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勇者「ドーナツの世界?!」 第1話

1 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 21:41:06 ID:bihKnwh2
第1話 ドーナツの世界
~エルグの城~
王様「勇者はまだか」

勇者「遅れて申し訳ありません」

王様「勇者よ、よくぞ参った。お主もうわさには聞いておろう。はるか南の大地にある極南の地が、闇に覆われてしまったという話を――」

勇者「はい」

王様「近年は魔物の活動も激しさを増し、極南の村が魔王に支配されたと聞き及んでおる。このままではやがて世界は闇に呑まれ、光を失ってしまうだろう」

勇者「魔王……ですか?」

王様「その前に女神の加護を受けし若者よ、そなたに魔王の討伐を任命したい」

勇者「任務、拝命いたしました」

王様「おぉ、さすが勇者だ。大臣、勇者に王家の紋章を授けよ」

大臣「これは世界条約で定められた魔道具です。国王が任命した勇者として支援を受けることができるので、大事にするように」

勇者「はいっ、ありがとうございます」

王様「それでは、よい報告を期待しておるぞ」


2
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 21:49:12 ID:bihKnwh2
~城下町~
勇者「はぁ、魔王なんているわけないのに……」


冬の寒空の下、派遣施設へと歩きながら溜息をついた。
女神から神託を授かり、勇者に選ばれたことは理解しているつもりだ。
しかし、それと魔王の存在は別の話だ。
なぜならば、すでに魔族は滅びているからだ。

はるか昔、人間と魔族の戦争があった。
その戦争で人間が辛勝したことは、精霊神話を読んだことのある人間ならば誰でも知っている。

だから、魔王が存在するはずがない。
それでは、なぜ闇が存在するのだろうか。

とりあえず成功報酬はかなりの額だし、派遣施設で女僧侶を誘うことにしよう。
もしかすると、もしかするかもしれない。
あまい期待を抱きつつ、俺は派遣施設に向かった。


3
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:01:15 ID:bihKnwh2
~派遣施設~
勇者「おはようございます」

局員「おはようございます、勇者さまですね。こちらにお越しになることは、王様より伺っております。どの方を雇いますか?」


局員はそう言うと、名簿を見せてくれた。
俺は女僧侶の項目を開き、プロフィールに目を通す。

女僧侶を選ぶのは回復系の魔法しか使うことが出来ないからだ。
格好良い所を見せれば簡単に惚れてくれるに違いない。
そう考えていると、ひときわ可愛らしい女性を見付けた。


勇者「怪我や病気をしたら困るので、こちらの女僧侶の方をお願いします。旅仲間は彼女一人で大丈夫です」

局員「えっ、戦士や賢者は必要ないのですか?! 小隊を組むほうが良いと思うのですが……」

勇者「長い旅だし、衣食住と費用の問題が付きまとうので大丈夫です。剣術や精霊魔法なら俺が少しは使えるし、少数精鋭で行こうと思います。だめなんですか?」

局員「い……いえ、大丈夫ですよ。少々お待ちください」


4
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:03:15 ID:bihKnwh2
僧侶「勇者さま、はじめまして。私は僧侶と申します」

勇者「俺は勇者。これからよろしくね」

僧侶「よろしくお願いします」ペコリ


実際の彼女は名簿で見た以上に可愛かった。
胸がかなり大きくて、女僧侶らしい健康的な容姿をしている。


局員「勇者さま、本当に彼女一人だけで良いのですか? もちろん、後から増員できますけど――」

勇者「国の派遣施設に登録されるほどの実力者だし、不足はありません。ありがとうございました。では僧侶さん、装備を整えて行きましょうか」

僧侶「ちょ、ちょっと待って下さい! 私たち、二人旅なのですか?!」

勇者「そうだよ。小隊を組むと、衣食住と費用が問題になってくるからね」

僧侶「確かにそうかもしれませんけど……」

勇者「じゃあ、そうと決まれば出発しようか」

僧侶「……分かりました。勇者さま、頑張りましょう」


5
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:05:19 ID:bihKnwh2
~北の大地・フィールド~
城下町を出てエルグの村を目指して歩いていると、俺は野犬の気配を感じた。
この地域では、冬になると行商の馬が野犬たちに襲われることがある。
もし人の肉を食べたことのある野犬ならば、隙を見て襲ってくるだろう。
決して、油断は出来ない。


勇者「僧侶さん。どうやら、野犬たちに囲まれているみたいだ」

僧侶「そうみたいですね」

野犬「ガルルルッ!!」

勇者「くそっ! 僧侶さん、来たぞ!」

僧侶「は、はいっ!」


俺は鉄の剣を抜き、飛び掛ってきた野犬を斬り払った。
そして続けざまにもう一匹の野犬を斬り、僧侶さんに目を向ける。


6
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:08:44 ID:bihKnwh2
野犬「バウワウッ!!」

僧侶「きゃあっ! 防御魔法っ」

勇者「僧侶さんっ!」


野犬は彼女が振りかざしたナイフをかわし、左腕に食らいついた。
しかし、魔法で強化された防寒具が牙をはじき返す。
そしてナイフを逆手に持ち変え、彼女は野犬へと振り下ろした。


野犬「キャウン……」ドサリ

僧侶「ごめんね」

勇者「どうやら、他の野犬たちは諦めてくれたようだな。血の臭いを嗅ぎつけて魔物が集まってくる前に、俺たちもここを離れようか」

僧侶「……そうですね。野犬さんの命、みんなに繋がりますように」ペコリ


7
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:25:15 ID:bihKnwh2
~エルグの村~
僧侶「勇者さま、やっと村に着きましたね」

勇者「馬なら1時間程度なのに、歩くと半日もかかるのか……」

僧侶「日が暮れてきたし、宿を探さないといけませんね。あの民宿はいかがでしょうか」

勇者「じゃあ、今夜はあの宿にしよう」


少しでも早く暖かい部屋に入りたいし、特に異論もない。
俺はそう思い、僧侶さんの意向を汲むことにした。


宿の主人「これはこれは勇者さま。王様より伝令が来ております。一部屋だけ空いておりまして、そこなら勇者割引きでお貸し出来ますよ」

勇者「こっちは二人なんだけど、もう一部屋、空けられませんか?」

主人「他に空室はございません。お二人と聞いていたので、ツインルームをご用意させていただいております」

勇者「一部屋しかないなら仕方がないですね。その部屋でお願いします」


8
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:43:57 ID:bihKnwh2
~部屋~
僧侶「あのぉ、勇者さま……。私たちは同じ部屋なのですか?」

勇者「ごめん。何も言わないから、相部屋でも大丈夫だと思ってた。やっぱり嫌だったのか」

僧侶「勇者さまがどうするのか、見ていただけです。もう一部屋ないか聞いてくれていたので、一応良しと致します。でも、次からは別室にして欲しいです」

勇者「僧侶さん。そのことなんだけど、次からも相部屋ってことにしてくれないかな」

僧侶「えっ?!」

勇者「これから俺たちは一緒に長い旅をするわけだし、お互いに信頼関係を築いていく必要があると思うんだ」

僧侶「信頼関係……ですか?」

勇者「そうそう。戦闘の場面では、お互いに信頼関係が築けているか否かで生死が分かれてしまう。些細なことでも話し合える関係になれれば、それだけ旅もスムーズに出来ると思うんだ」

僧侶「そうかもしれないですね」

勇者「だから、協力してほしい」

僧侶「……分かりました」


9
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:45:15 ID:bihKnwh2
勇者「とりあえず、旅の計画を立てようか」

僧侶「はいっ」

勇者「僧侶さんはこの村は何が美味しいか知ってますか」

僧侶「……えっ? 旅の計画って、今夜の食事ですか?!」

勇者「せっかく旅をするんだから、美味しいものもいっぱい食べたいだろ」

僧侶「そうですね。私も各地の美味しいものをいっぱい食べたいです!」


今まで硬い表情だった僧侶さんは、食べ物の話になると目を輝かせた。
生真面目な女性ならどうしようかと思っていたが、この様子だと気が合いそうだ。


僧侶「それでですね、今の季節は冬野菜がおいしいです。この村は冬になると白菜の収穫が盛んなので、お鍋がおすすめだと思います」

勇者「じゃあ、今夜は温かいものを食べよう」

僧侶「はいっ! 夕食も勇者割引きが付きますかねえ♪」


10
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:47:56 ID:bihKnwh2
~談話室~
勇者「えっ、白菜なべを食べられないんですか?」

主人「はい。近頃、魔物が山から下りてきて畑を荒らすようになったのです。先日は農夫が襲われて怪我をしまして、みな困り果てています」

僧侶「勇者さま、残念でしたね……」


白菜なべを食べられないと知り、僧侶さんは肩を落とした。
それにしても、魔物が畑を荒らしているなら見過ごすことは出来ない。


勇者「僧侶さん。明日、その魔物を退治しに行こうか!」

僧侶「本当ですか?! さすが勇者さまです。村の方も困ってらっしゃるようですし、人を襲うようになっては見過ごせませんよね」

勇者「その通り! 食べ物の恨み、思い知らせてやりましょう」

僧侶「はいっ!」


11
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:49:56 ID:bihKnwh2
勇者「それでご主人、どのような魔物なんですか?」


野犬ならば畑を荒らすようなことはしない。
この村は山も近いし、考えられるのは熊やイノシシだろう。


主人「大型の熊です。例年なら冬眠している時期なのですが、どうやら荒くれ者がいるようでして――」

勇者「グリズリーか。どこに巣があるのか分かっているのですか?」

主人「自警団の者なら、場所を知っています。今夜、村長に報告しておきますので、明日には村の者を案内につけてくれるでしょう」

勇者「分かりました」

主人「では、よろしくお願いします!」

僧侶「勇者さま、明日は頑張りましょうね! そのためにも、今夜の食事は滋養のあるものが良さそうですね」

勇者「そうだな」

僧侶「では、凍結湖の魚料理を食べませんか。脂が乗っていて、すごく美味しいらしいんです!」

勇者「じゃあ、ご主人。その魚料理をお願いします」

主人「かしこまりました」


12
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:51:37 ID:bihKnwh2
~村長の家~
翌朝、俺たちは村長の家に向かった。
昨日は日が暮れていて気が付かなかったが、確かにどの畑も荒らされているようだ。
これでは作物の安定した収穫は望めないだろう。


村長「あなたがエルグの城を代表する勇者殿ですな。話は聞いております。どうぞお上がりください」

勇者「では、お邪魔します」

僧侶「お邪魔いたします」

村長「早速ですが、勇者殿。魔物退治をしてくださるという話は変わりありませんか」

勇者「もちろんです。ここに来る途中も見ましたが、畑が荒らされてはお困りでしょう」

村長「ええ。村の者も襲われ、ほとほと困り果てておったところです。勇者殿が退治してくださるなら、それはもう願ったりです」

勇者「それで、グリズリーの巣まで案内してくれる者がいれば助かるのですが、やはり同行は難しいでしょうか」

村長「そのことでしたら、ぜひ連れて行ってほしい者がいるのです。魔物退治の話を聞き、志願されまして。魔法使い、入ってきなさい」

魔法使い「はじめまして。魔法使いと申します」ペコリ


13
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:59:37 ID:bihKnwh2
部屋に入ってきたのは、ミディアムヘアの村娘だった。
しかも、どこをどう見ても15歳くらいの少女にしか見えない。
志願する気持ちは偉いと思うけど、さすがに同行させるのは難しい。


勇者「あの、村長さん。お言葉ですが、年端も行かないお嬢さんを一緒に連れて行くのは大変危険だと思います」

村長「いえいえ。こう見えても、彼女はこの村で一番の女魔法使いなんです。勇者殿といれば安心ですし、よい経験になるでしょう」

勇者「この場合、本人の意思よりも安全を優先すべきでしょう」

村長「勇者殿といれば安心ですし、それには及びません」


なんなんだ、この聞く耳を持たない村長は――。
どうせ案内人は非戦闘員のつもりだったし、大人でも子供でも大差ないと考えるしかなさそうだ。


勇者「はあ……分かりました。無事に連れて帰ります」

村長「では勇者殿、お願いします」

勇者「魔法使いちゃん、案内よろしくね」

魔法使い「はいっ!」


14
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:02:49 ID:bihKnwh2
~裏の山~
俺と僧侶さんは、魔法使いちゃんの案内で山に分け入った。
女性同士で気が合ったのか、二人は雑談を交わしながら歩いている。
その様子はどことなく姉妹のようだ。


僧侶「へえ~、来年からお城で研修することが決まってるんだ」

魔法使い「はいっ。お父さんが受験を勧めてくれて、お城で試験を受けてみたんです。そうしたら、春から来るようにって言われました」

僧侶「ということは、私より6歳下の後輩になるんだね。あそこは城下の人でも入学が難しい狭き門なんだよ」

魔法使い「合格したときは、私も驚きました」

勇者「じゃあ、魔法使いちゃんは相当な使い手なんだ。道理で村長さんが強く推すわけだ」

魔法使い「えへへ、勉強がんばりました//」


エルグの城で研修が決まっているということは、国家魔道師となりうる才能を持っているということだ。
だからこそ、村長は彼女に魔物退治の経験をさせたいのだろう。
そう考えていると、魔法使いちゃんが立ち止まった。


15
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:06:43 ID:bihKnwh2
魔法使い「勇者さま、この洞窟です」

勇者「ここがグリズリーの巣なのか。思っていたより深そうだな」

僧侶「そうですね」

勇者「とりあえず、魔法使いちゃんも俺について来てくれ。外で待っていて、巣に戻ってきたグリズリーに遭遇すると危険だからな」

魔法使い「分かりました」

勇者「それで注意事項があるんだけど、洞窟の深部では火炎魔法と爆発魔法は使わないでほしい。もし酸欠したり崩落が発生したりすると、俺たちも危ないからな」

魔法使い「……そんなことまで考えないといけないんだ」

勇者「とりあえず、命大事にで無理をしなければいいから」

魔法使い「はいっ、分かりました」


16
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:08:43 ID:bihKnwh2
~洞窟~
僧侶「勇者さま、いましたか……」

勇者「いや、もう少し奥に行ってみよう」

魔法使い「あの……、何か不思議な魔力を感じるんですけど」

勇者「静かにっ。グリズリーがいたぞ」


俺はそう言うと、岩陰に身を隠した。
5メートルほど先にやや広い空間があり、そこでグリズリーが丸くなって眠っている。
僧侶さんと魔法使いちゃんも、慌てて身を潜めた。 


僧侶「勇者さま、どうしますか?」

勇者「脇から攻めて、一気に片をつける。そして僧侶さんは防御魔法、魔法使いちゃんは必要に応じて支援魔法。それで頼む」


そう言って、俺は剣を抜いて岩陰を慎重に進んだ。
そのままグリズリーの目前まで迫り、一気に駆け出す。
すると、ようやく気が付いたグリズリーが唸り声を上げた。
しかし、もう遅い!


17
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:09:28 ID:bihKnwh2
勇者「大地斬っ!」


土精霊の力を宿し、岩をも切り裂く勢いで剣を振り下ろす。
しかし、それは当たらなかった。
いや、当たらなかったのではない。
完全に捉えていたはずの剣が、そのまま通り抜けたのだ。

グリズリーの肉を断つ抵抗を予想していた身体は、勢い余ってバランスを崩す。
その一瞬の隙をつかれ、熊パンチが飛んできた。


勇者「くそっ!!」


すんでのところで後ろに飛び退き、鋭い爪をかわす。
そして剣を構え、風精霊の力をまとわせて懐に入り込んだ。


勇者「疾風斬りっ!」


グリズリーの右足を斬り払う。
その刀身は右足をすり抜けたが、空気の刃が左足を切り裂いた。


18
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:21:16 ID:bihKnwh2
グリズリー「グオォォォッッッ!!」


悲痛な雄たけびとともに、グリズリーが崩れ落ちる。
それでもなお立ち上がらんとしているのは、さすが熊族の魔物といったところか。
ここからが正念場だ。

そう思った瞬間、それは起こった。
突然、背後から腕が伸びてきたのだ。


勇者「ぐはぁっ!」


とてつもない力で振り払われ、強烈な勢いで壁に叩きつけられた。
防御魔法のおかげで爪によるダメージはないが、激しく打ちつけられたせいで全身が痛む。
どうにか立ち上がり、俺は剣を構え直した。


僧侶「勇者さま! 回復魔法!」

勇者「何なんだ、あの熊はっ! 空間を越えて攻撃してきたぞ!」

僧侶「魔法使いちゃん! このグリズリー、転移魔法を使えるの?!」

魔法使い「そ、そうみたいですね」アセアセ


どうやら、魔法使いちゃんはこのことを知らなかったようだ。
当たらない斬撃、そして予測困難な場所から飛んでくる攻撃。
このままではジリ貧だ。


19
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:23:16 ID:bihKnwh2
勇者「くそっ! どうすればいいんだ」

僧侶「勇者さま。一度だけ攻撃が当たりましたよね。それは何故でしょうか」

勇者「今、考えてる!」

魔法使い「私、分かったかもしれません! 凍結魔法、行きますっ!」


空気中の水分が凍りつき、グリズリーは氷付けになった。
しかし動きを完全に封じるほどの力がないのか、ひびが入り始めている。
そんなグリズリーに対して、魔法使いちゃんはさらに閃光魔法を行使した。

なるほどな――。
一度だけ攻撃が当たったのは、それが空気の刃による視認困難な攻撃だったからに違いない。
だから、魔法使いちゃんはグリズリーの視力を奪ったのだ。


勇者「はあぁぁっ! 疾風突きっ!」


刀身に風精霊をまとわせ、全力で突き出す。
それは氷もろ共、グリズリーの胸を貫いた。
腕に感じる、肉を斬る手ごたえ。
どうやら、読みが当たったようだ。

グリズリーの断末魔の声が洞穴に響き渡り、生気を失っていく。
やがて、氷の中で力尽きた。


20
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:32:16 ID:bihKnwh2
僧侶「やりましたね、勇者さまぁ」

勇者「魔法使いちゃん、ありがとう。咄嗟にこんなことに気付くなんて、並大抵のことじゃできないよ」

魔法使い「えへへ、ありがとうございます//」

勇者「さて、今夜は熊なべだな。農夫に運ばせて、振舞ってもらおう!」

僧侶「そうですね! グリズリーは熊パンチの前足が美味らしいです♪」

魔法使い「えっ……食べるんですか」

僧侶「このグリズリーは生きるために畑を荒らしていたんだと思います。そして、私たち人間も生きるために狩りました。ならばその死は、命を繋ぐものでなければなりません。決して、命を無駄にしてはならないのです」

魔法使い「命を繋ぐ……か」

僧侶「はい。そのようにして、私たちは生きているのですよ」

勇者「さすが、僧侶さん。いいことを言いますねえ」

僧侶「うふふ、当たり前です」


21
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:35:41 ID:bihKnwh2
勇者「じゃあ、戻ろうか」


そう言って帰ろうとすると、魔法使いちゃんが物言いたげに俺を見詰めた。
しかし、目が合うと俯いてしまう。
何やら気になることがあるらしいけど、言えずにいるようだ。


勇者「どうしたの? 何か言いたいことがあるなら、恥ずかしがらずに言ってくれないかな」

魔法使い「すみません……。実はこの奥から不思議な魔力を感じるんです」

勇者「魔力?」

魔法使い「はい。このグリズリーの魔力だと思っていたのですけど、どうやら違うみたいなんです」

僧侶「言われてみれば、かすかに感じますね。魔力に関しては魔法使いちゃんのほうが専門ですし、調べてみるべきだと思いますよ」

勇者「そうだな。不審な事があるなら、調査してみよう」


もしかすると、その魔力がグリズリーに影響していた可能性もある。
俺はそう思い、魔力の発生源を探ることにした。


22
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:38:17 ID:bihKnwh2
魔法使い「魔力のもとは、これみたいです」


しばらく洞窟内を探索し、発生源を見つけた魔法使いちゃんが照明魔法で一点を照らした。
そこには、1から16までの数字が書かれたプレートが落ちていた。
そしてその16枚のプレートは、手のひらサイズの枠に納まって数列を作っていた。


僧侶「この数列はユピテル魔方陣ですね」

勇者「ユピテル魔方陣?」

僧侶「はい。縦横斜め、それぞれの列の合計が、いずれも女性数の最初の素数2と男性素数17を掛け合わせた34になるものです」


6、12、7、9
15、1、14、4
10、8、11、5
3、13、2、16


勇者「なるほど。確かに合計が34になるな」


そう言いつつ、俺はプレートを拾い上げた。
すると、魔方陣が光に包まれた。


23
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 00:15:46 ID:/OBZxBP2
僧侶「勇者さま、16が消えましたよ! 魔法使いちゃん、これって15パズルじゃないかな。ほら、開いた空間に隣のプレートを動かすことができるし」サッサッ

勇者「あ、おい。勝手に触るなよ。まだ分かってないことも多いのに」

僧侶「ごめんなさい」シュン

魔法使い「でも僧侶さん。これが15パズルだとしたら、大変なことになりますよね」

僧侶「そうだね」

勇者「それはどういう?」

僧侶「15パズルは神の遺産なんです。遥か昔、この世界は一つの巨大な大陸で出来ていました。その超大陸のことをパンゲア大陸と言うのですが、それはご存知ですか」

勇者「土精霊学で勉強した気がするな。大陸が動いているんだっけ」

僧侶「はい、その通りです。神様の力により大陸が少しずつ動いて集まり、巨大なパンゲア大陸が出来ました。そして再び動いて割れてしまい、海や島ができて今の世界になったとされています」

勇者「何だか、すごく壮大な話だよな」

僧侶「それをプレートテクトニクス理論というのですが、15パズルがその伝説を象徴する神具として、この世界に伝えられているのです」


24
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 00:17:28 ID:/OBZxBP2
魔法使い「勇者さま。この15パズルは順番に並んでいませんよね。しかも、ユピテル魔方陣を形成して魔力を放っていました。それはとても恐ろしいことなんです」

勇者「恐ろしいこと?」

魔法使い「もうお気付きだと思いますけど、この15パズルは世界の在り方に関わる神聖な神具なんです。うわさ通り、世界に異変が起きつつあるのではないでしょうか」

勇者「世界の在り方か……。なぜ、そのような物がここにあったんだろうな」

魔法使い「それは……」

僧侶「それは分かりませんけど、このままにしておくのは危険だと思います。グリズリーが見せた空間を越える能力は、この魔力の影響だったのかもしれません。解ける配置のようなので、解いてみようかと思います」

勇者「じゃあ、なるべく早く解いてくれ。女僧侶は神に仕える者だし、その職に就く僧侶さんが言うなら間違いないだろう」

僧侶「ですよね!」


そう言うと、僧侶さんはカチャカチャと数字を動かし始めた。
どうやら、早く解きたかったらしい。
 

25
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 20:52:29 ID:/OBZxBP2
~村長の家~
勇者「村長さん、ただいま戻りました!」

村長「おぉ、勇者殿。魔物はいかがなさいましたか」

勇者「見事、退治してまいりました。農夫を派遣して肉を持ち帰り、今夜はみんなで熊なべにいたしましょう」

村長「そうですな。今から農夫を向かわせます」

勇者「それにしても、魔法使いちゃんは素晴らしいですね。的確な判断で、逆に助けられてしまいましたよ」

村長「そうでしょう。この子は村一番の期待の星ですからな」

魔法使い「えへへ//」

勇者「ところで村長さん。明日ですが、馬を一頭借りることはできませんか? 城に戻り、王様に報告しないといけないことができまして」

村長「分かりました。用意させます」


26
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 21:11:27 ID:/OBZxBP2
~宿の部屋・夜~
僧侶「勇者さま。熊なべ、おいしかったですね」

勇者「ほんと、どうやって臭みを消したんだろ。やわらかくて、こってりで」

僧侶「熊パンチ、とろとろでしたね。明日はぷるぷるになっちゃいますよ。勇者さまぁ、ぷるぷるおっぱい触りたいですか//」

勇者「えっ、マジで!?」

僧侶「……冗談に決まってるじゃないですか。そんなことをしたら、本気で怒りますからね」


顔は笑っているけれど、今までで一番冷たい声色だった。
酔った勢いで触らせてくれるのかと期待したけど、そんなことはなかったようだ。
そもそも、出逢って二日で完全に気を許してくれる女性はいないだろう。


勇者「ははっ、やっぱりそうだよな」

僧侶「もちろんです」


27
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 21:22:28 ID:/OBZxBP2
トントン
僧侶さんの気を惹くことが出来る話題を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
こんな時間に、一体誰だろうか。


勇者「どうぞ。開いてますよ」

魔法使い「こんばんは」ペコ

勇者「ああ、魔法使いちゃん。こんばんは」

僧侶「いらっしゃい♪ 遊びに来たの?」

魔法使い「いえ……あの、僧侶さん。15パズルは完成しましたか?」

僧侶「できたよ、ほらっ」


そう言うと、僧侶さんは旅袋から15パズルを取り出した。
洞窟で見付けた時はバラバラだった数字が、今は順番に並んでいる。
一度は消えてしまった16の数字も、15の次に埋まっていた。


28
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 22:13:34 ID:/OBZxBP2
魔法使い「16の数字、また出てきたんですね」

僧侶「完成したら魔力が解放されて、結界が張られて動かせなくなったの。もっと遊びたかったのに……」ショボン

勇者「数字が揃っていない状態では危険なんじゃなかったのかよ……」

魔法使い「ところで勇者さま。洞窟で見つけたユピテル魔方陣について、思い出したことがあるんです」

勇者「思い出したこと?」

魔法使い「はい。実は、あの配置は完全方陣だったんです」

勇者「完全方陣?」

魔法使い「普通の魔方陣は縦横斜めが34になるだけですけど、完全方陣はそれだけではないのです。端と端をつなげて筒状にしても、その斜めの合計が34になるんです」

勇者「筒状に?」

魔法使い「はい。上下を繋げて、さらに右と左を繋げると、その平たいプレートはどんな形になると思いますか?」

勇者「上と下を繋いで、右と左を繋いだらドーナツ型になるね」

僧侶「それって、トーラスじゃないっ!」


29
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 22:25:22 ID:/OBZxBP2
魔法使い「まずいですよね……」

勇者「どういうことだ」

僧侶「はるか昔、神様が大陸を移動させるとき、この世界が球形だったので反対側が見えませんでした。だから、神様は世界を平面的に捉える方法を考えたのです。それが世界地図で、この15パズルだと言われています」

勇者「ということは、完全方陣は球形の世界がドーナツ型に歪められることを暗示しているのか?」

僧侶「そう……かもしれませんね」


もし仮に魔王がいたとして、本当に世界を歪めることが出来るのだろうか。
とてもではないが、信じられない。
しかし、二人の魔道師が危機感を募らせている。
それを見過ごすことは出来ないだろう。


勇者「わかった。今日は本当にありがとう。魔法使いちゃんは立派な女魔道師になれそうだね」

魔法使い「ありがとうございます// それでは、おうちに帰ります」

僧侶「もう帰るんだ。おやすみ~」

勇者「おやすみ、気をつけて帰ってね」

魔法使い「は、はいっ。おやすみなさい//」


30
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 22:53:39 ID:/OBZxBP2
~エルグの城・翌日~
俺は早馬で城に戻り、昨日の出来事を王様に報告した。
そして、封印を施された神具を大臣に手渡した。


王様「なるほど、世界に何かが起こりつつあるのは間違いないようだな。して、その神具に掛けられた闇の力は僧侶が解放したのか?」

勇者「はい。もう大丈夫でしょうけど、念のために正規の封印を施すほうが良いと言っておりました」

王様「承知した。極南の闇にばかり目が向けられていたが、極北でも異変が起きているやもしれんな。極北の地への調査団は別に出すゆえ、勇者は引き続き任務を頼む」

勇者「任務、拝命いたしました」

王様「それでは、魔法使いという村娘に褒美を出そう。研修前とはいえ、良い働きをしてくれた。勇者よ、これを無事に届けてくれぬか」

勇者「かしこまりました」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:01:48 ID:/OBZxBP2
~エルグの村~
エルグの村に戻り、俺は借りていた早馬を農夫に返して村長の家に向かった。
褒美を届けるにしても、魔法使いちゃんの家を知らないからだ。


勇者「村長さん、こんにちは」

村長「勇者殿、お待ちしておりました。ここでは難ですので、客間に上がってください」


言われるがままに、客間に上がる。
すると、そこには僧侶さんと魔法使いちゃんの姿があった。
さらに見知らぬ農夫の姿もある。


勇者「こんにちは、魔法使いちゃん。昨日の件で、王様から魔法使いちゃんに褒美が出ましたよ」

魔法使い「本当ですか?! すごくうれしいです!」

僧侶「魔法使いちゃん、良かったね。山の向こうに都があるから、明日は買い物が楽しみだね。魔法使いちゃんは、何が欲しい?」

魔法使い「えっと、新しい魔術書が欲しいです!」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:05:02 ID:/OBZxBP2
勇者「魔法使いちゃんは国境を越える手形を持ってるの?」


山を越えると、そこはバロックの国だ。
国境を越えるためには、王様または自治体の管理を任されている自治長の許可が必要になる。
彼女がその歳で持っているとは思えない。


僧侶「魔法使いちゃんは、私たちと行くんですよ」

勇者「えっ? それって、どういうこと?!」

魔法使い「私も勇者さまに付いて行くことにしました//」テレッ

勇者「子供の遊びじゃないんだ、絶対に認められない!」

僧侶「妹が出来たみたいで、楽しい旅になりそうじゃないですか。私はそのつもりです」

勇者「いやいや、それは違うだろっ!」


33
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:06:02 ID:/OBZxBP2
村長「うちの村から勇者殿のパーティーに入れる者が出るとは、とても光栄です。彼女は村で一番の女魔法使いです。よろしくお願いします」

勇者「魔道師が必要ならば、城下で人材を選びます」

農夫「まあ、そうおっしゃらずに。勇者さまが魔王を倒せたならば、娘を差し上げてもいいですよ」

魔法使い「お父さん。うれしいけど、少し気が早いわよ//」

勇者「誰かと思えば、お父さんですか。娘さんの暴走を止めてください」

村長「彼女の実力は勇者殿もご覧になったでしょう。良い経験にもなるだろうし、ぜひ連れて行ってあげてください」

僧侶「そうそう。魔法使いちゃんと三人で旅をしたほうが、きっと楽しいですよ」

村長「ちなみに、国境を越える手形は発行済みですぞ」

勇者「それって職権乱用じゃないのか?!」

魔法使い「さすが、村長さんです!」


34
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:10:44 ID:/OBZxBP2
そうだった。
ここの村長は、頑として人の話を聞かないのだ。
しかも僧侶さんが彼女を気に入ったらしく、一緒に行きたがっている。
俺は仕方なく、魔法使いちゃんの同行を認めることにした。


勇者「はあ、分かったよ……」

魔法使い「ありがとうございます! お邪魔にならないよう、がんばります!」

僧侶「魔法使いちゃん、よろしくね」

魔法使い「はい、よろしくお願いします!」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:11:44 ID:/OBZxBP2
第1話 おわり

・魔方陣
・15パズル
・トーラス


勇者「ドーナツの世界?!」第2話を読む
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