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あなたへのドルチェ

1 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/07(土) 22:24:10 ID:UG73EFGE
年が明けてすぐのことだ。
その日もいつもどおりの1日が終わるはずだった。

楽譜に目を通しているとき、急に音が聞こえなくなった。
そして、激しい眩暈に襲われた。
床に這いつくばり嘔吐を繰り返す。

世界が回る。
また嘔吐感が込み上げてくる。

翌朝病院に行き、稀な両側性の突発性難聴だと診断された。
突発的な難聴なんて、すぐに良くなるだろう。
しかし薬物療法に効果はなく、失った聴力が回復することはなかった。

専門の医師がいると聞けば紹介状をもらい、入院して最新の医療を試みる。
しかし、膨らむのは絶望ばかり。

消えていく、バイオリニストとしての未来。
ソロコンサートの夢。

両翼をもぎ取られた鳥は、二度と大空を羽ばたくことなんて出来ないんだ――。
所属していた楽団を辞め、いつしか家族や彼女とも音楽のことは話さなくなっていた。


2
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/07(土) 22:30:05 ID:UG73EFGE
それから季節は巡り、再び冬。
世間ではクリスマスがどうとか賑わう時期になっていた。

 ブーン、ブーン。

こたつに入って横になっていると、スマホのバイブが振動した。
着信がすぐに分かるように、常に身に着けている。
どうやら、彼女からメールが届いたようだ。


 件名:今日は
 本文:クリスマス・イヴだね♪ 夕方、ケーキ焼いてくよ。^^


中途失聴の俺なんか別れてしまえばいいのに……。
液晶を見詰め、自嘲気味に笑った。


3
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/07(土) 22:39:57 ID:UG73EFGE
病状が最悪の経過をたどり、入院していた頃の俺はひどく荒れていた。
しかし彼女がいてくれたおかげで気持ちがまぎれ、現実を受け入れられるようになってきている。
彼女が支えてくれていなければ、今頃は確実に自暴自棄になっていただろう。

だから余計に考えてしまうのだ。
健常者の男のほうが相応しいはずだ、と。

それでもメールを返すのは、彼女に一緒にいてほしいからだった。


4
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/07(土) 22:51:43 ID:UG73EFGE
 件名:待ってる
 本文:どんなケーキか楽しみにしてるから。何時に来るの?


送信してすぐ、返事が帰ってきた。


 件名:Re:待ってる
 本文:4時ごろかな。あまり期待しないでね。


時計を見ると、2時になったばかりだった。
今頃はキッチンで奮闘している頃だろう。
あまり邪魔をするのも悪いかもしれないし、俺はおとなしく待つことにした。

しかし、ただ待っているだけだというのも暇で仕方がない。
彼女が来るまでに、部屋の掃除くらいはしておいたほうがいいだろう。
俺はそう思い、散らかしたままの衣類をクローゼットに放り込んだ。
そして、すぐに閉めた。


5
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/07(土) 23:08:44 ID:UG73EFGE
部屋の掃除が終わり、こたつで本を読んでいるとフラッシュチャイムが明滅した。
時刻は3時48分。
もう来たのかもしれない。

そう思ってこたつを出ると、今度はスマホのバイブが振動した。
どうやら間違いないようだ。


 件名:着いたよ
 本文:中に入るね(*^o^*)


俺はメールをさくっと読み、玄関に向かった。


6
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/07(土) 23:16:16 ID:UG73EFGE
『お待たせ♪』


合鍵で家の中に入っていた彼女は、靴を脱ぎながらスマホの液晶画面を見せてきた。


「外は寒かっただろ」


そう聞くと、身を縮めて寒そうに震えてみせた。
よほど寒かったらしく、足早にリビングに入る。
そしてバッグと紙袋を置いてコートを脱ぐと、すぐにこたつに入った。


『今日は何してたの?』


彼女はこたつの上にメモ用紙を置き、以前書いた文面をめくり取って新たに文字を書いた。
俺は話すことは出来るが、聞くことが出来ない。
そのため、会話の方法は主に筆談かメールだ。


7
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/07(土) 23:25:39 ID:UG73EFGE
「掃除してたかな。きれいになってるだろ」

『クローゼットに押し込んだだけだったりして』


結構痛いところを突かれてしまった。
まあ、いつものことなので仕方がない。
こういう場合は、話題を変えるのが一番いいだろう。


「そんなことよりも、ケーキを作ったんだろ。早く食べたいな」


その言葉は自然な流れのはずだった。
ケーキを作って持ってくることになっていたのだから。
それなのに、彼女の表情が固まった。


9
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 11:06:07 ID:1OnZV.7E
彼女は緊張した面持ちで、ボールペンをメモ用紙に向かわせた。

『実は』

そこで手が止まった。
まさか、ケーキを失敗したのか?
時には、そんなこともあるだろう。
そう思って声をかけようとしたとき、再び手が動き始めた。


『大切な話をしたいの』

「えっ……」

『ケーキ 本当に食べたい?』


そう書くと、紙袋からケーキ屋さんが使うような箱を取り出した。
何かを迷い、それでいて決意をしているような表情が不安を煽る。


「頑張って作ってくれたんだ、食べたいに決まってるだろ」

「……、……? ――」


彼女は何かを言うと、おもむろに箱を開いた。
そこに入っていたケーキは、楽器の形をしていた。


10
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 11:19:58 ID:1OnZV.7E
20センチくらいの大きさの、ピアノのチョコレートケーキ。
鍵盤には板チョコが乗せてあって、メリークリスマスと書かれている。


「何のつもりだよ、これ」


『実は 大切な話をしたいの』
めくり取ったメモ用紙の中から取り出して、もう一度見せてきた。


「大切な話って、これのことか。俺にピアノでも弾けっていうのか。ピアノはただ鍵盤を弾くだけの楽器じゃないだろ」


彼女は同じ楽団に所属していて、ピアノを担当していた。
だから知っているはずだ。
ピアノの音色の広がりはペダルで作り出すことを。
耳が聞こえない俺には、出している音が分かっていてもその広がりまでは分からない。


11
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 11:29:17 ID:1OnZV.7E
『分かってる 経験がないから難しいと思う』

メモ用紙をめくり、もう一枚書き始める。

『だって バイオリニストなんだから』


やめてくれ。
もうその話はしないでくれ――。

どうしてまた、思い出したようにその話をするんだ。
閉ざされた、演奏家としての未来。
両翼をもがれた鳥は、二度と大空を羽ばたくことなんて出来やしないんだ。


「今日はもう帰ってくれ」


俺は横になり、布団をかぶった。
彼女が身体を揺すってくる。
それでも俺は振り返ったりはしない。
メモ用紙が差し出されたが、それも手で払いのけてやった。
そのうち諦めて帰るだろう。


12
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 11:40:27 ID:1OnZV.7E
 ブーン、ブーン。

ふいにスマホが震えた。
この振動パターンは彼女のものだ。
無視してもいい。

 ブーン、ブーン。

また送信されてきた。

 ブーン、ブーン。

まただ。
4回目、5回目、6回目……。


13
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 11:50:53 ID:1OnZV.7E
「おい、何回送ってくるつもりなんだよ!」


我慢の限界に達し、身体を起こして彼女を睨みつけた。
そして何か言ってやろうと思ったが、俺の怒りは覚めていった。
彼女がつらそうな表情をしていたからだ。
そんな顔で、おもむろにスマホの液晶を向けてくる。


 件名:私を見て
 本文:私を見てくれないと話が出来ない。私の気持ち、聞いてほしいの。私の気持ちを読んでほしいの。


「……わかったよ。今日は特別だからな」


一瞬迷ったが、今日だけなら適当に話を合わせてやるくらいしてやってもいいだろう。
それに、彼女のつらそうな表情を見て無下に扱うことが出来なかった。


14
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 11:56:56 ID:1OnZV.7E
「で、どういうつもりなんだよ。その形は」


俺は彼女を見据えた。
ピアノを始めろって意味でないなら、どういう意図があるのだろう。
まあ、バイオリンを始めろという意味には違いないだろうが。

ややあって、彼女はボールペンを手に取ってメモ用紙に向かった。
そして白い手が、文字という柔らかい声を紡ぎだす。


『ベートーベンって知ってる?』


意外にも、ドイツの偉大な作曲家の名前が出てきた。


「ベートーベン? それがどうしたんだ」

『その人もね 耳が聞こえなかったんだよ』
『聴こえなくなってからの作品も ものすごく評価が高いの』


ベートーベンに持病の難聴があったことは、とても有名な話だ。
そして俺と同じく、若くして聴力を失った中途失聴者である。


15
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 12:04:30 ID:1OnZV.7E
「つまり、俺にも出来るって言いたいのか?」


彼女は大きく頷いた。


『飛べない鳥は速く走れるんだよ ダチョウさんみたいに』
『私はダチョウになれるって信じているよ』
『きっと あなたにしか出来ない演奏があるはずなの』


馬鹿な。
そんな奇跡、そうそうあるわけがないだろうが。

俺は鼻で笑った。
しかしそんな俺に向かって、彼女はある一点を指差した。
その指し示す先にはクローゼットがあった。


「もしかして、知っているのか――」


まさかと思いつつ聞いていると、彼女はこくりと頷いた。
俺はそこにバイオリンを片付けている。
もう弾くことはないと知りつつも、どうしても捨てられないのだ。


16
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 12:13:28 ID:1OnZV.7E
『私はあなたの音 ずっと聴いてた』
『だから チューニングだってしてあげられる』
『音が聞こえなくても 身体が弾き方を覚えているでしょ』

「そうかもしれないけど、合奏はどうするんだよ。俺に出来るはずがない。そうだろ?」

『指揮者もいるのに 譜面どおりに弾けないの?』


何も言い返せなかった。
それくらい出来るに決まっている。


『ケーキ 食べよっか』


彼女はリビングを出て、キッチンに向かった。
その間に、俺は山積みにされたメモ用紙を手に取った。
ベートーベンの話、飛べない鳥の話、そして彼女の音感を思い出す。

以前なら、聞く耳も持たず突っぱねていただろう。
しかしそうしなかったのは、ここが自分の家で気持ちに余裕があるからなのだろうか。

『私はダチョウになれるって信じているよ』

俺はその一枚が気になっていた。


17
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 14:03:00 ID:1OnZV.7E
彼女が戻ってきて、リビングが紅茶の香りに包まれた。
そしてピアノのケーキを半分に切り分ける。
板チョコが乗った鍵盤側は俺の皿に乗せ、響板側は彼女が自分の皿に乗せた。


「いただきます」

「……♪」


とりあえず、メリークリスマスと書かれた板チョコを手に取る。
すると、スポンジでできた白鍵が出てきた。
黒鍵も地味ながら再現されている。
俺は手が込んでいるなと感心しつつ、チョコレートをかじった。

甘くない――。

ただ、それが板チョコだけなら不審に思うこともなかった。
スプーンを手にして、一口食べる。
チョコレートケーキも同じように甘くはなかった。

紅茶を口に含み、ちらりと彼女を見る。
すると彼女はケーキに手をつけることはせずに、不安げにこちらを見詰めていた。


18
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 14:07:08 ID:1OnZV.7E
「このケーキ、甘くないんだけど」


板チョコもチョコクリームも、すべてビターチョコで作られているようだ。
一体、カカオ何%なんだよと言いたくなるくらいだ。
もしかして、チョコレートを間違えたんじゃないのか?
そう思いつつ無言の視線を送ると、彼女は一口食べてボールペンを手に取った。


『美味しいよ』
『確かに少し苦いかもしれない だけど 一生懸命頑張ったのよ』


言われてみれば、その苦さは絶妙なさじ加減になっていた。
少しほろ苦いビターチョコケーキだと言われれば、納得できる美味しさだ。


「そうだよな。こういうケーキもあるよな」

「――♪」


一口食べるたびに、ピアノの形が壊れていく。
そして、俺たちの皿からケーキがなくなった。


19
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 14:11:04 ID:1OnZV.7E
食べ終わってみると、ほろ苦さが絶妙な美味しいケーキだった。
だけど、紅茶とは合わなかったような気がする。
彼女もそう思ったのか、ティーカップには紅茶が残されていた。


「ありがとう。美味しかった」

『うれしい ずっと不安だったの』


そう書いて、彼女はかすかに笑った。


『そういえば 「苦い」と「苦しい」って同じ漢字だよね』


そして彼女は、さきほど書いたメモ用紙に “{し” の文字を追加した。

『確かに少し苦しいかもしれない だけど 一生懸命頑張ったのよ』

その言葉に、俺は唖然とさせられた。
ここまで考えて、このケーキを作ったのか?

ピアノの形をしていたら、怒ることは目に見えていただろう。
味が苦かったら、気を悪くする恐れもあっただろう。
そこまでして、バイオリンを始めてほしいのか?


20
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 15:52:47 ID:1OnZV.7E
「……分かった。もう一度、始めてみようと思う」


決意の言葉。
しかし、彼女は聞いていなかったようだ。
ぱぁっと目を輝かせると、窓際に向かって行った。
小さくため息をつき、俺もこたつから出る。


「今日はホワイトクリスマスだな」


俺は隣に立ち、横顔を見た。
その視線に気づいたのか、彼女はこちらに振り向いた。
そしてこたつの上のメモ用紙をちらりと見遣り、指先を口元に寄せ、注意を向けるように促してきた。
ぷるんとした唇が、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。

 ――ういあお。

「雪だよ?」


そう言うと、ちょっと拗ねるような表情になった。

 ――馬鹿。

これは分かった。
聞こえないんだから仕方ないだろ。
そう言おうと思った矢先、彼女が動いた。


21
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 16:06:17 ID:1OnZV.7E
左手の親指と右手の小指を立て、胸の前でくっつける。
そして左手を下ろし、右手の親指と人指し指をL字に開いて喉元に寄せ、手前に引きながら指先をくっつけた。

それは、彼女が初めて見せた手話だった。
そして、その意味は……。

本当に俺でいいのか?

しかし、答えは見えていた。
彼女は受け入れてくれている。
俺は彼女にいてほしい。
ならば、返事は一つしかない。


22
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 16:19:12 ID:1OnZV.7E
「俺も一緒にいたい。ずっと傍にいてほしい――」


彼女が目を閉じる。
俺は身体を寄せて、唇を重ねた。


それは心地よい甘さだった。
甘いチョコレートケーキの味がした。


俺は唇を離し、戸惑いながら食べ終えたケーキ皿を見る。
彼女はとてとてとこたつに向かい、メモ用紙を手に取った。


『うれしい』
『苦しいこともあるだろうけど 私も一緒だから』
『もう一度 二人で演奏しようね!』


彼女は満面の笑みを浮かべながら、メモ用紙いっぱいに書かれた想いを差し出してきた。
どうやら、さっきの言葉もちゃんと聞いてくれていたようだ。
俺は心が満たされていくのを感じながら、彼女の想いを受け取った。


23
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 16:30:39 ID:1OnZV.7E
響板側は甘いピアノのケーキ。
もしあのとき無視を続けていたら、彼女の気持ちを知る機会は永遠に来なかったかもしれない。


「なあ……」


俺は彼女と向き合い、声を掛けた。
その続きは、もう決まっている。


「さっき書いた紙、何枚かくれないか? もう一度、二人で演奏しよう」


そう言って、クローゼットを見た。
楽団にいた頃のような演奏は、すぐには出来ないだろう。
だけど、音楽は人々と共感しあうものだ。
それが俺たちの原点だった。

だからもう一度、彼女と音楽を共感しあいたい。
彼女となら、それが出来ると思った――。


Fine.


24
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/12/08(日) 16:40:27 ID:1OnZV.7E
クリスマスらしい、暖かい話になっていればと思います。
ありがとうございました!



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勇者「ドーナツの世界?!」 もくじ

勇者「ドーナツの世界?!」
もくじ
勇者「ドーナツの世界?!」【前編】
勇者「ドーナツの世界?!」【後編】

各話のリンク
第1話 ドーナツの世界
第2話 バラバラの絆
第3話 命の作り方
第4話 魔法はいらない
第5話 忍び寄る闇
第6話 淫されていく想い
第7話 幸せはどこにある
第8話 悲しい再会
第9話 心をさらけ出して
第10話 終末のパズル
最終話 私たちの幸せ

勇者「ドーナツの世界?!」 第1話

1 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 21:41:06 ID:bihKnwh2
第1話 ドーナツの世界
~エルグの城~
王様「勇者はまだか」

勇者「遅れて申し訳ありません」

王様「勇者よ、よくぞ参った。お主もうわさには聞いておろう。はるか南の大地にある極南の地が、闇に覆われてしまったという話を――」

勇者「はい」

王様「近年は魔物の活動も激しさを増し、極南の村が魔王に支配されたと聞き及んでおる。このままではやがて世界は闇に呑まれ、光を失ってしまうだろう」

勇者「魔王……ですか?」

王様「その前に女神の加護を受けし若者よ、そなたに魔王の討伐を任命したい」

勇者「任務、拝命いたしました」

王様「おぉ、さすが勇者だ。大臣、勇者に王家の紋章を授けよ」

大臣「これは世界条約で定められた魔道具です。国王が任命した勇者として支援を受けることができるので、大事にするように」

勇者「はいっ、ありがとうございます」

王様「それでは、よい報告を期待しておるぞ」


2
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 21:49:12 ID:bihKnwh2
~城下町~
勇者「はぁ、魔王なんているわけないのに……」


冬の寒空の下、派遣施設へと歩きながら溜息をついた。
女神から神託を授かり、勇者に選ばれたことは理解しているつもりだ。
しかし、それと魔王の存在は別の話だ。
なぜならば、すでに魔族は滅びているからだ。

はるか昔、人間と魔族の戦争があった。
その戦争で人間が辛勝したことは、精霊神話を読んだことのある人間ならば誰でも知っている。

だから、魔王が存在するはずがない。
それでは、なぜ闇が存在するのだろうか。

とりあえず成功報酬はかなりの額だし、派遣施設で女僧侶を誘うことにしよう。
もしかすると、もしかするかもしれない。
あまい期待を抱きつつ、俺は派遣施設に向かった。


3
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:01:15 ID:bihKnwh2
~派遣施設~
勇者「おはようございます」

局員「おはようございます、勇者さまですね。こちらにお越しになることは、王様より伺っております。どの方を雇いますか?」


局員はそう言うと、名簿を見せてくれた。
俺は女僧侶の項目を開き、プロフィールに目を通す。

女僧侶を選ぶのは、回復系の魔法しか使うことが出来ないからだ。
格好良い所を見せれば、簡単に惚れてくれるに違いない。
そう考えていると、ひときわ可愛らしい女性を見付けた。


勇者「怪我や病気をしたら困るので、こちらの女僧侶の方をお願いします。旅仲間は彼女一人で大丈夫です」

局員「えっ、戦士や賢者は必要ないのですか?! 小隊を組むほうが良いと思うのですが……」

勇者「長い旅だし、衣食住と費用の問題が付きまとうので大丈夫です。剣術や精霊魔法なら俺が少しは使えるし、少数精鋭で行こうと思います。だめなんですか?」

局員「い……いえ、大丈夫ですよ。少々お待ちください」


4
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:03:15 ID:bihKnwh2
僧侶「勇者さま、はじめまして。私は僧侶と申します」

勇者「俺は勇者。これからよろしくね」

僧侶「よろしくお願いします」ペコリ


実際の彼女は、名簿で見た以上に可愛かった。
胸がかなり大きくて、女僧侶らしい健康的な容姿をしている。


局員「勇者さま、本当に彼女一人だけで良いのですか? もちろん、後から増員できますけど――」

勇者「国の派遣施設に登録されるほどの実力者だし、不足はありません。ありがとうございました。では僧侶さん、装備を整えて行きましょうか」

僧侶「ちょ、ちょっと待って下さい! 私たち、二人旅なのですか?!」

勇者「そうだよ。小隊を組むと、衣食住と費用が問題になってくるからね」

僧侶「確かに、そうかもしれませんけど……」

勇者「じゃあ、そうと決まれば出発しようか」

僧侶「……分かりました。勇者さま、頑張りましょう」


5
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:05:19 ID:bihKnwh2
~北の大地・フィールド~
勇者「僧侶さん。どうやら、野犬たちに囲まれているみたいだ」

僧侶「そうみたいですね」


この地域では冬になると、行商の馬が野犬たちに襲われることがある。
もし人の肉を食べたことのある野犬ならば、隙を見て襲ってくるだろう。
決して、油断は出来ない。


野犬「ガルルルッ!!」

勇者「くそっ! 僧侶さん、来たぞ!」

僧侶「は、はいっ!」


俺は鉄の剣を抜き、飛び掛ってきた野犬を斬り払った。
そして続けざまにもう一匹の野犬を斬り、僧侶さんに目を向ける。


6
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:08:44 ID:bihKnwh2
野犬「バウワウッ!!」

僧侶「きゃあっ! 防御魔法っ」

勇者「僧侶さんっ!」


野犬は彼女が振りかざしたナイフをかわし、左腕に食らいついた。
しかし、魔法で強化された防寒具が牙をはじき返す。
そしてナイフを逆手に持ち変え、彼女は野犬へと振り下ろした。


野犬「キャウン……」ドサリ

僧侶「ごめんね」

勇者「どうやら、他の野犬たちは諦めてくれたようだな。血の臭いを嗅ぎつけて魔物が集まってくる前に、俺たちもここを離れようか」

僧侶「……そうですね。野犬さんの命、みんなに繋がりますように」ペコリ


7
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:25:15 ID:bihKnwh2
~エルグの村~
僧侶「勇者さま、やっと村に着きましたね」

勇者「馬なら1時間程度なのに、歩くと半日もかかるのか……」

僧侶「日が暮れてきたし、宿を探さないといけませんね。あの民宿はいかがでしょうか」

勇者「じゃあ、今夜はあの宿にしよう」


少しでも早く暖かい部屋に入りたいし、特に異論もない。
俺はそう思い、僧侶さんの意向を汲むことにした。


宿の主人「これはこれは勇者さま。王様より伝令が来ております。一部屋だけ空いておりまして、そこなら勇者割引きでお貸し出来ますよ」

勇者「こっちは二人なんだけど、もう一部屋、空けられませんか?」

主人「他に空室はございません。お二人と聞いていたので、ツインルームをご用意させていただいております」

勇者「一部屋しかないなら仕方がないですね。その部屋でお願いします」


8
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:43:57 ID:bihKnwh2
~部屋~
僧侶「あのぉ、勇者さま……。私たちは同じ部屋なのですか?」

勇者「ごめん。何も言わないから、相部屋でも大丈夫だと思ってた。やっぱり嫌だったのか」

僧侶「勇者さまがどうするのか、見ていただけです。もう一部屋ないか聞いてくれていたので、一応良しと致します。でも、次からは別室にして欲しいです」

勇者「僧侶さん。そのことなんだけど、次からも相部屋ってことにしてくれないかな」

僧侶「えっ?!」

勇者「これから俺たちは一緒に長い旅をするわけだし、お互いに信頼関係を築いていく必要があると思うんだ」

僧侶「信頼関係……ですか?」

勇者「そうそう。戦闘の場面では、お互いに信頼関係が築けているか否かで、生死が分かれてしまう。些細なことでも話し合える関係になれれば、それだけ旅もスムーズに出来ると思うんだ」

僧侶「そうかもしれないですね」

勇者「だから、協力してほしい」

僧侶「……分かりました」


9
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:45:15 ID:bihKnwh2
勇者「とりあえず、旅の計画を立てようか」

僧侶「はいっ」

勇者「僧侶さんは、この村は何が美味しいか知ってますか」

僧侶「……えっ? 旅の計画って、今夜の食事ですか?!」

勇者「せっかく旅をするんだから、美味しいものもいっぱい食べたいだろ」

僧侶「そうですね。私も各地の美味しいものを、いっぱい食べたいです!」


今まで硬い表情だった僧侶さんは、食べ物の話になると目を輝かせた。
生真面目な女性ならどうしようかと思っていたが、この様子だと気が合いそうだ。


僧侶「それでですね、今の季節は冬野菜がおいしいです。この村は冬になると白菜の収穫が盛んなので、お鍋がおすすめだと思います」

勇者「じゃあ、今夜は温かいものを食べよう」

僧侶「はいっ! 夕食も勇者割引きが付きますかねえ♪」


10
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:47:56 ID:bihKnwh2
~談話室~
勇者「えっ、白菜なべを食べられないんですか?」

主人「はい。近頃、魔物が山から下りてきて畑を荒らすようになったのです。先日は農夫が襲われて怪我をしまして、みな困り果てています」

僧侶「勇者さま、残念でしたね……」


白菜なべを食べられないと知り、僧侶さんは肩を落とした。
それにしても、魔物が畑を荒らしているなら見過ごすことは出来ない。


勇者「僧侶さん。明日、その魔物を退治しに行こうか!」

僧侶「本当ですか?! さすが勇者さまです。村の方も困ってらっしゃるようですし、人を襲うようになっては見過ごせませんよね」

勇者「その通り! 食べ物の恨み、思い知らせてやりましょう」

僧侶「はいっ!」


11
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:49:56 ID:bihKnwh2
勇者「それでご主人、どのような魔物なんですか?」


野犬ならば、畑を荒らすようなことはしない。
この村は山も近いし、考えられるのは熊やイノシシだろう。


主人「大型の熊です。例年なら冬眠している時期なのですが、どうやら荒くれ者がいるようでして――」

勇者「グリズリーか。どこに巣があるのか分かっているのですか?」

主人「自警団の者なら、場所を知っています。今夜、村長に報告しておきますので、明日には村の者を案内につけてくれるでしょう」

勇者「分かりました」

主人「では、よろしくお願いします!」

僧侶「勇者さま、明日は頑張りましょうね! そのためにも、今夜の食事は滋養のあるものが良さそうですね」

勇者「そうだな」

僧侶「では、凍結湖の魚料理を食べませんか。脂が乗っていて、すごく美味しいらしいんです!」

勇者「じゃあ、ご主人。その魚料理をお願いします」

主人「かしこまりました」


12
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:51:37 ID:bihKnwh2
~村長の家~
翌朝、俺たちは村長の家に向かった。
昨日は日が暮れていて気が付かなかったが、確かにどの畑も荒らされているようだ。
これでは作物の安定した収穫は望めないだろう。


村長「あなたがエルグの城を代表する勇者殿ですな。話は聞いております。どうぞお上がりください」

勇者「では、お邪魔します」

僧侶「お邪魔いたします」

村長「早速ですが、勇者殿。魔物退治をしてくださるという話は、変わりありませんか」

勇者「もちろんです。ここに来る途中も見ましたが、畑が荒らされてはお困りでしょう」

村長「ええ。村の者も襲われ、ほとほと困り果てておったところです。勇者殿が退治してくださるなら、それはもう願ったりです」

勇者「それで、グリズリーの巣まで案内してくれる者がいれば助かるのですが、やはり同行は難しいでしょうか」

村長「そのことでしたら、ぜひ連れて行ってほしい者がいるのです。魔物退治の話を聞き、志願されまして。魔法使い、入ってきなさい」

魔法使い「はじめまして。魔法使いと申します」ペコリ


13
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:59:37 ID:bihKnwh2
部屋に入ってきたのは、ミディアムヘアの村娘だった。
しかも、どこをどう見ても15歳くらいの少女にしか見えない。
志願する気持ちは偉いと思うけど、さすがに同行させるのは難しい。


勇者「あの、村長さん。お言葉ですが、年端も行かないお嬢さんを一緒に連れて行くのは、大変危険だと思います」

村長「いえいえ。こう見えても彼女は、この村で一番の女魔法使いなんです。勇者殿といれば安心ですし、よい経験になるでしょう」

勇者「この場合、本人の意思よりも安全を優先すべきでしょう」

村長「勇者殿といれば安心ですし、それには及びません」


なんなんだ、この聞く耳を持たない村長は――。
どうせ案内人は非戦闘員のつもりだったし、大人でも子供でも大差ないと考えるしかなさそうだ。


勇者「はあ……分かりました。無事に連れて帰ります」

村長「では勇者殿、お願いします」

勇者「魔法使いちゃん、案内よろしくね」

魔法使い「はいっ!」


14
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:02:49 ID:bihKnwh2
~裏の山~
俺と僧侶さんは、魔法使いちゃんの案内で山に分け入った。
女性同士で気が合ったのか、二人は雑談を交わしながら歩いている。
その様子は、どことなく姉妹のようだ。


僧侶「魔法使いちゃんは来年から、お城で研修することが決まってるんだ」

魔法使い「はいっ。お父さんが受験を勧めてくれて、お城で試験を受けてみたんです。そうしたら、春から来るようにって言われました」

僧侶「ということは、私より6歳下の後輩になるんだね。あそこは、城下の人でも入学が難しい狭き門なんだよ」

魔法使い「合格したときは、私も驚きました」

勇者「じゃあ、魔法使いちゃんは相当な使い手なんだ。道理で、村長さんが強く推すわけだ」

魔法使い「えへへ、勉強がんばりました//」


エルグの城で研修が決まっているということは、国家魔道師となりうる才能を持っているということだ。
だからこそ、村長は彼女に魔物退治の経験をさせたいのだろう。
そう考えていると、魔法使いちゃんが立ち止まった。


15
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:06:43 ID:bihKnwh2
魔法使い「勇者さま、この洞窟です」

勇者「ここがグリズリーの巣なのか。思っていたより深そうだな」

僧侶「そうですね」

勇者「とりあえず、魔法使いちゃんも俺について来てくれ。外で待っていて、巣に戻ってきたグリズリーに遭遇すると危険だからな」

魔法使い「分かりました」

勇者「それで注意事項があるんだけど、洞窟の深部では火炎魔法と爆発魔法は使わないでほしい。もし酸欠したり崩落が発生したりすると、俺たちも危ないから」

魔法使い「……そんなことまで考えないといけないんだ」

勇者「とりあえず、命大事にで無理をしなければいいから」

魔法使い「はいっ、分かりました」


16
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:08:43 ID:bihKnwh2
~洞窟~
僧侶「勇者さま、いましたか……」

勇者「いや、もう少し奥に行ってみよう」

魔法使い「あの……、何か不思議な魔力を感じるんですけど」

勇者「静かにっ。グリズリーがいたぞ」


俺はそう言うと、岩陰に身を隠した。
5メートルほど先にやや広い空間があり、そこでグリズリーが丸くなって眠っている。
僧侶さんと魔法使いちゃんも、慌てて身を潜めた。 


僧侶「勇者さま、どうしますか?」

勇者「脇から攻めて、一気に片をつける。そして僧侶さんは防御魔法、魔法使いちゃんは必要に応じて支援魔法。それで頼む」


そう言って、俺は剣を抜いて岩陰を慎重に進んだ。
そのままグリズリーの目前まで迫り、一気に駆け出す。
すると、ようやく気が付いたグリズリーが唸り声を上げた。
しかし、もう遅い!


17
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:09:28 ID:bihKnwh2
勇者「大地斬っ!」


土精霊の力を宿し、岩をも切り裂く勢いで剣を振り下ろす。
しかし、それは当たらなかった。
いや、当たらなかったのではない。
完全に捉えていたはずの剣が、そのまま通り抜けたのだ。

グリズリーの肉を断つ抵抗を予想していた身体は、勢い余ってバランスを崩す。
その一瞬の隙をつかれ、熊パンチが飛んできた。


勇者「くそっ!!」


すんでのところで後ろに飛び退き、鋭い爪をかわす。
そして剣を構え、風精霊の力をまとわせて懐に入り込んだ。


勇者「疾風斬りっ!」


グリズリーの右足を斬り払う。
その刀身は右足をすり抜けたが、空気の刃が左足を切り裂いた。


18
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:21:16 ID:bihKnwh2
グリズリー「グオォォォッッッ!!」


悲痛な雄たけびとともに、グリズリーは崩れ落ちた。
それでもなお、立ち上がらんとしている。
そのとき、それは起こった。
背後から突然腕が伸びてきたのだ。


勇者「ぐはぁっ!」


とてつもない力で振り払われ、壁に叩きつけられた。
鎧を着ていて爪によるダメージはないが、激しく打ちつけられたせいで全身が痛む。
どうにか立ち上がり、俺は剣を構え直した。


僧侶「勇者さま! 回復魔法!」

勇者「何なんだ、あの熊はっ! 空間を越えて攻撃してきたぞ!」

僧侶「魔法使いちゃん! このグリズリー、転移魔法を使えるの?!」

魔法使い「そ、そうみたいですね」アセアセ


どうやら、魔法使いちゃんはこのことを知らなかったようだ。
当たらない斬撃、そして予測困難な場所から飛んでくる攻撃。
このままではジリ貧だ。


19
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:23:16 ID:bihKnwh2
勇者「くそっ! どうすればいいんだ」

僧侶「勇者さま。一度だけ攻撃が当たりましたよね。それは何故でしょうか」

勇者「そんなこと、急に言われて分かる訳ないだろ」

魔法使い「私、分かったかもしれません! 凍結魔法、行きますっ!」


大気中の水分が凍りつき、グリズリーは氷付けになった。
しかし動きを完全に封じるほどの力がないのか、ひびが入り始めている。
そんなグリズリーに対して、魔法使いちゃんはさらに閃光魔法を行使した。

なるほどな――。
一度だけ攻撃が当たったのは、それが空気の刃による視認困難な攻撃だったからに違いない。
だから、魔法使いちゃんはグリズリーの視力を奪ったのだ。


勇者「はあぁぁっ! 疾風突きっ!」


刀身に風精霊をまとわせ、全力で突き出す。
それは氷もろ共、グリズリーの胸を貫いた。
腕に感じる、肉を斬る手ごたえ。
どうやら、読みが当たったようだ。

グリズリーの断末魔の声が洞穴に響き渡り、生気を失っていく。
やがて、氷の中で力尽きた。


20
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:32:16 ID:bihKnwh2
僧侶「やりましたね、勇者さまぁ」

勇者「魔法使いちゃん、ありがとう。咄嗟にこんなことに気付くなんて、並大抵のことじゃできないよ」

魔法使い「えへへ、ありがとうございます//」

勇者「さて、今夜は熊なべだな。農夫に運ばせて、振舞ってもらおう!」

僧侶「そうですね! グリズリーは、熊パンチの前足が美味らしいです♪」

魔法使い「えっ……食べるんですか」

僧侶「このグリズリーは、生きるために畑を荒らしていたんだと思います。そして私たち人間も、生きるために狩りました。ならばその死は、命を繋ぐものでなければなりません。決して、命を無駄にしてはならないのです」

魔法使い「命を繋ぐ……か」

僧侶「はい。そのようにして、私たちは生きているのですよ」

勇者「さすが、僧侶さん。いいことを言いますねえ」

僧侶「うふふ、当たり前です」


21
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:35:41 ID:bihKnwh2
勇者「じゃあ、戻ろうか」


そう言って帰ろうとすると、魔法使いちゃんが物言いたげに俺を見詰めた。
しかし、目が合うと俯いてしまう。
何やら気になることがあるらしいけど、言えずにいるようだ。


勇者「どうしたの? 何か言いたいことがあるなら、恥ずかしがらずに言ってくれないかな」

魔法使い「すみません……。実は、この奥から不思議な魔力を感じるんです」

勇者「魔力?」

魔法使い「はい。このグリズリーの魔力だと思っていたのですけど、どうやら違うみたいなんです」

僧侶「言われてみれば、かすかに感じますね。魔力に関しては魔法使いちゃんのほうが専門ですし、調べてみるべきだと思いますよ」

勇者「そうだな。不審な事があるなら、調査してみよう」


もしかすると、その魔力がグリズリーに影響していた可能性もある。
そう思い、魔力の発生源を探ることにした。


22
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:38:17 ID:bihKnwh2
魔法使い「魔力のもとは、これみたいです」


しばらく洞窟内を探索し、発生源を見つけた魔法使いちゃんが照明魔法で一点を照らした。
そこには、1から16までの数字が書かれたプレートが落ちていた。
そしてその16枚のプレートは、手のひらサイズの枠に納まって数列を作っていた。


僧侶「この数列はユピテル魔方陣ですね」

勇者「ユピテル魔方陣?」

僧侶「はい。縦横斜め、それぞれの列の合計が、いずれも女性数の最初の素数2と男性素数17を掛け合わせた34になるものです」


6、12、7、9
15、1、14、4
10、8、11、5
3、13、2、16


勇者「なるほど。確かに、合計が34になるな」


そう言いつつ、俺はプレートを拾い上げた。
すると、魔方陣が光に包まれた。


23
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 00:15:46 ID:/OBZxBP2
僧侶「勇者さま、16が消えましたよ! 魔法使いちゃん、これって15パズルじゃないかな。ほら、開いた空間に隣のプレートを動かすことができるし」サッサッ

勇者「あ、おい。勝手に触るなよ。まだ分かってないことも多いのに」

僧侶「ごめんなさい」シュン

魔法使い「でも僧侶さん。これが15パズルだとしたら、大変なことになりますよね」

僧侶「そうだね」

勇者「それはどういう?」

僧侶「15パズルは神の遺産なんです。遥か昔、この世界は一つの巨大な大陸で出来ていました。その超大陸のことをパンゲア大陸と言うのですが、それはご存知ですか」

勇者「土精霊学で勉強した気がするな。大陸が動いているんだっけ」

僧侶「はい、その通りです。神様の力により大陸が少しずつ動いて集まり、巨大なパンゲア大陸が出来ました。そして再び動いて割れてしまい、海や島ができて今の世界になったとされています」

勇者「何だか、すごく壮大な話だよな」

僧侶「それをプレートテクトニクス理論というのですが、15パズルがその伝説を象徴する神具として、この世界に伝えられているのです」


24
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 00:17:28 ID:/OBZxBP2
魔法使い「勇者さま。この15パズルは順番に並んでいませんよね。しかもユピテル魔方陣を形成して、魔力を放っていました。それは、とても恐ろしいことなんです」

勇者「恐ろしいこと?」

魔法使い「もうお気付きだと思いますけど、この15パズルは世界の在り方に関わる神聖な神具なんです。うわさ通り、世界に異変が起きつつあるのではないでしょうか」

勇者「世界の在り方か……。なぜ、そのような物がここにあったんだろうな」

魔法使い「それは……」

僧侶「それは分かりませんけど、このままにしておくのは危険だと思います。グリズリーが見せた空間を越える能力は、この魔力の影響だったのかもしれません。解ける配置のようなので、解いてみようかと思います」

勇者「じゃあ、なるべく早く解いてくれ。女僧侶は神に仕える者だし、その職に就く僧侶さんが言うなら間違いないだろう」

僧侶「ですよね!」


そう言うと、僧侶さんはカチャカチャと数字を動かし始めた。
どうやら、早く解きたかったらしい。
 

25
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 20:52:29 ID:/OBZxBP2
~村長の家~
勇者「村長さん、ただいま戻りました!」

村長「おぉ、勇者殿。魔物はいかがなさいましたか」

勇者「見事、退治してまいりました。農夫を派遣して肉を持ち帰り、今夜はみんなで熊なべにいたしましょう」

村長「そうですな。今から農夫を向かわせます」

勇者「それにしても、魔法使いちゃんは素晴らしいですね。的確な判断で、逆に助けられてしまいましたよ」

村長「そうでしょう。この子は村一番の期待の星ですからな」

魔法使い「えへへ//」

勇者「ところで村長さん。明日ですが、馬を一頭借りることはできませんか? 城に戻り、王様に報告しないといけないことができまして」

村長「分かりました。用意させます」


26
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 21:11:27 ID:/OBZxBP2
~宿の部屋・夜~
僧侶「勇者さま。熊なべ、おいしかったですね」

勇者「ほんと、どうやって臭みを消したんだろ。やわらかくて、こってりで」

僧侶「熊パンチ、とろとろでしたね。明日はぷるぷるになっちゃいますよ。勇者さまぁ、ぷるぷるおっぱい触りたいですか//」

勇者「えっ、マジで!?」

僧侶「……冗談に決まってるじゃないですか。そんなことをしたら、本気で怒りますからね」


顔は笑っているけれど、今までで一番冷たい声色だった。
酔った勢いで触らせてくれるのかと期待したけれど、そんなことはなかったようだ。
そもそも出逢って二日で、完全に気を許してくれる女性はいないだろう。


勇者「ははっ、やっぱりそうだよな」

僧侶「もちろんです」


27
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 21:22:28 ID:/OBZxBP2
トントン
僧侶さんの気を惹くことが出来る話題を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
こんな時間に、一体誰だろうか。


勇者「どうぞ。開いてますよ」

魔法使い「こんばんは」ペコ

勇者「ああ、魔法使いちゃん。こんばんは」

僧侶「いらっしゃい♪ 遊びに来たの?」

魔法使い「いえ……あの、僧侶さん。15パズルは完成しましたか?」

僧侶「できたよ、ほらっ」


そう言うと、僧侶さんは旅袋から15パズルを取り出した。
洞窟で見付けた時はバラバラだった数字が、今は順番に並んでいる。
一度は消えてしまった16の数字も、15の次に埋まっていた。


28
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 22:13:34 ID:/OBZxBP2
魔法使い「16の数字、また出てきたんですね」

僧侶「完成したら魔力が解放されて、結界が張られて動かせなくなったの。もっと遊びたかったのに……」ショボン

勇者「数字が揃っていない状態では危険なんじゃなかったのかよ……」

魔法使い「ところで勇者さま。洞窟で見つけたユピテル魔方陣について、思い出したことがあるんです」

勇者「思い出したこと?」

魔法使い「はい。実は、あの配置は完全方陣だったんです」

勇者「完全方陣?」

魔法使い「普通の魔方陣は縦横斜めが34になるだけですけど、完全方陣はそれだけではないのです。端と端をつなげて筒状にしても、その斜めの合計が34になるんです」

勇者「筒状に?」

魔法使い「はい。上下を繋げて、さらに右と左を繋げると、その平たいプレートはどんな形になると思いますか?」

勇者「上と下を繋いで、右と左を繋いだらドーナツ型になるね」

僧侶「それって、トーラスじゃないっ!」


29
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 22:25:22 ID:/OBZxBP2
魔法使い「まずいですよね……」

勇者「どういうことだ」

僧侶「はるか昔、神様が大陸を移動させるとき、この世界が球形だったので反対側が見えませんでした。だから神様は、世界を平面的に捉える方法を考えたのです。それが世界地図で、この15パズルだと言われています」

勇者「ということは、完全方陣は球形の世界がドーナツ型に歪められることを暗示しているのか?」

僧侶「そう……かもしれませんね」


もし仮に魔王がいたとして、世界を歪めることが出来るのだろうか。
とてもではないが、信じられない。
しかし、二人の魔道師が危機感を募らせている。
それを見過ごすことは出来ないだろう。


勇者「わかった。今日は本当にありがとう。魔法使いちゃんは立派な女魔道師になれそうだね」

魔法使い「ありがとうございます// それでは、おうちに帰ります」

僧侶「もう帰るんだ。おやすみ~」

勇者「おやすみ、気をつけて帰ってね」

魔法使い「は、はいっ。おやすみなさい//」


30
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 22:53:39 ID:/OBZxBP2
~エルグの城・翌日~
俺は早馬で城に戻り、昨日の出来事を王様に報告した。
そして、封印を施された神具を大臣に手渡した。


王様「なるほど、世界に何かが起こりつつあるのは間違いないようだな。して、その神具に掛けられた闇の力は僧侶が解放したのか?」

勇者「はい。もう大丈夫でしょうけど、念のために正規の封印を施すほうが良いと言っておりました」

王様「承知した。極南の闇にばかり目が向けられていたが、極北でも異変が起きているやもしれんな。極北の地への調査団は別に出すゆえ、勇者は引き続き任務を頼む」

勇者「任務、拝命いたしました」

王様「それでは、魔法使いという村娘に褒美を出そう。研修前とはいえ、良い働きをしてくれた。勇者よ、これを無事に届けてくれぬか」

勇者「かしこまりました」


31
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:01:48 ID:/OBZxBP2
~エルグの村~
エルグの村に戻り、俺は借りていた早馬を農夫に返して村長の家に向かった。
褒美を届けるにしても、魔法使いちゃんの家を知らないからだ。


勇者「村長さん、こんにちは」

村長「勇者殿、お待ちしておりました。ここでは難ですので、客間に上がってください」


言われるがままに、客間に上がる。
すると、そこには僧侶さんと魔法使いちゃんの姿があった。
さらに見知らぬ農夫の姿もある。


勇者「こんにちは、魔法使いちゃん。昨日の件で、王様から魔法使いちゃんに褒美が出ましたよ」

魔法使い「本当ですか?! すごくうれしいです!」

僧侶「魔法使いちゃん、良かったね。山の向こうに都があるから、明日は買い物が楽しみだね。魔法使いちゃんは、何が欲しい?」

魔法使い「えっと、新しい魔術書が欲しいです!」


32
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:05:02 ID:/OBZxBP2
勇者「魔法使いちゃんは国境を越える手形を持ってるの?」


山を越えると、そこはバロックの国だ。
国境を越えるためには、王様または自治体の管理を任されている自治長の許可が必要になる。
彼女がその歳で持っているとは思えない。


僧侶「魔法使いちゃんは、私たちと行くんですよ」

勇者「えっ? それって、どういうこと?!」

魔法使い「私も勇者さまに付いて行くことにしました//」テレッ

勇者「子供の遊びじゃないんだ、絶対に認められない!」

僧侶「妹が出来たみたいで、楽しい旅になりそうじゃないですか。私はそのつもりです」

勇者「いやいや、それは違うだろっ!」


33
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:06:02 ID:/OBZxBP2
村長「うちの村から勇者殿のパーティーに入れる者が出るとは、とても光栄です。彼女は村で一番の女魔法使いです。よろしくお願いします」

勇者「魔道師が必要ならば、城下で人材を選びます」

農夫「まあ、そうおっしゃらずに。勇者さまが魔王を倒せたならば、娘を差し上げてもいいですよ」

魔法使い「お父さん。うれしいけど、少し気が早いわよ//」

勇者「誰かと思えば、お父さんですか。娘さんの暴走を止めてください」

村長「彼女の実力は、勇者殿もご覧になったでしょう。良い経験にもなるだろうし、ぜひ連れて行ってあげてください」

僧侶「そうそう。魔法使いちゃんと三人で旅をしたほうが、きっと楽しいですよ」

村長「ちなみに、国境を越える手形は発行済みですぞ」

勇者「それって職権乱用じゃないのか?!」

魔法使い「さすが、村長さんです!」


34
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:10:44 ID:/OBZxBP2
そうだった。
ここの村長は、頑として人の話を聞かないのだ。
しかも僧侶さんが彼女を気に入ったらしく、一緒に行きたがっている。
俺は仕方なく、魔法使いちゃんの同行を認めることにした。


勇者「はあ、分かったよ……」

魔法使い「ありがとうございます! お邪魔にならないよう、がんばります!」

僧侶「魔法使いちゃん、よろしくね」

魔法使い「はい、よろしくお願いします!」


35
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:11:44 ID:/OBZxBP2
第1話 おわり

・魔方陣
・15パズル
・トーラス


勇者「ドーナツの世界?!」第2話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第2話

37以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:36:02 ID:CG33jvDA
第2話 バラバラの絆
~山道~
魔法使い「るんるん♪」

僧侶「魔法使いちゃん、ご機嫌ですね」

勇者「そうだな。でも、必要ない人員だよな……」

僧侶「そんなことはないです。彼女の実力は申し分ないですし、私は居てくれたほうが助かると思います」

勇者「そうかもしれないけど、彼女は支援の対象になっていないだろ。衣食住や費用の問題が出てくるじゃないか」

僧侶「衣食住に関しては、私たちの経費として申請しちゃえば良いんです。それに彼女は王様から褒美を頂いていますし、しばらくはそれで大丈夫だと思いますよ」

勇者「さらっと、そういうことを言うなよ」

僧侶「まあ、何とかなりますって」


38
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:41:38 ID:CG33jvDA
勇者「魔法使いちゃん、ストップ。誰かいるみたいだ」

山賊A「おうおう、てめえら。痛い目に遭いたくなかったら、金目のもんを置いていきなっす!!」

山賊BC「そうだぜ、置いていきな!」

魔法使い「爆発魔法!」


ドーーーンッ!!


山賊ABC「ぐおーーーっ」ピクピク


人の気配がして魔法使いちゃんを呼び止めると、次の瞬間には山賊たちがのされていた。
見た目は可愛らしい美少女だけど、グリズリーを凍結させてしまうほどの女魔法使いだ。
はっきり言って、ただの山賊では相手が悪い。


魔法使い「勇者さま、都が見えましたよ~♪」

勇者「そ……そうだね」

僧侶「山賊さん、これに懲りて悪いことはやめてくださいね」ニコッ


39
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:47:23 ID:CG33jvDA
~山すその都~
エルグの村の裏にある山を越え、山すその都に着いた。
ここはバロックの国の領土で、エルグの国とは同盟関係にある。


魔法使い「僧侶さ~ん、お洋服のお店がありますよ!」

僧侶「あ、その服、サラマンダーに祝福された繊維を織り込んであるみたい。魔法防御が上がるから、魔法使いちゃんにぴったりなんじゃない?」

魔法使い「こっちの光のドレスもかわいいです♪ でもちょっと高いな……」

防具屋「そのドレス、すごくお似合いだと思いますよ。試着だけでもなさいますか?」

魔法使い「えっ、いいんですか?」

僧侶「じゃあ、私もこのワンピースを」キャッキャッ

勇者「二人とも、先に泊まる宿を探そうよ。早くしないと、部屋がなくなるかもしれないだろ」

魔法使い「え~っ。この服、着たかったのに」

僧侶「魔法使いちゃん、また後で来ましょ」

防具屋「ありがとうございました。またお待ちしております」


40
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:53:44 ID:CG33jvDA
僧侶「宿屋、宿屋~♪ 勇者さま、ガイドブックに山菜料理がお勧めと書いてあるし、あのホテルにしませんか?」

勇者「山菜かぁ。それじゃあ、そこに泊まろうか」

宿の主人「いらっしゃいませ。ご家族連れの方ですか?」

勇者「家族連れというより、勇者なんだけど」


俺はそう言うと、王家の紋章を提示した。
これを使えば、勇者一行として支援を受けることが出来る。


宿の主人「エルグ王の紋章ですね……。少々お待ちください」

魔法使い「私たち、家族連れに見えるんだ」

僧侶「私たちが姉妹に見えるんじゃない? 兄妹で旅をしている人も多いしね」

魔法使い「そうなんだ」

宿の主人「お待たせしました。特別料金がお二人と、お連れの方が一人ですね。それでは、ご案内いたします」


41
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:57:43 ID:CG33jvDA
~部屋~
僧侶「いい部屋ですね、街を一望できますよ。あっ、お城も見えますね」

勇者「そうなんだ。ここは同盟国だし、そちらの王様にも挨拶しておこうか」

僧侶「はいっ」

魔法使い「あのー、私も勇者さまと同じ部屋なのですか? 普通は男性と女性は分かれるものかと……」


魔法使いちゃんが少し不満そうに言った。
気持ちは分からなくはないが、同じ部屋で我慢してもらうしかない。


勇者「フロントでの対応で気付いたと思うけど、魔法使いちゃんは正式な部隊メンバーじゃないから資金が出ないんだ。これから長い旅をする訳だし、お互いに信頼関係も築いていかないといけない。節約する必要もあるし、少し我慢して欲しいかな」

魔法使い「……障壁魔法!!」パァァ

勇者「えっ、何これ?」

魔法使い「光のカーテンです。こっち側は僧侶さんと私の部屋だから、勝手に入らないでくださいね♪」

勇者「あー、うん。それで納得するなら、別に良いか……」


42
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 21:04:37 ID:CG33jvDA
魔法使い「それでは、魔術書を探しに行ってきます」

僧侶「迷子にならないように気をつけてね」

魔法使い「は~い♪」


魔法使いちゃんはそう言うと、部屋を出て行った。


僧侶「勇者さま」スッ

勇者「うわぁ、びっくりした! このカーテン、向こうが見えないだけで普通に通れるのか」

僧侶「そうですよ。でも何度も出入りしたら、光の粒子が散って消えちゃいますけどね」

勇者「あの子が戻ってきたときに消えていたら、すごく怒られそうだね」


43
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 21:12:56 ID:CG33jvDA
僧侶「やっぱり連れてくるのは良くなかったですかねえ」

勇者「まあ、村長さんや本人の意向もあるし、僧侶さんは話し相手が出来てうれしいんだろ?」

僧侶「……はい。魔法使いちゃんがいてくれると、妹が出来たみたいでうれしいです」

勇者「彼女は年頃の女の子だし、多感な時期だから気難しいこともあるんじゃないかな。それは仕方ないよ」

僧侶「そうですね……」

勇者「とりあえず、俺たちも買い物に行っておこうか」

僧侶「はい」


44
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 21:20:32 ID:CG33jvDA
~街中・盗賊たち~
山賊A「親分、あいつっす! あの女魔法使いにやられたっす!」

盗賊「あいつって、どう見ても女子供じゃないか。そんなロリっ子にやられたのかい?」

山賊B「それがいきなり爆発魔法で攻撃されまして……」

盗賊「情けないねえ。子供の女魔法使いなんて、児戯に等しいだろ」

山賊A「それがどうやら、あの歳で勇者一行のメンバーみたいなんす」

盗賊「なるほど、エルグの国が動き出したのか。もし勇者一行なら、王家の紋章を持っているはずだ」

山賊B「そうですね。あの小娘を捕まえて、勇者をおびき出しますか?」

盗賊「いや、まずは宿を突き止めてくれ。俺はもう一人の女の職業を調査してくる」

山賊A「了解っす!」

盗賊「気配消去魔法」スサッ


45
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 22:17:22 ID:CG33jvDA
~街中~
山すその街の中心部は、川が分岐して中州になっている。
そこにある公園を歩いていると、僧侶さんがふいに話しかけてきた。


僧侶「勇者さま。私たちが泊まっているホテルからすべての橋を一度だけ通って、街の観光とお城への訪問をして、再びホテルに戻ることは出来ると思いますか?」

勇者「それって、一筆書きの問題?」

僧侶「はい。さっき部屋から街並みを見ていて、一筆書きで行けるかな~と思いまして」

勇者「うーん、出来ないかな。気に入ったお店には何度も行きたいから!」

僧侶「あぁ、そっか。私たちに一筆書きは出来ませんね」フフッ

勇者「それで、答えは何なの?」

僧侶「観光マップを見てみたけど、あの橋だけは渡れないみたいです。街から外れるので、行く必要はないですけどね」

勇者「ふうん、そうなんだ」


46
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 22:38:47 ID:CG33jvDA
僧侶「ところで、一筆書きと言えば『ケーニヒスベルクの橋の問題』が有名ですよね」

勇者「それって、どんな問題?」

僧侶「ケーニヒスベルクの街を流れているブレーゲル川に、七本の橋が架けられています。その七本の橋を二度通らずに、すべて渡って元の場所に戻って来ることが出来るか――。そのような問題です」

勇者「何だか、聞いたことがあるな。それって、出来ないんだよな」

僧侶「そうです。でも実は、すべての橋を渡って、元の場所に戻ってくる方法があるんですよ」

勇者「まさか川を泳ぐとか言うんじゃないだろうなあ」

僧侶「いいえ、違います。少し考えてみてください」


47
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 22:49:07 ID:CG33jvDA
勇者「分かった! 新しい橋を架ければいいんだ」

僧侶「新しい橋を架けると、七本の橋ではなくなってしまうじゃないですか……」

勇者「それもそうだな。じゃあ、答えは何なんだ?」

僧侶「川の上流を目指して歩いて、源流をぐるっと迂回するんです」

勇者「街から出たら駄目だろ」

僧侶「でも、『街を出てはならない』という条件はないですから。この答え、面白いと思いませんか?」

勇者「うぅん、そうかなあ……」


問題文を聞く限り、場所をケーニヒスベルクの街だけに限定しているように思える。
その街を出るのは、少し意地悪な気がする。


僧侶「この面白さに共感してもらえないなんて、勇者さまと一緒に旅をする自信がなくなりました……」

勇者「大げさだなあ」


48
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:01:25 ID:CG33jvDA
勇者「あそこのお店、溶けないアイスだって。食べてみようよ」

僧侶「はいっ! 溶けないのにアイスって、面白そうです」

勇者「食べ物の好みは合いそうだね」

僧侶「そうかもしれないですね」


店頭で売り子に声をかけ、俺たちは溶けないアイスを注文した。
そして渡されたそれは、想像を絶する食べ物だった。
はっきり言って、マズイ!


勇者「あー、うん。まさか本当に溶けないとは思わなかった」ゲンナリ

僧侶「ですよね……。なんだか、いつまでもジャリジャリしている気がします」ショボン

勇者「これはもう、アイスじゃなくて砂だよな。まあ、こういう経験も観光の醍醐味かな」

僧侶「そうですね。地元の人、食べているのでしょうか」

勇者「外は寒いし、食べるのは観光客くらいじゃないか。とりあえず、気を取り直して道具屋に行こうか」

僧侶「はい。感冒薬を調合しないといけないし、いくらか購入しておきましょう」


49
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:14:58 ID:CG33jvDA
道具屋「いらっしゃい。何にするんだい?」

僧侶「薬草を5束と聖水を3本ください」

道具屋「全部で150Gだ。他に何か買っていくかい?」

勇者「他は特にないよな」

僧侶「勇者さま、この街の民芸品を見たいです」

勇者「僧侶さんが見たいなら、別に良いよ」

道具屋「民芸品かい? うちでは、こういうものが有名だよ」

僧侶「へえ~、この街は組み木細工が盛んなんだ。木の温もりって、ナチュラルだから良いですよね」

道具屋「お嬢さん、分かってるねえ。うちは都だけど、山すそで川もあるから、昔から林業が盛んなんだ」

僧侶「そうらしいですね。ここの木材は品質が良いと聞いています。あっ、その組木パズルが欲しいです!」

道具屋「よしっ、今日は特別に値引きしてあげるよ」

僧侶「ありがとうございます♪」


50
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:28:16 ID:CG33jvDA
~勇者の部屋~
僧侶「いい買い物ができましたね」ルンルン

勇者「それ、経費で落とすつもりなの? 王様、怒らないかな」

僧侶「大丈夫♪ 私たちには必要なものですよ」


僧侶さんはにこりと微笑んだ。
魔王討伐の旅にパズルが必要だなんて、聞いたことがないぞ。


僧侶「何ですか、その呆れた顔は。グリズリーの一件も、15パズルが関係していたじゃないですか」

勇者「まあ、確かにな」

僧侶「そ、そういうことだから必要なんです。決して、私の趣味ではありませんから//」


どうやら、そういうことらしい。


51
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:42:24 ID:CG33jvDA
魔法使い「勇者さま、僧侶さん。ただいまです~」

勇者「魔法使いちゃん、お帰り」

僧侶「魔術書は何か面白いのが見つかった?」

魔法使い「精霊魔術関連の研究論文がいっぱいありました。僧侶さんが喜びそうな魔法医学の本もありましたよ」

僧侶「そうなんだ。明日、お城に行って挨拶をしたら、帰りに本屋さんに寄りましょうか」

魔法使い「はいっ♪」

トントン

勇者「どうぞー」

宿の主人「勇者さま、夕食の準備が整いましたがいかがなさいますか?」

勇者「ありがとう。温かいうちに食べさせてもらうよ」


52
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:45:24 ID:CG33jvDA
~宿屋・盗賊たち~
襲撃をするための調査が終わり、盗賊たちは宿屋の視察にやってきた。
どの宿を利用しているかによって、プランが変わってくるからだ。


山賊A「どうやら、ここが勇者たちの宿みたいっす」

盗賊「勇者一行なら金銭が潤沢にあると考えていたが、安価な宿に泊まっているんだな」

山賊B「でも、おかげでやりやすいですよね」

盗賊「そうだな。お前たち、人が一番無防備になるのはいつか分かるか?」

山賊A「宿にいるときっす」

盗賊「いや、欲求を満たしているときだ。食欲、排泄欲、睡眠欲、性欲。だからこそ地位の高いものは、食事に毒を盛られるのを恐れ、枕を高くして眠ることが出来なくなる」

山賊B「仲間に女僧侶がいる時点で、毒は効果がないと思います」

盗賊「……だろうな。だから、俺たちは寝込みを襲撃する」


53
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:53:04 ID:CG33jvDA
山賊A「寝込みっすか?」

盗賊「やつらは今日、山を越えたばかりだ。相当、疲労しているはずだろ」

山賊B「そうですね」

盗賊「だからまず、全員で女子供を拘束して無力化する。そして気配を消したまま、勇者の寝込みを襲撃する」

山賊B「なぜ、女が先なんですか?」

盗賊「この国が派遣した先発隊を見て分かるとおり、勇者とは言ってもただの衛兵のはずだ。ならば、俺たちにとって恐ろしいのは剣術よりも精霊魔法だ」

山賊A「確かに、爆発魔法でのされたっす」


54
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 00:05:34 ID:qtvigy82
盗賊「それでだ、寝込みとはいえ魔法対策をしなければならない。相部屋の場合は、破魔の腕輪を使って女僧侶と女魔法使いの魔力を封印する」

山賊A「えぇっ! それって、今あるお宝でも高価なものじゃないっすか!」

山賊B「そうです! 口を塞げば、詠唱できないはずです! もったいないです!」

盗賊「そんな考えだから、山賊からスキルアップできないんだよ、お前たちは」

山賊AB「ぐぬぬ……」

盗賊「いいかい、王家の紋章にはそれだけの価値があるんだ。元を取れるなら出し惜しみをせず、ベストの状態で戦える作戦を考えろ」

山賊AB「了解っ!!」


55
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 20:16:11 ID:qtvigy82
~勇者の部屋~
僧侶「お肉と山菜の煮物、味付けが絶品でしたね♪」

勇者「ふきのおひたしも、だしを吸ってて美味しかったな~」

魔法使い「勇者さまと僧侶さんは、いつも食べ物の話ばっかりですね」

僧侶「だって、おいしかったじゃない。ねえっ」

魔法使い「勇者さま、今日はもう疲れました。眠たいです……」ネムネム


魔法使いちゃんはそう言うと、小さくあくびをした。
彼女はまだ子供だし、慣れない旅で疲れも溜まっているだろう。
旅の計画を話し合いたいと思っていたけれど、今夜はもう休んだほうが良いかもしれない。


勇者「慣れない旅が初日から山越えだったからな。疲れているだろうし、今夜はもう休もうか」

魔法使い「……はい」

僧侶「それじゃあ、魔法使いちゃん。一緒にお風呂に入ろっか。ここは温泉があるんだって♪」

魔法使い「そうなんですね。僧侶さん、一緒に行きましょう」


56
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 20:22:14 ID:qtvigy82
~宿屋・盗賊たち~
夜が深まり、盗賊たち四人は勇者が泊まっている宿屋に向かった。
外から見る限り、部屋の明かりはすべて消えている。


盗賊「勇者たちはもう寝静まったようだな。お前たち、行くぞ!」

山賊ABC「了解!」

盗賊「気配消去魔法! 良いか、見えなくなったり物音を消せるわけじゃないから、絶対に油断するなよ」


盗賊は山賊たちに忠告すると、忍び足で宿屋に侵入した。
そしてフロントから宿泊者台帳を盗み出し、勇者の部屋を割り出した。


山賊A「相部屋みたいっすね」

盗賊「ならば、プランAだ。女僧侶と女魔法使いの魔力を封印しよう」

山賊B「分かりました」


57
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 20:28:05 ID:qtvigy82
盗賊(よし、ここだな。お前たち、中に入るぞ!)


開錠スキルで錠を外し、ゆっくりとドアを開ける。
そして中に入ると、光のカーテンで部屋が二つに仕切られていた。
部屋がほのかに明るいおかげで、効率よく襲撃して家探しが出来そうだ。


山賊B(よく寝てますね。こっち側が、女の部屋みたいです)

盗賊(女の装身具は絶対に触るなよ。どんな魔法が込められているか分からんからな)

山賊C(分かっております)

盗賊(よし、女の口を塞げ!)


58
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 20:32:05 ID:qtvigy82
僧侶・魔法使い「?!」

盗賊(魔法は使わせないっ!)


女僧侶と女魔法使いを押さえ込み、二人に破魔の腕輪を装備させた。
すると魔力を吸われていることに気付いたのか、女魔法使いが暴れ始めた。


魔法使い「むぅむぅ!」ジタバタ

山賊C(こら、暴れるな)ボスッ

魔法使い「むぐぅ……」


山賊Cが一発殴ると、女魔法使いは大人しくなった。
その一方で、女僧侶は事の成り行きを静観している。
何かを企んでいるのか、それとも何も出来ないのか――。

恐らく後者だろうと、盗賊は考えた。
女僧侶とは、治癒や状態異常を回復する魔法しか使うことの出来ない落ちこぼれなのだ。
念のために魔力を封印しているが、厄介なのは女僧侶よりも女魔法使いだろう。


盗賊(気配消去魔法! これで女たちが発する恐怖心も、勇者に気取られん。死にたくなければ、大人しくしてろ!)


59
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 21:09:31 ID:qtvigy82
山賊C(親分、腕輪が壊れました)

盗賊(よしっ、魔力を吸い尽くしたようだな。勇者を襲撃するぞ!)


その言葉と同時、女僧侶が勇者に何かを投げつけた。
それがどこかに当たったらしく、女部屋に勇者の声が響く。
気配消去魔法で気配を消しているということは、盗賊たちに対しても気配を気取られにくいということだ。
余計なことをされると、面倒が増えることになる。


山賊B(おい、お前。今、何をしたんだ!)ガスッ

僧侶「むぅっ……」

山賊C(大丈夫です。まだ俺たちには気付いていません)


盗賊は念のために、隣で寝ている勇者の様子を窺った。
どうやら目が覚めたらしく、しきりに女部屋を気にしているようだ。
しかし右手に何かを持っているので、うかつに攻撃するわけにはいかない。


盗賊(お前たち、プランBに変更だ。女を連れ出せ!)

山賊A(了解っす!)

魔法使い「むぅむむぅ……」


60
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 21:16:15 ID:qtvigy82
~勇者の部屋~
勇者「……痛っ」


気持ちよく寝ていると、頭に衝撃を感じて目が覚めた。
身体を起こして辺りを見ると、枕元に僧侶さんが買った民芸品が落ちていた。
どうやら、これを投げつけてきたらしい。

はぁ、今日は寝相が悪いなあ。
俺はそう思いつつ、女性部屋を見遣った。


勇者「僧侶さん、起きてるんですか?」


声を掛けてみたが、返事はない。
まあ、寝ているのなら当然かもしれない。

そう思ったが、ふと違和感を感じた。
二人の気配がないのだ。
気になって女性部屋を覗き見ると、荒らされた跡があった。


61
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 22:27:00 ID:qtvigy82
勇者「しまった! 女を狙った人売りか!」


僧侶さんと魔法使いちゃんが攫われた。
さらに、武器や鎧も盗まれている。
この街に来る途中で山賊に遭遇したが、街の中まで治安が悪いとは考えてもいなかった。

しかし、何かが引っかかる。
俺たちがここに来たのは今日のことなので、人売りが周到な計画を立てていたとは考えにくい。
恐らく、この近辺を縄張りにしている山賊たちによる報復なのだろう。

それならば、どこかにアジトがあるはずだ。
俺はそう思い、防寒具を着て部屋を飛び出した。


62
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 22:27:00 ID:qtvigy82
~郊外~
二人はどこに連れて行かれたのだろう――。
そう考えて、街の外れに行く橋があることを思い出した。
もし山賊たちがアジトを構えるならば、人気のない郊外を選ぶはずだ。
そこに行けば、何か手掛かりが見つかるかもしれない。
他には当てがない訳だし、まずは郊外に行ってみることにした。

橋を渡ると家屋がまばらになり、少し寂れて廃屋が増えてきた。
どうやら、これらの廃屋を覗いて回るしかないようだ。


シュッ……


そう考えると同時、闇から鋭利な刃が伸びてきた。
俺は反射的に仰け反り、突き出されたダガーをかわす。


勇者「ぐっ!」

盗賊「上手く避けたな。やはり、さすがは国の衛兵ということか」


63
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 22:46:24 ID:qtvigy82
勇者「何者だ!」

盗賊「俺は盗賊だ」

勇者「盗賊? 女二人を攫ったのはお前か!」

盗賊「ああ、そうだ。王家の紋章を渡せば、二人は返してやる」

勇者「王家の紋章? お前みたいな人売りが、何に使うつもりなんだ」

盗賊「紋章を複製し、衛兵を襲う。そうすれば戦争が始まり、国が争う。その混乱に乗じて市場を握れば、莫大な利益を独占することができるって寸法だ。さあ、大人しく紋章を渡しやがれ!」

勇者「それを聞いて渡すわけがないだろ!」


そう言いつつ、俺は周囲の気配を探った。
近くに仲間が潜んでいる様子はなく、盗賊以外には誰もいない。
そうと分かれば、こいつから聞き出すのが手っ取り早い。


勇者「二人はどこだ!」

盗賊「どうやら、交渉は決裂のようだな。では、お前を殺した後でゆっくり探すとしよう」


64
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:08:57 ID:qtvigy82
盗賊はそう言うと、おもむろに歩み寄ってきた。
その自然な体運びは殺気を感じさせず、警戒心すら抱かせない。
そして気が付くと、腹部へとダガーを突き出されていた。


勇者「なにっ?!」


すんでの所で身を翻し、左腕でダガーをいなす。
そして、盗賊へと拳を繰り出した。
しかし避けられてしまい、近距離からダガーを突き出される。
それはわき腹を掠め、防寒具が赤く濡れた。


盗賊「勇者ってのは、この程度の体裁きも受けられないのかい」

勇者「こんな奴、初めてだ……。動きを読めない」


65
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:13:23 ID:qtvigy82
それもそのはずだった。
戦いでは攻める側も受ける側も、相手の動きを見て一瞬の隙を探っている。
その一瞬の隙を見つけたとき、人はわずかに感情が変化する。

そう、殺気が高まる――。

しかし盗賊は、気配を隠す魔法を使って戦っている。
感情の変化を悟られることなく攻撃し、また反撃することができるのだ。
相手の感情を読むことが出来ないことは、必殺の一撃を捉えることが出来ないことに等しい。

ただでさえ、武器を持たない丸腰なのだ。
その状態で気配を隠している相手と戦うのは、さすがに分が悪い。


66
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:22:16 ID:qtvigy82
盗賊「おらおら!」


盗賊はダガーを鞘に収めて構え直し、斬撃を繰り出してきた。
俺は太刀筋に集中し、その攻め手をいなし続ける。
そして攻撃の手が休まったところで、強引に中段蹴りをねじ込んだ。


盗賊「くそっ!」

勇者「殺気を感じられないだけなら、キラーマシンと同じだな。しかし機械と違って、人間には一拍の間がある。それを見切れば、受けられないことはない」

盗賊「はははっ。さすがだよ、勇者。だけどな、俺を機械人形と同じだと思わないほうがいいぞ!」

勇者「何度やっても同じだ。諦めて二人の居場所を教えろっ!」

盗賊「加速魔法!!」ギュゥン


盗賊は瞬発力を強化し、一気に駆け出した。
その思いもよらない急激な加速に、俺は反応が遅れてしまった。
わき腹を斬られ、激しい痛みが襲い来る。


67
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:33:30 ID:qtvigy82
勇者「ぐあぁぁっ!」

盗賊「急所を狙ったつもりだったが、この状況でとっさにかわせるとはたいしたもんだ。そら、もう一丁!」シュシュッ


俺は痛みに耐えながらも、突き出されるダガーをいなし続ける。
しかし、身体がしびれて避けきれなくなってきた。


勇者「ぐっ! 何だ、そのダガーは……」

盗賊「どうやら、効いてきたようだな。こいつには特製のしびれ薬が塗ってある」

勇者「しびれ薬だと……」

盗賊「そうだ。残念だけど、お前とはもうお別れだな」

勇者「くそっ……」


68
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:41:26 ID:qtvigy82
盗賊はダガーを鞘に収め、再び構え直した。
そうすることで、しびれ薬が刃に塗られるのだろう。


盗賊「死ねっ! 加速魔法っ!」ドギュンッ


盗賊はさらに加速して、闇に紛れて迫り来る。
俺は全力で拳を放ち、渾身の一撃を盗賊の鳩尾に撃ち込んだ。


盗賊「がはぁっ……」

勇者「加速をすればするほど、自分への打撃のダメージも大きくなる。詰めを誤ったな」


盗賊は腹を抱え、そのまま崩れ落ちた。
そして俺は全身がしびれ、立っていることが出来なくなった。


69
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:47:31 ID:qtvigy82
~盗賊のアジト~
山賊BC「お、親分っ!」


盗賊のアジトから様子を窺っていた山賊たちは、盗賊が倒れて声をあげた。
まさか、丸腰の勇者に負けるとは思っていなかったのだ。


山賊B「くそっ、親分に加勢して勇者をやっちまうぞ!」

山賊C「おうっ!」

僧侶「行かせませんっ!」バッ


アジトを飛び出そうとする山賊たちの前に、僧侶が立ちはだかった。
それを見て、山賊たちは驚いた。
手足を縄できつく縛りつけたはずなのに、自由になっているからだ。


山賊B「お前、どうやって縄をほどいた!」

僧侶「えへへ、緩かったんじゃないですか?」ニコッ

山賊B「ちっ! 女僧侶なんて、しょせん落ちこぼれの小娘だ。やっちまうぞ!」


70
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:52:42 ID:qtvigy82
僧侶「ふふっ、それはどうかしら? 即死魔法♪」

山賊B「ぐあああぁぁぁぁああっっ。や、やめてくれえっ……」


僧侶が即死魔法を行使すると、山賊Bはもがき始めた。
身をよじらせ、どさりと崩れ落ちる。
そして山賊Bは動かなくなり、全身が激しく痙攣し始めた。
すでに視線は定まっておらず、まったく生気を感じられない。
その衝撃的な光景に、山賊Cがおののいた。


山賊C「ひ、ひいぃぃぃっ」

魔法使い「む、むむぅっ……」

僧侶「今日、悪いことは止めるように言いましたよね。私、すごく怒っています。いっぱい、反省してくださいね」

山賊C「た、助けて。殺さないでくれ――」

僧侶「即死魔法っ!」ニコッ


71
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 19:39:46 ID:9tit5JYw
魔法使い「そ、僧侶さん。ふ、二人とも殺しちゃったの……?」


魔法使いは拘束を解いてもらうと、怯えたような表情で僧侶に話しかけた。
そんな彼女に対し、僧侶は笑顔を向けた。


僧侶「大丈夫よ、きつ~いお灸を据えてあげただけだから。殺めるということは、相手の未来の可能性を奪うことなの」

魔法使い「未来の可能性を奪う……ですか?」

僧侶「そうだよ。だけど、人も魔物も命で命が繋がっているでしょ。だからこそ、無益な殺生で命を無価値なものにしてはならないの」

魔法使い「無価値なもの……か」

僧侶「じゃあ、魔法使いちゃん。山賊たちが逃げないように手足を縛っておいてね。私は勇者さまを治癒してくるから」

魔法使い「は、はいっ」


72
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 19:40:54 ID:9tit5JYw
山賊たちを魔法使いに任せ、僧侶は勇者の下に駆け寄った。
勇者は腹部を斬られ、全身が麻痺して倒れている。


勇者「僧侶さん……、無事だったんだな」

僧侶「はい、魔法使いちゃんも無事です。ひどい怪我……。今から解毒をして、治癒しますね」

勇者「ありがとう」

山賊A「親分~。紋章、見つけたっすよ~」

勇者「ご苦労様。じゃあ、返してもらうよ」ニコ

山賊A「げっ、勇者っす……」


73
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 20:40:36 ID:9tit5JYw
~街中~
勇者「盗賊たちは番所に届けたし、一件落着だな」

魔法使い「あの、僧侶さん。ふと気になったんですけど、どうやって縄をほどいたのですか?」

僧侶「私は縄に使われている植物の組成を理解しているから、回復魔法の応用で破壊することが出来るの。それにあの程度の魔道具だと、魔力を空っぽにされる前に壊れちゃうしね」

魔法使い「じゃあ、いつでも山賊たちを倒すことが出来たんですか?!」

僧侶「まあ、そうなるかな。だけど、山賊たちが気配を消す魔法を使っていたから、他に仲間がいる可能性もあったわけだし――」

魔法使い「それじゃあ私……僧侶さんの足手まといになっていたんですね。熊退治を一度したくらいで思い上がっちゃって、私、私……」

勇者「俺と僧侶さんは、王様に仕えるために修行をしてきた。だから、未熟な魔法使いちゃんとはレベルが違う。策にはまって簡単に魔力を空っぽにされるようでは、足手まといになるに決まってるだろ」

魔法使い「うわあああぁぁん……」

僧侶「勇者さま、それは言いすぎです!」

勇者「でも才能があると確信したから、キミを連れて行くことを了承したんだ。まだ一緒に来るつもりがあるなら、僧侶さんからいろいろ学んで経験を積んでほしい」

魔法使い「勇者さま、私、もっと頑張ります。一緒に行きたいです……」

僧侶「魔法使いちゃん、宿に戻りましょう」


74
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 20:45:32 ID:9tit5JYw
~勇者の部屋~
僧侶「私たちの荷物は大丈夫みたいだけど、勇者さまの荷物は部屋中に荒らされてますね」

勇者「魔道師の装身具は危ない物も多いから、警戒したんだろ。はぁ、まずは片付けか」


着替えや道具、食料などなど。
旅袋に入れていたものが、部屋中に散らかっている。
ちなみに旅袋は転移魔法を応用した魔道具になっていて、たくさんのものが入る。


勇者「この民芸品は僧侶さんのだな。頭に投げつけてきたやつ」

僧侶「あわわ、頭に当たったんですか?! でも、狙い通りです!」

魔法使い「狙い通りって……」クスクス


75
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 20:54:19 ID:9tit5JYw
僧侶「そうだ、魔法使いちゃん。組木パズルは、みんなの絆を表しているんだよ」

魔法使い「みんなの絆……ですか?」

僧侶「はい。ただの木の球体に見えるけど、実はここのパーツが抜けるんです。そうしたら可動域が増えるから、次々とパーツが外れるようになるの」


そう言うと、僧侶さんは次々とパーツを外していった。
見る見るうちに、球体をしていた組み木がバラバラになっていく。


僧侶「私がいて、魔法使いちゃんがいて、勇者さまがいて……」

僧侶「街の人がいて、王様がいて、みんなで世界を支えているんです。だから絆を失い、誰か一人でも欠けてしまうと、全部のパーツがバラバラになって世界を支えることが出来なくなってしまうの」

勇者「絆のパズル……か。これも神の遺産なの?」

僧侶「今、思いつきました」ドヤッ

勇者「即興かよ!」


76
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 21:07:43 ID:9tit5JYw
魔法使い「あの、勇者さま。このカーテン、外そうと思います」

勇者「年頃の女の子だし、別に無理はしなくていいんだよ」

魔法使い「また襲われたときに気付いてもらえないと怖いし、その、勇者さまや僧侶さんとの絆を大切にしていきたいから……」

勇者「そうだね、絆を大切にしていこう。それで、僧侶さんはカーテンがなくて大丈夫?」

僧侶「私は大丈夫です。魔法使いちゃん、カーテンを外しましょうか」

魔法使い「はいっ」


魔法使いちゃんが障壁魔法を解除すると、光のカーテンは霧散した。
彼女との仕切りがなくなり、心の壁が取り払われたのだ。


魔法使い「勇者さま、僧侶さん。改めてよろしくお願いします」ペコリ


77
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 21:20:04 ID:9tit5JYw
魔法使い「それじゃあ、私もお片付けを手伝いますね!」

勇者「ありがとう。とりあえず、分別することから始めようか」

魔法使い「分かりました」


魔法使いちゃんはそう言うと、書物の整理を手伝ってくれた。
その一方で、僧侶さんはバラバラにした組木パズルと格闘している。


魔法使い「あれ? この本は……」

勇者「あっ! ちょっと待って」

魔法使い「え、エッチな本です// 火炎魔法!!」ゴーーッ

勇者「だあああっ、家から持ってきたお宝本がぁ!」

僧侶「あれっ?! 組み木がバラバラになったまま戻せません~」


78
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 21:25:04 ID:9tit5JYw
・・・
・・・・・・
魔法使いちゃんにエッチな本が見つかり、三人で作戦会議を開くことにした。
その話し合いにより、障壁魔法で男女別々に更衣室を作ることが決まった。
そして、新しいエッチな本を買っても良いことになった。


僧侶「ゆ、勇者さま。エッチなことをなさるときは、私たちがいないときにお願いしますね//」

魔法使い「そ、そうです! エッチな本は、私たちがいないときに読んでくださいね//」プンスカ

勇者「すみません。ご理解、感謝します……」ペコペコ

僧侶「ところで、いやらしい書物も経費で落とすのですか? 王様、怒りませんかねえ」

勇者「大丈夫! 俺たちには必要なものだよ」キリッ

魔法使い「はわわ……//」


79
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 21:30:09 ID:9tit5JYw
第2話 おわり

(一筆書き)
・ケーニヒスベルクの橋の問題

(組木パズル)
・12パーツ、球体


勇者「ドーナツの世界?!」第3話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第3話

81 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 19:56:31 ID:F8nr.j7M
第3話 命の作り方
~山すその街~
山すその街に来て、1ヶ月が過ぎた。
未だにこの街に留まっているのは、勇者さまがこの国で公務をすることになったからだ。

その関係で時間を持て余した私は、勇者さまの推薦で国家魔道師から指導を受けられることになった。
最初の頃はレベルが違いすぎて大変だったけれど、今では訓練メニューに付いていくことが出来る。
それはこの国で働く女魔法使いとして、最低限の実力を備えたことを意味していた。

こうして充実した毎日を過ごしている訳だけど、ひとつだけ悩んでいることがある。
しかし、それをなかなか言い出せないでいた。
そしてまた一日が終わり、私は僧侶さんと温泉に行った。


82
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:19:54 ID:F8nr.j7M
~女湯~
魔法使い「何だか、すっかり居付いちゃってますね」

僧侶「そうだね。でも山菜は美味しいし、温泉は広いし、医学書にも困らないし、良いこと尽くめだよ~」

魔法使い「そうですよね。実は今日、帰り道に僧侶さんが言ってたアイスを食べてみたんです」

僧侶「ええっ、あれを食べたの?!」

魔法使い「あれ、冷たい砂ですね……」

僧侶「でしょ、でしょっ!」

魔法使い「あれは駄目です!!」

僧侶「ガマラ砂漠をイメージしてたらしいけど、あれは失敗だよね」


83
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:23:54 ID:F8nr.j7M

魔法使い「ところで、勇者さまは今夜はエッチなことをなさっているのでしょうか?」

僧侶「わわっ、まさかの猥談?!」

魔法使い「そんなつもりじゃないです」アセアセ

僧侶「今さらだけど、私たちが一緒にお風呂に入るのは、そのためだよ」

魔法使い「で、ですよね……」

僧侶「だから、今日は一人でしているんじゃないかな//」

魔法使い「でもそれをしたら、いつもゴミ箱にその……終わった後のものが捨ててありますよね。それがどうしても嫌なんです」


私は勇者さまのおかげで、精霊魔法の指導を受けることが出来ている。
そのことは、とても感謝している。
だけど、それとこれとは話が別だ。


84
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:30:33 ID:F8nr.j7M
魔法使い「僧侶さん。勇者さまがエッチなことをしないように、禁止してしまうことは出来ないでしょうか?」

僧侶「何かに悩んでいるのは気付いていたけど、そのことだったんだ」

魔法使い「……はい。私、エッチな本を許すことが、そういう行為を許すことだなんて思いも寄らなかったんです。一人でしているだなんて気持ち悪いので、もう止めてほしいです」

僧侶「でもそれを禁止すると、勇者さまだけが我慢をすることになるんじゃないかな」

魔法使い「今は、私たちが我慢しています!」

僧侶「勇者さまも我慢をして、私たちを気遣ってくださってますよ」

魔法使い「私には、そうは思えません」

僧侶「でも、魔法使いちゃんは知らないでしょ。宿の奥様の計らいで、私たちが避妊具を受け取っていることを」

魔法使い「ええっ、避妊具ですか?!」

僧侶「そうだよ。それをずっと知らないでいられた事は、勇者さまが魔法使いちゃんを気遣ってくれている証拠にならないかなあ」


85
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:35:18 ID:F8nr.j7M
勇者さまと僧侶さんが避妊具を受け取っている。
そんなことは一言も話してくれなかったので、全然知らなかった。
もしかして、二人はそんな関係だったのだろうか。

そう思い、私はまじまじと僧侶さんの身体を見た。
豊満な胸と女性らしい曲線が、大人の魅力を感じさせる。
その身体は、すでに勇者さまを受け入れたことがあるのかもしれない。


魔法使い「あの、もしかして僧侶さんと勇者さまは――」

僧侶「私たちは、魔法使いちゃんが考えるような関係じゃないから」

魔法使い「そ、そうなんですね」


86
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:39:05 ID:F8nr.j7M
僧侶「それに私たちが避妊具を受け取ったとき、勇者さまは『信頼を失うようなことはしない』とおっしゃいました。本音では私と交わりたいのかもしれないけど、それを気取られないように努力してくださっています」

魔法使い「そんなこと、全然知らなかったです……」

僧侶「だから私は、勇者さまが信頼できる人だと思いました。殿方には必要なことだし、気付いていない振りをしてあげることは出来ませんか?」


男性にはエッチなことが必要だというのは、まったく理解できない。
だけど知らない場所で大人のやり取りがあり、それを知らないままでいられたことは大切にされている証拠なのかもしれない。


魔法使い「分かりました、もう少しだけ我慢します。男の人と暮らすのは、とても難しいですね」

僧侶「ありがとう。それでも我慢できなかったら、いつでも相談してね」

魔法使い「はいっ……」


87
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:41:05 ID:F8nr.j7M
~部屋~
僧侶「勇者さま、ただいまです」

魔法使い「……ただいま」


私たちは部屋に戻ってきて、ドアを開けた。
玄関部分には障壁魔法で目隠しを作り、玄関から中が見えないようにしている。
僧侶さんは『来客者に部屋を見せずに応対するため』だと説明していたけれど、本当は『私たちが帰ってきたときに、勇者さまがエッチなことをしていたら気まずいから』だと言っていた。
僧侶さんは勇者さまの性的な部分について、我慢ではなくて配慮をしているのだ。


僧侶「勇者さま、居ないみたいだね」

魔法使い「そうですね」

僧侶「じゃあ、部屋に入りましょうか」


88
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:43:50 ID:F8nr.j7M
魔法使い「そ、僧侶さん。やっぱり、今夜はエッチなことをなさっていたみたいです//」

僧侶「そういうことが苦手なら、ゴミ箱の中を見なければ良いのに」クスクス

魔法使い「だって、それはその――」

僧侶「じゃあ、ゴミ箱に布をかぶせましょ。こうすれば中が見えなくなるから、あまり気にならなくなるんじゃないかな」

魔法使い「そういえば、家のゴミ箱も布をかぶせているものがありました。それって、こういう意味だったんですね」

僧侶「じゃあ、それでいい?」

魔法使い「はい、そうします」


89
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:53:35 ID:F8nr.j7M
魔法使い「ところで、僧侶さん。避妊具って、どのようなものなんですか?」

僧侶「あー、そうか。話しちゃったもんね……」


そう言うと、僧侶さんは旅袋から避妊具を取り出した。
小袋がたくさん連なっていて、それを一つ切り離す。
そして小袋を破ると、中身を出して見せてくれた。


魔法使い「こ、これですか//」

僧侶「そうそう。これを勃起した殿方の陰部に乗せて、くるくるっと下ろしながら被せていくの。そうすれば、射精された精液を溜められるようになるでしょ」

魔法使い「そうやって使うんだ……//」


私は避妊具を受け取り、巻いてある部分をくるくると解いてみた。
すると、想像していた以上の大きさになってびっくりした。
そしてこれが、勇者さまの陰部と同じ大きさなのだ。
そう思うと、何だか恥ずかしくなってきた。

だけど、どうして男性はエッチなことをするのだろう。
こんなものまで用意をする意味が分からない。


90
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:56:57 ID:F8nr.j7M
魔法使い「……」ちらっ

僧侶「な、何?」アセアセ

魔法使い「僧侶さんは、『命を殺めることは未来の可能性を奪うことだから、無益な殺生で命を無価値なものにしてはならない』と言ってましたよね」

僧侶「そうだね」

魔法使い「だけどその、勇者さまがなさっているエッチなことや避妊することは、未来の可能性を奪っていることにはならないのでしょうか? 男性が女性の中で出すと、赤ちゃんが出来るんですよねえ」

僧侶「ん~、何て言えば良いのかなあ。命を繋ぐことと、命を宿すことは違うことなの」


僧侶さんは一冊の書物を取り出した。
それは神に仕える女僧侶らしく、創世神話の書物だった。
かなり古い神話で、精霊神話の前史に当たるものだ。


91
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:12:35 ID:F8nr.j7M
僧侶「えっとね、女性が新しい命を宿して出産するためには、約十ヶ月の妊娠期間が必要でしょ」

魔法使い「はい」

僧侶「だから子孫を増やしたい殿方は、妊娠期間中に別の女性と交わって命を宿せるように、いつでも射精できる身体を神様から与えてもらったの」

魔法使い「えっ、ひどい!」

僧侶「うん、ひどいよね。だから愛する殿方だけを受け入れたい女性は、どうすれば良いか考えました」

魔法使い「女性は何をしたのですか?」

僧侶「女性は神様に頼んで、一ヶ月に一度だけ命を宿すことが出来る身体にしてもらったの。そのせいで殿方は、女性がいつ命を宿せるのか分からなくなりました」

魔法使い「もしかして、それが生理なんですか」

僧侶「そうそう。月経は神様から与えてもらったものなんだよ」

魔法使い「へえ、知らなかったです」


92
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:20:53 ID:F8nr.j7M
僧侶「じゃあ女性に月経が来るようになって、殿方はどうしないといけなくなったと思う?」

魔法使い「いつ命を宿せるか分からないので、同じ女性と何度も交わらなければならなくなったと思います」

僧侶「そうなるよね。すると殿方は、一人の女性と交わっているうちに愛する心が芽生えたの」

魔法使い「男性が女性を愛するまでに、そのような神話があったんですね。なんだか面白いです」

僧侶「そこで終わればいい話だけど、まだ続きがあるんだよ。一人の女性を愛するようになった結果、殿方はどうなってしまったと思う?」

魔法使い「えっ、どうなってしまったのですか?!」

僧侶「いつでも射精できる身体を持て余すようになってしまったの」


93
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:27:35 ID:F8nr.j7M
魔法使い「あっ……。だから男性は、一人で射精しなければならなくなったんだ!」

僧侶「そういうことです。だけどそればかりでは、愛する殿方が浮気をしてしまうかもしれないでしょ。本来は、別の女性と交わるために与えてもらった身体なんだから」

魔法使い「……そうかも」

僧侶「だから妊娠しない方法を考えて、二人の愛情を深め合うために殿方を射精させるようになったの。その方法のひとつが、この避妊具なんです。これを使えば殿方と交わることが出来るし、他にも色んな方法があるんだよ」

魔法使い「お……大人の世界ですね。でも、それが男女が愛し合うということなんだ//」

僧侶「今話した神話が、魔法使いちゃんの疑問への答えになってますか?」

魔法使い「つまり神様から与えてもらった身体の仕組みだから、必ずしも未来の可能性を奪っていることにはならない、ということですか?」

僧侶「うん。宗教によって違いはあるだろうけど、私はそう考えているの」


94
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:41:56 ID:F8nr.j7M
魔法使い「勇者さまが頻繁に一人でなさるのは、相手がいないのに射精しなければならないからなんですね。何だか、神話を知るとすごく面白いです」

僧侶「そうでしょ。その言い方だと、悩み事も少しは解決した感じ?」

魔法使い「……はい//」


私は今まで、勇者さまが一人でエッチなことをするのは汚らわしいことだと思っていた。
しかし、それにはちゃんと理由があったのだ。
神様から与えてもらった身体の仕組みならば、それを理解してあげたいと思う。


魔法使い「僧侶さんのおかげで、男性の性欲を理解できました。愛し合うことがどういうことかも分かったし、勇者さまとの絆をもっと深めていきたいです」

僧侶「魔法使いちゃん。新しい命を宿すのは素敵なことだし、私たちも愛し合える殿方と出会って授かりたいものですね」

魔法使い「はいっ!」


95
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 20:49:50 ID:lv8KAiIc
勇者「二人とも、何を読んでるの?」

僧侶・魔法使い「!!」ビクッ


突然声がして、私たちは驚いた。
私は手に持っていた避妊具を慌てて隠し、勇者さまを見遣る。


僧侶「えっと、創世神話の書物を読んでいました」

魔法使い「そ、そうです」


バレてないよね?!
何だか気恥ずかしくて、ドキドキが止まらない。


勇者「二人は相変わらず勉強熱心だな。魔法使いちゃん、頑張ってね」

魔法使い「は、はいっ//」アセアセ


96
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 20:52:50 ID:lv8KAiIc
僧侶「ところで、勇者さま。そこのゴミ箱なのですが、今後は布をかぶせることにしました」

勇者「えっ、なんで?」

僧侶「その……私事ですが生理の日が近くて……。性的なことって、お互いにあまり見られたくないじゃないですか」アセアセ

勇者「あぁ、そっか。気が回らずにすみません」

僧侶「魔法使いちゃんもそれでいい?」

魔法使い「えっ? あっ、はい……」


目配せをされて、私は慌てて頷いた。
悩み事が解消したことを知っているから、クッションを挟んで暗に伝えてくれたのだ。
こうして、僧侶さんはいつも気配りをしてくれている。
そんな僧侶さんを見て、私もそうありたいと思った。


97
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:17:52 ID:lv8KAiIc
勇者「話を変えるけど、そろそろ二人に話しておかないといけないことがあるんだ」

僧侶「話しておかないといけないことですか?」

勇者「今週でこの国での公務が終わるだろ。その後ここの都を出て港町に向かうわけだけど、草原を抜けたら砂漠を横断することになるんだ」

僧侶「魔法使いちゃんのことを考えると、夏の砂漠は避けたいですよね。草原を抜けて赤道を越えると、季節が夏になりますから」

勇者「かといって、草原と砂漠を迂回をすると熱帯雨林を通ることになるんだ。集落はあるだろうけど、街を拠点にしながら旅をすることが難しくなると思う」


勇者さまはそう言うと、世界地図と気候区分の世界地図を広げた。
私はそれらの地図を覗き込み、まじまじと見比べた。
この街を東に進めば、気候が厳しい場所を避けて海辺の街に行くことが出来そうだ。
しかしその場合は、温帯とはいえ冬の山岳地帯を越えることになる。
豪雪の可能性もあるし、そこを行くのは無理かもしれない。


98
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:22:13 ID:lv8KAiIc
僧侶「熱帯雨林は伝染病も心配ですよね。治癒魔法では治せないし、街を拠点に出来ないのは危険だと思います」

勇者「だったら、砂漠を行くしかないな」

僧侶「そうですね。この経路を通れば、砂漠を十日くらいで越えられそうです。その後は、大河を船で下るのですか?」

勇者「ああ。川を下って、海に出るつもりだ。草原や砂漠には街があるから、それを拠点にしながら進めば子供がいても無理なく行けると思う」

僧侶「勇者さまは、夏の砂漠の横断経験はありますか?」

勇者「この国とは同盟関係だし、その関係で何度か遠方訓練をしていたから提案したつもり」

僧侶「そうなんですね。じゃあ、そうしましょう」


どうやら、砂漠を通ることに決定したようだ。
砂漠を通るなら、たくさんの水が必要になるはずだ。


魔法使い「あの、私は水精霊の魔法を使えますよ!」

勇者「そうだね、期待してるよ」

魔法使い「はいっ!」


99
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:29:29 ID:lv8KAiIc
~草原~
勇者さまの公務が終わり、私たちは山すその都を後にした。
次の目的地である港町は、草原と砂漠を越えた場所だ。
かなり遠い場所にあるので、野営をしながら南下していくことになる。

私にとって、連日の野営は初めての経験だった。
食事や睡眠、トイレの方法。
戸惑いや羞恥心がたくさんあったけれど、慣れるしかない。
気候は南下するにつれて温暖になり、途中で経由する街に着くたびにほっとした。

そして山すその都から二十日ほどが過ぎ、ようやく草原の街にたどり着いた。
この次は砂漠まで街がないので、ここで砂漠を横断するための装備を整える必要がある。
水や食料はもちろん、日差しと砂の侵入を防ぐローブも購入しなければならない。
夏の砂漠は、それほど厳しいらしい。

ちなみに、この街の名産品はもっちりした小麦だ。
僧侶さんが街の人から聞きだした有名店で食べたパスタは、スパイシーなソースが程よく絡んで美味しかった。


100
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:36:43 ID:lv8KAiIc
~ガマラ砂漠~
草原を抜けると、次第に足元が砂へと変わってきた。
灼けた砂と厳しい日差しが、砂漠を歩く者をじりじりと焦がす。
さらに熱風が砂を巻き上げ、容赦なく吹きつける。
それは子供に対しても遠慮をしてくれない。

カランカラン。
カランカラン――。

私が着ているローブには、木製の鈴が付けられている。
いわゆるカウベルだけど、女性用のローブに着けることを前提とした、おしゃれなデザインの物だ。
それが歩くたびに、カランカランと大きな音が鳴る。

カランカラン。
カラン、カラ……ン――。

テンポよく鳴っていた鈴の音が、少し遅れて鳴った。
厳しい日差しと熱のせいで、確実に体力を奪われている。


101
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:51:21 ID:lv8KAiIc
勇者「少し休もうか」

魔法使い「私はまだ歩けます……」カラコロ

勇者「だめだ、もう日が高い。日が傾いたら、また歩こう」

魔法使い「……はい」

勇者「魔法使いちゃん、こっちにおいで」


勇者さまは座り込み、右腕を上げてローブを広げた。
日差しと熱風をさえぎることの出来る場所は、その中だけだ。
私は気恥ずかしさを感じつつも、勇者さまに身体を預けることにした。


勇者「ほら。恥ずかしがらずに、もっと隣へ」

魔法使い「……はい//」カラン


102
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 22:12:54 ID:lv8KAiIc
僧侶「勇者さま。一度、魔法使いちゃんに水の魔法を見せてもらいませんか?」

魔法使い「水の魔法ですか?」

僧侶「ええ。私たちの中で精霊魔法を専門にしているのは、魔法使いちゃんだけですし」

勇者「そうだな。見せてもらっておこう」

僧侶「じゃあ、この水筒を満タンに……」サッ

勇者「まさか、一本目を全部飲んだのか?!」

僧侶「のどが渇いたので、つい。でも、空っぽはこれだけです」アセアセ

勇者「はぁ、僧侶さんを注意深く見てないといけなかったのか」


103
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 22:12:54 ID:lv8KAiIc
魔法使い「じゃあ、やってみます。水精霊召喚!!」


水精霊を召喚すると、空気中の水分が凝縮した。
その水を制御し、水筒に注ぐ。
勇者さまはそれを持ち上げると、ちゃぷちゃぷと振ってみた。


勇者「う~ん、グラス半分くらいかな」

魔法使い「すみません。砂漠がこんなにも水精霊の力が弱まる場所だなんて、思いも寄らなかったです……」

僧侶「そんなこと無いよ。この半分が貴重なんだから」ゴクゴク

勇者「僧侶さん、また飲みすぎだって……」

僧侶「魔法使いちゃん、ありがとう」


104
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:28:45 ID:lv8KAiIc
~ガマラ砂漠・深夜~
僧侶「勇者さま、まだ起きていたのですか? 魔物の気配もありませんし、お身体に障りますよ」

勇者「そうだな。それにしても、魔法使いちゃんはすごいよ。この乾燥した砂漠で水を出せるとは、正直思ってなかった」

僧侶「そうですよね。並みの魔道師なら、水一滴すら出せないと聞きます。私も試してみたけど、魔法使いちゃんのようには出来ませんでした」

勇者「僧侶さん、精霊魔法を使えるんだ」

僧侶「精霊魔法が使えるとは言っても、水と風だけですけどね。魔法医学を極めるには、精霊魔術の知識も必要なんです」

勇者「そうなんだ。じゃあ、僧侶さんはあえて女賢者にならなかったのか」

僧侶「そうですよ。女賢者に比べると、待遇面で不利になることが多いですけどね」

勇者「まあ、女僧侶って治癒魔法しか使えないイメージだしな」

僧侶「よく言われます。でも、勇者さま――」


それならば、どうして私と二人旅をしようと思ったのですか?
そう聞こうとして、僧侶は言いよどんだ。


勇者「んっ?」

僧侶「いえ、何でもありません。勇者さまも早く寝たほうが良いですよ。おやすみなさい」

勇者「ああ、僧侶さん。おやすみ」


105
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:32:35 ID:lv8KAiIc
~砂漠の街~
砂漠を歩き始めて五日が過ぎたところで、ようやく街が見えた。
街にはオアシスがあるはずなので、身体を休めることが出来そうだ。


魔法使い「勇者さまぁ、やっと街に着きましたね!」カランカラン

勇者「魔法使いちゃん、よく頑張ったね。砂漠はここで折り返し地点だよ」

魔法使い「まだ折り返し地点かあ。でも、草原から歩きっぱなしだったことを思えば楽勝ですね」

勇者「そうだな、もう楽勝だな」

魔法使い「ところで、僧侶さん。ここの名物はタジン鍋ですよね」

僧侶「そうそう、オオトカゲの肉とたっぷりの野菜! ヘルシーで美味しいらしいよ」

魔法使い「オオトカゲの肉ってはじめてです」

僧侶「私もだよ。楽しみだね~♪」

勇者「二人とも、鍋は逃げないから先に宿を探そうか」


106
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:41:28 ID:lv8KAiIc
~宿~
勇者「ローブを着ていても、体中が砂まみれだな」

魔法使い「あの、ここにはシャワーなどはないのでしょうか?」

勇者「近くにオアシスがあるから水は豊富だけど、それでも貴重な資源なんだ。今から水を買ってくるから、濡れタオルで身体を拭くといいよ」

魔法使い「あっ、水が豊富にある場所なら、買わなくても精霊魔法を使えますよ」

僧侶「街でそのようなことをするのは、ずるいんじゃないかな。皆さん、井戸で水を買っているのですよ」

魔法使い「そ、そうですね……」

勇者「では、行ってきます」

魔法使い「待ってください、私も一緒に行きます」カランカラン


107
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:55:57 ID:lv8KAiIc
魔法使い「砂漠の街でも、いろいろな食べ物が売られているんですね」

勇者「環境は厳しいかもしれないけど、草原の街や港町からキャラバンが物資を運んでくるから。夏じゃなくて春や秋に来れば、もっと賑わっていたと思うよ」

魔法使い「そうなんだ。ちょっと遅すぎましたね」


春や秋ということは、キャラバンたちも暑い夏は避けているのかもしれない。
この暑さの中、大量の物資を運ぶのは大変なのだろう。
そう考えながら歩いていると、いつの間にか水屋に着いていた。
店主と警備員の男性が、二人で井戸の前に立っている。


魔法使い「こんにちは、お水を買いに来ました!」カランコロン

水屋「お嬢さん、こんにちは」

勇者「すみませんが、勇者割引は使えますか?」

水屋「エルグ王の紋章ですね。こんな季節に来られるとは、さぞ大変だったでしょう」

勇者「まあ、任務ですから」

水屋「キャラバンも避ける季節に横断とは、ご苦労様です。水代は半値でお売りできますが、いかがなさいますか」

勇者「じゃあ、その20リットルの容器に1本、お願いします」

水屋「1本ですね。ありがとうございます」


108
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:57:57 ID:lv8KAiIc
~部屋~
魔法使い「僧侶さん、ただいまです」

勇者「ただいま」

僧侶「お帰り。街はどうだった?」

魔法使い「思っていたより、いろいろな物が売られていました。ついでに、タジン鍋が美味しい店も聞いておきましたよ」

僧侶「そうなんだ。さすが、魔法使いちゃん」

魔法使い「それじゃあ、私は身体を拭こうと思います」

勇者「水は大切に使ってくれよ」

魔法使い「はい、障壁魔法!」


私は手桶に水を入れ、障壁魔法を展開した。
そして衣服を脱ぎ、濡れタオルで砂を拭き取った。
最初は首回りや肩だけかと思っていたけれど、細かい砂は胸部まで入り込んでいるようだ。

スキンケアもしないといけないし、きれいに拭き取るのは大変だな――。

そう思いつつ、私は身体に付いた砂を丁寧に拭き取っていく。
そして土精霊の魔法で取り除いてしまえば良いと気付いたのは、着替えが終わった後のことだった。


109
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:55:57 ID:lv8KAiIc
~部屋・翌朝~
トントン

宿の主人「勇者殿、おはようございます」

勇者「おはようございます。朝食ですか?」

宿の主人「いえ、勇者殿に客人が訪ねて来られています」

勇者「客人? 今、開けますね」ガチャ

――「おはようございます。水売りの店主から聞いたのですが、あなたがエルグの国の勇者ですかな?」

勇者「そうですが、どなたですか?」

富豪「おぉ、これは失礼。私はこの街一番の成金で、富豪という者です」

勇者「富豪さんですか。それで、こんな朝早くに一体どのようなご用件でしょうか」

富豪「実は娘が病に臥しまして、勇者殿ならば治すことが出来るのではないかと思い、ここに訪ねたしだいです」


110
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 00:02:45 ID:PiCE.oRw
勇者「申し訳ありませんが、我々は医師ではありません。お引取りください」

富豪「お連れの方に女僧侶がいらっしゃるはずです。この街の医師では、もう治せんのです。どうか、一度診ていただけないでしょうか。謝礼ならば、いくらでも払います!」

僧侶「勇者さま、お話だけでも聞いてみませんか」

富豪「ぜひ、お願いします。そちらのお嬢さんが、女僧侶ですよね」


富豪さんはそう言うと、私に期待の眼差しを向けてきた。
その思いも寄らない言葉と視線に戸惑い、私は慌てて言葉を返す。


魔法使い「私は女僧侶ではなくて、女魔法使いですよ」アセアセ

僧侶「あの、私が女僧侶です」

富豪「それは大変申し訳ありません。水売りから、女僧侶は少女だったと聞いていたもので……」

僧侶「それでは、病気の娘さんの所に案内していただけますか」

富豪「おお、娘を診ていただけるのですね。ありがとうございます」


111
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 10:10:41 ID:PiCE.oRw
~富豪邸~
勇者と僧侶は、病気の娘がいる富豪邸に向かった。
そして案内された部屋に入ると、年頃の娘がベッドに臥していた。


僧侶「この娘さんですね」

富豪「そうです。娘よ、こちらの方が昨日話していた僧侶殿だ」

娘「ゼイゼィ、僧侶……ゲホッゲホッ……さま」

僧侶「ひどい熱、それにこの炎症は――。治癒魔法!」

娘「ゼイゼイ……、スゥスゥ」

富豪「おおっ、娘の呼吸が楽になった。娘、娘ぇっ!」

僧侶「あ、あのっ」

富豪「僧侶殿、ありがとうございます!」


112
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 10:38:22 ID:PiCE.oRw
僧侶「富豪さん。申し訳ありませんが、私ではこの病を治すことが出来ません。炎症を治癒したので治ったように見えますが、また再発するでしょう」

富豪「そんな、やはり駄目なのか――」

僧侶「すみません。私たちが持っている薬草を処方出来ればと考えていたのですが、その病にはあまり効かないのです。抗菌作用が極めて強い薬草があれば治せるのですが、キャラバンは秋まで来ないですよね」

富豪「……はい。治癒魔法では完治させられないのですか?」

僧侶「私たち僧侶は、対象とする生物の組成や毒物の構造を理解することで、治癒魔法や解毒魔法を行使することが出来ます。特に治癒魔法は一般的に人を対象としているので、組成を理解していない生物や、生物ではないものには魔法の効力が届かないのです」

富豪「つまり、魔法が効かない何者かが娘に取り付いているせいで、完治させることが出来ないということですか?」

僧侶「おっしゃる通りです。そして、そのウイルスを選択的に攻撃して治癒させるために、先ほども言いました薬草が必要なのです」


113
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 10:42:59 ID:PiCE.oRw
執事「旦那さま。やはり泉に行って、薬草を摘んでくるしかないのではないでしょうか。どなたに診せても、薬草と答えるばかりです」

富豪「しかし、あそこは魔物が出るようになった。今は誰も近づけんぞ」

執事「ですがこの方々は、エルグの国の勇者殿一行ですよ」

富豪「おお、そうだったな。勇者殿、ぜひ薬草を摘んできてはくれないだろうか」

勇者「それは構いませんが、魔物とはどういうことですか」

富豪「ここ半年ほど前から、街の近くの泉で屍が襲ってくるようになったのです。それで討伐隊を雇って向かわせたのですが、未だに解決の糸口が見えておりません」

勇者「屍が襲ってくる?」

富豪「私は見ていないので何とも言えませんが、そのように報告を受けております。報酬を上乗せしますので、そちらの調査もお願いできますか」

勇者「分かりました」


114
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 11:14:31 ID:PiCE.oRw
~オアシス~
僧侶「この辺りは野菜畑になっているみたいだね」

魔法使い「ここで街に必要な薬草を育てれば良いのに……」カランカラン


私は疑問に感じつつ、辺りを見回した。
この周辺は野菜畑が区画されていて、砂漠とは思えないくらい青々と成長している。
薬草が不足しているなら、ここで育てればいいのだ。


勇者「畑で作物以外のものを育てると、自給率が下がるだろ。薬草は自生しているものだし、薬師相手でない限り栽培する農夫は少ないよ」

魔法使い「そうなんですね」

勇者「畑を抜けると、富豪さんが言っていたポイントだ。薬草が摘めるのはその先だから、気を引き締めて行こう」

僧侶・魔法使い「はいっ」


115
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 11:18:55 ID:PiCE.oRw
シュシュシュシュッ!

野菜畑を抜けると、砂地から何かが飛んできた。
すかさず、勇者さまが剣を抜いて叩き落す。
そして何が飛んできたのか確認すると、それは動物の骨だった。


勇者「動物の骨?」


勇者さまが怪訝そうに言うと同時、砂の中から人間の骸骨が飛び出してきた。
それはカタカタと音を立て、まるで生きているかのように動いている。
しかもそれは一体だけではなく、次々と砂の中から湧き出してきた。
そして骸骨たちは、おのおの剣やヤリなどの武器を手にして隊列を組んだ。


僧侶「うそでしょ。まさか、本当に屍の魔物だったなんて……」

魔法使い「あの人たち、死んでるんですか。それとも、生きているのですか?!」

僧侶「骨だけなのに、生きているわけがないでしょ。こんなの不条理です!」


116
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 11:44:47 ID:PiCE.oRw
勇者「二人とも、来るぞ!」


その言葉と同時、一体の骸骨がヤリを構えて駆け出した。
勇者さまはその剣先を払い上げ、同時に切りかかる。
そして繰り出した斬撃で脊椎を吹き飛ばすと、骸骨はあっけなく崩れ落ちた。

それを合図に、ヤリを持った骸骨たちが一斉に駆け出してきた。
剣ではとても捌ききれる数ではない。


僧侶「防御魔法!!」


一時的に強化された鎧が、受け損じたヤリを受け止めた。
その間に、勇者さまが剣に風をまとわせる。
そして力強く斬り払うと、骸骨たちはカラカラと音を立てて崩れ落ちた。

するとその骨の山を飛び越えて、剣を構えた骸骨が勇者さまに切りかかった。
勇者さまは、それを剣で受け止める。
そしてつばぜり合いを繰り広げていると、倒したはずの骸骨たちが再び立ち上がらんとしていた。


117
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:01:47 ID:PiCE.oRw
勇者「こいつら、骨だけなのにどうやって動いているんだ……。倒しても復活するなら、切りがないぞ!」

僧侶「どうやって動いているのか興味深いですけど、人骨ならば破壊できます!」

勇者「人骨を破壊?」

僧侶「行きます……、破壊魔法!!」


僧侶さんが魔法を詠唱すると、骸骨たちがさらさらと粉になって風に舞った。
そしてあっという間に、わらわらと沸いていた骸骨たちはすべて飛散してしまった。


魔法使い「す、すごい……」

僧侶「人体の組成を理解しているから、回復魔法をちょっと応用するだけでこういうこともできちゃうの」

勇者「ある意味、魔道師で一番怖いのは女僧侶じゃないのか?」

僧侶「うふふ、実はそうかもしれませんよ」


118
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:10:11 ID:PiCE.oRw
魔法使い「それじゃあ、薬草を摘みに行きませんか。魔物の調査はもう終わりですよね」

僧侶「うん、そうだね。早く薬草を摘んで、娘さんの病気を治してあげましょう」

魔法使い「はいっ」

勇者「僧侶さん!」


骸骨たちを一掃して安心していると、勇者さまが唐突に僧侶さんに飛びついた。
そしてその勢いのまま押し倒し、僧侶さんに覆いかぶさった。


僧侶「えっ、ええっ?!」


その声と同時、僧侶さんが立っていた場所から砂塵が巻き上がった。
勇者さまが飛び掛かっていなければ、そのまま飲み込まれていたかもしれない。
そして標的を仕留めそこなった砂塵は、まるで竜のごとく意思を持っているかのように、勇者さまと僧侶さんに襲い掛かってきた。


119
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:18:11 ID:PiCE.oRw
勇者「魔法使いちゃん、攻撃っ!」

魔法使い「は、はいっ! 爆発魔法!!」


ドオォォーーーン!!

砂塵が爆発し、盛大にはじけ飛んだ。
そのせいで、舞い散った砂が大量に降り注いできた。


僧侶「ちょっと、魔法使いちゃん!」

魔法使い「わわっ! 疾風魔法!!」


私は慌てて強風を巻き起こし、落ちて来る砂を吹き飛ばした。
ふう、危うく砂まみれになるところだったわ。
そう思いつつ前髪をかき上げると、僧侶さんが不機嫌そうな顔になった。


僧侶「どんな魔法でも同じだけど、もう少し結果を考えてから使ってよね。そうでないと、さらに危険な状況になることがあるから」

魔法使い「ご……ごめんなさい」

僧侶「今度から気を付けてね」

魔法使い「はいっ!」


120
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:32:55 ID:PiCE.oRw
勇者「二人とも、まだだ! まだ魔物の気配は消えていないぞ!!」

魔法使い「えっ?!」


猛烈な砂塵が巻き上がり、今度は三つ首の砂竜が現れた。
しかもその砂竜は、骸骨たちが武器にしていた剣やヤリを取り込んで全身に携えている。
もし爆発魔法を使うと、全身の刃物が飛び交うことになりそうだ。


勇者「俺たちの攻撃パターンに合わせて、成長しているのか? こんな魔物は、今まで聞いたことがないぞ!」

僧侶「私も聞いたことがないです。もしかして、土精霊そのものが襲ってきているのでしょうか」

勇者「それだと、骸骨の説明がつかないだろ」


三つ首の砂竜が牙を剥き、鋼の刃を向けて襲い掛かってきた。
こんなの、なすすべがない。


勇者「させるかっ! 大地斬」


勇者さまが斬りかかろうと構えた瞬間、砂竜がヤリを飛ばしてきた。
それをかろうじてかわし、勇者さまが砂竜の首元に斬撃を加える。
しかし、砂の体はダメージを受けた様子がない。
射出したヤリも砂の中に沈んでいき、砂竜に回収されてしまった。


121
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:42:55 ID:PiCE.oRw
僧侶「魔法使いちゃん、砂竜を倒せないなら動きを止めることは出来ない?」

魔法使い「そうですね。考えてみます!」


そうは言ったものの、凍結魔法で拘束することは出来そうにない。
日差しが強すぎて、氷がすぐに溶けてしまうからだ。
砂竜の動きを止めるには、直接固めるしかないだろう。


魔法使い「土精霊召喚! 石化しろっ!!」


あらん限りの魔力を注ぎ込むと、砂竜が土となり石となった。
そして石像のように固まり、動かなくなった。


魔法使い「や、やった……」

勇者「魔法使いちゃん、よくやった! 今のうちに薬草を摘みに行こう。ここの魔物は危険すぎる」

魔法使い「はいっ」


122
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:20:19 ID:PiCE.oRw
~オアシスの丘~
砂地を抜け、野草が茂る丘にやってきた。
あの砂竜以外に新しい魔物が追って来ることはなかったし、落ち着いて薬草を摘むことが出来そうだ。


魔法使い「あれ……?」カランカラン


丘に足を踏み入れると同時、どこかから不思議な魔力を感じた。
これは確か、神の遺産に施されていた魔力と同じものだ。


勇者「どうかしたの?」

魔法使い「何だか、不思議な魔力を感じるんです。多分、裏山の洞窟で感じた魔力と同じだと思います」

僧侶「つまり、神の遺産があるということね」

勇者「じゃあ、それを探し出そう。あのとき、グリズリーは空間を越える能力を手にしていた。それと同じように、神の遺産が骸骨や砂竜に影響を及ぼしているのかもしれない」

僧侶「そうですね。魔法使いちゃん、探し出しましょう!」


123
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:37:56 ID:PiCE.oRw
魔法使い「多分、この辺りだと思うのだけど……。あ、ありました!」

僧侶「これはタングラムですね」


僧侶さんはそう言うと、タングラムを拾い上げた。
7片のピースが正方形の枠に収まっていて、それが透明のケースに入っている。
それを見て、勇者さまが不思議そうに言った。


勇者「タングラムは子供のおもちゃだろ。これも神の遺産なのか?」

僧侶「はい、子供のおもちゃですよ。だけど、タングラムは15パズルと同じで、実は神の遺産なのです」

勇者「全然知らなかった。じゃあ、これにはどんな意味が……」

僧侶「タングラムは大中小の三角形5片と、正方形が1片、平行四辺形が1片の計7片で構成されているパズルですよね。この7片には意味があって、木火土金水と太陽、月を表しているのです」

勇者「それって、もしかして占星術?」

僧侶「はい、そうです」


124
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:41:26 ID:PiCE.oRw
僧侶「占星術は人や国の運命、天変地異を予見するための魔術です。それを占うためには、人や世界を理解する必要があります。そしてそれは、占星術以外の魔術も同じなんです。だから様々なものを形作ることが出来るタングラムは、魔術の基本元素を学ぶおもちゃとして利用されることが多いのです」

勇者「なるほど……。それで、そのタングラムが要求していたシルエットは?」


タングラムは、指定されたシルエットの形を作って遊ぶパズルだ。
僧侶さんはケースを開けて、同封されていたカードを取り出した。


魔法使い「鋭角的だけど、これはハートのシルエットですね」

勇者「神の遺産的には、どういう意味なんだろう」

僧侶「きっと、魔術で新しい命を生み出そうという意味でしょうね。だから骸骨が生きているかのように動いたり、砂が命を持ったかのように襲ってきたのかもしれません」

勇者「なるほどな……。とりあえず、急いで薬草を摘んで街に戻ろう。あの砂竜が復活して、石化に対処して襲ってきたら面倒だ。そのパズルの魔力を解放するのは、宿に戻ってからにしよう」

僧侶「分かりました」


125
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:51:46 ID:PiCE.oRw
~富豪邸~
薬草を摘んで街に戻り、勇者と僧侶は富豪の邸宅に向かった。
魔法使いは一足先に宿に戻り、神の遺産を解いている。


勇者「富豪さん、ただいま戻りました」

富豪「おおっ、さすが勇者殿だ。大量の薬草をありがとうございます。それで、魔物のほうはどうでしたか」

勇者「動きを封じておきましたが、安全になったとは言いがたいです。そして関連性があるかは不明なのですが、魔力の宿った神の遺産を発見しました。そのため、それを解析しているところです」

富豪「魔力の宿った神の遺産ですか? 何か分かれば、追加で報告をお願いします」

勇者「了解しました」

僧侶「それでは、娘さんにこの薬草を煎じて飲ませてあげてください。炎症は治まっているので、三日ほどで完治させることが出来るでしょう。薬さえあれば、この街の医師でも変わらず治療することが出来ると思います」

娘「僧侶さま、勇者さま、本当にありがとうございました」

富豪「本当に娘を助けてくれてありがとうございました。これは現時点の謝礼です。魔物の件、追加報告をお待ちしております」

勇者「確かに受け取りました。娘さん、お大事になさってください」

娘「はいっ。私も勇者さまのご武運を祈っております」


126
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:56:39 ID:PiCE.oRw
~部屋~
勇者「魔法使いちゃん、ただいま~」

僧侶「ただいま♪」

魔法使い「お帰りなさい」

勇者「どう? そのシルエットは完成しそう?」

魔法使い「全然だめです。どうしても、ピースが余ってしまうんです」


二人が富豪邸に行っている間に、私はシルエット通りのハートを作ることが出来た。
しかし、平行四辺形のピースが余ってしまったのだ。
その後も試行錯誤を繰り返してみたけれど、やはり何らかのピースが余ってしまう。
7片をすべて使うという制約がある以上、これを解くことは不可能なのだ。


僧侶「タングラムパラドックスかな? 今度は私がやってみるね」

魔法使い「いいですよ。やってみてください」


127
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:12:55 ID:PiCE.oRw
魔法使い「あの、勇者さま。少し気になったことがあるんですけど、誰が何の目的で、このようなものを仕掛けたのでしょうか」

勇者「もしかすると、魔王が暗躍を開始したのかもしれないな」

魔法使い「でも、そのような者が仮にいたとして、なぜ砂漠の都に魔力を込めたタングラムを用意したのでしょうか」

勇者「どういうこと?」

魔法使い「15パズルが示していたドーナツ世界が目的ならば、砂漠に用事はないはずですよね。そもそも、15パズルを使って示唆する必要もないと思います」

勇者「それは魔王の存在を印象付けるためじゃないかな。言うなれば、恐怖させるためだ」

魔法使い「それならば、裏山の洞窟に落ちていた必然性がありません。砂漠でも同じでしたけど、無造作に落ちていたじゃないですか」

勇者「そうだけど、魔物が活発化していただろ。魔法使いちゃんの村では、グリズリーに困っていたじゃないか。副次的な効果かもしれないけど、村や砂漠の泉、そこに魔物が出現するだけで国は滅びてしまうんだ」

魔法使い「魔物の影響で国が滅びる――」

勇者「まだ二例目だし、分かっていないことが多い。極南の地を調査すれば、すべての答えがはっきりするだろうな」

魔法使い「そうですね……」


128
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:39:39 ID:PiCE.oRw
勇者「ところで、僧侶さん。魔術で命を作り出すことが出来ないなら、教会が蘇生魔法で死者を蘇らせることも出来ないんじゃないの?」

僧侶「ああ、それは違いますよ。蘇生魔法は新しい命を作る魔法ではなくて、生きようとする力を取り戻す魔法なんです」

勇者「生きようとする力を取り戻す?」

僧侶「はい。ですから、病気で亡くなった方や天寿を全うされた方、肉体の欠損が激しく死を受け入れてしまった方などは、教会でも蘇らせることは出来ません。それが運命だからです」

勇者「そうなんだ、それが蘇生魔法か……。僧侶さんは使えるの?」

僧侶「はい、もちろんです!!」

勇者「それは頼もしいね」

僧侶「でも実はですね、簡易な事例ならば魔法を使わなくても、心肺蘇生法という技術で誰でも蘇生術を行うことが出来るのです」

勇者「へぇ、魔法を使わずに蘇生か。興味深い話だね」

僧侶「勇者さまもぜひ教会の講習会に参加して、蘇生術を学んでみてください」


129
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:46:04 ID:PiCE.oRw
魔法使い「それで、タングラムは完成しそうですか?」

僧侶「これ、無理だね。他のハート型なら作れたけど、シルエット通りに作るとピースが余るみたい」

魔法使い「答えがないって、どういうことでしょうか」

僧侶「これがなければ、完成なのに……」


そう言いながら、僧侶さんは平行四辺形のピースを弄んだ。
親指と人差し指で挟んで持ち、くるくると回している。
何をやっているんだろうと思いつつ見ていると、僧侶さんは小さく笑った。


魔法使い「何か分かったんですか」

僧侶「このピース、点対称なのに重心が偏っているんです」

魔法使い「重心?」

僧侶「それがヒントだったみたい」

勇者「僧侶さん、もったいぶらないで教えてくれよ」

僧侶「うふふ// 勇者さま、ひらめきませんか?」


130
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:59:15 ID:PiCE.oRw
僧侶「魔術で新しい命を作り出すことは出来ません。なぜなら、命を宿すことが出来るのは女性だけだからです。殿方と愛し合い、そして結ばれて、私たち女性は新しい命を授かります。だから……」


僧侶さんはそう言いつつ、ハート型に組み替えたタングラムの上に平行四辺形のパーツを立てた。
それは、思いも寄らない発想だった。


僧侶「これを矢に見立てれば、ほらっ♪ ハートに矢が刺さって、とても素敵ではないですかぁ//」

勇者「いやいや、素敵とか関係なくて、重ねたらタングラムにならないだろ」

僧侶「でも、シルエット内に収まってますよ」


確かに、上から見るとシルエットに収まっている。
そう思った瞬間、ハートが輝き始めて魔力が解放された。


僧侶「えへへ、これが正解ですっ!」

勇者「マジか!! あの魔物たちはもう出現しなくなったのかな。明日の朝、確認しに行こう」

僧侶「そうですね。富豪さん、すごく喜びますよ」


131
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 21:10:54 ID:PiCE.oRw
私はタングラムを解いて喜ぶ僧侶さんを見詰めた。
そして、僧侶さんの言葉を思い出した。

僧侶『これを矢に見立てれば、ほらっ♪ ハートに矢が刺さって、とても素敵ではないですかぁ//』

その発想が私には出来なかった。
ルール的にだけではなく、感性的に思い付かなかったのだ。
それをすぐに思い付いた僧侶さんは、恋愛に憧れている女性なのかもしれない。
その対象は、勇者さまだったりするのだろうか。


魔法使い「恋愛のタングラム……か。私は――」チラリ

勇者「魔法使いちゃん、どうかしたの?」

魔法使い「い、いえ。何でもありません//」


132
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 21:13:48 ID:PiCE.oRw
第3話 おわり

(シルエットパズル)
・タングラム
※ハート型のシルエット


勇者「ドーナツの世界?!」第4話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第4話

134 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 21:39:29 ID:cF/CTLzM
第4話 魔法はいらない
~港町~
タングラムの魔力を解放した翌朝、魔物が消えたことを確認した私たちは富豪さんに報告をして街を出た。
そして一週間ほど砂漠を歩き、ようやく港町に到着した。


魔法使い「大河って、すごいですね。川の向こう岸が見えないです!!」カランカラン

僧侶「あっ、あそこ見てみて。泳げるところがあるみたい」

魔法使い「本当だあ。砂まみれだし、川で泳ぎたいです!」カラン

僧侶「勇者さま、みんなで泳ぎに行きませんか」

勇者「いいねえ。でも、二人は水着を持ってるの?」

僧侶「あっ……。出発したときは冬でしたし、水着を持っていないです」

魔法使い「私も持っていません」

勇者「まあ、そうだよな……」


135
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 21:48:35 ID:cF/CTLzM
勇者「じゃあ、今日は準備をして、泳ぎに行くのは明日にしようか」

僧侶「それが良いですね。後で水着を買いに行ってきます」

魔法使い「僧侶さん、一緒に選びましょう!」

僧侶「そうだね、一緒に行こっか。勇者さまも、水着を準備しておいてくださいね♪」

勇者「了解っ。じゃあ、サクッと宿を決めようか」

僧侶「はい。ガイドブックによれば、あの宿は鯉料理が絶品だそうです」

魔法使い「草原に放牧しているヤギさんも名物ですよ」

勇者「ずっと干し肉ばかりだったからなあ。今夜は魚を食べて、明日は肉を食べに行こう!」

僧侶「新鮮なコイ、楽しみです♪」


136
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 22:47:34 ID:cF/CTLzM
~宿・女湯~
魔法使い「久しぶりのお風呂、気持ち良いな~」


砂漠にいたときは身体を洗うことが出来なかったし、街に行っても濡れタオルで拭くことしか出来なかった。
久しぶりの湯船は、本当に気持ちが良い。


僧侶「水が貴重な土地があれば、砂漠に囲まれながらも水が豊富な土地もある。何だか、考えさせられるよね」

魔法使い「そうですね。でも、なぜ砂漠の街の人は港町に引越ししないのでしょうか?」

僧侶「魔法使いちゃんも私たちと出会わなければ、エルグの村から出て旅をすることはなかったでしょ。それと同じじゃないかな」

魔法使い「そっか、そうかもしれないですね」


私が住んでいた村は物資が充実していない代わりに、川魚や白菜がとても美味しい。
そして砂漠の街は水が不便だったけど、タジン鍋がとても美味しかった。
周りの人には不便に見えても、そこに住んでいる人にしか分からない良さがあるのだ。
だから皆、生まれ育った場所で暮らしているのかもしれない。


137
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 22:56:56 ID:cF/CTLzM
僧侶「ところで魔法使いちゃんは、勇者さまのことをどう思ってるの?」

魔法使い「えっ……。そ、それは……//」


私はきゅんと胸が締め付けられた。
どう思っているのかと聞かれると、何だか答えるのが恥ずかしい。
すると照れていることに気付いたのか、僧侶さんがニヤニヤと笑みを浮かべた。


僧侶「ほら、魔法使いちゃん。山すその都にいた頃と比べて、勇者さまを見る目が変わったよね」

魔法使い「えっと、その……。山すその都にいた時は、一人でエッチなことばかりしているのを見て、嫌になっていました」

僧侶「そうだよね。あのとき、すごく悩んでいたもんね」

魔法使い「それで帰りたいって思っていたんだけど、僧侶さんのおかげで大切なことなんだと知ることが出来ました。最近は野営が続いてずっと一緒にいるけど、勇者さまは夜中にしているみたいで、それが何だか微笑ましく感じてしまうんです」

僧侶「そうなんだ。気持ちの余裕が出来た感じだね」

魔法使い「はい。それに砂漠ではたくさん気遣ってくれて、こうして無事に横断することも出来ました。私はそれをすごく感謝していて、今はまた勇者さまに憧れています//」

僧侶「そっか、憧れの人なんだ……」

魔法使い「私がそう思っていることは、まだ内緒ですからね//」


138
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:20:04 ID:cF/CTLzM
魔法使い「ちなみに、僧侶さんはどう思っているんですか?」

僧侶「わ、私っ?! 私が一緒に居るのは、仕事仲間だからだよ」

魔法使い「私にだけ言わせて、僧侶さんは誤魔化すんですか。そんなの、ずるいです」


私は僧侶さんに好奇の眼差しを向けた。
それに耐えかねて、僧侶さんは照れくさそうに口を開いた。


僧侶「何て言えば良いかな……。勇者さまって食べることが好きでしょ。そういうところが、一緒にいて気が合う人だなと思ってる」

魔法使い「一緒にいて気が合う人……か」

僧侶「うん。それに勇者さまは、魔法使いちゃんを連れて一ヶ月もの過酷な長旅を成功させたでしょ。もし子供が出来たら、勇者さまはこんな風に守ってくれるんだなと考えたら、いつの間にかそういう目で見るようになってしまって――」


その言葉を聞いて、僧侶さんは大人だなと思った。
まだ付き合っていないのに、子供が出来たときのことも考えている。
それが大人の恋愛なのかもしれない。


僧侶「こういう話をすると、少しのぼせちゃうね。そろそろ上がって、水着を買いに行きましょうか」

魔法使い「はいっ。私、負けませんからね!」


139
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:25:18 ID:cF/CTLzM
~街中~
魔法使い「港町って、お店がたくさんありますね」

僧侶「貿易の拠点になっている街だからね。きっと珍しいものがたくさんあると思うわよ」


その一言で、珍しいものを探すお店巡りが始まった。
ドレスや織物は色使いに文化を感じられたり、大河をモチーフにした装身具や小物も売られている。
この街は水を連想させる雑貨が多いようだ。


魔法使い「僧侶さん、これを見てください。ビンの中に船が入ってますよ」

僧侶「ほんとだ。えっ、どうやって入れたんだろ?!」

魔法使い「転移魔法ですかねえ」


140
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:26:18 ID:cF/CTLzM
雑貨屋「お嬢ちゃん方。これはボトルシップと言って、小さい部品を一つ一つビンの中で組み立てて作るんだよ」

魔法使い「えっ、すごいです! 転移魔法かと思いました!!」

雑貨屋「人間は魔法に頼らなくても、工夫をすれば色んなことが出来るものさ。どうだい、ひとつ記念に買っていくかい?」

僧侶「私たちは旅の途中なので、壊れやすそうなものは買えなくて……」

雑貨屋「それは残念だね。また帰りに寄っておくれ」

僧侶「はい、もちろんです」

魔法使い「次はどこに行きますか?」

僧侶「変わった雑貨を探すのも良いけど、そろそろ水着も探しましょうか。ちょうど、水着屋さんがあるみたいだし」

魔法使い「そうですね。どんな水着があるのか楽しみです。可愛い水着がいっぱいあると良いですよね~♪」


141
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:39:17 ID:cF/CTLzM
~水着屋~
水着屋さんに入ってすぐ、私は顔を赤面させた。
さまざまな商品が展示されているけれど、どれも下着のようにしか見えないからだ。
この地域の人は、本当にこんなものを着て川遊びをしているのだろうか。

もしかすると、エッチなお店に入ってしまったのかもしれない。
そう思って店を出ようとすると、店員さんがやってきた。


婦人「いらっしゃいませ。ここは素敵な水着が揃ってますよ」

魔法使い「あ、あの……。私が知っている水着は、ワンピースタイプの繋がった水着なんですが……。これって、どう見ても下着ですよねえ」アセアセ

婦人「もしかして、旅のお方ですか?」

魔法使い「はい」

僧侶「私たちはエルグ地方から来ました」

婦人「そうでしたか。この地域は砂漠に囲まれていますよね。だから、身体に付いた砂を洗い流すために、生地がどんどん小さくなっていったのです。この街では、ビキニタイプが普通なんですよ」

僧侶「そ、そうなんですね……。どうする? やめる?」

魔法使い「わ、私は挑戦します! ぶ、文化の違いを受け入れます」

僧侶「えぇぇっ!」


142
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:49:53 ID:cF/CTLzM
婦人「お年頃のお嬢様には、こちらのかわいい水着がおすすめです。ビキニタイプや、パレオの付いた水着など、オーソドックスなものが人気ですよ」

魔法使い「わわっ// 下着みたいだけど、どれもデザインが可愛いです」

僧侶「あ、あの、私は……」

婦人「そうですねぇ。適齢期の女性は、どなたもこちらの水着を着用します。お客様はバストが大きいので、それを主張させるためにV字水着やモノキニ、紐ビキニはいかがでしょうか。大変似合うと思いますよ!」

僧侶「これなんて、は、裸じゃないですかぁ。無理です、むりっ!」

婦人「では、こちらの溶ける水着はいかがでしょうか。生地が多いものもありますし」

僧侶「生地が多くても、溶けたら意味がないじゃないですかっ//」

婦人「とりあえず、お二人とも試着をなさってみてはいかがでしょう。見た目のイメージと違って、実際に着てみると印象が変わるかもしれませんよ」


確かにそうかもしれない。
試着させてもらえるなら、気になる水着を着てみよう。


魔法使い「じゃあ、私はこれを着てみたいです。僧侶さんも、試着くらいなら良いじゃないですか。試しに着てみましょうよ」

僧侶「……そうだね。店員さん、そのデザインの水着を着てみます」

婦人「どうぞどうぞ。ご自由にご試着なさってください」


143
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:54:18 ID:cF/CTLzM
~部屋~
魔法使い「勇者さま、ただいまです」

僧侶「ただいま~」

勇者「二人とも、お帰り。街はどうだった?」

魔法使い「お買い物、楽しかったです」

僧侶「ねえ、まさか試着させてくれるとは思わなかったよぉ~//」

魔法使い「僧侶さん、途中から変なスイッチが入ってましたよね」


僧侶さんは新しい水着を試着するたびに、大事なところを隠す面積が小さくなっていった。
それなのに店員さんとデザインの話ばかりしていて、もう完全に雰囲気に飲まれているようだった。


僧侶「だって、一番魅力的なものが欲しいじゃない//」

魔法使い「それはそうだけど……」

勇者「何だか、二人の水着姿が楽しみだな」


144
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 00:12:30 ID:gqBAfkEc
僧侶「ところで、勇者さま。これを見てください」

勇者「えっ、ちょっ、何だよこれ!!」

僧侶「ボトルシップというものです」

魔法使い「んなっ、いつの間に買ったの?!」

僧侶「えへへ、帰りにふら~っと」

魔法使い「うわー。旅の帰りじゃなくて、買い物の帰りに買っちゃったんだ」

僧侶「だって、欲しかったんだもん」

魔法使い「でも僧侶さん、壊れやすそうなものは買えないって言ってませんでしたか?」

僧侶「ふふんっ、防御魔法を常時展開しておけば、船が壊れないことに気付いたの!」ドヤッ

魔法使い「あぁ、なるほど……」


145
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 00:17:45 ID:gqBAfkEc
勇者「それにしても、この船。ビンの口よりも大きいのに、どうやって入れたんだろ」

僧侶「ビンの中で、一つ一つ組み立てたそうですよ。他にもトランプが箱のまま入っているものがあったり、とても不思議でした」

勇者「へえ、面白いな」

僧侶「ですよね! ここの民芸品で、不可能物体や不可能ボトルと呼ばれるそうです」

勇者「不可能物体か……。この民芸品は、魔法がなくても工夫をすれば成し遂げられる。そんな事を教えてくれるのかな」

僧侶「はい。店の主人がそのようなことをおっしゃっていました。ビンの中に船を入れようだなんて、土地柄が現れていて素晴らしいですよね」

勇者「ちなみに、水着だけじゃなくてボトルシップも経費で落とすつもりだったりしないよな」

僧侶「水着は装備品です。ボトルシップは、私の趣味だから必要なものです!」

勇者「まぁ、いつものことか。ところで次の出立だけど、三日後に海を渡る客船が出るらしいんだ。それの予約を取ってきたから」

僧侶「三日後の船ですね、分かりました。それでは、鯉料理を食べに行きましょう♪」


146
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 00:26:38 ID:gqBAfkEc
~夕食~
部屋から大広間に移動すると、間もなく鯉料理が運ばれてきた。
鯉の洗いに鯉こく、鯉のから揚げとメインの塩焼き。
そして最後に、大皿の上に乗ったお刺身が運ばれてきた。


魔法使い「僧侶さんっ! この大皿のお刺身、鯉の口がパクパクしていますよ」

僧侶「それは活造りだって」

魔法使い「活造りですか……。生きたまま食べるなんて残酷だと思います」

僧侶「だよね……。私たちが殺めてから食べる料理でしょうか?」

勇者「いや、生きたまま食べるみたい」

魔法使い「食べようとしたら、暴れますよ! それに、私を見ているみたいです」ビクビク

僧侶「本当に生きたまま食べるのですか?!」

勇者「食べないなら、俺が全部食べてしまうから」

僧侶「ええっ、それはずるいです。鯉さん、命をいただきます」

魔法使い「い、いただきます……」


147
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 00:30:37 ID:gqBAfkEc
・・・
・・・・・・
魔法使い「一時はどうなるかと思ったけど、すごく美味しかったです」

僧侶「この地域の人は、毎日食べているのかなあ」

勇者「活造りは腕のいい職人しか作れない、最高のおもてなし料理みたいだよ。だから、特別な日にしか食べないんじゃないかな」

僧侶「えっ、ちょっと待って。それじゃあ、鯉専用の治癒魔法を施して調理しているわけではないんですか?!」

勇者「治癒魔法で半殺しにして食べるのは、それこそ残酷じゃないか」

僧侶「……ですよね。食文化にこれほどの違いがあるとは、とても驚きました」

勇者「少しでも新鮮なお刺身を食べたくて、活造りを考え出したんだろうな。人の食へのこだわりは、本当に留まるところを知らないな……」

僧侶「そうですね。明日も楽しみです♪」

魔法使い「僧侶さん。ヤギ料理を堪能できるように、たくさん泳いでお腹を空かさないとですね!」

僧侶「あはは、そうだね。水着も買ったし、明日はたくさん泳ぎましょ」

魔法使い「はいっ」


148
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 21:16:30 ID:gqBAfkEc
~河原(砂浜)~
次の日、私たちは遊泳広場にやってきた。
大河は川幅がとても広く、そのスケールの大きさにただただ圧倒されてしまう。
遊泳範囲が決められているとはいえ、思う存分に楽しめそうだ。
私と僧侶さんは急いで更衣室に行き、水着に着替えて勇者さまと合流した。


魔法使い「勇者さまぁ~」トテトテ

勇者「えっ、魔法使いちゃん?! それって……」


私の水着姿を見て、勇者さまは驚いた。
まさか下着のような水着を着てくるとは思っていなかったのだろう。
その視線は胸元に集中し、少し困っているようだ。
寄せて上げた胸を見られるのは恥ずかしいけれど、何だか気持ちがいい。


魔法使い「これはビキニという水着なんです。どうですか?」クルッ

勇者「か、過激すぎじゃないかな……」

魔法使い「この街では、これが控えめだそうです//」

勇者「そ、そうなんだ。可愛いと思うよ」

魔法使い「ありがとうございます。勇者さまも水着姿が凛々しいです//」


149
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 21:25:42 ID:gqBAfkEc
僧侶「あ、あのぉ//」

勇者「僧侶さん、何それっ!」


僧侶さんが声をかけると、勇者さまの視線が釘付けになった。
はにかんだ笑顔とは対照的な、扇情的でいやらしい水着姿。
ほとんどが紐のV字水着で、ボトムの紐はウエストを抜けてトップスに繋がっている。
もはや裸同然で、バストトップとIラインしか隠せていない。


僧侶「お店の方が、あぶない水着ばかり勧めてくださって……。その中でもこの極細スリングが特に巧妙で、胸元でクロスさせる着方も出来るんです。それがまた、すっごくセクシーなんですよ//」ポヨンッ

勇者「セクシーって言うより、エロすぎだろ!」

僧侶「だって、そういう水着ですから//」

勇者「分かったから、ちょっと一人にさせてくれないかな……」

僧侶「もしかして、興奮しちゃってますか?」

魔法使い「えっ、そうなんですか?!」

勇者「そ……そんな訳ないだろ」アセアセ

僧侶「魔法使いちゃん、川に逃げましょ!」

魔法使い「あはは、勇者さまのえっち~」


150
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 21:57:10 ID:gqBAfkEc
僧侶「魔法使いちゃん、いっくよ~!」ジャブジャブ

魔法使い「わわっ、冷たいっ」

勇者「いやあ、いいなあ// 本当にみんなエロ水着を着てるのか。あの娘はブラを着けてないし、ここはパラダイスだな!」

僧侶「勇者さま、どこを見てるんですか。全部、聞こえてますよ!」プンスカ

勇者「うわっぷ、水を掛けるなって」

僧侶「えいえいっ」ジャブジャブ

勇者「おおっ! それ、もう少しで見えそう//」

魔法使い「むかっ! 水精霊召喚、いっけ~!!」

勇者「いや、それはちょっと待て!」


ゴオォォォ・・・
ザバァァンッッ!!


勇者「うごぉぉっ……」げほっげほっ

僧侶・魔法使い「……」


151
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 22:06:44 ID:gqBAfkEc
勇者「おいっ、お前ら。覚悟は出来てるんだろうなあ」

魔法使い「僧侶さん、逃げましょう!」ダッシュ

僧侶「勇者さまぁ、捕まえてごら~ん♪」

魔法使い「捕まえてごら~ん」

勇者「くそっ、待ちやがれっ!!」


僧侶「うふふ……」ユサユサ

魔法使い「あははは」キャッキャッ


勇者「ほらっ、僧侶さん捕まえた。次は魔法使いちゃん」ぎゅっ

僧侶「いやぁん……捕まりました」

魔法使い「はあっ、楽しかった~」

勇者「あっ……//」


152
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 22:20:02 ID:gqBAfkEc
魔法使い「あわわ// 僧侶さん、見えちゃってますよ!」

僧侶「きゃああぁぁぁっっ」アセアセ

魔法使い「勇者さま、見ては駄目です!!」


私は慌てて勇者さまの背後に回り、両手で目隠しをした。
その間に僧侶さんが水着を直す。


僧侶「ねえ、見ました?」

勇者「いやっ、何も見てないから」

僧侶「お身体に変化があるようですが……。勇者さま、見ましたか?」

勇者「見ました」

僧侶「ま、まあ、今回は許してあげます。あまり、他の女の子ばかり見ないでくださいね」プイッ

勇者「僧侶さん、ごめん。ところで魔法使いちゃん、背中に胸が当たってるんだけど……」

魔法使い「す、すみません//」


153
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 23:06:59 ID:gqBAfkEc
魔法使い「僧侶さん、あまり激しい動きは止めたほうがいいですね。また脱げちゃいそうです」

僧侶「ふふっ、魔法使いちゃんは子供だね//」

魔法使い「えっ?」

僧侶「この水着は、殿方を興奮させるための水着なのよ。これで隠せるとは考えていないし、簡単に脱げてしまうのは当たり前だから」

魔法使い「……!!」

僧侶「でも水着がずれないようにしておかないと、思いっきり遊べないわね。やっぱり、勇者さまに見られたら恥ずかしいし……」

魔法使い「そうですよ。僧侶さんはここの雰囲気に飲まれすぎです!」

僧侶「それは魔法使いちゃんも同じでしょ。私も文化の違いを受け入れて、思いっきり楽しむことにしたの」

魔法使い「そう言われると私たち、すでに溶け込んでいますよね」

僧侶「そういうことだから、少し更衣室に行ってくるわね」


154
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 23:12:35 ID:gqBAfkEc
僧侶さんが更衣室に行き、私は勇者さまと二人きりになった。
そう、憧れの勇者さまと二人きり。
告白する勇気はないけれど、この機会に今までのお礼だけはしておきたい。
私はそう思い、勇者さまに話しかけた。


魔法使い「……あの、勇者さま//」

勇者「ん?」

魔法使い「この一ヶ月、特に砂漠ではありがとうございました。無事にここまで来ることが出来て、とても感謝しています」

勇者「魔法使いちゃんこそ、よく頑張ったと思うよ。それに俺は魔法使いちゃんと一緒に旅をしていて、笑顔でいてくれることがすごくうれしいんだ。いつもありがとう」

魔法使い「私も勇者さまと旅をするのが大好きです//」


私はそう言って、勇者さまに肩を寄せた。
そして少しはにかんだ表情で、腕を絡ませる。


勇者「ほら、恥ずかしいから、そんなにくっつかない//」

魔法使い「でも、砂漠ではもっと隣に来るように言ってましたよ」

勇者「いやいや、ここは砂漠じゃなくて砂浜だから!」


155
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 23:19:58 ID:gqBAfkEc
魔法使い「実は私、山すその都にいたとき、すごく悩んでいました」

勇者「そのことは俺も気になっていたんだ。詳しいことは知らないけど、僧侶さんが相談に乗ってくれたんだろ」

魔法使い「はい、おかげで悩みは解決しました。僧侶さんのこと、優しいからすごく好きです」

勇者「まあ女僧侶だし、人を癒すことが仕事だからな。それで、どんなことに悩んでいたの?」

魔法使い「それは女の子の秘密ですよ// あっ、噂をすれば僧侶さんが戻ってきましたね」

勇者「そうみたいだな。しかも遠くから見たら、何も着てないように見えるし……」

魔法使い「勇者さまって、本当にエッチなことが好きですよね~」

勇者「ははっ……」

魔法使い「でも勇者さまのそういうところ、嫌いじゃないです。私の胸は柔らかいですか//」

勇者「そ、それはまあ女の子だし――」

魔法使い「ふふっ// 僧侶さ~ん、こっちこっち!」

僧侶「ただいま。もしかして、戻ってくるのが早かったとか?」

魔法使い「ううん、そんなことないです。感謝の気持ちを伝えていただけですから//」

僧侶「そうなんだ。じゃあ、そろそろお腹が空いてきたし、焼きそばを食べましょうか! 聞いた話では、定番の食べ物なんだって」

魔法使い「焼きそば、楽しみです♪」


156
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:01:48 ID:3SLPXBo.
お昼時ということもあり、『川の家』というお店はとても賑わっていた。
遊泳広場内にあるので、男女ともに水着姿の人が多い。
男性の視線が気になりつつ注文した焼きそばを待っていると、ものの数分で焼きそばが運ばれてきた。
ソースの香りが食欲をそそる。


魔法使い「これが焼きそばなんですね。あっ、キャベツが入ってますよ」

僧侶「魔法使いちゃん、苦手だったっけ?」

魔法使い「いえ……。今夜はヤギ料理だし、ふと川渡り問題を思い出しました」

勇者「川渡り問題?」

魔法使い「はい。狼とヤギ、キャベツを川の向こう岸に運ぶ問題です」

僧侶「ロケーションにぴったりだね。続き続き♪」


157
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:13:37 ID:3SLPXBo.
魔法使い「それじゃあ、問題を出しますね。僧侶さんはすぐ分かると思うので、勇者さまが考えてみてください」

勇者「分かった」

魔法使い「農夫がキャベツとヤギ、狼を運んでいます。その途中で、川に着きました。その川を渡るには、舟を漕ぐしかありません。しかしとても小さい舟なので、一種類ずつしか向こう岸に運ぶことが出来ません」

魔法使い「さて、農夫がいなければ狼はヤギを襲ってしまい、ヤギはキャベツを食べてしまいます。どうすれば、すべて向こう岸に運ぶことが出来るでしょうか?」

勇者「狼は檻に入れておくべきだし、キャベツも箱に入れておけば食べられないだろ」

魔法使い「それを言ったら、お仕舞いじゃないですか。魔物の事件にはパズルが関わっていたし、細かいことを気にせず考えてみてください」

勇者「そうだな。とりあえず、最初はヤギを連れて行くだろ。そして戻ってきて、キャベツを運ぶ。だけど、そのまま戻るとキャベツを食べられてしまうから、ヤギを連れて戻る。次は狼を連れて行って、最後にヤギを連れて行けば正解かな」

魔法使い「ピンポーン♪ それを期待してました。最短手順は7手です」

勇者「それくらいなら簡単だな」ドヤッ


158
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:20:09 ID:3SLPXBo.
僧侶「じゃあ、次は私から出題するね。浜辺にちなんで、カァカァと賑やかなからす算もいいけど、リンド・パピルスのパズルなんてどうかな」

魔法使い「おおっ、由緒正しいパズルじゃないですか!」

勇者「どんなパズルなんですか?」

僧侶「最古の数学パズルと呼ばれていて、算術の面白さを教えてくれるパズルです」

勇者「へぇ、算術の面白さか」

僧侶「それでは問題です。長いので、よく聞いてくださいね」

僧侶「この街には水着屋さんが7店舗あって、それぞれ7種類のあぶない水着を取り扱っています。各種類のあぶない水着は、それぞれ7人の美女に販売されました」

僧侶「その美女たちは家に衣装ケースを7箱ずつ持っていて、その衣装ケースにはそれぞれ7枚ずつエッチなランジェリーが入っています」

僧侶「さて、これらの数を合計するといくつになるでしょうか?」


159
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:23:42 ID:3SLPXBo.
魔法使い「ええ~っ、どうしてそんなアレンジをするんですか?!」

僧侶「勇者さまのいやらしい妄想が捗るかなって思って//」

魔法使い「確かに、そういうことが好きかもしれないけど……」

僧侶「それで勇者さま、答えは分かりましたか?」

勇者「単純に35じゃないんだよな」

僧侶「それだと数ではなくて、数字を足したことになります」

勇者「あぁ、そっか。7店舗のお店が、それぞれ7種類のあぶない水着を取り扱っているから、水着は49種類あるのか。その水着がそれぞれ7人の美女に販売されたから――」

僧侶「あっ、考え方が分かったみたいですね」

勇者「まあな。でもこの問題は、紙とペンがないと計算できないじゃないか」


160
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:25:17 ID:3SLPXBo.
僧侶「もし答えられたら、もう少しサービスしちゃいますよ//」

勇者「今日の僧侶さん、何だか乗り乗りだな!」


勇者さまはそう言うと、いやらしい視線を僧侶さんの豊満な胸に向けた。
バストトップしか隠しきれていない水着は、近くで見るとつんと立っていることが分かる。
それに気付いてにやけている勇者さまを見ていると、何だか気分がもやもやしてきた。


魔法使い「7店舗のお店がそれぞれ7種類の水着を取り扱っているから、水着は49種類あることになります。その水着はそれぞれ7人の女性に販売されたから、購入した女性は343人です」

魔法使い「そして衣装ケースは2401箱で、ランジェリーは16807枚あることになります。それらを足し算すると、合計19607です」

勇者「これは答えられないな。魔法使いちゃん、暗算が得意なんだ」

魔法使い「はい、7桁くらいまでなら楽勝です」

僧侶「じゃあ、サービスは魔法使いちゃんにしてあげないといけないわね」

魔法使い「な、何か分からないけど結構です。焼きそばを食べましょうよ」

僧侶「あはは、そうだね」


161
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 20:12:48 ID:3SLPXBo.
・・・
・・・・・・
焼きそばを食べ終えて雑談していると、外から悲鳴のような声が聞こえてきた。
大河で何かがあったらしく、人々の声がガヤガヤと騒がしい。
一体何があったのかと思って外に出ると、男性が勇者さまに話しかけてきた。


男「しびれくらげだ! 人が溺れているらしいから、今は近付かないほうがいい」

勇者「しびれくらげ?」

男「ああ、あんたたちは観光客か。そいつに刺されると、身体が麻痺して溺れてしまうんだ。普通は遊泳範囲に来ることはないんだが、魚を追って侵入してきたのかもしれん」

僧侶「それは大変ですね。勇者さま、私に出来ることがあるかもしれませんし、救助を手伝ってきます!」

勇者「そうだな、頼む」

魔法使い「あっ、待ってください! 私も行きます!」


162
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 21:39:07 ID:3SLPXBo.
僧侶「魔法使いちゃん、あそこみたいだね」

魔法使い「そうですね。私、女性を助けてきます!」

僧侶「助けるって、どうやって? 勝手なことをすると逆に――」

魔法使い「水精霊、風精霊召喚! 力を貸してください!!」


私は水の表面張力を操作し、風の力を利用して水面を駆け出した。
溺れている女性は少しずつ流されていて、なかなか距離が縮まらない。


魔法使い「もう少し頑張ってください!」


声を掛けると、女性が必死にこちらを向いた。
しかしたどり着く前に、女性は完全に痺れて沈んでしまった。


163
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 21:55:06 ID:3SLPXBo.
魔法使い「そんな……」


周辺には、しびれくらげの脚が伸びている。
水上に攻撃してくることはないみたいだけど、迂闊に水中に手を入れることは出来ない。

何とかして、しびれくらげを倒さないと!
私はそう思い、爆発魔法を行使しようとした。
しかし、慌てて詠唱を中断した。

こんなところで爆発を起こせば、女性を巻き込む恐れがあるだけではなく、巨大な波が砂浜を襲うことになる。
しびれくらげを倒すことが出来ても、さらなる惨事を招くだけだ。

だからといって、別の攻撃手段を考えてみても妙案は思い浮かばない。
水精霊の力を借りて攻撃すると、水流が変化して女性が遠くまで流されてしまう。
風の魔法は水面で砕けてしまうし、火精霊では女性も茹で上がってしまう。


魔法使い「どうしよう、しびれくらげを倒すことができない――」


164
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 22:03:47 ID:3SLPXBo.
どうするべきか分からないでいると、ライフセイバーが泳いでくるのが見えた。
それを見て、考え方が違うことに気が付いた。
今優先するべきことは、しびれくらげを倒すことではなくて女性を助けることだ。


魔法使い「水精霊、風精霊召喚!」


風精霊で水に溶け込んでいる空気を操り、水泡を発生させる。
そのあぶくに乗って、女性が浮かび上がってきた。
そして女性が沈まないように、水精霊で浮かび上がらせた。
これで普通に呼吸をすることが出来るはずだ。

しかしぐったりとしたまま、ぴくりとも動かない。
やがてライフセイバーが到着し、女性を抱えると砂浜から浮き輪が投げ込まれた。


165
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 22:25:42 ID:3SLPXBo.
セイバー「ぜぇぜぇ……。意識がないようだ、頼む」


救助された女性は意識がなく、砂浜に仰向けに寝かされた。
人々が集まり、不安そうに見つめている。


セイバー2「呼吸なし、脈なし。心肺停止を確認」

魔法使い「えっ、そんな!」

僧侶「私、蘇生魔法を使えますよ」


僧侶さんが名乗りを上げると同時、ライフセイバーは公衆の面前で女性にキスをした。
さらに女性の胸を触り、何度も押さえつけている。
そんなライフセイバーの行動を見て、私は困惑した。


魔法使い「キスをして何を……。えっ、ええっ?!」

女性「げほっ、げほっ……」

セイバー2「蘇生確認。急いで医務室に運んで、毒消しの準備を!」

セイバー「了解!」


166
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 22:57:06 ID:3SLPXBo.
僧侶「あのっ、私はエルグの国に仕える女僧侶です。解毒魔法を使えます」

セイバー2「本当ですか! ぜひお願いします!」

僧侶「分かりました。まだ、肺に水が溜まってますね。蒸発魔法! 解毒回復魔法!」

女性「うっ、うぅん。あれ、ここは……」

僧侶「ここは砂浜です。溺れていた所を私たちに救助されました。どこか痛い所はありますか?」

女性「いえ、特には……」

僧侶「それは良かったです。それでは私は、これで失礼させていただきます」

セイバー「お二人とも、ご協力感謝します。ありがとうございました!」

女性「ありがとうございました」ペコリ

僧侶「魔法使いちゃん、戻りましょうか」

魔法使い「……はい」

警備員「警備の船より、水域の安全が確認されました。なお――」


167
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:04:00 ID:ls3.YtYA
~部屋~
魔法使い「今日は遊び疲れました~」クテー

僧侶「勇者さま、私たちの水着姿はそそりましたか?」

勇者「それはもう、最高だったよ。僧侶さんはエロい水着だし、魔法使いちゃんは可愛いし、今までで今日が一番幸せだな」

僧侶「ふふっ、楽しんでいただけたみたいで嬉しいです//」

勇者「良かったら、明日も行かないか?」

僧侶「明日は旅支度の買い物ですよ」

勇者「だよね……」

魔法使い「もう泳がないなら、僧侶さんの水着を着てみたいです!」

僧侶「ええっ、魔法使いちゃんにはまだ早いって……」

魔法使い「でも一度、大人用のあぶない水着も着てみたいです。お願いします//」

僧侶「仕方ないわねえ」

魔法使い「えへへ// では、挑戦してみます!」


168
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:12:34 ID:ls3.YtYA
勇者「背伸びをしたい年頃かな。ところで僧侶さん、今夜は一緒にバーに行きませんか」

僧侶「夜に魔法使いちゃんを一人きりには出来ませんよ。それに、避妊具は砂漠の暑さで駄目になっています。ちゃんと捨ててくださいね」

勇者「……はい」ガックリ

僧侶「でも次にここに来るときは、シーズンオフですよね……。それならば、もう一度みんなで泳ぎに行くのも悪くないかもです」

勇者「そうだね、そうしよう」

僧侶「では明後日は船が出るまで時間があるし、そのときにまた私の水着姿を楽しんで下さい。それで良いですか?」

勇者「身体の方も許してくれると嬉しいんだけど……」

僧侶「それは妄想で我慢してくださいね//」


169
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:21:44 ID:ls3.YtYA
魔法使い「もう! 二人とも、大人の会話が更衣室の中まで聞こえてましたよ」

勇者「あ……」

魔法使い「どうですか、勇者さま。私にこの水着は似合いますか?」


私は更衣室から出ると、上目遣いで勇者さまを見詰めた。
バストトップとIラインしか隠せない水着。
それが程よい胸の膨らみを曝け出し、ビキニでは見えなかった部分を扇情的に魅せつける。


僧侶「わぁぁっ! 魔法使いちゃん、更衣室に戻る戻る!!」アセアセ

勇者「う~ん。まだ少女の面影が残っているから、魔法使いちゃんには少し早いかも。ビキニのほうが可愛らしくて、すごく似合ってたよ」

魔法使い「そうなんですか……。早く大人になって、次こそ勇者さまを魅了してみせます!」

勇者「ははっ、楽しみにしてるよ」


170
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:30:55 ID:ls3.YtYA
僧侶「それじゃあ、魔法使いちゃん。早く服を着て、一緒にお風呂に行きましょ」

魔法使い「そうですね、着替えてきます」トテトテ

僧侶「勇者さま。魔法使いちゃんのこと、興奮せずに諭してくれてありがとうございます。また少し信じられるようになりました」

勇者「また少しって、今はどれだけ低いんだよ」

僧侶「あの、これはお昼に話していたサービスです」

勇者「……僧侶さん//」

僧侶「砂漠を渡っていたとき、魔法使いちゃんを守る姿がとても素敵でした。それに、私のことも助けてくれましたよね。とてもうれしかったです。これからも私たちのこと、よろしくお願いします」

勇者「ああ、分かった」


171
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:41:41 ID:ls3.YtYA
~宿・女湯~
魔法使い「はぁ、いいお湯ですね。明後日も遊びに行けるのですか?」

僧侶「船が出るまでの間だけね」

魔法使い「楽しみです♪」

僧侶「何だか、積極的に誘惑してたよね」

魔法使い「だって、ずっと僧侶さんの胸ばっかり見てるんだもん。私も負けません!」

僧侶「ふふっ、ちょっと刺激が強すぎたかな」

魔法使い「きっと今頃は、私たちの妄想でなさってますよ//」

僧侶「妄想だけなら自由だし、それは私たちで勇者さまを癒すことが出来たってことだよね」

魔法使い「はい、そうですね//」


172
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:00:08 ID:ls3.YtYA
魔法使い「ところで、僧侶さん。魔法は本当に必要なのでしょうか……」


軽い猥談で盛り上がった後、私は気落ちした面持ちで言った。
昼過ぎにあった事故のことが、ずっと心に引っかかっているからだ。
それを考えると、何も出来なかった自分がちっぽけな存在に思えてしまう。
だから、そんな気持ちを聞いて欲しかった。


僧侶「それって、どういうこと?」

魔法使い「昼過ぎに川で女性が溺れたとき、私はしびれくらげを追い払えずに、女性を浮かせることしか出来ませんでした。そのせいで、女性は亡くなってしまいました」

魔法使い「でもその後で、ライフセイバーの方が蘇生魔法を使わずに女性を生き返らせたんです。とても衝撃的でした」

僧侶「そのような蘇生術があることは、砂漠にいたときに話したでしょ」

魔法使い「はい……。でも魔法を使える私は、何も出来ませんでした」

僧侶「それを言うと、私も同じだよね。私がいなくても、あの女性は助かったはずだから」


173
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:06:00 ID:ls3.YtYA
魔法使い「じゃあ、やっぱり魔法は――」

僧侶「ねえ、魔法使いちゃん。ボトルシップを買ったお店の主人が、何と言っていたか覚えてる?」

魔法使い「たしか、『人間は魔法に頼らなくても、工夫をすれば色んなことが出来る』と言ってました」

僧侶「そうだね。ではなぜ、ライフセイバーさんは心肺蘇生術を学んでいると思う?」

魔法使い「魔法を使えないから……ですか」

僧侶「それでは、半分不正解かな」

魔法使い「他に理由があるんですか?」

僧侶「魔法を使えないけど、誰かを救いたいからです。だから彼らは教会で学び、努力をしているのよ」

魔法使い「誰かを救いたいから、か」


174
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:21:33 ID:ls3.YtYA
僧侶「じゃあ、魔法使いちゃんはどうして精霊魔術の勉強を始めたの?」

魔法使い「それは……村を困らせる魔物から、みんなを守りたかったからです。だから、熊退治の話を聞いたとき名乗り出たんです」

僧侶「でもそんな理由なら、剣術やナイフ術でも良かったはずだよね」

魔法使い「私は体術が全般的に苦手ですから」

僧侶「それが答えなのよ。魔法は誰かを守るための手段のひとつでしかないの」

魔法使い「魔法は手段のひとつ……」

僧侶「ねっ、魔法使いちゃんには魔法が必要でしょ。精霊魔術を使える魔法使いちゃんがいたから、溺れた女性は流されなかった。だからすぐに救助することが出来て、ライフセイバーさんの蘇生術で一命を取り留めることが出来た」

僧侶「お互いに出来ることをして女性が助かったんだから、それで良いじゃありませんか」

魔法使い「そう……ですよね。ありがとうございます」

僧侶「私は魔法使いちゃんがとても良い判断をしていて、すごくうれしかったよ」


175
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:29:15 ID:ls3.YtYA
魔法使い「あの……、もし僧侶さんが魔法を使えなかったら、何をしていましたか?」

僧侶「う~ん、薬師になっていたかも」

魔法使い「薬師か……。僧侶さんらしいですね。私、回復魔法も勉強してみたいです」


私には魔法が必要だ。
だから精霊魔術だけではなくて、人を癒やす魔法も覚えたい。
私はそう心に決めた。


僧侶「ふふっ、頑張ってね。そろそろ部屋に戻りましょうか」

魔法使い「はい。僧侶さん、いつもありがとう」


176
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:31:38 ID:ls3.YtYA
第4話 おわり

(不可能物体)
・ボトルシップ

(数学パズル)
・からす算
・リンド・パピルスのパズル

・川渡り問題


勇者「ドーナツの世界?!」第5話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第5話

178 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:03:10 ID:pRId0q7A
第5話 忍び寄る闇
~海・客船~
港町から大河を下り、三日が過ぎた。
客船なのでゆったりとしていて、客室の内装もおしゃれな感じだ。
私は船内放送で海に出たことを知り、勇者さまと二人で甲板に上がった。


魔法使い「勇者さま、水平線が丸いです! この世界って、本当に球体なんですね!」

勇者「そうみたいだな。俺もはじめて見たよ」

魔法使い「私たち、一ヶ月後には南の大地に着くわけですよね。極南の地が闇に覆われているといううわさは、本当でしょうか?」

勇者「それを確認して来るのが、俺と僧侶さんの仕事だよ」

魔法使い「私は思うのですが、極夜ではないでしょうか。自転軸が傾いているので、日が昇らない世界があるのは当然のことだと思うんです」

勇者「それだと話が簡単で良いんだけどなあ。でも今は夏だから、日が沈まない白夜のはずだろ。パズルの意味とか、行けばすべて分かると思うよ」

魔法使い「そうですね」


179
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:07:20 ID:pRId0q7A
勇者「ところで魔法使いちゃん、髪が伸びてきたんじゃない?」

魔法使い「そうなんです。早く前髪を切りたくて、気になっているんです」

勇者「じゃあ、補給で街に停泊したときに美容室に行くといいよ」

魔法使い「はいっ、そうさせてもらいます。あの、勇者さまはどんな髪型が好きですか//」


私は基本的に髪を束ねたりはせず、いつもミディアムヘアにしている。
そのほうが楽だし、女魔法使いといえばストレートヘアというイメージがあるからだ。
だけど、この機会に髪型を変えてみるのも悪くない。
そしてそれならば、勇者さまが好きな髪型にしてアピールをしたい。


勇者「う~ん、ツインテールが似合いそうだと思う」

魔法使い「ツインテールですか? 参考にしてみます♪」


180
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:36:17 ID:pRId0q7A
僧侶「二人とも見ないと思ったら、甲板にいたんだ。もしかして、仲良くデートしていたの?」

魔法使い「えへへ//」

勇者「ちょっと風に当たろうと思ってね。それより、それはもしかして……」

僧侶「そうです、釣竿です!! 海に入ったんだし、美味しいお魚がいっぱい泳いでいるはずなんです!」

魔法使い「私もやりたいっ!」

僧侶「そう言うだろうと思って、もう一本持ってきたよ」

魔法使い「たくさん釣って、新鮮なお魚が楽しみです♪」

勇者「マイペースだな、この二人は――」


181
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:41:47 ID:pRId0q7A
僧侶「ところで勇者さま、豪華客船と海に相応しいシチュエーションパズルに挑戦しませんか?」

勇者「シチュエーションパズル?」

僧侶「出題者が問題を出して、回答者が出題者に『はい』または『いいえ』で答えられる質問をしながら、答えを推理するパズルです」

勇者「なるほど、了解」

僧侶「では問題です。ある日、水兵の男がレストランに行き、ウミガメのスープを注文しました。しかし、船で食べたスープとは味が違います。怒った男はシェフを呼び、問いただしました」


『何だこれは!』
『ウミガメのスープでございます』


僧侶「その日の夜、ショックを受けた男は自殺してしまいました。なぜでしょうか?」

魔法使い「うわぁ……」ゲンナリ

僧侶「知ってても、答えを教えてはいけませんよ。では勇者さま、質問タイムです」


182
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:46:48 ID:pRId0q7A
勇者「なぜショックを受けたんだろ?」

僧侶「それを推理してください」

勇者「船とレストランではシェフが違うのだから、味が違うのは当然だと思うけどなあ」

僧侶「はい、そうですね」

魔法使い「勇者さま。シェフによる味の違いは、美味しいか不味いかですよね。もっと別の理由があると思いませんか?」

勇者「あっ、なるほどね。男が船で食べたのは、ウミガメのスープですか?」

僧侶「いいえ」


この問題は、ウミガメ以外の肉をウミガメとして偽った理由がポイントになる。
なぜ偽る必要があったのか――。


183
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:56:33 ID:pRId0q7A
勇者「何の肉か知っていれば、男はスープを食べましたか?」

僧侶「いいえ。彼なら食べなかったと思います」

勇者「船で食料が不足しましたか?」

僧侶「はい」

勇者「その肉は人間ですか?」

僧侶「はい」

勇者「つまり自殺した理由は、船で人間の肉を食べていたことに気付いたからだ!」


184
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 23:03:30 ID:pRId0q7A
僧侶「残念、惜しいけど不正解です。その答えでは、人間の肉を食べることになった理由が分かりません」

勇者「それもそうか」

僧侶「正解は『乗っていた船が遭難してしまい、そのときに食べていた肉が自分の仲間の肉だったことに気付いてしまい、男はショックで自殺した』でした」

勇者「ちょっと待て。これのどこが豪華客船と海に相応しいんだよ!」

僧侶「えへへ。そうならないように魚を釣りましょう♪」

魔法使い「そうですね」


そして私は、僧侶さんと魚釣りを始めた。
しかし一時間が過ぎ、二時間が過ぎても釣れることはなかった。
きっと航行中の客船からでは、動きが速くて食らい付く余裕がないのだろう。
残念ながら、遭難すると助かりそうにないようだ。


185
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:00:01 ID:/6tJWevM
~海の都~
一週間が過ぎた頃、客船は海の都に停泊した。
ここで食料や燃料を補給し、二日後に次の街に向けて出航する予定になっている。
その間は自由に観光が出来るので、私たちは客船を降りて街に出た。


魔法使い「やっと街に着きましたね」

勇者「船はまた明後日に出航だから、それまでこの街でゆっくりしよう」

僧侶「そうですね。海の幸を堪能するぞ~っ!」

魔法使い「この都は『ウニ』を使った海鮮丼がおすすめだそうですよ」

勇者「じゃあ、お昼は海鮮丼を食べに行こうか」

僧侶「それなら、このお店が良いですよ。ガイドブックでおすすめ店になっています」

魔法使い「この近くですね。勇者さま、早く行きましょう!」


186
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:01:01 ID:/6tJWevM
~海鮮屋~
おすすめの店に着き、みんなで海鮮丼を注文した。
そして運ばれてきた丼には、溢れんばかりの鮮魚が豪快に盛り付けられていた。


魔法使い「お刺身がキラキラしていて、すごく美味しそうですね。この黄色いのがウニなのかなあ」

僧侶「そうそう。黄金の輝きとコクがあって、口の中でとろける感じがすごく絶品だよ」

魔法使い「ほんとだ、すごく濃厚で美味しいです! 客船のビュッフェもおしゃれで美味しいけど、豪快な大衆料理も良いですよね」

勇者「何だか魔法使いちゃん、僧侶さんみたいになってきたなあ」

魔法使い「だって、村では食べられない料理ばかりで幸せなんだもん」

僧侶「そうだよね。せっかく旅をしているんだから、存分に楽しまないと!」

魔法使い「はいっ!」


187
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:03:00 ID:/6tJWevM
僧侶「そう言えば、この都にはダブルスキルの支援施設があるみたいですよ。観光地図に載ってました」

魔法使い「ダブルスキルの支援施設?」

僧侶「衛兵の軍事訓練をしたり、新しい能力を養成する施設のことだよ」

勇者「やっぱり、この国は底が知れないな。本格的な訓練施設は城下にあるのだろうけど、その施設の一部が他国の人も集まる場所に建設されているってことは、総合的な軍事力が高いことを知らしめることにもなるからな」

僧侶「そうですよね。だけど今は各国が協力体制を敷いているので、私たちも利用できるはずです。行ってみませんか?」

勇者「そうは言っても、一日二日で修得できる技術なんて何もないだろ」

僧侶「そうですが、ちょっと欲しいものがありまして……。それを買いたいのです」

勇者「そういうことなら、まあ寄ってみるか」


188
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:11:53 ID:/6tJWevM
~支援施設~
僧侶「お~、ありました! 私の暇つぶし」

勇者「受付を素通りしてどこに行くのかと思えば、欲しいものってパズルかよ!!」

僧侶「これはポリオミノの一種で、ペントミノというものです。正方形5個の辺同士がくっつきあって出来る、全12種類の形をピースとした詰め込みパズルなんですよ。ここでは立方体のものも販売されていました」

魔法使い「これって、神の遺産ですよね」

勇者「へえ、そうなんだ。どんな意味があるの?」

僧侶「ペントミノは、この6×10の長方形の枠に隙間なく詰める方法が、約2000通りあります。それが人間の能力の可能性を表しているのです」

勇者「人間の可能性か……」

僧侶「はい。でも本来の意味は、神様は世界を破壊して創りかえることが出来るという、絶対的な存在を畏怖するためのパズルだったんですけどね」

勇者「いくら何でも、それは変わりすぎだろ!」

僧侶「でもそういう訳で、支援施設には必ずペントミノが置いてあるんです」


189
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:24:16 ID:/6tJWevM
魔法使い「ちなみに正方形6個を使ったヘクソミノは、世界の扉を表しているそうです。そう言われる理由が面白くて、長方形の枠に詰め込もうとしても凸型になってはみ出してしまうからなんですよ」

勇者「世界の扉……ねえ。その先には、一体何があるんだろうな」

魔法使い「精霊神話の一節によれば、扉が閉ざされると魔法を失うらしいです。詳しい記述はありませんけど、この世界の外にはこことは違う世界があるのかもしれないですね」

勇者「たかがパズルなのに、壮大だなあ」

魔法使い「だから、私たち魔道師には欠かせない知識なんです」

勇者「ふうん……」

僧侶「あ、そうだ。ここって、1日体験入学みたいなことってしてないかな」

勇者「1日体験入学?」

僧侶「魔法使いちゃんが女僧侶に興味が湧いてきたみたいで、少しずつ魔法医学の勉強をしているんです。それで、国の施設で経験させてあげたいなと思いまして」

勇者「そういうことなら、受付で聞いてみようか。魔法使いちゃんはどうする?」

魔法使い「私、ぜひやってみたいです!」


190
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:46:19 ID:/6tJWevM
――「エルグの城の衛兵……おっと、勇者じゃないか」


受付に並んでいると、いかつい格好の男性が勇者さまに話しかけてきた。
彼が装備している鎧には、山すその都……つまりバロックの国の紋章が付けられている。
エルグの国と同盟関係なので、きっと知り合いなのだろう。


勇者「奇遇だな。こんな所で何をやってるんだ?」

僧侶「あの、勇者さま。この方はどなたですか?」

勇者「山すその都でお世話になっていた、バロックの城の兵士だよ。バトルマスターで、なかなかの腕前だよ」

僧侶「そうでしたか。こんにちは」

魔法使い「こんにちは」ペコ

バトマス「おうっ。こいつがうわさのロリっ子魔法少女か。なかなか可愛いじゃねえか」

魔法使い「ろ……ロリっ子魔法少女?!」アセアセ

バトマス「一丁前に照れやがって。ガハハ……」


191
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:54:04 ID:/6tJWevM
勇者「ところで、ここで何やってんだよ。まさか、お前もパズルを買いに来たのか?」

バトマス「何、馬鹿なこと言ってんだ。船旅ばかりだと身体が鈍るだろ。だから、郊外の施設で身体を動かしてきたんだ。お前も行っといたほうがいいぞ」

勇者「そんなものがあるのか。考えてみるよ」

魔女「バトマスさん、お待たせしました」

剣士「勇者、久しぶりだな」

賢者「あら、エルグの皆さん。お城でのお勤めが終わったのですね。ご苦労様です」

勇者「どうも、お疲れさまです……」


192
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:01:00 ID:/6tJWevM
魔法使い「魔女さん、こんにちは」

魔女「こんにちは。ちゃんと精霊魔法の練習してる?」

魔法使い「はいっ!」


魔女さんは私が山すその都に滞在していたときに、お城で精霊魔法の指導をしてくれた国家魔道師の一人だ。
最上級クラスの女魔道師で、精霊たちを使役して現象を支配することが出来る。
そしてスイーツのお店やファッションに詳しくて、訓練以外でも親しくしてくれたので仲がいい。


魔女「うんうん、偉いねえ」

魔法使い「魔女さんのおかげで、複数の精霊魔法を組み合わせて使えるようになりましたよ」

魔女「物理現象は複数の精霊が関わって引き起こされているの。だから、すべての精霊を自在に操れるようにならないと駄目だからね」

魔法使い「もっともっと頑張ります!」


193
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:03:00 ID:/6tJWevM
賢者「ところで、私たちは明日出航なんです。よろしければ、今夜は親睦を兼ねて食事に行きませんか?」

僧侶「いいですね。それなら気になる料亭があるので、そこに行きませんか!」

勇者「そんなことまで調べてるんだ」

僧侶「えへへ、当たり前です」ブイ

バトマス「お前らは家族旅行かよ、いい気なもんだな」

賢者「では店はお任せしますので、財布は任せてください。非公式の村娘が従軍していては、資金のやりくりが大変でしょう」

勇者「それは助かります」

魔法使い「……すみません」

バトマス「じゃあ、日没にここで落ち合おうか。また後でな」

勇者「おうっ!」


194
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:20:01 ID:/6tJWevM
魔女さんたちと別れた後、ようやく受付の順番が回ってきた。
そして女僧侶コースの体験入学について聞いてみると、講座は明後日だということが分かった。
どうやら、出航の日と重なっているようだ。


僧侶「残念だったね」

魔法使い「はい、受けたかったです……」

勇者「あの、先ほど知人から郊外の施設を使えると聞いたのですが、それは大丈夫ですか?」

受付「それでしたら、明日の午後に予約が空いております。実戦形式で行われるアトラクションとなりますので、装備を整えてご利用ください。予約されますか?」

勇者「じゃあ、お願いします」

受付「それでは技量に応じた登録が必要ですので、利用される方は適正検査をお願いします」

勇者「二人はどうする?」

僧侶「魔法使いちゃんは実戦経験が少ないし、私たちも参加しておきます」

魔法使い「女僧侶の講座がムリだったので、こっちを頑張りたいです」

勇者「そっか。じゃあ、三人で利用しよう」

受付「では、そちらのフロアにお願いします」


195
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:26:57 ID:/6tJWevM
~大神官の間~
魔法使い「何だか緊張しますね。適性検査って、どういうことをするのでしょうか」

勇者「きっと魔道具か何かで、レベルや魔力を測るんじゃないかな」

魔法使い「ああ、なるほど」

勇者「アトラクションだし、そんなに身構えなくてもいいと思うよ」

魔法使い「そうですよね」


今日は登録するだけだし、実戦形式というのもバロックの城で受けていた訓練メニューと同じようなものかもしれない。
私はそう思い、少し肩の力を抜いた。
それからしばらくして、勇者さまが大神官に呼ばれた。


勇者「それじゃあ、行ってくる」


勇者さまが別室に入っていき、僧侶さんと二人きりになる。
雑談を交わしながら順番を待ち、勇者さまが戻ってくると次は僧侶さんが呼ばれた。
そして最後に、私が別室に呼ばれた。


196
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:37:58 ID:/6tJWevM
大神官「それでは、魔法使い殿」

魔法使い「はいっ、失礼します」

大神官「勇者一行にしては、可愛らしいお嬢さんだ」

魔法使い「勇者さまに無理を言って、同行させてもらっています。色んな経験が出来て、今はとても楽しいです」

大神官「そうかそうか。では、始めよう」

魔法使い「お願いします」


そう言うと、大神官さまが手をかざした。
足元に魔法陣が展開されて、運命の断片を読み取る魔法が行使される。
どうやら、占いをしてくれるようだ。


大神官「魔法使い殿は、精霊魔法を使いこなせているようですな。可能性に溢れており、鍛錬を怠らなければ多くのことを修得することが出来るであろう」

魔法使い「そうなんですね。私、絶対に頑張ります!」

大神官「しかし、あなたには闇が見える。それを乗り越えてくれることを、わしは期待しておるぞ」ナデナデ

魔法使い「は、はい……。ありがとうございました」


197
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:41:17 ID:/6tJWevM
~受付ルーム~
受付「お疲れ様でした。以上ですべての登録が終わりました。明日、係りの者が誘導しますので、そちらで説明を受けて下さい」

勇者「はい、ありがとうございました」

魔法使い「アトラクションって、どんなことをするんだろ。何だか、楽しみになってきました」

僧侶「はあっ……そうだね」

勇者「どうしたの? 何だか落ち込んでいるみたいだけど」

僧侶「大神官さまに『闇に飲み込まれたら、すべてを滅びへと導くことになるだろう』と言われてしまったんです」

勇者「闇というのは、これから行くところのことだろうな。俺は真の勇者に『なりうる』と言われたし、そのためには二人の力が必要なんだ。僧侶さんが言われたことは、つまりはそういうことなんだろうと思う」

僧侶「そうかもしれないですね。闇に立ち向かって、勇者さまと一緒に未来を切り開きたいです」

勇者「そうだな、一緒に頑張ろう。ところで、この後どうする?」

僧侶「私は料亭を予約してきます」

魔法使い「私は美容室に行きたいです」

勇者「そっか。じゃあ、一度解散しようか」


198
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 22:55:54 ID:/6tJWevM
~美容室~
私は二人と別れて、美容室にやってきた。
スキンケアはいつもしているけど、髪の毛は自分でカットすると変になってしまう。


美容師「お客様。今日はどのようにセットなさいますか」

魔法使い「前髪を短くして揃えてほしいです。あと、ツインテールが似合うようにお願いします」

美容師「かしこまりました。お客様は旅の方ですか」

魔法使い「そうです。エルグ地方から来ました」

美容師「それは遠い場所から来られたのですね。ちなみに、どこに行かれるのですか?」

魔法使い「南の都です」

美容師「あそこは魔術の研究が盛んな街ですよね。もしかして、留学生なんですか」

魔法使い「いえ、そうではないんですけど――」


美容師さんと他愛ない会話を楽しむ。
そんな時間はあっという間に過ぎて行き、気が付くと髪型がツインテールにセットされていた。
そしてアレンジの仕方をアドバイスしてもらい、美容室を後にした。

勇者さまは可愛いと言ってくれるかなあ。
そう思うと、あまい期待で胸がいっぱいになった。


199
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 22:59:54 ID:/6tJWevM
~支援施設~
日が傾き始め、待ち合わせの時間が迫ってきた。
すでに魔女さんたちは全員来ていて、支援施設の中で涼んでいる。
後は勇者さまだけとなり、私は待ちきれずに外で迎えることにした。

それから十分ほど待って、ようやく勇者さまが来た。
大きく手を振って、勇者さまに駆け寄る。


魔法使い「勇者さま、ずっと待ってましたよ!」

勇者「ごめんごめん、お待たせ。魔法使いちゃん、髪型変えたんだ」

魔法使い「はいっ// 勇者さまがツインテールが好きだと言うので、そうしてみたんです」

勇者「そうなんだ、すごく可愛いよ。似合ってると思う」

魔法使い「えへへ、うれしいです//」


やっぱり、この髪型にして良かった。
私は勇者さまに寄り添い、さり気なく手を繋いだ。


魔法使い「魔女さんたちは、もう中で待っています。早く行きましょ」

勇者「そうなんだ。じゃあ、行こうか」


200
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 19:42:05 ID:HEkQYNWI
~料亭~
勇者「何だか、敷居が高そうな料亭だなあ」

賢者「敷居が高そうって言うか、値段も高そうなんだけど……」


賢者さんはそう言うと、料亭を見上げた。
とても古風な佇まいをしていて、その外観からは風格さえ感じる。
私から見ても、ここの料理は高いんだろうなというのが容易に想像できる。


勇者「お金、大丈夫?」

僧侶「私たちは同盟国ですし、必要経費ってことで何とかなりますよねえ」

賢者「そ、そうね。このくらいなら許容範囲ですよ」


賢者さんは苦笑いをして、一番に料亭の門構えをくぐった。
その後を付いて中に入ると、お店の人が座敷部屋に案内してくれた。


201
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 19:49:55 ID:HEkQYNWI
座敷部屋では男女が別々のテーブルに分かれ、それぞれが談笑を始めた。
みんなで一緒に食べるのかと思っていたけど、そうではなかったようだ。
勇者さまと話をしたければ席を移動すれば良いだけだし、私は鮮魚料理を待つことにした。

やがて食事が用意され、男性席ではバトマスさんが武勇伝を語り始めた。
支援施設が行う実戦訓練は、想像していた以上にハードだったらしい。


バトマス「――それで、魔物どもを叩き斬ってやったんだ。あの模擬戦は、本気でやらねえと逆に殺されるんじゃねえかってくらいハードだったぜ」

剣士「あんな設備で訓練しているのかと思うと、この国の衛兵は敵に回したくないと考えるのも頷けるというものだ」

勇者「そんなにきついのか。大丈夫かな……」

バトマス「最初のフロアで全滅するんじゃねえか?」

勇者「いやいや、それはないから」

バトマス「でもお前んとこの女魔道師は、うちの魔道師連中が気に入ってるみたいだが、所詮は女子供だ。ろくに魔法を使いこなせないだろ」

勇者「それが中々の使い手で、もう並みの魔道師では勝てないと思う」

バトマス「本当かよ。それにもう一人は女僧侶だろ。精霊魔術の才能がなくて治癒しか出来ない、ただの能無しじゃないか。塔に入った瞬間、全滅しそうだな」

勇者「お前、飲みすぎだぞ。もう、それくらいにしとけ」


202
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 20:09:31 ID:HEkQYNWI
バトマス「お前はなあ、女僧侶と女子供なんかに好き勝手されて、男の威厳が足りないんだよ。女なんか力を誇示して、さっさと押し倒してしまえよ」

勇者「うちでそんなことをしたら、僧侶さんに瞬殺されるから」

バトマス「はあ? 能無しの女僧侶にそんなことが出来る訳ねえだろ」

剣士「それはともかく、俺も小隊としては不安が多いパーティーだと思う」

勇者「俺たちは少数精鋭なんだ」

バトマス「何が少数精鋭だ。使えるのは、お前くらいなもんじゃないか。仲良く観光旅行をしてるんじゃねえよ!」

勇者「まあ、旅は楽しいほうが良いだろ」

バトマス「うちの女みたいなことを言いやがって。これは遊びじゃなくて、任務だろうが!」

勇者「分かってるって」

魔法使い「……」


お酒に酔っているせいかもしれないけど、失礼な人だ。
女なんか押し倒してしまえばいいとか、僧侶さんが能無しとか、私たち女性を何だと思っているのだろうか。
少し不愉快な気分になってきたので、私は男性たちの会話に聞き耳を立てるのを止めることにした。


203
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 20:29:05 ID:HEkQYNWI
魔法使い「賢者さん、少し質問してもいいですか」

賢者「良いけど、どんなこと」

魔法使い「私は治癒魔法の勉強もしたいと思っているんですけど、賢者さんはどんな魔法が使えるんですか?」


私はお酒を飲んでご機嫌な様子の賢者さんに話しかけた。
精霊魔法と治癒魔法を使える職業といえば、女賢者が代表的だ。
どうすれば女賢者になれるのか、勉強のコツなどをぜひ教えてもらいたい。


賢者「私は治癒魔法がメインで、精霊魔法と電撃魔法を補助的に使える感じかしら。魔法使いちゃんも女賢者になりたいの?」

魔法使い「はい。魔女さんみたいな女魔道師になって、僧侶さんみたいな女僧侶になりたいです」

賢者「ええっ、それはもう女賢者じゃなくて聖人クラスですよ。それが実現できたら、歴史に名前を残せるんじゃないかしら」

魔法使い「そうなんですか?!」

賢者「そうですよ。僧侶ちゃんのことを女僧侶だからと馬鹿にしている方が多いですけど、彼女は神官クラスの実力者なの。精霊魔術と魔法医学を極めるなら、かなり努力しないと中途半端な実力になってしまいますよ」

魔法使い「そっか、そんなに大変なことなんですね」

僧侶「魔法医学は私が教えてあげるから、船の中でじっくり勉強していきましょ」

魔法使い「はい、お願いします!」


204
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 21:06:29 ID:HEkQYNWI
僧侶「ところで、話が変わるんだけど……。そっちのメンバーでは、殿方の性欲をどのように処理しているんですか?」

魔女「な……、何言っちゃってんのよ//」

僧侶「だって、そちらは殿方が二人もいらっしゃいますし、生理現象ですから避けて通れないですよね」

魔女「そんなの知る訳ないでしょ//」

僧侶「あれ、どうしているのか知らないんですか」

魔女「だって、あたしたちは任務で一緒にいるだけだし」アセアセ

賢者「逆に知りたいのですけど、そちらはどうされているのですか?」

僧侶「勇者さまと話し合って、一人でしやすいように工夫しています」

魔女「ええっ?!」

賢者「そちらは性に対して、親和的な姿勢なのですね」

僧侶「そうですか? 他のパーティーの方と話す機会は中々ないですし、普通はどうなのかなって思って」

魔女「そんなことを一緒に話し合うとか、絶対に有り得ないわ」


205
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 21:31:48 ID:HEkQYNWI
魔法使い「じゃあ、男性にエッチなことを我慢させているんですか? そんなの可哀想です」

魔女「可哀想って言われても、あたしには関係ないし。自分たちで勝手にしてるんじゃないの?」

賢者「あの二人は慰安所を利用して、そこで遊んでいるみたいです。費用がかさみますけど、仕方がないので容認してあげています」

魔女「うわっ、そんな所に行ってるんだ。あいつら最低ね」

賢者「私たちに迷惑を掛けるよりも、その方が良いではありませんか」

魔女「まあ、それもそうね」

魔法使い「あの……、慰安所って何ですか?」

魔女「えっ?! 魔法使いちゃんには、まだ早いんじゃないかな……」アセアセ

僧侶「慰安所っていうのは、殿方が金銭を支払って、公娼登録をした女性と性行為をして射精をする施設のことだよ」

魔法使い「あわわ// お金を払って女性と交わるんですか?!」

僧侶「勇者さまがいつも読んでいるエッチな本も、金銭を支払って購入したものでしょ。殿方は射精をしない訳にはいかないから、何らかの形で公娼制度を利用して性欲を解消しているの」

魔法使い「それは分かるけど、お金で女性と交わるのは駄目だと思います」


206
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 21:51:48 ID:HEkQYNWI
僧侶「魔法使いちゃん、殿方が頻繁に一人でなさるのはどうして?」

魔法使い「それは、相手がいないのに射精しなければならないからです」

僧侶「じゃあ女性と一緒に旅をしているけど、その女性とは愛し合う関係ではない場合、殿方はどうすればいいと思う?」

魔法使い「それは、もちろん一人でするべきです!」

僧侶「私も一人でするべきだと思う。だけど残念なことに、嫌がる女性を無理やり強姦する人もいるの。だから、女性を守るために慰安所が必要なんです。公娼の女性たちは、私たちのために頑張ってくれているんですよ」

魔女「ちょっと、そんなことまで教えちゃうの?!」

僧侶「隠したり誤魔化すよりも、ちゃんと教えたほうが良いと思うから」

賢者「確かに、そうかもしれませんね。私たちは公娼制度があるおかげで、今のところは強姦されずに済んでいるわけですし。魔法使いちゃんもお年頃だから、性犯罪に遭ってからでは遅いですものね」

魔法使い「教えてくれてありがとうございます。慰安所のおかげで傷付く女性が減るなら、私たちは感謝しないといけないですよね」

魔女「そうだね、本当に感謝しないといけないよね」

魔法使い「だけど、勇者さまが慰安所を利用するのは絶対にいやです!」

僧侶「じゃあ、また私たちの水着姿で満足してもらいましょうか//」

魔法使い「そう言いつつ、また勇者さまを誘惑するつもりですね。私、負けませんから!」


207
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 22:58:53 ID:HEkQYNWI
魔女「ああ、二人ともそういうことなんだ」クスクス

魔法使い「そ、そういうことって……//」

魔女「何だか、僧侶ちゃんたちは楽しそうでうらやましいわ。うちのリーダーは賢者さんなのに、あいつらが偉そうにしてて嫌になっちゃう!」

賢者「はあ、本当にそうですよね」

魔女「任務じゃなければ、絶対に一緒にはいたくないわ」

バトマス「おい、女ども。酒を注ぎに来い!!」

賢者・魔女「はいはい……、噂をすれば何とやら」

バトマス「お前らもだ! 女なら男をもてなせ!」

魔法使い「あ、あの……。女なら男をもてなせって、どういう意味なんですか?」

バトマス「隣に座って、俺にお酌をしろって言ってんだよ」

僧侶「それならそうと、もう少し言い方があると思うんですけど。美味しい料理とお酒を、みんなで楽しく食べましょうよ」

バトマス「女の癖に口答えするな! 金を払うのは俺たちだろうが!」

勇者「もういい加減にしろよ。みんな困ってるだろ!」


208
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 23:22:57 ID:HEkQYNWI
魔法使い「僧侶さん、私たちもお酌をしたほうが良いんですかねえ……」

僧侶「ううん、そんな必要はないから。睡眠魔法!」

バトマス「zzz」

僧侶「あらあら、飲み過ぎですよ。さっ、みんなで楽しく食べましょ」

魔女「そ……そうだね」

剣士「なるほど、確かに瞬殺されそうだな。今なら彼女のナイフでひと突きだ」ククッ

勇者「とりあえず、これでゆっくり食べられそうだ。僧侶さん、ありがとう」

僧侶「いえいえ。みんなで食べているのに、こういうモラルがない人は嫌いですから」

魔法使い「そうですよね! 勇者さま、そっちに行っても良いですか?」

勇者「いいよ。魔法使いちゃんは飲めないし、一緒に食べようか」

魔法使い「はいっ♪」


私は熟睡させられたバトマスさんを尻目に、みんなと鮮魚料理を楽しんだ。
そして食事が終わったときには、夜も遅い時間になっていた。


209
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 23:22:57 ID:HEkQYNWI
~訓練施設~
翌日の午後、私たちは予約をした訓練施設にやってきた。
街から少し外れた郊外にあり、敷地の中には建屋だけではなく、洞窟や塔のような建造物まで建っていた。
受付の女性によると、様々な状況で訓練を受けることが出来る本格的な施設とのことだ。


案内人「お待ちしておりました。勇者殿」

勇者「はい」

案内人「当アトラクションは実戦形式となっておりまして、勇者殿には塔を上っていただきます」

勇者「あの塔ですか」

案内人「はい。訓練メニューは、各フロアで戦いながら最上階の4階を目指すことです」

勇者「勝ち抜き方式ということですか?」

案内人「そうです。各フロアの者が結託して、総力戦を仕掛けるようなことはありません。それぞれのフロアで敵を倒し、階段を上って最上階を目指してください」

勇者「なるほど」


210
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 23:34:40 ID:HEkQYNWI
案内人「それでは、皆様に身代わりの腕輪を支給します」

僧侶「強力な蘇生魔法が込められた魔道具みたいですね」

案内人「さすが僧侶殿。この腕輪には転移魔法も込められていますので、必ず装備してください。蘇生魔法と同時に発動して、塔の外に出られるようになっています」

僧侶「最上階まで行けた場合、この魔道具はいただけるのですか?」

案内人「差し上げることは出来ません。その場合は返却していただきます」

僧侶「そうなんですね。良いものなのに残念です……」

案内人「もう宜しいですか? 装備しなかったことによる損害は、一切責任を持ちません。こちらがその誓約書になります」

勇者「どうする、魔法使いちゃん。この訓練、冗談抜きで危ないみたいだけど」

魔法使い「あ、あの、頑張ります!」

勇者「そっか。じゃあ、頑張ろうか」

魔法使い「はいっ」


211
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 17:36:38 ID:jnI.Pdpo
~最初のフロア~
案内人「それでは扉を開けますので、中にどうぞ」

ギイィィッ
ガチャン

魔法使い「うわあ、広いですねぇ」


私は塔の中に入り、周囲を見回した。
玄関口は開放的なスペースになっていて、奥には通路が見える。
その先に、階段や別の部屋があるのかもしれない。


僧侶「魔法使いちゃん、迂闊に歩き回ると危ないわよ。実戦形式だということを忘れないで」

魔法使い「あ、はいっ」

勇者「ちっ……」


突然、勇者さまが剣を抜いて案内人を一閃した。
案内人は胸から血を噴き出し、悶絶しながら崩れ落ちる。
それは一瞬の出来事だった。


212
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 18:14:54 ID:jnI.Pdpo
・・・
・・・・・・
案内人「ぐおぉおぉぉっ!」

魔法使い「えっ、ええっ?!」

僧侶「ゆ、勇者さま、何を……!」


僧侶は唐突な出来事に驚き、勇者を問いただした。
しかしその瞬間、案内人の体内で得体の知れない変化が起きていることに気が付いた。
全身の生体エネルギーが収束していき、魔力と激しく融和しているのだ。
さらに、爆発的に発生しているエネルギーを全身に溜め込んでいる。

そう、
これは自爆魔法だ!


僧侶「うそでしょ、こんなの有り得ない――」


213
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 18:27:35 ID:jnI.Pdpo
自爆魔法を止める方法は、二つある。
その一つが即死魔法だ。

即死魔法を使えば、すべての生体エネルギーを霧散させることが出来るからだ。
つまり魔力と融和する反応が起きなくなるので、爆発的なエネルギーが発生しなくなるのだ。
しかし魂も霧散してしまい、案内人は蘇生できなくなってしまう。

もし生命を司る賢者の石があればそれを代償にすることで蘇生させることができるが、とても高価な魔道具なので持ち合わせてはいない。
従って、案内人に即死魔法を行使することは出来ない。
山賊たちに行使したときと違い、気絶させる程度では意味がないからだ。

僧侶は横目で魔法使いを見遣った。
血塗れの案内人を見て、動けずに立ちすくんでいる。
それは人が斬られたからか、それとも膨れ上がるエネルギーに気付いたからか。
どちらにしても、彼女には残酷なものを見せることになる。

自爆魔法を止める、もう一つの方法。
その魔法だけは、純粋な少女である魔法使いには見せたくなかった。
だけど、もう迷っている時間はない――。


214
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 18:45:28 ID:jnI.Pdpo
僧侶「破壊魔法!!」


その魔法が発動した瞬間、案内人の体組織が破壊された。
脳や内臓が潰され、次々と血管や神経が切断されていく。

ボキッ
グチャッ……

骨が砕ける音。
その砕けた骨で、人肉がかき混ぜられる音。
そして全身の体細胞が破裂して、肉塊がぐちゃぐちゃと流れ出す。

すべての核と細胞質。
自爆魔法を発動するためのユニットが破壊され、まるで汚物のようになっていく案内人。
どろりと溶けて、自爆することなく絶命した。

その直後、悲鳴が聞こえた。


魔法使い「いやあぁぁぁっ!!」


215
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:03:20 ID:jnI.Pdpo
・・・
・・・・・・
勇者「魔法使いちゃん!」

魔法使い「いやっ、いやあああぁぁっっ!」


私は勇者さまに取り押さえられ、強く抱きしめられた。
そして、たくさんの涙が溢れてきた。

私は精霊魔法が使えるので、村では小動物の狩りを手伝っていた。
そして港町では、生きたまま食べる残酷な鯉料理を食べたこともある。
そう、私はこの手でたくさんの命を奪ってきた。
だけどそれは生きるためで、食べられることに感謝していた。

しかし、今回は違う。
人が人を殺したのだ。
ついさっきまで、一緒に話をしていた人を――。


216
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:10:06 ID:jnI.Pdpo
私は今まで、人が死ぬところを見たことがない訳ではない。
冬が近付くと、村の畑にグリズリーが下りてくることがある。
そんなグリズリーに、農家のおじさんが畑で襲われて殺される姿を目撃した。

腹を抉られ、腕を噛み千切られ、全身が血塗れになっていた。
そしてそのまま、悶えながら死んでいった。
病気や寿命で亡くなった人も見たことがある。
村での生活は、ときどきそのようなことがある。

だけど、溶けて崩れ落ちていく死体は見たことがない。
骨が皮膚を突き破り、肉をかき混ぜながら砕けていく。
人が人ではない、どろどろの赤黒い肉塊になって溶けていく。
そんな無残な姿にして、人が人を殺せるなんて。
そんなの、普通じゃない――。

なぜそこまでする必要があったのか、その理由は分かる。
分かるけど……受け入れられない。

そう思った直後、私は膨大な魔力を感じて顔を上げた。
案内人が着けていた魔道具が、死んだことを感知して発動したのだ。
それは強力な爆発魔法だった。


みんな死ぬ――。


217
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:38:57 ID:jnI.Pdpo
魔法使い「火精霊っ!」


私は条件反射的に火精霊を召喚した。
その瞬間、腕輪の爆発魔法が解放された。


僧侶「全体防御魔法!!」

勇者「伏せろっ!」


その言葉と同時、私は勇者さまに押し倒された。
そして間髪入れずに、激しい爆風が襲ってきた。


ドゴオオォォーーンッッ


僧侶「きゃあぁっ!」

勇者「ぐっ、僧侶さんっ!」


僧侶さんが吹き飛ばされ、壁に激しく叩きつけられた。
さらに案内人だった肉塊が、爆発で飛び散って周囲に拡散する。
しかしそんな爆風が吹き荒れる中、激しい爆炎は渦を巻きながら虚空に消えていった。
私が召喚した火精霊が、爆炎を強引に相殺させたのだ。
やがて、すべてが収まり静寂が訪れた。


218
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:44:54 ID:jnI.Pdpo
僧侶「勇者さま、大丈夫ですか……」

勇者「俺は大丈夫だ。魔法使いちゃん、立てるか?」

魔法使い「……はい」


私は勇者さまの手を取り、力なく立ち上がった。
そして、全身に浴びた血肉に気付いて嫌悪感を感じた。
ローブがどろどろの血肉で汚れてしまい、生暖かいぬめっとした感触が気持ち悪い。

……!!
この血肉は、さっきまで生きていた案内人だったのだ。
それなのに気持ち悪いと思ってしまった自分に、嫌悪感を感じた。

そう思った瞬間、案内人が装備していた二つ目の魔道具が発動した。
すると飛び散った血肉がすべて集まり、体組織が作られていった。
ローブの汚れもきれいになり、その一方では器官が作られ人の姿を成していく。
やがて蘇生された案内人は、塔の外に転移された。


219
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 20:09:55 ID:jnI.Pdpo
勇者「何だよ、これ……。こんなことが許されるのかよ!」

魔法使い「私、人が死んだのに気持ち悪いって、気持ち悪いって――」

僧侶「魔法使いちゃん……」

勇者「よく頑張ったね、ありがとう」

魔法使い「勇者さまっ、うわああぁぁぁん!」


私は勇者さまの胸に顔をうずめて、激しく咽び泣いた。
溢れ出る感情は涙となり、頬を伝って流れていく。


僧侶「勇者さま、魔法使いちゃんはショックを受けています。私もまさか、非人道的な手段で襲ってくるとは思わなくて……。正直に言って、こんなのはつらいです。魔法使いちゃんの前で、攻撃魔法として人に向けたくなかったのに――」

勇者「僧侶さんは間違っていない。間違ってないから!」

僧侶「でも、私のせいで魔法使いちゃんは――」


220
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 20:29:57 ID:jnI.Pdpo
勇者「とりあえず、これからどうするか考えよう」

僧侶「そんなの、考えるまでもないじゃないですか。もう帰りましょう!」

勇者「そう……だな」

僧侶「きゃっ!」バチッ

勇者「まさか強力な結界魔法?! 僧侶さん、大丈夫か!」

僧侶「……大丈夫です。どうやら私たち、塔の中に閉じ込められたみたいですね」

勇者「そうなると、帰る方法は3つだけだな」


1、最上階の出口から出る。
2、予約時間が過ぎるのを待つ。
3、魔道具が発動する条件を満たす。


僧侶「私は予約時間が過ぎるのを待つほうが良いと思います!」

勇者「それがベストかもしれないな。だけど、俺は上に行くことも考えている」


221
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 20:39:42 ID:jnI.Pdpo
僧侶「ちょっと待ってください! 上に行くって、本気なんですか?!」

勇者「少し気になることがあるんだ」

僧侶「案内をしてくださっていた方が、いきなり自爆魔法を行使してきたんですよ! それを防いだら、爆発魔法の魔道具が発動したんですよ!」

僧侶「魔法使いちゃんが頑張ってくれなかったら、みんな死んでいたかもしれません。こんなの異常です! 私は反対ですっ!」

勇者「だから、実戦形式なんだろ。残念だけど、実戦は命の奪い合いだ」

僧侶「確かにその通りです。だけど、こんなやり方は訓練とは言いません。今のなんて、人間爆弾じゃないですか! 生き返るなら自爆をしてもいいんですか?! そんなの、戦争だとしても非人道的で常軌を逸しています」

勇者「僧侶さんの気持ちも分かる。だから、少し落ち着いてほしい」

僧侶「……この状況で、落ち着いていられるとお思いですか! 私たちだけなら、上に行っても良いです。でもこれ以上、魔法使いちゃんに残酷な場面を見せたくないんです!」

勇者「分かってる。だから、俺が一人で行ってくる」


222
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 21:21:44 ID:jnI.Pdpo
僧侶「ルール上、ここはもう安全です。一人で上に行くのは危険だと思います!」

勇者「もし異常事態が起きているなら、そのルールが守られる保障はないだろ。だから、確かめないといけないんだ」

僧侶「それは……」

勇者「昨日バトマスたちは、『本気でやらないと殺されそうだった』と言っていた。だけど、あいつは『模擬戦』と表現したんだ。何か印象が違いすぎると思わないか?」

僧侶「昨日、私たちの技量を測っていましたよね。レベルに応じた結果が、この仕打ちかもしれません」

勇者「そうかもしれないし、そうではないかもしれない。ひとつ不審な点があるんだ。案内人を蘇生させたあの魔道具、僧侶さんは何だと思う?」

僧侶「私には分かりません……。賢者の石や修復蘇生魔法、それらを超える何かだと思います」

勇者「おかしいだろ。そんな魔道具を使えば、支援施設は採算が取れないじゃないか。この腕輪も安全のために装備しているけど、発動させないほうが支援施設は利益が増えるんだ」

僧侶「利益って……。でも、そう考えるとそうですよね」

勇者「だから、俺は異常事態が起きていると思うんだ」

僧侶「そう……でしょうね」


223
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 21:28:55 ID:jnI.Pdpo
勇者「とりあえず、採算度外視の実戦訓練の可能性もある。それを確かめるために、俺は2階の様子を見てくるよ。僧侶さんは魔法使いちゃんを頼む」


勇者さまはそう言うと、優しく抱き締めてくれていた腕を放した。
そして私は、ぼんやりと立ち尽くす。


僧侶「分かりました。もし何かが起きているなら、この先も卑劣な罠があるかもしれません。だから、このネックレスを持って行ってください」

勇者「これは?」

僧侶「私が作った、治癒魔法の装身具です。いざという時のために、魔法を込めているんです」

勇者「ありがとう。それじゃあ、行ってくるよ。僧侶さんも一応、外からの敵に警戒しておいてくれ」

僧侶「はい。勇者さま、必ず戻ってきてくださいね」


224
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 22:36:11 ID:7KqjtCnc
魔法使い「僧侶さん……」グスッ


勇者さまが通路に消えた後、私は沈うつな表情で呟いた。
その言葉を聞いて、僧侶さんが優しく手を差し伸べてきた。
しかし、私はその手を振り払った。


僧侶「あっ……」

魔法使い「どうして、あんな無残な殺し方をしたのですか?」

僧侶「それは……」

魔法使い「ごめんなさい、本当は分かっています。それ以外の手段がなかったことは分かっているけど、その……受け入れられないんです」


僧侶さんは今まで、命の大切さを教えてくれた。
優しくて慈愛に溢れていた。
だけど、あんな殺し方が出来るだなんて普通じゃない。
どっちが、あなたの本当の姿なの?

私はすがる様な視線を向けた。
するとややあって、僧侶さんは伏し目がちに話し始めた。


225
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 22:53:29 ID:7KqjtCnc
僧侶「魔法使いちゃん、聞いてくれる?」

魔法使い「……」

僧侶「以前、魔法は必要なのかなって言ってたでしょ。本当は、魔法なんてないほうがいいのかもしれない。だって、魔法は戦争で人を殺すための武器だから」

魔法使い「人を殺すため……」

僧侶「今は極南の地にある闇のおかげで国同士が協力しているけど、昔は魔族と人が殺し合い、国と国が戦争をして人々は殺しあっていたの」

魔法使い「魔族と人々が争っていたことは、精霊神話で勉強しました。魔法の発見と精霊たち。そして、魔族の侵攻と争いの歴史――」

僧侶「その争いで、人はすべての魔族を滅ぼしたの。魔法を使って、一匹残らず根絶やしにして……ね。職業として僧侶を選んだ人は、精霊魔術を学んで賢者になる人が多い。それはどうしてだと思う?」

魔法使い「……分かりません」

僧侶「攻撃する手段を持たなければ、敵兵に殺されてしまうからよ。だから私も、殺めるための魔法を身につけたの。教会でも蘇生させることが出来ない即死魔法を――」

僧侶「そして敵兵に捕まっても逃げられるように、拘束具の組成を研究したり、金属を破壊するために錬金術を学んだの。私が使う防御魔法は、それらの研究で編み出した魔法なんだよ。だって、壊せるなら強化も出来るはずでしょ?」

魔法使い「じゃあ、僧侶さんはどんな物でも壊せるんですね……」

僧侶「組成を理解している動植物や、防御魔法で強化できるものならね」


226
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:12:11 ID:7KqjtCnc
魔法使い「僧侶さんは、どうして女賢者にならなかったんですか」

僧侶「私は人を殺めるために精霊魔術を学ぶよりも、人間のこと、命のことをもっと深く知りたかったの。さっき見せた破壊魔法は残酷な魔法に見えるけど、正しく使えば命を救うために必要な魔法なんだよ。そのことは、魔法使いちゃんに分かってほしい」

魔法使い「やっぱり、僧侶さんは僧侶さんなんですね」


確かに、無残な殺し方が出来るかもしれない。
人を壊し、物を壊すことが出来るかもしれない。
だけどそれ以上に、命を救い、人を守ることを考えている。
それは、私がよく知っている僧侶さんの姿だった。


僧侶「もう何が言いたいのか分からなくなってきたけど、精霊魔術を得意とする魔道師は、治癒魔法を覚えて賢者になろうとはあまりしないの。なぜなら、やられる前に殺せば良いだけだから」

僧侶「だから魔法使いちゃんは、今の気持ちを大切にしてほしいと思う。無残な遺体を見て、気持ち悪いと思ったことも乗り越えて欲しい。その先に、魔法使いちゃんが目指す姿があると思うから」


227
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:16:30 ID:7KqjtCnc
魔法使い「はい……。でも、僧侶さんは一つだけ間違っています」

僧侶「間違ってる?」

魔法使い「魔法がなくても、剣やナイフがあります。魔法は攻撃手段のひとつでしかないんです。魔法が必要ないのではなくて、魔法を使う人の心が間違っているんだと思います。だって、魔法は誰かを守るための手段のひとつなんですから」

僧侶「そう……だよね」

魔法使い「はい。あの自爆魔法は、僧侶さんにしか止めることが出来ない魔法でした。そして、僧侶さんにはあれ以外の手段がなかった。私たちを守ってくれたのに、ごめんなさい……」


そう言うと、再び涙が溢れてきた。
そんな私に、僧侶さんがためらいながら腕を伸ばす。
一瞬、視線が交わる。
そして私は、柔らかい温もりに包まれた。


228
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:31:19 ID:7KqjtCnc
それからしばらくして、私は僧侶さんの腕を解いた。
そして顔を上げ、涙を拭った。


僧侶「魔法使いちゃん、気持ちは落ち着いた?」

魔法使い「はい……」

魔法使い「僧侶さんは今まで、私に命の大切さを教えてくれました。さっきのことはショックだったけど、自分なりに受け止めたいと思います。そして人が殺されて気持ち悪いと感じたことも、自分の心の醜さと向き合って改めていきたいです」

僧侶「うん、そっか……」

魔法使い「だから、私は逃げずにここを上ろうと思います」

僧侶「本当にそれでいいの? さっきみたいな事が、また待ち受けているかもしれないわよ」

魔法使い「分かっています。だけど、私たち三人で力を合わせないと乗り越えられないと思うんです」


229
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:35:19 ID:7KqjtCnc
僧侶「魔法使いちゃん、強くなったね」

魔法使い「まだ、そんな実感はわかないです」

僧侶「上に行くなら何が起きるか分からないし、この指輪を渡しておくわね。これにも治癒魔法を入れてあるから」


私は指輪を受け取ると、右手の小指にはめた。
赤いルビーがあしらわれていて、きらりと輝いている。
素材は普通の指輪なので、デザインがとても可愛い。


魔法使い「ありがとうございます」

僧侶「それじゃあ、行きましょうか。勇者さまのところに――」

魔法使い「はいっ」


230
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:40:02 ID:7KqjtCnc
~2階のフロア~
階段を上がると、1階に下りてこようとしていた勇者さまとすれ違った。
上ってきたことに驚いているのか、目を丸くしている。


勇者「二人とも、どうしてここに……」

僧侶「私たちも上ることにしました。2階の様子はどうですか?」

勇者「それが、何もなかったんだ。通路が入り組んでいてトラップが仕掛けてあると思ったんだけど、そういう物も何もなかった」

僧侶「奇妙ですね……」

勇者「本当に二人も上に行くのか? 何があるのか分からないぞ」

魔法使い「私は逃げずに最上階を目指したいです」

勇者「そうか……。それじゃあ、慎重に上っていこう」

魔法使い「はいっ、頑張りましょう!」


231
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:58:25 ID:7KqjtCnc
~3階のフロア~
私たちは入り組んだ通路を抜けて、3階への階段を上った。
足音を気にしながら慎重に進み、勇者さまがゆっくりと扉を開く。
そして部屋を覗くと、そこは1階のような中部屋になっていた。


勇者「誰もいないな」

魔法使い「そうですね。魔力は感じませんし、魔術系のトラップもなさそうです」

勇者「次で最上階だけど、どうなっているんだ」

僧侶「このまま、何も起きなければいいのですが……」


疑問に感じつつ、3階のフロアを抜けて階段を上る。
そして最上階の扉の前で、勇者さまが鋭い表情を見せて立ち止まった。


勇者「二人共、中に誰かいるぞ」

僧侶「そうみたいですね」

勇者「1階のことがあるし、本当に何が起きるか分からない。警戒を怠らないようにしよう」

僧侶・魔法使い「はいっ」


232
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:59:25 ID:7KqjtCnc
~最上階のフロア~
扉自体がトラップであることも想定しながら、勇者さまがゆっくりと扉を開ける。
そして中を覗くと、最上階は大部屋になっていた。
吹き抜けになっていて、夏の青空が見えている。
そんな部屋の中央に、翼の生えた翼人が立っていた。


翼人「待っていたよ、勇者ご一行さん」

勇者「お前が最上階の相手か!」

翼人「そうです。自ら降りていこうかと思うくらい、待ちくたびれましたよ」

魔法使い「ね、ねえ、勇者さま。あの人、翼が生えていますよね……」

僧侶「もしかして、魔族……堕天使なんですか?!」

天使「失礼ですね、僕は大天使ガブリエルです」


233
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 22:21:04 ID:8Jtis6nY
僧侶「神の使いが、どうしてこんな所に……」

天使「女神さまの加護を受ける者と、それが選んだ者。その実力を見せてほしくて、ここに来た次第だ」

勇者「どういうことだ! 案内人の自爆は女神の意志なのか?!」

僧侶「えっ、まさか……」

勇者「少なくとも、この天使が何かを企んでいるのは間違いない。賢者の石を超える能力を持つ魔道具、僧侶さんでも知らなかったんだろ」

天使「今は問答をするつもりはない。まずは実力を見せてくれないかな」

勇者「魔法使いちゃん、戦える?」

魔法使い「はい、大丈夫です!」


私はそのために来たのだ。
戦わずに逃げるなんてことはしない。
しかも相手が大天使の一人である以上、三人で立ち向かわないと勝てはしないだろう。


234
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 22:31:36 ID:8Jtis6nY
天使「では始めようか。ゴーレムとサイクロプスを連れてきたから、二体まとめて倒してごらん!」

ゴーレム「ユウシャ、コロス!」

サイクロプス「ウガアァァッ」


二体の魔物が、どこからともなく召喚された。
全身が岩石でできた要塞のような怪物と、巨大な樫のこん棒を持っている一つ目の巨人だ。
それらは、精霊神話の時代に根絶やしにされたはずの魔族だった。


僧侶「うそっ、どういうことなの?!」

魔法使い「分かりません……」

勇者「二人とも、来るぞっ!!」


235
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:12:09 ID:8Jtis6nY
見上げるほどの巨体にもかかわらず、二体の魔族は俊敏に駆け出した。
その内の一体。
ゴーレムを見て、私は声を上げた。


魔法使い「岩石の怪物は任せてください!」


魔力で命を与えられた魔物ならば、すでに砂漠で戦闘済みだ。
岩石か砂か、所詮その程度の違いしかない。


魔法使い「土精霊召喚! 砂になれっ!!」


土精霊をゴーレムの身体に干渉させて、全力で魔力を注ぎ込む。
すると駆け出したゴーレムの脚が崩壊し、次の瞬間には大量の砂山に変化した。
そして崩れ落ちた砂山を石化させて、床に張り付けた。
これでもう、復活して動くことは出来ない。
ゴーレムだったものを見やり、私はサイクロプスを見据えた。


236
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:20:42 ID:8Jtis6nY
サイクロプス「ウグアァァッ!」


サイクロプスは雄たけびを上げながら、こん棒を振り回していた。
勇者さまはそれをかわし、間合いに飛び込んで右足を斬り払う。
しかし何事もなかったかのように、サイクロプスはそのまま勇者さまを蹴り飛ばした。


勇者「ぐはっ……」

魔法使い「勇者さまっ!」

僧侶「魔法使いちゃん、危ないっ!」


勇者さまを案じて目を向けると、僧侶さんの声が響き渡った。
はっとして振り返ると、サイクロプスが巨大なこん棒を大きく振りかぶっていた。
それが振り下ろされ、私は身体を硬直させる。

もう間に合わない。
このまま叩き潰されて死んでしまう――。

しかし覚悟を決めた瞬間、こん棒がガラスで出来ていたかのように砕け散った。


237
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:36:55 ID:8Jtis6nY
魔法使い「えっ?!」

僧侶「魔法使いちゃん、今は命がけの戦いなのよ! 敵から目をそらさないで!」

魔法使い「は、はいっ!」


どうやら、僧侶さんが破壊魔法でこん棒を壊してくれたらしい。
私は礼を言い、戦闘に集中した。
武器がなければ、サイクロプスはただの巨人だ。
身長差のせいで、もはや蹴るか踏みつけるくらいしか出来ないはずだ。


勇者「魔法使いちゃん、凍結頼むっ!」

魔法使い「はいっ、凍結魔法っ!!」


大気中の水分が凍りつき、サイクロプスは氷付けになった。
しかもここは海が近いので、水が豊富にあり完全に凍結させることが出来る。
そして凍結したサイクロプスは崩れ落ち、勇者さまがその隙に首を斬り払った。
断末魔の悲鳴が耳をつんざき、砕けた氷が血で赤くなる。
やがて案内人と同じ魔道具が発動したのか、サイクロプスは転移して消えてしまった。


238
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:38:55 ID:8Jtis6nY
天使「うわぁ、瞬殺だし。すごいすごい!」

天使「しかもゴーレムを土精霊で強引に破壊する人間なんて、はじめて見たよ。さすが、勇者ご一行の魔道師は一味違うねえ」

魔法使い「これは喜んでいいのでしょうか……」

天使「そうだね、褒めているつもり。なかなか出来ることじゃないからね」

魔法使い「あ、ありがとうございます」


私は戸惑いつつ、笑顔で返した。
大天使に褒められるだなんて、まるで夢みたいだ。
危ない場面もあったけど、すごく自信がわいてきた。


239
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:51:42 ID:8Jtis6nY
天使「でもねえ、人間でなければ殺しても良いのかい?」

魔法使い「えっ……」

天使「見てみなよ、砂にされて石化させられたゴーレムを――。魔法使いちゃんは、精霊魔法でゴーレムを破壊した。それは、彼女が見せてくれた破壊魔法と同じじゃないか。一体、何が違うんだろうね」

魔法使い「そ、それは……」

天使「サイクロプスだって、殺されて痛かっただろうにねえ」


私は石化させたゴーレムと砕け散っている氷片を見た。
僧侶さんの破壊魔法と私の土精霊による岩石破壊。
それは突き詰めると、まったく同じ行為なのだ。

私がしたことは、僧侶さんと何も変わらない。
人間か魔族かの違いがあっただけだ。
だけど、私は――。


勇者「お前は俺たちの実力を見たかったんじゃないのか! 殺すつもりで襲わせておいて言えることか!」

僧侶「魔法使いちゃん、耳を貸しては駄目です!」


240
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:54:56 ID:8Jtis6nY
天使「僕は彼女と話をしているんだ。少し黙っていてくれないか?」

魔法使い「そんな話をして、私に何をさせたいのですか」

天使「キミの答えを聞かせてもらおう」

魔法使い「答え?」

天使「どんな理由があろうとも、命を奪うことは未来を奪うことだ。魔法使いちゃん、ただの村娘に過ぎないキミに、その犠牲を背負う覚悟があるのかい?」


そう、私はただの村娘かもしれない。
だけど、この旅を通じてたくさんのことを学んできた。
僧侶さんから命の大切さを教わり、この塔では人を殺すことがどんなことか学んだ。
そして覚悟が出来たから、私は今ここにいるんだ!


魔法使い「私は無益な殺生で命を奪うことは、絶対にするべきではないと思います。だけど身を守るために、やむを得ない場合もあることを知りました。私は奪った命を無価値なものにするつもりはありません!」

天使「そうか、それがキミの答えなんだね」

魔法使い「はいっ!」


241
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:54:56 ID:8Jtis6nY
天使「じゃあ、自分の身を守ってみせてよ。魔法使いちゃんに本当の魔法の使い方を教えてあげるよ」

魔法使い「えっ……?」

天使「土精霊は興味深い使い方だった。でもね、水精霊での攻撃は駄目だったよ。人間は誰もが、空気中の水蒸気を凍結させようとする。もっと思い切らなくちゃ。凍結魔法!」


強大な魔力を感じた瞬間、右腕に激しい痛みが走った。

筋肉と皮膚、血液、骨。
肩から指先に至るまで、『右腕そのもの』が完全に凍結している。
そして凍結により破壊された右腕は、肩の関節から折れてぼとりと落ちた。
その衝撃で落下した腕が肘で割れ、指先の関節が砕け散る。
さらに腕が落ちた右肩からは血が溢れ出し、耐え難い激痛に襲われた。


魔法使い「あがあぁああっ、いやあああぁぁぁぁっ!」


私はあらん限りの声で絶叫して、悶えながら崩れ落ちる。
そしてその瞬間、治癒魔法が発動して指輪が壊れた。
しかし、砕けた右腕は治癒魔法の限界を超えていた――。


242
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 01:00:11 ID:YbzwCgdU
魔法使い「やあっいやああぁぁっ、うぐうぅぅっ……!!」

天使「ほらっ。次は風精霊の攻撃方法を、その身に教えてあげるよ」

天使「人間は刃物のように攻撃するのが好きみたいだけど、そんな不確実な方法は駄目だよ。生物なんだからさあ、他にすることがあるだろ」

魔法使い「むぐぅぅっ……」


口と鼻から大量の空気が押し込まれる。
吐くことは許されず、次々と肺に空気が詰め込まれていく。
胸が膨らみ、叫ぶことも許されず、あっという間に肺が破裂した。

さらに空気の刃が心臓を切り裂き、食道から多量の空気が送り込まれる。
胃や小腸に侵入した空気が暴れ、次々と消化管を破裂させていく。
さらに切断された血管から気泡が入り込む。

空気の塊に体内が蹂躙されていく。
意識が朦朧として、もうどこが痛いのか分からない……。

吐き出される空気とともに血を噴き出しながら、私は力尽きた。


243
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 01:10:45 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
僧侶「魔法使いちゃん!!」


僧侶は魔法使いに駆け寄り、声を掛けた。
しかし、魔法使いはぴくりとも反応しなかった。

凍結して、砕けてしまった右腕。
苦悶の表情を浮かべたまま、定まっていない視線。
口元からは鮮血が溢れ出し、顔と床を赤く染めていく。
そんな彼女の虚ろな瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。

この一瞬の間で、魔法使いはどれ程の苦しみを味わったのだろう。
幸いにして脳が無傷なので、まだ生きてはいる。
しかし、それもすぐに機能が停止するだろう。


魔法使いは、もう死んでいる――。


244
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 22:06:21 ID:YbzwCgdU
勇者「僧侶さん! 早く魔法使いちゃんをっ!」

僧侶「はいっ!」


僧侶は気持ちを切り替え、魔法使いの蘇生に意識を集中させた。
支給された魔道具により蘇生することは分かっているが、欠損した右腕が再生するとは限らない。
しかも、どこに転移させられるのかも分かっていないのだ。
だから魔道具が発動するよりも早く、魔法使いを蘇生させなければならない。


僧侶「水精霊召喚。鎮痛魔法、修復蘇生魔法!!」


凍結した右腕を解凍し、魔法使いを包み込むように魔法陣を展開させた。
魔法医学を極めた女僧侶として、最上級の修復魔法を行使する。
その魔法に包まれて体組織が修復され、右腕や内臓が再生され始めた。
そして、魔法使いの小さな身体に命が戻っていく。


天使「へぇ、僧侶さんは生命を支配しているのか。人間を超える領域にまで達しているとは、実に素晴らしい。だけど人間の器を抜け出せない以上、そこに能力の限界がある」


245
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 22:19:05 ID:YbzwCgdU
勇者「これ以上、好きにさせるかっ!!」


勇者は何かしようとしていた天使へと、斬りかかった。
風精霊の力を宿し、二段構えの斬撃を飛ばす。
しかし天使はその風を反転させて、軽々といなした。


天使「駄目だね。そんな剣では僕には勝てないよ。土精霊!」


その言葉と同時、ゴーレムだった石山から強大な石槍が突き出された。
勇者はとっさに飛び退き、剣を構える。
そして土精霊の力を宿して、巨大な石槍を叩き壊した。


勇者「そっちこそ、その程度で俺を倒せるものか!」

天使「なるほど。では、次はよけられるかな?」


246
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:04:23 ID:YbzwCgdU
すると今度は、石のつぶてが飛んできた。
猛スピードで鎧に当たり、石が砕け散る。
それは、人の目では捉えることが出来ないスピードだった。
そんな速さで次々と射出された石つぶてが、勇者の手足に被弾していく。


勇者「ぐああぁっ!」

天使「その程度で俺を、何だって?」


僧侶から渡されたネックレスが崩れ、治癒魔法が解放された。
銃創が回復し、痛みが引いていく。
しかし、このままではじり貧だ。

もし通常の魔法銃であれば、相手の目を見ることで狙いやタイミングを推し量ることが出来る。
しかし石山全体から無秩序に放たれる弾丸では、相手の心理を読むことは出来ない。
避けることは困難となり、ただの的になるしかない。
それでも、まだ打つ手は残されている。


247
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:15:40 ID:YbzwCgdU
勇者「大地斬っ!!」


勇者は眼前の床に向けて、全力で剣を振り下ろした。
そして剣に宿された土精霊の力が、最上階の床を斬り裂いた。
次々と床が割れ、溝が広がっていく。
やがて石山の重量に耐えられずに、床の一部が階下へと崩落した。


天使「床を抜くとは面白い。だが、詰めがあまい!」


その言葉と同時、勇者の背後から石つぶてが飛んできた。
勇者は足を打ち抜かれ、血を滴らせながら膝を付く。
さらに石つぶてが弧を描き、勇者の腕を貫いた。


勇者「ぐっ、くそっ……」

天使「妙案のつもりだったのだろうが、すでにたくさん落ちているじゃないか。さあ、次はどんな策を見せてくれるんだい?」


248
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:15:40 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
魔法使い「ゼエゼェ……僧侶さん……」

僧侶「魔法使いちゃん、気が付いたのね!」

魔法使い「……はい」


どうやら、僧侶さんのおかげで一命を取り止めたらしい。
だけどまだ完全に治癒していないのか、猛烈な腹痛と虚脱感を感じる。
それに耐えながら周囲の情況を確認すると、勇者さまが血塗れで倒れているのが見えた。


魔法使い「私より勇者さまを……。早くしないと……し、死んじゃう」

僧侶「分かってるけど、まだ魔法使いちゃんのほうが危険な状態なのよ」

魔法使い「だい……じょうぶです。僧侶さん、勇者さまを助けて」

僧侶「分かった。無理はしないでね」


私はおぼつかない足取りで、ふらふらと立ち上がった。
そして、全力で爆発魔法を詠唱した。


249
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:15:40 ID:YbzwCgdU
魔法使い「……爆発魔法!!」


激しい爆発が天使を吹き飛ばし、その隙に僧侶さんが駆け出した。
しかし翼が吹き飛んだだけで、見る間に回復してしまった。
これでは、時間稼ぎにすらならない。


天使「良かった、無事に蘇生したんだね。少しやりすぎたかなって、心配したよ。それにしても、殺されても怯えずに攻撃する精神力。想い慕う力は強い――か」

魔法使い「ゼェゼェ……」

天使「ところで、キミたちはさあ、どうして魔法を使えると思う?」

魔法使い「そんなの、常識……だと思うんですけど」

天使「いや、よく考えてみるといい。燃焼には三つの要素が必要だし、空気中の水蒸気を凍結させて物質の三態までも操作している。さらには致命傷を一瞬で治癒したり、蘇生までしてしまう」

天使「それらを可能とするエネルギーは、一体どうやって調達しているんだろうね?」

魔法使い「どういう意味……ですか」

天使「世界の扉を閉めさせてもらうよ。封印魔法!」


250
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:32:55 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
僧侶「治癒魔法!」


魔法使いが天使の話を引き伸ばしてくれている間に、僧侶は勇者に治癒魔法を施した。
しかし、勇者の出血が止まることはなかった。


僧侶「えっ?! 魔法が使えない!」


天使が何かの魔法を発動した直後から、不思議な感覚に包まれている。
全身が魔力で満たされているのに、それを根こそぎ奪い取られたかのような虚脱感。

以前、魔術書で読んだことがある。
魔族との戦争時、堕天使が魔術を封じる魔法を使っていたことを――。

神の遺産が示す、世界への扉。
その扉が閉ざされたとき、魔法を失うと云われている。
つまり魔力や魔法の源は、向こう側の世界にあったのだ。


251
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:48:51 ID:YbzwCgdU
勇者「僧侶さん、大丈夫だ。これくらい問題ない……」

僧侶「大丈夫なわけがないじゃないですか! この髪留めに治癒魔法を込めています。今から、それを解放します!」


魔力を解放すると、治癒魔法が発動して髪留めが崩れた。
そして勇者の出血が止まり、傷がすべて回復した。
どうやら、すでに魔法の形で留めていたものは使えるようだ。

しかし、回復用の装身具を用意していたのは三人分。
ネックレスと指輪、髪留め。
それらをすべて使ってしまったので、僧侶はもう治癒魔法を使うことは出来ない。


252
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:55:07 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
天使「さて、最後は火精霊だ。人は皆、火を熾すことに満足して、最も効率よく燃焼させる方法に気付いていない。魔法使いちゃん、火炎魔法の炎の色は何色だと思う」

魔法使い「黄色……だと思います」

天使「それでは不完全だ。火炎魔法を使うなら、風精霊も組み合わせないといけない。それが、本当の火炎魔法なんだよ」

魔法使い「あ、青白い炎?!」


炎は赤いものだと思っていた。
強い炎ほど、黄色く輝きが増すものだと思っていた。
それが私にとって常識だった。

それなのに天使の火炎魔法は、青白い炎が鋭利に輝いていた。
この炎が具現化したとき、なすすべもなく焼き尽くされてしまうのではないか――。
そんな想像が脳裏をよぎる。

しかし、攻撃手段がないわけではない。
盗賊たちに魔力を空っぽにされた苦い経験から、宝石を使ったアクセサリーを買ってもらっているのだ。
それらのアクセサリーに四大精霊を封じ込めて、いつも身に付けている。


253
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 00:22:16 ID:yaa41MzQ
魔法使い「火精霊、風精霊、解放しますっ!!」


その言葉と同時、火精霊と風精霊の装身具が崩れた。
そして、天使が使役している火炎魔法を攻撃した。
あれが火精霊と風精霊から作られているのなら、こちらも同じ精霊をぶつけてしまえばいい。


天使「その程度の魔力では、力押しなんて無理だよ。しかも、これでは爆発魔法の魔力バランスじゃないか。どのように現象を支配しているのか、その身をもって知るがいい」

魔法使い「そんな……」

天使「火炎魔法!」


装身具だけの魔力では天使に敵うはずがなく、無常にも青い炎が放たれた。
今度は焼き尽くされて殺される。
そう思った瞬間、目の前で炎が弾け飛んだ。


254
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 00:23:16 ID:yaa41MzQ
勇者「精霊魔法なら、俺が斬り捨ててやる!」

魔法使い「勇者さまっ!」

天使「そうか、女神さまの加護か」


勇者さまには女神の加護があるので、状態異常に類する魔法は効果がない。
だから魔法剣を使うことが出来て、火炎魔法の精霊を斬ることが出来たのだ。
そして、もう一つ。
女神の加護を持つ者は、電磁気力を操る魔法を使うことが出来る。


勇者「電撃魔法っ! 食らえっ、雷神斬り!!」

天使「くっ!」


勇者さまは刀身に電撃をまとわせ、力強く振り下ろした。
そして放たれた稲妻と斬撃が、たじろぐ天使を両断した。


255
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 21:25:30 ID:yaa41MzQ
勇者「はぁはぁ、どうにか倒せたか――」

魔法使い「勇者さま、すごいです!!」


私はおぼつかない足取りで、勇者さまに歩み寄った。
そして、天使へと目を向ける。

すると突然、崩れ落ちた天使の身体が光り始めた。
まばゆい輝きを放ち、光の繭に包まれていく。
そして目がくらむほどの閃光が走ったかと思うと、何事もなかったかのように立っていた。


魔法使い「魔法を使わずに蘇生した?!」

天使「痛ててて……。さすが、女神さまに加護されているだけあるよ。あの魔法は、さすがに痛いな――」

勇者「くそっ、もう一撃!!」

天使「その必要はない。勇者ご一行の実力は分かったから、これで十分だ。キミ達に勝ちを譲ろう」

勇者「勝ちを譲る……だと?」

天使「人間では僕たち大天使には勝てない。だから、譲ると言ったんだ」


256
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 21:27:48 ID:yaa41MzQ
勇者「一体、何が目的なんだ!」

天使「そのことだけど、魔法使いちゃん。苦しい思いをさせてごめんね」


不意に名前を呼ばれ、私は戸惑った。
死ぬ思いをさせておいて、軽いノリで謝られても困ってしまう。


魔法使い「一体どういうつもりなんですか」

天使「どんな理由があろうとも、命を奪うことは未来を奪うことだ。だからこそ命を奪う重さ、奪われる苦しみを知っておいてほしかったんだ。他ならない、キミに――ね」

魔法使い「だから、私を――」

天使「そういうことかな。そして魔法使いちゃんは、『奪った命を無価値なものにするつもりはない』と誓ってみせた。その言葉、忘れないでいてほしい」

魔法使い「はい……」

天使「それにしても、キミの魔法は力強くて興味深い。だけど、魔法防御が課題かな。あの程度で死ぬようだと、人間止まりだよ」

魔法使い「すみません、もっと頑張ります」

天使「そうだね、期待しているよ」


257
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:10:56 ID:yaa41MzQ
僧侶「ふざけないでください! 魔法使いちゃんを殺しておいて、『命を奪われる苦しみを知っておいてほしかった』とか、あまりにも勝手が過ぎるんじゃないですか?!」

天使「それは心外だなあ。死んでも生き返るように、キミたちには魔道具を渡してあるじゃないか」

僧侶「そういう問題じゃないんです。どうして、こんなことをしたんですか! 1階の案内人も、自爆させましたよねえ!」

天使「目的のために犠牲は付き物だ。彼が自爆したことで、キミたちは命の大切さを考えた。そして彼女も殺されることで、命の大切さを深く知っただろう。それだけでも、大きな意義があったと言えるんじゃないかな」

僧侶「そうでしょうか。私には、その必要があったとは思えません!」

天使「大局が見えていないから、そう思うだけだよ。この塔で4つの命が消えた。それを価値のある犠牲に出来るかどうかは、キミたち次第だ。違うかい?」

魔法使い「そう……ですよね。私は誰の命も、無価値なものにしたくはないです」

僧侶「魔法使いちゃん……」

魔法使い「まだすごく苦しいけど、ここに来て良かったです」


258
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:14:05 ID:yaa41MzQ
勇者「大局が見えていないと言うなら、教えてもらおうか。女神はなぜ、俺に神託を下したんだ。こんな茶番をした目的は何なんだ!」

天使「キミたち三人に期待しているからだ。だからこそ、僕が会いに来たんだ。それ以外に、どんな理由があるというんだい?」

勇者「くっ……」

天使「それでは、試練を乗り越えたキミたちにメッセージだ」


天使はそう言うと、勇者さまにパズルを手渡した。
どうやら、ポリオミノ系の詰め込みパズルのようだ。


勇者「これがメッセージ?」

天使「それを解けば、おのずと分かるだろう。試される者よ、キミたちが成し遂げてくれることを期待しているよ」


その言葉と同時、世界が光に包まれた。
そしてそれが治まると、身代わりの腕輪とともに天使の姿が消えていた。


259
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:30:46 ID:yaa41MzQ
~支援施設~
受付「大変申し訳ありませんでした」ペコペコ


支援施設に戻ると、受付さんに頭を下げられた。
どうやら本来の担当者が何者かに襲われて、訓練施設を占拠されていたらしい。
そして救助に向かったものの、強力な結界でどうにもならなかったそうだ。


勇者「まあ、無事に帰れたから良いものの……」

受付「しかし、大天使ガブリエルですか。神の使いが興味を持たれるとは、よほど腕が立つ方々なのですね」

勇者「はは、それはどうだろ」

魔法使い「そんなことないです。勇者さま、格好よかったです!! 僧侶さんも、本当にありがとうございました!」

僧侶「魔法使いちゃんも、よく頑張ったね。それでは、そろそろ戻りませんか?」

勇者「そうだな」

受付「あの、こちらは無料サービス券となっております。またの機会にご利用ください」


260
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:43:27 ID:yaa41MzQ
~客船~
部屋に戻り、私たちはパズルと向き合った。
長方形が4つ又は5つ繋がったピースが11個あり、それらが長方形の枠の中にきっちり納められている。
そしてそれとは別に、1単位の長方形のピースが1つ、枠外に分けられていた。


勇者「天使に渡されたこのパズルは、どういう意味なんだろ」

僧侶「恐らくですけど、この枠外にある長方形のピースが、この中に入るのではないでしょうか」

勇者「いやいや。いくら何でも、それは無理だろ」

僧侶「正方形を切り分けて並べ替えることで、面積が増減する不思議なパズルがあるんです。これも図形消失パズルの一種かもしれません」

勇者「へぇ、そういうパズルがあるんだ」

僧侶「だけどこれはポリオミノ系で、枠の大きさが固定されているんですよね……」

魔法使い「とりあえず、試してみましょうよ」

僧侶「そうだね。暇つぶし暇つぶし♪」

勇者「これ、長方形の向きを統一しないと段違いになるな」

僧侶「そうですね」

魔法使い「なかなか納まりませんねえ……」


261
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 23:00:10 ID:yaa41MzQ
僧侶「えっと、これでどうかなあ」カチャカチャ

魔法使い「僧侶さん、入りましたよっ!」

僧侶「やっぱりね」

勇者「それにしても、すごいな……。枠にきれいに入っていたのに、さらにもう一つ入っちゃったぞ」

魔法使い「ですよね、興味深いです。最初に少しだけ余裕があったけど、それが利いているんでしょうね」

勇者「だけど、これにどんなメッセージが込められているんだ?」

魔法使い「もしかすると、ペントミノ系のパズルだということがヒントなのかもしれません」

僧侶「つまり、この枠は世界を表しているということ?」

魔法使い「そうです」

僧侶「だとすると、何者かが世界に侵入しているのかもしれないわね」


262
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 23:39:35 ID:yaa41MzQ
勇者「それって、どういうことだよ。俺にも分かるように説明してくれ」

僧侶「ポリオミノ系のパズルにとって、枠は世界なんです。そして世界の外側にあったピースが、中に入りましたよね」

勇者「なるほど、そういうことか」

僧侶「つまりですよ、このパズルは『何者かが世界に侵入している』ことを示すものではないでしょうか。そして私たちに、その何者かを倒してほしいのではないでしょうか」

勇者「もしそれがメッセージなら、極南の地には魔王がいるのかもしれないな。やはり、復活していたのか」

僧侶「でも、腑に落ちないことがあるんです」

勇者「腑に落ちないこと?」

僧侶「はい……。方法はどうあれ、天使は命の大切さを強調していましたよね。倒すことが目的ではないような気がするんです」

勇者「魔王を殺さずに和解することが、目的なのかな」

僧侶「分かりません。具体的なメッセージが欲しいですよね……」

魔法使い「とりあえず天使さんは、『期待している』と言ってくれました。今日起きたことを肝に銘じて、もっと頑張ろうと思います。魔法医学も本気で勉強したいです」

勇者「そうだな。何かが起きている事は間違いないし、向こうに着けば分かるだろう。今日のことを生かして、三人で頑張って行こう」

僧侶・魔法使い「はいっ!」


263
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 23:45:25 ID:yaa41MzQ
第5話 おわり

(シチュエーション・パズル)
・ウミガメのスープ

(ポリオミノ)
・ペントミノ
・ヘクソミノ

(図形消失パズル)
・正方形の並べ替え
・ワンダーパズル


勇者「ドーナツの世界?!」第6話を読む
勇者「ドーナツの世界?!」【後編】を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第6話

265 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/20(日) 21:53:56 ID:LTZ6xAAk
第6話 淫されていく想い
~客船~
勇者「僧侶さん、魔法使いちゃんは?」

僧侶「図書室で魔法医学の勉強をしています」

勇者「そうなんだ。最近、本当によく頑張ってるよね」

僧侶「天使に期待していると言われたのが、かなり効いているみたいです。魔術書もいろんな論文に目を通しているみたいだし、将来が楽しみですよね」


海の都を出発して、二週間。
魔法使いは女賢者になるべく、本格的に魔法医学の勉強を始めた。
今は基礎勉強中で、必要に応じて僧侶が教えている。


勇者「そうだね。ところで、来週には南の都に着くだろ。やっぱり魔法使いちゃんには、街に残ってもらうほうが良いんじゃないかと思うんだ」

僧侶「それなら、一緒に行くことに決まったじゃないですか。天使は私たち三人を指名しています。それは女神の意思でもあるので、別行動は良くない結果を招くことになると思います」

勇者「やっぱりそうか……」


266
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/20(日) 22:20:06 ID:LTZ6xAAk
勇者「それはそうと、僧侶さんは何をやってるの?」

僧侶「ペントミノを積み上げて、直方体にしています」カチャカチャ

勇者「それって、枠に収めて遊ぶだけじゃないのか」

僧侶「1単位が立方体のペントミノは、積み木のようにして遊べるんです。ほらっ、出来ました♪」

勇者「ほんと、僧侶さんはいつも楽しそうだな」

僧侶「そう見えますか? 私だって、いろいろ悩みがあるんですよ」

勇者「たとえば?」

僧侶「それは、その……//」


僧侶は勇者を見詰めて、顔を赤らめた。
海の都で訓練施設を利用したとき、大天使ガブリエルが神託を伝えるために会いに来た。
それは女神に期待されている証拠だし、そんな彼のことが素敵だと思う。
気心も知れてきたし、この抑えている気持ちを伝えてしまいたい。

だけど、踏み切れない。
返事が怖いと言うよりも、魔法使いのことが気掛かりだからだ。


267
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/20(日) 22:20:06 ID:LTZ6xAAk
僧侶「……」

僧侶「勇者さま、一緒にペントミノ牧場を考えませんか」

勇者「今、ごまかした?」

僧侶「すみません。ちょっと言いにくいことなんです」

勇者「そっか、私的な悩み事なら仕方ないな。それで、ペントミノ牧場はどんな遊び方なんだ」

僧侶「ピースを柵に見立てて、一番大きな牧場を作るんです」

勇者「なるほど……。あれっ、意外と難しいぞ」

僧侶「あまり欲張りすぎると、柵が届きませんよ」

勇者「分かってるけど、その加減が難しいんだよな」

僧侶「だって、パズルですから。この広い世界の中で、私たちがいつも幸せに過ごせるようになったら素敵ですよね//」カチャカチャ

勇者「そうだな。そのためにも、南の調査を早く終わらせないといけないな」

僧侶「ふふっ、そうですね//」


268
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/20(日) 22:29:31 ID:LTZ6xAAk
~南の都~
一ヶ月余りの船旅が終わり、ようやく南の都に到着した。
聞いた話によると、この都は魔術の研究が盛んな街らしい。
私はそのことを思い出し、街を見渡した。


魔法使い「ここって、魔術の研究が盛んな街ですよねえ。魔術書を何冊か買って、村に送ってもらうことって出来るんでしょうか」

勇者「魔法使いちゃん、頑張ってるね。資金に余裕があるし、好きな書物を買って大丈夫だよ」

魔法使い「ありがとうございます。それにしても、どうしてこんな場所で魔術の研究をしているんでしょうね」

勇者「どうしてって?」

魔法使い「だって、今は白夜の季節かもしれないけれど、もうすぐ日が沈むようになって極夜の季節が来るじゃないですか。そうなると、すごく研究しづらいと思うんです」

勇者「言われてみれば、そうだよな」

僧侶「その昔、白夜や極夜は呪術的な現象だと信じられていたんです。だから、その名残だと思いますよ」

魔法使い「あっ、そういうことだったんですね。言われてみれば、呪術的なものを感じる気がします」


269
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/20(日) 23:04:01 ID:LTZ6xAAk
勇者「呪術的なもの?」

魔法使い「はい。何だか違和感を感じるんです」

勇者「それって、神の遺産に込められている魔力と同じものなのか?」

魔法使い「いえ、神の遺産とは違うものです」

勇者「だったら、あまり気にする必要はなさそうだな。ここは魔術の研究が盛んな街だし、呪術の研究をしている人がいるってことだろ」

魔法使い「そうかもしれないですね」


違和感はあるけれど、そう言われるとそんな気がしてきた。
街全体が呪術的なものに包み込まれているようだし、それだけ魔術の研究が盛んに行われているのだろう。
私もいつか、新しい魔術の研究をしてみたい。


勇者「それじゃあ、泊まる宿を探そうか」

僧侶「ガイドブックによれば、あの旅館の白夜温泉と魚料理がおすすめだそうですよ」

魔法使い「だったら、そこに決まりですね。お魚、楽しみです」

勇者「じゃあ、そこにしようか」

魔法使い「はいっ♪」


270
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/20(日) 23:13:46 ID:LTZ6xAAk
~宿・部屋~
僧侶「魔法使いちゃん、見てみて。この窓、南向きだから白夜を満喫できそうだよ。遮光カーテンも付いているし、観光客のニーズに応えた間取りだよね」

魔法使い「ですね~。日が沈まないときに来られて良かったです」


北半球では太陽が南側に昇っていくが、南半球では北側に昇っていく。
つまり南半球では、夜の間は太陽が南側にあることになる。


僧侶「今夜は白夜の観測をしましょうか」

魔法使い「それ、いいですねえ」

勇者「ところで二人とも、明日の予定なんだけど良いかな」

僧侶・魔法使い「はい」

勇者「俺は明日、この国の王様に会いに行くから、二人は自由行動。明後日は、みんなで買出しをしようと思う」

僧侶「分かりました」

魔法使い「了解です!」

勇者「じゃあ、今から観光に行こうか」

魔法使い「そうですね。今日のうちに、本屋さんと雑貨屋さんを見つけておきたいです」ルンルン


271
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/20(日) 23:34:41 ID:LTZ6xAAk
~街中~
勇者「この街は24時間営業の店が多いんだな」

僧侶「やっぱり明るいからじゃないですか」

勇者「そういう土地柄だもんな。でもさあ、日が昇らなくなったらどうするんだろ」

僧侶「やっぱり、24時間営業じゃないですか。ずっと休業なんてことになったら、住んでいる人々も困るでしょうし」

勇者「まあ、そうだよな」

魔法使い「私たちの国にも、こういうお店があれば便利ですよね」

僧侶「急に何かが必要になったとき、何でも揃っているお店が開いてたら便利だしね。例えば、道具屋さんとか」

魔法使い「そこに甘い物も売っていれば、言うことなしだと思います」

僧侶「いいわねえ♪ そんなお店、出来ないかなあ」

魔法使い「勇者さま、雑貨屋さんがありましたよ」

勇者「じゃあ、行ってみようか」


272
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/20(日) 23:51:29 ID:LTZ6xAAk
~雑貨屋~
店主「いらっしゃいませ」

魔法使い「僧侶さん、色んな知恵の輪が置いてありますね。あっ、九連環ですよ。これっ!」

僧侶「どれどれ? ほんとだ。神の遺産も売ってるんだ」

店主「当店では魔道師の方々のニーズに応え、魔道具や民芸品などを幅広く取り揃えております」

僧侶「九連環、触っても良いですか?」

店主「見本なら大丈夫だよ」

僧侶「ありがとうございます」カチャカチャ


273
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/20(日) 23:51:29 ID:LTZ6xAAk
勇者「僧侶さん。神の遺産ってことは、何か意味があるの?」

僧侶「この九連環の解き方なんですけど、前から三番目の輪を外すためには、この二番目の輪の下を潜らせないと外せないですよね」

勇者「そうだね」

僧侶「そして四番目の輪を外すためには、同じく三番目の輪の下を潜らせないと外せない。後は、この手順の繰り返しです。というわけで、九連環は献身や協調性の大切さを教えてくれるパズルなんです」

勇者「ふぅん。でもこの知恵の輪、口で聞くと簡単に解けそうだけど、実際にすると難しそうだな。どう考えても、五番目の輪を外せる気がしない」

僧侶「だから、人を思いやることは難しいんです。私たちも、大切な人のために何が出来るのか。それを考えられる人になりたいですね//」

勇者「大切な人か……」


274
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 00:04:46 ID:XhUo2.6o
魔法使い「すみません。これは何でしょうか?」


私は『チャレンジ』と書いてある箱を見つけて、店主さんに声を掛けた。
その箱の中には、手作りの知恵の輪と砂時計が入っている。
知恵の輪は針金を8の字に曲げて作られていて、両端を輪にして針金を潜らせることで、見た目は閉じられている。
そして付属している紐の輪を、その針金から外すことが目的のようだ。


店主「その知恵の輪は、チャレンジ知恵の輪だよ。その砂時計が落ちるまでに紐を外せたら、商品を一つ3割引きにします」

魔法使い「何でも安くしてもらえるんですか?!」

店主「もちろんです。ただし、1回限りの挑戦となります」

魔法使い「分かりました。頑張ります!」

店主「では、スタートです」


店主さんはそう言って、砂時計をひっくり返した。


275
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 00:21:01 ID:XhUo2.6o
魔法使い「これ、すごく難しいですね……」

僧侶「店主さん。この8の字知恵の輪から、紐の輪を外せばいいのですか?」

店主「そうだよ」

僧侶「……でもこれ、インチキですよね」

店主「!! な、何を根拠に!」

僧侶「8の字知恵の輪は、両端の輪で閉じる場所によって2種類作れます。これは外せない作り方です」

店主「それに気付いたところで、お客に損はないだろ。ちょっとした遊び心じゃないか」

僧侶「インチキだと認めましたね」ニコッ

魔法使い「なるほど。インチキパズルの紐を外すには、結び目をほどくしかありませんよね」

店主「!!」

魔法使い「砂時計が落ちるまでに、紐を外すことが出来ました~」ルンルン

僧侶「ちゃんとサービスしてくださいね♪」

店主「お嬢ちゃんたちには負けたよ……」ガックリ


276
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 00:30:36 ID:XhUo2.6o
勇者「おっ、割引きしてもらえるんだ。ところで、このチリ人の輪って、どうやって外すの?」

僧侶「すみません、それはとても難しい知恵の輪なんです。この自在に動く二つのパーツを利用すれば、リングを外せると思います」

勇者「そういう感じには見えないけどなあ」

魔法使い「リングが中にあるように見えて、実は同時に外でもあるんですよね」

勇者「中にあるように見えて、実は外にある……か」

魔法使い「そうです。主観が絶対ではないことが分かりますよね」

勇者「どうしても、この知恵の輪だけは外したいっ!」

僧侶「勇者さまもパズルの楽しさが分かってきましたね♪ ここは良いものが多いので、いくつか買って帰りましょうよ」

店主「ありがとうございます。一つだけ3割引きにしますよ!」

僧侶「安い知恵の輪で、割引特約を使う訳ないじゃないですか。もちろん、魔道具を見てから考えます」

店主「そ、そうですな。お買い物をお楽しみくださいませ」


277
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 00:37:26 ID:XhUo2.6o
魔法使い「僧侶さん、魔封じの腕輪や賢者の石なんて高級品がありますよ!」

僧侶「その賢者の石は、純度が低い中クラス品だよ。さっきのパズルのことがあるから、魔道具選びは慎重にね」

魔法使い「は~いっ」

店主「……」

僧侶「勇者さま、この転移の羽を魔法使いちゃんに買いませんか?」

勇者「転移の羽?」

僧侶「魔力を解放すると、一度行ったことのある場所に転移することができる魔道具です。これをエルグの村に行けるように設定しておけば、魔法使いちゃんだけは無事に帰らせることが出来ます」

勇者「そうだね。極南の地には何があるか分からないし、絶対に必要なものだな」


278
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 22:05:59 ID:XhUo2.6o
魔法使い「勇者さま、本当に良いのですか?! だってそれ、ものすごく高級な魔道具ですよ!」

勇者「俺たちにとって、魔法使いちゃんの無事が一番重要なことだからね。砂漠の富豪さんから受け取った報酬がたくさん残っているし、一つくらいなら大丈夫だよ」

魔法使い「あ、ありがとうございます!」

店主「それを安く買うとはお目が高い……」アセアセ

勇者「ははっ、サービス助かるよ。じゃあ、転移の羽と知恵の輪で」

店主「ありがとうございました」

僧侶「とても良い買い物をしましたね~。浮いたお金で、白夜まんじゅうを食べませんか?」ルンルン

勇者「そうだね。あの喫茶店に寄っていこうか」


小腹も空いてきたことだし、私たちは喫茶店に向かった。
そして観光を楽しんで宿に戻ったときには、すでに夕食の時間になっていた。


279
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 22:12:36 ID:XhUo2.6o
~部屋・夜~
僧侶「温泉育ちのお魚、美味しかったです」

勇者「メインの鍋をポン酢で食べるのが、あっさりしてて良かったね」

魔法使い「から揚げも美味しかったですよ」

勇者「ところで、明日はどうするか決めたの?」

魔法使い「魔術師の街というだけあって、本屋さんや図書館が充実していたので入り浸ります」

僧侶「行きたい喫茶店もあるし、明日が楽しみだね」

魔法使い「日が沈まないから、明日って感覚があまりしないですけどね」

僧侶「それじゃあ、魔法使いちゃん。そろそろ、百夜温泉に行きましょうか。ここは白夜にちなんで混浴らしいよ」

魔法使い「混浴? よく分からないけど、露天風呂から見る百夜も楽しみです♪」

僧侶「それでは勇者さま、お風呂に行ってきます」

魔法使い「行ってきます♪」


280
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 22:18:02 ID:XhUo2.6o
~露天風呂・混浴~
露天風呂には誰もいなかった。
もしかすると、極南の地に近いことで客が少ないのかもしれない。
私は開放感を感じながら、空を見上げた。


魔法使い「もう夜なのに明るいって、本当に不思議ですよね~。何だか、神秘的です」

僧侶「さっきから、そればっかりだね。ところで魔法使いちゃん、今日も研究を手伝ってくれる?」

魔法使い「はい」


私は僧侶さんの前に座り、背中を預けた。
魔力や魔法の源が別の世界にあるならば、人はそれをどうやって引き出しているのか。
それを解明すれば、封印魔法を使えるようになるらしい。


僧侶「もうちょっと抱き寄せるね」ぎゅっ

魔法使い「……//」


281
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 22:22:30 ID:XhUo2.6o
僧侶「じゃあ、一発ドカンと決めてくれる?」

魔法使い「分かりました。水精霊と風精霊で、あの雲を散らしますね」

僧侶「地味だけど、すごいんだよねえ」

魔法使い「もちろんです。それでは、いきます!」


ボォォンッ


僧侶「わわっ、すごい!! これって、天気を操れるんじゃないの?」

魔法使い「天気を操ろうと思ったら、魔力が空っぽになっても無理ですよぉ」

僧侶「局地的なら行けるんじゃないかな。じゃあ、次は継続的な魔法をお願いね」

魔法使い「はい。風精霊さん、涼しい風をお願いします」ソヨソヨ


282
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 22:24:53 ID:XhUo2.6o
僧侶「やっぱり、脳が魔法の発動に関わっているみたいね。客船で何人か調査してみたけど、魔法を使える人と使えない人では脳の構造に微妙な違いがあるみたいなの」

魔法使い「そうなんですか?」

僧侶「何て言うのかな、魔法を少しでも使える人には、一箇所だけ不自然な部位があるんだよね」

魔法使い「不自然な部位?」

僧侶「魔法を使おうとすると脳がとても活発になるんだけど、そのときに魔力が収束されて、そのまま消えてしまう部位があるの」

魔法使い「それが世界の扉じゃないんですか?」

僧侶「私もそう思う。だけどね、そこから先が問題なのよ」

魔法使い「問題って何ですか?」

僧侶「過去の研究で、その部位が欠損していても魔法を発動させることが出来ることが確認されているの」

魔法使い「そっか。堕天使しか使った事例がないし、それで研究が止まっちゃったんですね」


283
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/21(月) 22:37:06 ID:XhUo2.6o
僧侶「あのとき天使が、『魔法のエネルギーをどうやって調達しているんだろうね』ってことを言っていたでしょ。私はヘクソミノが示す別世界から調達しているんじゃないかと思うんだけど、魔法使いちゃんはどう思う?」

魔法使い「私もそうだと思います」

僧侶「じゃあ、別世界から調達した魔力が収束して消えるのは、どうしてだと思う?」

魔法使い「魔力を消費しているかもしれない場所がなくても、魔法は使えるんですよね。だったら脳は関係なくて、今度は別世界に戻っているんじゃないですか」

僧侶「だとしたら、転移魔法の範疇に入るよね。魔力を収束させて脳が消費しているのではなくて、収束した魔力を別世界に干渉させていることになるから」

魔法使い「別世界に干渉って、どういうことなんですか?」

僧侶「だって、魔法は魔力が消えた後に発動するでしょ。つまり魔法のイメージとともに魔力を別世界に干渉させて、魔法を発動させていることになると思うの」

魔法使い「それなら転移魔法で魔力を干渉できないようにすれば、見掛け上は封印魔法になりますよね」

僧侶「どう考えても、転移魔法か――。ありがとう、サクッと勉強してみるよ」

魔法使い「やっぱり封印魔法は難しいのですね。魔法医学を極めるのでさえ大変なのに、さらに空間転移系の魔法まで覚えないといけないだなんて」

僧侶「そう考えると、天使の知識は人間を軽く超えてるんだなって畏怖しちゃうよね」

魔法使い「はい……、すごいです」


284
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 20:21:25 ID:BNWysf3o
勇者「ふうん、二人はお風呂でそんな話をしているんだ」

僧侶「わわっ!!」

魔法使い「きゃあああぁぁぁっ!!」


勇者さまが隣にいることに気付き、私たちは悲鳴を上げた。
そして、慌てて胸を隠す。
どうして、勇者さまがここにいるの?!


魔法使い「ゆ、勇者さま。ここは女湯ですよ//」

勇者「いやいや、僧侶さんが混浴だと言ってたじゃないか。ほら、あそこ見て」

魔法使い「だ、脱衣所が繋がってます!」

僧侶「じゃ、じゃあ混浴というのは……」

勇者「白夜にちなんで昼と夜の区別がない、つまり男と女の区別がないという意味だと思うけど」

魔法使い「ええぇぇっ! い、いつから居たんですか?!」

勇者「雲を消す辺りから。魔法の研究をしているみたいだったし、邪魔したら悪いなって思って……」

僧侶「というか、知ってましたよね?」

勇者「ははっ、ま、まさかぁ。二人がいて、びっくりしたよ」アセアセ


285
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 20:44:13 ID:BNWysf3o
魔法使い「うぅ、もういいです。私の裸をたくさん見ましたよね? 見ましたよねえ!」

勇者「それは……、見ました。ご、ごめんなさい」

魔法使い「じゃ、じゃあ、勇者さまの裸も見せてください//」チラッ

勇者「ええっ?!」

僧侶「いやいやいや。魔法使いちゃん、それは駄目ですっ」

魔法使い「魔法医学の勉強で、男性の身体構造と生体エネルギーの分布が図解では理解できなくて……。そ、それで勇者さまなら//」

僧侶「ちゃんと理解すれば、裸にならなくても生体エネルギーの分布が分かるようになるんだけど。実技研修のたびに、殿方に脱いでもらう訳にはいかないでしょ」

魔法使い「それはそうだけど、男性のイメージが全然湧かないんです」

僧侶「お父さんと一緒にお風呂に入ったことはないの?」

魔法使い「小さい頃は入っていたのかもしれないけど……」

僧侶「じゃあ、その課題は基礎知識がほとんど身に付いていないんだ。何も言わないから、もう分かっているものだと思ってた」

魔法使い「それで僧侶さんがお風呂で私を抱き寄せるのは、魔力分布を詳しく把握するためですよね。それと同じで――」

僧侶「はいはい、分かったから。私も最初は理解できなかったし、見たほうが手っ取り早いのは確かだよね」

魔法使い「そ、そうですよね//」


286
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 21:18:49 ID:BNWysf3o
僧侶「でも、生体エネルギーの分布は読めるようになったの?」

魔法使い「それはもう完璧です」ブイッ

僧侶「えっ、魔法医学の勉強を始めてまだ一ヶ月でしょ。じゃあ、もしかして回復魔法のステップに入ってるの?」

魔法使い「はい。軽い創傷はもう治せるようになりました。でも血管の処理が難しくて、上手く出来ないときもあるけど……」

僧侶「すごいじゃない! 結合組織の中でも血管の理解は回復魔法の基礎だから、まずはそこをしっかりね」

魔法使い「はい」

僧侶「それが出来るようになったら、次のステップかな」

魔法使い「まだまだ先は長いですね」

僧侶「だけど、一ヶ月で回復魔法を使えるって、すごいことだと思う。そこまで出来ているなら、殿方の身体構造を見ておかないと性差が出てきたときに苦労するかも……」

魔法使い「ですよね//」

僧侶「本当は駄目だけど、あ……あくまでも学問のためだから、今回だけは特別に許可をして、さらに特別に許してあげるんですからね」


287
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 21:59:03 ID:BNWysf3o
勇者「あれっ、許しちゃうんだ……」

僧侶「さっきの話、聞いてましたよね?」

勇者「それは、まあ」

僧侶「変な意味ではなくて、魔法医学の実技研修のために、男性モデルになってくださいとお願いしているだけですから。他のお客さんが来る前に、さくっとやりましょう!」

魔法使い「恥ずかしいけど、勇者さまなら信じられます。協力してください//」

勇者「分かったよ。魔法使いちゃんがずっと頑張っているのは知ってるし、そのモデルって何をすればいいの?」

魔法使い「裸のままで洗い場に移動してください。大鏡が一枚あったので、そこにお願いします//」

勇者「……分かった」


勇者さまはそう言うと、洗い場に移動してくれた。
そして私も移動して、勇者さまと向かい合う。

目の前には、憧れの人が裸で立っている。
そう思うと目のやり場に困ってしまい、ついつい下半身をまじまじと見詰めてしまった。
初めて見る、本物の男性器。
そのせいで心臓がドキドキと脈打ち、もう何が何だか分からなくなってきた。


288
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 22:30:52 ID:BNWysf3o
勇者「魔法使いちゃん、大丈夫?」

魔法使い「あわわ、だ……大丈夫です。男性の陰茎って、本当にカメさんみたいなんですね// 包皮がめくれて、ぴょこって頭を出しているみたいです」

勇者「そんな風に言われると、少し困るんだけど。これはただの勉強だし、冷静に早く淡々と終わらせよう」

魔法使い「そ、そうですよね」


そうだ、これはただの勉強だ。
私は気持ちを切り替えて、大きく深呼吸をした。
そして、勇者さまに抱きついた。
胸が当たり、男性器が下腹部に触れる。
それでも全身を密着させて、男性の身体構造を感じ取ることに意識を向けた。


勇者「えっ、ちょっと!」

魔法使い「すみません、動かないでください」ギュッ

勇者「ご……ごめん」


289
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 22:34:52 ID:BNWysf3o
魔法使い「やっぱり、女性とは骨格や筋肉量が違いますね」

勇者「それは、いつも鍛えているから」

魔法使い「身体付き以外に内分泌も違うし、ここも……」


男性と女性は外見だけではなく、内面がこんなにも違うとは思わなかった。
染色体や内分泌系に大きな違いがあり、それが性差の発現に繋がっているのだろうか。
難しくてよく分からないけど、こうして実際に男女の違いを感じると、本当に魔法医学は面白いと思えてくる。
生命や心はたくさんの謎に包まれていて、まるでパズルのようだ。


勇者「まだ終わらないのかな」

魔法使い「基本的な身体構造と精子形成の過程は、とりあえず確認が終わりました。それで次は、性反応を確認させてほしいんです」

勇者「そ、そうなんだ……」


290
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 22:39:42 ID:BNWysf3o
魔法使い「勇者さま、鏡のほうを向いてください」

勇者「えっ、ああ」


抱き締めていた腕を解くと、勇者さまは鏡のほうに身体を向けた。
そして私は背後に回り、後ろから抱き締めて右手を陰部に伸ばした。

まだ柔らかい陰茎を優しく握り、手を動かす。
すると、次第に手の中で大きくなってきた。
触ったことで勃起中枢が興奮し、反射性勃起が起きているのだ。


勇者「ちょっと待て。さすがに、そういう事はまずいだろ」

魔法使い「でも、硬くなってきましたよ。勇者さまは何も気にせず、気持ちよくなってください」


陰茎に血液が流れ込み、硬くなっていくのが分かる。
だけど、何だか反応が乏しい気がする。
そう思っていると、僧侶さんが歩み寄ってきた。


291
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 23:10:35 ID:BNWysf3o
僧侶「ねえ、勇者さま。今なら、私にエッチなことをしても良いですよ」

勇者「僧侶さん、それってまさか……」

僧侶「……はい。性的に興奮して射精することが、成人した男性モデルの役目なんです//」

勇者「いやいや、うれしいけど冗談だろ」

魔法使い「うれしいなら問題ないですよね。射精してください、お願いします」

僧侶「勇者さま、私たちはあくまでも教材なんです。魔法使いちゃんの将来のために、今はモデルに徹しましょう//」

勇者「じゃ、じゃあ、その大きなおっぱいを」

僧侶「あぅ//」

魔法使い「わわっ、完全に勃起して硬くなりました// こんなに早くて複雑な反応なんですね!」


大脳が性的に興奮して中枢神経を刺激し、さらに陰茎海綿体の神経にまで伝わっている。
そして高まっていく性的興奮が、全身で様々な身体反応を引き起こしていく。
その反応はとても顕著だった。

だから、気付いてしまった。
さっきまで、勇者さまが私に興奮していなかったことに――。


292
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 23:25:14 ID:BNWysf3o
僧侶「魔法使いちゃん。殿方の生体エネルギーの分布が、性的な興奮でどう変化していくのかよく覚えておいてね。もちろん、全身の反応もすべて読み取るのよ」

魔法使い「は、はいっ。勇者さま、もう少し抱き締めます」ギュッ

僧侶「――で、その変化が安定したら脊髄にある射精中枢が反応して、射精反射が発生するから。男性器の変化は早いし、気をつけてね」

魔法使い「あっ、先っぽから何か出てきましたよ。へぇ、ここから分泌されてるんだ」

僧侶「ねえ、勇者さま。私の大切なところも触って欲しいです//」


僧侶さんはあまい声で言うと、勇者さまに背中を預けた。
そしてその期待に応えた勇者さまが、大陰唇の割れ目に指を滑り込ませた。


勇者「初めてでよく分からなくて、こんな感じかな」

僧侶「あぅんっ……// 勇者さま、そう、そこ……そんな感じ」ビクッ


勇者さまの指が陰核や小陰唇に触れて、僧侶さんが身を捩じらせた。
性的に興奮してきたらしく、陰核と陰核脚が充血してクリトリスが勃起している。
そして膣粘膜下の毛細血管に大量の血液が流れ込み、膣壁から分泌液が染み出してきた。


勇者「びくって、僧侶さん感じてるんだ。すごく濡れてきたよ」クチュクチュ

僧侶「はぃ……気持ちいいです//」ハァハァ


294
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 23:35:30 ID:BNWysf3o
僧侶さんが本気で興奮していることを感じ取り、私は勇者さまへの刺激を強めることにした。
そして少しでも気持ちよくして、たくさん射精させてあげたいと思った。

私の気持ちが届かないのなら、せめて私が勇者さまを射精させた初めての女性になりたいからだ。
そうすれば、きっと私のことが忘れられなくなる。
射精をするたびに、私のことを思い出すようになる――。

その思いが届いたのか、精子が移動を始めた。
睾丸が吊り上り、精管がうねうねと動いている。


魔法使い「あっ、ついに脊髄反射が来ましたよ!」

勇者「ちょっと待って、それ以上されると」

魔法使い「今、分泌液と混ざって精液が作られています。もう出すしかないですよ。私でたくさん気持ちよくなってください//」

勇者「魔法使いちゃん、イクっ!」

魔法使い「うん、いっぱい出して!!」


前立腺下部の尿道に精液が充満していき、ついに尿道をせき止めていた括約筋が開放された。
そして前立腺が収縮し、精液が一気に押し出されて勢いよく飛び出してきた。
さらに括約筋が収縮を繰り返し、圧力を溜め込んでドピュドピュッと射出される。

勇者さまを射精させた喜びと、生命の誕生に関わる射精の仕組み。
それに感動して、私は興奮を隠せないでいた。


295
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/22(火) 23:46:18 ID:BNWysf3o
魔法使い「わわっ、精液って飛び出すんだっ! す、すごいです!」

僧侶「ほら、一緒に興奮しない。殿方は射精したらすぐに醒めるから、身体反応の確認をしておいて」

魔法使い「えっ、あっはい。ごめんなさい」アセアセ


私は深呼吸をして、気持ちを切り替えた。
そして勇者さまを抱き締め、意識を集中させた。


僧侶「どう、分かる?」

魔法使い「何かの酵素が影響して、男性器への血液の流量が変化しています。それと脳内で、新たにホルモン分泌がされているみたいです。あとは少し難しいです」

僧侶「そこまで分かるって、すごいじゃない。じゃあ、最後に精液を確認してね」


勇者さまの精液は、僧侶さんが受け止めていたらしい。
それは乳白色の液体で、私の右手にどろりと流れ落ちた。


296
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/23(水) 22:58:24 ID:46UAt9kY
魔法使い「あっ、すごく温かい……」


私は感嘆の声を漏らした。
たくさんの精子が、私の手の平の上で元気に泳いでいる。
そして、新しい生命を届けるために頑張っている。
勇者さまの精液には、こんなにも熱い想いが込められているのだ。

しかし、今の私では勇者さまの精液を受け入れることは出来ない。
だから女賢者として、勇者さまの精液を受け止めようと思った。


僧侶「魔法使いちゃん。難しいかもしれないけど、分泌液の役割や成分、精子の構造をしっかり観察してね。魔法医学を究めるためには、それも大切なことだよ」

魔法使い「はいっ、頑張ります!」


298
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/23(水) 22:58:24 ID:46UAt9kY
・・・
・・・・・・
僧侶「勇者さま、私たちは湯船に戻りましょうか」

勇者「そうだな。その……魔法使いちゃん、勉強頑張って」

魔法使い「は、はいっ//」


精液と向き合っている魔法使いを見遣り、二人は湯船に戻った。
僧侶が湯船につかり、その隣に勇者が移動する。


勇者「ところで僧侶さん、このあと二人で飲みに行かないか。雰囲気の良さそうなお店があっただろ」

僧侶「うれしいけど、今夜は魔法使いちゃんと復習をしたいので無理です。それに身体を許したのは学問のためですから、勘違いしないでくださいね」

勇者「勘違いしないでって言うけど、それは僧侶さんの本心じゃないよな。今回、別に身体を許す必要はなかったはずだし」

僧侶「それはその……」

勇者「俺は僧侶さんのこと、ちゃんと好きだから――」

僧侶「その気持ち、とてもうれしいです// でも、少しだけ考えさせてください。魔法使いちゃんがいますし、彼女の気持ちと向き合う時間が必要なんです……」

勇者「そっか、分かったよ」


299
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/23(水) 23:07:58 ID:46UAt9kY
僧侶「そう言えば、勇者さま。魔法使いちゃんの手で射精しましたよねえ」

勇者「あれは不可抗力というか……」

僧侶「それが目的だったので怒っていません。魔法使いちゃんは、勇者さまなら信じられると言いました」

勇者「……ああ」

僧侶「どうか、それを裏切らないであげてください。魔法使いちゃんは勇者さまのことを慕っているので、どんなことでも嫌がらないと思います。だからこそ、彼女を性的なことに利用しないで欲しいんです」

勇者「言われなくても分かってる。俺にとって魔法使いちゃんは、妹みたいなものだから」

僧侶「だったら、なおのことお願いします」


僧侶はそう言うと、勇者の手を握った。
そして魔法使いの視線を気にしつつ、そっと唇を重ねた。
柔らかな唇が触れ合い、火照っていた身体が再び熱を帯びてくる。

どうして、こんなにも気持ちが高揚してくるのだろうか。
今まで抑えてきた気持ちが、このままでは溢れてしまいそうだ。
それは、混浴露天風呂の雰囲気に飲まれているせいかもしれない。
僧侶ははやる気持ちを押さえ、魔法使いに見咎められる前に身体を離した。
心のざわめきは消えそうにない。


301
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/23(水) 23:47:05 ID:46UAt9kY
・・・
・・・・・・
魔法使い「あっ……」


精液の観察を終えて顔を上げると、勇者さまと僧侶さんが身体を寄せ合っている姿が鏡越しに見えた。
まさか私が見ていないと思って、エッチなことをしているのだろうか。
しかしそれは勘違いだったらしく、二人の身体はすぐに離れた。

だけど、二人がいい雰囲気だったことはさすがに分かる。
やっぱり胸が大きくて優しい僧侶さんのほうが、まだ子供の私よりも勇者さまに相応しいのかもしれない。
そう思うと、ふつふつと妬ましい気持ちが沸き起こってきた。

しかしそんな気持ちは持て余すだけで、どうすることも出来ない。
私は感情を抑え込み、いつも通りの笑顔で湯船に向かった。


302
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 00:20:19 ID:Uu9qq1KE
魔法使い「勇者さまぁ//」ジャブジャブ

勇者「魔法使いちゃん、終わったんだ」

魔法使い「はい、今日は協力してくれてありがとうございました。男性の性反応がこんなにも精巧で複雑だなんて、全然思ってもみなかったです。すごく勉強になりました!」

勇者「そう言われると、何だか恥ずかしいな」 

魔法使い「ちなみに私の手で射精したほうが、一人でするよりも気持ち良かったですか?」

勇者「そういうことは聞かない」

魔法使い「ふふっ、たくさん精液が出ていましたよね。すごく気持ち良かったこと、私には全部お見通しなんですよ//」

勇者「なっ……、女の子はそういうことも言わない!」

魔法使い「えへへ// また私にして欲しくなったら、遠慮なく言ってくださいね」

勇者「まあ、勉強で必要なら……ね」


303
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 00:23:58 ID:Uu9qq1KE
魔法使い「あの、僧侶さん。さっきは手伝ってくれてありがとうございました。勇気を出してお願いして、本当に良かったです」

僧侶「今回は特別に許してあげただけだからね」

魔法使い「……分かっています。それと僧侶さんの性反応は、やっぱり私と同じなんですね」

僧侶「えっ、そんなことまでしてたの?!」

魔法使い「女性の身体構造は自分の身体で分かっているので、二人分は少し疲れたけど簡単でした」

僧侶「へえ、すごいじゃない」

勇者「そんなことより、さらっとすごいことを言っていたような気が……。今どきの村娘って、そんなに経験が早いのか?!」

魔法使い「わ、私はまだ男性と交わったことはないですからっ! でも、私だって年頃の女性ですし、エッチなことをしたくなるときがあるんです//」

勇者「そうなんだ……。じゃあ、そういう時って一人で――」

僧侶「勇者さま。さり気なく、そういう事を確認しようとしないでください」プンスカ

勇者「ご、ごめん……」


304
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 19:55:22 ID:Uu9qq1KE
僧侶「ところで魔法使いちゃん、精液の観察はどうだったの?」

魔法使い「思っていた以上に難しくて、かろうじて構造を見ることが出来たって感じです」

僧侶「まあ、そうだよね。男性の生殖細胞については、私もすごく苦労した課題なんだよ」

魔法使い「そうなんだ。僧侶さんでも苦労したんですね」

僧侶「体細胞と違って、生殖細胞は染色体数が半分しかないでしょ。だから、すごく難しいの」

魔法使い「そういうことなんだ。言われてみれば、卵形成を観察する課題も難しいです」

僧侶「そういう訳だから、焦らずに頑張ってね。それで、何か気になったことってある?」

魔法使い「気になったことはたくさんあるけど、ここだと記録を取れないので後でお願いします」

僧侶「じゃあ、部屋に戻ったら復習をしましょうか。ちゃんと理解すれば、身体構造や神経作用が飛躍的に分かるようになるから」

魔法使い「はいっ、お願いします。人の身体って、神秘的ですごく面白いです!」


305
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 20:18:09 ID:Uu9qq1KE
勇者「それじゃあ、俺は先に戻ってるから」

魔法使い「勇者さま……。ここは混浴だし、明日から一緒に入りませんか」

勇者「いやいや、さすがにそれはマズイだろ」

魔法使い「知らない男の人に声を掛けられたら嫌だし、勇者さまに居てほしいんです。それに知らない女の人がいたら……」

僧侶「勇者さまは混浴の意味を知りつつ、わざと入ってきましたよねえ。それなのにマズイって言うのは、少しおかしくありませんか? 私も一緒に入りたいです//」

勇者「まあ、そこまで言うなら……」チラッ

魔法使い「わわっ、勇者さまがまた勃起しました//」

僧侶「えっ?!」

魔法使い「さっき出したのに、本当にエッチですねえ。もしかして、期待しているんですか」

勇者「はは……」

魔法使い「それじゃあ、私が手伝ってあげましょうか//」

勇者「いやいやいや、気にしなくても大丈夫だから」

魔法使い「でも、私たちと交わりたいから勃つんですよねえ――」


306
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 20:19:09 ID:Uu9qq1KE
僧侶「そうだ! 今夜から、勇者さまの更衣室を広げてあげましょうよ」

魔法使い「それでどうするんですか?」

僧侶「私たちが部屋にいても、一人でしやすくなるでしょ」

魔法使い「それが良いのかもしれないですね。私たちと一緒に入ったら、勇者さまが部屋で出来なくなるし」

勇者「俺は二人がいたら気になるんだけど……」

僧侶「私たちは一緒にお風呂に入って、勇者さまを射精させたのですよ。もう今さらじゃないですか。だから私たちの関係に合わせて、部屋の間取りも工夫しましょうよ」

魔法使い「そうです。いつでも出来るようになれば、時間の使い方も変わりますよ」

勇者「まあ、そうかもしれないな。じゃあ、部屋に戻ったら頼むよ」

魔法使い「はい、任せてください//」


309
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 22:49:46 ID:Uu9qq1KE
~部屋・深夜~
魔法使い「――つまり回復魔法は、自然回復しない創傷は治せないということですか?」

僧侶「そうだよ。回復魔法は自然治癒力を加速させる魔法なの。だから、瀕死の重傷や破裂した内臓は治せません」

魔法使い「そうなると、治癒魔法や蘇生魔法が必要なんですね」

僧侶「そうそう。治癒魔法は生体エネルギーを増幅させて、自然回復を超えた治癒をする魔法。蘇生魔法は失った生体エネルギーを取り戻して、身体機能を再生させる魔法なんです」

魔法使い「蘇生魔法は、生き返らせる魔法じゃないんですか?」

僧侶「その生き返らせるというのが、そもそも間違っているの。生体エネルギーを取り戻せる身体でなければ、生きていられないでしょ」

魔法使い「それはそうですね」

僧侶「欠損した身体の修復はさらに高度な魔法だし、魂を失えば生き返らない。蘇生魔法があっても人の命は一つしかないということは忘れないでね」

魔法使い「はいっ」

僧侶「じゃあ、勉強はこれでお仕舞い。白夜を見ながら、もう休みましょ」


311
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 23:11:41 ID:Uu9qq1KE
勉強が終わり、私は窓から外を眺めた。
地平線すれすれの高度で、夕日のような太陽が輝いている。
そして、少し離れたところに三日月も見えていた。


魔法使い「太陽だけじゃなくて、三日月もさり気なくて良いですね」

僧侶「そうだね。白夜のときは月も沈まないのかなあ。調べてみたら面白いかも」

魔法使い「ねえねえ、勇者さまも一緒に白夜を楽しみませんか?」

勇者「んっ、ああ……。勉強、終わったんだ」


勇者さまに声を掛けると、生返事が帰ってきた。
チリ人の輪に夢中になっているらしく、こちらには興味がなさそうだ。
そう思っていると、僧侶さんが勇者さまに歩み寄った。


僧侶「チリ人の輪は外れそうですか?」

勇者「さっきから同じことの繰り返しで、外れる気がしないよ。これ、相当難しいな」カチャカチャ

僧侶「それはかなりの難易度で、私も答えを知りませんからね。勇者さまもあまり根を詰めずに、みんなで気分転換をしませんか?」

勇者「そうだなあ。疲れてきたし、俺も白夜を見ようかな」


312
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 23:27:52 ID:Uu9qq1KE
魔法使い「勇者さま、見てください。真夜中になっても、太陽が沈まないんですよ!」

勇者「それは知ってたけど、意外と低空飛行するんだな。実際に見てみるとやっぱり違うなあ」

魔法使い「みんなで見ると、すごく感動しちゃいますよね♪」

僧侶「そうだね。私たちの国では見られないし、良い旅の思い出になりそうだよね」

魔法使い「旅の思い出――か」


私はそう言うと、ふいに寂しくなった。
そう、この旅はいつまでも続かないのだ。

極南の地の調査が終われば、後は帰るだけになる。
そして国に帰れば、きっと容易には会えなくなるだろう。
その日は確実にやってくる。


313
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 23:38:43 ID:Uu9qq1KE
魔法使い「あの、勇者さま……。私たちは今、太陽が描く円の中にいるのでしょうか。それとも、円の外にいるのでしょうか」

勇者「もしかして、何かのパズル?」

魔法使い「いえ、そういう訳じゃないです」

勇者「普通に考えたら、ここは円の中だよね。太陽は地平線をぐるりと一周して、俺たちはその中にいるんだから」

魔法使い「円の中か……」

勇者「それがどうしたの?」

魔法使い「円の中にいるなら、私たちの絆は外れないですよね。あのお店にあった、インチキな知恵の輪と同じです」

勇者「魔法使いちゃん、それは少し違うかな」

魔法使い「えっ、違うってどういうことですか」

勇者「俺たちは、この知恵の輪と同じなんだ。中にいるように見えて、実は外にいるんだよ」

魔法使い「実は外……ですか?」

勇者「だから絆を深めあって、固く結びつくことが大切なんだ。そうしないと、絆がバラバラになってしまうから」

魔法使い「私たちはチリ人の輪なんだ……」


314
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/24(木) 23:49:21 ID:Uu9qq1KE
僧侶「勇者さま、外せないから言い訳ですか?」

勇者「良いことを言ってるんだから、茶化すなよ。というか、僧侶さんも外せないんだろ」

僧侶「九連環なら外せますよ」

魔法使い「あの……。知恵の輪を外した後は、また元に戻しますよね。いつか別れることになっても、私は勇者さまや僧侶さんと一緒にいたいです」

勇者「大丈夫だよ。魔法使いちゃんは、もう大切な仲間なんだから。俺たちの関係が変わったとしても、それだけは絶対に変わらないよ」

魔法使い「私たちの関係が変わったとしても?」

勇者「……ああ」

魔法使い「そっか」


私は短く返し、南の空を眺めた。
来たる別れの日に、気持ちが沈まないことを願って――。


316
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/25(金) 00:22:01 ID:NkEvtqMw
第6話 おわり

(知恵の輪)
・チャイニーズリング(九連環)
・チリ人の輪

(不可能知恵の輪)
・タオ


勇者「ドーナツの世界?!」第7話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第7話

322 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/26(土) 21:00:49 ID:BBm.kHXg
第7話 幸せはどこにある
~南の都・図書館~
この街に来て、二日目の朝。
私は僧侶さんと図書館に行き、勉強をすることにした。
さすがに魔術の研究が盛んな都なだけあって、魔術書がとても充実している。


僧侶「魔法使いちゃんは、何を読んでるの?」

魔法使い「宿から持ってきた魔法医学の本です。予定しているところまで読んだら、物理学や精霊魔術の研究論文にも目を通すつもりです」

僧侶「そうなんだ。魔法医学のことは何でも聞いてね」

魔法使い「はい。僧侶さんは何を借りてきたんですか?」

僧侶「転移魔法の入門書。これはここで目を通して、研究論文は書店で買う予定かな」

魔法使い「本当に転移魔法を勉強するんですね」

僧侶「まあね。人はなぜ、魔法を使うことが出来るのか――。私はどうしてもそれを知りたいの」

魔法使い「何だか、僧侶さんらしいです。私も勉強、頑張らないと!」


323
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/26(土) 21:10:07 ID:BBm.kHXg
それから約1時間が過ぎ、予定していた課題が終わったので休憩をすることにした。
魔法医学の本を閉じ、気分転換に背筋を伸ばす。
するとそれを待っていたかのように、僧侶さんが話しかけてきた。


僧侶「魔法使いちゃん、これを見てみて」

魔法使い「何ですか?」

僧侶「絵のパズル、だまし絵だよ」

魔法使い「これはエッシャーの滝ですよね。こっちは階段ですか? それくらいなら、私も見たことがありますよ」

僧侶「これを実際に作ってみた研究者がいるんだって」

魔法使い「えっ……、あり得ないでしょ」

僧侶「ほらっ」


図を見てみると、確かに無限に続く階段が掲載されていた。
しかし別の角度だと、無限に続くと思われていた階段は離れていて、一段一段の形もいびつだった。


魔法使い「うわぁ、すごいです! 一見すると不可能なことでも、視点を変えれば再現することが出来るんですね」


324
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/26(土) 21:13:20 ID:BBm.kHXg
僧侶「今度は逆さ絵だよ」

魔法使い「変わった帽子を被った貴族の絵ですね」

僧侶「その絵を逆さまにすると、馬の絵になるの」

魔法使い「面白いけど、それが転移魔法とどんな関係があるんですか? メビウスの輪やクラインの壷のほうが、ベースになっていそうな気がするんだけど――」

僧侶「認識や錯覚の仕組みを考えて、世界を柔軟に捉えるという意図があるみたい。魔法医学の分野でも、脳の構造を学ぶに当たって興味深いテーマなんだよ」

魔法使い「それで私に見せてくれていたんですね」

僧侶「えっ、もしかして遊んでいると思ってたの?」

魔法使い「そんなつもりで言った訳じゃないです」アセアセ


325
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/26(土) 22:03:31 ID:BBm.kHXg
僧侶「じゃあ、最後に面白い隠し絵を見せてあげるね。何に見える?」


そのだまし絵には、裸で愛し合う男女の姿が描かれていた。
そして、私は昨日の出来事を思い出した。


魔法使い「何に見えるって……裸で愛し合う男女の姿ですよね//」

僧侶「ふふっ。魔法使いちゃんは、昨日からエッチなことばっかり考えているもんね。それにしか見えないよね」

魔法使い「むうっ……、私はエッチじゃないです」

僧侶「拗ねる魔法使いちゃん、すごくかわいい//」

魔法使い「もしかして、昨日の勇者さまと僧侶さんを連想させるために、わざとこれを選んで私に見せたんですか?」

僧侶「……そうだよ。私は勇者さまを好きになってしまったの。だから今、魔法使いちゃんの気持ちと向き合いたいと思ってる」

魔法使い「やっぱり、そうなんですね……」


326
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/26(土) 23:23:00 ID:BBm.kHXg
僧侶「魔法使いちゃんは、勇者さまのことをどう思っているの?」

魔法使い「そ、それは……」

僧侶「それは、何?」

魔法使い「……ぃぃんです」

僧侶「えっ?」

魔法使い「僧侶さんが勇者さまを好きなら、それで良いんです……」

僧侶「それで良いの?」

魔法使い「だって、勇者さまはいつも僧侶さんを見てるから……。どんなに頑張っても、私はまだ子供だから恋愛対象じゃないんです。昨日、そのことを思い知りました」

僧侶「そっか……」

魔法使い「でも私だって、もうすぐ結婚出来る歳だもん。僧侶さんが告白しないなら、私が誘惑しちゃいますから!」

僧侶「今言ったこと、後悔しないでね」

魔法使い「わ、分かっています。上手く行くと良いですね」


328
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/26(土) 23:39:00 ID:BBm.kHXg
僧侶「ところで、イルカは見つかった?」

魔法使い「イルカですか?」


唐突に話が変わって、私は戸惑った。
イルカとは何のことだろう。


僧侶「この隠し絵にはイルカが描かれているんだよ」

魔法使い「どこにも描かれていないですけど」

僧侶「そんなことないよ。ほらほら、邪念を払って。イルカは何頭いるかなぁ」

魔法使い「駄目です、見つけられません……」

僧侶「やっぱり、魔法使いちゃんはエッチだね」クスクス

魔法使い「うぅっ//」


それからしばらく探してみたけれど、結局イルカを見つけることが出来なかった。
それは裸で愛し合う男女の姿に、強い感情を抱いているからかもしれない。
だから、私にはそれ以外のものが見えないのだろう。


329
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/26(土) 23:44:48 ID:BBm.kHXg
~部屋~
図書館に入り浸り、買い物を済ませて帰ってくると夕方になっていた。
たくさんの論文を読むことが出来て、今日はとても充実した一日だった。


魔法使い「勇者さま、ただいま~」

僧侶「ただいま戻りました」

勇者「おかえり」

僧侶「勇者さま、王様の話はいかがでしたか?」

勇者「それはあとで話すよ。いつも頑張ってくれているお礼に、今日は二人にプレゼントがあるんだ」

魔法使い「プレゼントですか?!」

僧侶「すごくうれしいです!」

勇者「これが魔法使いちゃんで、こっちが僧侶さん」

魔法使い「ありがとうございます。開けても良いですか?」

勇者「開けてもいいよ」


330
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/26(土) 23:59:58 ID:BBm.kHXg
魔法使い「え、エメラルドのネックレスだ!」

勇者「エメラルドには魔力を宿す力があるって聞いたから、魔法使いちゃんにちょうど良いかなって。この先は何があるか分からないし、魔力が空っぽになるリスクを減らせるだろ」

魔法使い「はい、ありがとうございます。エメラルドには魔力を増幅する力もあって、ずっと欲しいと思っていたんです」


そう言うと、私はさっそくネックレスを着けてみた。
大粒のエメラルドが淡く輝き、ローブの襟元で気品を漂わせている。


魔法使い「あの……、似合いますか?」

勇者「すごくかわいいよ」

魔法使い「えへへ、大切に使いますね//」


331
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/27(日) 00:37:05 ID:N4qM2o.I
僧侶「あの、勇者さま。私のプレゼントですけど、この指輪はどう解釈したら良いのですか?」


その言葉を聞いて僧侶さんの手を見ると、右手の薬指にミスリルの指輪が嵌められていた。
シックなデザインで、大人っぽい感じがする。


勇者「僧侶さんはパズル好きだし、パズルリングなら喜ぶかなって。ミスリル製だし、装飾品として遜色しないと思うよ」

僧侶「ありがとうございます。これを選ぶとき、何か言われませんでしたか?」

勇者「いや、別に」

僧侶「そうなんですね……」

魔法使い「そ、それじゃあ、夕食の前にお風呂に入りませんか。勇者さまにお礼をしたいです//」

僧侶「では、勇者さま。みんなで一緒に入りましょうか」

勇者「そう言えば、一緒に入ることになっていたっけ」

魔法使い「そうですよ。早く入りましょう//」


336
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/27(日) 21:51:05 ID:N4qM2o.I
~露天風呂・混浴~
僧侶「魔法使いちゃん、今日もいい?」

魔法使い「……はい」


そう答え、僧侶さんに身体を預けた。
そして、風精霊で風を起こすことにした。


僧侶「ふうん、なるほど――」

勇者「僧侶さん。昨日もやってたけど、それって何の研究をしてるの?」

僧侶「天使がしていた封印魔法の研究です」

勇者「そうなんだ。もしそれが出来るようになれば、僧侶さんは歴史に名を残すことになるな」

僧侶「そうですかねえ。私としては、やりたいことをしているだけなんですけど」

勇者「やりたいこと……か」


338
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/27(日) 23:08:53 ID:N4qM2o.I
僧侶「そう言えば、勇者さまも魔法を使えましたよね」

勇者「まあ、少しくらいなら」

僧侶「確か、精霊魔法と電撃魔法ですよね。性差があるのか確認したいので、ぜひ見させてほしいです」

勇者「でも剣術に特化させているから、魔法使いちゃんみたいに使いこなせないよ」

僧侶「それでも大丈夫です。じゃあ、抱き寄せるので何か見せてください」


僧侶さんはそう言うと、勇者さまの後ろに回って抱き寄せた。
すると豊満な胸が背中に当たったのか、勇者さまがうれしそうな表情になった。
その様子に、私は小さく溜息をついた。


勇者「……// じゃあ、疾風斬り!」パシュッ

僧侶「やっぱり、剣がないと本調子にはならないんですか?」

勇者「だから言っただろ、剣術に特化させているって」

僧侶「そうなんですね。ただ魔法の発動に関しては、男女の性差はないみたいです。ありがとうございました」


339
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/27(日) 23:37:12 ID:N4qM2o.I
勇者「ところで、王様の話だけど……。極南の地が闇に覆われているという話は、どうやら本当みたいなんだ」

僧侶「やっぱり、噂ではなかったのですね」

勇者「ああ。単なる噂なら、天使が現れたりする訳がないからな」

僧侶「そうですよね」

魔法使い「でも今は白夜なのに、どうして闇に覆われているんですか?」

勇者「そのことなんだけど、闇には結界が張られているらしいんだ」

魔法使い「結界?!」

勇者「そう、その結界のせいで近付くことが出来なくて、この国でも手をこまねいているそうだ」


340
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/28(月) 00:03:31 ID:eb6T1Hg2
僧侶「結界で近付けないなら、私たちの調査も終わりですね……」

勇者「いや、そうじゃない。女神の神託があった者とそれが選んだ者だけは、結界の中に入れるみたいなんだ」

僧侶「女神の加護があるのは勇者さまで、選んだ者は私と魔法使いちゃんですね」

魔法使い「天使さんの言葉と符合します」

勇者「ただ、一つ問題があって……。結界の中に入って帰ってきた者は、数人しかいないらしいんだ」

魔法使い「えっ?! それってつまり、生きて帰ることが出来ないということなんですか」

僧侶「だから、情報が集まらないのですね」

勇者「恐らくな……」


341
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/28(月) 00:09:31 ID:eb6T1Hg2
魔法使い「私たちは天使さんに期待されていますよね。だから、帰るわけにはいかないですよね」

僧侶「そうだね。それが女神の意思でもある以上、魔法使いちゃんも行かなければならないと思う」

魔法使い「ですよねえ――」

勇者「確かに危険かもしれないけど、いざとなれば転移の羽があるし、魔法使いちゃんだけは絶対に守ってあげられるから。それでもし俺たちの身に何かがあったときは、転移の羽を使って王様に真実を伝えてほしいんだ」

魔法使い「……分かりました」

勇者「それじゃあ、結界内では何が起きるか分からないから、二人とも自衛策を講じておいてくれ」

僧侶「では、回復用の装身具を多めに作っておきます」

勇者「そうしておいてくれると助かるよ。魔法使いちゃんも、魔道具はいつでも使えるようにしておいてね」

魔法使い「はい」


342
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/28(月) 00:24:39 ID:eb6T1Hg2
勇者「それで明日の予定なんだけど、王様が魔法使いちゃんに会いたいそうなんだ」

魔法使い「ええっ! 私にですか?!」

勇者「この国は、魔術の研究が盛んだろ。だから天使と戦闘経験がある魔法使いちゃんに、その実力を見せてほしいんだって」

魔法使い「戦闘経験って言われても、ほとんど一方的に攻撃されただけですよ」

勇者「そんな事ないよ。この世界に天使と対峙した魔道師は、魔法使いちゃんだけしかいないんだから。それは偉大なことだと思う」

僧侶「そうですよ、すごいことです! 他国の王様が会いたいとおっしゃるなんて、魔法使いちゃんはもう有名人だね」

魔法使い「そ、そうですかねえ……」

勇者「まあそういう訳だから、明日、一緒にお城に行こうか」

魔法使い「わ、分かりました!」

僧侶「魔法使いちゃん、頑張ってね」


344
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/28(月) 22:26:19 ID:eb6T1Hg2
~部屋・深夜~
深夜になり、僧侶は魔法使いが寝ていることを確認してベッドに腰を掛けた。
そして、隣で寝ている勇者に声をかけた。


僧侶「勇者さま、起きていますか?」

勇者「ん? あぁ、まだ起きているけど」

僧侶「今、二人で話を出来ますか」

勇者「別にいいけど、どんなこと?」


勇者はそう言いつつ、身体を起こした。
そして、僧侶と向かい合う。


僧侶「今日くださった、この指輪のことです。本当に装飾品以上の意味はないのですか」

勇者「そうだけど、寝るときも着けてくれているんだ」

僧侶「あの……、これは浮気防止用のリングなんです。つまり、いわゆる結婚指輪でもあるんです」


345
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/28(月) 22:33:06 ID:eb6T1Hg2
勇者「えっ、これが結婚指輪?!」

僧侶「この指輪は指から外すと、簡単にバラバラになってしまいます。だから婦人は、指輪を外すことが出来ません。そのため、出兵などで長期間の旅に出る殿方が、妻に贈るのです」

勇者「宝石店ではアクセサリーとして売っていたんだけど……」

僧侶「魔法使いちゃんには魔道具だったのに、どうして私には普通の指輪なんですか」

勇者「それは、僧侶さんに喜んでもらいたかったから――。パズルリングなら、僧侶さんの笑顔を見られると思ったからプレゼントしたんだ」

僧侶「私の笑顔?」

勇者「そう、俺は僧侶さんのことが好きだ」


僧侶は胸がきゅんと締め付けられ、あまい表情で勇者を見詰めた。
魔法使いと話し合って彼女が身を引いてくれたので、もう自分の気持ちを誤魔化す必要はない。
だけど、聞かなければならない。
そして、本当のことを言わなければならない――。


350
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/28(月) 22:35:11 ID:eb6T1Hg2
僧侶「勇者さま、ずっと聞きたいことがありました」

勇者「聞きたいこと?」

僧侶「エルグの城で仲間を選ぶとき、勇者さまは女僧侶だけを指名して、戦士や賢者の同行を断りましたよね。女性の身体が目当てで、御しやすい女僧侶を選んだのですか?」

勇者「それは……」

僧侶「答えてください。勇者さまは、私と交わりたいだけなのですか?」

勇者「ごめん、最初はそんな期待もしてた」

僧侶「やっぱり、そうなんですね」

勇者「だけど、すぐに別の気持ちに変わったんだ。魔法使いちゃんと姉妹みたいに楽しそうな姿を見ていたら、男として二人を守らないといけないなって」

勇者「それに僧侶さんは面倒見が良くて優しいし、旅を通じて食べることが好きな女性だと分かった。俺はそんな僧侶さんのことが好きなんだ」

僧侶「……」

勇者「僧侶さん、返事を聞かせてくれないかな」


346
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/28(月) 22:41:56 ID:eb6T1Hg2
僧侶「私も食べることが好きな勇者さまと気が合うし、一緒にいて楽しいです。それに魔法使いちゃんのことも守ってくれたし、勇者さまならずっと信頼して一緒にいられそうだなと思っています」

勇者「それって……」

僧侶「はい、私も勇者さまが好きです。だけど、本当のことを知れば好きにはなれないと思います」

勇者「本当のこと?」

僧侶「私が魔法使いちゃんの同行を許した本当の理由です」

勇者「何だ、そんなことか」

僧侶「もしかして、気付いていたんですか?!」

勇者「さっきの話を聞いて、ぴんと来た。でも、そんな気持ちで旅を続けるなんて出来はしないだろ。魔法使いちゃんは僧侶さんを慕っているし、その優しさは本当の気持ちなんだ」

僧侶「勇者さま……」

勇者「だから、俺の気持ちは変わらない」


347
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/28(月) 22:46:22 ID:eb6T1Hg2
僧侶「んっ……//」


二人は抱き締めあい、唇を重ねた。
舌を絡め、激しいキスをする。
そして僧侶は、勇者のベッドに腰を下ろした。
心がざわめき、次の展開を期待する。


僧侶「してもいいですよ//」

勇者「僧侶さん、気持ちはうれしいけど逃げてない?」

僧侶「逃げる……ですか?」

勇者「生きて帰れる保証がないから、その前にさせてあげようって」

僧侶「やっぱり、勇者さまは信頼出来る方ですね。でも私が聞きたいのは、そんな言葉じゃないんです。勇者さまが私とどうしたいのか、それを聞かせてほしいんです」

勇者「俺は僧侶さんのことが欲しい」

僧侶「うれしい……。初めてだから、優しくしてくださいね//」


355
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/29(火) 22:15:29 ID:FE2DHKq.
・・・
・・・・・・
思春期特有の性的な夢を見ていた。
それは性に目覚めた少女が見る、背伸びをした夢。
そんな夢の中で、私は勇者さまと向かい合っていた。

着ているローブを脱ぎ、照れながらブラジャーを外す。
そして程よく膨らんだ乳房が露になると、勇者さまに抱き締められた。
とろけるようなキスをされて、胸を揉まれる。
それがとても心地よくて、私はあまい吐息を漏らした。

やがて、勇者さまの陰茎が硬くなってきた。
それは膣口にあてがわれ、ゆっくりと挿入されてくる。
しかし、そこで夢のイメージが曖昧になってしまった。


「んくっ……ぅんっ……」


どこからか、艶めいた嬌声が聞こえた。
それは途切れることがなく、夢見心地だった曖昧な意識を覚醒させていく。
そして、僧侶さんのあえぎ声で目が覚めた。


356
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/29(火) 22:17:44 ID:FE2DHKq.
勇者さまのベッドから、いやらしい声が聞こえてくる。
その声に、私は身体と心がそわそわとしてきた。
我慢できなくなってちらりと見ると、勇者さまと僧侶さんが裸で絡み合っていた。

それは、さっきまで見ていた夢のようだった。
勇者さまが僧侶さんの乳首を吸いながら女性器を弄び、僧侶さんはリズミカルに勇者さまの陰茎を刺激している。
官能的な表情でお互いを愛撫し、高まっていく性感を楽しんでいる。

私はそんな二人の姿を見てはいけないと思った。
しかし、目を離すことが出来なかった。


勇者「僧侶さん、もう入れて欲しいの?」

僧侶「は、はい……。勇者さまと一つになりたいです// 一応、これを着けてくださいね」

勇者「分かってるよ」

僧侶「こ、こんなに大きいのが入るんですよね。何だか、すごくドキドキしてきました//」


356
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/29(火) 22:17:44 ID:FE2DHKq.
勇者さまは勃起した陰茎に、くるくると避妊具をかぶせた。
そして僧侶さんが両脚を広げると、勇者さまは女性器に陰部を近づけた。


勇者「僧侶さん、痛かったら言ってね」

僧侶「くっ、んんっ……」


私は意識を集中させて、二人の身体構造を感じ取った。
僧侶さんの膣はすでにヌルヌルになっていて、膣口からあふれ出した分泌液が外性器を濡らしている。
そんな興奮状態の膣内に、硬くなった陰茎が挿入された。
亀頭が膣を押し広げ、ゆっくりと奥まで入っていくのが分かる。


勇者「はぁはぁ……、奥まで入ったよ」

僧侶「んっ……。一つになれてうれしい……です//」

勇者「俺も今、すごくうれしい。それじゃあ動くね」

僧侶「はうっ、ぁっ……あんっ……//」


357
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/29(火) 22:25:44 ID:FE2DHKq.
僧侶さんの膣壁がしっかりと陰茎を包み込み、勇者さまが腰を振るたびに二人の生殖器が擦れ合う。
その刺激で性的興奮が高まっていき、僧侶さんの子宮が腹部のほうに引き上げられた。
さらに膣の奥深くが膨らんで、射精された精液をためる準備が始まっている。

それらの性反応を見ていると何だか辛くなってきて、私は寝返りを打った。
それでも、二人から意識を外すことが出来ない。
そして、ついに射精反射が起きて精液がたくさん作られ始めた。


僧侶「ああっ……いぃ、はぅん…………」

勇者「僧侶さん、いきそうっ!」

僧侶「……んくぅっ……あああっ、あぅっ……うぅっ!!」

勇者「イクっ!」ドピュドピュッ

僧侶「んんっ……んぅっ…………//」


精液が放出されると、膣や周辺の括約筋が収縮を繰り返した。
その動きが勇者さまの快感をさらに高め、精液を貪欲に絞り出している。
そして子宮が収縮して、僧侶さんは絶頂に達した。


358
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/29(火) 22:37:48 ID:FE2DHKq.
勇者「僧侶さん、大好きだよ」

僧侶「はあはあ……私も、です。勇者さま、いっぱい出ましたね//」

勇者「僧侶さんと一つになれて、ものすごく気持ちよかったから」

僧侶「ふふっ、何だか恥ずかしいです。でも、こうして勇者さまを感じられて、私はすごく幸せです//」


今まで聞いたことがない、あまく幸せそうな声。
僧侶さんのことは好きだから、その恋をその幸せを応援してあげたい。
しかし、昨日から押さえ込んでいた嫉妬心が、ふつふつと湧き上がってきた。

僧侶さんはこの部屋で交わって、私が起きるとは思わなかったのだろうか。
そして、性行為を見てしまうとは思わなかったのだろうか。
そのせいで私は、見たくないことを見てしまった。

私だって勇者さまが好きなのに……。
それなのに、どうして好きな人が交わる姿を見せ付けられないといけないの!?

涙が溢れ出し、妬みが膨らんでいく。
そして、そんな自分に嫌気がした。
僧侶さんの背中を押したのは私なのに、嫉妬するなんて間違っている。

私は気持ちに蓋をして、窓の外を眺めた。
遮光カーテンは閉められておらず、南の空には左側が欠けた弓形の太陽が見えている。
それは自然現象なのか、今の自分の心のように光を失っていく。
やがて、太陽は完全に見えなくなった。


360
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/31(木) 20:22:22 ID:jv7QuFkY
勇者「僧侶さん。俺たちがこうして結ばれたのは、魔法使いちゃんがいてくれたからだと思うんだ。だから、彼女との絆はもっと大切にしないといけないと思う」

僧侶「……はい」

勇者「極南の地に行けば、生きて帰れないかもしれない。だけど、何があっても生きて帰ろう。今まで魔法使いちゃんを逃がす方法を考えていたけど、それだけじゃ駄目なんだ」

僧侶「そうですよね。魔法使いちゃんと話したいことが、まだまだたくさんあるんです。さくっと目的を済ませて、みんなで楽しく帰りましょう」

勇者「そうだな。それじゃあ、そろそろ寝ようか」

僧侶「おやすみなさい//」

勇者「おやすみ」

僧侶「魔法使いちゃん、今日は本当にありがとう。今度ちゃんと話すから、これからも一緒に旅をしようね。おやすみなさい」


その言葉に、私は困惑した。
しかし独り言だったらしく、僧侶さんの寝息が聞こえてきた。

二人は愛し合う関係になっても、私のことを大切に想ってくれている。
ならば私は、そんな二人に何をすれば良いのだろう。
やっぱり気持ちを押さえ込み、我慢するしかないのかもしれない。

窓の外を眺めると、再び弓形の太陽が現れてきた。
それは、先ほど見たときとは左右逆の形になっていた。


363
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/31(木) 21:59:50 ID:jv7QuFkY
~お城・翌日~
魔法使い「あ、あの、お城でどのようなことをするのでしょうか」

勇者「実力を見せて欲しいってことだから、簡単な模擬戦とか親善試合みたいなものじゃないかな」

魔法使い「し、試合をするんですか?!」

勇者「そうだろうと思う。栄誉あることだし、変に身構える必要はないんじゃないかな」

僧侶「そうそう、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」ニコッ

魔法使い「は、はいっ」


お城への道すがら、私は二人の様子を観察した。
少し距離感が変わった気がするけれど、二人の態度はいつもと変わらない。
昨夜のことを意識しているのは、私だけのようだ。


勇者「門番さん、王様に謁見したく参りました」

門番「おお、エルグの国の勇者殿ですな。話は聞いております。中へお入りください」

勇者「それじゃあ、二人とも中に入ろうか」


364
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/31(木) 22:07:05 ID:jv7QuFkY
王様「勇者たちよ、よくぞ参った。さっそくだが、どなたが魔法使いなのじゃ」

魔法使い「わ、私です」

王様「おぉ、何とまだ少女ではないか! その歳で勇者一行として旅に出るとは、よほど優秀と見える。天使と戦ったと聞いたが、それは真か?」

魔法使い「は、はい。海の都の支援施設で訓練をすることになって、そこに現れた天使さんに指導してもらいました」

王様「なるほど。魔法使いよ、実はわが国の魔法兵団の兵長が、手合わせを願いたいと申しておるのだ。よもや少女だとは思っていなかったので断っても良いが、どうかな」

魔法使い「が、頑張ります!」

王様「おお、そうか。この男が兵長だ。良い試合を楽しみにしておるぞ」

兵長「俺が兵長だ、よろしく頼む。では、魔法使い殿。訓練施設に参ろうか」

魔法使い「お願いします」

僧侶「魔法使いちゃん、頑張ってね」

魔法使い「はいっ」


365
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/01(金) 21:33:09 ID:hqFMTWH2
~屋外訓練所~
兵長「ルールはどちらかが戦闘不能になるか、降参するまでの一本勝負だ。なお、相手を殺してしまった場合は負けとする」

魔法使い「じゃあ、手加減しないといけないんですね」

兵長「言うではないか。しかし今回の趣旨は、魔法使い殿の実力を見せてもらうことだ。全力で来てほしい」

魔法使い「分かりました。よろしくお願いします」

兵長「こちらこそ、いい試合をしよう」

魔法使い「はいっ」

王様「では、試合始め!」


366
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/01(金) 21:38:11 ID:hqFMTWH2
魔法使い「火精霊、風精霊召喚! 火炎魔法行きます!」

兵長「あ、青い炎だと!?」


私は精霊たちを制御し、天使さんが見せてくれた青い炎を作り出した。
そして、兵長さんに向けて火球を飛ばす。


兵長「水魔法!」


兵長さんが多量の水を生成し、猛烈な炎の消火を試みた。
しかし火炎魔法の桁外れな熱量で、水を瞬時に蒸発させた。


魔法使い「その程度では、私の魔法を消せはしません!」

兵長「くそっ、疾風魔法!」


兵長さんは風精霊の力を借りて右に飛び、炎を回避した。
そして標的を失った炎は、ブロック壁に直撃して鉄扉を変形させた。



367
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/01(金) 21:44:43 ID:hqFMTWH2
兵長「おいおい、冗談だろ。あんなのまともに食らったら、一瞬で消し炭にされるじゃないか。しかし、その熱量は諸刃の剣だ!」

魔法使い「あつっ! えっ?!」


右腕が高温の何かに触れて、私は慌てて手を引いた。
しかし、そこには何もない。


魔法使い「まさか見えない炎?!」

兵長「そうではない。鉄扉を溶かすほどの火炎魔法で作られた、高温の水蒸気だ」

魔法使い「高温の水蒸気?」

兵長「なぜ、水魔法で消そうとしたか。直線的な攻撃だけが、精霊魔法ではない!」


水精霊で防御しつつ、それを攻撃に転化する。
炎の魔法を火精霊で相殺することに慣れていたので、まったく思いつかなかった。
しかも、すでに囲まれているようだ。

常温の空気層と高温の水蒸気。
その境界面で光が屈折し、周囲が陽炎のように揺らめいている。
そして、沸点を遥かに超えた水蒸気が勢いよく迫ってきた。


368
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/01(金) 21:47:22 ID:hqFMTWH2
魔法使い「いやあぁぁっ!」

兵長「我慢するな。負けを認めろ」


高温の水蒸気が皮膚を蒸し焼きにしていく。
だけど、この程度で負けたりなんてしない!


魔法使い「ま、負けない……。凍結魔法、回復魔法!」


私は凍結魔法で水蒸気を冷却し、手足の熱傷を回復させた。
軽いものなら、容易に治すことが出来る。


兵長「魔法使い殿、まさか女賢者なのか?!」

魔法使い「はい。まだ見習いですけど」

兵長「見習いとはいえ、回復魔法を使えるとは素晴らしい。その歳で勇者一行の魔道師を務め、天使と一戦を交えたというのは伊達ではないということか」

魔法使い「ありがとうございます。では、勝たせてもらいます!」


369
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/01(金) 21:50:43 ID:hqFMTWH2
魔法使い「土精霊、水精霊召喚!」


土精霊で床を変形させて、兵長さんが動けないように足首を固定した。
そして凍結させた氷を融解し、呼吸が出来ないように兵長さんの顔を包み込んだ。
人間は息が出来なければ死んでしまう。
きっと天使さんならば、こんな攻撃をしてくるだろう。


兵長「?! ゴボボボ、ゲホッ……」

魔法使い「どうですか? 自分が生成した水で窒息する気分は」


もちろん殺すつもりはない。
だけど、これは試合だ。
どんなにもがいても、絶対に息はさせない。
そう思っていると、唐突に水が消滅した。


371
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/01(金) 22:02:09 ID:hqFMTWH2
兵長「ぜえぜえ……。まさか、転移魔法を使うことになるとはな――」

魔法使い「ええっ、転移魔法なんてずるいです!」

兵長「では、行くぞっ! 土精霊召喚!」


兵長さんは足首の拘束を解き、そのついでに石のこん棒を作り出した。
それを手にして、駆け出してきた。
このまま近接格闘に持ち込まれると、体術が苦手な私では圧倒的に不利になる。


魔法使い「爆発魔法!」


爆風が兵長さんを吹き飛ばす。
しかし、殺さないように手加減したことがあだとなった。


兵長「風精霊召喚、加速魔法!」


まさか爆風に乗っている?!
兵長さんは、私の魔法を何らかの形で攻撃に利用してくる。
そのおかげで精霊魔法は力技ばかりではなく、どのように使役するのか考えることが重要なんだなと、改めて実感させられた。
そしてそう思っている間に、兵長さんが猛スピードで迫ってきた。


373
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/01(金) 22:07:45 ID:hqFMTWH2
兵長「障壁魔法!!」

魔法使い「うぅっ……」


目の前に光のカーテンが現れ、視界を塞がれた。
さらに眩しいほどの光を放っているせいで、目がくらんで前が見えない。

意識を集中させると、風精霊と土精霊の魔力を感じた。
恐らく、そこに兵長さんがいるはずだ。
しかし、速すぎて捉えられない。

だったら、全体に攻撃すれば良い。
予測が困難な方法で――。


兵長「もらった!」

魔法使い「土精霊さん、頑張って!」


374
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/01(金) 22:13:37 ID:hqFMTWH2
どんなに速く動けても、地面は絶対に踏む。
ならば、その地面をすべて刃にしてしまえば良い。
私はそう思い、尖った槍の先端をイメージした。
そして魔力を振り絞り、一面に石槍を敷き詰めた。


兵長「ぐあぁぁっ!!」


石槍を踏んだのか、絶叫が聞こえた。
さらに、兵長さんは加速魔法を使っている。
だから踏みとどまることは出来ない。


兵長「――!!」


375
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/01(金) 22:22:14 ID:hqFMTWH2
私は視力が回復して、声が聞こえた方向を見た。
すると、足元に血塗れの兵長さんが倒れていた。


魔法使い「兵長さん! 回復魔法!」


出血は弱まったが、石槍がたくさん刺さっていて傷が塞がらない。
考えてみれば当たり前のことだけど、石槍を抜かないと回復できないようだ。


兵長「ぐっ……」

魔法使い「魔法解除。回復魔法!」

兵長「すまない。おかげで、かなり楽になった」

魔法使い「そうだ、試合!」

兵長「俺の負けだ。『綺麗な娘には棘がある』とは、よく言ったものだな。触ると痛かったよ」

魔法使い「ふふっ、兵長さんって面白いですね。それを言うなら、『綺麗なバラ』ですよ」

兵長「そうだったな、今日はありがとう。また来てくれたら、魔法使い殿を歓迎するよ」

魔法使い「はい♪ 今日は勉強になりました。ありがとうございました」


377
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/02(土) 21:23:24 ID:Q.W57bqY
~お城~
魔法使い「勇者さま、勝ちましたよ~!」

勇者「魔法使いちゃん、頑張ったね」

魔法使い「はいっ」

僧侶「私は完璧に回復魔法を使えたことに驚いたな。すごく心配したんだからね」

魔法使い「えへへ//」

王様「魔法使いよ、見事であった。兵長がとても高く評価しておったぞ。火炎魔法だが、あれは天使の技術なのか? あの鉄扉を溶かすとは、恐ろしい魔力だ」

魔法使い「ありがとうございます。火炎魔法は、風精霊と併せて使うものだと教えてもらいました。壊してしまってすみません」

王様「よいよい。それ以上のものを見せてもらった。そなたに相応しい褒美を用意しよう」

魔法使い「ありがとうございます」

王様「大臣よ、占星術師を呼んで参れ」

大臣「かしこまりました」


378
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/02(土) 21:26:08 ID:Q.W57bqY
王様「占星術師よ、優秀な魔法使いに希望のある未来を」

占星術師「かしこまりました。それでは、彼女への褒美をわたくしにお預けください」

王様「うむっ」


占星術師さんは王様から化粧箱を受け取ると、私を見据えた。
その視線は、まるで心を見透かしているかのようだ。


占星術師「魔法使い殿、あなたは海の都で一度未来を見てもらっていますよね」

魔法使い「は、はいっ」

占星術師「あなたには闇が見える。そんなことを二度言われても、面白くはないでしょう。そこで一つ、余興をしようではありませんか」

魔法使い「余興ですか?」

占星術師「大臣さん、わたくしの占い道具をお願いします。それと、お仲間である勇者殿と僧侶殿は、席を外していただけませんか」

大臣「それでは、お二人は別室に案内いたします」

勇者・僧侶「分かりました」


380
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/02(土) 21:34:37 ID:Q.W57bqY
占星術師「魔法使い殿、始めましょうか」


余興の準備が終わったらしく、ようやく声を掛けられた。
用意された台の上には、障壁魔法で作った半球が三つ並べて展開されている。
それはちょうど、お茶碗を反したくらいの大きさだ。


魔法使い「これは……?」

占星術師「障壁魔法を展開するときに、あなたへの褒美を中に入れておきました。三つの半球は、勇者殿ご一行と同じ数ですよね」

魔法使い「……はい」

占星術師「さしずめ、あなたから見て左から順番に、勇者殿と僧侶殿、魔法使い殿といったところでしょうか」

魔法使い「は、はい」

占星術師「では、どこに褒美が入っているのか、言ってみてください」


381
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/02(土) 21:39:25 ID:Q.W57bqY
魔法使い「勇者さまがリーダーなので、一番左を……」

占星術師「なるほど。実は、魔法使い殿を表す半球には褒美が入っていません」


そう言うと、一番右の障壁魔法が解除された。
台の上には、勇者さまと僧侶さんを表す半球が残されている。


占星術師「さて、あなたはもう一度選ぶチャンスがあります。今なら、違う半球を選んでも構いませんよ。どちらにしますか?」

魔法使い「!!」


382
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/02(土) 21:41:59 ID:Q.W57bqY
これはモンティ・ホール問題だ。
それならば、この確率は二分の一ではない。
僧侶さんの半球に変えたほうが、褒美を三分の二の確率で貰えることになる。
確率に従うならば、変えるべきだ。

しかし、これは占星術でもある。
私への褒美は、希望のある未来を表している。
それを手にすることが出来るのは、勇者さまか僧侶さんか――。


占星術師「あなたは勇者殿を選ぶのですね? それなら……」

魔法使い「いいえ、私は……僧侶さんを選びます!」


私は悩んだ末に、僧侶さんを選んだ。
二人が交わる姿を見せ付けられた後で、好きな人を奪った僧侶さんを選べるわけがない。
だけど勇者さまと僧侶さんは、私のことを大切に想ってくれている。
ならば、私はそれに応えたい。
僧侶さんの恋愛を応援してあげたい――。


383
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/02(土) 21:44:42 ID:Q.W57bqY
占星術師「分かりました。では、開放します」


その言葉と同時、僧侶さんを表す半球の障壁魔法が解除された。
すると、そこには賢者の石で作ったブレスレットが置かれていた。
希望のある未来は、僧侶さんを選ぶことで手にすることが出来るのだ。


占星術師「正解です。あなたへの褒美は、賢者の石です」

魔法使い「ううっ……、やっぱりつらいです」

占星術師「先ほども言いましたが、あなたには闇が見えます。もうすぐ、それと向き合うことになるでしょう。今の選択はより絆を深め、あなた方に希望をもたらしてくれるはずです」

魔法使い「ありがとう……ございます…………」

占星術師「あなたには華がある。わたくしも、それを楽しみにしていますよ」


385
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 10:23:19 ID:Iv5.g6BY
~部屋~
お城から戻って、私はぼんやりと時間を過ごした。
物思いに耽りながら、ちらちらと僧侶さんの様子を窺う。
僧侶さんはずっと転移魔法の書物を読んでいて、ときどき気晴らしにパズルで遊んでいるようだ。
それは勇者さまも同じで、さっきからずっと知恵の輪に取り組んでいる。

しかし二人とも、昨夜のことは一向に話してくれない。
もちろん、エッチなことをしたと報告して欲しいわけではない。
せめて、付き合うようになったことくらいは教えて欲しい。


僧侶「魔法使いちゃん、さっきからどうかしたの?」

魔法使い「いえ、何でもありません……」

僧侶「占星術師さんに何を言われたのか知らないけど、悩んでいることがあったら何でも言ってね。私も気持ちの整理が出来たら、魔法使いちゃんに話すから」

魔法使い「あっ……」


386
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 10:30:39 ID:Iv5.g6BY
僧侶「やっぱり、悩みはそのことなのね」

魔法使い「……はい」

僧侶「昨日、私は勇者さまと好き合うようになりました」

魔法使い「やっと言ってくれましたね……」

僧侶「魔法使いちゃんに背中を押してもらって、そのおかげで――って、あれ?」

魔法使い「んっ……?」

僧侶「えっ、もしかして知ってたの!? まさか起きていた……とか?」

魔法使い「えっ、気付いてなかったの?」


387
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 10:45:34 ID:Iv5.g6BY
僧侶「あわわ// い、いつから……」

魔法使い「恥ずかしくて言えないです」

僧侶「ひえぇっ……。も、もしかして見てた?」

魔法使い「少しだけ……」

僧侶「ま……まあ、私は勇者さまとそういう関係になったのです」

魔法使い「あの……、私も勇者さまが……す、好きなんです。だからその、心の準備をさせてほしいです」

僧侶「うん。私も落ち着いたらちゃんと話すから、そのときは……」

魔法使い「……はい」


388
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 10:48:01 ID:Iv5.g6BY
勇者「解けたーーーーーっ!!」

魔法使い「!!」ビクッ

僧侶「勇者さま、少しは空気を読んでくださいよ!」

勇者「えっ? これ見てよ、ついに外れたんだ!」

僧侶「ああっ、すごいじゃないですか! チリ人の輪が解けたんですね」

勇者「ふふん。勇者として、これくらいは解けないと示しが付かないだろ」

僧侶「戻せますか?」

勇者「ああ、それは簡単。このなが――」カチャカチャ

僧侶「わあぁぁっ! 見せないでください、言わないでください。私が解く楽しみがなくなるじゃないですか!」

勇者「――ほら、もう戻ったよ」カチャカチャ

僧侶「あっ、ほんとだ。勇者さまに解けるなら、私も負けてられないですよね」


389
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 10:52:19 ID:Iv5.g6BY
勇者「魔法使いちゃん」

魔法使い「はい……」

勇者「俺は僧侶さんが好きなんだ。だから、魔法使いちゃんの気持ちには応えられない」

魔法使い「勇者さま……」

勇者「だけど俺のことを好きだという気持ちはうれしいし、これからも魔法使いちゃんと良い関係を築いていきたい。それは俺たちの関係が変わったとしても、絶対に変わらないと思うんだ」

魔法使い「出来れば私も、そうありたいです」

勇者「大丈夫だよ。この知恵の輪も、一度はバラバラになったけど元に戻っているだろ」

魔法使い「その知恵の輪は、やっぱり私たちの関係を表していたんですね」

僧侶「私たちの関係?」

魔法使い「……はい。二人が愛し合って、私は嫉妬しました。でも二人の愛を受け入れられたら、私はまた一緒にいられるんです」


390
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 10:56:28 ID:Iv5.g6BY
僧侶「魔法使いちゃん、後悔してない?」

魔法使い「それは……」

僧侶「怒ってもいいよ。私は魔法使いちゃんの気持ちを知りつつ、勇者さまを奪ったんだから」

魔法使い「ううん、それで良いんです。私も、僧侶さんの気持ちは知っていましたから」

僧侶「勇者さま、少し早いけど一緒にお風呂に入りませんか? もちろん、魔法使いちゃんも一緒に」

勇者「そうだね……」

僧侶「私たちにとって大切な社交の場ですし、みんなで話せることから話し合いましょう。ねっ、魔法使いちゃん」

魔法使い「はい」


きっと、これが正しいんだ。
失恋してしまったけど、すべての絆が壊れてしまったわけではない。
私は僧侶さんの気持ちを受け入れて、絆を大切にすることにした。


391
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 11:04:46 ID:Iv5.g6BY
~北の街・エルグの城~
大臣「王様、報告があります」

王様「どんなことだ」

大臣「ただいま、極北の地より第一調査団が帰還しました」

王様「おお、ようやく戻ってきたか」

大臣「謁見を求めていますが、今はよろしいですか」

王様「ことは急ぐかもしれん。至急、調査結果を報告してもらおう」

大臣「承知しました」


392
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 11:06:04 ID:Iv5.g6BY
~謁見の間~
団長「王様、ただいま帰還いたしました!」

王様「ご苦労であった。して、極北の地はどうであったか報告せよ」

団長「極北の地は、ただいま極夜でございます。しかしながら極地には結界が張られ、内部は光に満たされているようでした」

王様「なるほど。極南の地が闇ならば、極北の地は光というわけか」

団長「それで結界内に入ることを試みたのですが、入ることが出来ませんでした。結界の形状は巨大な半球であると推測され、接地面に切れ目はありません。そのため、内側がどうなっているのか未確認です」


極北の地には、光の結界がある。
しかも、その中に入れないという状況は、極南の地と酷似している。
もしかすると光の結界を作った者は、闇の結界を作った者と同一の存在かもしれない。


王様「極南は今、白夜であったな。もしかすると、そこの光が集められているのかもしれん」

大臣「まさか、白夜の光を集めているとは……」

王様「そのような事態も推測できるということだ。団長よ、現地にて何か感じられなかったか?」


393
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 11:13:01 ID:Iv5.g6BY
団長「外部調査だけでは、はっきりしたことは申し上げられません。やはり、内部調査が必要だと思います」

王様「そうか。バロックの国王に協力を要請し、強力な魔道師を含む部隊を編成して向かわせよう。下がってよいぞ」

団長「はっ!」

大臣「王様、結界が張られているとなれば、女神の加護がある者でなければ入ることは叶わないのではないでしょうか」

王様「分かっておる。第二調査団と並行して、神託を賜わる術式の準備も進めよ」

大臣「かしこまりました」

王様「ところで大臣、何のために白夜の光を集めるのだろうか」

大臣「私には分かりかねます」

王様「以前、勇者が神の遺産を持ってきたであろう。世界をドーナツ状にするという話、本当に計画している者がいるのかもしれんな――」


394
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/03(日) 11:22:49 ID:Iv5.g6BY
第7話 おわり

(だまし絵)
"Message d'amour des dauphins"

・メビウスの輪
・クラインの壷

(知恵の輪)
・パズルリング

(確率)
モンティ・ホール問題


勇者「ドーナツの世界?!」第8話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第8話

398 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 22:10:54 ID:4/EyZrwg
第8話 悲しい再会
~南の大地・フィールド~
勇者「そろそろ野営の準備をしようか」

僧侶「そうですね」

勇者「じゃあ、俺は簡易テントを組み立てるから」

魔法使い「では、私は燃えるものを探してきます」


南の街を出発し、一週間が過ぎた。
私は久しぶりの野営生活に少し戸惑ったが、すぐに勘を取り戻した。
今では何も言われなくても、自分の役割を理解している。


僧侶「気をつけて探してきてね」

魔法使い「はい」


399
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 22:19:46 ID:4/EyZrwg
私は茂みに入ると、南側の空を眺めた。
今夜も太陽が左側から欠け始めている。
その欠け方は時間を追うごとに深くなっていき、南の都で見たときのように隠されてしまう。
それはさながら、皆既日食のようだ。
しかし日食と違うところは、直線的に欠けていくことである。
つまり、月に隠されているわけではないのだ。

それでは、何が太陽を隠しているのか。
南側の方角にある光を遮るものと言えば、闇の結界しかない。
その闇の結界は、太陽の欠け方から柱状になっていることが分かっている。
さらに、日に日に欠けている時間が長くなっている。
それは闇の結界に近付いていることを意味していた。


魔法使い「ここまで来たんだし、頑張らないと!」


私は気合を入れると、枯れ枝を集めて勇者さまの下に戻った。
そして、野草の収穫をして戻ってきた僧侶さんと一緒に食事の準備を手伝った。


400
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 22:46:43 ID:4/EyZrwg
~簡易テント~
魔法使い「――ということは、欲求や感情は脳内物質によって作られているとも言えるんですね」

僧侶「そういうこと。大脳辺縁系が、本能や感情と関係している部分なの。それらを理解することで精神感応系の魔法を使えるようになるから、脳の仕組みを覚えることも大切だよ」


食事が終わると、僧侶さんに勉強を教えて貰うことにした。
太陽が欠けているだけなら真っ暗になるわけではないので、じっくりと勉強することが出来る。


魔法使い「睡眠魔法って簡単そうだと思っていたけど、実は高度な魔法だったのですね」

僧侶「そうだよ。だから賢者とは言っても、治癒魔法しか使えない人が多いの」

魔法使い「そうなんだ」

僧侶「とりあえず、魔法使いちゃんは基本的な構造を勉強しましょ。脳の仕組みは、後で良いと思うわよ」


401
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 23:00:15 ID:4/EyZrwg
魔法使い「何だか治癒魔法になった途端、覚えることが増えて難しいです」

僧侶「勉強ばかりで成果が見えない時期だよね」

魔法使い「はい……」

僧侶「でも生体エネルギーの増幅を最初に覚えると、回復魔法を治癒魔法として使えるようになるから、モチベーションを保ちやすいわよ。回復魔法の勉強で、皮膚や血管の構造は理解しているでしょ」

魔法使い「あぁ、なるほど。そうします!」

僧侶「ちなみに、身体構造や生体エネルギーの分布を読み取る練習は今もしているの?」

魔法使い「いいえ。もう読めるようになったので、最近はしていないです」

僧侶「そうなんだ。この前は完璧だって言ってたけど、生体エネルギーの分布を最適化するためには、読み取れるだけでは出来ないのよ」

魔法使い「そうなんですか?」

僧侶「だって人の身体はいつも新しい細胞が作られていて、常に変化し続けているでしょ。それに、エネルギー代謝の流れを知らないと最適化は出来ないの。人の身体を見ることは勉強したことの復習にもなるから、そのつもりで頑張ってね」

魔法使い「はい、分かりました」


402
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 23:32:05 ID:4/EyZrwg
魔法使い「ところで、僧侶さんは転移魔法、どうですか?」

僧侶「軽い物なら動かせるようになったわよ」

魔法使い「えっ、見たいです!」

僧侶「じゃあ、そのコップを左に動かしてみるね。転移魔法!」


僧侶さんは照れながら、転移魔法を行使した。
すると、その言葉通りに一瞬でコップが移動した。


魔法使い「わぁっ! 本当に動いた!」

僧侶「これくらいなら簡単なんだけど、見えない場所に転移させるのが難しくて」

魔法使い「見えない場所ですか?」

僧侶「移動先に何があるのか、魔力で読み取らないといけないの。もし障害物があった場合、それをどう処理するか問題になるの」

魔法使い「そっか、壁の中にコップは入らないですよね」

僧侶「厳密には空気も障害物なんだけど、気体は固体と違って容易に押しのけられるから――。そのさじ加減が、転移魔法の難しいところでもあるんだけどね」


403
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/04(月) 23:36:14 ID:4/EyZrwg
魔法使い「転移魔法は高等魔術なのに、もう使えるだなんてすごいです!」

僧侶「私は記憶の仕組みを理解しているから」

魔法使い「それも魔法医学の範囲ですか?」

僧侶「そうだよ。でも記憶力が良くても、転移魔法で転移させない方法は思い付かないよ……」

魔法使い「何だか難しいですね。そもそも、どうして一瞬で移動するんですか」

僧侶「分かりやすく言えば、世界と世界を折り曲げて繋げる感じかな。だまし絵のように世界を柔軟に捉えて、空間を魔力で繋げてしまうの」

魔法使い「じゃあ結局、メビウスの輪やクラインの壷は関係ないんだ。そっちの方が相応しいと思ったけど」

僧侶「それだと表も裏もなくて、元の位置に戻ってきちゃうじゃない」

魔法使い「それもそうですよね」

僧侶「ちょっと待って、元の位置に戻る?! 空間をねじって繋ぐ方法も、ありかもしれない……。魔法使いちゃん、ありがとう!」

魔法使い「あっ、いえ、どういたしまして」


405
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 20:55:22 ID:MkVY6x/E
僧侶「それじゃあ、私は勇者さまのところに行ってくるから。魔法使いちゃんも程ほどにね」


そう言えば、勇者さまは外で剣術の訓練をすると言っていた。
それはつまり、僧侶さんが来るのを待っているという意味なのだろう。


魔法使い「もしかして、今から夜のデートなんですか?」

僧侶「野営をしていると、ゆっくり話が出来るのは夜しかないしね。任務が一番大切だけど、私は恋人としての時間も充実させたいの//」

魔法使い「僧侶さん、すごく幸せそうでうらやましいです」

僧侶「……ありがとう//」

魔法使い「それじゃあ、もう少し頑張ったら私は寝ることにします」

僧侶「うん、おやすみなさい」


僧侶さんは浮かれた声で言うと、テントの外に出て行った。
二人は好き合っている訳だし、愛し合い交わることの出来る時間を作ってあげたほうが良いのかもしれない。
私は書物を片付けると、早めに寝袋に入ることにした。


409
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 22:01:27 ID:MkVY6x/E
・・・
・・・・・・
魔法使い「う、うぅん……」


眠りについて、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
野営での睡眠は眠りが浅く、私は目が覚めてしまった。
テント内を見回したが、まだ二人の姿はない。


僧侶『そろそろ入れてほしいです//』

僧侶『はうん……ああっ、入ってくる…………あうっ……』

勇者『僧侶さんの中、温かくて気持ちいい』

僧侶『勇者さまぁ……あっ……あぁ、いぃ……』


テントの外から、僧侶さんの喘ぎ声が聞こえてきた。
どうやら、愛し合っているときに目が覚めてしまったらしい。
この声を聞くと、どうしても気持ちがそわそわしてしまう。

気にしない、気にしない――。
私はそう言い聞かせ、目を瞑った。
すると突然、女性の悲鳴が聞こえてきた。


410
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 22:17:06 ID:MkVY6x/E
『い、いやああぁぁぁぁっ!!』


どこか、聞き覚えのある声。
もしかすると、外で何か非常事態が起きたのかもしれない。
私は急いで寝袋から出ると、外に駆け出した。


僧侶「わわっ、魔法使いちゃん//」

魔法使い「きゃあっ// ご、ごめんなさい//」


外に出ると、勇者さまと僧侶さんが半裸で交わっていた。
色々と見てしまい、お互いに気まずくなって硬直してしまう。
しかし悲鳴を上げた女性の姿は、どこにもない。


魔法使い「あの、急に女性の叫び声が聞こえて目が覚めて……。二人が外でしているだなんて知らなくて、お邪魔しましたっ//」

僧侶「魔法使いちゃん、待って。あの茂みの中で女性が倒れていると思う」

勇者「俺たちも服を着たらすぐに行くから、様子を見てきてくれ」

魔法使い「は、はいっ//」


411
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 22:27:11 ID:MkVY6x/E
二人に頼まれて茂みに向かうと、血塗れの女性が倒れていた。
しかも驚いたことに、その女性は魔女さんだった。


魔法使い「魔女さんっ!」


私は慌てて駆け寄り、魔女さんに声をかけた。
すでに乾いているが、血塗れのローブは激しい戦いがあったことを予感させる。
しかし怪我の状況を読み取ってみると、魔女さんはどこも怪我をしていないことが分かった。
血塗れになっているのは、返り血を浴びたからのようだ。


僧侶「魔法使いちゃん。お……お待たせ//」

魔法使い「僧侶さん、倒れているのは魔女さんでした。でも、少し様子がおかしいんです」

僧侶「様子がおかしい?」

魔法使い「ローブが血塗れなんですけど、人間の男性の血液なんです」

僧侶「とりあえず、テントの中に運んであげましょ」

魔法使い「はいっ」

勇者「俺は近くにバトマスたちがいないか、少し見回りに行ってくる。深手を負って、倒れているかもしれない」

僧侶「分かりました。気をつけて行って来てくださいね」


412
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 22:43:29 ID:MkVY6x/E
魔女さんの看病をしていると、しばらくして勇者さまが一人で戻ってきた。
小さく首を振り、顔をしかめる。
どうやら、誰もいなかったようだ。

男性の返り血を浴びたローブ。
この先で一体何があったのだろうか――。

それからしばらくして、魔女さんが意識を取り戻した。
きょろきょろと周囲を見回し、小さくつぶやく。


魔女「んっ……ここは…………」

僧侶「ここは私たちが夜営しているテントです」

魔女「!! いやっ、来ないで……」


魔女さんは勇者さまに気が付くと、怯えたように声を震わせた。
そして、身体をすくませる。


僧侶「勇者さま。殿方がいると話しにくいことがあるかもしれないし、少し外に出てもらっても良いですか?」

勇者「……分かった」


413
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 23:00:08 ID:MkVY6x/E
魔女「あの……、いつもあんな目に遭わされてるの?」


勇者さまが表に出て気持ちが落ち着いたのか、魔女さんはおもむろに口を開いた。
そしてその言葉には、トゲが含まれていた。


僧侶「あんな目って?」

魔女「その、無理やり犯されるって言うか……、そういうこと」

僧侶「あ、あぁ。実は、私は勇者さまと付き合うことになったんです//」

魔女「そんなの、女を抱きたいから都合のいいことを言ってるだけでしょ! 性欲の処理に困っているから、やりたくて利用してるだけよ。僧侶ちゃん、騙されてるわよ!」

僧侶「……えっ?」

魔法使い「魔女さん、その言い方は酷いです。勇者さまはエッチなことをするのが好きだけど、そんな事をする人じゃないです。今のは、僧侶さんにも失礼です!」

魔女「……」


414
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 23:11:13 ID:MkVY6x/E
僧侶「魔女さん、何かあったのですか? 賢者さんや他の方は、どちらにいるのですか?」

魔女「みんな殺した。もう嫌だったの、嫌だったの……」

魔法使い「殺した?!」


ローブが血塗れだったのは、魔女さんが殺したからなのだろうか。
私にはとても信じられない。
そう思って魔女さんを見詰めると、とても悲痛な表情をしていた。


僧侶「魔女さん。どうして、そんなことに……」

魔女「寄せ集めの男女が旅をするなんて、そんなの無理だったのよ! 毎日脅されて、無理やり犯されて、憎くて憎くて――」

魔法使い「そ、そんな。でも一緒に食事をしたときは、そんなことは一言も……」

魔女「それ、もう一ヶ月も前の話でしょ。あなたたちも変わったんじゃないの? この一ヶ月で――」

僧侶「そうですね。私たちの関係も変わりました」

魔女「そう、人は変わるのよ」


415
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 23:25:01 ID:MkVY6x/E
魔女「ところで、どうして南の大地に魔道師の都があると思う?」

僧侶「それは、白夜や極夜が呪術的な現象だと信じられていたからでしょ」

魔女「もし、それが真実だったとしたらどうする? そして、その呪術的な影響が、僧侶ちゃんの心を惑わせているとは考えられない?」

僧侶「どういう意味ですか」


僧侶さんは不愉快そうに言った。
そして、魔女さんが応じる。


魔女「抑圧されていた心が、呪術で引きずり出されただけなんじゃないの? あなたの愛情なんて、すべて錯覚よ!」

僧侶「いいえ。魔女さんが言うように抑圧されていた心が解放されたのならば、私と勇者さまは本気で愛し合っていることになります。仮に呪術がきっかけだとしても、素敵なことじゃないですか」


それは、私にとって衝撃的な言葉だった。
魔道師の都にいたとき、私は呪術的なものを感じていた。
もしかすると、僧侶さんは本当は――。


416
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/05(火) 23:48:45 ID:MkVY6x/E
魔法使い「あの……。では、魔女さんたちも呪術の影響を受けていたということですか?」

魔女「とにかく、私はもう限界だったの!」

魔法使い「限界だったって、そんな理由で……」

魔女「だから、二人を殺すしかなかったの。いやっ、もう斬らないで……するっ、何でもしますから…………」

魔法使い「えっ?!」

魔女「うああぁぁっっ、もうやめてよ……、いやっ……いやあぁっ……」

僧侶「沈静魔法!」

魔女「……」スースー


魔女さんは魔法の効果で、寝息を立て始めた。
そして僧侶さんは、寝袋を毛布代わりにして魔女さんにかぶせた。


僧侶「今はゆっくり休んでください。魔女さんは、何も悪くないですから……」

魔法使い「魔女さん……」


418
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/06(水) 22:49:13 ID:WkdrlSeQ
魔女さんが眠った後、テントに勇者さまを呼び戻した。
そして、僧侶さんが言葉を選びながら慎重に事情を説明した。


勇者「そうか、バトマスたちはもう――」

僧侶「身体がないと蘇生できませんし、身体があっても死を受け入れた後だと思います」

勇者「つまり、結界に入って生きて帰ることができたのは、魔女さんだけということか」

僧侶「そうなりますね。つらいことがあったようで、酷く錯乱していました」

魔法使い「とても見ていられなかったです……」

僧侶「そんな中、魔女さんが気になることを言っていました」

勇者「気になること?」

僧侶「はい。私たちの関係を、『抑圧されていた心が、呪術で引きずり出されただけだ』と言っていたんです。もしかすると、私たちへのメッセージではないでしょうか」


419
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/06(水) 22:57:14 ID:WkdrlSeQ
勇者「それは、俺の気持ちを疑っているのか?」

僧侶「いいえ、『結界の中には、呪術的な何かがある』という意味だと思います。魔女さんはつらいことがあって、今もその影響が残っていますから……」

勇者「呪術のせいで、仲間同士で殺しあったのか」

僧侶「仲間同士で殺しあったというよりは、正当防衛だったと思います。それだけが、魔女さんにとって救いかもしれません」

勇者「そうか、やるせないな」

魔法使い「また一緒に、ご飯を食べに行きたかったな……」

僧侶「そうだよね……」

魔法使い「……はい、本当に残念です」

僧侶「きっと賢者さんも、毎日つらかったと思います。魔法使いちゃん、私たちが賢者さんの冥福を祈ってあげましょう。彼女の魂が安らかに眠れるように――」

魔法使い「うぅっ、はい…………」


421
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/06(水) 23:24:23 ID:WkdrlSeQ
~簡易テント~
翌朝、食事の準備を終えてテントに戻ると、魔女さんが目を覚まして身体を起こしていた。
けだるそうな表情で、戻ってきた私を見る。


魔法使い「おはようございます」

僧侶「魔女さん、おはようございます。気分はいかがですか?」

魔女「お、おはよう……。少し身体が重いくらいで、特には……」

僧侶「それは良かったです」

魔女「昨夜はごめんなさい。少し取り乱して……」

僧侶「大丈夫ですよ。みんなで朝食を食べませんか? 見たところ荷物もないですし、しばらく何も食べていないですよね」

魔女「ごめん、あまり食欲がないから」

魔法使い「私、魔女さんと一緒に食べたいです」


422
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/06(水) 23:32:29 ID:WkdrlSeQ
魔女「あたし、生きていても良いのかな……」

魔法使い「生きていても良いに決まってるじゃないですか」

魔女「……どうして、そう思うの?」

魔法使い「女性を無理やり暴行するなんて、とても許されることではありません。魔女さんは正当防衛だし、絶対に許されます」

魔女「そうだね。許されるよね……」

魔法使い「はいっ」

僧侶「でも、こういうことは言いたくないけど、魔女さんは任務中だということも忘れてはいけないと思います」

魔女「……ぁ」

僧侶「魔王の存在を承知した上での任務だし、命を落とす覚悟はしていたはずですよね」

魔女「それは……」

僧侶「今回のことは、魔王から精神感応系の攻撃を受けて、同士討ちを誘発させられただけです。ならば魔女さんは、国に仕える魔道師として次の作戦を検討するために、結界の中で起きたことを報告する義務があるはずです」


424
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 00:21:17 ID:qgHCxrrc
魔女「あたしの気持ちも知らないで、よくそんな事を言えるわね……」

僧侶「すみません。でも魔女さんの経験を次に繋げていかないと、苦しみだけのものになってしまうから、だから……」

魔女「ねえ、任務だと言うなら、どうして魔法使いちゃんをここまで連れて来たの? 彼女はただの村娘でしょ」

僧侶「それは……」

魔女「ねえ、答えて」

僧侶「魔法使いちゃんは、女神に指名されているのです」

魔法使い「えっと、そうなんです」

魔女「つまり、神託があったから行くのね」

僧侶「……はい。だから転移の羽と賢者の石を持たせて、絶対に守れるようにしています」

魔女「一般人なんだから、当然でしょ」

僧侶「ですよね……」


425
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 00:23:31 ID:qgHCxrrc
魔女「魔法使いちゃんが頑張っているのに、あたしが落ち込む訳にはいかない――か」


魔女さんはそう言うと、笑顔を見せた。
しかし昨日の取り乱した姿を知っているせいで、私には無理をしているように感じた。
それでも気丈に振舞っていられるのは、国家魔道師としての責任があるからなのかもしれない。
きっと、本心は苦しいはずなのだ。
そんな彼女に対して私に出来ることは、改めて朝食に誘ってみることだけだった。


魔法使い「あの、魔女さん。朝食を一緒に食べませんか?」

魔女「……そうだね。ご馳走になろうかな」

魔法使い「うれしいですっ! 実は昨日の夜、勇者さまがカンガルーを捕まえて来てくれたんですよ」

魔女「カンガルー?」

魔法使い「はいっ。お腹にポケットがある、不思議な動物なんです」

僧侶「そうそう。お肉は柔らかいし、味付けは私がしたので保障します!」

魔法使い「勇者さまも外で待っているし、みんなで食べましょう♪」


427
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:05:45 ID:qgHCxrrc
魔女「二人とも、勇者さんといい関係を築いているんだね。あたしたちは、性欲の捌け口でしかなかったのに……」

僧侶「私たちも、勇者さまの性欲には悩んでいましたよ。だけどその欲求と向き合って、どのように解消させるか三人で話し合ってきました。もしかすると、それが良かったのかもしれません」

魔女「そういえば、以前そんな話をしてたわね。というか、どうして過去形なの?」

僧侶「勇者さまは、もう彼氏ですから//」

魔女「ひょっとして、その指輪は勇者さんから?」

僧侶「はい」

勇者「でもそれ、ミスリルだけど魔道具じゃないよね」

僧侶「浮気防止用のパズルリングです。そんなものを渡されたら、もう勇者さまのことを一途に想い続けるしかないじゃないですか//」

魔女「そっか、本気だったんだ……。僧侶ちゃん、昨夜は邪魔をしちゃってごめんね――」

僧侶「改まって言われると恥ずかしいです//」


428
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:07:43 ID:qgHCxrrc
僧侶「あっ、そうだ。魔女さん、少しお腹を触りますね」

魔女「えっ?」

僧侶「……、破壊魔法!」

僧侶「受精能力の有無に関わらず、体内のすべての精子を魔法で破壊しました。今までのことで望まない妊娠をすることはありません。感染症の心配もなさそうですよ」

魔女「ほ、本当に?!」

僧侶「はい、つらかったですよね。もう大丈夫ですよ」

魔女「うぅっ、うわああぁぁん……」

魔法使い「魔女さん……」

魔女「ありがとう。僧侶ちゃん、ありがとう……」


430
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:12:13 ID:qgHCxrrc
魔女さんの気持ちが落ち着いた後、私たちは四人で朝食を食べた。
メニューは魔女さんの体調を考慮して、食べやすいお鍋だ。
楽しく談笑できる雰囲気ではなかったけれど、少しでも気持ちが和らいでくれていれば良いなと思った。


僧侶「ごちそうさまです。カンガルー鍋、うまうまでした~」

魔法使い「うまうまでした」

魔女「う、うまでした……」テレ

僧侶「勇者さま、燻製のほうは順調ですか?」

勇者「有り合わせにしては順調だと思う。完成が楽しみだね」

魔法使い「美味しく出来るかなあ」

僧侶「当分、食べ物には困らないですね」


431
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:20:31 ID:qgHCxrrc
勇者「ところで魔女さん、これからどうするんですか?」

魔女「皆さんは、これから結界の中に入るんですよね」

勇者「それが俺たちの仕事だから」

魔女「あたしは……、もうあんな思いをしたくないです。一人で帰ろうと思います」

勇者「帰るって言っても、荷物も何もないだろ。はっきり言って、一人で帰るのは無理だと思う」

僧侶「砂漠もあるし、手ぶらで帰れるほどあまくないよね」

魔法使い「あの、帰る方法が一つだけありますよ。私は転移の羽を持っています」

魔女「でもそれは、魔法使いちゃんの身を守るためのものでしょ」

魔法使い「私なら大丈夫です」


432
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/07(木) 23:35:37 ID:qgHCxrrc
勇者「魔法使いちゃん、さすがにそれは認められないな」

魔法使い「駄目ですか?」

勇者「ああ、駄目だ。魔女さん、南の都までなら一人で行けるかな? 食料は今、燻製を作っているから」

僧侶「何か思いついたんですか?」

勇者「魔女さんは結界からの生還者だろ。情報は絶対に必要だし、あの王様なら魔女さんを優遇してくれると思うんだ」

僧侶「そうですね」

勇者「バロックの城にも情報が伝わるだろうし、しばらく働いて資金を稼ぐことも出来るはずだ。そして、俺たちの帰りを待っていて欲しい」

魔女「勇者さん、それってどういう意味なんですか?」

勇者「魔女さんを俺たちの仲間に迎え入れたい。一人で帰るのは難しいし、賢者さんが亡くなった今、勇者特約も使えなくなっているはずだろ」


魔女さんが国家魔道師として仕えている国とは、同盟関係にある。
だから正式な手続きさえしていれば、勇者さまが持っている王家の紋章を使えるようになるそうだ。
単独の分隊なので支援内容は制限されるらしいけど、支援を受けられるならばそれに越したことはない。


433
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:54:09 ID:sIIKMJa6
魔法使い「魔女さん、私たちのことを『楽しそうでうらやましい』って言ってたじゃないですか。資金のことだけじゃなくて、私たちと一緒に旅をしましょうよ」

魔女「無理です。あたしは、仲間を殺すような魔道師ですよ」

魔法使い「でもそれは、理由があってのことですよね」

魔女「それは……」

魔法使い「四色あれば、どんな地図でも塗り分けることが出来ます。それと同じで、三人では出来なかったことが、魔女さんが仲間になることで出来るようになると思います」

魔女「四色問題か……。あたしたちは塗り方を間違えてしまったんだろうな……」

僧侶「それならば、私たちと塗り直しましょうよ。魔法使いちゃんもそのほうが喜びますし、精霊魔術を教えてあげてください」

魔女「本当に、こんなあたしで良いの?」

魔法使い「はい、もちろんです!」

魔女「……分かりました。勇者さん、よろしくお願いします」

勇者「ああ、今日からよろしくね。手続きや契約は、俺がやっておくから」

魔女「はい、お願いします」


434
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 00:20:15 ID:sIIKMJa6
魔女「それでは仲間になったことですし、勇者さんが結界へと向かう前に話しておきたいことがあります」

勇者「何をですか?」

魔女「結界の中のことです」

勇者「話せるなら、ぜひお願いします!」

魔女「……はい。魔王に支配されたと言われている極南の村ですが、中に入ると呪術の影響が強くなります。ただ、賢者さんだけはその影響がないようでした」

勇者「それは、女賢者だからですか?」

魔女「職業的なことではなくて、女神の加護を受けていたからだと思います」

僧侶「そういえば、勇者さまだけは天使の封印魔法が無効化されていましたよね」

勇者「なるほど。女神の加護があれば、中に入っても大丈夫なのか」

魔女「でもそこで、賢者さんは男たちに襲われて殺されました。それに耐えられなくて、あたしは彼らを殺しました。村の中では、悪意や恐怖が増幅されるのだと思います」

勇者「……」


435
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 00:39:13 ID:sIIKMJa6
魔女「その後は村を出て、付近をさまよっていたんだけど……。極南の地で、ハノイの塔を見たんです」

僧侶「えっ……、本当にハノイの塔があったの?!」

魔女「はい。あれは間違いなく、ハノイの塔だと思います」

魔法使い「呪術よりも、そっちの方が恐ろしいです――」

僧侶「だよね……」

勇者「よく分からないけど、それってそんなに驚くことなの?」

僧侶「ハノイの塔は三本の支柱が立っていて、その棒に64枚の円盤が刺さっているパズルです。そしてそのパズルが完成したとき、世界が消滅すると言われているのです」

勇者「世界が消滅するパズル?!」

僧侶「はい。ハノイの塔は終末時計なんです」

魔法使い「一体、どれくらい手数が進んでいるのでしょうか」

魔女「あたしには女神の加護がないので、近付けなくて……」

魔法使い「結界の中にも、さらに結界があるのですね。残されている時間が気掛かりです」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 22:43:48 ID:sIIKMJa6
僧侶「魔女さん、私……任務中とか偉そうなことを言ってしまって申し訳ありませんでした。つらいときなのに、一人でこんなに調査していたなんて知らなくて……」

魔女「いいよ。下手に同情されるより、あたしにはそれが良かったかも」

僧侶「本当にごめんなさい」

魔女「それで、ハノイの塔って神の遺産だよね。それが結界で守られているということは、もしかすると原典なのかもしれません。つまり、あたしたちがするべきことは――」

勇者「ハノイの塔を破壊することか」

僧侶「勇者さま、時計を壊しても時間が分からなくなるだけです」

魔女「そうです。ハノイの塔を破壊するのではなくて、その進行を止める方法を考えなければならないと思います」

勇者「言われてみれば、そうだな……」

魔法使い「勇者さま、15パズルや天使さんからのメッセージも忘れないでください。もしかすると、ハノイの塔はドーナツ世界までの時間をカウントしているのかもしれません」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:44:25 ID:sIIKMJa6
勇者「ドーナツ世界と世界への侵入者、そして終末時計か――。魔女さん、極南の村に魔族はいるの?」

魔女「特に誰もいなかった……と思います」

勇者「はっきりしないな。危険だけど、そこに原因があるかもしれないから、行かないといけないな」

僧侶「それならば、精神感応系の魔法対策が必要ですね」

勇者「予防策はあるの?」

僧侶「有効な方法は特にないです」

勇者「えっ?!」

僧侶「精神感応系の魔法を予防することは、あらかじめ感情を固定しておくことになるので、正常な判断力が阻害されてしまいます。それに、身体への負担も大きいです」

勇者「結局は、俺たちの関係次第ってことか」

僧侶「そうなりますね。でも勇者さまには女神の加護がありますし、魔法使いちゃんは守りが万全なので――」

勇者「ということは、魔法対策が必要なのは僧侶さんか」

僧侶「……はい。私も精神感応系の魔法を使えますし、何か考えておきます」

魔法使い「わ、私も心構えをしておきます」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:48:32 ID:sIIKMJa6
勇者「じゃあ、俺たちの目的を確認しよう」


1、極南の村の調査
2、ハノイの塔の残り時間を調べる
3、可能ならば世界の侵入者を排除する


僧侶「精神感応の脅威を取り払うことが出来れば、今後の戦略も優位になってきますね」

勇者「そうだな。それだけでも、どうにかしたいよな」

僧侶「はい」

魔法使い「だけど、残り時間が少なければ意味がないですよね」

勇者「じゃあ、極南の村とハノイの塔の調査を最重要課題としよう」

魔法使い「分かりました」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:56:53 ID:sIIKMJa6
勇者「では魔女さんは別働隊として、王様に報告をお願いします。そして俺たちが戻るまで、南の都で待機しておいてください」

僧侶「都まで遠いし、気をつけてね」

魔女「はい。あたしも皆さんが無事に戻って来られるよう、心から祈っております」

勇者「ありがとう」

魔法使い「魔女さん、頑張ってきます!」


私たちの無事を祈り、待ってくれている人がいる。
それのなんと心強いことだろう。
私を送り出してくれた家族や村長さん、そして魔女さん。
みんなにもう一度会うまで、簡単に死ぬわけには行かない。

闇の結界の中で、何が起きるのか分からない。
だけど、生きて帰るんだ!
その言葉を心に刻み、私は気を引き締めた。


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/11/08(金) 23:56:53 ID:sIIKMJa6
第8話 おわり

・四色問題
・ハノイの塔


勇者「ドーナツの世界?!」第9話を読む
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