情で呟いた。
その言葉を聞いて、僧侶さんが優しく手を差し伸べてきた。
しかし、私はその手を振り払った。


僧侶「あっ……」

魔法使い「どうして、あんな無残な殺し方をしたのですか?」

僧侶「それは……」

魔法使い「ごめんなさい、本当は分かっています。それ以外の手段がなかったことは分かっているけど、その……受け入れられないんです」


僧侶さんは今まで命の大切さを教えてくれた。
優しくて慈愛に溢れていた。
だけど、あんな殺し方が出来るだなんて普通じゃない。
どっちが、あなたの本当の姿なの?

私はすがる様な視線を向けた。
するとややあって、僧侶さんは伏し目がちに話し始めた。


225
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 22:53:29 ID:7KqjtCnc
僧侶「魔法使いちゃん、聞いてくれる?」

魔法使い「……」

僧侶「以前、魔法は必要なのかなって言ってたでしょ。本当は、魔法なんてないほうがいいのかもしれない。だって、魔法は戦争で人を殺すための武器だから」

魔法使い「人を殺すため……」

僧侶「今は極南の地にある闇のおかげで国同士が協力しているけど、昔は魔族と人が殺し合い、国と国が戦争をして人々は殺しあっていたの」

魔法使い「魔族と人々が争っていたことは、精霊神話で勉強しました。魔法の発見と精霊たち。そして、魔族の侵攻と争いの歴史――」

僧侶「その争いで、人はすべての魔族を滅ぼしたの。魔法を使って、一匹残らず根絶やしにして……ね。職業として僧侶を選んだ人は、精霊魔術を学んで賢者になる人が多い。それはどうしてだと思う?」

魔法使い「……分かりません」

僧侶「攻撃する手段を持たなければ、敵兵に殺されてしまうからよ。だから私も、殺めるための魔法を身につけたの。教会でも蘇生させることが出来ない即死魔法を――」

僧侶「そして敵兵に捕まっても逃げられるように、拘束具の組成を研究したり、金属を破壊するために錬金術を学んだの。私が使う防御魔法は、それらの研究で編み出した魔法なんだよ。だって、壊せるなら強化も出来るはずでしょ?」

魔法使い「じゃあ、僧侶さんはどんな物でも壊せるんですね……」

僧侶「組成を理解している動植物や、防御魔法で強化できるものならね」


226
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:12:11 ID:7KqjtCnc
魔法使い「僧侶さんは、どうして女賢者にならなかったんですか」

僧侶「私は人を殺めるために精霊魔術を学ぶよりも、人間のこと、命のことをもっと深く知りたかったの。さっき見せた破壊魔法は残酷な魔法に見えるけど、正しく使えば命を救うために必要な魔法なんだよ。そのことは、魔法使いちゃんに分かってほしい」

魔法使い「やっぱり、僧侶さんは僧侶さんなんですね」


確かに、無残な殺し方が出来るかもしれない。
人を壊し、物を壊すことが出来るかもしれない。
だけどそれ以上に、命を救い、人を守ることを考えている。
それは、私がよく知っている僧侶さんの姿だった。


僧侶「もう何が言いたいのか分からなくなってきたけど、精霊魔術を得意とする魔道師は、治癒魔法を覚えて賢者になろうとはあまりしないの。なぜなら、やられる前に殺せば良いだけだから」

僧侶「だから魔法使いちゃんは、今の気持ちを大切にしてほしいと思う。無残な遺体を見て、気持ち悪いと思ったことも乗り越えて欲しい。その先に、魔法使いちゃんが目指す姿があると思うから」


227
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:16:30 ID:7KqjtCnc
魔法使い「はい……。でも、僧侶さんは一つだけ間違っています」

僧侶「間違ってる?」

魔法使い「魔法がなくても、剣やナイフがあります。魔法は攻撃手段のひとつでしかないんです。魔法が必要ないのではなくて、魔法を使う人の心が間違っているんだと思います。だって、魔法は誰かを守るための手段のひとつなんですから」

僧侶「そう……だよね」

魔法使い「はい。あの自爆魔法は、僧侶さんにしか止めることが出来ない魔法でした。そして、僧侶さんにはあれ以外の手段がなかった。私たちを守ってくれたのに、ごめんなさい……」


そう言うと、再び涙が溢れてきた。
そんな私に、僧侶さんがためらいながら腕を伸ばす。
一瞬、視線が交わる。
そして私は、柔らかい温もりに包まれた。


228
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:31:19 ID:7KqjtCnc
それからしばらくして、私は僧侶さんの腕を解いた。
そして顔を上げ、涙を拭った。


僧侶「魔法使いちゃん、気持ちは落ち着いた?」

魔法使い「はい……」

魔法使い「僧侶さんは今まで、私に命の大切さを教えてくれました。さっきのことはショックだったけど、自分なりに受け止めたいと思います。そして人が殺されて気持ち悪いと感じたことも、自分の心の醜さと向き合って改めていきたいです」

僧侶「うん、そっか……」

魔法使い「だから、私は逃げずにここを上ろうと思います」

僧侶「本当にそれでいいの? さっきみたいな事が、また待ち受けているかもしれないわよ」

魔法使い「分かっています。だけど、私たち三人で力を合わせないと乗り越えられないと思うんです」


229
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:35:19 ID:7KqjtCnc
僧侶「魔法使いちゃん、強くなったね」

魔法使い「まだ、そんな実感はわかないです」

僧侶「上に行くなら何が起きるか分からないし、この指輪を渡しておくわね。これにも治癒魔法を入れてあるから」


私は指輪を受け取ると、右手の小指にはめた。
赤いルビーがあしらわれていて、きらりと輝いている。
素材は普通の指輪なので、デザインがとても可愛い。


魔法使い「ありがとうございます」

僧侶「それじゃあ、行きましょうか。勇者さまのところに――」

魔法使い「はいっ」


230
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:40:02 ID:7KqjtCnc
~2階のフロア~
階段を上がると、1階に下りてこようとしていた勇者さまとすれ違った。
上ってきたことに驚いているのか、目を丸くしている。


勇者「二人とも、どうしてここに……」

僧侶「私たちも上ることにしました。2階の様子はどうですか?」

勇者「それが、何もなかったんだ。通路が入り組んでいてトラップが仕掛けてあると思ったんだけど、そういう物も何もなかった」

僧侶「奇妙ですね……」

勇者「本当に二人も上に行くのか? 何があるのか分からないぞ」

魔法使い「私は逃げずに最上階を目指したいです」

勇者「そうか……。それじゃあ、慎重に上っていこう」

魔法使い「はいっ、頑張りましょう!」


231
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:58:25 ID:7KqjtCnc
~3階のフロア~
私たちは入り組んだ通路を抜けて、3階への階段を上った。
足音を気にしながら慎重に進み、勇者さまがゆっくりと扉を開く。
そして部屋を覗くと、そこは1階のような中部屋になっていた。


勇者「誰もいないな」

魔法使い「そうですね。魔力は感じませんし、魔術系のトラップもなさそうです」

勇者「次で最上階だけど、どうなっているんだ」

僧侶「このまま、何も起きなければいいのですが……」


疑問に感じつつ、3階のフロアを抜けて階段を上る。
そして最上階の扉の前で、勇者さまが鋭い表情を見せて立ち止まった。


勇者「二人共、中に誰かいるぞ」

僧侶「そうみたいですね」

勇者「1階のことがあるし、本当に何が起きるか分からない。警戒を怠らないようにしよう」

僧侶・魔法使い「はいっ」


232
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:59:25 ID:7KqjtCnc
~最上階のフロア~
扉自体がトラップであることも想定しながら、勇者さまがゆっくりと扉を開ける。
そして中を覗くと、最上階は大部屋になっていた。
吹き抜けになっていて、夏の青空が見えている。
そんな部屋の中央に、翼の生えた翼人が立っていた。


翼人「待っていたよ、勇者ご一行さん」

勇者「お前が最上階の相手か!」

翼人「そうです。自ら降りていこうかと思うくらい、待ちくたびれましたよ」

魔法使い「ね、ねえ、勇者さま。あの人、翼が生えていますよね……」

僧侶「もしかして、魔族……堕天使なんですか?!」

天使「失礼ですね、僕は大天使ガブリエルです」


233
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 22:21:04 ID:8Jtis6nY
僧侶「神の使いが、どうしてこんな所に……」

天使「女神さまの加護を受ける者と、それが選んだ者。その実力を見せてほしくて、ここに来た次第だ」

勇者「どういうことだ! 案内人の自爆は女神の意志なのか?!」

僧侶「えっ、まさか……」

勇者「少なくとも、この天使が何かを企んでいるのは間違いない。賢者の石を超える能力を持つ魔道具、僧侶さんでも知らなかったんだろ」

天使「今は問答をするつもりはない。まずは実力を見せてくれないかな」

勇者「魔法使いちゃん、戦える?」

魔法使い「はい、大丈夫です!」


私はそのために来たのだ。
戦わずに逃げるなんてことはしない。
しかも相手が大天使の一人である以上、三人で立ち向かわないと勝てはしないだろう。


234
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 22:31:36 ID:8Jtis6nY
天使「では始めようか。ゴーレムとサイクロプスを連れてきたから、二体まとめて倒してごらん!」

ゴーレム「ユウシャ、コロス!」

サイクロプス「ウガアァァッ」


二体の魔物が、どこからともなく召喚された。
全身が岩石でできた要塞のような怪物と、巨大な樫のこん棒を持っている一つ目の巨人だ。
それらは、精霊神話の時代に根絶やしにされたはずの魔族だった。


僧侶「うそっ、どういうことなの?!」

魔法使い「分かりません……」

勇者「二人とも、来るぞっ!!」


235
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:12:09 ID:8Jtis6nY
見上げるほどの巨体にもかかわらず、二体の魔族は俊敏に駆け出した。
その内の一体。
ゴーレムを見て、私は声を上げた。


魔法使い「岩石の怪物は任せてください!」


魔力で命を与えられた魔物ならば、すでに砂漠で戦闘済みだ。
岩石か砂か、所詮その程度の違いしかない。


魔法使い「土精霊召喚! 砂になれっ!!」


土精霊をゴーレムの身体に干渉させて、全力で魔力を注ぎ込む。
すると駆け出したゴーレムの脚が崩壊し、次の瞬間には大量の砂山に変化した。
そして崩れ落ちた砂山を石化させて、床に張り付けた。
これでもう、復活して動くことは出来ない。
ゴーレムだったものを見やり、私はサイクロプスを見据えた。


236
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:20:42 ID:8Jtis6nY
サイクロプス「ウグアァァッ!」


サイクロプスは雄たけびを上げながら、こん棒を振り回していた。
勇者さまはそれをかわし、間合いに飛び込んで右足を斬り払う。
しかし何事もなかったかのように、サイクロプスはそのまま勇者さまを蹴り飛ばした。


勇者「ぐはっ……」

魔法使い「勇者さまっ!」

僧侶「魔法使いちゃん、危ないっ!」


勇者さまを案じて目を向けると、僧侶さんの声が響き渡った。
はっとして振り返ると、サイクロプスが巨大なこん棒を大きく振りかぶっていた。
それが振り下ろされ、私は身体を硬直させる。

もう間に合わない。
このまま叩き潰されて死んでしまう――。

しかし覚悟を決めた瞬間、こん棒が薄氷で出来ていたかのように砕け散った。


237
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:36:55 ID:8Jtis6nY
魔法使い「えっ?!」

僧侶「魔法使いちゃん、今は命がけの戦いなのよ! 敵から目をそらさないで!」

魔法使い「は、はいっ!」


どうやら、僧侶さんが破壊魔法でこん棒を壊してくれたらしい。
私は礼を言い、戦闘に集中した。
武器がなければ、サイクロプスはただの巨人だ。
身長差のせいで、もはや蹴るか踏みつけるくらいしか出来ないはずだ。


勇者「魔法使いちゃん、凍結頼むっ!」

魔法使い「はいっ、凍結魔法っ!!」


大気中の水分が凍りつき、サイクロプスは氷付けになった。
しかもここは海が近いので、水が豊富にあり完全に凍結させることが出来る。
そして凍結したサイクロプスは崩れ落ち、勇者さまがその隙に首を斬り払った。
断末魔の悲鳴が耳をつんざき、砕けた氷が血で赤くなる。
やがて案内人と同じ魔道具が発動したのか、サイクロプスは転移して消えてしまった。


238
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:38:55 ID:8Jtis6nY
天使「うわぁ、瞬殺だし。すごいすごい!」

天使「しかもゴーレムを土精霊で強引に破壊する人間なんて、はじめて見たよ。さすが、勇者ご一行の魔道師は一味違うねえ」

魔法使い「これは喜んでいいのでしょうか……」

天使「そうだね、褒めているつもり。なかなか出来ることじゃないからね」

魔法使い「あ、ありがとうございます」


私は戸惑いつつ、笑顔で返した。
大天使に褒められるだなんて、まるで夢みたいだ。
危ない場面もあったけど、すごく自信がわいてきた。


239
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:51:42 ID:8Jtis6nY
天使「でもねえ、人間でなければ殺しても良いのかい?」

魔法使い「えっ……」

天使「見てみなよ、砂にされて石化させられたゴーレムを――。魔法使いちゃんは、精霊魔法でゴーレムを破壊した。それは、彼女が見せてくれた破壊魔法と同じじゃないか。一体、何が違うんだろうね」

魔法使い「そ、それは……」

天使「サイクロプスだって、殺されて痛かっただろうにねえ」


私は石化させたゴーレムと砕け散っている氷片を見た。
僧侶さんの破壊魔法と私の土精霊による岩石破壊。
それは突き詰めると、まったく同じ行為なのだ。

私がしたことは、僧侶さんと何も変わらない。
人間か魔族かの違いがあっただけだ。
だけど、私は――。


勇者「お前は俺たちの実力を見たかったんじゃないのか! 殺すつもりで襲わせておいて言えることか!」

僧侶「魔法使いちゃん、耳を貸しては駄目です!」


240
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:54:56 ID:8Jtis6nY
天使「僕は彼女と話をしているんだ。少し黙っていてくれないか?」

魔法使い「そんな話をして、私に何をさせたいのですか」

天使「キミの答えを聞かせてもらおう」

魔法使い「答え?」

天使「どんな理由があろうとも、命を奪うことは未来を奪うことだ。魔法使いちゃん、ただの村娘に過ぎないキミに、その犠牲を背負う覚悟があるのかい?」


そう、私はただの村娘かもしれない。
だけど、この旅を通じてたくさんのことを学んできた。
僧侶さんから命の大切さを教わり、この塔では人を殺すことがどんなことか学んだ。
そして覚悟が出来たから、私は今ここにいるんだ!


魔法使い「私は無益な殺生で命を奪うことは、絶対にするべきではないと思います。だけど身を守るために、やむを得ない場合もあることを知りました。私は奪った命を無価値なものにするつもりはありません!」

天使「そうか、それがキミの答えなんだね」

魔法使い「はいっ!」


241
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:54:56 ID:8Jtis6nY
天使「じゃあ、自分の身を守ってみせてよ。魔法使いちゃんに本当の魔法の使い方を教えてあげるよ」

魔法使い「えっ……?」

天使「土精霊は興味深い使い方だった。でもね、水精霊での攻撃は駄目だったよ。人間は誰もが、空気中の水蒸気を凍結させようとする。もっと思い切らなくちゃ。凍結魔法!」


強大な魔力を感じた瞬間、右腕に激しい痛みが走った。

筋肉と皮膚、血液、骨。
肩から指先に至るまで、『右腕そのもの』が完全に凍結している。
そして凍結により破壊された右腕は、肩の関節から折れてぼとりと落ちた。
その衝撃で落下した腕が肘で割れ、指先の関節が砕け散る。
さらに腕が落ちた右肩からは血が溢れ出し、耐え難い激痛に襲われた。


魔法使い「あがあぁああっ、いやあああぁぁぁぁっ!」


私はあらん限りの声で絶叫して、悶えながら崩れ落ちる。
そしてその瞬間、治癒魔法が発動して指輪が壊れた。
しかし、砕けた右腕は治癒魔法の限界を超えていた――。


242
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 01:00:11 ID:YbzwCgdU
魔法使い「やあっいやああぁぁっ、うぐうぅぅっ……!!」

天使「ほらっ。次は風精霊の攻撃方法をその身に教えてあげるよ」

天使「人間は刃物のように攻撃するのが好きみたいだけど、そんな不確実な方法は駄目だよ。生物なんだからさあ、他にすることがあるだろ」

魔法使い「むぐぅぅっ……」


口と鼻から大量の空気が押し込まれる。
吐くことは許されず、次々と肺に空気が詰め込まれていく。
胸が膨らみ、叫ぶことも許されず、あっという間に肺が破裂した。

さらに空気の刃が心臓を切り裂き、食道から多量の空気が送り込まれる。
胃や小腸に侵入した空気が暴れ、次々と消化管を破裂させていく。
さらに切断された血管から気泡が入り込む。

空気の塊に体内が蹂躙されていく。
意識が朦朧として、もうどこが痛いのか分からない……。

吐き出される空気とともに血を噴き出しながら、私は力尽きた。


243
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 01:10:45 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
僧侶「魔法使いちゃん!!」


僧侶は魔法使いに駆け寄り、声を掛けた。
しかし、魔法使いはぴくりとも反応しなかった。

凍結して、砕けてしまった右腕。
苦悶の表情を浮かべたまま、定まっていない視線。
口元からは鮮血が溢れ出し、顔と床を赤く染めていく。
そんな彼女の虚ろな瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。

この一瞬の間で、魔法使いはどれ程の苦しみを味わったのだろう。
幸いにして脳が無傷なので、まだ生きてはいる。
しかし、それもすぐに機能が停止するだろう。


魔法使いは、もう死んでいる――。


244
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 22:06:21 ID:YbzwCgdU
勇者「僧侶さん! 早く魔法使いちゃんをっ!」

僧侶「は……はいっ!」


僧侶は気持ちを切り替え、魔法使いの蘇生に意識を集中させた。
支給された魔道具により蘇生することは分かっているが、欠損した右腕が再生するとは限らない。
しかも、この状況ではどこに転移させられるのか分かったものではない。
だから魔道具が発動するよりも早く、魔法使いを確実に蘇生させなければならない。


僧侶「水精霊召喚。鎮痛魔法、修復蘇生魔法!!」


凍結した右腕を解凍し、魔法使いを包み込むように魔法陣を展開させた。
魔法医学を極めた女僧侶として、最上級の修復魔法を行使する。
その魔法に包まれて体組織が修復され、右腕や内臓が再生され始めた。
そして、魔法使いの小さな身体に命が戻っていく。


天使「へえ、僧侶さんは生命を支配しているのか。人間を超える領域にまで達しているとは、実に素晴らしい。だけど人間の器を抜け出せない以上、そこに能力の限界がある」


245
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 22:19:05 ID:YbzwCgdU
勇者「これ以上、好きにさせるかっ!!」


勇者は何かしようとしていた天使へと、斬りかかった。
風精霊の力を宿し、二段構えの斬撃を飛ばす。
しかし天使はその風を反転させて、軽々といなした。


天使「駄目だね。そんな剣では僕には勝てないよ。土精霊!」


その言葉と同時、ゴーレムだった石山から強大な石槍が突き出された。
勇者はとっさに飛び退き、剣を構える。
そして土精霊の力を宿して、巨大な石槍を叩き壊した。


勇者「そっちこそ、その程度で俺を倒せるものか!」

天使「なるほど。では、次はよけられるかな?」


246
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:04:23 ID:YbzwCgdU
すると、今度は石のつぶてが飛んできた。
猛スピードで防具に当たり、石が砕け散る。
それは人の目では捉えることが出来ないスピードだった。
そんな速さで次々と射出された石つぶてが、勇者の手足に被弾していく。


勇者「ぐああぁっ!」

天使「その程度で俺を、何だって?」


僧侶から渡されたネックレスが崩れ、治癒魔法が解放された。
銃創が回復し、痛みが引いていく。
しかし、このままではじり貧だ。

もし通常の魔法銃であれば、相手の目を見ることで狙いやタイミングを推し量ることが出来る。
しかし石山全体から無秩序に放たれる弾丸では、相手の心理を読むことは出来ない。
避けることは困難となり、ただの的になるしかない。
それでも、まだ打つ手は残されている。


247
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:15:40 ID:YbzwCgdU
勇者「大地斬っ!!」


勇者は眼前の床に向けて、全力で剣を振り下ろした。
そして剣に宿された土精霊の力が、最上階の床を斬り裂いた。
次々と床が割れ、溝が広がっていく。
やがて石山の重量に耐えられずに、床の一部が階下へと崩落した。


天使「床を抜くとは面白い。だが、詰めがあまい!」


その言葉と同時、勇者の背後から石つぶてが飛んできた。
勇者は足を打ち抜かれ、血を滴らせながら膝を付く。
さらに石つぶてが弧を描き、勇者の腕を貫いた。


勇者「ぐっ、くそっ……」

天使「妙案のつもりだったのだろうが、床に落ちている魔弾をもう一度使えばいいだけじゃないか。さあ、次はどんな策を見せてくれるんだい?」


248
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:15:40 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
魔法使い「ゼエゼェ……僧侶さん……」

僧侶「魔法使いちゃん、気が付いたのね!」

魔法使い「……はい」


どうやら、私は僧侶さんのおかげで一命を取り止めたらしい。
だけどまだ完全に治癒していないのか、猛烈な腹痛と虚脱感を感じる。
それに耐えながら周囲の情況を確認すると、勇者さまが血塗れで倒れているのが見えた。


魔法使い「私より勇者さまを……。早くしないと……し、死んじゃう」

僧侶「分かってるけど、まだ魔法使いちゃんのほうが危険な状態なのよ」

魔法使い「だい……じょうぶです。僧侶さん、勇者さまを助けて」

僧侶「分かった。無理はしないでね」


私はおぼつかない足取りで、ふらふらと立ち上がった。
そして、全力で爆発魔法を詠唱した。


249
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:15:40 ID:YbzwCgdU
魔法使い「……爆発魔法!!」


激しい爆発が天使を吹き飛ばし、その隙に僧侶さんが駆け出した。
しかし翼が吹き飛んだだけで、見る間に回復してしまった。
これでは、時間稼ぎにすらならない。


天使「良かった、無事に蘇生したんだね。少しやりすぎたかなって、心配したよ。それにしても、殺されても怯えずに攻撃する精神力。想い慕う力は強い――か」

魔法使い「ゼェゼェ……」

天使「ところで、キミたちはさあ、どうして魔法を使えると思う?」

魔法使い「そんなの、常識……だと思うんですけど」

天使「いや、よく考えてみるといい。燃焼には三つの要素が必要だし、空気中の水蒸気を凍結させて物質の三態までも操作している。さらには致命傷を一瞬で治癒したり、蘇生までしてしまう」

天使「それらを可能とするエネルギーは、一体どうやって調達しているんだろうね?」

魔法使い「どういう意味……ですか」

天使「世界の扉を閉めさせてもらうよ。封印魔法!」


250
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:32:55 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
僧侶「治癒魔法!」


魔法使いが天使の話を引き伸ばしてくれている間に、僧侶は勇者に治癒魔法を施した。
しかし、勇者の出血が止まることはなかった。


僧侶「えっ?! 魔法が使えない!」


天使が何かの魔法を発動した直後から、不思議な感覚に包まれている。
全身が魔力で満たされているのに、それを根こそぎ奪い取られたかのような虚脱感。

以前、魔術書で読んだことがある。
魔族との戦争時、堕天使が魔術を封じる魔法を使っていたことを――。

神の遺産が示す、世界への扉。
その扉が閉ざされたとき、魔法を失うと云われている。
つまり、魔力や魔法の源は向こう側の世界にあったのだ。


251
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:48:51 ID:YbzwCgdU
勇者「僧侶さん、大丈夫だ。これくらい問題ない……」

僧侶「大丈夫なわけがないじゃないですか! この髪留めに治癒魔法を込めています。今から、それを解放します!」


魔力を解放すると、治癒魔法が発動して髪留めが崩れた。
そして勇者の出血が止まり、傷がすべて回復した。
どうやら、すでに魔法の形で留めていたものは使えるようだ。

しかし、回復用の装身具を用意していたのは三人分。
ネックレスと指輪、髪留め。
それらをすべて使ってしまったので、僧侶はもう治癒魔法を使うことは出来ない。


252
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:55:07 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
天使「さて、最後は火精霊だ。人は皆、火を熾すことに満足して、最も効率よく燃焼させる方法に気付いていない。魔法使いちゃん、火炎魔法の炎の色は何色だと思う」

魔法使い「黄色……だと思います」

天使「それでは不完全だ。火炎魔法を使うなら、風精霊も組み合わせないといけない。それが本当の火炎魔法なんだよ」

魔法使い「あ、青白い炎?!」


炎は赤いものだと思っていた。
強い炎ほど、黄色く輝きが増すものだと思っていた。
それが私にとって常識だった。

それなのに天使の火炎魔法は、青白い炎が鋭利に輝いていた。
この炎が具現化したとき、なすすべもなく焼き尽くされてしまうのではないか――。
そんな想像が脳裏をよぎる。

しかし、攻撃手段がないわけではない。
盗賊たちに魔力を空っぽにされた苦い経験から、宝石を使ったアクセサリーを買ってもらっているのだ。
それらのアクセサリーに四大精霊を封じ込めて、いつも身に付けている。


253
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 00:22:16 ID:yaa41MzQ
魔法使い「火精霊、風精霊、解放しますっ!!」


その言葉と同時、火精霊と風精霊の装身具が崩れた。
そして、天使が使役している火炎魔法を攻撃した。
あれが火精霊と風精霊から作られているのなら、こちらも同じ精霊をぶつけてしまえばいい。


天使「その程度の魔力では、力押しなんて無理だよ。しかも、これでは爆発魔法の魔力バランスじゃないか。どのように現象を支配しているのか、その身をもって知るがいい」

魔法使い「そんな……」

天使「火炎魔法!」


装身具だけの魔力では天使に敵うはずがなく、無常にも青い炎が放たれた。
今度は焼き尽くされて殺される。
そう思った瞬間、目の前で炎が弾け飛んだ。


254
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 00:23:16 ID:yaa41MzQ
勇者「精霊魔法なら、俺が斬り捨ててやる!」

魔法使い「勇者さまっ!」

天使「そうか、女神さまの加護か」


勇者さまには女神の加護があるので、状態異常に類する魔法は効果がない。
だから魔法剣を使うことが出来て、火炎魔法の精霊を斬ることが出来たのだ。
そして、もう一つ。
女神の加護を持つ者は、電磁気力を操る魔法を使うことが出来る。


勇者「電撃魔法っ! 食らえっ、雷神斬り!!」

天使「くっ!」


勇者さまは刀身に電撃をまとわせ、力強く振り下ろした。
そして放たれた稲妻と斬撃が、たじろぐ天使を両断した。


255
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 21:25:30 ID:yaa41MzQ
勇者「はぁはぁ、どうにか倒せたか――」

魔法使い「勇者さま、すごいです!!」


私はおぼつかない足取りで、勇者さまに歩み寄った。
そして、天使へと目を向ける。

すると突然、崩れ落ちた天使の身体が光り始めた。
まばゆい輝きを放ち、光の繭に包まれていく。
そして目がくらむほどの閃光が走ったかと思うと、何事もなかったかのように立っていた。


魔法使い「魔法を使わずに蘇生した?!」

天使「痛ててて……。さすが、女神さまに加護されているだけあるよ。あの魔法は、さすがに痛いな――」

勇者「くそっ、もう一撃!!」

天使「その必要はない。勇者ご一行の実力は分かったから、これで十分だ。キミ達に勝ちを譲ろう」

勇者「勝ちを譲る……だと?」

天使「人間では僕たち大天使には勝てない。だから、譲ると言ったんだ」


256
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 21:27:48 ID:yaa41MzQ
勇者「一体、何が目的なんだ!」

天使「そのことだけど、魔法使いちゃん。苦しい思いをさせてごめんね」


不意に名前を呼ばれ、私は戸惑った。
死ぬ思いをさせておいて、軽いノリで謝られても困ってしまう。


魔法使い「一体どういうつもりなんですか」

天使「どんな理由があろうとも、命を奪うことは未来を奪うことだ。だからこそ命を奪う重さ、奪われる苦しみを知っておいてほしかったんだ。他ならない、キミに――ね」

魔法使い「だから、私を――」

天使「そういうことかな。そして魔法使いちゃんは、『奪った命を無価値なものにするつもりはない』と誓ってみせた。その言葉、忘れないでいてほしい」

魔法使い「はい……」

天使「それにしても、キミの魔法は力強くて興味深い。だけど、魔法防御が課題かな。あの程度で死ぬようだと、並の人間止まりだよ」

魔法使い「すみません、もっと頑張ります」

天使「そうだね、期待しているよ」


257
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:10:56 ID:yaa41MzQ
僧侶「ふざけないでください! 魔法使いちゃんを残酷な方法で殺しておいて、『命を奪われる苦しみを知っておいてほしかった』とか、あまりにも勝手が過ぎるんじゃないですか?!」

天使「それは心外だなあ。死んでも生き返るように、キミたちには魔道具を渡してあるじゃないか」

僧侶「そういう問題じゃないんです。どうして、こんなことをしたんですか! 1階の案内人も、自爆させましたよねえ!」

天使「目的のために犠牲は付き物だ。彼が自爆したことで、キミたちは命の大切さを考えた。そして彼女も殺されることで、命の大切さを深く知っただろう。それだけでも、大きな意義があったと言えるんじゃないかな」

僧侶「そうでしょうか。私にはその必要があったとは思えません!」

天使「大局が見えていないから、そう思うだけだよ。この塔で4つの命が消えた。それを価値のある犠牲に出来るかどうかは、キミたち次第だ。違うかい?」

魔法使い「そう……ですよね。私は誰の命も無価値なものにしたくはないです」

僧侶「魔法使いちゃん……」

魔法使い「まだすごく苦しいけど、ここに来て良かったです」


258
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:14:05 ID:yaa41MzQ
勇者「大局が見えていないと言うなら、教えてもらおうか。女神はなぜ、俺に神託を下したんだ。こんな茶番をした目的は何なんだ!」

天使「キミたち三人に期待しているからだ。だからこそ、僕が会いに来たんだ。それ以外に、どんな理由があるというんだい?」

勇者「くっ……」

天使「それでは、試練を乗り越えたキミたちにメッセージだ」


天使はそう言うと、勇者さまにパズルを手渡した。
どうやら、ポリオミノ系の詰め込みパズルのようだ。


勇者「これがメッセージ?」

天使「それを解けば、おのずと分かるだろう。試される者よ、キミたちが成し遂げてくれることを期待しているよ」


その言葉と同時、世界が光に包まれた。
そしてそれが治まると、身代わりの腕輪とともに天使の姿が消えていた。


259
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:30:46 ID:yaa41MzQ
~支援施設~
受付「大変申し訳ありませんでした」ペコペコ


支援施設に戻ると、受付さんに頭を下げられた。
どうやら本来の担当者が何者かに襲われて、訓練施設を占拠されていたらしい。
そして救助に向かったものの、強力な結界でどうにもならなかったそうだ。


勇者「まあ、無事に帰れたから良いものの……」

受付「しかし、大天使ガブリエルですか。神の使いが興味を持たれるとは、よほど腕が立つ方々なのですね」

勇者「はは、それはどうだろ」

魔法使い「そんなことないです。勇者さま、格好よかったです!! 僧侶さんも、本当にありがとうございました!」

僧侶「魔法使いちゃんも、よく頑張ったね。それでは、そろそろ戻りませんか?」

勇者「そうだな」

受付「あの、こちらは無料サービス券となっております。またの機会にご利用ください」


260
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:43:27 ID:yaa41MzQ
~客船~
部屋に戻り、私たちはパズルと向き合った。
長方形が4つ又は5つ繋がったピースが11個あり、それらが長方形の枠の中にきっちり納められている。
そしてそれとは別に、1単位の長方形のピースが1つ、枠外に分けられていた。


勇者「天使に渡されたこのパズルは、どういう意味なんだろ」

僧侶「恐らくですけど、この枠外にある長方形のピースがこの中に入るのではないでしょうか」

勇者「いやいや。いくら何でも、それは無理だろ」

僧侶「正方形を切り分けて並べ替えることで、面積が増減する不思議なパズルがあるんです。これも図形消失パズルの一種かもしれません」

勇者「へぇ、そういうパズルがあるんだ」

僧侶「だけどこれはポリオミノ系で、枠の大きさが固定されているんですよね……」

魔法使い「とりあえず、試してみましょうよ」

僧侶「そうだね。暇つぶし暇つぶし♪」

勇者「これ、長方形の向きを統一しないと段違いになるな」

僧侶「そうですね」

魔法使い「なかなか納まりませんねえ……」


261
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 23:00:10 ID:yaa41MzQ
僧侶「えっと、これでどうかなあ」カチャカチャ

魔法使い「僧侶さん、入りましたよっ!」

僧侶「やっぱりね」

勇者「それにしても、すごいな……。枠にきれいに入っていたのに、さらにもう一つ入っちゃったぞ」

魔法使い「ですよね、興味深いです。最初に少しだけ余裕があったけど、それが利いているんでしょうね」

勇者「だけど、これにどんなメッセージが込められているんだ?」

魔法使い「もしかすると、ペントミノ系のパズルだということがヒントなのかもしれません」

僧侶「つまり、この枠は世界を表しているということ?」

魔法使い「そうです」

僧侶「だとすると、何者かが世界に侵入しているのかもしれないわね」


262
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 23:39:35 ID:yaa41MzQ
勇者「それって、どういうことだよ。俺にも分かるように説明してくれ」

僧侶「ポリオミノ系のパズルにとって、枠は世界なんです。そして世界の外側にあったピースが、中に入りましたよね」

勇者「なるほど、そういうことか」

僧侶「つまりですよ、このパズルは『何者かが世界に侵入している』ことを示すものではないでしょうか。そして、私たちにその何者かを倒してほしいのではないでしょうか」

勇者「もしそれがメッセージなら、極南の地には魔王がいるのかもしれないな。やはり、復活していたのか」

僧侶「でも、腑に落ちないことがあるんです」

勇者「腑に落ちないこと?」

僧侶「はい……。方法はどうあれ、天使は命の大切さを強調していましたよね。倒すことが目的ではないような気がするんです」

勇者「魔王を殺さずに和解することが、目的なのかな」

僧侶「分かりません。具体的なメッセージが欲しいですよね……」

魔法使い「とりあえず天使さんは、『期待している』と言ってくれました。今日起きたことを肝に銘じて、もっと頑張ろうと思います。魔法医学も本気で勉強したいです」

勇者「そうだな。何かが起きている事は間違いないし、向こうに着けば分かるだろう。今日のことを生かして、三人で頑張って行こう」

僧侶・魔法使い「はいっ!」


263
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 23:45:25 ID:yaa41MzQ
第5話 おわり

(シチュエーション・パズル)
・ウミガメのスープ

(ポリオミノ)
・ペントミノ
・ヘクソミノ

(図形消失パズル)
・正方形の並べ替え
・ワンダーパズル


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勇者「ドーナツの世界?!」【後編】を読む
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