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勇者「ドーナツの世界?!」 第3話

81 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 19:56:31 ID:F8nr.j7M
第3話 命の作り方
~山すその街~
山すその街に来て、1ヶ月が過ぎた。
未だにこの街に留まっているのは、勇者さまがこの国で公務をすることになったからだ。

その関係で時間を持て余した私は、勇者さまの推薦で国家魔道師から指導を受けられることになった。
最初の頃はレベルが違いすぎて大変だったけれど、今では訓練メニューに付いていくことが出来る。
それはこの国で働く女魔法使いとして、最低限の実力を備えたことを意味していた。

こうして充実した毎日を過ごしている訳だけど、ひとつだけ悩んでいることがある。
しかし、それをなかなか言い出せないでいた。
そしてまた一日が終わり、私は僧侶さんと温泉に行った。


82
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:19:54 ID:F8nr.j7M
~女湯~
魔法使い「何だか、すっかり居付いちゃってますね」

僧侶「そうだね。でも山菜は美味しいし、温泉は広いし、医学書にも困らないし、良いこと尽くめだよ~」

魔法使い「そうですよね。実は今日、帰り道に僧侶さんが言ってたアイスを食べてみたんです」

僧侶「ええっ、あれを食べたの?!」

魔法使い「あれ、冷たい砂ですね……」

僧侶「でしょ、でしょっ!」

魔法使い「あれは駄目です!!」

僧侶「ガマラ砂漠をイメージしてたらしいけど、あれは失敗だよね」


83
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:23:54 ID:F8nr.j7M

魔法使い「ところで、勇者さまは今夜はエッチなことをなさっているのでしょうか?」

僧侶「わわっ、まさかの猥談?!」

魔法使い「そんなつもりじゃないです」アセアセ

僧侶「今さらだけど、私たちが一緒にお風呂に入るのはそのためだよ」

魔法使い「で、ですよね……」

僧侶「だから、今日は一人でしているんじゃないかな//」

魔法使い「でもそれをしたら、いつもゴミ箱にその……終わった後のものが捨ててありますよね。においも気になるし、それがどうしても嫌なんです」


私は勇者さまのおかげで、精霊魔法の指導を受けることが出来ている。
そのことは、とても感謝している。
だけど、それとこれとは話が別だ。


84
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:30:33 ID:F8nr.j7M
魔法使い「僧侶さん。勇者さまがエッチなことをしないように、禁止してしまうことは出来ないでしょうか?」

僧侶「何かに悩んでいるのは気付いていたけど、そのことだったんだ」

魔法使い「……はい。私、エッチな本を許すことが、そういう行為を許すことだなんて思いも寄らなかったんです。一人でしているだなんて気持ち悪いので、もう止めてほしいです」

僧侶「でもそれを禁止すると、勇者さまだけが我慢をすることになるんじゃないかな」

魔法使い「今は私たちが我慢しています!」

僧侶「勇者さまも我慢をして、私たちを気遣ってくださってますよ」

魔法使い「私には、そうは思えません」

僧侶「でも、魔法使いちゃんは知らないでしょ。宿の奥様の計らいで、私たちが避妊具を受け取っていることを」

魔法使い「ええっ、避妊具ですか?!」

僧侶「そうだよ。それをずっと知らないでいられた事は、勇者さまが魔法使いちゃんを気遣ってくれている証拠にならないかなあ」


85
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:35:18 ID:F8nr.j7M
勇者さまと僧侶さんが避妊具を受け取っている。
そんなことは一言も話してくれなかったので、全然知らなかった。
もしかして、二人はそんな関係だったのだろうか。

そう思い、私はまじまじと僧侶さんの身体を見た。
豊満な胸と女性らしい曲線が、大人の魅力を感じさせる。
その身体は、すでに勇者さまを受け入れたことがあるのかもしれない。


魔法使い「あの、もしかして僧侶さんと勇者さまは――」

僧侶「私たちは、魔法使いちゃんが考えるような関係じゃないから」

魔法使い「そ、そうなんですね」


86
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:39:05 ID:F8nr.j7M
僧侶「それに私たちが避妊具を受け取ったとき、勇者さまは『信頼を失うようなことはしない』とおっしゃいました。本音では私と交わりたいのかもしれないけど、それを気取られないように努力してくださっています」

魔法使い「そんなこと、全然知らなかったです……」

僧侶「だから私は、勇者さまが信頼できる人だと思いました。殿方には必要なことだし、気付いていない振りをしてあげることは出来ませんか?」


男性にはエッチなことが必要だというのは、まったく理解できない。
だけど知らない場所で大人のやり取りがあり、それを知らないままでいられたことは大切にされている証拠なのかもしれない。


魔法使い「分かりました、もう少しだけ我慢します。男の人と暮らすのは、とても難しいですね」

僧侶「ありがとう。それでも我慢できなかったら、いつでも相談してね」

魔法使い「はいっ……」


87
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:41:05 ID:F8nr.j7M
~部屋~
僧侶「勇者さま、ただいまです」

魔法使い「……ただいま」


私たちは部屋に戻ってきて、ドアを開けた。
玄関部分には障壁魔法で目隠しを作り、玄関から中が見えないようにしている。
僧侶さんは『来客者に部屋を見せずに応対するため』だと説明していたけれど、本当は『私たちが帰ってきたときに、勇者さまがエッチなことをしていたら気まずいから』だと言っていた。
僧侶さんは勇者さまの性的な部分について、我慢ではなくて配慮をしているのだ。


僧侶「勇者さま、居ないみたいだね」

魔法使い「そうですね」

僧侶「じゃあ、部屋に入りましょうか」


88
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:43:50 ID:F8nr.j7M
魔法使い「そ、僧侶さん。やっぱり、今夜はエッチなことをなさっていたみたいです//」

僧侶「そういうことが苦手なら、ゴミ箱の中を見なければ良いのに」クスクス

魔法使い「だって、それはその――」

僧侶「じゃあ、ゴミ箱に布をかぶせましょ。こうすれば中が見えなくなるし、においもあまり気にならなくなるんじゃないかな」

魔法使い「そういえば、家のゴミ箱も寝室にあるものは布をかぶせていました。あれって、こういう意味だったんですね」

僧侶「じゃあ、それでいい?」

魔法使い「はい、そうします」


89
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:53:35 ID:F8nr.j7M
魔法使い「ところで、僧侶さん。避妊具って、どのようなものなんですか?」

僧侶「あー、そうか。話しちゃったもんね……」


そう言うと、僧侶さんは旅袋から避妊具を取り出した。
小袋がたくさん連なっていて、それを一つ切り離す。
そして小袋を破ると、中身を出して見せてくれた。


魔法使い「こ、これですか//」

僧侶「そうそう。これを勃起した殿方の陰部に乗せて、くるくるっと下ろしながら被せていくの。そうすれば、射精された精液を溜められるようになるでしょ」

魔法使い「そうやって使うんだ……//」


私は避妊具を受け取り、巻いてある部分をくるくると解いてみた。
すると、想像していた以上の大きさになってびっくりした。
そしてこれが、勇者さまの陰部と同じ大きさなのだ。
そう思うと、何だか恥ずかしくなってきた。

だけど、どうして男性はエッチなことをするのだろう。
こんなものまで用意をする意味が分からない。


90
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:56:57 ID:F8nr.j7M
魔法使い「……」ちらっ

僧侶「な、何?」アセアセ

魔法使い「僧侶さんは、『命を殺めることは未来の可能性を奪うことだから、無益な殺生で命を無価値なものにしてはならない』と言ってましたよね」

僧侶「そうだね」

魔法使い「だけどその、勇者さまがなさっているエッチなことや避妊することは、未来の可能性を奪っていることにはならないのでしょうか? 男性が女性と交わって中に出すと、赤ちゃんが出来るんですよねえ」

僧侶「ん~、何て言えば良いのかなあ。命を繋ぐことと、命を宿すことは違うことなの」


僧侶さんは一冊の書物を取り出した。
それは神に仕える女僧侶らしく、創世神話の書物だった。
かなり古い神話で、精霊神話の前史に当たるものだ。


91
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:12:35 ID:F8nr.j7M
僧侶「えっとね、女性が新しい命を宿して出産するためには、約十ヶ月の妊娠期間が必要でしょ」

魔法使い「はい」

僧侶「だから子孫を増やしたい殿方は、妊娠期間中に別の女性と交わって命を宿せるように、いつでも射精できる身体を神様から与えてもらったの」

魔法使い「えっ、ひどい!」

僧侶「うん、ひどいよね。だから愛する殿方だけを受け入れたい女性は、どうすれば良いか考えました」

魔法使い「女性は何をしたのですか?」

僧侶「女性は神様に頼んで、一ヶ月に一度だけ命を宿すことが出来る身体にしてもらったの。それによって、殿方は女性がいつ命を宿せるのか分からなくなりました」

魔法使い「もしかして、それが生理なんですか」

僧侶「そうそう。月経は神様から与えてもらったものなんだよ」

魔法使い「へえ、知らなかったです」


92
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:20:53 ID:F8nr.j7M
僧侶「じゃあ女性に月経が来るようになって、殿方はどうしないといけなくなったと思う?」

魔法使い「いつ命を宿せるか分からないので、同じ女性と何度も交わらなければならなくなったと思います」

僧侶「そうなるよね。そして、一人の女性と何度も交わっているうちに殿方にも愛する心が芽生えたの」

魔法使い「男性が女性を愛するまでに、そのような神話があったんですね。なんだか面白いです」

僧侶「そこで終わればいい話だけど、まだ続きがあるんだよ。一人の女性を愛するようになった結果、殿方はどうなってしまったと思う?」

魔法使い「えっ、どうなってしまったのですか?!」

僧侶「いつでも射精できる身体を持て余すようになってしまったの」


93
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:27:35 ID:F8nr.j7M
魔法使い「あっ……。だから、男性は一人で射精しなければならなくなったんだ!」

僧侶「そういうことです。だけどそればかりでは、愛する殿方が浮気をしてしまうかもしれないでしょ。本来は、別の女性と交わるために与えてもらった身体なんだから」

魔法使い「……そうかも」

僧侶「だから妊娠しない方法を考えて、二人の愛情を深め合うために殿方を射精させるようになったの。その方法のひとつが、この避妊具なんです。これを使えば殿方と交わることが出来るし、他にも色んな方法があるんだよ」

魔法使い「お……大人の世界ですね。でも、それが男女が愛し合うということなんだ//」

僧侶「今話した神話が、魔法使いちゃんの疑問への答えになってますか?」

魔法使い「つまり神様から与えてもらった身体の仕組みだから、必ずしも未来の可能性を奪っていることにはならない、ということですか?」

僧侶「うん。宗教によって違いはあるだろうけど、私はそう考えているの」


94
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:41:56 ID:F8nr.j7M
魔法使い「勇者さまが頻繁に一人でなさるのは、相手がいないのに射精しなければならないからなんですね。何だか、神話を知るとすごく面白いです」

僧侶「そうでしょ。その言い方だと、悩み事も少しは解決した感じ?」

魔法使い「……はい//」


私は今まで、勇者さまが一人でエッチなことをするのは汚らわしいことだと思っていた。
しかし、それにはちゃんと理由があったのだ。
神様から与えてもらった身体の仕組みならば、それを理解してあげたいと思う。


魔法使い「僧侶さんのおかげで、男性の性欲を理解できました。愛し合うことがどういうことかも分かったし、勇者さまとの絆をもっと深めていきたいです」

僧侶「魔法使いちゃん。新しい命を宿すのは素敵なことだし、私たちも愛し合える殿方と出会って授かりたいものですね」

魔法使い「はいっ!」


95
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 20:49:50 ID:lv8KAiIc
勇者「二人とも、何を読んでるの?」

僧侶・魔法使い「!!」ビクッ


突然声がして、私たちは驚いた。
私は手に持っていた避妊具を慌てて隠し、勇者さまを見遣る。


僧侶「えっと、創世神話の書物を読んでいました」

魔法使い「そ、そうです」


バレてないよね?!
何だか気恥ずかしくて、ドキドキが止まらない。


勇者「二人は相変わらず勉強熱心だな。魔法使いちゃん、頑張ってね」

魔法使い「は、はいっ//」アセアセ


96
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 20:52:50 ID:lv8KAiIc
僧侶「ところで、勇者さま。そこのゴミ箱なのですが、今後は布をかぶせることにしました」

勇者「えっ、なんで?」

僧侶「その……私事ですが生理の日が近くて……。性的なことって、お互いにあまり見られたくないじゃないですか」アセアセ

勇者「あぁ、そっか。気が回らずにすみません」

僧侶「魔法使いちゃんもそれでいい?」

魔法使い「えっ? あっ、はい……」


目配せをされて、私は慌てて頷いた。
悩み事が解消したことを知っているから、クッションを挟んで暗に伝えてくれたのだ。
こうして、僧侶さんはいつも気配りをしてくれている。
そんな僧侶さんを見て、私もそうありたいと思った。


97
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:17:52 ID:lv8KAiIc
勇者「話を変えるけど、そろそろ二人に話しておかないといけないことがあるんだ」

僧侶「話しておかないといけないことですか?」

勇者「今週でこの国での公務が終わるだろ。その後ここの都を出て港町に向かうわけだけど、草原を抜けたら砂漠を横断することになるんだ」

僧侶「魔法使いちゃんのことを考えると、夏の砂漠は避けたいですよね。草原を抜けて赤道を越えると、季節が夏になりますから」

勇者「かといって、草原と砂漠を迂回をすると熱帯雨林を通ることになるんだ。集落はあるだろうけど、街を拠点にしながら旅をすることが難しくなると思う」


勇者さまはそう言うと、世界地図と気候区分の世界地図を広げた。
私はそれらの地図を覗き込み、まじまじと見比べた。
この街を東に進めば、気候が厳しい場所を避けて海辺の街に行くことが出来そうだ。
しかしその場合は、温帯とはいえ冬の山岳地帯を越えることになる。
豪雪の可能性もあるし、そこを行くのは無理かもしれない。


98
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:22:13 ID:lv8KAiIc
僧侶「熱帯雨林は伝染病も心配ですよね。治癒魔法では治せないし、街を拠点に出来ないのは危険だと思います」

勇者「だったら、砂漠を行くしかないな」

僧侶「そうですね。この経路を通れば、砂漠を十日くらいで越えられそうです。その後は、大河を船で下るのですか?」

勇者「ああ。川を下って、海に出るつもりだ。草原や砂漠には街があるから、それを拠点にしながら進めば子供がいても無理なく行けると思う」

僧侶「勇者さまは、夏の砂漠の横断経験はありますか?」

勇者「この国とは同盟関係だし、その関係で何度か遠方訓練をしていたから提案したつもり」

僧侶「そうなんですね。じゃあ、そうしましょう」


どうやら、砂漠を通ることに決定したようだ。
砂漠を通るなら、たくさんの水が必要になるはずだ。


魔法使い「あの、私は水精霊の魔法を使えますよ!」

勇者「そうだね、期待してるよ」

魔法使い「はいっ!」


99
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:29:29 ID:lv8KAiIc
~草原~
勇者さまの公務が終わり、私たちは山すその都を後にした。
次の目的地である港町は、草原と砂漠を越えた場所だ。
かなり遠い場所にあるので、野営をしながら南下していくことになる。

私にとって、連日の野営は初めての経験だった。
食事や睡眠、トイレの方法。
戸惑いや羞恥心がたくさんあるけれど、わがままを言わずに慣れるしかない。
気候は南下するにつれて温暖になり、途中で経由する街に着くたびにほっとした。

そして山すその都から二十日ほどが過ぎ、ようやく草原の街にたどり着いた。
この次は砂漠まで街がないので、ここで砂漠を横断するための装備を整える必要がある。
水や食料はもちろん、日差しと砂の侵入を防ぐローブも購入しなければならない。
夏の砂漠は、それほど厳しいらしい。

ちなみに、この街の名産品はもっちりした小麦だ。
僧侶さんが街の人から聞きだした有名店で食べたパスタは、スパイシーなソースが程よく絡んで美味しかった。


100
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:36:43 ID:lv8KAiIc
~ガマラ砂漠~
草原を抜けると、次第に足元が砂へと変わってきた。
灼けた砂と厳しい日差しが、砂漠を歩く者をじりじりと焦がす。
さらに熱風が砂を巻き上げ、容赦なく吹きつける。
それは子供に対しても遠慮をしてくれない。

カランカラン。
カランカラン――。

私が着ているローブには、木製の鈴が付けられている。
いわゆるカウベルだけど、女性用のローブに着けることを前提とした、おしゃれなデザインの物だ。
それが歩くたびに、カランカランと大きな音が鳴る。

カランカラン。
カラン、カラ……ン――。

テンポよく鳴っていた鈴の音が、少し遅れて鳴った。
厳しい日差しと熱のせいで、確実に体力を奪われている。


101
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:51:21 ID:lv8KAiIc
勇者「少し休もうか」

魔法使い「私はまだ歩けます……」カラコロ

勇者「だめだ、もう日が高い。日が傾いたら、また歩こう」

魔法使い「……はい」

勇者「魔法使いちゃん、こっちにおいで」


勇者さまは座り込み、右腕を上げてローブを広げた。
日差しと熱風をさえぎることの出来る場所は、その中だけだ。
私は気恥ずかしさを感じつつも、勇者さまに身体を預けることにした。


勇者「ほら。恥ずかしがらずに、もっと隣へ」

魔法使い「……はい//」カラン


102
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 22:12:54 ID:lv8KAiIc
僧侶「勇者さま。一度、魔法使いちゃんに水の魔法を見せてもらいませんか?」

魔法使い「水の魔法ですか?」

僧侶「ええ。私たちの中で精霊魔法を専門にしているのは、魔法使いちゃんだけですし」

勇者「そうだな。見せてもらっておこう」

僧侶「じゃあ、この水筒を満タンに……」サッ

勇者「まさか、一本目を全部飲んだのか?!」

僧侶「のどが渇いたので、つい。でも、空っぽはこれだけです」アセアセ

勇者「はぁ、僧侶さんを注意深く見てないといけなかったのか」


103
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 22:12:54 ID:lv8KAiIc
魔法使い「じゃあ、やってみます。水精霊召喚!!」


水精霊を召喚すると、空気中の水分が凝縮した。
その水を制御し、水筒に注ぐ。
勇者さまはそれを持ち上げると、ちゃぷちゃぷと振ってみた。


勇者「う~ん、グラス半分くらいかな」

魔法使い「すみません。砂漠がこんなにも水精霊の力が弱まる場所だなんて、思いも寄らなかったです……」

僧侶「そんなこと無いよ。この半分が貴重なんだから」ゴクゴク

勇者「僧侶さん、また飲みすぎだって……」

僧侶「魔法使いちゃん、ありがとう」


104
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:28:45 ID:lv8KAiIc
~ガマラ砂漠・深夜~
心地よい眠りの中、私は誰かに名前を呼ばれた気がして目を覚ました。
辺りはまだ暗く、勇者さまと僧侶さんの話し声だけが聞こえてくる。


勇者「――そうだよな。この乾燥した砂漠で水を出せるとは、正直思ってなかったよ」

僧侶「本当にそうですよね。並みの魔道師なら、水一滴すら出せないと聞きます。私も試してみたけど、魔法使いちゃんのようには出来ませんでした」

勇者「僧侶さん、精霊魔法を使えるんだ」

僧侶「精霊魔法を使えるとは言っても、水と風だけですけどね。魔法医学を極めるには、精霊魔術の知識も必要なんです」

勇者「そうなんだ。じゃあ、僧侶さんはあえて女賢者にならなかったのか」

僧侶「そうですよ。女賢者に比べると、待遇面で不利になることが多いですけどね」

勇者「まあ、女僧侶って治癒魔法しか使えないイメージだしな」

僧侶「よく言われます。でも、勇者さま――」

勇者「んっ?」

僧侶「いえ、何でもありません。勇者さまも早く寝たほうが良いですよ。おやすみなさい」

勇者「ああ、僧侶さん。おやすみ」


僧侶さんは最後に何を言おうとしていたのだろう。
私はそれが気になりつつ、眠気に誘われ落ちていった。


105
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:32:35 ID:lv8KAiIc
~砂漠の街~
砂漠を歩き始めて五日が過ぎたところで、ようやく街が見えた。
街にはオアシスがあるはずなので、身体を休めることが出来そうだ。


魔法使い「勇者さまぁ、やっと街に着きましたね!」カランカラン

勇者「魔法使いちゃん、よく頑張ったね。砂漠はここで折り返し地点だよ」

魔法使い「まだ折り返し地点かあ。でも、草原から歩きっぱなしだったことを思えば楽勝ですね」

勇者「そうだな、もう楽勝だな」

魔法使い「ところで、僧侶さん。ここの名物はタジン鍋ですよね」

僧侶「そうそう、オオトカゲの肉とたっぷりの野菜! ヘルシーで美味しいらしいよ」

魔法使い「オオトカゲの肉ってはじめてです」

僧侶「私もだよ。楽しみだね~♪」

勇者「二人とも、鍋は逃げないから先に宿を探そうか」


106
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:41:28 ID:lv8KAiIc
~宿~
勇者「ローブを着ていても、体中が砂まみれだな」

魔法使い「あの、ここにはシャワーなどはないのでしょうか?」

勇者「近くにオアシスがあるから水は豊富だけど、それでも貴重な資源なんだ。今から水を買ってくるから、濡れタオルで身体を拭くといいよ」

魔法使い「あっ、水が豊富にある場所なら、買わなくても精霊魔法を使えますよ」

僧侶「街でそのようなことをするのは、ずるいんじゃないかな。皆さん、井戸で水を買っているのですよ」

魔法使い「そ、そうですね……」

勇者「では、行ってきます」

魔法使い「待ってください、私も一緒に行きます」カランカラン


107
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:55:57 ID:lv8KAiIc
魔法使い「砂漠の街でも、いろいろな食べ物が売られているんですね」

勇者「環境は厳しいかもしれないけど、草原の街や港町からキャラバンが物資を運んでくるから。夏じゃなくて春や秋に来れば、もっと賑わっていたと思うよ」

魔法使い「そうなんだ。ちょっと遅すぎましたね」


春や秋ということは、キャラバンたちも暑い夏は避けているのかもしれない。
この暑さの中、大量の物資を運ぶのは大変なのだろう。
そう考えながら歩いていると、いつの間にか水屋に着いていた。
店主と警備員の男性が、二人で井戸の前に立っている。


魔法使い「こんにちは、お水を買いに来ました!」カランコロン

水屋「お嬢さん、こんにちは」

勇者「すみませんが、勇者割引は使えますか?」

水屋「エルグ王の紋章ですね。こんな季節に来られるとは、さぞ大変だったでしょう」

勇者「まあ、任務ですから」

水屋「キャラバンも避ける季節に横断とは、ご苦労様です。水代は半値でお売りできますが、いかがなさいますか」

勇者「じゃあ、その20リットルの容器に1本、お願いします」

水屋「1本ですね。ありがとうございます」


108
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:57:57 ID:lv8KAiIc
~部屋~
魔法使い「僧侶さん、ただいまです」

勇者「ただいま」

僧侶「お帰り。街はどうだった?」

魔法使い「思っていたより、いろいろな物が売られていました。ついでに、タジン鍋が美味しい店も聞いておきましたよ」

僧侶「そうなんだ。さすが、魔法使いちゃん」

魔法使い「それじゃあ、私は身体を拭こうと思います」

勇者「水は大切に使ってくれよ」

魔法使い「はい、障壁魔法!」


私は手桶に水を入れ、障壁魔法を展開した。
そして衣服を脱ぎ、濡れタオルで砂を拭き取った。
最初は首回りや肩だけかと思っていたけれど、細かい砂は胸まで入り込んでいるようだ。

スキンケアもしないといけないし、きれいに拭き取るのは大変だな――。

そう思いつつ、私は身体に付いた砂を丁寧に拭き取っていく。
そして土精霊の魔法で取り除いてしまえば良いと気付いたのは、着替えが終わった後のことだった。


109
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:55:57 ID:lv8KAiIc
~部屋・翌朝~
トントン

宿の主人「勇者殿、おはようございます」

勇者「おはようございます。朝食ですか?」

宿の主人「いえ、勇者殿に客人が訪ねて来られています」

勇者「客人? 今、開けますね」ガチャ

――「おはようございます。水売りの店主から聞いたのですが、あなたがエルグの国の勇者ですかな?」

勇者「そうですが、どなたですか?」

富豪「おぉ、これは失礼。私はこの街一番の成金で、富豪という者です」

勇者「富豪さんですか。それで、こんな朝早くに一体どのようなご用件でしょうか」

富豪「実は娘が病に臥しまして、勇者殿ならば治すことが出来るのではないかと思い、ここに訪ねたしだいです」


110
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 00:02:45 ID:PiCE.oRw
勇者「申し訳ありませんが、我々は医師ではありません。お引取りください」

富豪「お連れの方に女僧侶がいらっしゃるはずです。この街の医師では、もう治せんのです。どうか一度診ていただけないでしょうか。謝礼ならばいくらでも払います!」

僧侶「勇者さま、お話だけでも聞いてみませんか」

富豪「ぜひ、お願いします。そちらのお嬢さんが女僧侶ですよね」


富豪さんはそう言うと、私に期待の眼差しを向けてきた。
その思いも寄らない言葉と視線に戸惑い、私は慌てて言葉を返す。


魔法使い「私は女僧侶ではなくて、女魔法使いですよ」アセアセ

僧侶「あの、私が女僧侶です」

富豪「それは大変申し訳ありません。水売りから、女僧侶は少女だったと聞いていたもので……」

僧侶「それでは、病気の娘さんの所に案内していただけますか」

富豪「おお、娘を診ていただけるのですね。ありがとうございます」


111
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 10:10:41 ID:PiCE.oRw
~富豪邸~
勇者と僧侶は病気の娘がいる富豪邸に向かった。
そして案内された部屋に入ると、年頃の娘がベッドに臥していた。


僧侶「この娘さんですね」

富豪「そうです。娘よ、こちらの方が昨日話していた僧侶殿だ」

娘「ゼイゼィ、僧侶……ゲホッゲホッ……さま」

僧侶「ひどい熱、それにこの炎症は――。治癒魔法!」

娘「ゼイゼイ……、スゥスゥ」

富豪「おおっ、娘の呼吸が楽になった。娘、娘ぇっ!」

僧侶「あ、あのっ」

富豪「僧侶殿、ありがとうございます!」


112
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 10:38:22 ID:PiCE.oRw
僧侶「富豪さん。申し訳ありませんが、私ではこの病を治すことが出来ません。炎症を治癒したので治ったように見えますが、また再発するでしょう」

富豪「そんな、やはり駄目なのか――」

僧侶「すみません。私たちが持っている薬草を処方出来ればと考えていたのですが、その病にはあまり効かないのです。抗菌作用が極めて強い薬草があれば治せるのですが、キャラバンは秋まで来ないですよね」

富豪「……はい。治癒魔法では完治させられないのですか?」

僧侶「私たち僧侶は、対象とする生物の組成や毒物の構造を理解することで治癒魔法や解毒魔法を行使することが出来ます。特に治癒魔法は一般的に人を対象としているので、組成を理解していない生物や生物ではないものには魔法の効力が届かないのです」

富豪「つまり、魔法が効かない何者かが娘に取り付いているせいで完治させることが出来ないということですか?」

僧侶「おっしゃる通りです。そして、そのウイルスを選択的に攻撃して治癒させるために、先ほども言いました薬草が必要なのです」


113
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 10:42:59 ID:PiCE.oRw
執事「旦那さま。やはり泉に行って、薬草を摘んでくるしかないのではないでしょうか。どなたに診せても薬草と答えるばかりです」

富豪「しかし、あそこは魔物が出るようになった。今は誰も近づけんぞ」

執事「ですがこの方々は、エルグの国の勇者殿一行ですよ」

富豪「おお、そうだったな。勇者殿、ぜひ薬草を摘んできてはくれないだろうか」

勇者「それは構いませんが、魔物とはどういうことですか」

富豪「ここ半年ほど前から、街の近くの泉で屍が襲ってくるようになったのです。それで討伐隊を雇って向かわせたのですが、未だに解決の糸口が見えておりません」

勇者「屍が襲ってくる?」

富豪「私は見ていないので何とも言えませんが、そのように報告を受けております。報酬を上乗せしますので、そちらの調査もお願いできますか」

勇者「分かりました」


114
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 11:14:31 ID:PiCE.oRw
~オアシス~
僧侶「この辺りは野菜畑になっているみたいだね」

魔法使い「ここで街に必要な薬草を育てれば良いのに……」カランカラン


私は疑問に感じつつ、辺りを見回した。
この周辺は野菜畑が区画されていて、砂漠とは思えないくらい青々と成長している。
薬草が不足しているなら、ここで育てればいいのだ。


勇者「畑で作物以外のものを育てると、自給率が下がるだろ。薬草は自生しているものだし、薬師相手でない限り栽培する農夫は少ないよ」

魔法使い「そうなんですね」

勇者「畑を抜けると富豪さんが言っていたポイントだ。薬草が摘めるのはその先だから、気を引き締めて行こう」

僧侶・魔法使い「はいっ」


115
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 11:18:55 ID:PiCE.oRw
私は気持ちを切り替え、すぐに魔法を詠唱できるように精神を集中させた。
そしてカウベルを鳴らさないように注意して歩き、魔物の気配を探る。
やがて野菜畑を抜けると、砂地から何かが飛んできた。
すかさず、勇者さまが剣を抜いて叩き落とす。


勇者「動物の骨?」


勇者さまが怪訝そうに言うと同時、砂の中から人間の骸骨が飛び出してきた。
それはカタカタと音を立て、まるで生きているかのように動いている。
しかもそれは一体だけではなくて、砂の中から次々と湧き出してきた。
そして骸骨たちは、おのおの剣やヤリなどの武器を手にして隊列を組んだ。


僧侶「うそでしょ。まさか、本当に屍の魔物だったなんて……」

魔法使い「あの人たち、死んでるんですか。それとも、生きているのですか?!」

僧侶「骨だけなのに生きているわけがないでしょ。こんなの不条理です!」


116
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 11:44:47 ID:PiCE.oRw
勇者「二人とも、来るぞ!」


その言葉と同時、一体の骸骨がヤリを構えて駆け出した。
勇者さまはその剣先を払い上げ、同時に切りかかる。
そして繰り出した斬撃で脊椎を吹き飛ばすと、骸骨はあっけなく崩れ落ちた。

それを合図に、ヤリを持った骸骨たちが一斉に駆け出してきた。
剣ではとても捌ききれる数ではない。


僧侶「防御魔法!!」


僧侶さんの魔法で強化されたローブが受け損じたヤリを受け止め、その間に勇者さまが剣に風をまとわせる。
そして力強く斬り払うと、骸骨たちはカラカラと音を立てて崩れ落ちた。

するとその骨の山を飛び越え、剣を構えている骸骨が勇者さまに切りかかった。
勇者さまは、それを剣で受け止める。
そしてつばぜり合いを繰り広げていると、倒したはずの骸骨たちが再び立ち上がらんとしていた。


117
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:01:47 ID:PiCE.oRw
勇者「こいつら、骨だけなのにどうやって動いてるんだ。倒しても復活するなら、切りがないぞ!」

僧侶「どうやって動いているのか興味深いですけど、人骨ならば破壊できます!」

勇者「人骨を破壊?」

僧侶「行きます……、破壊魔法!!」


僧侶さんが魔法を詠唱すると、骸骨たちがさらさらと粉になって風に舞った。
そして、あっという間にわらわらと沸いていた骸骨たちはすべて飛散してしまった。


魔法使い「す、すごい……」

僧侶「人体の組成を理解しているから、回復魔法をちょっと応用するだけでこういうこともできちゃうの」

勇者「ある意味、魔道師で一番怖いのは女僧侶じゃないのか?」

僧侶「うふふ、実はそうかもしれませんよ」


118
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:10:11 ID:PiCE.oRw
魔法使い「それじゃあ、薬草を摘みに行きませんか。魔物の調査はもう終わりですよね」

僧侶「うん、そうだね。早く薬草を摘んで、娘さんの病気を治してあげましょう」

魔法使い「はいっ」

勇者「僧侶さん!」


骸骨たちを一掃して安心していると、勇者さまが唐突に僧侶さんに飛びついた。
そしてその勢いのまま押し倒し、僧侶さんに覆いかぶさった。


僧侶「えっ、ええっ?!」


その声と同時、僧侶さんが立っていた場所から砂塵が巻き上がった。
勇者さまが飛び掛っていなければ、そのまま飲み込まれていたかもしれない。
そして標的を仕留めそこなった砂塵は、まるで竜のごとく意思を持っているかのように、勇者さまと僧侶さんに襲い掛かってきた。


119
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:18:11 ID:PiCE.oRw
勇者「魔法使いちゃん、攻撃っ!」

魔法使い「は、はいっ! 爆発魔法!!」


ドオォォーーーン!!

砂塵が爆発し、盛大にはじけ飛ぶ。
しかし、そのせいで舞い散った砂が大量に降り注いできた。


僧侶「ちょっと、魔法使いちゃん!」

魔法使い「わわっ! 疾風魔法!!」


私は慌てて強風を巻き起こし、落ちて来る砂を吹き飛ばす。
ふう、危うく砂まみれになるところだったわ。
そう思いつつ前髪をかき上げると、僧侶さんが不機嫌そうな顔になった。


僧侶「どんな魔法でも同じだけど、もう少し結果を考えてから使ってよね。そうでないと、さらに危険な状況になることがあるから」

魔法使い「ご……ごめんなさい」

僧侶「今度から気を付けてね」

魔法使い「はいっ!」


120
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:32:55 ID:PiCE.oRw
勇者「二人とも、まだだ! まだ魔物の気配は消えていないぞ!!」

魔法使い「えっ?!」


猛烈な砂塵が巻き上がり、今度は三つ首の砂竜が現れた。
しかもその砂竜は骸骨たちが装備していた武器を取り込み、全身に剣やヤリ携えている。
もし爆発魔法を使うと、全身の刃物が飛び交うことになりそうだ。


勇者「俺たちの攻撃パターンに合わせて成長しているのか? こんな魔物、今まで聞いたことがないぞ!」

僧侶「私も聞いたことがないです。もしかして、土精霊そのものが襲ってきているのでしょうか」

勇者「それだと骸骨の説明がつかないだろ」


三つ首の砂竜が牙を剥き、鋼の刃を向けて襲い掛かってきた。
こんなの、なすすべがない。


勇者「させるかっ! 大地斬」


勇者さまが斬りかかろうと構えた瞬間、砂竜がヤリを飛ばしてきた。
それをかろうじてかわし、勇者さまが砂竜の首元に斬撃を加える。
しかし、砂の体はダメージを受けた様子がない。
射出したヤリも砂の中に沈んでいき、砂竜に回収されてしまった。


121
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:42:55 ID:PiCE.oRw
僧侶「魔法使いちゃん、砂竜を倒せないなら動きを止めることは出来ない?」

魔法使い「そうですね。考えてみます!」


そうは言ったものの、凍結魔法で拘束することは出来そうにない。
日差しが強すぎて、氷がすぐに溶けてしまうからだ。
砂竜の動きを止めるには、直接固めるしかないだろう。


魔法使い「土精霊召喚! 石化しろっ!!」


あらん限りの魔力を注ぎ込むと、砂竜が土となり石となった。
そして石像のように固まり、動かなくなった。


魔法使い「や、やった……」

勇者「魔法使いちゃん、よくやった! 今のうちに薬草を摘みに行こう。ここの魔物は危険すぎる」

魔法使い「はいっ」


122
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:20:19 ID:PiCE.oRw
~オアシスの丘~
砂地を抜け、野草が茂る丘にやってきた。
あの砂竜以外に新しい魔物が追って来ることはなかったし、落ち着いて薬草を摘むことが出来そうだ。


魔法使い「あれ……?」カランカラン


丘に足を踏み入れると同時、どこかから不思議な魔力を感じた。
これは確か、神の遺産に施されていた魔力と同じものだ。


勇者「どうかしたの?」

魔法使い「何だか不思議な魔力を感じるんです。多分、裏山の洞窟で感じた魔力と同じだと思います」

僧侶「つまり、神の遺産があるということね」

勇者「じゃあ、それを探し出そう。あのとき、グリズリーは空間を越える能力を手にしていた。それと同じように、神の遺産が骸骨や砂竜に影響を及ぼしているのかもしれない」

僧侶「そうですね。魔法使いちゃん、探し出しましょう!」


123
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:37:56 ID:PiCE.oRw
魔法使い「多分、この辺りだと思うのだけど……。あ、ありました!」

僧侶「これはタングラムですね」


僧侶さんはそう言うと、タングラムを拾い上げた。
7片のピースが正方形の枠に収まっていて、それが透明のケースに入っている。
それを見て、勇者さまが不思議そうに言った。


勇者「タングラムは子供のおもちゃだろ。これも神の遺産なのか?」

僧侶「はい、子供のおもちゃですよ。だけど、タングラムは15パズルと同じで、実は神の遺産なのです」

勇者「全然知らなかった。じゃあ、これにはどんな意味が……」

僧侶「タングラムは大中小の三角形5片と、正方形が1片、平行四辺形が1片の計7片で構成されているパズルですよね。この7片には意味があって、木火土金水と太陽、月を表しているのです」

勇者「それって、もしかして占星術?」

僧侶「はい、そうです」


124
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:41:26 ID:PiCE.oRw
僧侶「占星術は人や国の運命、天変地異を予見するための魔術です。それを占うためには、人や世界を理解する必要があります。そして、それは占星術以外の魔術も同じなんです。だから様々なものを形作ることが出来るタングラムは、魔術の基本元素を学ぶおもちゃとして利用されることが多いのです」

勇者「なるほど……。それで、そのタングラムが要求していたシルエットは?」


タングラムは指定されたシルエットの形を作って遊ぶパズルだ。
僧侶さんはケースを開けて、同封されていたカードを取り出した。


魔法使い「鋭角的だけど、これはハートのシルエットですね」

勇者「神の遺産的には、どういう意味なんだろう」

僧侶「きっと、魔術で新しい命を生み出そうという意味でしょうね。だから骸骨が生きているかのように動いたり、砂が命を持ったかのように襲ってきたのかもしれません」

勇者「なるほどな……。とりあえず、急いで薬草を摘んで街に戻ろう。あの砂竜が復活して、石化に対処して襲ってきたら面倒だ。そのパズルの魔力を解放するのは、宿に戻ってからにしよう」

僧侶「分かりました」


125
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:51:46 ID:PiCE.oRw
~富豪邸~
薬草を摘んで街に戻り、勇者と僧侶は富豪の邸宅に向かった。
魔法使いは一足先に宿に戻り、神の遺産を解いている。


勇者「富豪さん、ただいま戻りました」

富豪「おおっ、さすが勇者殿だ。大量の薬草をありがとうございます。それで、魔物のほうはどうでしたか」

勇者「動きを封じておきましたが、安全になったとは言いがたいです。そして関連性があるかは不明なのですが、魔力の宿った神の遺産を発見しました。そのため、それを解析しているところです」

富豪「魔力の宿った神の遺産ですか? 何か分かれば、追加で報告をお願いします」

勇者「了解しました」

僧侶「それでは、娘さんにこの薬草を煎じて飲ませてあげてください。炎症は治まっているので、三日ほどで完治させることが出来るでしょう。薬さえあれば、この街の医師でも変わらず治療することが出来ると思います」

娘「僧侶さま、勇者さま、本当にありがとうございました」

富豪「本当に娘を助けてくれてありがとうございました。これは現時点の謝礼です。魔物の件、追加報告をお待ちしております」

勇者「確かに受け取りました。娘さん、お大事になさってください」

娘「はいっ。私も勇者さまのご武運を祈っております」


126
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:56:39 ID:PiCE.oRw
~部屋~
勇者「魔法使いちゃん、ただいま~」

僧侶「ただいま♪」

魔法使い「お帰りなさい」

勇者「どう? そのシルエットは完成しそう?」

魔法使い「全然だめです。どうしても、ピースが余ってしまうんです」


二人が富豪邸に行っている間に、私はシルエット通りのハートを作ることが出来た。
しかし、平行四辺形のピースが余ってしまったのだ。
その後も試行錯誤を繰り返してみたけれど、やはり何らかのピースが余ってしまう。
7片をすべて使うという制約がある以上、これを解くことは不可能だ。


僧侶「タングラムパラドックスかな? 今度は私がやってみるね」

魔法使い「いいですよ。やってみてください」


127
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:12:55 ID:PiCE.oRw
魔法使い「あの、勇者さま。少し気になったことがあるんですけど、誰が何の目的で、このようなものを仕掛けたのでしょうか」

勇者「もしかすると、魔王が暗躍を開始したのかもしれないな」

魔法使い「でも、そのような者が仮にいたとして、なぜ砂漠の都に魔力を込めたタングラムを用意したのでしょうか」

勇者「どういうこと?」

魔法使い「15パズルが示していたドーナツ世界が目的ならば、砂漠に用事はないはずですよね。そもそも、15パズルを使って示唆する必要もないと思います」

勇者「それは魔王の存在を印象付けるためじゃないかな。言うなれば、恐怖させるためだ」

魔法使い「それならば、裏山の洞窟に落ちていた必然性がありません。砂漠でも同じでしたけど、無造作に落ちていたじゃないですか」

勇者「そうだけど、魔物が活発化していただろ。魔法使いちゃんの村では、グリズリーに困っていたじゃないか。副次的な効果かもしれないけど、村や砂漠の泉、そこに魔物が出現するだけで国は滅びてしまうんだ」

魔法使い「魔物の影響で国が滅びる――」

勇者「まだ二例目だし、分かっていないことが多い。極南の地を調査すれば、すべての答えがはっきりするだろうな」

魔法使い「そうですね……」


128
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:39:39 ID:PiCE.oRw
勇者「ところで、僧侶さん。魔術で命を作り出すことが出来ないなら、教会が蘇生魔法で死者を蘇らせることも出来ないんじゃないの?」

僧侶「ああ、それは違いますよ。蘇生魔法は新しい命を作る魔法ではなくて、生きようとする力を取り戻す魔法なんです」

勇者「生きようとする力を取り戻す?」

僧侶「はい。ですから、病気で亡くなった方や天寿を全うされた方、肉体の欠損が激しく死を受け入れてしまった方などは、教会でも蘇らせることは出来ません。それが運命だからです」

勇者「そうなんだ、それが蘇生魔法か……。僧侶さんは使えるの?」

僧侶「はい、もちろんです!!」

勇者「それは頼もしいね」

僧侶「でも実はですね、簡易な事例ならば、魔法を使わなくても心肺蘇生法という技術で誰でも蘇生術を行うことが出来るのです」

勇者「へぇ、魔法を使わずに蘇生か。興味深い話だね」

僧侶「勇者さまもぜひ教会の講習会に参加して、蘇生術を学んでみてください」


129
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:46:04 ID:PiCE.oRw
魔法使い「それで、タングラムは完成しそうですか?」

僧侶「これ、無理だね。他のハート型なら作れたけど、シルエット通りに作るとピースが余るみたい」

魔法使い「答えがないって、どういうことでしょうか」

僧侶「これがなければ完成なのに……」


僧侶さんはそう言いながら、平行四辺形のピースを弄んだ。
親指と人差し指で挟んで持ち、くるくると回している。
何をやっているんだろうと思いつつ見ていると、僧侶さんは小さく笑った。


魔法使い「何か分かったんですか」

僧侶「このピース、点対称なのに重心が偏っているんです」

魔法使い「重心?」

僧侶「それがヒントだったみたい」

勇者「僧侶さん、もったいぶらないで教えてくれよ」

僧侶「うふふ// 勇者さま、ひらめきませんか?」


130
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:59:15 ID:PiCE.oRw
僧侶「魔術で新しい命を作り出すことは出来ません。なぜなら、命を宿すことが出来るのは女性だけだからです。殿方と愛し合い、そして交わり結ばれて、私たち女性は新しい命を授かります。だから――」


僧侶さんはそう言いつつ、ハート型に組み替えたタングラムの上に平行四辺形のパーツを立てた。
それは、思いも寄らない発想だった。


僧侶「これを矢に見立てれば、ほらっ♪ ハートに矢が刺さって、とても素敵ではないですかぁ//」

勇者「いやいや、素敵とか関係なくて、重ねたらタングラムにならないだろ」

僧侶「でも、シルエット内に収まってますよ」


確かに、上から見るとシルエットに収まっている。
そう思った瞬間、ハートが輝き始めて魔力が解放された。


僧侶「えへへ、これが正解ですっ!」

勇者「マジか!! あの魔物たちはもう出現しなくなったのかな。明日の朝、確認しに行こう」

僧侶「そうですね。富豪さん、すごく喜びますよ」


131
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 21:10:54 ID:PiCE.oRw
私はタングラムを解いて喜ぶ僧侶さんを見詰めた。
そして、僧侶さんの言葉を思い出した。

僧侶『これを矢に見立てれば、ほらっ♪ ハートに矢が刺さって、とても素敵ではないですかぁ//』

その発想が私には出来なかった。
ルール的にだけではなくて、感性的に思い付かなかったのだ。
それをすぐに思い付いた僧侶さんは、恋愛に憧れている女性なのかもしれない。
その対象は、勇者さまだったりするのだろうか。


魔法使い「恋愛のタングラム……か。私は――」チラリ

勇者「魔法使いちゃん、どうかしたの?」

魔法使い「い、いえ。何でもありません//」


132
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 21:13:48 ID:PiCE.oRw
第3話 おわり

(シルエットパズル)
・タングラム
※ハート型のシルエット


勇者「ドーナツの世界?!」第4話を読む
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