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勇者「ドーナツの世界?!」 第10話

601 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/20(水) 21:19:44 ID:2TBePBMs
第10話 終末のパズル
~極北の地・光の結界~
エルグの城から派遣された第二調査団が、極北の地にある光の結界に到着した。
今回は結界内部の調査が主目的なので、女神から神託も賜っている。
しかしながら、女神の加護を受けることは出来なかった。


調査団A「よし、結界に入るぞ!」

調査団B「あ、あぁ。この光の世界にあるのは、希望なのか絶望なのか……」

調査団A「そりゃあ、光だから希望だろうよ」

調査団B「そうだな」

魔道師C「ま、待て! この結界を越えるな!」


602
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/20(水) 21:23:39 ID:2TBePBMs
調査団A「ぐああぁぁぁぁぁっっ!!」

調査団B「足が、脚があっ!」


結界に足を踏み入れた瞬間、灼熱の炎で焼き尽くされるかのような激痛に襲われた。
皮膚がただれ、肉が焼ける。
調査団たちは踏み入れた足をとっさに引き、地面の上でのた打ち回った。


魔道師D「治癒魔法!」

調査団A「す……すまない」

魔道師C「な、何という莫大なエネルギーなんだ。これは光属性の攻撃魔法だ!」

調査団B「この結界が攻撃魔法だって?! こんなに巨大なものが放たれると、世界はどうなるんだ」

魔道師C「この光を集束させて放つと、間違いなくこの世界は崩壊するだろう。だから、結界が必要なのかもしれない」

魔道師D「極南が闇に覆われている理由は、もしやこの魔法のためなのか……」


603
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/20(水) 22:06:55 ID:2TBePBMs
~極南の地~
魔法使い「これが魔女さんが見たハノイの塔ですね」


天使さんと別れて村を後にした私たちは、新しい結界を通り抜けて極南の地に入り、そこでハノイの塔を見付けた。
それは終末への時を刻むかのように、自動で解き進められている。


僧侶「うわぁ、本当にハノイの塔の原典だよ! こっそり持って帰りたいです!」

勇者「いやいや、さすがに無理だと思う」

僧侶「でも支柱はダイヤで、円盤は純金なんですよ。ものすごく価値が高い代物です」


そう言って僧侶さんが手を伸ばすと、強力な魔法障壁が展開された。
それは勇者さまが触ろうとしても、同じことだった。
さすがに終末パズルなだけあって、今までの神の遺産とは違うようだ。


魔法使い「僧侶さん、とりあえず今は残り時間を計りましょうよ」

僧侶「はあ……、それもそうだね」


604
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/20(水) 22:14:16 ID:2TBePBMs
勇者「でも、どうやって時間を計るの?」

魔法使い「ハノイの塔は、その最小手順をメルセンヌ数で表すことが出来ます」

勇者「メルセンヌ数?」

魔法使い「メルセンヌ数は『2のn乗-1』で表せる数のことで、例えば円盤の枚数が3枚ならば『2の3乗-1』で7になります」

勇者「ふうん……」

魔法使い「ちなみにハノイの塔は円盤が64枚あるから、メルセンヌ数は約1844京6744兆になります。一枚一秒で動いているようなので、完成までに約5845億年かかる計算ですね」

勇者「5845億年?! 気が遠くなるな……」

魔法使い「それが終末までの時間なので、まだまだ余裕があると思います。では、移動が終わっている枚数を数えませんか?」

僧侶「それはもう数えてあるわよ。すでに揃っている枚数は、48枚みたいだね」

魔法使い「つまり、残りは16枚か……。最小手順は65535手です」


606
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/20(水) 22:36:49 ID:2TBePBMs
勇者「もう万単位なんだ。というか、計算早いなあ」

魔法使い「暗算は得意なんです♪ それはそうと、一時間は3600秒だから、終末までの時間は約18時間だということになります」

僧侶「魔法使いちゃん。もう手数が進んでいるし、半日の猶予しかないと思ったほうが良いんじゃない?」

魔法使い「じゃあ、世界の終末まで、あと半日です」

僧侶「つまり、春分点を通過したときにハノイの塔が完成して終末を迎えるのね」

勇者「えっ?!」

僧侶「……!」

魔法使い「まさか、今日が世界の終末なの!?」

僧侶「もうすぐ完成するって聞いてたけど、本当にもうすぐじゃないっ!」アセアセ


607
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/20(水) 22:41:51 ID:2TBePBMs
勇者「闇を取り払うって、どうすればいいんだよ」

僧侶「私も分かりません。何か手掛かりを探しましょう!」

魔法使い「勇者さま、あれを見てください。結界で光が吸収されているはずなのに、あそこだけ空がキラキラしていませんか?」


私はそう言うと、空を指差した。
光の粒子が天高く舞い上がり、流星のように放射されている。
あの場所に何かがあるのは、間違いないだろう。


勇者「確かに空が輝いているな。もしかすると、あそこが結界の中心部なのかもしれない」

僧侶「勇者さま、早く行きましょう。他に手掛かりはありませんし、私たちは行かなければなりません」

勇者「そうだな。二人ともこれが最後の戦いだ。心してかかろう!」

僧侶・魔法使い「はいっ!」


608
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 19:12:02 ID:KzVkae5Q
~結界の中心部~
かなりの距離を歩き続け、さらに混沌としている闇の結界を通り抜けると、ようやく光の発生源らしき場所にたどり着いた。
すると、そこには天まで届きそうな高さの塔が建っていた。
闇の結界が円柱状になっているのは、この塔を隠すためだったのかもしれない。


魔法使い「どう考えても、この塔から光が放射されていますよね」

勇者「ああ、間違いない。世界への侵入者は、この建造物を使って光を極北に送っているんだ!」

魔法使い「ということは、これを破壊すれば闇を取り払うことが出来るんですね!」

勇者「それじゃあ、魔法使いちゃん。世界の終末が迫っているし、とりあえず倒してみよう」

僧侶「ちょっと待ってください。まだ確証がありませんよ。もう少し調査をした方が良いのではないでしょうか」

魔法使い「……言われてみれば、そうですね」


そう言った瞬間、一面が眩しい光に包まれた。
闇に目が慣れているせいで、とても目を開けてはいられない。
やがて光が治まり、私はゆっくりと目を開けた。
すると、人の姿をした人ならざる者が立っていた。


612
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 20:22:12 ID:KzVkae5Q
――「よく来たな、女神に選ばれし人間よ」

勇者「!! お前が世界への侵入者か」

――「侵入者だと? 我はこの世界の造物主だ。世界を創造し、生命を誕生させたもの。この世界の理を統べるものだ」

勇者「造物主……」

魔法使い「まさか、神様なんですか?!」

造物主「いかにも」

僧侶「じゃあ、天使のメッセージの本当の意味は――」

魔法使い「……!!」


以前、天使さんから受け取ったメッセージは、ポリオミノ系のパズルだった。
ポリオミノにとって、枠は世界を表している。
そして神の遺産であるペントミノは、『神様は世界を破壊して創りかえることが出来る』ことを示すパズルでもある。

つまり、天使さんのメッセージは、世界への侵入者の排除を依頼するものではなかった。
神様が世界に干渉していることを示し、干渉前の状態に戻すことを依頼するものだったのだ。


614
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 21:57:46 ID:KzVkae5Q
僧侶「神様がどうしてこんなことを……」

造物主「人間よ、この世界は美しいか?」

僧侶「う、美しい?」

造物主「そうだ。人間は同族で争い、同じ過ちを繰り返す。見かねた我々が罰を与えたが、それでも人の心は変わらなかった」

造物主「国と国が争い、人と人とが殺しあう。あまつさえ、少人数で編成された部隊の仲間すら信頼できず、人は殺しあうのだ」

魔法使い「それは……」

造物主「それでも、この世界が美しいと言えるのか!」

勇者「美しいに決まっているだろ。もし美しくないと言うのなら、そのような世界を創造した造物主の責任だ!」

魔法使い「勇者さまっ!」


私は慌てて身を乗り出し、勇者さまの言葉を制止した。
この世界が美しくないと考えているであろう神様にそんなことを言うと、本当にこの世界を作り変えてしまうかもしれない。


615
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 22:50:24 ID:KzVkae5Q
造物主「そうだな。それもまた、真実であろう。罪を赦された娘たちよ、お前たちに世界を見せてやろう」


その言葉と同時、五種類の正多面体が出現した。


造物主「プラトンの立体、これが世界だ」

僧侶「これらが世界そのものなんですか?」

魔法使い「どう見ても、ただの正多面体ですよね」


意識を集中させてみたが、プラトンの立体からは魔力を感じられなかった。
これが世界だと言われても、いささか信じられない。


造物主「正四面体は『火』、正六面体は『土』、正八面体は『風』、正二十面体は『水』。それぞれが四大元素を象徴し、世界を充たしている」

造物主「そして、正十二面体が第五元素『エーテル』。これが宇宙を形成して、世界の基盤となっているのだ」

魔法使い「なるほど。それらが世界を構成しているのですね」


考えてみれば、この状況で神様が嘘を言う理由がない。
本物の世界を見せる訳にはいかないので、正多面体を出したのだろう。


616
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 22:52:23 ID:KzVkae5Q
勇者「でも、それがさっきの話とどう繋がるんだ?」

造物主「それでは、正六面体のキューブを使おうか。この調和が取れた大地は、人間が住むようになったことで醜く変化し始めた」


神様はそう言いながら、正六面体を手に取った。
それは六つある面が違う色に塗り分けられていて、各面が3×3の正方形に分割されている。
そして、神様は正六面体の各面をゆっくりと回転させた。
そのせいで、揃っていた色がバラバラになっていく。


造物主「人間は争い、殺しあう。その度に世界が汚染されていく。我はこの世界の調和を図ったが、それでもバラバラになっていく。どうすれば、世界を揃えることが出来る。調和を取り戻すことが出来るのだ!」

魔法使い「それは……」

造物主「それでは、女神に選ばれた者よ。このキューブの色を揃えてみせよ!」


天使さんが言っていたのは、生きる価値があることを示すことであり、神様を倒すことではない。
それに、戦って勝てる相手ではないだろう。
今はこのパズルを解くしかない。


617
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 22:59:59 ID:KzVkae5Q
勇者「僧侶さんはこういうパズルが得意だよな」

僧侶「はいっ。神様直々のパズルですし、ぜひ挑戦させてほしいです!」

魔法使い「僧侶さん、一緒に頑張りましょう♪」

僧侶「うん、そうだね」


このパズルを観察すると、どんなに回転させても中央のキューブは位置が変わらないことに気付く。
それに注目し、まずは一段目を揃えることにした。

カシャカシャ……

まず最初に揃える色を決めて、位置関係に気を付けながら集めていく。
十字架を作って側面の色を合わせ、角のキューブを持ってくる。


僧侶「出来たっ!」

魔法使い「一段目は簡単でしたね」


618
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 23:01:47 ID:KzVkae5Q
造物主「ほう、やるではないか。しかし、ここから先はどうだろうな。お前たちには無限に考える時間があるわけではない」

勇者「どういうことだ!」

造物主「この世界は終焉に向かっているからだ。改めて、お前たちに時計を見せてやろう」


神様が手をかざすと、結界とともにハノイの塔が現れた。
それは時を刻み続け、完成まで残り15枚になっていた。
そのせいで、気持ちが焦る。


魔法使い「うそっ、こんなに進んでる!」

造物主「これが完成したとき、この世界は終焉を迎える。それまでに、色を揃えられるといいがな」

勇者「僧侶さん、二段目は揃いそうか?」

僧侶「さすがに難しいです。二段目を揃えようとすると、全部バラバラになってしまうんです」

造物主「このように、調和を乱すのは簡単だ。しかし、一度乱れてしまえばそれを戻すことは容易ではないのだ」


619
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 23:15:01 ID:KzVkae5Q
僧侶「確かに簡単なことではありません。だけど、戻したいという意志があれば出来るはずなんです」

魔法使い「そうですよね。出来ないはずがありません!」


三段目のキューブと二段目のキューブを、いかにして入れ替えるか。
色々な手順を試して動き方を観察し、逆の手順で元に戻すことを繰り返す。
そして、ついに私は手掛かりを見付けた。


魔法使い「僧侶さん。下ろしたいキューブを後ろに回して、正面を回して一段目の角を上げてやれば、三段目で揃えることが出来ますよ。それをこうすれば――」

僧侶「あっ、揃った。これを四回繰り返せば、二段目も完成しそうだね」

魔法使い「はいっ!」


一つ目を入れ替えた要領で、二つ目を入れ替える。
そして、二段目も完成した。


僧侶「よしっ! あと一段!!」


620
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 23:16:01 ID:KzVkae5Q
僧侶「……だめだ」カシャカシャ

魔法使い「はあ、まったく分からないですね……」


私たちはため息を漏らした。
三段目を揃えようとすると、すべてバラバラになってしまう。
そのおかげで、二段目まではすぐに揃えられるようになった。
しかし、最後がまるで分からない。


造物主「どうだ、戻せぬであろう。揃ったように見えても、結局は乱雑になり、世界の秩序を破壊する。それがお前たち人間なのだ」

僧侶「……」

造物主「我々が過去二回、人類のあり方を見直す機会を与えたが、それも結局は無駄だった。人々は精霊たちを疲弊させ、やがて――」

僧侶「すみません、静かにしてください。うるさいです」カシャカシャ

魔法使い「私たちに解くように言ったのだから、集中できる環境を作ってください」

造物主「ぐぬぬ……」


621
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 23:42:53 ID:KzVkae5Q
魔法使い「また、天面がドレスみたいな形になりましたね」

僧侶「そうだね。側面も規則的に並んでいるから、一番上の色を揃えられるような気がするんだけど……」

魔法使い「でも、どう考えても起こして回すことくらいしか出来ませんよね」

僧侶「とりあえず、回してみようか」


側面を回して、三段目を回す。
そして側面を戻し、三段目を回す。
すると、天面の色が集まり始めた。


僧侶「あれっ、これ揃うんじゃない?」

魔法使い「ですよねえ!」

僧侶「ほらっ、やっぱり! あとは側面を入れ替えるだけだね」


622
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/21(木) 23:43:50 ID:KzVkae5Q
四ヶ所ある側面のうち、三ヶ所が『凹形』になっている。
この色違いになっている部分を入れ替えれば、このパズルは完成だ。
私がそう考えていると、勇者さまが珍しく口を出してきた。


勇者「ここを半回転させて、上を回してみたらどうなるだろ」

僧侶「それだと、揃えた場所がバラバラになってしまいます。いや、こうすれば反対側と辻褄を合わせられるから――」

魔法使い「!! 僧侶さん、さっきの所を逆に回してみてください」

僧侶「あっ、揃った! やったね、魔法使いちゃん!」

魔法使い「はいっ! 面白いパズルでしたね」

僧侶「そうだよね。つい時間を忘れちゃったよ」

勇者「神よ、パズルを揃えたぞ!」


623
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/22(金) 21:05:05 ID:46PFJEYg
造物主「そ、揃えただと?!」

勇者「例え神様が不可能だと言っても、俺たち人間は協力して困難を乗り越えることが出来るんだ!」

造物主「そしてまた、同じことを繰り返すのであろう。戦争の歴史が、秩序を保てないことを物語っておる。いくら協力をして秩序を作り上げても、国土や資源は平等ではない。人の欲望は果てしなく、容易に大罪に飲まれてしまうのだ」

僧侶「そんなことはありません。例え秩序がバラバラになっても、また手を取り合うことが出来るのが人間なんです!」

造物主「その度に精霊たちが傷付き、世界が破壊されているとなぜ分からんのだ。戦争により大地は荒れ、水や大気が汚染されるではないか!」

僧侶「それは……」

造物主「そう、この世界はすでに行き詰まっているのだ!」

造物主「だが、傷付いた世界の秩序を取り戻し乱さぬ方法が一つだけある。今からそれを教えてやろう」


624
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/22(金) 21:11:15 ID:46PFJEYg
僧侶「……!!」

魔法使い「うそでしょ……」


正六面体、六色のキューブパズル。
その表面が闇に包まれ、黒一色になった。
しかも、神様が言った『このキューブの色を揃える』という条件も満たしている。


造物主「こうすれば、どんなに回転しても秩序が乱れることはない。どんなに回しても、黒なのだからな。そう思わんか?」

勇者「それはまさか、世界中の人類を滅ぼすということか!」

僧侶「そんなの間違っています!」

造物主「これが乱れることのない秩序。精霊たちが傷付く事のない世界こそ、美しい世界のあり方だ!」

魔法使い「だから、この世界をリセットして作り直すのですか?」

造物主「そうだ。終焉までに生きる価値を示すことが出来なければ、この世界は無に帰す運命を受け入れるしかないのだ」

魔法使い「生きる価値……」


625
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/22(金) 21:48:54 ID:46PFJEYg
僧侶「だったら、生きる価値があることは、私が証明してみせます!」

造物主「ほう、おもしろい」

僧侶「では、これを見てください」


僧侶さんはそう言うと、旅袋から何かを取り出した。
つい先ほど天使さんから貰った、正十二面体の立体パズルだ。


僧侶「神様によれば、この形状は宇宙を表していますよね。見ての通り、まったく揃っていません。でも、すごく芸術的で美しいじゃないですか!」

僧侶「確かに秩序良く揃っているほうが美しいかもしれません。だけど、パズルは解く過程のすべてが美しいのです」

造物主「それでお前は何を言いたいのだ」

僧侶「人間もパズルと同じです。パズルを解いて完成させることは、人で言えば死ぬことかもしれません。ならば、パズルを解く過程は生きることです」

僧侶「生きることは、それだけで素晴らしいことなんです!」


626
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/22(金) 22:02:49 ID:46PFJEYg
魔法使い「私にも言わせてください!」

魔法使い「私はこの旅で、色んな経験をしました。僧侶さんには命の大切さを教えてもらい、勇者さまに出逢って恋と絆を知りました」

魔法使い「砂漠の都と港町では人々の生活に触れて、命を守ることや努力することを学びました。魔法医学を通じて、人体の神秘に触れることも出来ました」


旅に出て、私が感じたこと。
そして、旅先で出会った人々から学んだこと。
私はここまでの道程を振り返りながら、内に秘めた想いや経験を言葉にして伝えていく。


魔法使い「でもそれだけではなくて、人の醜さも知りました」

魔法使い「男女が交わることは、幸せなことばかりではないこと。嫉妬に狂い、己の欲望のために人を傷つけられること。そして、誰もが残忍な心を持ち合わせていることを知りました」

魔法使い「確かに戦争の歴史があるように、人は愚かなのかもしれません。だけど私たちはお互いを信じて絆を深め、精神感応を乗り越えました。世界中の人々も、目標のために協力しあっています」

魔法使い「人は努力して、成長していけるんです!」


627
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/22(金) 22:28:55 ID:46PFJEYg
勇者「極南の村の精神感応を、俺たちは乗り越えた。あれを仕掛けたのが神様ならば、俺たちの絆は神様でも壊せない! それでも、俺たち人間に生きる価値がないと言えるのか!」

造物主「さすが我の試練に耐え、ここまで来ただけのことはあるな。調和の取れた世界には及ばぬが、それをも美しく見せて成長していこうとする人間がいる限り、まだまだ未来の可能性は残されているのだろう」

勇者「そうだ! いくら神様とはいえ、成長の機会を一方的に奪うことは許されるのか」

造物主「もちろん、我はそれを善しとしない。だが、今回が三度目なのだ」

僧侶「どういうことですか」

造物主「我は二度、重大な神罰を下して世界の調和を図ることにした。それが、大洪水と魔族の投入だ」

勇者「大洪水と魔族の投入?!」

僧侶「創世神話と精霊神話に記述があります。まさか、魔族との戦争が神様によるものだったなんて……」

魔法使い「どうして、そんなことをしたのですか!」


628
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/22(金) 22:29:55 ID:46PFJEYg
造物主「では、順を追って説明してやろう」

造物主「遥か昔、我はこの世界を創造し、最初の人間であるアダムとイブを作り出した。その二人はエデンの園に住まわせていたのだが、ある時、食べることを禁止していた『善悪の知識の実』を食べてしまったのだ」

造物主「我はそんな二人を厳しく罰し、エデンの園からこの世界に追放した。罪を行ったとはいえ、実は期待もしていたからだ。ところが、増えた人間たちが悪を行うようになってしまったのだ」

僧侶「だから正しき者であるノアに方舟を作らせて、悪を滅ぼすために大洪水を引き起こしたのですね」

造物主「それが一度目だ。大洪水で世界の調和を図り、ノアとその息子たちを祝福したのだ。それから時は流れ、増えた人間たちが新技術によりバベルの塔の建設を開始した」

勇者「バベルの塔?」

僧侶「天まで届く塔のことです。神様は人間に対して、たくさん繁殖して世界各地で住むように命じていたのですが、人々は都市を作って集団で住むことを選んだのです」

造物主「我は人間たちが世界各地に住むことで、この世界の自然を守り、適切に管理して欲しかったのだ。従ってバベルの塔の建設は契約違反であり、我は罰として言語を多様化させたのだ」

造物主「それにより言葉が通じなくなり、塔の建設は中断された。そして同じ言語を使う者同士が集団を作り、ようやく世界中に散らばって繁殖するようになったのだ」


629
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/22(金) 22:30:55 ID:46PFJEYg
勇者「でも言語の多様化って言うけど、今は世界中で共通言語を使っているじゃないか」

僧侶「創世神話の時代では、この出来事により言語が一つではなかったらしいです。精神感応で解いた迷路の答えも、旧時代で使われていた言語の一つなんですよ」

勇者「へえ、そうなんだ。じゃあ、どうして言葉が統一されたんだ?」

僧侶「それは魔族との戦争があったからです。世界中の人々が団結して戦うためには、戦術を速やかに伝えることが必要ですよね。そのためには、使用する言語を一つにする必要があったのです」

勇者「なるほど。理にかなっているな」

魔法使い「全然、知らなかったです。女僧侶になるには、神話にも精通していないと駄目なんですね」

僧侶「そうだよ。でも、私の話よりも神様の話を聞かないといけないですよね。どうして、魔族を投入したのですか?」

造物主「我が人間に望んでいたことは、先も言ったが、この世界の自然を守ることだ。しかし科学技術の発展によって人間たちは自然を破壊し、さらに魔法という現象を発見することで、精霊たちが急速に疲弊していったのだ」

造物主「やがて精霊たちの憤懣は限界を超えてしまい、我は世界を滅びに導く人間たちを滅ぼす決断をしたのだ。いわば魔族の投入は、科学と魔法の融合による新技術を獲得した人間に対して、この世界が起こした報復だったと言えるだろう」


630
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/22(金) 22:32:55 ID:46PFJEYg
魔法使い「もしそれが正しいなら、私たちが精霊魔術を使えるのはおかしくないですか? 精霊たちは人間に魔法を使わせたくないはずです」

造物主「精霊たちを最も疲弊させたのは、科学技術による自然破壊だ。その科学技術が衰退し、生き延びた人間は自然と共生していくことを選んだ。それにより、四大精霊たちは手を貸すようになったのだ」

勇者「そして今が、三度目の滅びの時なのか」

造物主「そういうことだ。しかし、人間はノアとその息子たちへの祝福を満たしつつ、言語を共通化することに成功した。さらに、お前たちは試練を乗り越えた。思い返せば、やはり人間は成長しているのかもしれないな」

魔法使い「そうです。人は努力し、成長しています! より良い世界を作るために、みんなで助け合っています!」

造物主「よし、分かった。お前たちにチャンスをやろう。ハノイの塔が完成するより早く、この世界の終焉を止めて見せよ!」

勇者「この世界の終焉を止める?」

造物主「あと数時間もすれば、極北に集めた光が極南へと撃ち放たれ、この世界は終焉を迎えるであろう。それによってすべての生命は絶え、新たな世界が創造される」

僧侶「そんな……。本当に世界を壊して、創りかえるだなんて――」

造物主「それが嫌なら、お前たちは制限時間内にパズルを解き、未来を獲得せよ」


631
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/22(金) 23:54:45 ID:46PFJEYg
魔法使い「それで、私たちが解くパズルは何ですか」

造物主「すでに目の前にあるではないか。この塔は遥か昔に建設されたバベルの塔を、我が移転して改修したものだ」

僧侶「まさか、この建造物をどのように壊すかという事ですか?」

造物主「そうだ。この塔には二つの役割がある」

魔法使い「二つの役割?」

造物主「一つは魔術で塔内に光を取り込み、収束させた地磁気に乗せて極北まで飛ばすこと。そしてもう一つは、その光を再び誘導して世界を貫くことだ」

僧侶「つまり、この塔は内部構造を推測して解くパズルなんですね」

魔法使い「内部構造推測系か……」

造物主「では、このバベルの塔を破壊して、過去の罪を清算せよ!」


632
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/23(土) 22:08:49 ID:GtdB5uHw
勇者「魔法使いちゃん、ハノイの塔の残り時間は?」

魔法使い「多分、5時間くらいだと思います」

勇者「あと5時間か……。土精霊で砂に変えるってのは、どうだろう?」

魔法使い「少し穴が開いたくらいでは、びくともしないと思いますよ」

勇者「中がどうなっているのか見ることで、何かが分かるかもしれない」

魔法使い「そうですね。土精霊召喚、砂になれっ!」


私は外壁の一部を砂に変えた。
人が入れるくらいの穴が開き、そこに砂の山が出来る。
外壁はレンガを積み上げて作られていて、厚みは50センチ程度だ。
その中には鉄骨が通っていて、壁を壊しても倒すことは出来そうにない。


勇者「天まで届く建造物なだけあって、簡単には破壊出来そうにないな。それに、塔の内部が完全な闇だとは思わなかったよ」

魔法使い「そうですね」


633
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/23(土) 22:40:54 ID:GtdB5uHw
魔法使い「ところで、僧侶さんならこの鉄骨を壊せるんじゃないですか」

僧侶「さすがに、その一本だけを壊しても意味がないと思うんだけど。それにこれは鉄骨じゃなくて、未知の素材で出来ているみたいなの」

勇者「つまり、魔法で壊せないということか」

僧侶「すみません」

勇者「俺も金属の柱は斬れないし、さっそく手詰まりだな……」

僧侶「とりあえず、この塔の骨組みがどうなっているのか調べましょう」

勇者「骨組みを?」

僧侶「はい。内部構造推測系のパズルは、内部構造を理解しなければ解けませんから」

魔法使い「外壁があるのに、そんなことが出来るのですか」

僧侶「内側にある物質を分析することは、解毒魔法の基本だしね。それでは、ぐるっと一周してきます」

勇者「分かった。気をつけて行ってきてね」

僧侶「はいっ」トテトテ


634
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/23(土) 22:57:16 ID:GtdB5uHw
魔法使い「あっ、そうだ。神様に質問があります」

造物主「バベルの塔の壊し方なら教えんぞ」

魔法使い「いえ、それは構いません。私が聞きたいのは、『なぜハノイの塔を作ったのか?』ということです。終末を前提として世界を創造したのは、どうしてなんですか」

造物主「愚問だな。パズルは解くために創造するものであろう。人間も誕生すれば、明確な最期がある。この世界とて同じことだ」

魔法使い「それはそうかもしれませんが、何だか腑に落ちないのです」

造物主「腑に落ちないだと?」

魔法使い「バベルの塔を破壊すれば、世界の終末を止めることが出来るのですよね。だけど終末を止めると、ハノイの塔が完成しないという事になります」

造物主「それがどうした」

魔法使い「ハノイの塔が完成しないならば、『パズルは解くために創造するものだ』という発言が誤っていることになります」


635
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/23(土) 23:33:54 ID:GtdB5uHw
勇者「魔法使いちゃん、それはどういうことなんだ?」

魔法使い「つまり、この二つの塔はジレンマなのです」

勇者「ジレンマ?」

魔法使い「そうです。どちらか一方を解くと、もう一方のパズルを完成させることが出来ませんよね。それでは、パズルとして成立しません」

勇者「言われてみれば、確かに……」

魔法使い「そのジレンマを解消するには、ハノイの塔から終末時計としての役割をなくせばいいのです」

造物主「なるほど、このような形で切り崩しに来たか。実に面白い娘だ」

魔法使い「ハノイの塔に終末時計としての役割がなければ、パズルは成立します。それに、問題はこれだけではありません」

造物主「まだ何かあるのか?」

魔法使い「15パズルが示していたドーナツ世界と、バベルの塔が導く世界の終末も矛盾しているんです」


636
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 00:15:28 ID:XA4gwgFg
造物主「矛盾しているだと?」

魔法使い「ドーナツ世界は形状を歪めることを示唆しているのであって、世界を貫くことを示唆するものではありません。これらのパズルは、同時に成立しないのです」

造物主「15パズルなどは、すべて女神がヒントとしてばら撒いたものだ。したがって、実態と違っていたとしても矛盾は発生しない」

魔法使い「ただのヒント?!」

勇者「なるほど。だから、発見しやすかったのか」


それは思いも寄らない答えだった。
神の遺産に魔力が込められていたのは、パズルを発見させるためだったのだ。
この世界で起きていることを、何らかの形で知らせるために――。


造物主「ジレンマだろうが矛盾だろうが、バベルの塔を破壊しなければこの世界は終焉を迎える。娘よ、それが真実なのだ」

魔法使い「……分かりました」


私は溜息を吐いて、バベルの塔を見上げた。
それは来たる終末に向けて、キラキラと光を放出し続けている。
残された時間で、どうすれば壊すことが出来るのだろうか。
そう考えていると、勇者さまが声を掛けてきた。


637
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 00:16:28 ID:XA4gwgFg
勇者「なあ、魔法使いちゃん。人が入れる穴を開けた訳だし、ちょっと中に入ってみようか」

魔法使い「どうせ真っ暗だし、何も見えないと思いますよ」


私はそう言いつつ、ふと疑問に思った。
塔の中に光を集めているはずなのに、どうして真っ暗なのだろう。


勇者「ぐああぁぁっっ!!」

魔法使い「?! 勇者さまっ!」


塔の中に入ろうとしていた勇者さまが、苦悶の表情を浮かべて声を上げた。
私は慌てて駆け寄り、身体構造の確認を行う。
すると勇者さまは、右手と右腕の前腕部に、真皮深層まで達する重度の熱傷を起こしていた。
もはや、回復魔法では治せないレベルだ。
それなのに、勇者さまが着ているウエアの袖は焼けていない。


640
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 00:17:28 ID:XA4gwgFg
魔法使い「治癒魔法っ!」

勇者「魔法使いちゃん、ありがとう」

魔法使い「皮膚なら治癒魔法を使えるので……。それより、どういうことなんですか?!」

勇者「中に入ろうと手を伸ばした瞬間、激痛に襲われたんだ」

魔法使い「そうか……そういうことなんだ」


バベルの塔の中が真っ暗なのは、集められた光が外に漏れていないからだ。
それくらい、この塔には光を閉じ込める力があるのだ。
そして、太陽の日差しが強いと日焼けを起こすのは常識だ。
塔の中に入ろうとすればどうなるか、もはや考えるまでもない。


勇者「つまり、塔の中に入って調べることは出来ないのか」

魔法使い「そうです。覗き込まなくて良かったですね」


そう言うと、勇者さまは苦笑した。
有効な手段が思い浮かばないまま、時間だけが過ぎていく。
私は、僧侶さんを待つことしか出来ない自分がもどかしく思えた。


641
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 00:23:05 ID:XA4gwgFg
僧侶「勇者さま、ただいま戻りました」

勇者「僧侶さん、おかえり」

魔法使い「お帰りなさい。もう待ちくたびれましたよ」


ようやく僧侶さんが戻ってきて、私はハノイの塔をちらりと確認した。
それに釣られて、僧侶さんも確認する。
完成まで残り13枚。
終末まで、あと約2時間だ。


僧侶「もうこんな時間なんだ」

勇者「疲れているところ悪いけど、内部構造がどうなっていたか教えてくれないか」

僧侶「はい。まず外観ですけど、この建造物は円筒形をしていました。そして、中に入るための扉はありません」

魔法使い「内部構造推測系のパズルなら、入り口がないのは想定内ですね」

僧侶「そうだね。骨組みは銅と銀の合金で出来た柱が2本並んでいて、それ以外は未知の素材の柱が等間隔に立っていました。そして合金の柱を始点と終点にして、C字環が作られていました」


642
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 00:25:05 ID:XA4gwgFg
勇者「銅と銀の合金?」

僧侶「はい、そうです。ちなみにC字環は純銀で出来ていて、外側が未知の素材で覆われていました。二層構造になっていると言えば、分かりやすいと思います」

勇者「合金の次は、二層構造の純銀か……」

魔法使い「恐らく合金やC字環がパズルとして必要な要素で、未知の素材が魔道具として必要な要素なのかもしれないですね」

僧侶「そうだね、私もそう思う」

勇者「骨組みは分かったけど、塔の中には何があるの?」

僧侶「さすがに、そこまでは……。あまりにも巨大すぎて、低層の骨組み以外のことは分かりません」

勇者「そっか、ありがとう。とりあえず、C字環の切れ目に行ってみよう。そこが攻略の糸口だと思う」

僧侶「そうですね」


643
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 19:41:44 ID:XA4gwgFg
魔法使い「僧侶さんは錬金術が使えますよね」

僧侶「基本的なことなら使えるけど、それがどうかしたの?」

魔法使い「どうして、鉄骨じゃなくて銀なのかなと思って……。合金にも銀が使われているし、必ず理由があると思うんです」


C字環の切れ目に向かう道すがら、私は僧侶さんに話しかけた。
バベルの塔は光を集める魔道具でもあるので、未知の素材を使っていることは理解できる。
しかし、敢えて純銀を使っている理由が分からない。


僧侶「パズルの仕掛けとして、鉄骨よりも銀のほうが優れているからじゃないかな」

魔法使い「それって、どういう風にですか?」

僧侶「銀が鉄よりも優れている部分は、例えば電気や熱を通しやすいことかな。すべての金属の中で、もっとも伝導率が大きいのよ」

魔法使い「へえ~」

僧侶「そして建築材料として劣っている部分は、鉄骨よりも柔らかいこと。だから合金や二層構造にして、強度を補っているのだと思う」

魔法使い「合金や二層構造にも、何か意味があるんですかねえ。強度を補うことが目的なら、使い分ける必要はないと思うんです」

僧侶「パズルと魔道具では役割が違うから、強度を補う方法も違うんじゃないの?」

魔法使い「そうかもしれないですね」


644
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 19:51:44 ID:XA4gwgFg
・・・
・・・・・・
僧侶「着きました。ここがC字環の切れ目になっている部分です」

勇者「魔法使いちゃん、大胆に穴を開けて確かめてくれないかな」

魔法使い「はい、土精霊召喚!」


私は先ほどと同じように、外壁を砂に変えた。
大きな穴が開き、崩れ落ちた砂が山になる。
そしてその砂を風精霊で吹き飛ばすと、目の前に5メートルほどの間隔で立っている銀色の柱が現れて、見上げるほどの高さの場所にC字環の先端が繋がっていることが確認できた。


勇者「本当に切れ目になっているんだ」

魔法使い「そうみたいですね」

勇者「柱が上まで続いているから、C字環も等間隔で並んでいそうだな。問題はどうやって破壊するかだけど――」


645
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 20:13:04 ID:XA4gwgFg
魔法使い「あっ!!」

勇者「どうしたの?」

魔法使い「勇者さま。電撃魔法は、無理やり電流を流す魔法ですよねえ!」

勇者「そうだけど、それがどうかしたの?」

魔法使い「南の都の図書館で物理学の研究論文を読んだのですが、この状況ではフレミングの左手の法則が使えるんです!」


なぜ、鉄ではなくて銀が使われているのか。
それは、すべての金属の中で最も伝導率が大きいからだ。
そして女神の加護を持つ者は、電磁気力を操る魔法を使うことが出来る。
この符合が偶然なはずがない。


646
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 20:29:25 ID:XA4gwgFg
勇者「魔法使いちゃん。フレミングの左手を使うって、どういう意味?」

魔法使い「この塔の内部は光を極北に飛ばすために、磁界の向きが真上になっていますよね。そして水平方向には、C字環が設置されています。その状態で電流を流すと、C字環に大きな力が働くのです」

勇者「へえ、そうなんだ。それでバベルの塔を壊せるの?」

魔法使い「やってみないと分かりませんけど、試す価値はあると思います」


私はそう言うと、左手の指を立てた。
人差し指と中指を磁界や電流の向きに合わせ、親指の方向を確認する。
これが外側に向いていたとき、バベルの塔を壊せるはずだ。


魔法使い「えっと……。C字環に反時計回りの電流を流せば、C字環が外壁を壊して崩落するはずです」

勇者「そうなんだ。おおっ、おおぉぉっ!」

魔法使い「つまり、電撃魔法でバベルの塔を破壊できます!」


647
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 20:54:02 ID:XA4gwgFg
僧侶「でも、問題は勇者さまの魔力だよね。この塔を破壊しようと思えば、それだけ大きな魔力が必要になるはずだし」

勇者「そうだよな……」

魔法使い「私のネックレスを使えば、魔力を補えます」

僧侶「だったら、私の装身具も使ってもらいましょう。蘇生魔法を宿したものが残っているので、生体エネルギーの強化に使ってください」


勇者さまはエメラルドのネックレスと、蘇生魔法の装身具を受け取った。
この二つがあれば、電撃魔法の威力も倍増するはずだ。


勇者「じゃあ、この魔道具を使って全力で放てば良いのかな」

魔法使い「そうです。勇者さま、頑張ってください!」

僧侶「勇者さま……。私と勇者さまの幸せのために、そして魔法使いちゃんの未来のためにお願いします」

勇者「二人の気持ち、受け取ったよ。電撃魔法はこっちの方向でいいんだよな」

魔法使い「はいっ!」


648
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 22:50:55 ID:XA4gwgFg
勇者「はあぁぁぁっ……、やってやる!」


蘇生魔法の装身具が崩れ、エメラルドが緑色に淡く輝いた。
これでバベルの塔を壊すことが出来なければ、世界は確実に終焉を迎える。
私は祈る気持ちで、勇者さまを見詰めた。


勇者「電撃魔法っ!!」


勇者さまが構えている剣の刀身が光を纏い、小規模な放電を繰り返す。
そして激しい爆音とともに、電撃が合金の柱へと放たれた。

ドゴゴゴオオォォンッッ!!

激しい電流が合金からC字環へと伝導し、塔全体を駆け巡る。
その瞬間、骨組みが呻き声をあげた。
C字環に強大な力が働いて、外れた建材が次々と押し飛ばされる。
そのせいで外壁が崩れ、崩落の連鎖反応が始まった。


649
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 23:15:36 ID:XA4gwgFg
私たちの眼前を、C字環だった物が飛んでいく。
そして、天高くから無数の瓦礫が降ってきた。


魔法使い「土精霊召喚!!」


降り注ぐ外壁と地面を変形させて、ドーム状の巨大な傘を作った。
その上に、次々と瓦礫が降り注ぐ。
それは一向にやむ気配がない。
このまま瓦礫が降り積もれば、その重みに耐えられなくなるだろう。
だから砂に分解して、塔の中心へと強風で吹き飛ばすことにした。


魔法使い「風精霊召喚、疾風魔法っ!」


猛烈な風が吹き荒れ、砂が舞い上げられる。
そんな中、一本の建材が岩石の傘を貫いた。


650
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 23:20:58 ID:XA4gwgFg
魔法使い「きゃあっ!!」


ドスッドスッ
まるで雨のように、何本もの建材が降ってきた。
C字環が吹き飛んだことで、固定されていた柱が外れたのだ。
傘に次々と穴が開き、その修復でさらに魔力を消費する。

どうしよう……。
こんなものが直撃すると、一溜まりもない。
それに、もう魔力の限界だ。


僧侶「魔法使いちゃん、一緒に頑張りましょ! 防御魔法!」


僧侶さんが防御魔法で傘を強化してくれた。
降り注ぐ合金の柱を受け止め、周囲に金属音が響き渡る。
それでも降り積もる瓦礫の重さには耐え切れず、ひびが入り始めた。


651
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 23:31:13 ID:XA4gwgFg
魔法使い「だめっ、もう魔力が足りない……」

勇者「魔法使いちゃん、これを!」


貸したままにしていたネックレスを、首に掛けてもらった。
これで魔力を補うことが出来る。


魔法使い「勇者さま、ありがとうございます。土精霊!」


土精霊の使役を強め、傘の補修を行う。
それに呼応して、エメラルドが淡く輝いて魔力を放つ。
しかし限界を超えたせいか、エメラルドが割れてしまった。


魔法使い「ああっ、勇者さまから貰ったものなのに――」

勇者「魔法使いちゃん! 今はそんなことより、ドームが崩落しないように補強を! それと、念のために退路の確保をしてくれ」


652
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 23:39:38 ID:XA4gwgFg
魔法使い「ええっ、そんな余力は!」

勇者「まだ装身具を使っていないだろ。余力は残されているはずだ。僧侶さん、液体に防御魔法を使ったらどうなるんだ?」

僧侶「液体にっ?! 試したことはないですけど、結合力を高めると固体になるはずです」

勇者「そうか。ならば大丈夫だな」

僧侶「まさか、火炎魔法で合金を溶かすつもりですか?!」

勇者「鉄扉を溶かせるんだから、これも溶かせるはずだろ。魔法使いちゃん、とにかく崩落だけは防ぐんだ!」


その言葉に、私は息を呑んだ。
このまま何も出来なければ、みんな死んでしまう。
だから勇者さまは、降り積もった柱で強度を高める方法を考えてくれた。
しかし、その方法は火炎魔法の膨大な熱量が度外視されている。

こんなとき、あの天使さんならばどのように打開するのだろうか。
私はそう思い、天使の羽根を取り出して胸元に抱き寄せた。
気持ちが落ち着いて、冷静な思考力を取り戻していく。

今の私たちに出来ること。
そして、常識に縛られない魔法の使い方をすること。
すべての要素を考慮して、私たちは絶対に生き残ってみせる。


653
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 23:47:00 ID:XA4gwgFg
勇者「魔法使いちゃん、早くっ!」

魔法使い「僧侶さん! たしか水と風の精霊魔法を使えますよね」

僧侶「な……なに? 基本的なことしか出来ないわよ」

魔法使い「それで十分です。熱伝達を防ぐために、壁際を真空状態にしてくれませんか。私だけでは、そこまで手が回りません」

僧侶「わ、分かった。それくらいなら出来ると思う」

魔法使い「では、お願いします!!」

僧侶「水精霊、風精霊召喚!」


僧侶さんが精霊たちを召喚し、壁際の水蒸気と空気を取り除く。
それを確認して、私は火精霊と風精霊の装身具を解放した。
青い炎を傘の上で具現化させて、その膨大な熱量で降り積もった柱を溶かしていく。
そして、溶けた合金が傘の上を流れて包み込んだ。


僧侶「勇者さま、魔法使いちゃんの魔法で溶けています!」

勇者「よしっ。僧侶さん、頼んだぞっ!」

僧侶「はい、防御魔法っ!」 


防御魔法で溶けた合金が固まり、傘の強度が格段に増した。
これで降り注ぐ瓦礫を凌ぐことが出来る。
あとは退路を確保するだけだ。


654
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 23:47:00 ID:XA4gwgFg
魔法使い「凍結魔法っ!!」


私は水精霊の装身具を解放し、凍結魔法を発動させた。
大気中の水分が凍結し、巨大な氷塊が確保していた退路を固く閉ざす。
こうしておけば、瓦礫は氷塊の上に積もることになる。


魔法使い「お願い! 早く終わって!!」


僧侶さんも私も、すべての魔道具と装身具を使い切った。
これが上手く行かなければ、もう私たちには余力が残されていない。

それでも、バベルの塔の崩落は終わらない。
土精霊の力が弱まり、風が吹き荒れる音も弱くなってきた。
それと同時、降り注ぐ瓦礫の音が大きくなる。
そして、その衝撃で傘の一部が崩れ始めた。


655
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 23:52:37 ID:XA4gwgFg
僧侶「魔法使いちゃん、もう少し! もう少しだからっ!!」

魔法使い「はいっ! 僧侶さんも……頑張って…………!」


僧侶さんは精神感応やバベルの塔の調査で魔力を消耗していて、すでに精霊魔法の維持が困難になっている。
そのせいで断熱効果が弱くなり、防御魔法で固めた合金の熱が伝導して熱さを感じるようになってきた。
このままでは私たちが蒸し焼きになってしまうだけではなくて、退路を確保している氷塊も溶けて崩落してしまう。

絶対……ぜったいに生き延びるんだ!
私たちは自然に手を取り合って輪になり、お互いに励ましあいながら最後の力を振り絞った。

それから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
気が付くと辺りは静まり返り、すべての音が聞こえなくなっていた。


656
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/24(日) 23:58:57 ID:XA4gwgFg
魔法使い「音がやんだ?」

勇者「どうやら、終わったみたいだな」

僧侶「やった……やりましたね!」

魔法使い「勇者さま、バベルの塔を破壊しましたっ!!」

勇者「よしっ!! 二人とも、よく頑張ったね」

僧侶・魔法使い「はいっ!!」

勇者「じゃあ、ここから脱出しよう」


勇者さまはそう言うと、剣に水精霊の力を宿らせて氷塊に穴を開けた。
私にネックレスを返すまで装備していたので、勇者さまには魔力が残されているのだ。
だから、私はあえて退路を塞ぐことを思いついた。

みんなで手を取り合えば、出来ないことは何もない。
一人では不可能なことも、信頼できる仲間がいれば成し遂げることが出来るんだ!

私は氷のトンネルを抜けると、後ろを振り返って空を見上げた。
バベルの塔があった場所には砂と瓦礫が積み上がり、世界は夕焼けのような光に包まれていた――。


657
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 22:03:54 ID:TiILGySs
~極北の地・光の結界~
光の結界の調査を始めてから、およそ10時間が過ぎた。
相変わらず進展がなく、内部の調査は遅々として進まない。
すると突然、光が揺らめき始めた。


調査団A「お、おいっ。結界の様子がおかしいぞ」

魔道師D「ひ、光が空に昇っていく」

調査団B「いよいよ、地に放たれるということか……」

魔道師C「いや、違う。エネルギーが拡散しているんだ!」


ピカッッ……
ドオォォォン!!


魔道師D「伏せろぉぉっ!!」


658
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 22:05:17 ID:TiILGySs
・・・
・・・・・・
調査団B「いててて、何が起こったんだ」

魔道師D「全体回復魔法!」

調査団A「光が……、結界が消えたぞ」


つい先ほどまで展開されていた結界は消失し、辺りには朝焼けのような空が広がっていた。
今日は暦に寄れば、極夜から白夜になる春分の日だ。
最悪の場合、次のステージに進んだとも考えられる。


魔道師C「もしかして、極南で勇者たちが魔王を倒したのか?」

調査団A「そうだと良いがな。内部調査を行い、城に戻ろう」

BCD「了解っ!」


659
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 22:18:33 ID:TiILGySs
~極南の地~
――「勇者よ、お見事です」


空を見上げていると、おっとりした女性の声が聞こえた。
私は慌てて振り返ると、そこには美しい翼人の女性が立っていた。


勇者「あなたは?」

女神「私は女神です。仲間と力を合わせ、よくぞ主が定めし終焉を打ち破ってくれました。とても感謝しています」

勇者「……はい。女神さまよりそのような言葉をいただけるとは、身に余る光栄です」

女神「あなたたち二人も、よく頑張ってくれました。改めて、人間の強さを知ることが出来ました。ありがとうございます」


女神さまはそう言うと、笑顔を浮かべた。
それは厳粛であると同時に、慈愛に満ちた表情だった。


660
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 22:24:33 ID:TiILGySs
造物主「女神よ、人間はお前の言う通り、愚かなだけの生物ではなかった。力を合わせ、常に成長している」

女神「主よ、やっと分かってくれましたね」

造物主「そうだな。このような者がいれば、人間は世界の秩序を保ち、前に進むことが出来るだろう」

女神「それでは、終焉を破棄されるのですね」

造物主「天使たちにそう伝令しろ。この者たちは、我の試練を乗り越えたのだからな」

勇者「僧侶さん、魔法使いちゃん! 俺たちは世界を救ったんだ!!」

僧侶「ついにやりましたね!」


勇者さまと僧侶さんが歓喜しているのとは対照的に、私は寡黙に思案していた。
バベルの塔を破壊したことで、世界の終末を止めることは出来たかもしれない。
神様も終焉を破棄することを承認してくれた。
しかし、ハノイの塔はどうなるのだろうか――。


661
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 22:35:30 ID:TiILGySs
魔法使い「あの、まだ終わっていません」

勇者「……えっ?」

造物主「娘よ、まだ終わっていないとはどういうことだ」

魔法使い「ハノイの塔を完成させなければ、世界の終末は止まりません。ジレンマが解消した今こそ、解かないといけないと思うんです」

造物主「それはもう良い。終焉への刻は止まったのだ」

魔法使い「いいえ、神様はおっしゃいました」

『パズルは解くために創造するものだ』、と――。

魔法使い「だから、解くことが出来ないパズルを存在させるわけにはいきません」


662
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 22:39:10 ID:TiILGySs
勇者「魔法使いちゃん、ハノイの塔は終末時計なんだろ。それをもう一度動かしたら、どんな危険があるか分からないじゃないか」

魔法使い「だからこそ、ハノイの塔を完成させなければならないのです。もし神様が再び動かしてしまったら、次は残り時間が僅かしかありません。そのとき、人々はどうしたら良いのですか」

勇者「それは……」

僧侶「魔法使いちゃんの言い分はもっともだけど、どうやってハノイの塔を解くつもりなの?」

魔法使い「それなんですけど、今は神様が自らの全能性を否定してしまった状態なんです。解かれることがないパズルであるハノイの塔には、本当に終末時計としての役割があったのでしょうか」

僧侶「ああ、なるほどね。神様がハノイの塔を止めて終焉を破棄した今だからこそ、敢えて動かすことが出来るってわけね」

魔法使い「そういうことです」

僧侶「それじゃあ、ハノイの塔を解いてあげましょうか。約5845億年もの歳月を重ねて、ようやく完成が見えているわけだしね」

魔法使い「はいっ!」

勇者「二人に考えがあるのなら、今ここで完成させるべきなのかもしれないな。この世界を本当の意味で救うために――」


663
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 22:55:36 ID:TiILGySs
造物主「それでは娘よ、本当にハノイの塔を動かすというのだな」

魔法使い「はい。ハノイの塔を解くことが出来るのは、今だけだと思うんです」

造物主「面白い、そこまで言うのならば解いてみせよ。ハノイの塔が完成したとき、世界は砕け終焉を迎えることになるであろう」

女神「ちょ、ちょっと! そんなことを勝手に決めないでください!」

造物主「女神よ、お前はお前が選んだ者を信じることが出来ぬのか?」

女神「それは……」

造物主「ならば、問題なかろう」

女神「……承知いたしました」

造物主「では、始めようか」


664
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 22:58:36 ID:TiILGySs
魔法使い「とりあえず、残り時間を調べたいです。ハノイの塔を瞬間移動させてくれませんか」

造物主「分かった、ハノイの塔をここに現出させよう」


神様がそう言って手をかざすと、結界とともにハノイの塔が現れた。
それと同時に止まっていた円盤が動き出し、再び終末への時を刻んでいく。
パズルの完成まで、残り12枚だ。


魔法使い「ありがとうございます」

魔法使い「それでは神様にお聞きしますけど、ハノイの塔が完成すれば世界が終末を迎えるんですよねえ」

造物主「そうだ、それがそのパズルの特性だ」

魔法使い「ならば、それを私たちに証明してほしいです」


665
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 23:08:52 ID:TiILGySs
造物主「証明してほしいだと?」

魔法使い「……はい。パズルが完成しただけで世界が終末を迎えてしまうだなんて、常識では考えられません。ハノイの塔に終末時計としての役割が存在すると言っているのは、神様だけなんです」

造物主「それはどういうことだ」

魔法使い「俗っぽい例えで申し訳ないのですけど、早起きをするつもりがないのならば、目覚まし時計をセットする必要はありませんよね。終末時計であるハノイの塔も、それと同じなんです」

造物主「つまり、ハノイの塔が完成しても終焉を迎えることはないと考えておるのだな。いかに自分が浅はかだったのか、すぐにその身をもって知ることになるだろう」

魔法使い「生憎ですけど、それではハノイの塔が終末時計であることを証明したことにはなりません。なぜなら、この世界が滅びてしまうと私たちも同時に死んでしまうからです。もしかすると局地的な災害が起きただけかもしれないし、私は世界が滅びたとは信じません」

造物主「ほう、面白いことを言うではないか」

造物主「だが、娘よ。人間たち、特に魔道師の間では、これが終末時計として畏怖の対象になっているはずだ。それなのに終末時計ではないと論じるのであれば、お前たちにこそ、それを証明する責任があるはずだ。違うか?」

魔法使い「そう……ですね」


666
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 23:13:10 ID:TiILGySs
造物主「それで、お前はどうやって証明するつもりだ」

魔法使い「もしよろしければ、プラトンの立体を出してくれませんか。五つで世界になるのですよね?」

造物主「確かにプラトンの立体は世界そのものだ。必要だというならば、用意してやろう」


その言葉と同時、プラトンの立体が現れた。
正四面体や正六面体など、五種類の正多面体が神様の手元で浮遊している。
これらがあれば、この世界を救うことが出来るはずだ。


魔法使い「ありがとうございます」

魔法使い「それでは、ハノイの塔が完成することで世界が終末を迎えるというならば、その正多面体を壊してみせてください。神様が現れたとき、世界の理を統べることが出来るとおっしゃっていましたよね」

造物主「それがお前の答えか」

魔法使い「はい。それ以外にハノイの塔を解く方法はありません!」

造物主「つまり、この世界が終焉を迎える運命から免れるために、別の世界を犠牲にするというわけだな」


私たちの世界が助かるために、別の世界を犠牲にする。
その言葉に少したじろいだ。
しかし壊れるのはただの正多面体であって、本物の世界ではない。


魔法使い「命は命で繋がっています。その正多面体が犠牲だというならば、私はそれを無価値なものにするつもりはありません。絶対にこの世界を価値あるものにしてみせます!」

造物主「その言葉に偽りはないな。それでは証明してみせよう。我が世界の理を統べることが出来ることを――」


667
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 23:24:56 ID:TiILGySs
ハノイの塔の結界内にプラトンの立体が配置された。
火土風水と宇宙。
仮想の世界に囲まれ、ハノイの塔の円盤が時を刻む。

カタカタカタ……。

一枚。
そして、また一枚。
終末へのカウントが刻まれていく。


668
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/25(月) 23:42:55 ID:TiILGySs
そして一時間後、
ハノイの塔が完成して、プラトンの立体が砕け散った。

それと同時に、膨大な魔力が解放された。
全身が総毛立つほどの魔力と生体エネルギーが放出され、結界の中で消えていく。
その事の重大さに、私は愕然とした。

この立体は、ただのイミテーションではなかったの?
本当にこれが世界だったの?!

たった今、
私は世界を滅ぼしたのだ――。


669
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/26(火) 18:10:56 ID:daNnlRAU
造物主「罪を赦された娘よ、よくやり遂げた。ハノイの塔を動かすという傲慢な選択も、転じれば勇気ある選択か」

魔法使い「あの……。さっきの立体は、まさか本当に――」


声が震える。
あの世界にはどれだけの人間が住んでいて、私はどれ程の生命を奪ってしまったのだろうか。
いや、生命だけではない。
私が壊したのは、『世界そのもの』なのだ。
何兆もの生命を殺し、空に輝く星々を壊し、世界の理のすべてを破壊してしまったのだ。


造物主「娘よ、我がイミテーションだと言えば安心するのか? お前はこの世界の終焉を免れるために、世界を一つ滅ぼしたのだ」

魔法使い「そんな……。うあああぁぁぁっっ!!」

僧侶「魔法使いちゃん!」


私は大声で泣き喚き、地面にうずくまった。
どうして、私はハノイの塔を動かしてしまったの?!
こんなことになると知っていたら、絶対に動かさなかったのに――。


670
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/26(火) 18:16:20 ID:daNnlRAU
・・・
・・・・・・
天使『どんな理由があろうとも、命を奪うことは未来を奪うことだ。魔法使いちゃん、ただの村娘に過ぎないキミに、その犠牲を背負う覚悟があるのかい?』

魔法使い『私は無益な殺生で命を奪うことは、絶対にするべきではないと思います。だけど身を守るために、やむを得ない場合もあることを知りました。私は奪った命を無価値なものにするつもりはありません!』

天使『そうか、それがキミの答えなんだね』

魔法使い『はいっ!』


私は天使さんに言われた言葉を思い出した。
そのときの私は、まだ分かっていなかったのだ。
私が背負う犠牲の重さが、世界そのものだったなんて。


671
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/26(火) 18:16:20 ID:daNnlRAU
造物主「お前は誓ったはずだ。この世界を価値あるものにする、と」

魔法使い「ぐすっ、ううっ……」

造物主「ならば、その覚悟と決意を我に魅せてくれないか。一つの世界を犠牲にしてまで得た、お前たちの未来を」

女神「貴女は一人ではありません。一緒に背負ってくれる仲間がいるじゃないですか」

僧侶「魔法使いちゃん、大丈夫だよ」


僧侶さんはそれだけを言い、私を優しく抱き締めた。
頭を撫でられながら、柔らかい胸に包み込まれる。
それはとても心地よい温もりだった。


魔法使い「……僧侶さん。私はハノイの塔を完成させて、世界を一つ滅ぼしてしまいました。こんなことになると知っていたら、絶対に動かさなかったのに」

僧侶「……うん」

魔法使い「でも、こうするしかなかったんです。この世界を本当に救うには、動かすしかなかったんです」

僧侶「うん、分かってる」

魔法使い「だから私は、より良い未来を築くために頑張りたいです。僧侶さん、いつもありがとう」

僧侶「魔法使いちゃん。これからも、私たちと一緒に頑張ろうね」

魔法使い「……はいっ」


672
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/26(火) 18:40:28 ID:daNnlRAU
造物主「どうやら、覚悟が決まったようだな」

魔法使い「……はい。私はこのことを受け止めて、前に進んで行こうと思います。そしてこの世界が素晴らしいものだということを、神様や女神さまに証明したいです」

造物主「それでは、我は再び静観しよう。お前たち人間が導き出す、この世界の答え。見届けさせてもらうぞ」


その言葉と同時、一帯が光に包まれた。
その光が消えたときには、神様はいなくなっていた。


勇者「お疲れさま。よくやったよ、二人とも」

僧侶「終わりましたね。もうヘトヘトです」

魔法使い「……勇者さま。今まで、ありがとうございました」

勇者「今日のことは、一人で背負う必要はないからね。みんなで協力して、より良い未来を築いていこう」

魔法使い「はいっ、これからもよろしくお願いします」


673
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/26(火) 18:53:48 ID:daNnlRAU
僧侶「それじゃあ、魔法使いちゃん。帰りに賢者さんのお墓に報告しましょうか」

魔法使い「……そうですね。賢者さんや亡くなった方に報告をしたいです」

女神「そのことについて、私は謝罪しなければなりません。村の方々のみならず、数多くの者が私の加護を受け、犠牲になってしまいました。本当に申し訳ないと思っています」

勇者「それは……」

女神「大天使より、極南の村にて死者を弔ったと報告を受けました。来世では、彼らに祝福があることでしょう。それをもって、謝罪に代えさせてもらいたいと思います」

僧侶「そう……なんですね」

魔法使い「良かったです」


674
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/26(火) 19:26:02 ID:daNnlRAU
女神「それでは、あなたたちが困難を乗り越え、成し遂げてくれたことに心から敬意を表します。その来たる人生に、女神の祝福があることを約束しましょう。正しき道を歩み、前に進みなさい」

勇者「身に余る光栄です、ありがとうございます!」

僧侶「ありがとうございます」

魔法使い「女神さま、私をここまで導いてくれてありがとうございました」

女神「それでは、あなたたちに祝福された未来を――」


温かく優しい光に包まれる。
その光が消えると、女神さまはいなくなっていた。


勇者「俺たちも帰ろうか。魔女さんが待ってるし、報告すべきことが山ほどある」

僧侶「そうですね。帰りましょうか」

魔法使い「……はい」


この世界は、たくさんの犠牲により未来へと繋がることが出来た。
そのことを決して忘れてはいけない。
私は自身が犯した罪を、心に深く刻み込んだ。


675
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/26(火) 19:28:01 ID:daNnlRAU
第10話 おわり

・ハノイの塔

(プラトンの立体)
・キューブパズル

(構造推測系パズル)
・バベルの塔


勇者「ドーナツの世界?!」最終話を読む
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