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勇者「ドーナツの世界?!」 第8話

398 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 22:10:54 ID:4/EyZrwg
第8話 悲しい再会
~南の大地・フィールド~
勇者「そろそろ野営の準備をしようか」

僧侶「そうですね」

勇者「じゃあ、俺は簡易テントを組み立てるから」

魔法使い「では、私は燃えるものを探してきます」


南の街を出発し、一週間が過ぎた。
私は久しぶりの野営生活に少し戸惑ったけれど、すぐに勘を取り戻した。
今では何も言われなくても、自分の役割を理解している。


僧侶「気をつけて探してきてね」

魔法使い「はい」


399
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 22:19:46 ID:4/EyZrwg
私は茂みに入ると、南側の空を眺めた。
今夜も太陽が左側から欠け始めている。
その欠け方は時間を追うごとに深くなっていき、南の都で見たときのように隠されてしまう。
それはさながら、皆既日食のようだ。
しかし日食と違うところは、直線的に欠けていくことである。
つまり、月に隠されているわけではないのだ。

それでは、何が太陽を隠しているのか。
南側の方角にある光を遮るものと言えば、闇の結界しかない。
その闇の結界は、これまでの調査と太陽の欠け方から円柱状になっていることが分かっている。
さらに、日に日に欠けている時間が長くなっている。
それは闇の結界に近付いていることを意味していた。


魔法使い「ここまで来たんだし、頑張らないと!」


私は気合を入れると、枯れ枝を集めて勇者さまの下に戻った。
そして、野草の収穫をして戻ってきた僧侶さんと一緒に食事の準備を手伝った。


400
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 22:46:43 ID:4/EyZrwg
~簡易テント~
魔法使い「――ということは、欲求や感情は脳内物質によって作られているとも言えるんですね」

僧侶「そういうこと。大脳辺縁系が本能や感情と関係している部分なの。それらを理解することで精神感応系の魔法を使えるようになるから、脳の仕組みを覚えることも大切だよ」


食事が終わると、僧侶さんに勉強を教えて貰うことにした。
太陽が欠けているだけなら真っ暗になるわけではないので、じっくりと勉強することが出来る。


魔法使い「睡眠魔法って簡単そうだと思っていたけど、実は高度な魔法だったのですね」

僧侶「そうだよ。だから賢者とは言っても、治癒魔法しか使えない人が多いの」

魔法使い「そうなんだ」

僧侶「とりあえず、魔法使いちゃんは基本的な構造を勉強しましょ。脳の仕組みは、後で良いと思うわよ」


401
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 23:00:15 ID:4/EyZrwg
魔法使い「何だか治癒魔法になった途端、覚えることが増えて難しいです」

僧侶「勉強ばかりで成果が見えない時期だよね」

魔法使い「はい……」

僧侶「でも生体エネルギーの増幅を最初に覚えると、回復魔法を治癒魔法として使えるようになるからモチベーションを保ちやすいわよ。回復魔法の勉強で、皮膚や血管の構造は理解しているでしょ」

魔法使い「あぁ、なるほど。そうします!」

僧侶「ちなみに、身体構造や生体エネルギーの分布を読み取る練習は今もしているの?」

魔法使い「いいえ。もう読めるようになったので、最近はしていないです」

僧侶「そうなんだ。この前は完璧だって言ってたけど、生体エネルギーの分布を最適化するためには読み取れるだけでは出来ないのよ」

魔法使い「そうなんですか?」

僧侶「だって人の身体はいつも新しい細胞が作られていて、常に変化し続けているでしょ。それに、エネルギー代謝の流れを知らないと最適化は出来ないの。人の身体を見ることは勉強したことの復習にもなるから、そのつもりで頑張ってね」

魔法使い「はい、分かりました」


402
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 23:32:05 ID:4/EyZrwg
魔法使い「ところで、僧侶さんは転移魔法、どうですか?」

僧侶「軽い物なら動かせるようになったわよ」

魔法使い「えっ、見たいです!」

僧侶「じゃあ、そのコップを左に動かしてみるね。転移魔法!」


僧侶さんは照れながら、転移魔法を行使した。
すると、その言葉通りに一瞬でコップが移動した。


魔法使い「わぁっ! 本当に動いた!」

僧侶「これくらいなら簡単なんだけど、見えない場所に転移させるのが難しくて」

魔法使い「見えない場所ですか?」

僧侶「移動先に何があるのか、魔力で読み取らないといけないの。もし障害物があった場合、それをどう処理するか問題になるの」

魔法使い「そっか、壁の中にコップは入らないですよね」

僧侶「厳密には空気も障害物なんだけど、気体は固体と違って容易に押しのけられるから――。そのさじ加減が、転移魔法の難しいところでもあるんだけどね」


403
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 23:36:14 ID:4/EyZrwg
魔法使い「転移魔法は高等魔術なのに、もう使えるだなんてすごいです!」

僧侶「私は記憶の仕組みを理解しているから」

魔法使い「それも魔法医学の範囲ですか?」

僧侶「そうだよ。でも記憶力が良くても、転移魔法で転移させない方法は思い付かないよ……」

魔法使い「何だか難しいですね。そもそも、どうして一瞬で移動するんですか」

僧侶「分かりやすく言えば、世界と世界を折り曲げて繋げる感じかな。だまし絵のように世界を柔軟に捉えて、空間を魔力で繋げてしまうの」

魔法使い「じゃあ結局、メビウスの輪やクラインの壷は関係ないんだ。そっちの方が相応しいと思ったけど」

僧侶「それだと表も裏もなくて、元の位置に戻ってきちゃうじゃない」

魔法使い「それもそうですよね」

僧侶「ちょっと待って、元の位置に戻る?! 空間をねじって繋ぐ方法もありかもしれない……。魔法使いちゃん、ありがとう!」

魔法使い「あっ、いえ、どういたしまして」


405
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 20:55:22 ID:MkVY6x/E
僧侶「それじゃあ、私は勇者さまのところに行ってくるから。魔法使いちゃんも程ほどにね」


そう言えば、勇者さまは外で剣術の訓練をすると言っていた。
それはつまり、僧侶さんが来るのを待っているという意味なのだろう。


魔法使い「もしかして、今から夜のデートなんですか?」

僧侶「野営をしていると、ゆっくり話が出来るのは夜しかないしね。任務が一番大切だけど、私は恋人としての時間も充実させたいの//」

魔法使い「僧侶さん、すごく幸せそうでうらやましいです」

僧侶「……ありがとう//」

魔法使い「それじゃあ、もう少し頑張ったら私は寝ることにします」

僧侶「うん、おやすみなさい」


僧侶さんは浮かれた声で言うと、テントの外に出て行った。
二人は好き合っている訳だし、愛し合い交わることの出来る時間を作ってあげたほうが良いのかもしれない。
私は書物を片付けると、早めに寝袋に入ることにした。


409
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 22:01:27 ID:MkVY6x/E
・・・
・・・・・・
魔法使い「う、うぅん……」


眠りについて、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
野営での睡眠は眠りが浅く、私は目が覚めてしまった。


僧侶『そろそろ入れてほしいです//』

僧侶『はうん……ああっ、入ってくる…………あうっ……』

勇者『僧侶さんの中、温かくて気持ちいい』

僧侶『勇者さまぁ……あっ……あぁ、いぃ……』


ふいに、テントの外から僧侶さんの喘ぎ声が聞こえてきた。
どうやら、二人が愛し合っているときに目が覚めてしまったらしい。
この声を聞くと、どうしても気持ちがそわそわしてしまう。

気にしない、気にしない――。
私はそう言い聞かせ、目を瞑った。
すると突然、女性の悲鳴が聞こえてきた。


410
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 22:17:06 ID:MkVY6x/E
『い、いやああぁぁぁぁっ!!』


どこかで聞き覚えのある声。
もしかすると、外で非常事態が起きたのかもしれない。
私は急いで寝袋から出ると、ローブを羽織って外に飛び出した。
すると、勇者さまと僧侶さんが半裸で抱き合い交わっていた。


僧侶「わわっ、魔法使いちゃん?!」アセアセ

魔法使い「きゃあっ// ご、ごめんなさい//」


私は僧侶さんのとてもプライベートな姿を見てしまい、お互いに気まずくなって硬直してしまった。
もちろん、勇者さまと僧侶さんの他に人影はない。
もしかして私、寝ぼけていて僧侶さんの嬌声を勘違いしちゃったのかも……。


魔法使い「あの、急に女性の叫び声が聞こえて目が覚めて……。それで二人が外で愛し合っているだなんて知らなくて、お邪魔しましたっ//」

僧侶「魔法使いちゃん、待って! あの茂みの中で女性が倒れていると思う」

勇者「俺たちも服を着たらすぐに行くから、様子を見てきてくれ」

魔法使い「は、はいっ//」


411
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 22:27:11 ID:MkVY6x/E
二人に頼まれて茂みに向かうと、血塗れの女性が倒れていた。
しかも驚いたことに、その女性は魔女さんだった。


魔法使い「魔女さんっ!」


私は慌てて駆け寄り、怪我の状況を読み取った。
すでに乾いているが、血塗れのローブは激しい戦いがあったことを予感させる。
ところが、魔女さんはどこも怪我をしていなかった。
血塗れになっているのは、返り血を浴びたからのようだ。


僧侶「魔法使いちゃん。お……お待たせ//」

魔法使い「僧侶さん、倒れているのは魔女さんでした。でも、少し様子がおかしいんです」

僧侶「様子がおかしい?」

魔法使い「ローブが血塗れなんですけど、人間の男性の血液なんです」

僧侶「とりあえず、テントの中に運んであげましょ」

魔法使い「はいっ」

勇者「俺は近くにバトマスたちがいないか、少し見回りに行ってくる。深手を負って、倒れているかもしれない」

僧侶「分かりました。気をつけて行って来てくださいね」


412
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 22:43:29 ID:MkVY6x/E
魔女さんの看護をしていると、しばらくして勇者さまが一人で戻ってきた。
小さく首を振り、顔をしかめる。
どうやら、誰もいなかったようだ。

男性の返り血を浴びたローブ。
この先で一体何があったのだろうか――。

それからしばらくして、魔女さんが意識を取り戻した。
きょろきょろと周囲を見回し、小さくつぶやく。


魔女「んっ……ここは…………」

僧侶「ここは私たちが夜営しているテントです」

魔女「!! いやっ、来ないで……」


魔女さんは勇者さまに気が付くと、怯えたように声を震わせた。
そして、身体をすくませる。


僧侶「勇者さま。殿方がいると話しにくいことがあるかもしれません。少し外に出てもらっても良いですか?」

勇者「……分かった」


413
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 23:00:08 ID:MkVY6x/E
魔女「あの……、いつもあんな目に遭わされているの?」


勇者さまが表に出て気持ちが落ち着いたのか、魔女さんはおもむろに口を開いた。
そしてその言葉には、トゲが含まれていた。


僧侶「あんな目って?」

魔女「その、無理やり犯されるって言うか……、そういう最低なことよ!」

僧侶「あ、あぁ……それは誤解ですよ。魔女さんたちと別れた後、私は勇者さまと好き合う関係になったんです//」

魔女「そんなの、女を抱きたいから都合のいいことを言ってるだけでしょ! 性欲の処理に困っているから、やりたくて利用してるだけよ。僧侶ちゃん、騙されてるわよ!」

僧侶「……えっ?」

魔法使い「魔女さん、その言い方は酷いです。確かに勇者さまはエッチなことをするのが好きだけど、そんな事をする人ではありません。今のは僧侶さんにも失礼です!」

魔女「……」


414
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 23:11:13 ID:MkVY6x/E
僧侶「魔女さん、何かあったのですか? 賢者さんや他の方は、どちらにいるのですか?」

魔女「みんな殺した。もう嫌だったの、嫌だったの……」

魔法使い「殺した?!」


ローブが血塗れだったのは、魔女さんが殺したからなのだろうか。
私にはとても信じられない。
そう思って魔女さんを見詰めると、とても悲痛な表情をしていた。


僧侶「魔女さん。どうして、そんなことに……」

魔女「寄せ集めの男女が一緒に旅をするなんて、そんなの無理だったのよ! 毎日脅されて、無理やり犯されて、憎くて憎くて――」

魔法使い「そ、そんな。でも一緒に食事をしたときは、そんなことは一言も……」

魔女「それ、もう一ヶ月も前の話でしょ。あなたたちも変わったんじゃないの? この一ヶ月で――」

僧侶「そうですね。私たちの関係も変わりました」

魔女「そう、人は変わるのよ」


415
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 23:25:01 ID:MkVY6x/E
魔女「ところで、どうして南の大地に魔道師の都があると思う?」

僧侶「それは、白夜や極夜が呪術的な現象だと信じられていたからでしょ」

魔女「もし、それが真実だったとしたらどうする? そして、その呪術的な影響が、僧侶ちゃんの心を惑わせているとは考えられない?」

僧侶「どういう意味ですか」


僧侶さんは不愉快そうに言った。
そして、魔女さんが応じる。


魔女「抑圧されていた心が、呪術で引きずり出されただけなんじゃないの? あなたの愛情なんて、すべて錯覚よ!」

僧侶「いいえ。魔女さんが言うように抑圧されていた心が解放されたのならば、私と勇者さまは本気で愛し合っていることになります。仮に呪術がきっかけだとしても、素敵なことじゃないですか」ニコッ


それは、私にとって衝撃的な言葉だった。
魔道師の都にいたとき、私は呪術的なものを感じていた。
もしかすると、僧侶さんは本当は――。


416
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 23:48:45 ID:MkVY6x/E
僧侶「あの……。では、魔女さんたちも呪術の影響を受けていたということですか?」

魔女「とにかく、私はもう限界だったの!」

僧侶「限界だったって、そんな理由で……」

魔女「だから、二人を殺すしかなかったの。いやっ、もう斬らないで……するっ、何でもしますから…………」

魔法使い「えっ?!」

魔女「うああぁぁっっ、もうやめてよ……、いやっ……いやあぁっ……」

僧侶「沈静魔法!」

魔女「……」スースー


魔女さんは魔法の効果で寝息を立て始めた。
そして僧侶さんは、寝袋を毛布代わりにして魔女さんにかぶせた。


僧侶「今はゆっくり休んでください。魔女さんは何も悪くないですから……」

魔法使い「魔女さん……」


418
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/06(水) 22:49:13 ID:WkdrlSeQ
魔女さんが眠った後、勇者さまをテントに呼び戻した。
そして言葉を選びながら、慎重に事情を説明した。


勇者「そうか、バトマスたちはもう――」

僧侶「身体がないと蘇生できませんし、身体があっても死を受け入れた後だと思います」

勇者「つまり、結界に入って生きて帰ることができたのは、魔女さんだけだということか」

僧侶「そうなりますね。つらいことがあったようで、酷く錯乱していました」

魔法使い「とても見ていられなかったです……」

僧侶「そんな中、魔女さんが気になることを言っていました」

勇者「気になること?」

僧侶「はい。私たちの関係を、『抑圧されていた心が、呪術で引きずり出されただけだ』と言っていたんです。もしかすると、私たちへのメッセージではないでしょうか」


419
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/06(水) 22:57:14 ID:WkdrlSeQ
勇者「それは、俺の気持ちを疑っているのか?」

僧侶「いいえ、『結界の中には、呪術的な何かがある』という意味だと思います。魔女さんはつらいことがあって、今もその影響が残っていますから……」

勇者「呪術のせいで、仲間同士で殺しあったのか」

僧侶「仲間同士で殺しあったというよりは、正当防衛だったと思います。それだけが、魔女さんにとって救いかもしれません」

勇者「そうか、やるせないな」

魔法使い「また一緒に、ご飯を食べに行きたかったな……」

僧侶「そうだよね……」

魔法使い「……はい、本当に残念です」

僧侶「きっと、賢者さんも毎日つらかったと思います。魔法使いちゃん、私たちが賢者さんの冥福を祈ってあげましょう。彼女の魂が安らかに眠れるように――」

魔法使い「うぅっ、はい…………」


421
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/06(水) 23:24:23 ID:WkdrlSeQ
~簡易テント~
翌朝、食事の準備を終えてテントに戻ると、魔女さんが目を覚まして身体を起こしていた。
けだるそうな表情で、戻ってきた私を見る。


魔法使い「おはようございます」

僧侶「魔女さん、おはようございます。気分はいかがですか?」

魔女「お、おはよう……。少し身体が重いくらいで、特には……」

僧侶「それは良かったです」

魔女「昨夜はごめんなさい。少し取り乱して……」

僧侶「大丈夫ですよ。みんなで朝食を食べませんか? 見たところ荷物がないようですし、しばらく何も食べていないですよね」

魔女「ごめん、あまり食欲がないから」

魔法使い「私、魔女さんと一緒に食べたいです」


422
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/06(水) 23:32:29 ID:WkdrlSeQ
魔女「あたし、生きていても良いのかな……」

魔法使い「生きていても良いに決まってるじゃないですか」

魔女「……どうして、そう思うの?」

魔法使い「女性を無理やり暴行するなんて、とても許されることではありません。魔女さんは正当防衛だし、絶対に許されます」

魔女「そうだね。許されるよね……」

魔法使い「はいっ」

僧侶「でも、こういうことは言いたくないけど、魔女さんは任務中だということも忘れてはいけないと思います」

魔女「……ぁ」

僧侶「魔王の存在を承知した上での任務だし、命を落とす覚悟はしていたはずですよね」

魔女「それは……」

僧侶「今回のことは、魔王から精神感応系の攻撃を受けて、同士討ちを誘発させられただけです。ならば魔女さんは、国に仕える魔道師として次の作戦を検討するために、結界の中で起きたことを報告する義務があるはずです」


424
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 00:21:17 ID:qgHCxrrc
魔女「あたしの気持ちも知らないで、よくそんな事を言えるわね……」

僧侶「すみません。でも魔女さんの経験を次に繋げていかないと、苦しみだけのものになってしまうから、だから……」

魔女「ねえ、任務だと言うなら、どうして魔法使いちゃんをここまで連れて来たの? 彼女はただの村娘でしょ」

僧侶「それは……」

魔女「ねえ、答えて」

僧侶「魔法使いちゃんは、女神に指名されているのです」

魔法使い「えっと、そうなんです」

魔女「つまり、神託があったから行くのね」

僧侶「……はい。だから転移の羽と賢者の石を持たせて、絶対に守れるようにしています」

魔女「一般人なんだから、当然でしょ」

僧侶「ですよね……」


425
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 00:23:31 ID:qgHCxrrc
魔女「魔法使いちゃんが頑張っているのに、あたしが落ち込む訳にはいかない――か」


魔女さんはそう言うと、笑顔を見せた。
しかし昨日の取り乱した姿を知っているせいで、私には無理をしているように感じられた。
それでも気丈に振舞っていられるのは、国家魔道師としての責任があるからなのかもしれない。
きっと、本心は苦しいはずなのだ。
そんな彼女に対して私に出来ることは、改めて朝食に誘ってみることだけだった。


魔法使い「あの、魔女さん。一緒に朝食を食べませんか?」

魔女「……そうだね。ご馳走になろうかな」

魔法使い「うれしいですっ! 実は昨日の夜、勇者さまがカンガルーを捕まえて来てくれたんですよ」

魔女「カンガルー?」

魔法使い「はいっ。お腹にポケットがある、不思議な動物なんです」

僧侶「そうそう。お肉は柔らかいし、味付けは私がしたので保障します!」

魔法使い「勇者さまも外で待っているし、みんなで食べましょう♪」


427
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:05:45 ID:qgHCxrrc
魔女「二人とも、勇者さんといい関係を築いているんだね。あたしたちは、性欲の捌け口でしかなかったのに……」

僧侶「私たちも勇者さまの性欲には悩んでいましたよ。だけどその欲求と向き合って、どのように解消させるか三人で話し合ってきました。もしかすると、それが良かったのかもしれません」

魔女「そういえば、以前そんな話をしてたわね。というか、どうして過去形なの?」

僧侶「勇者さまは、もう私の彼氏ですから//」

魔女「ひょっとして、その指輪は勇者さんから?」

僧侶「はい」

勇者「でもそれ、ミスリルだけど魔道具じゃないよね」

僧侶「浮気防止用のパズルリングです。そんなものを渡されたら、もう勇者さまのことを一途に想い続けるしかないじゃないですか//」

魔女「そっか、本気だったんだ……。僧侶ちゃん、昨夜は邪魔をしちゃってごめんね――」

僧侶「改まって言われると恥ずかしいです//」


428
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:07:43 ID:qgHCxrrc
僧侶「あっ、そうだ。魔女さん、少しお腹を触りますね」

魔女「えっ?」

僧侶「……、破壊魔法!」

僧侶「受精能力の有無に関わらず、体内のすべての精子を魔法で破壊しました。今までのことで望まない妊娠をすることはありません。感染症の心配もなさそうですよ」

魔女「ほ、本当に?!」

僧侶「はい、つらかったですよね。もう大丈夫ですよ」

魔女「うぅっ、うわああぁぁん……」

魔法使い「魔女さん……」

魔女「ありがとう。僧侶ちゃん、ありがとう……」


430
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:12:13 ID:qgHCxrrc
魔女さんの気持ちが落ち着いた後、私たちは四人で朝食を食べた。
メニューは魔女さんの体調を考慮して、食べやすいお鍋だ。
楽しく談笑できる雰囲気ではなかったけれど、少しでも気持ちが和らいでくれていれば良いなと思った。


僧侶「ごちそうさまです。カンガルー鍋、うまうまでした~」

魔法使い「うまうまでした」

魔女「う、うまでした……」テレ

僧侶「勇者さま、燻製のほうは順調ですか?」

勇者「有り合わせにしては順調だと思う。完成が楽しみだね」

魔法使い「美味しく出来るかなあ」

僧侶「当分、食べ物には困らないですね」


431
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:20:31 ID:qgHCxrrc
勇者「ところで魔女さん、これからどうするんですか?」

魔女「皆さんは、これから結界の中に入るんですよね」

勇者「それが俺たちの仕事だから」

魔女「あたしは……、もうあんな思いをしたくないです。一人で帰ろうと思います」

勇者「帰るって言っても、荷物も何もないだろ。はっきり言って、一人で帰るのは無理だと思う」

僧侶「砂漠もあるし、手ぶらで帰れるほどあまくないよね」

魔法使い「あの、帰る方法が一つだけありますよ。私は転移の羽を持っています」

魔女「でもそれは、魔法使いちゃんの身を守るためのものでしょ」

魔法使い「私なら大丈夫です」


432
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:35:37 ID:qgHCxrrc
勇者「魔法使いちゃん、さすがにそれは認められないな」

魔法使い「駄目ですか?」

勇者「ああ、駄目だ。魔女さん、南の都までなら一人で行けるかな? 食料は今、燻製を作っているから」

僧侶「何か思いついたんですか?」

勇者「魔女さんは結界からの生還者だろ。情報は絶対に必要だし、あの王様なら魔女さんを優遇してくれると思うんだ」

僧侶「そうですね」

勇者「バロックの城にも情報が伝わるだろうし、しばらく働いて資金を稼ぐことも出来るはずだ。そして、俺たちの帰りを待っていて欲しい」

魔女「勇者さん、それってどういう意味なんですか?」

勇者「魔女さんを俺たちの仲間に迎え入れたい。一人で帰るのは難しいし、賢者さんが亡くなった今、勇者特約も使えなくなっているはずだろ」


魔女さんが国家魔道師として仕えている国とは、同盟関係にある。
だから正式な手続きさえしていれば、勇者さまが持っている王家の紋章を使えるようになるそうだ。
単独の分隊なので支援内容は制限されるらしいけど、支援を受けられるならばそれに越したことはない。


433
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:54:09 ID:sIIKMJa6
魔法使い「魔女さん、私たちのことを『楽しそうでうらやましい』って言ってたじゃないですか。資金のことだけじゃなくて、私たちと一緒に旅をしましょうよ」

魔女「無理です。あたしは、仲間を殺すような魔道師ですよ」

魔法使い「でもそれは、理由があってのことですよね」

魔女「それは……」

魔法使い「四色あれば、どんな地図でも塗り分けることが出来ます。それと同じで、三人では出来なかったことが、魔女さんが仲間になることで出来るようになると思います」

魔女「四色問題か……。あたしたちは塗り方を間違えてしまったんだろうな……」

僧侶「それならば、私たちと塗り直しましょうよ。魔法使いちゃんもそのほうが喜びますし、精霊魔術を教えてあげてください」

魔女「本当に、こんなあたしで良いの?」

魔法使い「はい、もちろんです!」

魔女「……分かりました。勇者さん、よろしくお願いします」

勇者「ああ、今日からよろしくね。手続きや契約は、俺がやっておくから」

魔女「はい、お願いします」


434
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 00:20:15 ID:sIIKMJa6
魔女「それでは仲間になったことですし、勇者さんが結界へと向かう前に話しておきたいことがあります」

勇者「何をですか?」

魔女「結界の中のことです」

勇者「話せるなら、ぜひお願いします!」

魔女「……はい。魔王に支配されたと言われている極南の村ですが、中に入ると呪術の影響が強くなります。ただ、賢者さんだけはその影響がないようでした」

勇者「それは、女賢者だからですか?」

魔女「職業的なことではなくて、女神の加護を受けていたからだと思います」

僧侶「そういえば、勇者さまだけは天使の封印魔法が無効化されていましたよね」

勇者「なるほど。女神の加護があれば、中に入っても大丈夫なのか」

魔女「でもそこで、賢者さんは男たちに襲われて殺されました。それに耐えられなくて、あたしは彼らを殺しました。村の中では、悪意や恐怖が増幅されるのだと思います」

勇者「……」


435
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 00:39:13 ID:sIIKMJa6
魔女「その後は村を出て、付近をさまよっていたんだけど……。極南の地でハノイの塔を見たんです」

僧侶「えっ……、本当にハノイの塔があったの?!」

魔女「はい。あれは間違いなく、ハノイの塔だと思います」

魔法使い「呪術よりも、そっちの方が恐ろしいです――」

僧侶「だよね……」

勇者「よく分からないけど、それってそんなに驚くことなの?」

僧侶「ハノイの塔は台座の上に3本の支柱が立っていて、その棒に大きさの異なる64枚の円盤が刺さっているパズルです。そしてそのパズルが完成したとき、世界が消滅すると言われているのです」

勇者「世界が消滅するパズル?!」

僧侶「はい。ハノイの塔は終末時計なんです」

魔法使い「一体、どれくらい手数が進んでいるのでしょうか」

魔女「あたしには女神の加護がないので、近付けなくて……」

魔法使い「結界の中にも、さらに結界があるのですね。残されている時間が気掛かりです」


437
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 22:43:48 ID:sIIKMJa6
僧侶「魔女さん、私……任務中とか偉そうなことを言ってしまって申し訳ありませんでした。つらいときなのに、一人でこんなに調査していたなんて知らなくて……」

魔女「いいよ。下手に同情されるより、あたしにはそれが良かったかも」

僧侶「本当にごめんなさい」

魔女「それで、ハノイの塔って神の遺産だよね。それが結界で守られているということは、もしかすると原典なのかもしれません。つまり、あたしたちがするべきことは――」

勇者「ハノイの塔を破壊することか」

僧侶「勇者さま、時計を壊しても時間が分からなくなるだけです」

魔女「そうです。ハノイの塔を破壊するのではなくて、その進行を止める方法を考えなければならないと思います」

勇者「言われてみれば、そうだな……」

魔法使い「勇者さま、15パズルや天使さんからのメッセージも忘れないでください。もしかすると、ハノイの塔はドーナツ世界までの時間をカウントしているのかもしれません」


439
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:44:25 ID:sIIKMJa6
勇者「ドーナツ世界と世界への侵入者、そして終末時計か――。魔女さん、極南の村に魔族はいるの?」

魔女「特に誰もいなかった……と思います」

勇者「はっきりしないな。危険だけど、そこに原因があるかもしれないから、行かないといけないな」

僧侶「それならば、精神感応系の魔法対策が必要ですね」

勇者「予防策はあるの?」

僧侶「有効な方法は特にないです」

勇者「えっ?!」

僧侶「精神感応系の魔法を予防すると、あらかじめ感情を固定しておくことになるので、正常な判断力が阻害されてしまいます。それに身体への負担も大きいです」

勇者「結局は俺たちの関係次第ってことか」

僧侶「そうなりますね。でも勇者さまには女神の加護がありますし、魔法使いちゃんは守りが万全なので――」

勇者「ということは、魔法対策が必要なのは僧侶さんか」

僧侶「……はい。私も精神感応系の魔法を使えますし、何か考えておきます」

魔法使い「わ、私も心構えをしておきます」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:48:32 ID:sIIKMJa6
勇者「じゃあ、俺たちの目的を確認しよう」


1、極南の村の調査
2、ハノイの塔の残り時間を調べる
3、可能ならば世界の侵入者を排除する


僧侶「精神感応の脅威を取り払うことが出来れば、今後の戦略も優位になってきますね」

勇者「そうだな。それだけでも、どうにかしたいよな」

僧侶「はい」

魔法使い「だけど、残り時間が少なければ意味がないですよね」

勇者「じゃあ、極南の村とハノイの塔の調査を最重要課題としよう」

魔法使い「分かりました」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:56:53 ID:sIIKMJa6
勇者「では魔女さんは別働隊として、王様に報告をお願いします。そして俺たちが戻るまで、南の都で待機しておいてください」

僧侶「都まで遠いし、気をつけてね」

魔女「はい。あたしも皆さんが無事に戻って来られるよう、心から祈っております」

勇者「ありがとう」

魔法使い「魔女さん、頑張ってきます!」


私たちの無事を祈り、待ってくれている人がいる。
それのなんと心強いことだろう。
私を送り出してくれた家族や村長さん、そして魔女さん。
みんなにもう一度会うまで、簡単に死ぬわけには行かない。

闇の結界の中で何が起きるのか、それは分からない。
だけど、私は生きて帰るんだ!
その言葉を心に刻み、私は気を引き締めた。


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:56:53 ID:sIIKMJa6
第8話 おわり

・四色問題
・ハノイの塔


勇者「ドーナツの世界?!」第9話を読む
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