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やり直し

 長い入院生活から帰宅が許されて、妻が久しぶりに病院から帰ってきた。

「ただいま……」

 夏の日差しで疲れたのか、声が弱々しい。手を取って部屋に連れて行き、冷房を利かせてあげた。麦茶を注いで、部屋に持っていく。


「ねえ、この折り紙はどうしたの?」

「一緒に千羽鶴を折ろうと思って、昨日買ってきた」

「ええっ、私にも手伝わせるつもりなんだ」


 そう言われ、苦笑いで返す。麦茶を渡すと、折り紙をテーブルの上に広げた。赤い折り紙を選び、半分に折る。そしてもう一度、丁寧に半分に折る。その様子を、妻は不思議そうに見ていた。


「何してるの? 最初は三角に折るんだよ」

「あれ、そうだっけ」


 失敗したのならば仕方がない。そう思い、新しい折り紙を手に取る。


「ねえ、折り間違えたくらいで捨てちゃうの?」

「だって、一度ついた折れ目は消えないだろ。やり直したほうが綺麗に折れるじゃないか」

「それ、千羽鶴になるんでしょ。だったら、その折り紙は私と同じなんだよ。私の身体は、もうやり直せないのに」


 結婚して半年、毎日が幸せだった。しかしふと、妻の様子に違和感を感じた。何度か聞いたが気取られないようにしていたので、特に追及はしなかった。それが若年性の大腸がんを進行させることになるとは、お互いに思いも寄らなかった。

 診察を受けたときには手遅れで、直ちに大腸を摘出する手術を受けるよう薦められた。今後はストマ外来に通うことになり、経過観察後にストマクローズの手術を行うことになっている。


 妻は麦茶を飲み終えると、今しがた失敗した折り紙を手に取った。そして、ツルを折り始める。


「人も折り紙も同じ。一度ついた折れ目を何度も折り返すと、挫折して心が折れてしまう。だけどそんな折れ目も、次のステップに進む土台になってくれるの」


 四角に折って失敗した折り紙は、三角に折った次の手順で綺麗に広げることが出来た。さらに折り目を付け、それは経験として積み重ねられていく。折り紙が折り目で傷付き、優雅なツルへと形を変えていく。


「私はこの消えない傷を後悔し続けるよりも、受け入れて前に進みたい。大変だと思うけど、これからも一緒にいてほしい」

「ああ、二人で頑張ろう」


 見よう見まねで折っていたツルを置き、妻を抱き寄せる。テーブルの上では、色とりどりの折り紙の傍らで二羽のツルが寄り添っていた。


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