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勇者「ドーナツの世界?!」 もくじ

勇者「ドーナツの世界?!」
もくじ
勇者「ドーナツの世界?!」【前編】
勇者「ドーナツの世界?!」【後編】

各話のリンク
第1話 ドーナツの世界
第2話 バラバラの絆
第3話 命の作り方
第4話 魔法はいらない
第5話 忍び寄る闇
第6話 淫されていく想い
第7話 幸せはどこにある
第8話 悲しい再会
第9話 心をさらけ出して
第10話 終末のパズル
最終話 私たちの幸せ

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勇者「ドーナツの世界?!」 第1話

1 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 21:41:06 ID:bihKnwh2
第1話 ドーナツの世界
~エルグの城~
王様「勇者はまだか」

勇者「遅れて申し訳ありません」

王様「勇者よ、よくぞ参った。お主もうわさには聞いておろう。はるか南の大地にある極南の地が、闇に覆われてしまったという話を――」

勇者「はい」

王様「近年は魔物の活動も激しさを増し、極南の村が魔王に支配されたと聞き及んでおる。このままではやがて世界は闇に呑まれ、光を失ってしまうだろう」

勇者「魔王……ですか?」

王様「その前に女神の加護を受けし若者よ、そなたに魔王の討伐を任命したい」

勇者「任務、拝命いたしました」

王様「おぉ、さすが勇者だ。大臣、勇者に王家の紋章を授けよ」

大臣「これは世界条約で定められた魔道具です。国王が任命した勇者として支援を受けることができるので、大事にするように」

勇者「はいっ、ありがとうございます」

王様「それでは、よい報告を期待しておるぞ」


2
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 21:49:12 ID:bihKnwh2
~城下町~
勇者「はぁ、魔王なんているわけないのに……」


冬の寒空の下、派遣施設へと歩きながら溜息をついた。
女神から神託を授かり、勇者に選ばれたことは理解しているつもりだ。
しかし、それと魔王の存在は別の話だ。
なぜならば、すでに魔族は滅びているからだ。

はるか昔、人間と魔族の戦争があった。
その戦争で人間が辛勝したことは、精霊神話を読んだことのある人間ならば誰でも知っている。

だから、魔王が存在するはずがない。
それでは、なぜ闇が存在するのだろうか。

とりあえず成功報酬はかなりの額だし、派遣施設で女僧侶を誘うことにしよう。
もしかすると、もしかするかもしれない。
あまい期待を抱きつつ、俺は派遣施設に向かった。


3
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:01:15 ID:bihKnwh2
~派遣施設~
勇者「おはようございます」

局員「おはようございます、勇者さまですね。こちらにお越しになることは、王様より伺っております。どの方を雇いますか?」


局員はそう言うと、名簿を見せてくれた。
俺は女僧侶の項目を開き、プロフィールに目を通す。

女僧侶を選ぶのは、回復系の魔法しか使うことが出来ないからだ。
格好良い所を見せれば、簡単に惚れてくれるに違いない。
そう考えていると、ひときわ可愛らしい女性を見付けた。


勇者「怪我や病気をしたら困るので、こちらの女僧侶の方をお願いします。旅仲間は彼女一人で大丈夫です」

局員「えっ、戦士や賢者は必要ないのですか?! 小隊を組むほうが良いと思うのですが……」

勇者「長い旅だし、衣食住と費用の問題が付きまとうので大丈夫です。剣術や精霊魔法なら俺が少しは使えるし、少数精鋭で行こうと思います。だめなんですか?」

局員「い……いえ、大丈夫ですよ。少々お待ちください」


4
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:03:15 ID:bihKnwh2
僧侶「勇者さま、はじめまして。私は僧侶と申します」

勇者「俺は勇者。これからよろしくね」

僧侶「よろしくお願いします」ペコリ


実際の彼女は、名簿で見た以上に可愛かった。
胸がかなり大きくて、女僧侶らしい健康的な容姿をしている。


局員「勇者さま、本当に彼女一人だけで良いのですか? もちろん、後から増員できますけど――」

勇者「国の派遣施設に登録されるほどの実力者だし、不足はありません。ありがとうございました。では僧侶さん、装備を整えて行きましょうか」

僧侶「ちょ、ちょっと待って下さい! 私たち、二人旅なのですか?!」

勇者「そうだよ。小隊を組むと、衣食住と費用が問題になってくるからね」

僧侶「確かに、そうかもしれませんけど……」

勇者「じゃあ、そうと決まれば出発しようか」

僧侶「……分かりました。勇者さま、頑張りましょう」


5
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:05:19 ID:bihKnwh2
~北の大地・フィールド~
勇者「僧侶さん。どうやら、野犬たちに囲まれているみたいだ」

僧侶「そうみたいですね」


この地域では冬になると、行商の馬が野犬たちに襲われることがある。
もし人の肉を食べたことのある野犬ならば、隙を見て襲ってくるだろう。
決して、油断は出来ない。


野犬「ガルルルッ!!」

勇者「くそっ! 僧侶さん、来たぞ!」

僧侶「は、はいっ!」


俺は鉄の剣を抜き、飛び掛ってきた野犬を斬り払った。
そして続けざまにもう一匹の野犬を斬り、僧侶さんに目を向ける。


6
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:08:44 ID:bihKnwh2
野犬「バウワウッ!!」

僧侶「きゃあっ! 防御魔法っ」

勇者「僧侶さんっ!」


野犬は彼女が振りかざしたナイフをかわし、左腕に食らいついた。
しかし、魔法で強化された防寒具が牙をはじき返す。
そしてナイフを逆手に持ち変え、彼女は野犬へと振り下ろした。


野犬「キャウン……」ドサリ

僧侶「ごめんね」

勇者「どうやら、他の野犬たちは諦めてくれたようだな。血の臭いを嗅ぎつけて魔物が集まってくる前に、俺たちもここを離れようか」

僧侶「……そうですね。野犬さんの命、みんなに繋がりますように」ペコリ


7
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:25:15 ID:bihKnwh2
~エルグの村~
僧侶「勇者さま、やっと村に着きましたね」

勇者「馬なら1時間程度なのに、歩くと半日もかかるのか……」

僧侶「日が暮れてきたし、宿を探さないといけませんね。あの民宿はいかがでしょうか」

勇者「じゃあ、今夜はあの宿にしよう」


少しでも早く暖かい部屋に入りたいし、特に異論もない。
俺はそう思い、僧侶さんの意向を汲むことにした。


宿の主人「これはこれは勇者さま。王様より伝令が来ております。一部屋だけ空いておりまして、そこなら勇者割引きでお貸し出来ますよ」

勇者「こっちは二人なんだけど、もう一部屋、空けられませんか?」

主人「他に空室はございません。お二人と聞いていたので、ツインルームをご用意させていただいております」

勇者「一部屋しかないなら仕方がないですね。その部屋でお願いします」


8
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:43:57 ID:bihKnwh2
~部屋~
僧侶「あのぉ、勇者さま……。私たちは同じ部屋なのですか?」

勇者「ごめん。何も言わないから、相部屋でも大丈夫だと思ってた。やっぱり嫌だったのか」

僧侶「勇者さまがどうするのか、見ていただけです。もう一部屋ないか聞いてくれていたので、一応良しと致します。でも、次からは別室にして欲しいです」

勇者「僧侶さん。そのことなんだけど、次からも相部屋ってことにしてくれないかな」

僧侶「えっ?!」

勇者「これから俺たちは一緒に長い旅をするわけだし、お互いに信頼関係を築いていく必要があると思うんだ」

僧侶「信頼関係……ですか?」

勇者「そうそう。戦闘の場面では、お互いに信頼関係が築けているか否かで、生死が分かれてしまう。些細なことでも話し合える関係になれれば、それだけ旅もスムーズに出来ると思うんだ」

僧侶「そうかもしれないですね」

勇者「だから、協力してほしい」

僧侶「……分かりました」


9
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:45:15 ID:bihKnwh2
勇者「とりあえず、旅の計画を立てようか」

僧侶「はいっ」

勇者「僧侶さんは、この村は何が美味しいか知ってますか」

僧侶「……えっ? 旅の計画って、今夜の食事ですか?!」

勇者「せっかく旅をするんだから、美味しいものもいっぱい食べたいだろ」

僧侶「そうですね。私も各地の美味しいものを、いっぱい食べたいです!」


今まで硬い表情だった僧侶さんは、食べ物の話になると目を輝かせた。
生真面目な女性ならどうしようかと思っていたが、この様子だと気が合いそうだ。


僧侶「それでですね、今の季節は冬野菜がおいしいです。この村は冬になると白菜の収穫が盛んなので、お鍋がおすすめだと思います」

勇者「じゃあ、今夜は温かいものを食べよう」

僧侶「はいっ! 夕食も勇者割引きが付きますかねえ♪」


10
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:47:56 ID:bihKnwh2
~談話室~
勇者「えっ、白菜なべを食べられないんですか?」

主人「はい。近頃、魔物が山から下りてきて畑を荒らすようになったのです。先日は農夫が襲われて怪我をしまして、みな困り果てています」

僧侶「勇者さま、残念でしたね……」


白菜なべを食べられないと知り、僧侶さんは肩を落とした。
それにしても、魔物が畑を荒らしているなら見過ごすことは出来ない。


勇者「僧侶さん。明日、その魔物を退治しに行こうか!」

僧侶「本当ですか?! さすが勇者さまです。村の方も困ってらっしゃるようですし、人を襲うようになっては見過ごせませんよね」

勇者「その通り! 食べ物の恨み、思い知らせてやりましょう」

僧侶「はいっ!」


11
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:49:56 ID:bihKnwh2
勇者「それでご主人、どのような魔物なんですか?」


野犬ならば、畑を荒らすようなことはしない。
この村は山も近いし、考えられるのは熊やイノシシだろう。


主人「大型の熊です。例年なら冬眠している時期なのですが、どうやら荒くれ者がいるようでして――」

勇者「グリズリーか。どこに巣があるのか分かっているのですか?」

主人「自警団の者なら、場所を知っています。今夜、村長に報告しておきますので、明日には村の者を案内につけてくれるでしょう」

勇者「分かりました」

主人「では、よろしくお願いします!」

僧侶「勇者さま、明日は頑張りましょうね! そのためにも、今夜の食事は滋養のあるものが良さそうですね」

勇者「そうだな」

僧侶「では、凍結湖の魚料理を食べませんか。脂が乗っていて、すごく美味しいらしいんです!」

勇者「じゃあ、ご主人。その魚料理をお願いします」

主人「かしこまりました」


12
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:51:37 ID:bihKnwh2
~村長の家~
翌朝、俺たちは村長の家に向かった。
昨日は日が暮れていて気が付かなかったが、確かにどの畑も荒らされているようだ。
これでは作物の安定した収穫は望めないだろう。


村長「あなたがエルグの城を代表する勇者殿ですな。話は聞いております。どうぞお上がりください」

勇者「では、お邪魔します」

僧侶「お邪魔いたします」

村長「早速ですが、勇者殿。魔物退治をしてくださるという話は、変わりありませんか」

勇者「もちろんです。ここに来る途中も見ましたが、畑が荒らされてはお困りでしょう」

村長「ええ。村の者も襲われ、ほとほと困り果てておったところです。勇者殿が退治してくださるなら、それはもう願ったりです」

勇者「それで、グリズリーの巣まで案内してくれる者がいれば助かるのですが、やはり同行は難しいでしょうか」

村長「そのことでしたら、ぜひ連れて行ってほしい者がいるのです。魔物退治の話を聞き、志願されまして。魔法使い、入ってきなさい」

魔法使い「はじめまして。魔法使いと申します」ペコリ


13
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 22:59:37 ID:bihKnwh2
部屋に入ってきたのは、ミディアムヘアの村娘だった。
しかも、どこをどう見ても15歳くらいの少女にしか見えない。
志願する気持ちは偉いと思うけど、さすがに同行させるのは難しい。


勇者「あの、村長さん。お言葉ですが、年端も行かないお嬢さんを一緒に連れて行くのは、大変危険だと思います」

村長「いえいえ。こう見えても彼女は、この村で一番の女魔法使いなんです。勇者殿といれば安心ですし、よい経験になるでしょう」

勇者「この場合、本人の意思よりも安全を優先すべきでしょう」

村長「勇者殿といれば安心ですし、それには及びません」


なんなんだ、この聞く耳を持たない村長は――。
どうせ案内人は非戦闘員のつもりだったし、大人でも子供でも大差ないと考えるしかなさそうだ。


勇者「はあ……分かりました。無事に連れて帰ります」

村長「では勇者殿、お願いします」

勇者「魔法使いちゃん、案内よろしくね」

魔法使い「はいっ!」


14
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:02:49 ID:bihKnwh2
~裏の山~
俺と僧侶さんは、魔法使いちゃんの案内で山に分け入った。
女性同士で気が合ったのか、二人は雑談を交わしながら歩いている。
その様子は、どことなく姉妹のようだ。


僧侶「魔法使いちゃんは来年から、お城で研修することが決まってるんだ」

魔法使い「はいっ。お父さんが受験を勧めてくれて、お城で試験を受けてみたんです。そうしたら、春から来るようにって言われました」

僧侶「ということは、私より6歳下の後輩になるんだね。あそこは、城下の人でも入学が難しい狭き門なんだよ」

魔法使い「合格したときは、私も驚きました」

勇者「じゃあ、魔法使いちゃんは相当な使い手なんだ。道理で、村長さんが強く推すわけだ」

魔法使い「えへへ、勉強がんばりました//」


エルグの城で研修が決まっているということは、国家魔道師となりうる才能を持っているということだ。
だからこそ、村長は彼女に魔物退治の経験をさせたいのだろう。
そう考えていると、魔法使いちゃんが立ち止まった。


15
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:06:43 ID:bihKnwh2
魔法使い「勇者さま、この洞窟です」

勇者「ここがグリズリーの巣なのか。思っていたより深そうだな」

僧侶「そうですね」

勇者「とりあえず、魔法使いちゃんも俺について来てくれ。外で待っていて、巣に戻ってきたグリズリーに遭遇すると危険だからな」

魔法使い「分かりました」

勇者「それで注意事項があるんだけど、洞窟の深部では火炎魔法と爆発魔法は使わないでほしい。もし酸欠したり崩落が発生したりすると、俺たちも危ないから」

魔法使い「……そんなことまで考えないといけないんだ」

勇者「とりあえず、命大事にで無理をしなければいいから」

魔法使い「はいっ、分かりました」


16
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:08:43 ID:bihKnwh2
~洞窟~
僧侶「勇者さま、いましたか……」

勇者「いや、もう少し奥に行ってみよう」

魔法使い「あの……、何か不思議な魔力を感じるんですけど」

勇者「静かにっ。グリズリーがいたぞ」


俺はそう言うと、岩陰に身を隠した。
5メートルほど先にやや広い空間があり、そこでグリズリーが丸くなって眠っている。
僧侶さんと魔法使いちゃんも、慌てて身を潜めた。 


僧侶「勇者さま、どうしますか?」

勇者「脇から攻めて、一気に片をつける。そして僧侶さんは防御魔法、魔法使いちゃんは必要に応じて支援魔法。それで頼む」


そう言って、俺は剣を抜いて岩陰を慎重に進んだ。
そのままグリズリーの目前まで迫り、一気に駆け出す。
すると、ようやく気が付いたグリズリーが唸り声を上げた。
しかし、もう遅い!


17
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:09:28 ID:bihKnwh2
勇者「大地斬っ!」


土精霊の力を宿し、岩をも切り裂く勢いで剣を振り下ろす。
しかし、それは当たらなかった。
いや、当たらなかったのではない。
完全に捉えていたはずの剣が、そのまま通り抜けたのだ。

グリズリーの肉を断つ抵抗を予想していた身体は、勢い余ってバランスを崩す。
その一瞬の隙をつかれ、熊パンチが飛んできた。


勇者「くそっ!!」


すんでのところで後ろに飛び退き、鋭い爪をかわす。
そして剣を構え、風精霊の力をまとわせて懐に入り込んだ。


勇者「疾風斬りっ!」


グリズリーの右足を斬り払う。
その刀身は右足をすり抜けたが、空気の刃が左足を切り裂いた。


18
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:21:16 ID:bihKnwh2
グリズリー「グオォォォッッッ!!」


悲痛な雄たけびとともに、グリズリーは崩れ落ちた。
それでもなお、立ち上がらんとしている。
そのとき、それは起こった。
背後から突然腕が伸びてきたのだ。


勇者「ぐはぁっ!」


とてつもない力で振り払われ、壁に叩きつけられた。
鎧を着ていて爪によるダメージはないが、激しく打ちつけられたせいで全身が痛む。
どうにか立ち上がり、俺は剣を構え直した。


僧侶「勇者さま! 回復魔法!」

勇者「何なんだ、あの熊はっ! 空間を越えて攻撃してきたぞ!」

僧侶「魔法使いちゃん! このグリズリー、転移魔法を使えるの?!」

魔法使い「そ、そうみたいですね」アセアセ


どうやら、魔法使いちゃんはこのことを知らなかったようだ。
当たらない斬撃、そして予測困難な場所から飛んでくる攻撃。
このままではジリ貧だ。


19
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:23:16 ID:bihKnwh2
勇者「くそっ! どうすればいいんだ」

僧侶「勇者さま。一度だけ攻撃が当たりましたよね。それは何故でしょうか」

勇者「そんなこと、急に言われて分かる訳ないだろ」

魔法使い「私、分かったかもしれません! 凍結魔法、行きますっ!」


大気中の水分が凍りつき、グリズリーは氷付けになった。
しかし動きを完全に封じるほどの力がないのか、ひびが入り始めている。
そんなグリズリーに対して、魔法使いちゃんはさらに閃光魔法を行使した。

なるほどな――。
一度だけ攻撃が当たったのは、それが空気の刃による視認困難な攻撃だったからに違いない。
だから、魔法使いちゃんはグリズリーの視力を奪ったのだ。


勇者「はあぁぁっ! 疾風突きっ!」


刀身に風精霊をまとわせ、全力で突き出す。
それは氷もろ共、グリズリーの胸を貫いた。
腕に感じる、肉を斬る手ごたえ。
どうやら、読みが当たったようだ。

グリズリーの断末魔の声が洞穴に響き渡り、生気を失っていく。
やがて、氷の中で力尽きた。


20
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:32:16 ID:bihKnwh2
僧侶「やりましたね、勇者さまぁ」

勇者「魔法使いちゃん、ありがとう。咄嗟にこんなことに気付くなんて、並大抵のことじゃできないよ」

魔法使い「えへへ、ありがとうございます//」

勇者「さて、今夜は熊なべだな。農夫に運ばせて、振舞ってもらおう!」

僧侶「そうですね! グリズリーは、熊パンチの前足が美味らしいです♪」

魔法使い「えっ……食べるんですか」

僧侶「このグリズリーは、生きるために畑を荒らしていたんだと思います。そして私たち人間も、生きるために狩りました。ならばその死は、命を繋ぐものでなければなりません。決して、命を無駄にしてはならないのです」

魔法使い「命を繋ぐ……か」

僧侶「はい。そのようにして、私たちは生きているのですよ」

勇者「さすが、僧侶さん。いいことを言いますねえ」

僧侶「うふふ、当たり前です」


21
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:35:41 ID:bihKnwh2
勇者「じゃあ、戻ろうか」


そう言って帰ろうとすると、魔法使いちゃんが物言いたげに俺を見詰めた。
しかし、目が合うと俯いてしまう。
何やら気になることがあるらしいけど、言えずにいるようだ。


勇者「どうしたの? 何か言いたいことがあるなら、恥ずかしがらずに言ってくれないかな」

魔法使い「すみません……。実は、この奥から不思議な魔力を感じるんです」

勇者「魔力?」

魔法使い「はい。このグリズリーの魔力だと思っていたのですけど、どうやら違うみたいなんです」

僧侶「言われてみれば、かすかに感じますね。魔力に関しては魔法使いちゃんのほうが専門ですし、調べてみるべきだと思いますよ」

勇者「そうだな。不審な事があるなら、調査してみよう」


もしかすると、その魔力がグリズリーに影響していた可能性もある。
そう思い、魔力の発生源を探ることにした。


22
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/29(日) 23:38:17 ID:bihKnwh2
魔法使い「魔力のもとは、これみたいです」


しばらく洞窟内を探索し、発生源を見つけた魔法使いちゃんが照明魔法で一点を照らした。
そこには、1から16までの数字が書かれたプレートが落ちていた。
そしてその16枚のプレートは、手のひらサイズの枠に納まって数列を作っていた。


僧侶「この数列はユピテル魔方陣ですね」

勇者「ユピテル魔方陣?」

僧侶「はい。縦横斜め、それぞれの列の合計が、いずれも女性数の最初の素数2と男性素数17を掛け合わせた34になるものです」


6、12、7、9
15、1、14、4
10、8、11、5
3、13、2、16


勇者「なるほど。確かに、合計が34になるな」


そう言いつつ、俺はプレートを拾い上げた。
すると、魔方陣が光に包まれた。


23
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 00:15:46 ID:/OBZxBP2
僧侶「勇者さま、16が消えましたよ! 魔法使いちゃん、これって15パズルじゃないかな。ほら、開いた空間に隣のプレートを動かすことができるし」サッサッ

勇者「あ、おい。勝手に触るなよ。まだ分かってないことも多いのに」

僧侶「ごめんなさい」シュン

魔法使い「でも僧侶さん。これが15パズルだとしたら、大変なことになりますよね」

僧侶「そうだね」

勇者「それはどういう?」

僧侶「15パズルは神の遺産なんです。遥か昔、この世界は一つの巨大な大陸で出来ていました。その超大陸のことをパンゲア大陸と言うのですが、それはご存知ですか」

勇者「土精霊学で勉強した気がするな。大陸が動いているんだっけ」

僧侶「はい、その通りです。神様の力により大陸が少しずつ動いて集まり、巨大なパンゲア大陸が出来ました。そして再び動いて割れてしまい、海や島ができて今の世界になったとされています」

勇者「何だか、すごく壮大な話だよな」

僧侶「それをプレートテクトニクス理論というのですが、15パズルがその伝説を象徴する神具として、この世界に伝えられているのです」


24
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 00:17:28 ID:/OBZxBP2
魔法使い「勇者さま。この15パズルは順番に並んでいませんよね。しかもユピテル魔方陣を形成して、魔力を放っていました。それは、とても恐ろしいことなんです」

勇者「恐ろしいこと?」

魔法使い「もうお気付きだと思いますけど、この15パズルは世界の在り方に関わる神聖な神具なんです。うわさ通り、世界に異変が起きつつあるのではないでしょうか」

勇者「世界の在り方か……。なぜ、そのような物がここにあったんだろうな」

魔法使い「それは……」

僧侶「それは分かりませんけど、このままにしておくのは危険だと思います。グリズリーが見せた空間を越える能力は、この魔力の影響だったのかもしれません。解ける配置のようなので、解いてみようかと思います」

勇者「じゃあ、なるべく早く解いてくれ。女僧侶は神に仕える者だし、その職に就く僧侶さんが言うなら間違いないだろう」

僧侶「ですよね!」


そう言うと、僧侶さんはカチャカチャと数字を動かし始めた。
どうやら、早く解きたかったらしい。
 

25
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 20:52:29 ID:/OBZxBP2
~村長の家~
勇者「村長さん、ただいま戻りました!」

村長「おぉ、勇者殿。魔物はいかがなさいましたか」

勇者「見事、退治してまいりました。農夫を派遣して肉を持ち帰り、今夜はみんなで熊なべにいたしましょう」

村長「そうですな。今から農夫を向かわせます」

勇者「それにしても、魔法使いちゃんは素晴らしいですね。的確な判断で、逆に助けられてしまいましたよ」

村長「そうでしょう。この子は村一番の期待の星ですからな」

魔法使い「えへへ//」

勇者「ところで村長さん。明日ですが、馬を一頭借りることはできませんか? 城に戻り、王様に報告しないといけないことができまして」

村長「分かりました。用意させます」


26
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 21:11:27 ID:/OBZxBP2
~宿の部屋・夜~
僧侶「勇者さま。熊なべ、おいしかったですね」

勇者「ほんと、どうやって臭みを消したんだろ。やわらかくて、こってりで」

僧侶「熊パンチ、とろとろでしたね。明日はぷるぷるになっちゃいますよ。勇者さまぁ、ぷるぷるおっぱい触りたいですか//」

勇者「えっ、マジで!?」

僧侶「……冗談に決まってるじゃないですか。そんなことをしたら、本気で怒りますからね」


顔は笑っているけれど、今までで一番冷たい声色だった。
酔った勢いで触らせてくれるのかと期待したけれど、そんなことはなかったようだ。
そもそも出逢って二日で、完全に気を許してくれる女性はいないだろう。


勇者「ははっ、やっぱりそうだよな」

僧侶「もちろんです」


27
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 21:22:28 ID:/OBZxBP2
トントン
僧侶さんの気を惹くことが出来る話題を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
こんな時間に、一体誰だろうか。


勇者「どうぞ。開いてますよ」

魔法使い「こんばんは」ペコ

勇者「ああ、魔法使いちゃん。こんばんは」

僧侶「いらっしゃい♪ 遊びに来たの?」

魔法使い「いえ……あの、僧侶さん。15パズルは完成しましたか?」

僧侶「できたよ、ほらっ」


そう言うと、僧侶さんは旅袋から15パズルを取り出した。
洞窟で見付けた時はバラバラだった数字が、今は順番に並んでいる。
一度は消えてしまった16の数字も、15の次に埋まっていた。


28
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 22:13:34 ID:/OBZxBP2
魔法使い「16の数字、また出てきたんですね」

僧侶「完成したら魔力が解放されて、結界が張られて動かせなくなったの。もっと遊びたかったのに……」ショボン

勇者「数字が揃っていない状態では危険なんじゃなかったのかよ……」

魔法使い「ところで勇者さま。洞窟で見つけたユピテル魔方陣について、思い出したことがあるんです」

勇者「思い出したこと?」

魔法使い「はい。実は、あの配置は完全方陣だったんです」

勇者「完全方陣?」

魔法使い「普通の魔方陣は縦横斜めが34になるだけですけど、完全方陣はそれだけではないのです。端と端をつなげて筒状にしても、その斜めの合計が34になるんです」

勇者「筒状に?」

魔法使い「はい。上下を繋げて、さらに右と左を繋げると、その平たいプレートはどんな形になると思いますか?」

勇者「上と下を繋いで、右と左を繋いだらドーナツ型になるね」

僧侶「それって、トーラスじゃないっ!」


29
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 22:25:22 ID:/OBZxBP2
魔法使い「まずいですよね……」

勇者「どういうことだ」

僧侶「はるか昔、神様が大陸を移動させるとき、この世界が球形だったので反対側が見えませんでした。だから神様は、世界を平面的に捉える方法を考えたのです。それが世界地図で、この15パズルだと言われています」

勇者「ということは、完全方陣は球形の世界がドーナツ型に歪められることを暗示しているのか?」

僧侶「そう……かもしれませんね」


もし仮に魔王がいたとして、世界を歪めることが出来るのだろうか。
とてもではないが、信じられない。
しかし、二人の魔道師が危機感を募らせている。
それを見過ごすことは出来ないだろう。


勇者「わかった。今日は本当にありがとう。魔法使いちゃんは立派な女魔道師になれそうだね」

魔法使い「ありがとうございます// それでは、おうちに帰ります」

僧侶「もう帰るんだ。おやすみ~」

勇者「おやすみ、気をつけて帰ってね」

魔法使い「は、はいっ。おやすみなさい//」


30
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 22:53:39 ID:/OBZxBP2
~エルグの城・翌日~
俺は早馬で城に戻り、昨日の出来事を王様に報告した。
そして、封印を施された神具を大臣に手渡した。


王様「なるほど、世界に何かが起こりつつあるのは間違いないようだな。して、その神具に掛けられた闇の力は僧侶が解放したのか?」

勇者「はい。もう大丈夫でしょうけど、念のために正規の封印を施すほうが良いと言っておりました」

王様「承知した。極南の闇にばかり目が向けられていたが、極北でも異変が起きているやもしれんな。極北の地への調査団は別に出すゆえ、勇者は引き続き任務を頼む」

勇者「任務、拝命いたしました」

王様「それでは、魔法使いという村娘に褒美を出そう。研修前とはいえ、良い働きをしてくれた。勇者よ、これを無事に届けてくれぬか」

勇者「かしこまりました」


31
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:01:48 ID:/OBZxBP2
~エルグの村~
エルグの村に戻り、俺は借りていた早馬を農夫に返して村長の家に向かった。
褒美を届けるにしても、魔法使いちゃんの家を知らないからだ。


勇者「村長さん、こんにちは」

村長「勇者殿、お待ちしておりました。ここでは難ですので、客間に上がってください」


言われるがままに、客間に上がる。
すると、そこには僧侶さんと魔法使いちゃんの姿があった。
さらに見知らぬ農夫の姿もある。


勇者「こんにちは、魔法使いちゃん。昨日の件で、王様から魔法使いちゃんに褒美が出ましたよ」

魔法使い「本当ですか?! すごくうれしいです!」

僧侶「魔法使いちゃん、良かったね。山の向こうに都があるから、明日は買い物が楽しみだね。魔法使いちゃんは、何が欲しい?」

魔法使い「えっと、新しい魔術書が欲しいです!」


32
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:05:02 ID:/OBZxBP2
勇者「魔法使いちゃんは国境を越える手形を持ってるの?」


山を越えると、そこはバロックの国だ。
国境を越えるためには、王様または自治体の管理を任されている自治長の許可が必要になる。
彼女がその歳で持っているとは思えない。


僧侶「魔法使いちゃんは、私たちと行くんですよ」

勇者「えっ? それって、どういうこと?!」

魔法使い「私も勇者さまに付いて行くことにしました//」テレッ

勇者「子供の遊びじゃないんだ、絶対に認められない!」

僧侶「妹が出来たみたいで、楽しい旅になりそうじゃないですか。私はそのつもりです」

勇者「いやいや、それは違うだろっ!」


33
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:06:02 ID:/OBZxBP2
村長「うちの村から勇者殿のパーティーに入れる者が出るとは、とても光栄です。彼女は村で一番の女魔法使いです。よろしくお願いします」

勇者「魔道師が必要ならば、城下で人材を選びます」

農夫「まあ、そうおっしゃらずに。勇者さまが魔王を倒せたならば、娘を差し上げてもいいですよ」

魔法使い「お父さん。うれしいけど、少し気が早いわよ//」

勇者「誰かと思えば、お父さんですか。娘さんの暴走を止めてください」

村長「彼女の実力は、勇者殿もご覧になったでしょう。良い経験にもなるだろうし、ぜひ連れて行ってあげてください」

僧侶「そうそう。魔法使いちゃんと三人で旅をしたほうが、きっと楽しいですよ」

村長「ちなみに、国境を越える手形は発行済みですぞ」

勇者「それって職権乱用じゃないのか?!」

魔法使い「さすが、村長さんです!」


34
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:10:44 ID:/OBZxBP2
そうだった。
ここの村長は、頑として人の話を聞かないのだ。
しかも僧侶さんが彼女を気に入ったらしく、一緒に行きたがっている。
俺は仕方なく、魔法使いちゃんの同行を認めることにした。


勇者「はあ、分かったよ……」

魔法使い「ありがとうございます! お邪魔にならないよう、がんばります!」

僧侶「魔法使いちゃん、よろしくね」

魔法使い「はい、よろしくお願いします!」


35
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/30(月) 23:11:44 ID:/OBZxBP2
第1話 おわり

・魔方陣
・15パズル
・トーラス


勇者「ドーナツの世界?!」第2話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第2話

37以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:36:02 ID:CG33jvDA
第2話 バラバラの絆
~山道~
魔法使い「るんるん♪」

僧侶「魔法使いちゃん、ご機嫌ですね」

勇者「そうだな。でも、必要ない人員だよな……」

僧侶「そんなことはないです。彼女の実力は申し分ないですし、私は居てくれたほうが助かると思います」

勇者「そうかもしれないけど、彼女は支援の対象になっていないだろ。衣食住や費用の問題が出てくるじゃないか」

僧侶「衣食住に関しては、私たちの経費として申請しちゃえば良いんです。それに彼女は王様から褒美を頂いていますし、しばらくはそれで大丈夫だと思いますよ」

勇者「さらっと、そういうことを言うなよ」

僧侶「まあ、何とかなりますって」


38
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:41:38 ID:CG33jvDA
勇者「魔法使いちゃん、ストップ。誰かいるみたいだ」

山賊A「おうおう、てめえら。痛い目に遭いたくなかったら、金目のもんを置いていきなっす!!」

山賊BC「そうだぜ、置いていきな!」

魔法使い「爆発魔法!」


ドーーーンッ!!


山賊ABC「ぐおーーーっ」ピクピク


人の気配がして魔法使いちゃんを呼び止めると、次の瞬間には山賊たちがのされていた。
見た目は可愛らしい美少女だけど、グリズリーを凍結させてしまうほどの女魔法使いだ。
はっきり言って、ただの山賊では相手が悪い。


魔法使い「勇者さま、都が見えましたよ~♪」

勇者「そ……そうだね」

僧侶「山賊さん、これに懲りて悪いことはやめてくださいね」ニコッ


39
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:47:23 ID:CG33jvDA
~山すその都~
エルグの村の裏にある山を越え、山すその都に着いた。
ここはバロックの国の領土で、エルグの国とは同盟関係にある。


魔法使い「僧侶さ~ん、お洋服のお店がありますよ!」

僧侶「あ、その服、サラマンダーに祝福された繊維を織り込んであるみたい。魔法防御が上がるから、魔法使いちゃんにぴったりなんじゃない?」

魔法使い「こっちの光のドレスもかわいいです♪ でもちょっと高いな……」

防具屋「そのドレス、すごくお似合いだと思いますよ。試着だけでもなさいますか?」

魔法使い「えっ、いいんですか?」

僧侶「じゃあ、私もこのワンピースを」キャッキャッ

勇者「二人とも、先に泊まる宿を探そうよ。早くしないと、部屋がなくなるかもしれないだろ」

魔法使い「え~っ。この服、着たかったのに」

僧侶「魔法使いちゃん、また後で来ましょ」

防具屋「ありがとうございました。またお待ちしております」


40
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:53:44 ID:CG33jvDA
僧侶「宿屋、宿屋~♪ 勇者さま、ガイドブックに山菜料理がお勧めと書いてあるし、あのホテルにしませんか?」

勇者「山菜かぁ。それじゃあ、そこに泊まろうか」

宿の主人「いらっしゃいませ。ご家族連れの方ですか?」

勇者「家族連れというより、勇者なんだけど」


俺はそう言うと、王家の紋章を提示した。
これを使えば、勇者一行として支援を受けることが出来る。


宿の主人「エルグ王の紋章ですね……。少々お待ちください」

魔法使い「私たち、家族連れに見えるんだ」

僧侶「私たちが姉妹に見えるんじゃない? 兄妹で旅をしている人も多いしね」

魔法使い「そうなんだ」

宿の主人「お待たせしました。特別料金がお二人と、お連れの方が一人ですね。それでは、ご案内いたします」


41
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 20:57:43 ID:CG33jvDA
~部屋~
僧侶「いい部屋ですね、街を一望できますよ。あっ、お城も見えますね」

勇者「そうなんだ。ここは同盟国だし、そちらの王様にも挨拶しておこうか」

僧侶「はいっ」

魔法使い「あのー、私も勇者さまと同じ部屋なのですか? 普通は男性と女性は分かれるものかと……」


魔法使いちゃんが少し不満そうに言った。
気持ちは分からなくはないが、同じ部屋で我慢してもらうしかない。


勇者「フロントでの対応で気付いたと思うけど、魔法使いちゃんは正式な部隊メンバーじゃないから資金が出ないんだ。これから長い旅をする訳だし、お互いに信頼関係も築いていかないといけない。節約する必要もあるし、少し我慢して欲しいかな」

魔法使い「……障壁魔法!!」パァァ

勇者「えっ、何これ?」

魔法使い「光のカーテンです。こっち側は僧侶さんと私の部屋だから、勝手に入らないでくださいね♪」

勇者「あー、うん。それで納得するなら、別に良いか……」


42
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 21:04:37 ID:CG33jvDA
魔法使い「それでは、魔術書を探しに行ってきます」

僧侶「迷子にならないように気をつけてね」

魔法使い「は~い♪」


魔法使いちゃんはそう言うと、部屋を出て行った。


僧侶「勇者さま」スッ

勇者「うわぁ、びっくりした! このカーテン、向こうが見えないだけで普通に通れるのか」

僧侶「そうですよ。でも何度も出入りしたら、光の粒子が散って消えちゃいますけどね」

勇者「あの子が戻ってきたときに消えていたら、すごく怒られそうだね」


43
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 21:12:56 ID:CG33jvDA
僧侶「やっぱり連れてくるのは良くなかったですかねえ」

勇者「まあ、村長さんや本人の意向もあるし、僧侶さんは話し相手が出来てうれしいんだろ?」

僧侶「……はい。魔法使いちゃんがいてくれると、妹が出来たみたいでうれしいです」

勇者「彼女は年頃の女の子だし、多感な時期だから気難しいこともあるんじゃないかな。それは仕方ないよ」

僧侶「そうですね……」

勇者「とりあえず、俺たちも買い物に行っておこうか」

僧侶「はい」


44
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 21:20:32 ID:CG33jvDA
~街中・盗賊たち~
山賊A「親分、あいつっす! あの女魔法使いにやられたっす!」

盗賊「あいつって、どう見ても女子供じゃないか。そんなロリっ子にやられたのかい?」

山賊B「それがいきなり爆発魔法で攻撃されまして……」

盗賊「情けないねえ。子供の女魔法使いなんて、児戯に等しいだろ」

山賊A「それがどうやら、あの歳で勇者一行のメンバーみたいなんす」

盗賊「なるほど、エルグの国が動き出したのか。もし勇者一行なら、王家の紋章を持っているはずだ」

山賊B「そうですね。あの小娘を捕まえて、勇者をおびき出しますか?」

盗賊「いや、まずは宿を突き止めてくれ。俺はもう一人の女の職業を調査してくる」

山賊A「了解っす!」

盗賊「気配消去魔法」スサッ


45
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 22:17:22 ID:CG33jvDA
~街中~
山すその街の中心部は、川が分岐して中州になっている。
そこにある公園を歩いていると、僧侶さんがふいに話しかけてきた。


僧侶「勇者さま。私たちが泊まっているホテルからすべての橋を一度だけ通って、街の観光とお城への訪問をして、再びホテルに戻ることは出来ると思いますか?」

勇者「それって、一筆書きの問題?」

僧侶「はい。さっき部屋から街並みを見ていて、一筆書きで行けるかな~と思いまして」

勇者「うーん、出来ないかな。気に入ったお店には何度も行きたいから!」

僧侶「あぁ、そっか。私たちに一筆書きは出来ませんね」フフッ

勇者「それで、答えは何なの?」

僧侶「観光マップを見てみたけど、あの橋だけは渡れないみたいです。街から外れるので、行く必要はないですけどね」

勇者「ふうん、そうなんだ」


46
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 22:38:47 ID:CG33jvDA
僧侶「ところで、一筆書きと言えば『ケーニヒスベルクの橋の問題』が有名ですよね」

勇者「それって、どんな問題?」

僧侶「ケーニヒスベルクの街を流れているブレーゲル川に、七本の橋が架けられています。その七本の橋を二度通らずに、すべて渡って元の場所に戻って来ることが出来るか――。そのような問題です」

勇者「何だか、聞いたことがあるな。それって、出来ないんだよな」

僧侶「そうです。でも実は、すべての橋を渡って、元の場所に戻ってくる方法があるんですよ」

勇者「まさか川を泳ぐとか言うんじゃないだろうなあ」

僧侶「いいえ、違います。少し考えてみてください」


47
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 22:49:07 ID:CG33jvDA
勇者「分かった! 新しい橋を架ければいいんだ」

僧侶「新しい橋を架けると、七本の橋ではなくなってしまうじゃないですか……」

勇者「それもそうだな。じゃあ、答えは何なんだ?」

僧侶「川の上流を目指して歩いて、源流をぐるっと迂回するんです」

勇者「街から出たら駄目だろ」

僧侶「でも、『街を出てはならない』という条件はないですから。この答え、面白いと思いませんか?」

勇者「うぅん、そうかなあ……」


問題文を聞く限り、場所をケーニヒスベルクの街だけに限定しているように思える。
その街を出るのは、少し意地悪な気がする。


僧侶「この面白さに共感してもらえないなんて、勇者さまと一緒に旅をする自信がなくなりました……」

勇者「大げさだなあ」


48
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:01:25 ID:CG33jvDA
勇者「あそこのお店、溶けないアイスだって。食べてみようよ」

僧侶「はいっ! 溶けないのにアイスって、面白そうです」

勇者「食べ物の好みは合いそうだね」

僧侶「そうかもしれないですね」


店頭で売り子に声をかけ、俺たちは溶けないアイスを注文した。
そして渡されたそれは、想像を絶する食べ物だった。
はっきり言って、マズイ!


勇者「あー、うん。まさか本当に溶けないとは思わなかった」ゲンナリ

僧侶「ですよね……。なんだか、いつまでもジャリジャリしている気がします」ショボン

勇者「これはもう、アイスじゃなくて砂だよな。まあ、こういう経験も観光の醍醐味かな」

僧侶「そうですね。地元の人、食べているのでしょうか」

勇者「外は寒いし、食べるのは観光客くらいじゃないか。とりあえず、気を取り直して道具屋に行こうか」

僧侶「はい。感冒薬を調合しないといけないし、いくらか購入しておきましょう」


49
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:14:58 ID:CG33jvDA
道具屋「いらっしゃい。何にするんだい?」

僧侶「薬草を5束と聖水を3本ください」

道具屋「全部で150Gだ。他に何か買っていくかい?」

勇者「他は特にないよな」

僧侶「勇者さま、この街の民芸品を見たいです」

勇者「僧侶さんが見たいなら、別に良いよ」

道具屋「民芸品かい? うちでは、こういうものが有名だよ」

僧侶「へえ~、この街は組み木細工が盛んなんだ。木の温もりって、ナチュラルだから良いですよね」

道具屋「お嬢さん、分かってるねえ。うちは都だけど、山すそで川もあるから、昔から林業が盛んなんだ」

僧侶「そうらしいですね。ここの木材は品質が良いと聞いています。あっ、その組木パズルが欲しいです!」

道具屋「よしっ、今日は特別に値引きしてあげるよ」

僧侶「ありがとうございます♪」


50
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:28:16 ID:CG33jvDA
~勇者の部屋~
僧侶「いい買い物ができましたね」ルンルン

勇者「それ、経費で落とすつもりなの? 王様、怒らないかな」

僧侶「大丈夫♪ 私たちには必要なものですよ」


僧侶さんはにこりと微笑んだ。
魔王討伐の旅にパズルが必要だなんて、聞いたことがないぞ。


僧侶「何ですか、その呆れた顔は。グリズリーの一件も、15パズルが関係していたじゃないですか」

勇者「まあ、確かにな」

僧侶「そ、そういうことだから必要なんです。決して、私の趣味ではありませんから//」


どうやら、そういうことらしい。


51
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:42:24 ID:CG33jvDA
魔法使い「勇者さま、僧侶さん。ただいまです~」

勇者「魔法使いちゃん、お帰り」

僧侶「魔術書は何か面白いのが見つかった?」

魔法使い「精霊魔術関連の研究論文がいっぱいありました。僧侶さんが喜びそうな魔法医学の本もありましたよ」

僧侶「そうなんだ。明日、お城に行って挨拶をしたら、帰りに本屋さんに寄りましょうか」

魔法使い「はいっ♪」

トントン

勇者「どうぞー」

宿の主人「勇者さま、夕食の準備が整いましたがいかがなさいますか?」

勇者「ありがとう。温かいうちに食べさせてもらうよ」


52
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:45:24 ID:CG33jvDA
~宿屋・盗賊たち~
襲撃をするための調査が終わり、盗賊たちは宿屋の視察にやってきた。
どの宿を利用しているかによって、プランが変わってくるからだ。


山賊A「どうやら、ここが勇者たちの宿みたいっす」

盗賊「勇者一行なら金銭が潤沢にあると考えていたが、安価な宿に泊まっているんだな」

山賊B「でも、おかげでやりやすいですよね」

盗賊「そうだな。お前たち、人が一番無防備になるのはいつか分かるか?」

山賊A「宿にいるときっす」

盗賊「いや、欲求を満たしているときだ。食欲、排泄欲、睡眠欲、性欲。だからこそ地位の高いものは、食事に毒を盛られるのを恐れ、枕を高くして眠ることが出来なくなる」

山賊B「仲間に女僧侶がいる時点で、毒は効果がないと思います」

盗賊「……だろうな。だから、俺たちは寝込みを襲撃する」


53
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/01(火) 23:53:04 ID:CG33jvDA
山賊A「寝込みっすか?」

盗賊「やつらは今日、山を越えたばかりだ。相当、疲労しているはずだろ」

山賊B「そうですね」

盗賊「だからまず、全員で女子供を拘束して無力化する。そして気配を消したまま、勇者の寝込みを襲撃する」

山賊B「なぜ、女が先なんですか?」

盗賊「この国が派遣した先発隊を見て分かるとおり、勇者とは言ってもただの衛兵のはずだ。ならば、俺たちにとって恐ろしいのは剣術よりも精霊魔法だ」

山賊A「確かに、爆発魔法でのされたっす」


54
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 00:05:34 ID:qtvigy82
盗賊「それでだ、寝込みとはいえ魔法対策をしなければならない。相部屋の場合は、破魔の腕輪を使って女僧侶と女魔法使いの魔力を封印する」

山賊A「えぇっ! それって、今あるお宝でも高価なものじゃないっすか!」

山賊B「そうです! 口を塞げば、詠唱できないはずです! もったいないです!」

盗賊「そんな考えだから、山賊からスキルアップできないんだよ、お前たちは」

山賊AB「ぐぬぬ……」

盗賊「いいかい、王家の紋章にはそれだけの価値があるんだ。元を取れるなら出し惜しみをせず、ベストの状態で戦える作戦を考えろ」

山賊AB「了解っ!!」


55
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 20:16:11 ID:qtvigy82
~勇者の部屋~
僧侶「お肉と山菜の煮物、味付けが絶品でしたね♪」

勇者「ふきのおひたしも、だしを吸ってて美味しかったな~」

魔法使い「勇者さまと僧侶さんは、いつも食べ物の話ばっかりですね」

僧侶「だって、おいしかったじゃない。ねえっ」

魔法使い「勇者さま、今日はもう疲れました。眠たいです……」ネムネム


魔法使いちゃんはそう言うと、小さくあくびをした。
彼女はまだ子供だし、慣れない旅で疲れも溜まっているだろう。
旅の計画を話し合いたいと思っていたけれど、今夜はもう休んだほうが良いかもしれない。


勇者「慣れない旅が初日から山越えだったからな。疲れているだろうし、今夜はもう休もうか」

魔法使い「……はい」

僧侶「それじゃあ、魔法使いちゃん。一緒にお風呂に入ろっか。ここは温泉があるんだって♪」

魔法使い「そうなんですね。僧侶さん、一緒に行きましょう」


56
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 20:22:14 ID:qtvigy82
~宿屋・盗賊たち~
夜が深まり、盗賊たち四人は勇者が泊まっている宿屋に向かった。
外から見る限り、部屋の明かりはすべて消えている。


盗賊「勇者たちはもう寝静まったようだな。お前たち、行くぞ!」

山賊ABC「了解!」

盗賊「気配消去魔法! 良いか、見えなくなったり物音を消せるわけじゃないから、絶対に油断するなよ」


盗賊は山賊たちに忠告すると、忍び足で宿屋に侵入した。
そしてフロントから宿泊者台帳を盗み出し、勇者の部屋を割り出した。


山賊A「相部屋みたいっすね」

盗賊「ならば、プランAだ。女僧侶と女魔法使いの魔力を封印しよう」

山賊B「分かりました」


57
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 20:28:05 ID:qtvigy82
盗賊(よし、ここだな。お前たち、中に入るぞ!)


開錠スキルで錠を外し、ゆっくりとドアを開ける。
そして中に入ると、光のカーテンで部屋が二つに仕切られていた。
部屋がほのかに明るいおかげで、効率よく襲撃して家探しが出来そうだ。


山賊B(よく寝てますね。こっち側が、女の部屋みたいです)

盗賊(女の装身具は絶対に触るなよ。どんな魔法が込められているか分からんからな)

山賊C(分かっております)

盗賊(よし、女の口を塞げ!)


58
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 20:32:05 ID:qtvigy82
僧侶・魔法使い「?!」

盗賊(魔法は使わせないっ!)


女僧侶と女魔法使いを押さえ込み、二人に破魔の腕輪を装備させた。
すると魔力を吸われていることに気付いたのか、女魔法使いが暴れ始めた。


魔法使い「むぅむぅ!」ジタバタ

山賊C(こら、暴れるな)ボスッ

魔法使い「むぐぅ……」


山賊Cが一発殴ると、女魔法使いは大人しくなった。
その一方で、女僧侶は事の成り行きを静観している。
何かを企んでいるのか、それとも何も出来ないのか――。

恐らく後者だろうと、盗賊は考えた。
女僧侶とは、治癒や状態異常を回復する魔法しか使うことの出来ない落ちこぼれなのだ。
念のために魔力を封印しているが、厄介なのは女僧侶よりも女魔法使いだろう。


盗賊(気配消去魔法! これで女たちが発する恐怖心も、勇者に気取られん。死にたくなければ、大人しくしてろ!)


59
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 21:09:31 ID:qtvigy82
山賊C(親分、腕輪が壊れました)

盗賊(よしっ、魔力を吸い尽くしたようだな。勇者を襲撃するぞ!)


その言葉と同時、女僧侶が勇者に何かを投げつけた。
それがどこかに当たったらしく、女部屋に勇者の声が響く。
気配消去魔法で気配を消しているということは、盗賊たちに対しても気配を気取られにくいということだ。
余計なことをされると、面倒が増えることになる。


山賊B(おい、お前。今、何をしたんだ!)ガスッ

僧侶「むぅっ……」

山賊C(大丈夫です。まだ俺たちには気付いていません)


盗賊は念のために、隣で寝ている勇者の様子を窺った。
どうやら目が覚めたらしく、しきりに女部屋を気にしているようだ。
しかし右手に何かを持っているので、うかつに攻撃するわけにはいかない。


盗賊(お前たち、プランBに変更だ。女を連れ出せ!)

山賊A(了解っす!)

魔法使い「むぅむむぅ……」


60
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 21:16:15 ID:qtvigy82
~勇者の部屋~
勇者「……痛っ」


気持ちよく寝ていると、頭に衝撃を感じて目が覚めた。
身体を起こして辺りを見ると、枕元に僧侶さんが買った民芸品が落ちていた。
どうやら、これを投げつけてきたらしい。

はぁ、今日は寝相が悪いなあ。
俺はそう思いつつ、女性部屋を見遣った。


勇者「僧侶さん、起きてるんですか?」


声を掛けてみたが、返事はない。
まあ、寝ているのなら当然かもしれない。

そう思ったが、ふと違和感を感じた。
二人の気配がないのだ。
気になって女性部屋を覗き見ると、荒らされた跡があった。


61
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 22:27:00 ID:qtvigy82
勇者「しまった! 女を狙った人売りか!」


僧侶さんと魔法使いちゃんが攫われた。
さらに、武器や鎧も盗まれている。
この街に来る途中で山賊に遭遇したが、街の中まで治安が悪いとは考えてもいなかった。

しかし、何かが引っかかる。
俺たちがここに来たのは今日のことなので、人売りが周到な計画を立てていたとは考えにくい。
恐らく、この近辺を縄張りにしている山賊たちによる報復なのだろう。

それならば、どこかにアジトがあるはずだ。
俺はそう思い、防寒具を着て部屋を飛び出した。


62
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 22:27:00 ID:qtvigy82
~郊外~
二人はどこに連れて行かれたのだろう――。
そう考えて、街の外れに行く橋があることを思い出した。
もし山賊たちがアジトを構えるならば、人気のない郊外を選ぶはずだ。
そこに行けば、何か手掛かりが見つかるかもしれない。
他には当てがない訳だし、まずは郊外に行ってみることにした。

橋を渡ると家屋がまばらになり、少し寂れて廃屋が増えてきた。
どうやら、これらの廃屋を覗いて回るしかないようだ。


シュッ……


そう考えると同時、闇から鋭利な刃が伸びてきた。
俺は反射的に仰け反り、突き出されたダガーをかわす。


勇者「ぐっ!」

盗賊「上手く避けたな。やはり、さすがは国の衛兵ということか」


63
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 22:46:24 ID:qtvigy82
勇者「何者だ!」

盗賊「俺は盗賊だ」

勇者「盗賊? 女二人を攫ったのはお前か!」

盗賊「ああ、そうだ。王家の紋章を渡せば、二人は返してやる」

勇者「王家の紋章? お前みたいな人売りが、何に使うつもりなんだ」

盗賊「紋章を複製し、衛兵を襲う。そうすれば戦争が始まり、国が争う。その混乱に乗じて市場を握れば、莫大な利益を独占することができるって寸法だ。さあ、大人しく紋章を渡しやがれ!」

勇者「それを聞いて渡すわけがないだろ!」


そう言いつつ、俺は周囲の気配を探った。
近くに仲間が潜んでいる様子はなく、盗賊以外には誰もいない。
そうと分かれば、こいつから聞き出すのが手っ取り早い。


勇者「二人はどこだ!」

盗賊「どうやら、交渉は決裂のようだな。では、お前を殺した後でゆっくり探すとしよう」


64
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:08:57 ID:qtvigy82
盗賊はそう言うと、おもむろに歩み寄ってきた。
その自然な体運びは殺気を感じさせず、警戒心すら抱かせない。
そして気が付くと、腹部へとダガーを突き出されていた。


勇者「なにっ?!」


すんでの所で身を翻し、左腕でダガーをいなす。
そして、盗賊へと拳を繰り出した。
しかし避けられてしまい、近距離からダガーを突き出される。
それはわき腹を掠め、防寒具が赤く濡れた。


盗賊「勇者ってのは、この程度の体裁きも受けられないのかい」

勇者「こんな奴、初めてだ……。動きを読めない」


65
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:13:23 ID:qtvigy82
それもそのはずだった。
戦いでは攻める側も受ける側も、相手の動きを見て一瞬の隙を探っている。
その一瞬の隙を見つけたとき、人はわずかに感情が変化する。

そう、殺気が高まる――。

しかし盗賊は、気配を隠す魔法を使って戦っている。
感情の変化を悟られることなく攻撃し、また反撃することができるのだ。
相手の感情を読むことが出来ないことは、必殺の一撃を捉えることが出来ないことに等しい。

ただでさえ、武器を持たない丸腰なのだ。
その状態で気配を隠している相手と戦うのは、さすがに分が悪い。


66
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:22:16 ID:qtvigy82
盗賊「おらおら!」


盗賊はダガーを鞘に収めて構え直し、斬撃を繰り出してきた。
俺は太刀筋に集中し、その攻め手をいなし続ける。
そして攻撃の手が休まったところで、強引に中段蹴りをねじ込んだ。


盗賊「くそっ!」

勇者「殺気を感じられないだけなら、キラーマシンと同じだな。しかし機械と違って、人間には一拍の間がある。それを見切れば、受けられないことはない」

盗賊「はははっ。さすがだよ、勇者。だけどな、俺を機械人形と同じだと思わないほうがいいぞ!」

勇者「何度やっても同じだ。諦めて二人の居場所を教えろっ!」

盗賊「加速魔法!!」ギュゥン


盗賊は瞬発力を強化し、一気に駆け出した。
その思いもよらない急激な加速に、俺は反応が遅れてしまった。
わき腹を斬られ、激しい痛みが襲い来る。


67
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:33:30 ID:qtvigy82
勇者「ぐあぁぁっ!」

盗賊「急所を狙ったつもりだったが、この状況でとっさにかわせるとはたいしたもんだ。そら、もう一丁!」シュシュッ


俺は痛みに耐えながらも、突き出されるダガーをいなし続ける。
しかし、身体がしびれて避けきれなくなってきた。


勇者「ぐっ! 何だ、そのダガーは……」

盗賊「どうやら、効いてきたようだな。こいつには特製のしびれ薬が塗ってある」

勇者「しびれ薬だと……」

盗賊「そうだ。残念だけど、お前とはもうお別れだな」

勇者「くそっ……」


68
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:41:26 ID:qtvigy82
盗賊はダガーを鞘に収め、再び構え直した。
そうすることで、しびれ薬が刃に塗られるのだろう。


盗賊「死ねっ! 加速魔法っ!」ドギュンッ


盗賊はさらに加速して、闇に紛れて迫り来る。
俺は全力で拳を放ち、渾身の一撃を盗賊の鳩尾に撃ち込んだ。


盗賊「がはぁっ……」

勇者「加速をすればするほど、自分への打撃のダメージも大きくなる。詰めを誤ったな」


盗賊は腹を抱え、そのまま崩れ落ちた。
そして俺は全身がしびれ、立っていることが出来なくなった。


69
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:47:31 ID:qtvigy82
~盗賊のアジト~
山賊BC「お、親分っ!」


盗賊のアジトから様子を窺っていた山賊たちは、盗賊が倒れて声をあげた。
まさか、丸腰の勇者に負けるとは思っていなかったのだ。


山賊B「くそっ、親分に加勢して勇者をやっちまうぞ!」

山賊C「おうっ!」

僧侶「行かせませんっ!」バッ


アジトを飛び出そうとする山賊たちの前に、僧侶が立ちはだかった。
それを見て、山賊たちは驚いた。
手足を縄できつく縛りつけたはずなのに、自由になっているからだ。


山賊B「お前、どうやって縄をほどいた!」

僧侶「えへへ、緩かったんじゃないですか?」ニコッ

山賊B「ちっ! 女僧侶なんて、しょせん落ちこぼれの小娘だ。やっちまうぞ!」


70
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/02(水) 23:52:42 ID:qtvigy82
僧侶「ふふっ、それはどうかしら? 即死魔法♪」

山賊B「ぐあああぁぁぁぁああっっ。や、やめてくれえっ……」


僧侶が即死魔法を行使すると、山賊Bはもがき始めた。
身をよじらせ、どさりと崩れ落ちる。
そして山賊Bは動かなくなり、全身が激しく痙攣し始めた。
すでに視線は定まっておらず、まったく生気を感じられない。
その衝撃的な光景に、山賊Cがおののいた。


山賊C「ひ、ひいぃぃぃっ」

魔法使い「む、むむぅっ……」

僧侶「今日、悪いことは止めるように言いましたよね。私、すごく怒っています。いっぱい、反省してくださいね」

山賊C「た、助けて。殺さないでくれ――」

僧侶「即死魔法っ!」ニコッ


71
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 19:39:46 ID:9tit5JYw
魔法使い「そ、僧侶さん。ふ、二人とも殺しちゃったの……?」


魔法使いは拘束を解いてもらうと、怯えたような表情で僧侶に話しかけた。
そんな彼女に対し、僧侶は笑顔を向けた。


僧侶「大丈夫よ、きつ~いお灸を据えてあげただけだから。殺めるということは、相手の未来の可能性を奪うことなの」

魔法使い「未来の可能性を奪う……ですか?」

僧侶「そうだよ。だけど、人も魔物も命で命が繋がっているでしょ。だからこそ、無益な殺生で命を無価値なものにしてはならないの」

魔法使い「無価値なもの……か」

僧侶「じゃあ、魔法使いちゃん。山賊たちが逃げないように手足を縛っておいてね。私は勇者さまを治癒してくるから」

魔法使い「は、はいっ」


72
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 19:40:54 ID:9tit5JYw
山賊たちを魔法使いに任せ、僧侶は勇者の下に駆け寄った。
勇者は腹部を斬られ、全身が麻痺して倒れている。


勇者「僧侶さん……、無事だったんだな」

僧侶「はい、魔法使いちゃんも無事です。ひどい怪我……。今から解毒をして、治癒しますね」

勇者「ありがとう」

山賊A「親分~。紋章、見つけたっすよ~」

勇者「ご苦労様。じゃあ、返してもらうよ」ニコ

山賊A「げっ、勇者っす……」


73
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 20:40:36 ID:9tit5JYw
~街中~
勇者「盗賊たちは番所に届けたし、一件落着だな」

魔法使い「あの、僧侶さん。ふと気になったんですけど、どうやって縄をほどいたのですか?」

僧侶「私は縄に使われている植物の組成を理解しているから、回復魔法の応用で破壊することが出来るの。それにあの程度の魔道具だと、魔力を空っぽにされる前に壊れちゃうしね」

魔法使い「じゃあ、いつでも山賊たちを倒すことが出来たんですか?!」

僧侶「まあ、そうなるかな。だけど、山賊たちが気配を消す魔法を使っていたから、他に仲間がいる可能性もあったわけだし――」

魔法使い「それじゃあ私……僧侶さんの足手まといになっていたんですね。熊退治を一度したくらいで思い上がっちゃって、私、私……」

勇者「俺と僧侶さんは、王様に仕えるために修行をしてきた。だから、未熟な魔法使いちゃんとはレベルが違う。策にはまって簡単に魔力を空っぽにされるようでは、足手まといになるに決まってるだろ」

魔法使い「うわあああぁぁん……」

僧侶「勇者さま、それは言いすぎです!」

勇者「でも才能があると確信したから、キミを連れて行くことを了承したんだ。まだ一緒に来るつもりがあるなら、僧侶さんからいろいろ学んで経験を積んでほしい」

魔法使い「勇者さま、私、もっと頑張ります。一緒に行きたいです……」

僧侶「魔法使いちゃん、宿に戻りましょう」


74
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 20:45:32 ID:9tit5JYw
~勇者の部屋~
僧侶「私たちの荷物は大丈夫みたいだけど、勇者さまの荷物は部屋中に荒らされてますね」

勇者「魔道師の装身具は危ない物も多いから、警戒したんだろ。はぁ、まずは片付けか」


着替えや道具、食料などなど。
旅袋に入れていたものが、部屋中に散らかっている。
ちなみに旅袋は転移魔法を応用した魔道具になっていて、たくさんのものが入る。


勇者「この民芸品は僧侶さんのだな。頭に投げつけてきたやつ」

僧侶「あわわ、頭に当たったんですか?! でも、狙い通りです!」

魔法使い「狙い通りって……」クスクス


75
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 20:54:19 ID:9tit5JYw
僧侶「そうだ、魔法使いちゃん。組木パズルは、みんなの絆を表しているんだよ」

魔法使い「みんなの絆……ですか?」

僧侶「はい。ただの木の球体に見えるけど、実はここのパーツが抜けるんです。そうしたら可動域が増えるから、次々とパーツが外れるようになるの」


そう言うと、僧侶さんは次々とパーツを外していった。
見る見るうちに、球体をしていた組み木がバラバラになっていく。


僧侶「私がいて、魔法使いちゃんがいて、勇者さまがいて……」

僧侶「街の人がいて、王様がいて、みんなで世界を支えているんです。だから絆を失い、誰か一人でも欠けてしまうと、全部のパーツがバラバラになって世界を支えることが出来なくなってしまうの」

勇者「絆のパズル……か。これも神の遺産なの?」

僧侶「今、思いつきました」ドヤッ

勇者「即興かよ!」


76
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 21:07:43 ID:9tit5JYw
魔法使い「あの、勇者さま。このカーテン、外そうと思います」

勇者「年頃の女の子だし、別に無理はしなくていいんだよ」

魔法使い「また襲われたときに気付いてもらえないと怖いし、その、勇者さまや僧侶さんとの絆を大切にしていきたいから……」

勇者「そうだね、絆を大切にしていこう。それで、僧侶さんはカーテンがなくて大丈夫?」

僧侶「私は大丈夫です。魔法使いちゃん、カーテンを外しましょうか」

魔法使い「はいっ」


魔法使いちゃんが障壁魔法を解除すると、光のカーテンは霧散した。
彼女との仕切りがなくなり、心の壁が取り払われたのだ。


魔法使い「勇者さま、僧侶さん。改めてよろしくお願いします」ペコリ


77
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 21:20:04 ID:9tit5JYw
魔法使い「それじゃあ、私もお片付けを手伝いますね!」

勇者「ありがとう。とりあえず、分別することから始めようか」

魔法使い「分かりました」


魔法使いちゃんはそう言うと、書物の整理を手伝ってくれた。
その一方で、僧侶さんはバラバラにした組木パズルと格闘している。


魔法使い「あれ? この本は……」

勇者「あっ! ちょっと待って」

魔法使い「え、エッチな本です// 火炎魔法!!」ゴーーッ

勇者「だあああっ、家から持ってきたお宝本がぁ!」

僧侶「あれっ?! 組み木がバラバラになったまま戻せません~」


78
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 21:25:04 ID:9tit5JYw
・・・
・・・・・・
魔法使いちゃんにエッチな本が見つかり、三人で作戦会議を開くことにした。
その話し合いにより、障壁魔法で男女別々に更衣室を作ることが決まった。
そして、新しいエッチな本を買っても良いことになった。


僧侶「ゆ、勇者さま。エッチなことをなさるときは、私たちがいないときにお願いしますね//」

魔法使い「そ、そうです! エッチな本は、私たちがいないときに読んでくださいね//」プンスカ

勇者「すみません。ご理解、感謝します……」ペコペコ

僧侶「ところで、いやらしい書物も経費で落とすのですか? 王様、怒りませんかねえ」

勇者「大丈夫! 俺たちには必要なものだよ」キリッ

魔法使い「はわわ……//」


79
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/03(木) 21:30:09 ID:9tit5JYw
第2話 おわり

(一筆書き)
・ケーニヒスベルクの橋の問題

(組木パズル)
・12パーツ、球体


勇者「ドーナツの世界?!」第3話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第3話

81 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 19:56:31 ID:F8nr.j7M
第3話 命の作り方
~山すその街~
山すその街に来て、1ヶ月が過ぎた。
未だにこの街に留まっているのは、勇者さまがこの国で公務をすることになったからだ。

その関係で時間を持て余した私は、勇者さまの推薦で国家魔道師から指導を受けられることになった。
最初の頃はレベルが違いすぎて大変だったけれど、今では訓練メニューに付いていくことが出来る。
それはこの国で働く女魔法使いとして、最低限の実力を備えたことを意味していた。

こうして充実した毎日を過ごしている訳だけど、ひとつだけ悩んでいることがある。
しかし、それをなかなか言い出せないでいた。
そしてまた一日が終わり、私は僧侶さんと温泉に行った。


82
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:19:54 ID:F8nr.j7M
~女湯~
魔法使い「何だか、すっかり居付いちゃってますね」

僧侶「そうだね。でも山菜は美味しいし、温泉は広いし、医学書にも困らないし、良いこと尽くめだよ~」

魔法使い「そうですよね。実は今日、帰り道に僧侶さんが言ってたアイスを食べてみたんです」

僧侶「ええっ、あれを食べたの?!」

魔法使い「あれ、冷たい砂ですね……」

僧侶「でしょ、でしょっ!」

魔法使い「あれは駄目です!!」

僧侶「ガマラ砂漠をイメージしてたらしいけど、あれは失敗だよね」


83
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:23:54 ID:F8nr.j7M

魔法使い「ところで、勇者さまは今夜はエッチなことをなさっているのでしょうか?」

僧侶「わわっ、まさかの猥談?!」

魔法使い「そんなつもりじゃないです」アセアセ

僧侶「今さらだけど、私たちが一緒にお風呂に入るのは、そのためだよ」

魔法使い「で、ですよね……」

僧侶「だから、今日は一人でしているんじゃないかな//」

魔法使い「でもそれをしたら、いつもゴミ箱にその……終わった後のものが捨ててありますよね。それがどうしても嫌なんです」


私は勇者さまのおかげで、精霊魔法の指導を受けることが出来ている。
そのことは、とても感謝している。
だけど、それとこれとは話が別だ。


84
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:30:33 ID:F8nr.j7M
魔法使い「僧侶さん。勇者さまがエッチなことをしないように、禁止してしまうことは出来ないでしょうか?」

僧侶「何かに悩んでいるのは気付いていたけど、そのことだったんだ」

魔法使い「……はい。私、エッチな本を許すことが、そういう行為を許すことだなんて思いも寄らなかったんです。一人でしているだなんて気持ち悪いので、もう止めてほしいです」

僧侶「でもそれを禁止すると、勇者さまだけが我慢をすることになるんじゃないかな」

魔法使い「今は、私たちが我慢しています!」

僧侶「勇者さまも我慢をして、私たちを気遣ってくださってますよ」

魔法使い「私には、そうは思えません」

僧侶「でも、魔法使いちゃんは知らないでしょ。宿の奥様の計らいで、私たちが避妊具を受け取っていることを」

魔法使い「ええっ、避妊具ですか?!」

僧侶「そうだよ。それをずっと知らないでいられた事は、勇者さまが魔法使いちゃんを気遣ってくれている証拠にならないかなあ」


85
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 20:35:18 ID:F8nr.j7M
勇者さまと僧侶さんが避妊具を受け取っている。
そんなことは一言も話してくれなかったので、全然知らなかった。
もしかして、二人はそんな関係だったのだろうか。

そう思い、私はまじまじと僧侶さんの身体を見た。
豊満な胸と女性らしい曲線が、大人の魅力を感じさせる。
その身体は、すでに勇者さまを受け入れたことがあるのかもしれない。


魔法使い「あの、もしかして僧侶さんと勇者さまは――」

僧侶「私たちは、魔法使いちゃんが考えるような関係じゃないから」

魔法使い「そ、そうなんですね」


86
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:39:05 ID:F8nr.j7M
僧侶「それに私たちが避妊具を受け取ったとき、勇者さまは『信頼を失うようなことはしない』とおっしゃいました。本音では私と交わりたいのかもしれないけど、それを気取られないように努力してくださっています」

魔法使い「そんなこと、全然知らなかったです……」

僧侶「だから私は、勇者さまが信頼できる人だと思いました。殿方には必要なことだし、気付いていない振りをしてあげることは出来ませんか?」


男性にはエッチなことが必要だというのは、まったく理解できない。
だけど知らない場所で大人のやり取りがあり、それを知らないままでいられたことは大切にされている証拠なのかもしれない。


魔法使い「分かりました、もう少しだけ我慢します。男の人と暮らすのは、とても難しいですね」

僧侶「ありがとう。それでも我慢できなかったら、いつでも相談してね」

魔法使い「はいっ……」


87
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:41:05 ID:F8nr.j7M
~部屋~
僧侶「勇者さま、ただいまです」

魔法使い「……ただいま」


私たちは部屋に戻ってきて、ドアを開けた。
玄関部分には障壁魔法で目隠しを作り、玄関から中が見えないようにしている。
僧侶さんは『来客者に部屋を見せずに応対するため』だと説明していたけれど、本当は『私たちが帰ってきたときに、勇者さまがエッチなことをしていたら気まずいから』だと言っていた。
僧侶さんは勇者さまの性的な部分について、我慢ではなくて配慮をしているのだ。


僧侶「勇者さま、居ないみたいだね」

魔法使い「そうですね」

僧侶「じゃあ、部屋に入りましょうか」


88
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:43:50 ID:F8nr.j7M
魔法使い「そ、僧侶さん。やっぱり、今夜はエッチなことをなさっていたみたいです//」

僧侶「そういうことが苦手なら、ゴミ箱の中を見なければ良いのに」クスクス

魔法使い「だって、それはその――」

僧侶「じゃあ、ゴミ箱に布をかぶせましょ。こうすれば中が見えなくなるから、あまり気にならなくなるんじゃないかな」

魔法使い「そういえば、家のゴミ箱も布をかぶせているものがありました。それって、こういう意味だったんですね」

僧侶「じゃあ、それでいい?」

魔法使い「はい、そうします」


89
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:53:35 ID:F8nr.j7M
魔法使い「ところで、僧侶さん。避妊具って、どのようなものなんですか?」

僧侶「あー、そうか。話しちゃったもんね……」


そう言うと、僧侶さんは旅袋から避妊具を取り出した。
小袋がたくさん連なっていて、それを一つ切り離す。
そして小袋を破ると、中身を出して見せてくれた。


魔法使い「こ、これですか//」

僧侶「そうそう。これを勃起した殿方の陰部に乗せて、くるくるっと下ろしながら被せていくの。そうすれば、射精された精液を溜められるようになるでしょ」

魔法使い「そうやって使うんだ……//」


私は避妊具を受け取り、巻いてある部分をくるくると解いてみた。
すると、想像していた以上の大きさになってびっくりした。
そしてこれが、勇者さまの陰部と同じ大きさなのだ。
そう思うと、何だか恥ずかしくなってきた。

だけど、どうして男性はエッチなことをするのだろう。
こんなものまで用意をする意味が分からない。


90
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 22:56:57 ID:F8nr.j7M
魔法使い「……」ちらっ

僧侶「な、何?」アセアセ

魔法使い「僧侶さんは、『命を殺めることは未来の可能性を奪うことだから、無益な殺生で命を無価値なものにしてはならない』と言ってましたよね」

僧侶「そうだね」

魔法使い「だけどその、勇者さまがなさっているエッチなことや避妊することは、未来の可能性を奪っていることにはならないのでしょうか? 男性が女性の中で出すと、赤ちゃんが出来るんですよねえ」

僧侶「ん~、何て言えば良いのかなあ。命を繋ぐことと、命を宿すことは違うことなの」


僧侶さんは一冊の書物を取り出した。
それは神に仕える女僧侶らしく、創世神話の書物だった。
かなり古い神話で、精霊神話の前史に当たるものだ。


91
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:12:35 ID:F8nr.j7M
僧侶「えっとね、女性が新しい命を宿して出産するためには、約十ヶ月の妊娠期間が必要でしょ」

魔法使い「はい」

僧侶「だから子孫を増やしたい殿方は、妊娠期間中に別の女性と交わって命を宿せるように、いつでも射精できる身体を神様から与えてもらったの」

魔法使い「えっ、ひどい!」

僧侶「うん、ひどいよね。だから愛する殿方だけを受け入れたい女性は、どうすれば良いか考えました」

魔法使い「女性は何をしたのですか?」

僧侶「女性は神様に頼んで、一ヶ月に一度だけ命を宿すことが出来る身体にしてもらったの。そのせいで殿方は、女性がいつ命を宿せるのか分からなくなりました」

魔法使い「もしかして、それが生理なんですか」

僧侶「そうそう。月経は神様から与えてもらったものなんだよ」

魔法使い「へえ、知らなかったです」


92
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:20:53 ID:F8nr.j7M
僧侶「じゃあ女性に月経が来るようになって、殿方はどうしないといけなくなったと思う?」

魔法使い「いつ命を宿せるか分からないので、同じ女性と何度も交わらなければならなくなったと思います」

僧侶「そうなるよね。すると殿方は、一人の女性と交わっているうちに愛する心が芽生えたの」

魔法使い「男性が女性を愛するまでに、そのような神話があったんですね。なんだか面白いです」

僧侶「そこで終わればいい話だけど、まだ続きがあるんだよ。一人の女性を愛するようになった結果、殿方はどうなってしまったと思う?」

魔法使い「えっ、どうなってしまったのですか?!」

僧侶「いつでも射精できる身体を持て余すようになってしまったの」


93
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:27:35 ID:F8nr.j7M
魔法使い「あっ……。だから男性は、一人で射精しなければならなくなったんだ!」

僧侶「そういうことです。だけどそればかりでは、愛する殿方が浮気をしてしまうかもしれないでしょ。本来は、別の女性と交わるために与えてもらった身体なんだから」

魔法使い「……そうかも」

僧侶「だから妊娠しない方法を考えて、二人の愛情を深め合うために殿方を射精させるようになったの。その方法のひとつが、この避妊具なんです。これを使えば殿方と交わることが出来るし、他にも色んな方法があるんだよ」

魔法使い「お……大人の世界ですね。でも、それが男女が愛し合うということなんだ//」

僧侶「今話した神話が、魔法使いちゃんの疑問への答えになってますか?」

魔法使い「つまり神様から与えてもらった身体の仕組みだから、必ずしも未来の可能性を奪っていることにはならない、ということですか?」

僧侶「うん。宗教によって違いはあるだろうけど、私はそう考えているの」


94
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/04(金) 23:41:56 ID:F8nr.j7M
魔法使い「勇者さまが頻繁に一人でなさるのは、相手がいないのに射精しなければならないからなんですね。何だか、神話を知るとすごく面白いです」

僧侶「そうでしょ。その言い方だと、悩み事も少しは解決した感じ?」

魔法使い「……はい//」


私は今まで、勇者さまが一人でエッチなことをするのは汚らわしいことだと思っていた。
しかし、それにはちゃんと理由があったのだ。
神様から与えてもらった身体の仕組みならば、それを理解してあげたいと思う。


魔法使い「僧侶さんのおかげで、男性の性欲を理解できました。愛し合うことがどういうことかも分かったし、勇者さまとの絆をもっと深めていきたいです」

僧侶「魔法使いちゃん。新しい命を宿すのは素敵なことだし、私たちも愛し合える殿方と出会って授かりたいものですね」

魔法使い「はいっ!」


95
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 20:49:50 ID:lv8KAiIc
勇者「二人とも、何を読んでるの?」

僧侶・魔法使い「!!」ビクッ


突然声がして、私たちは驚いた。
私は手に持っていた避妊具を慌てて隠し、勇者さまを見遣る。


僧侶「えっと、創世神話の書物を読んでいました」

魔法使い「そ、そうです」


バレてないよね?!
何だか気恥ずかしくて、ドキドキが止まらない。


勇者「二人は相変わらず勉強熱心だな。魔法使いちゃん、頑張ってね」

魔法使い「は、はいっ//」アセアセ


96
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 20:52:50 ID:lv8KAiIc
僧侶「ところで、勇者さま。そこのゴミ箱なのですが、今後は布をかぶせることにしました」

勇者「えっ、なんで?」

僧侶「その……私事ですが生理の日が近くて……。性的なことって、お互いにあまり見られたくないじゃないですか」アセアセ

勇者「あぁ、そっか。気が回らずにすみません」

僧侶「魔法使いちゃんもそれでいい?」

魔法使い「えっ? あっ、はい……」


目配せをされて、私は慌てて頷いた。
悩み事が解消したことを知っているから、クッションを挟んで暗に伝えてくれたのだ。
こうして、僧侶さんはいつも気配りをしてくれている。
そんな僧侶さんを見て、私もそうありたいと思った。


97
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:17:52 ID:lv8KAiIc
勇者「話を変えるけど、そろそろ二人に話しておかないといけないことがあるんだ」

僧侶「話しておかないといけないことですか?」

勇者「今週でこの国での公務が終わるだろ。その後ここの都を出て港町に向かうわけだけど、草原を抜けたら砂漠を横断することになるんだ」

僧侶「魔法使いちゃんのことを考えると、夏の砂漠は避けたいですよね。草原を抜けて赤道を越えると、季節が夏になりますから」

勇者「かといって、草原と砂漠を迂回をすると熱帯雨林を通ることになるんだ。集落はあるだろうけど、街を拠点にしながら旅をすることが難しくなると思う」


勇者さまはそう言うと、世界地図と気候区分の世界地図を広げた。
私はそれらの地図を覗き込み、まじまじと見比べた。
この街を東に進めば、気候が厳しい場所を避けて海辺の街に行くことが出来そうだ。
しかしその場合は、温帯とはいえ冬の山岳地帯を越えることになる。
豪雪の可能性もあるし、そこを行くのは無理かもしれない。


98
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:22:13 ID:lv8KAiIc
僧侶「熱帯雨林は伝染病も心配ですよね。治癒魔法では治せないし、街を拠点に出来ないのは危険だと思います」

勇者「だったら、砂漠を行くしかないな」

僧侶「そうですね。この経路を通れば、砂漠を十日くらいで越えられそうです。その後は、大河を船で下るのですか?」

勇者「ああ。川を下って、海に出るつもりだ。草原や砂漠には街があるから、それを拠点にしながら進めば子供がいても無理なく行けると思う」

僧侶「勇者さまは、夏の砂漠の横断経験はありますか?」

勇者「この国とは同盟関係だし、その関係で何度か遠方訓練をしていたから提案したつもり」

僧侶「そうなんですね。じゃあ、そうしましょう」


どうやら、砂漠を通ることに決定したようだ。
砂漠を通るなら、たくさんの水が必要になるはずだ。


魔法使い「あの、私は水精霊の魔法を使えますよ!」

勇者「そうだね、期待してるよ」

魔法使い「はいっ!」


99
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:29:29 ID:lv8KAiIc
~草原~
勇者さまの公務が終わり、私たちは山すその都を後にした。
次の目的地である港町は、草原と砂漠を越えた場所だ。
かなり遠い場所にあるので、野営をしながら南下していくことになる。

私にとって、連日の野営は初めての経験だった。
食事や睡眠、トイレの方法。
戸惑いや羞恥心がたくさんあったけれど、慣れるしかない。
気候は南下するにつれて温暖になり、途中で経由する街に着くたびにほっとした。

そして山すその都から二十日ほどが過ぎ、ようやく草原の街にたどり着いた。
この次は砂漠まで街がないので、ここで砂漠を横断するための装備を整える必要がある。
水や食料はもちろん、日差しと砂の侵入を防ぐローブも購入しなければならない。
夏の砂漠は、それほど厳しいらしい。

ちなみに、この街の名産品はもっちりした小麦だ。
僧侶さんが街の人から聞きだした有名店で食べたパスタは、スパイシーなソースが程よく絡んで美味しかった。


100
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:36:43 ID:lv8KAiIc
~ガマラ砂漠~
草原を抜けると、次第に足元が砂へと変わってきた。
灼けた砂と厳しい日差しが、砂漠を歩く者をじりじりと焦がす。
さらに熱風が砂を巻き上げ、容赦なく吹きつける。
それは子供に対しても遠慮をしてくれない。

カランカラン。
カランカラン――。

私が着ているローブには、木製の鈴が付けられている。
いわゆるカウベルだけど、女性用のローブに着けることを前提とした、おしゃれなデザインの物だ。
それが歩くたびに、カランカランと大きな音が鳴る。

カランカラン。
カラン、カラ……ン――。

テンポよく鳴っていた鈴の音が、少し遅れて鳴った。
厳しい日差しと熱のせいで、確実に体力を奪われている。


101
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 21:51:21 ID:lv8KAiIc
勇者「少し休もうか」

魔法使い「私はまだ歩けます……」カラコロ

勇者「だめだ、もう日が高い。日が傾いたら、また歩こう」

魔法使い「……はい」

勇者「魔法使いちゃん、こっちにおいで」


勇者さまは座り込み、右腕を上げてローブを広げた。
日差しと熱風をさえぎることの出来る場所は、その中だけだ。
私は気恥ずかしさを感じつつも、勇者さまに身体を預けることにした。


勇者「ほら。恥ずかしがらずに、もっと隣へ」

魔法使い「……はい//」カラン


102
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 22:12:54 ID:lv8KAiIc
僧侶「勇者さま。一度、魔法使いちゃんに水の魔法を見せてもらいませんか?」

魔法使い「水の魔法ですか?」

僧侶「ええ。私たちの中で精霊魔法を専門にしているのは、魔法使いちゃんだけですし」

勇者「そうだな。見せてもらっておこう」

僧侶「じゃあ、この水筒を満タンに……」サッ

勇者「まさか、一本目を全部飲んだのか?!」

僧侶「のどが渇いたので、つい。でも、空っぽはこれだけです」アセアセ

勇者「はぁ、僧侶さんを注意深く見てないといけなかったのか」


103
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 22:12:54 ID:lv8KAiIc
魔法使い「じゃあ、やってみます。水精霊召喚!!」


水精霊を召喚すると、空気中の水分が凝縮した。
その水を制御し、水筒に注ぐ。
勇者さまはそれを持ち上げると、ちゃぷちゃぷと振ってみた。


勇者「う~ん、グラス半分くらいかな」

魔法使い「すみません。砂漠がこんなにも水精霊の力が弱まる場所だなんて、思いも寄らなかったです……」

僧侶「そんなこと無いよ。この半分が貴重なんだから」ゴクゴク

勇者「僧侶さん、また飲みすぎだって……」

僧侶「魔法使いちゃん、ありがとう」


104
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:28:45 ID:lv8KAiIc
~ガマラ砂漠・深夜~
僧侶「勇者さま、まだ起きていたのですか? 魔物の気配もありませんし、お身体に障りますよ」

勇者「そうだな。それにしても、魔法使いちゃんはすごいよ。この乾燥した砂漠で水を出せるとは、正直思ってなかった」

僧侶「そうですよね。並みの魔道師なら、水一滴すら出せないと聞きます。私も試してみたけど、魔法使いちゃんのようには出来ませんでした」

勇者「僧侶さん、精霊魔法を使えるんだ」

僧侶「精霊魔法が使えるとは言っても、水と風だけですけどね。魔法医学を極めるには、精霊魔術の知識も必要なんです」

勇者「そうなんだ。じゃあ、僧侶さんはあえて女賢者にならなかったのか」

僧侶「そうですよ。女賢者に比べると、待遇面で不利になることが多いですけどね」

勇者「まあ、女僧侶って治癒魔法しか使えないイメージだしな」

僧侶「よく言われます。でも、勇者さま――」


それならば、どうして私と二人旅をしようと思ったのですか?
そう聞こうとして、僧侶は言いよどんだ。


勇者「んっ?」

僧侶「いえ、何でもありません。勇者さまも早く寝たほうが良いですよ。おやすみなさい」

勇者「ああ、僧侶さん。おやすみ」


105
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:32:35 ID:lv8KAiIc
~砂漠の街~
砂漠を歩き始めて五日が過ぎたところで、ようやく街が見えた。
街にはオアシスがあるはずなので、身体を休めることが出来そうだ。


魔法使い「勇者さまぁ、やっと街に着きましたね!」カランカラン

勇者「魔法使いちゃん、よく頑張ったね。砂漠はここで折り返し地点だよ」

魔法使い「まだ折り返し地点かあ。でも、草原から歩きっぱなしだったことを思えば楽勝ですね」

勇者「そうだな、もう楽勝だな」

魔法使い「ところで、僧侶さん。ここの名物はタジン鍋ですよね」

僧侶「そうそう、オオトカゲの肉とたっぷりの野菜! ヘルシーで美味しいらしいよ」

魔法使い「オオトカゲの肉ってはじめてです」

僧侶「私もだよ。楽しみだね~♪」

勇者「二人とも、鍋は逃げないから先に宿を探そうか」


106
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:41:28 ID:lv8KAiIc
~宿~
勇者「ローブを着ていても、体中が砂まみれだな」

魔法使い「あの、ここにはシャワーなどはないのでしょうか?」

勇者「近くにオアシスがあるから水は豊富だけど、それでも貴重な資源なんだ。今から水を買ってくるから、濡れタオルで身体を拭くといいよ」

魔法使い「あっ、水が豊富にある場所なら、買わなくても精霊魔法を使えますよ」

僧侶「街でそのようなことをするのは、ずるいんじゃないかな。皆さん、井戸で水を買っているのですよ」

魔法使い「そ、そうですね……」

勇者「では、行ってきます」

魔法使い「待ってください、私も一緒に行きます」カランカラン


107
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:55:57 ID:lv8KAiIc
魔法使い「砂漠の街でも、いろいろな食べ物が売られているんですね」

勇者「環境は厳しいかもしれないけど、草原の街や港町からキャラバンが物資を運んでくるから。夏じゃなくて春や秋に来れば、もっと賑わっていたと思うよ」

魔法使い「そうなんだ。ちょっと遅すぎましたね」


春や秋ということは、キャラバンたちも暑い夏は避けているのかもしれない。
この暑さの中、大量の物資を運ぶのは大変なのだろう。
そう考えながら歩いていると、いつの間にか水屋に着いていた。
店主と警備員の男性が、二人で井戸の前に立っている。


魔法使い「こんにちは、お水を買いに来ました!」カランコロン

水屋「お嬢さん、こんにちは」

勇者「すみませんが、勇者割引は使えますか?」

水屋「エルグ王の紋章ですね。こんな季節に来られるとは、さぞ大変だったでしょう」

勇者「まあ、任務ですから」

水屋「キャラバンも避ける季節に横断とは、ご苦労様です。水代は半値でお売りできますが、いかがなさいますか」

勇者「じゃあ、その20リットルの容器に1本、お願いします」

水屋「1本ですね。ありがとうございます」


108
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:57:57 ID:lv8KAiIc
~部屋~
魔法使い「僧侶さん、ただいまです」

勇者「ただいま」

僧侶「お帰り。街はどうだった?」

魔法使い「思っていたより、いろいろな物が売られていました。ついでに、タジン鍋が美味しい店も聞いておきましたよ」

僧侶「そうなんだ。さすが、魔法使いちゃん」

魔法使い「それじゃあ、私は身体を拭こうと思います」

勇者「水は大切に使ってくれよ」

魔法使い「はい、障壁魔法!」


私は手桶に水を入れ、障壁魔法を展開した。
そして衣服を脱ぎ、濡れタオルで砂を拭き取った。
最初は首回りや肩だけかと思っていたけれど、細かい砂は胸部まで入り込んでいるようだ。

スキンケアもしないといけないし、きれいに拭き取るのは大変だな――。

そう思いつつ、私は身体に付いた砂を丁寧に拭き取っていく。
そして土精霊の魔法で取り除いてしまえば良いと気付いたのは、着替えが終わった後のことだった。


109
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/05(土) 23:55:57 ID:lv8KAiIc
~部屋・翌朝~
トントン

宿の主人「勇者殿、おはようございます」

勇者「おはようございます。朝食ですか?」

宿の主人「いえ、勇者殿に客人が訪ねて来られています」

勇者「客人? 今、開けますね」ガチャ

――「おはようございます。水売りの店主から聞いたのですが、あなたがエルグの国の勇者ですかな?」

勇者「そうですが、どなたですか?」

富豪「おぉ、これは失礼。私はこの街一番の成金で、富豪という者です」

勇者「富豪さんですか。それで、こんな朝早くに一体どのようなご用件でしょうか」

富豪「実は娘が病に臥しまして、勇者殿ならば治すことが出来るのではないかと思い、ここに訪ねたしだいです」


110
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 00:02:45 ID:PiCE.oRw
勇者「申し訳ありませんが、我々は医師ではありません。お引取りください」

富豪「お連れの方に女僧侶がいらっしゃるはずです。この街の医師では、もう治せんのです。どうか、一度診ていただけないでしょうか。謝礼ならば、いくらでも払います!」

僧侶「勇者さま、お話だけでも聞いてみませんか」

富豪「ぜひ、お願いします。そちらのお嬢さんが、女僧侶ですよね」


富豪さんはそう言うと、私に期待の眼差しを向けてきた。
その思いも寄らない言葉と視線に戸惑い、私は慌てて言葉を返す。


魔法使い「私は女僧侶ではなくて、女魔法使いですよ」アセアセ

僧侶「あの、私が女僧侶です」

富豪「それは大変申し訳ありません。水売りから、女僧侶は少女だったと聞いていたもので……」

僧侶「それでは、病気の娘さんの所に案内していただけますか」

富豪「おお、娘を診ていただけるのですね。ありがとうございます」


111
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 10:10:41 ID:PiCE.oRw
~富豪邸~
勇者と僧侶は、病気の娘がいる富豪邸に向かった。
そして案内された部屋に入ると、年頃の娘がベッドに臥していた。


僧侶「この娘さんですね」

富豪「そうです。娘よ、こちらの方が昨日話していた僧侶殿だ」

娘「ゼイゼィ、僧侶……ゲホッゲホッ……さま」

僧侶「ひどい熱、それにこの炎症は――。治癒魔法!」

娘「ゼイゼイ……、スゥスゥ」

富豪「おおっ、娘の呼吸が楽になった。娘、娘ぇっ!」

僧侶「あ、あのっ」

富豪「僧侶殿、ありがとうございます!」


112
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 10:38:22 ID:PiCE.oRw
僧侶「富豪さん。申し訳ありませんが、私ではこの病を治すことが出来ません。炎症を治癒したので治ったように見えますが、また再発するでしょう」

富豪「そんな、やはり駄目なのか――」

僧侶「すみません。私たちが持っている薬草を処方出来ればと考えていたのですが、その病にはあまり効かないのです。抗菌作用が極めて強い薬草があれば治せるのですが、キャラバンは秋まで来ないですよね」

富豪「……はい。治癒魔法では完治させられないのですか?」

僧侶「私たち僧侶は、対象とする生物の組成や毒物の構造を理解することで、治癒魔法や解毒魔法を行使することが出来ます。特に治癒魔法は一般的に人を対象としているので、組成を理解していない生物や、生物ではないものには魔法の効力が届かないのです」

富豪「つまり、魔法が効かない何者かが娘に取り付いているせいで、完治させることが出来ないということですか?」

僧侶「おっしゃる通りです。そして、そのウイルスを選択的に攻撃して治癒させるために、先ほども言いました薬草が必要なのです」


113
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 10:42:59 ID:PiCE.oRw
執事「旦那さま。やはり泉に行って、薬草を摘んでくるしかないのではないでしょうか。どなたに診せても、薬草と答えるばかりです」

富豪「しかし、あそこは魔物が出るようになった。今は誰も近づけんぞ」

執事「ですがこの方々は、エルグの国の勇者殿一行ですよ」

富豪「おお、そうだったな。勇者殿、ぜひ薬草を摘んできてはくれないだろうか」

勇者「それは構いませんが、魔物とはどういうことですか」

富豪「ここ半年ほど前から、街の近くの泉で屍が襲ってくるようになったのです。それで討伐隊を雇って向かわせたのですが、未だに解決の糸口が見えておりません」

勇者「屍が襲ってくる?」

富豪「私は見ていないので何とも言えませんが、そのように報告を受けております。報酬を上乗せしますので、そちらの調査もお願いできますか」

勇者「分かりました」


114
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 11:14:31 ID:PiCE.oRw
~オアシス~
僧侶「この辺りは野菜畑になっているみたいだね」

魔法使い「ここで街に必要な薬草を育てれば良いのに……」カランカラン


私は疑問に感じつつ、辺りを見回した。
この周辺は野菜畑が区画されていて、砂漠とは思えないくらい青々と成長している。
薬草が不足しているなら、ここで育てればいいのだ。


勇者「畑で作物以外のものを育てると、自給率が下がるだろ。薬草は自生しているものだし、薬師相手でない限り栽培する農夫は少ないよ」

魔法使い「そうなんですね」

勇者「畑を抜けると、富豪さんが言っていたポイントだ。薬草が摘めるのはその先だから、気を引き締めて行こう」

僧侶・魔法使い「はいっ」


115
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 11:18:55 ID:PiCE.oRw
シュシュシュシュッ!

野菜畑を抜けると、砂地から何かが飛んできた。
すかさず、勇者さまが剣を抜いて叩き落す。
そして何が飛んできたのか確認すると、それは動物の骨だった。


勇者「動物の骨?」


勇者さまが怪訝そうに言うと同時、砂の中から人間の骸骨が飛び出してきた。
それはカタカタと音を立て、まるで生きているかのように動いている。
しかもそれは一体だけではなく、次々と砂の中から湧き出してきた。
そして骸骨たちは、おのおの剣やヤリなどの武器を手にして隊列を組んだ。


僧侶「うそでしょ。まさか、本当に屍の魔物だったなんて……」

魔法使い「あの人たち、死んでるんですか。それとも、生きているのですか?!」

僧侶「骨だけなのに、生きているわけがないでしょ。こんなの不条理です!」


116
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 11:44:47 ID:PiCE.oRw
勇者「二人とも、来るぞ!」


その言葉と同時、一体の骸骨がヤリを構えて駆け出した。
勇者さまはその剣先を払い上げ、同時に切りかかる。
そして繰り出した斬撃で脊椎を吹き飛ばすと、骸骨はあっけなく崩れ落ちた。

それを合図に、ヤリを持った骸骨たちが一斉に駆け出してきた。
剣ではとても捌ききれる数ではない。


僧侶「防御魔法!!」


一時的に強化された鎧が、受け損じたヤリを受け止めた。
その間に、勇者さまが剣に風をまとわせる。
そして力強く斬り払うと、骸骨たちはカラカラと音を立てて崩れ落ちた。

するとその骨の山を飛び越えて、剣を構えた骸骨が勇者さまに切りかかった。
勇者さまは、それを剣で受け止める。
そしてつばぜり合いを繰り広げていると、倒したはずの骸骨たちが再び立ち上がらんとしていた。


117
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:01:47 ID:PiCE.oRw
勇者「こいつら、骨だけなのにどうやって動いているんだ……。倒しても復活するなら、切りがないぞ!」

僧侶「どうやって動いているのか興味深いですけど、人骨ならば破壊できます!」

勇者「人骨を破壊?」

僧侶「行きます……、破壊魔法!!」


僧侶さんが魔法を詠唱すると、骸骨たちがさらさらと粉になって風に舞った。
そしてあっという間に、わらわらと沸いていた骸骨たちはすべて飛散してしまった。


魔法使い「す、すごい……」

僧侶「人体の組成を理解しているから、回復魔法をちょっと応用するだけでこういうこともできちゃうの」

勇者「ある意味、魔道師で一番怖いのは女僧侶じゃないのか?」

僧侶「うふふ、実はそうかもしれませんよ」


118
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:10:11 ID:PiCE.oRw
魔法使い「それじゃあ、薬草を摘みに行きませんか。魔物の調査はもう終わりですよね」

僧侶「うん、そうだね。早く薬草を摘んで、娘さんの病気を治してあげましょう」

魔法使い「はいっ」

勇者「僧侶さん!」


骸骨たちを一掃して安心していると、勇者さまが唐突に僧侶さんに飛びついた。
そしてその勢いのまま押し倒し、僧侶さんに覆いかぶさった。


僧侶「えっ、ええっ?!」


その声と同時、僧侶さんが立っていた場所から砂塵が巻き上がった。
勇者さまが飛び掛かっていなければ、そのまま飲み込まれていたかもしれない。
そして標的を仕留めそこなった砂塵は、まるで竜のごとく意思を持っているかのように、勇者さまと僧侶さんに襲い掛かってきた。


119
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:18:11 ID:PiCE.oRw
勇者「魔法使いちゃん、攻撃っ!」

魔法使い「は、はいっ! 爆発魔法!!」


ドオォォーーーン!!

砂塵が爆発し、盛大にはじけ飛んだ。
そのせいで、舞い散った砂が大量に降り注いできた。


僧侶「ちょっと、魔法使いちゃん!」

魔法使い「わわっ! 疾風魔法!!」


私は慌てて強風を巻き起こし、落ちて来る砂を吹き飛ばした。
ふう、危うく砂まみれになるところだったわ。
そう思いつつ前髪をかき上げると、僧侶さんが不機嫌そうな顔になった。


僧侶「どんな魔法でも同じだけど、もう少し結果を考えてから使ってよね。そうでないと、さらに危険な状況になることがあるから」

魔法使い「ご……ごめんなさい」

僧侶「今度から気を付けてね」

魔法使い「はいっ!」


120
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:32:55 ID:PiCE.oRw
勇者「二人とも、まだだ! まだ魔物の気配は消えていないぞ!!」

魔法使い「えっ?!」


猛烈な砂塵が巻き上がり、今度は三つ首の砂竜が現れた。
しかもその砂竜は、骸骨たちが武器にしていた剣やヤリを取り込んで全身に携えている。
もし爆発魔法を使うと、全身の刃物が飛び交うことになりそうだ。


勇者「俺たちの攻撃パターンに合わせて、成長しているのか? こんな魔物は、今まで聞いたことがないぞ!」

僧侶「私も聞いたことがないです。もしかして、土精霊そのものが襲ってきているのでしょうか」

勇者「それだと、骸骨の説明がつかないだろ」


三つ首の砂竜が牙を剥き、鋼の刃を向けて襲い掛かってきた。
こんなの、なすすべがない。


勇者「させるかっ! 大地斬」


勇者さまが斬りかかろうと構えた瞬間、砂竜がヤリを飛ばしてきた。
それをかろうじてかわし、勇者さまが砂竜の首元に斬撃を加える。
しかし、砂の体はダメージを受けた様子がない。
射出したヤリも砂の中に沈んでいき、砂竜に回収されてしまった。


121
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 12:42:55 ID:PiCE.oRw
僧侶「魔法使いちゃん、砂竜を倒せないなら動きを止めることは出来ない?」

魔法使い「そうですね。考えてみます!」


そうは言ったものの、凍結魔法で拘束することは出来そうにない。
日差しが強すぎて、氷がすぐに溶けてしまうからだ。
砂竜の動きを止めるには、直接固めるしかないだろう。


魔法使い「土精霊召喚! 石化しろっ!!」


あらん限りの魔力を注ぎ込むと、砂竜が土となり石となった。
そして石像のように固まり、動かなくなった。


魔法使い「や、やった……」

勇者「魔法使いちゃん、よくやった! 今のうちに薬草を摘みに行こう。ここの魔物は危険すぎる」

魔法使い「はいっ」


122
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:20:19 ID:PiCE.oRw
~オアシスの丘~
砂地を抜け、野草が茂る丘にやってきた。
あの砂竜以外に新しい魔物が追って来ることはなかったし、落ち着いて薬草を摘むことが出来そうだ。


魔法使い「あれ……?」カランカラン


丘に足を踏み入れると同時、どこかから不思議な魔力を感じた。
これは確か、神の遺産に施されていた魔力と同じものだ。


勇者「どうかしたの?」

魔法使い「何だか、不思議な魔力を感じるんです。多分、裏山の洞窟で感じた魔力と同じだと思います」

僧侶「つまり、神の遺産があるということね」

勇者「じゃあ、それを探し出そう。あのとき、グリズリーは空間を越える能力を手にしていた。それと同じように、神の遺産が骸骨や砂竜に影響を及ぼしているのかもしれない」

僧侶「そうですね。魔法使いちゃん、探し出しましょう!」


123
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:37:56 ID:PiCE.oRw
魔法使い「多分、この辺りだと思うのだけど……。あ、ありました!」

僧侶「これはタングラムですね」


僧侶さんはそう言うと、タングラムを拾い上げた。
7片のピースが正方形の枠に収まっていて、それが透明のケースに入っている。
それを見て、勇者さまが不思議そうに言った。


勇者「タングラムは子供のおもちゃだろ。これも神の遺産なのか?」

僧侶「はい、子供のおもちゃですよ。だけど、タングラムは15パズルと同じで、実は神の遺産なのです」

勇者「全然知らなかった。じゃあ、これにはどんな意味が……」

僧侶「タングラムは大中小の三角形5片と、正方形が1片、平行四辺形が1片の計7片で構成されているパズルですよね。この7片には意味があって、木火土金水と太陽、月を表しているのです」

勇者「それって、もしかして占星術?」

僧侶「はい、そうです」


124
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:41:26 ID:PiCE.oRw
僧侶「占星術は人や国の運命、天変地異を予見するための魔術です。それを占うためには、人や世界を理解する必要があります。そしてそれは、占星術以外の魔術も同じなんです。だから様々なものを形作ることが出来るタングラムは、魔術の基本元素を学ぶおもちゃとして利用されることが多いのです」

勇者「なるほど……。それで、そのタングラムが要求していたシルエットは?」


タングラムは、指定されたシルエットの形を作って遊ぶパズルだ。
僧侶さんはケースを開けて、同封されていたカードを取り出した。


魔法使い「鋭角的だけど、これはハートのシルエットですね」

勇者「神の遺産的には、どういう意味なんだろう」

僧侶「きっと、魔術で新しい命を生み出そうという意味でしょうね。だから骸骨が生きているかのように動いたり、砂が命を持ったかのように襲ってきたのかもしれません」

勇者「なるほどな……。とりあえず、急いで薬草を摘んで街に戻ろう。あの砂竜が復活して、石化に対処して襲ってきたら面倒だ。そのパズルの魔力を解放するのは、宿に戻ってからにしよう」

僧侶「分かりました」


125
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:51:46 ID:PiCE.oRw
~富豪邸~
薬草を摘んで街に戻り、勇者と僧侶は富豪の邸宅に向かった。
魔法使いは一足先に宿に戻り、神の遺産を解いている。


勇者「富豪さん、ただいま戻りました」

富豪「おおっ、さすが勇者殿だ。大量の薬草をありがとうございます。それで、魔物のほうはどうでしたか」

勇者「動きを封じておきましたが、安全になったとは言いがたいです。そして関連性があるかは不明なのですが、魔力の宿った神の遺産を発見しました。そのため、それを解析しているところです」

富豪「魔力の宿った神の遺産ですか? 何か分かれば、追加で報告をお願いします」

勇者「了解しました」

僧侶「それでは、娘さんにこの薬草を煎じて飲ませてあげてください。炎症は治まっているので、三日ほどで完治させることが出来るでしょう。薬さえあれば、この街の医師でも変わらず治療することが出来ると思います」

娘「僧侶さま、勇者さま、本当にありがとうございました」

富豪「本当に娘を助けてくれてありがとうございました。これは現時点の謝礼です。魔物の件、追加報告をお待ちしております」

勇者「確かに受け取りました。娘さん、お大事になさってください」

娘「はいっ。私も勇者さまのご武運を祈っております」


126
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 19:56:39 ID:PiCE.oRw
~部屋~
勇者「魔法使いちゃん、ただいま~」

僧侶「ただいま♪」

魔法使い「お帰りなさい」

勇者「どう? そのシルエットは完成しそう?」

魔法使い「全然だめです。どうしても、ピースが余ってしまうんです」


二人が富豪邸に行っている間に、私はシルエット通りのハートを作ることが出来た。
しかし、平行四辺形のピースが余ってしまったのだ。
その後も試行錯誤を繰り返してみたけれど、やはり何らかのピースが余ってしまう。
7片をすべて使うという制約がある以上、これを解くことは不可能なのだ。


僧侶「タングラムパラドックスかな? 今度は私がやってみるね」

魔法使い「いいですよ。やってみてください」


127
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:12:55 ID:PiCE.oRw
魔法使い「あの、勇者さま。少し気になったことがあるんですけど、誰が何の目的で、このようなものを仕掛けたのでしょうか」

勇者「もしかすると、魔王が暗躍を開始したのかもしれないな」

魔法使い「でも、そのような者が仮にいたとして、なぜ砂漠の都に魔力を込めたタングラムを用意したのでしょうか」

勇者「どういうこと?」

魔法使い「15パズルが示していたドーナツ世界が目的ならば、砂漠に用事はないはずですよね。そもそも、15パズルを使って示唆する必要もないと思います」

勇者「それは魔王の存在を印象付けるためじゃないかな。言うなれば、恐怖させるためだ」

魔法使い「それならば、裏山の洞窟に落ちていた必然性がありません。砂漠でも同じでしたけど、無造作に落ちていたじゃないですか」

勇者「そうだけど、魔物が活発化していただろ。魔法使いちゃんの村では、グリズリーに困っていたじゃないか。副次的な効果かもしれないけど、村や砂漠の泉、そこに魔物が出現するだけで国は滅びてしまうんだ」

魔法使い「魔物の影響で国が滅びる――」

勇者「まだ二例目だし、分かっていないことが多い。極南の地を調査すれば、すべての答えがはっきりするだろうな」

魔法使い「そうですね……」


128
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:39:39 ID:PiCE.oRw
勇者「ところで、僧侶さん。魔術で命を作り出すことが出来ないなら、教会が蘇生魔法で死者を蘇らせることも出来ないんじゃないの?」

僧侶「ああ、それは違いますよ。蘇生魔法は新しい命を作る魔法ではなくて、生きようとする力を取り戻す魔法なんです」

勇者「生きようとする力を取り戻す?」

僧侶「はい。ですから、病気で亡くなった方や天寿を全うされた方、肉体の欠損が激しく死を受け入れてしまった方などは、教会でも蘇らせることは出来ません。それが運命だからです」

勇者「そうなんだ、それが蘇生魔法か……。僧侶さんは使えるの?」

僧侶「はい、もちろんです!!」

勇者「それは頼もしいね」

僧侶「でも実はですね、簡易な事例ならば魔法を使わなくても、心肺蘇生法という技術で誰でも蘇生術を行うことが出来るのです」

勇者「へぇ、魔法を使わずに蘇生か。興味深い話だね」

僧侶「勇者さまもぜひ教会の講習会に参加して、蘇生術を学んでみてください」


129
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:46:04 ID:PiCE.oRw
魔法使い「それで、タングラムは完成しそうですか?」

僧侶「これ、無理だね。他のハート型なら作れたけど、シルエット通りに作るとピースが余るみたい」

魔法使い「答えがないって、どういうことでしょうか」

僧侶「これがなければ、完成なのに……」


そう言いながら、僧侶さんは平行四辺形のピースを弄んだ。
親指と人差し指で挟んで持ち、くるくると回している。
何をやっているんだろうと思いつつ見ていると、僧侶さんは小さく笑った。


魔法使い「何か分かったんですか」

僧侶「このピース、点対称なのに重心が偏っているんです」

魔法使い「重心?」

僧侶「それがヒントだったみたい」

勇者「僧侶さん、もったいぶらないで教えてくれよ」

僧侶「うふふ// 勇者さま、ひらめきませんか?」


130
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 20:59:15 ID:PiCE.oRw
僧侶「魔術で新しい命を作り出すことは出来ません。なぜなら、命を宿すことが出来るのは女性だけだからです。殿方と愛し合い、そして結ばれて、私たち女性は新しい命を授かります。だから……」


僧侶さんはそう言いつつ、ハート型に組み替えたタングラムの上に平行四辺形のパーツを立てた。
それは、思いも寄らない発想だった。


僧侶「これを矢に見立てれば、ほらっ♪ ハートに矢が刺さって、とても素敵ではないですかぁ//」

勇者「いやいや、素敵とか関係なくて、重ねたらタングラムにならないだろ」

僧侶「でも、シルエット内に収まってますよ」


確かに、上から見るとシルエットに収まっている。
そう思った瞬間、ハートが輝き始めて魔力が解放された。


僧侶「えへへ、これが正解ですっ!」

勇者「マジか!! あの魔物たちはもう出現しなくなったのかな。明日の朝、確認しに行こう」

僧侶「そうですね。富豪さん、すごく喜びますよ」


131
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 21:10:54 ID:PiCE.oRw
私はタングラムを解いて喜ぶ僧侶さんを見詰めた。
そして、僧侶さんの言葉を思い出した。

僧侶『これを矢に見立てれば、ほらっ♪ ハートに矢が刺さって、とても素敵ではないですかぁ//』

その発想が私には出来なかった。
ルール的にだけではなく、感性的に思い付かなかったのだ。
それをすぐに思い付いた僧侶さんは、恋愛に憧れている女性なのかもしれない。
その対象は、勇者さまだったりするのだろうか。


魔法使い「恋愛のタングラム……か。私は――」チラリ

勇者「魔法使いちゃん、どうかしたの?」

魔法使い「い、いえ。何でもありません//」


132
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/06(日) 21:13:48 ID:PiCE.oRw
第3話 おわり

(シルエットパズル)
・タングラム
※ハート型のシルエット


勇者「ドーナツの世界?!」第4話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第4話

134 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 21:39:29 ID:cF/CTLzM
第4話 魔法はいらない
~港町~
タングラムの魔力を解放した翌朝、魔物が消えたことを確認した私たちは富豪さんに報告をして街を出た。
そして一週間ほど砂漠を歩き、ようやく港町に到着した。


魔法使い「大河って、すごいですね。川の向こう岸が見えないです!!」カランカラン

僧侶「あっ、あそこ見てみて。泳げるところがあるみたい」

魔法使い「本当だあ。砂まみれだし、川で泳ぎたいです!」カラン

僧侶「勇者さま、みんなで泳ぎに行きませんか」

勇者「いいねえ。でも、二人は水着を持ってるの?」

僧侶「あっ……。出発したときは冬でしたし、水着を持っていないです」

魔法使い「私も持っていません」

勇者「まあ、そうだよな……」


135
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 21:48:35 ID:cF/CTLzM
勇者「じゃあ、今日は準備をして、泳ぎに行くのは明日にしようか」

僧侶「それが良いですね。後で水着を買いに行ってきます」

魔法使い「僧侶さん、一緒に選びましょう!」

僧侶「そうだね、一緒に行こっか。勇者さまも、水着を準備しておいてくださいね♪」

勇者「了解っ。じゃあ、サクッと宿を決めようか」

僧侶「はい。ガイドブックによれば、あの宿は鯉料理が絶品だそうです」

魔法使い「草原に放牧しているヤギさんも名物ですよ」

勇者「ずっと干し肉ばかりだったからなあ。今夜は魚を食べて、明日は肉を食べに行こう!」

僧侶「新鮮なコイ、楽しみです♪」


136
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 22:47:34 ID:cF/CTLzM
~宿・女湯~
魔法使い「久しぶりのお風呂、気持ち良いな~」


砂漠にいたときは身体を洗うことが出来なかったし、街に行っても濡れタオルで拭くことしか出来なかった。
久しぶりの湯船は、本当に気持ちが良い。


僧侶「水が貴重な土地があれば、砂漠に囲まれながらも水が豊富な土地もある。何だか、考えさせられるよね」

魔法使い「そうですね。でも、なぜ砂漠の街の人は港町に引越ししないのでしょうか?」

僧侶「魔法使いちゃんも私たちと出会わなければ、エルグの村から出て旅をすることはなかったでしょ。それと同じじゃないかな」

魔法使い「そっか、そうかもしれないですね」


私が住んでいた村は物資が充実していない代わりに、川魚や白菜がとても美味しい。
そして砂漠の街は水が不便だったけど、タジン鍋がとても美味しかった。
周りの人には不便に見えても、そこに住んでいる人にしか分からない良さがあるのだ。
だから皆、生まれ育った場所で暮らしているのかもしれない。


137
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 22:56:56 ID:cF/CTLzM
僧侶「ところで魔法使いちゃんは、勇者さまのことをどう思ってるの?」

魔法使い「えっ……。そ、それは……//」


私はきゅんと胸が締め付けられた。
どう思っているのかと聞かれると、何だか答えるのが恥ずかしい。
すると照れていることに気付いたのか、僧侶さんがニヤニヤと笑みを浮かべた。


僧侶「ほら、魔法使いちゃん。山すその都にいた頃と比べて、勇者さまを見る目が変わったよね」

魔法使い「えっと、その……。山すその都にいた時は、一人でエッチなことばかりしているのを見て、嫌になっていました」

僧侶「そうだよね。あのとき、すごく悩んでいたもんね」

魔法使い「それで帰りたいって思っていたんだけど、僧侶さんのおかげで大切なことなんだと知ることが出来ました。最近は野営が続いてずっと一緒にいるけど、勇者さまは夜中にしているみたいで、それが何だか微笑ましく感じてしまうんです」

僧侶「そうなんだ。気持ちの余裕が出来た感じだね」

魔法使い「はい。それに砂漠ではたくさん気遣ってくれて、こうして無事に横断することも出来ました。私はそれをすごく感謝していて、今はまた勇者さまに憧れています//」

僧侶「そっか、憧れの人なんだ……」

魔法使い「私がそう思っていることは、まだ内緒ですからね//」


138
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:20:04 ID:cF/CTLzM
魔法使い「ちなみに、僧侶さんはどう思っているんですか?」

僧侶「わ、私っ?! 私が一緒に居るのは、仕事仲間だからだよ」

魔法使い「私にだけ言わせて、僧侶さんは誤魔化すんですか。そんなの、ずるいです」


私は僧侶さんに好奇の眼差しを向けた。
それに耐えかねて、僧侶さんは照れくさそうに口を開いた。


僧侶「何て言えば良いかな……。勇者さまって食べることが好きでしょ。そういうところが、一緒にいて気が合う人だなと思ってる」

魔法使い「一緒にいて気が合う人……か」

僧侶「うん。それに勇者さまは、魔法使いちゃんを連れて一ヶ月もの過酷な長旅を成功させたでしょ。もし子供が出来たら、勇者さまはこんな風に守ってくれるんだなと考えたら、いつの間にかそういう目で見るようになってしまって――」


その言葉を聞いて、僧侶さんは大人だなと思った。
まだ付き合っていないのに、子供が出来たときのことも考えている。
それが大人の恋愛なのかもしれない。


僧侶「こういう話をすると、少しのぼせちゃうね。そろそろ上がって、水着を買いに行きましょうか」

魔法使い「はいっ。私、負けませんからね!」


139
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:25:18 ID:cF/CTLzM
~街中~
魔法使い「港町って、お店がたくさんありますね」

僧侶「貿易の拠点になっている街だからね。きっと珍しいものがたくさんあると思うわよ」


その一言で、珍しいものを探すお店巡りが始まった。
ドレスや織物は色使いに文化を感じられたり、大河をモチーフにした装身具や小物も売られている。
この街は水を連想させる雑貨が多いようだ。


魔法使い「僧侶さん、これを見てください。ビンの中に船が入ってますよ」

僧侶「ほんとだ。えっ、どうやって入れたんだろ?!」

魔法使い「転移魔法ですかねえ」


140
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:26:18 ID:cF/CTLzM
雑貨屋「お嬢ちゃん方。これはボトルシップと言って、小さい部品を一つ一つビンの中で組み立てて作るんだよ」

魔法使い「えっ、すごいです! 転移魔法かと思いました!!」

雑貨屋「人間は魔法に頼らなくても、工夫をすれば色んなことが出来るものさ。どうだい、ひとつ記念に買っていくかい?」

僧侶「私たちは旅の途中なので、壊れやすそうなものは買えなくて……」

雑貨屋「それは残念だね。また帰りに寄っておくれ」

僧侶「はい、もちろんです」

魔法使い「次はどこに行きますか?」

僧侶「変わった雑貨を探すのも良いけど、そろそろ水着も探しましょうか。ちょうど、水着屋さんがあるみたいだし」

魔法使い「そうですね。どんな水着があるのか楽しみです。可愛い水着がいっぱいあると良いですよね~♪」


141
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:39:17 ID:cF/CTLzM
~水着屋~
水着屋さんに入ってすぐ、私は顔を赤面させた。
さまざまな商品が展示されているけれど、どれも下着のようにしか見えないからだ。
この地域の人は、本当にこんなものを着て川遊びをしているのだろうか。

もしかすると、エッチなお店に入ってしまったのかもしれない。
そう思って店を出ようとすると、店員さんがやってきた。


婦人「いらっしゃいませ。ここは素敵な水着が揃ってますよ」

魔法使い「あ、あの……。私が知っている水着は、ワンピースタイプの繋がった水着なんですが……。これって、どう見ても下着ですよねえ」アセアセ

婦人「もしかして、旅のお方ですか?」

魔法使い「はい」

僧侶「私たちはエルグ地方から来ました」

婦人「そうでしたか。この地域は砂漠に囲まれていますよね。だから、身体に付いた砂を洗い流すために、生地がどんどん小さくなっていったのです。この街では、ビキニタイプが普通なんですよ」

僧侶「そ、そうなんですね……。どうする? やめる?」

魔法使い「わ、私は挑戦します! ぶ、文化の違いを受け入れます」

僧侶「えぇぇっ!」


142
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:49:53 ID:cF/CTLzM
婦人「お年頃のお嬢様には、こちらのかわいい水着がおすすめです。ビキニタイプや、パレオの付いた水着など、オーソドックスなものが人気ですよ」

魔法使い「わわっ// 下着みたいだけど、どれもデザインが可愛いです」

僧侶「あ、あの、私は……」

婦人「そうですねぇ。適齢期の女性は、どなたもこちらの水着を着用します。お客様はバストが大きいので、それを主張させるためにV字水着やモノキニ、紐ビキニはいかがでしょうか。大変似合うと思いますよ!」

僧侶「これなんて、は、裸じゃないですかぁ。無理です、むりっ!」

婦人「では、こちらの溶ける水着はいかがでしょうか。生地が多いものもありますし」

僧侶「生地が多くても、溶けたら意味がないじゃないですかっ//」

婦人「とりあえず、お二人とも試着をなさってみてはいかがでしょう。見た目のイメージと違って、実際に着てみると印象が変わるかもしれませんよ」


確かにそうかもしれない。
試着させてもらえるなら、気になる水着を着てみよう。


魔法使い「じゃあ、私はこれを着てみたいです。僧侶さんも、試着くらいなら良いじゃないですか。試しに着てみましょうよ」

僧侶「……そうだね。店員さん、そのデザインの水着を着てみます」

婦人「どうぞどうぞ。ご自由にご試着なさってください」


143
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/07(月) 23:54:18 ID:cF/CTLzM
~部屋~
魔法使い「勇者さま、ただいまです」

僧侶「ただいま~」

勇者「二人とも、お帰り。街はどうだった?」

魔法使い「お買い物、楽しかったです」

僧侶「ねえ、まさか試着させてくれるとは思わなかったよぉ~//」

魔法使い「僧侶さん、途中から変なスイッチが入ってましたよね」


僧侶さんは新しい水着を試着するたびに、大事なところを隠す面積が小さくなっていった。
それなのに店員さんとデザインの話ばかりしていて、もう完全に雰囲気に飲まれているようだった。


僧侶「だって、一番魅力的なものが欲しいじゃない//」

魔法使い「それはそうだけど……」

勇者「何だか、二人の水着姿が楽しみだな」


144
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 00:12:30 ID:gqBAfkEc
僧侶「ところで、勇者さま。これを見てください」

勇者「えっ、ちょっ、何だよこれ!!」

僧侶「ボトルシップというものです」

魔法使い「んなっ、いつの間に買ったの?!」

僧侶「えへへ、帰りにふら~っと」

魔法使い「うわー。旅の帰りじゃなくて、買い物の帰りに買っちゃったんだ」

僧侶「だって、欲しかったんだもん」

魔法使い「でも僧侶さん、壊れやすそうなものは買えないって言ってませんでしたか?」

僧侶「ふふんっ、防御魔法を常時展開しておけば、船が壊れないことに気付いたの!」ドヤッ

魔法使い「あぁ、なるほど……」


145
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 00:17:45 ID:gqBAfkEc
勇者「それにしても、この船。ビンの口よりも大きいのに、どうやって入れたんだろ」

僧侶「ビンの中で、一つ一つ組み立てたそうですよ。他にもトランプが箱のまま入っているものがあったり、とても不思議でした」

勇者「へえ、面白いな」

僧侶「ですよね! ここの民芸品で、不可能物体や不可能ボトルと呼ばれるそうです」

勇者「不可能物体か……。この民芸品は、魔法がなくても工夫をすれば成し遂げられる。そんな事を教えてくれるのかな」

僧侶「はい。店の主人がそのようなことをおっしゃっていました。ビンの中に船を入れようだなんて、土地柄が現れていて素晴らしいですよね」

勇者「ちなみに、水着だけじゃなくてボトルシップも経費で落とすつもりだったりしないよな」

僧侶「水着は装備品です。ボトルシップは、私の趣味だから必要なものです!」

勇者「まぁ、いつものことか。ところで次の出立だけど、三日後に海を渡る客船が出るらしいんだ。それの予約を取ってきたから」

僧侶「三日後の船ですね、分かりました。それでは、鯉料理を食べに行きましょう♪」


146
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 00:26:38 ID:gqBAfkEc
~夕食~
部屋から大広間に移動すると、間もなく鯉料理が運ばれてきた。
鯉の洗いに鯉こく、鯉のから揚げとメインの塩焼き。
そして最後に、大皿の上に乗ったお刺身が運ばれてきた。


魔法使い「僧侶さんっ! この大皿のお刺身、鯉の口がパクパクしていますよ」

僧侶「それは活造りだって」

魔法使い「活造りですか……。生きたまま食べるなんて残酷だと思います」

僧侶「だよね……。私たちが殺めてから食べる料理でしょうか?」

勇者「いや、生きたまま食べるみたい」

魔法使い「食べようとしたら、暴れますよ! それに、私を見ているみたいです」ビクビク

僧侶「本当に生きたまま食べるのですか?!」

勇者「食べないなら、俺が全部食べてしまうから」

僧侶「ええっ、それはずるいです。鯉さん、命をいただきます」

魔法使い「い、いただきます……」


147
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 00:30:37 ID:gqBAfkEc
・・・
・・・・・・
魔法使い「一時はどうなるかと思ったけど、すごく美味しかったです」

僧侶「この地域の人は、毎日食べているのかなあ」

勇者「活造りは腕のいい職人しか作れない、最高のおもてなし料理みたいだよ。だから、特別な日にしか食べないんじゃないかな」

僧侶「えっ、ちょっと待って。それじゃあ、鯉専用の治癒魔法を施して調理しているわけではないんですか?!」

勇者「治癒魔法で半殺しにして食べるのは、それこそ残酷じゃないか」

僧侶「……ですよね。食文化にこれほどの違いがあるとは、とても驚きました」

勇者「少しでも新鮮なお刺身を食べたくて、活造りを考え出したんだろうな。人の食へのこだわりは、本当に留まるところを知らないな……」

僧侶「そうですね。明日も楽しみです♪」

魔法使い「僧侶さん。ヤギ料理を堪能できるように、たくさん泳いでお腹を空かさないとですね!」

僧侶「あはは、そうだね。水着も買ったし、明日はたくさん泳ぎましょ」

魔法使い「はいっ」


148
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 21:16:30 ID:gqBAfkEc
~河原(砂浜)~
次の日、私たちは遊泳広場にやってきた。
大河は川幅がとても広く、そのスケールの大きさにただただ圧倒されてしまう。
遊泳範囲が決められているとはいえ、思う存分に楽しめそうだ。
私と僧侶さんは急いで更衣室に行き、水着に着替えて勇者さまと合流した。


魔法使い「勇者さまぁ~」トテトテ

勇者「えっ、魔法使いちゃん?! それって……」


私の水着姿を見て、勇者さまは驚いた。
まさか下着のような水着を着てくるとは思っていなかったのだろう。
その視線は胸元に集中し、少し困っているようだ。
寄せて上げた胸を見られるのは恥ずかしいけれど、何だか気持ちがいい。


魔法使い「これはビキニという水着なんです。どうですか?」クルッ

勇者「か、過激すぎじゃないかな……」

魔法使い「この街では、これが控えめだそうです//」

勇者「そ、そうなんだ。可愛いと思うよ」

魔法使い「ありがとうございます。勇者さまも水着姿が凛々しいです//」


149
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 21:25:42 ID:gqBAfkEc
僧侶「あ、あのぉ//」

勇者「僧侶さん、何それっ!」


僧侶さんが声をかけると、勇者さまの視線が釘付けになった。
はにかんだ笑顔とは対照的な、扇情的でいやらしい水着姿。
ほとんどが紐のV字水着で、ボトムの紐はウエストを抜けてトップスに繋がっている。
もはや裸同然で、バストトップとIラインしか隠せていない。


僧侶「お店の方が、あぶない水着ばかり勧めてくださって……。その中でもこの極細スリングが特に巧妙で、胸元でクロスさせる着方も出来るんです。それがまた、すっごくセクシーなんですよ//」ポヨンッ

勇者「セクシーって言うより、エロすぎだろ!」

僧侶「だって、そういう水着ですから//」

勇者「分かったから、ちょっと一人にさせてくれないかな……」

僧侶「もしかして、興奮しちゃってますか?」

魔法使い「えっ、そうなんですか?!」

勇者「そ……そんな訳ないだろ」アセアセ

僧侶「魔法使いちゃん、川に逃げましょ!」

魔法使い「あはは、勇者さまのえっち~」


150
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 21:57:10 ID:gqBAfkEc
僧侶「魔法使いちゃん、いっくよ~!」ジャブジャブ

魔法使い「わわっ、冷たいっ」

勇者「いやあ、いいなあ// 本当にみんなエロ水着を着てるのか。あの娘はブラを着けてないし、ここはパラダイスだな!」

僧侶「勇者さま、どこを見てるんですか。全部、聞こえてますよ!」プンスカ

勇者「うわっぷ、水を掛けるなって」

僧侶「えいえいっ」ジャブジャブ

勇者「おおっ! それ、もう少しで見えそう//」

魔法使い「むかっ! 水精霊召喚、いっけ~!!」

勇者「いや、それはちょっと待て!」


ゴオォォォ・・・
ザバァァンッッ!!


勇者「うごぉぉっ……」げほっげほっ

僧侶・魔法使い「……」


151
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 22:06:44 ID:gqBAfkEc
勇者「おいっ、お前ら。覚悟は出来てるんだろうなあ」

魔法使い「僧侶さん、逃げましょう!」ダッシュ

僧侶「勇者さまぁ、捕まえてごら~ん♪」

魔法使い「捕まえてごら~ん」

勇者「くそっ、待ちやがれっ!!」


僧侶「うふふ……」ユサユサ

魔法使い「あははは」キャッキャッ


勇者「ほらっ、僧侶さん捕まえた。次は魔法使いちゃん」ぎゅっ

僧侶「いやぁん……捕まりました」

魔法使い「はあっ、楽しかった~」

勇者「あっ……//」


152
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 22:20:02 ID:gqBAfkEc
魔法使い「あわわ// 僧侶さん、見えちゃってますよ!」

僧侶「きゃああぁぁぁっっ」アセアセ

魔法使い「勇者さま、見ては駄目です!!」


私は慌てて勇者さまの背後に回り、両手で目隠しをした。
その間に僧侶さんが水着を直す。


僧侶「ねえ、見ました?」

勇者「いやっ、何も見てないから」

僧侶「お身体に変化があるようですが……。勇者さま、見ましたか?」

勇者「見ました」

僧侶「ま、まあ、今回は許してあげます。あまり、他の女の子ばかり見ないでくださいね」プイッ

勇者「僧侶さん、ごめん。ところで魔法使いちゃん、背中に胸が当たってるんだけど……」

魔法使い「す、すみません//」


153
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 23:06:59 ID:gqBAfkEc
魔法使い「僧侶さん、あまり激しい動きは止めたほうがいいですね。また脱げちゃいそうです」

僧侶「ふふっ、魔法使いちゃんは子供だね//」

魔法使い「えっ?」

僧侶「この水着は、殿方を興奮させるための水着なのよ。これで隠せるとは考えていないし、簡単に脱げてしまうのは当たり前だから」

魔法使い「……!!」

僧侶「でも水着がずれないようにしておかないと、思いっきり遊べないわね。やっぱり、勇者さまに見られたら恥ずかしいし……」

魔法使い「そうですよ。僧侶さんはここの雰囲気に飲まれすぎです!」

僧侶「それは魔法使いちゃんも同じでしょ。私も文化の違いを受け入れて、思いっきり楽しむことにしたの」

魔法使い「そう言われると私たち、すでに溶け込んでいますよね」

僧侶「そういうことだから、少し更衣室に行ってくるわね」


154
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 23:12:35 ID:gqBAfkEc
僧侶さんが更衣室に行き、私は勇者さまと二人きりになった。
そう、憧れの勇者さまと二人きり。
告白する勇気はないけれど、この機会に今までのお礼だけはしておきたい。
私はそう思い、勇者さまに話しかけた。


魔法使い「……あの、勇者さま//」

勇者「ん?」

魔法使い「この一ヶ月、特に砂漠ではありがとうございました。無事にここまで来ることが出来て、とても感謝しています」

勇者「魔法使いちゃんこそ、よく頑張ったと思うよ。それに俺は魔法使いちゃんと一緒に旅をしていて、笑顔でいてくれることがすごくうれしいんだ。いつもありがとう」

魔法使い「私も勇者さまと旅をするのが大好きです//」


私はそう言って、勇者さまに肩を寄せた。
そして少しはにかんだ表情で、腕を絡ませる。


勇者「ほら、恥ずかしいから、そんなにくっつかない//」

魔法使い「でも、砂漠ではもっと隣に来るように言ってましたよ」

勇者「いやいや、ここは砂漠じゃなくて砂浜だから!」


155
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/08(火) 23:19:58 ID:gqBAfkEc
魔法使い「実は私、山すその都にいたとき、すごく悩んでいました」

勇者「そのことは俺も気になっていたんだ。詳しいことは知らないけど、僧侶さんが相談に乗ってくれたんだろ」

魔法使い「はい、おかげで悩みは解決しました。僧侶さんのこと、優しいからすごく好きです」

勇者「まあ女僧侶だし、人を癒すことが仕事だからな。それで、どんなことに悩んでいたの?」

魔法使い「それは女の子の秘密ですよ// あっ、噂をすれば僧侶さんが戻ってきましたね」

勇者「そうみたいだな。しかも遠くから見たら、何も着てないように見えるし……」

魔法使い「勇者さまって、本当にエッチなことが好きですよね~」

勇者「ははっ……」

魔法使い「でも勇者さまのそういうところ、嫌いじゃないです。私の胸は柔らかいですか//」

勇者「そ、それはまあ女の子だし――」

魔法使い「ふふっ// 僧侶さ~ん、こっちこっち!」

僧侶「ただいま。もしかして、戻ってくるのが早かったとか?」

魔法使い「ううん、そんなことないです。感謝の気持ちを伝えていただけですから//」

僧侶「そうなんだ。じゃあ、そろそろお腹が空いてきたし、焼きそばを食べましょうか! 聞いた話では、定番の食べ物なんだって」

魔法使い「焼きそば、楽しみです♪」


156
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:01:48 ID:3SLPXBo.
お昼時ということもあり、『川の家』というお店はとても賑わっていた。
遊泳広場内にあるので、男女ともに水着姿の人が多い。
男性の視線が気になりつつ注文した焼きそばを待っていると、ものの数分で焼きそばが運ばれてきた。
ソースの香りが食欲をそそる。


魔法使い「これが焼きそばなんですね。あっ、キャベツが入ってますよ」

僧侶「魔法使いちゃん、苦手だったっけ?」

魔法使い「いえ……。今夜はヤギ料理だし、ふと川渡り問題を思い出しました」

勇者「川渡り問題?」

魔法使い「はい。狼とヤギ、キャベツを川の向こう岸に運ぶ問題です」

僧侶「ロケーションにぴったりだね。続き続き♪」


157
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:13:37 ID:3SLPXBo.
魔法使い「それじゃあ、問題を出しますね。僧侶さんはすぐ分かると思うので、勇者さまが考えてみてください」

勇者「分かった」

魔法使い「農夫がキャベツとヤギ、狼を運んでいます。その途中で、川に着きました。その川を渡るには、舟を漕ぐしかありません。しかしとても小さい舟なので、一種類ずつしか向こう岸に運ぶことが出来ません」

魔法使い「さて、農夫がいなければ狼はヤギを襲ってしまい、ヤギはキャベツを食べてしまいます。どうすれば、すべて向こう岸に運ぶことが出来るでしょうか?」

勇者「狼は檻に入れておくべきだし、キャベツも箱に入れておけば食べられないだろ」

魔法使い「それを言ったら、お仕舞いじゃないですか。魔物の事件にはパズルが関わっていたし、細かいことを気にせず考えてみてください」

勇者「そうだな。とりあえず、最初はヤギを連れて行くだろ。そして戻ってきて、キャベツを運ぶ。だけど、そのまま戻るとキャベツを食べられてしまうから、ヤギを連れて戻る。次は狼を連れて行って、最後にヤギを連れて行けば正解かな」

魔法使い「ピンポーン♪ それを期待してました。最短手順は7手です」

勇者「それくらいなら簡単だな」ドヤッ


158
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:20:09 ID:3SLPXBo.
僧侶「じゃあ、次は私から出題するね。浜辺にちなんで、カァカァと賑やかなからす算もいいけど、リンド・パピルスのパズルなんてどうかな」

魔法使い「おおっ、由緒正しいパズルじゃないですか!」

勇者「どんなパズルなんですか?」

僧侶「最古の数学パズルと呼ばれていて、算術の面白さを教えてくれるパズルです」

勇者「へぇ、算術の面白さか」

僧侶「それでは問題です。長いので、よく聞いてくださいね」

僧侶「この街には水着屋さんが7店舗あって、それぞれ7種類のあぶない水着を取り扱っています。各種類のあぶない水着は、それぞれ7人の美女に販売されました」

僧侶「その美女たちは家に衣装ケースを7箱ずつ持っていて、その衣装ケースにはそれぞれ7枚ずつエッチなランジェリーが入っています」

僧侶「さて、これらの数を合計するといくつになるでしょうか?」


159
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:23:42 ID:3SLPXBo.
魔法使い「ええ~っ、どうしてそんなアレンジをするんですか?!」

僧侶「勇者さまのいやらしい妄想が捗るかなって思って//」

魔法使い「確かに、そういうことが好きかもしれないけど……」

僧侶「それで勇者さま、答えは分かりましたか?」

勇者「単純に35じゃないんだよな」

僧侶「それだと数ではなくて、数字を足したことになります」

勇者「あぁ、そっか。7店舗のお店が、それぞれ7種類のあぶない水着を取り扱っているから、水着は49種類あるのか。その水着がそれぞれ7人の美女に販売されたから――」

僧侶「あっ、考え方が分かったみたいですね」

勇者「まあな。でもこの問題は、紙とペンがないと計算できないじゃないか」


160
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 00:25:17 ID:3SLPXBo.
僧侶「もし答えられたら、もう少しサービスしちゃいますよ//」

勇者「今日の僧侶さん、何だか乗り乗りだな!」


勇者さまはそう言うと、いやらしい視線を僧侶さんの豊満な胸に向けた。
バストトップしか隠しきれていない水着は、近くで見るとつんと立っていることが分かる。
それに気付いてにやけている勇者さまを見ていると、何だか気分がもやもやしてきた。


魔法使い「7店舗のお店がそれぞれ7種類の水着を取り扱っているから、水着は49種類あることになります。その水着はそれぞれ7人の女性に販売されたから、購入した女性は343人です」

魔法使い「そして衣装ケースは2401箱で、ランジェリーは16807枚あることになります。それらを足し算すると、合計19607です」

勇者「これは答えられないな。魔法使いちゃん、暗算が得意なんだ」

魔法使い「はい、7桁くらいまでなら楽勝です」

僧侶「じゃあ、サービスは魔法使いちゃんにしてあげないといけないわね」

魔法使い「な、何か分からないけど結構です。焼きそばを食べましょうよ」

僧侶「あはは、そうだね」


161
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 20:12:48 ID:3SLPXBo.
・・・
・・・・・・
焼きそばを食べ終えて雑談していると、外から悲鳴のような声が聞こえてきた。
大河で何かがあったらしく、人々の声がガヤガヤと騒がしい。
一体何があったのかと思って外に出ると、男性が勇者さまに話しかけてきた。


男「しびれくらげだ! 人が溺れているらしいから、今は近付かないほうがいい」

勇者「しびれくらげ?」

男「ああ、あんたたちは観光客か。そいつに刺されると、身体が麻痺して溺れてしまうんだ。普通は遊泳範囲に来ることはないんだが、魚を追って侵入してきたのかもしれん」

僧侶「それは大変ですね。勇者さま、私に出来ることがあるかもしれませんし、救助を手伝ってきます!」

勇者「そうだな、頼む」

魔法使い「あっ、待ってください! 私も行きます!」


162
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 21:39:07 ID:3SLPXBo.
僧侶「魔法使いちゃん、あそこみたいだね」

魔法使い「そうですね。私、女性を助けてきます!」

僧侶「助けるって、どうやって? 勝手なことをすると逆に――」

魔法使い「水精霊、風精霊召喚! 力を貸してください!!」


私は水の表面張力を操作し、風の力を利用して水面を駆け出した。
溺れている女性は少しずつ流されていて、なかなか距離が縮まらない。


魔法使い「もう少し頑張ってください!」


声を掛けると、女性が必死にこちらを向いた。
しかしたどり着く前に、女性は完全に痺れて沈んでしまった。


163
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 21:55:06 ID:3SLPXBo.
魔法使い「そんな……」


周辺には、しびれくらげの脚が伸びている。
水上に攻撃してくることはないみたいだけど、迂闊に水中に手を入れることは出来ない。

何とかして、しびれくらげを倒さないと!
私はそう思い、爆発魔法を行使しようとした。
しかし、慌てて詠唱を中断した。

こんなところで爆発を起こせば、女性を巻き込む恐れがあるだけではなく、巨大な波が砂浜を襲うことになる。
しびれくらげを倒すことが出来ても、さらなる惨事を招くだけだ。

だからといって、別の攻撃手段を考えてみても妙案は思い浮かばない。
水精霊の力を借りて攻撃すると、水流が変化して女性が遠くまで流されてしまう。
風の魔法は水面で砕けてしまうし、火精霊では女性も茹で上がってしまう。


魔法使い「どうしよう、しびれくらげを倒すことができない――」


164
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 22:03:47 ID:3SLPXBo.
どうするべきか分からないでいると、ライフセイバーが泳いでくるのが見えた。
それを見て、考え方が違うことに気が付いた。
今優先するべきことは、しびれくらげを倒すことではなくて女性を助けることだ。


魔法使い「水精霊、風精霊召喚!」


風精霊で水に溶け込んでいる空気を操り、水泡を発生させる。
そのあぶくに乗って、女性が浮かび上がってきた。
そして女性が沈まないように、水精霊で浮かび上がらせた。
これで普通に呼吸をすることが出来るはずだ。

しかしぐったりとしたまま、ぴくりとも動かない。
やがてライフセイバーが到着し、女性を抱えると砂浜から浮き輪が投げ込まれた。


165
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 22:25:42 ID:3SLPXBo.
セイバー「ぜぇぜぇ……。意識がないようだ、頼む」


救助された女性は意識がなく、砂浜に仰向けに寝かされた。
人々が集まり、不安そうに見つめている。


セイバー2「呼吸なし、脈なし。心肺停止を確認」

魔法使い「えっ、そんな!」

僧侶「私、蘇生魔法を使えますよ」


僧侶さんが名乗りを上げると同時、ライフセイバーは公衆の面前で女性にキスをした。
さらに女性の胸を触り、何度も押さえつけている。
そんなライフセイバーの行動を見て、私は困惑した。


魔法使い「キスをして何を……。えっ、ええっ?!」

女性「げほっ、げほっ……」

セイバー2「蘇生確認。急いで医務室に運んで、毒消しの準備を!」

セイバー「了解!」


166
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/09(水) 22:57:06 ID:3SLPXBo.
僧侶「あのっ、私はエルグの国に仕える女僧侶です。解毒魔法を使えます」

セイバー2「本当ですか! ぜひお願いします!」

僧侶「分かりました。まだ、肺に水が溜まってますね。蒸発魔法! 解毒回復魔法!」

女性「うっ、うぅん。あれ、ここは……」

僧侶「ここは砂浜です。溺れていた所を私たちに救助されました。どこか痛い所はありますか?」

女性「いえ、特には……」

僧侶「それは良かったです。それでは私は、これで失礼させていただきます」

セイバー「お二人とも、ご協力感謝します。ありがとうございました!」

女性「ありがとうございました」ペコリ

僧侶「魔法使いちゃん、戻りましょうか」

魔法使い「……はい」

警備員「警備の船より、水域の安全が確認されました。なお――」


167
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:04:00 ID:ls3.YtYA
~部屋~
魔法使い「今日は遊び疲れました~」クテー

僧侶「勇者さま、私たちの水着姿はそそりましたか?」

勇者「それはもう、最高だったよ。僧侶さんはエロい水着だし、魔法使いちゃんは可愛いし、今までで今日が一番幸せだな」

僧侶「ふふっ、楽しんでいただけたみたいで嬉しいです//」

勇者「良かったら、明日も行かないか?」

僧侶「明日は旅支度の買い物ですよ」

勇者「だよね……」

魔法使い「もう泳がないなら、僧侶さんの水着を着てみたいです!」

僧侶「ええっ、魔法使いちゃんにはまだ早いって……」

魔法使い「でも一度、大人用のあぶない水着も着てみたいです。お願いします//」

僧侶「仕方ないわねえ」

魔法使い「えへへ// では、挑戦してみます!」


168
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:12:34 ID:ls3.YtYA
勇者「背伸びをしたい年頃かな。ところで僧侶さん、今夜は一緒にバーに行きませんか」

僧侶「夜に魔法使いちゃんを一人きりには出来ませんよ。それに、避妊具は砂漠の暑さで駄目になっています。ちゃんと捨ててくださいね」

勇者「……はい」ガックリ

僧侶「でも次にここに来るときは、シーズンオフですよね……。それならば、もう一度みんなで泳ぎに行くのも悪くないかもです」

勇者「そうだね、そうしよう」

僧侶「では明後日は船が出るまで時間があるし、そのときにまた私の水着姿を楽しんで下さい。それで良いですか?」

勇者「身体の方も許してくれると嬉しいんだけど……」

僧侶「それは妄想で我慢してくださいね//」


169
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:21:44 ID:ls3.YtYA
魔法使い「もう! 二人とも、大人の会話が更衣室の中まで聞こえてましたよ」

勇者「あ……」

魔法使い「どうですか、勇者さま。私にこの水着は似合いますか?」


私は更衣室から出ると、上目遣いで勇者さまを見詰めた。
バストトップとIラインしか隠せない水着。
それが程よい胸の膨らみを曝け出し、ビキニでは見えなかった部分を扇情的に魅せつける。


僧侶「わぁぁっ! 魔法使いちゃん、更衣室に戻る戻る!!」アセアセ

勇者「う~ん。まだ少女の面影が残っているから、魔法使いちゃんには少し早いかも。ビキニのほうが可愛らしくて、すごく似合ってたよ」

魔法使い「そうなんですか……。早く大人になって、次こそ勇者さまを魅了してみせます!」

勇者「ははっ、楽しみにしてるよ」


170
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:30:55 ID:ls3.YtYA
僧侶「それじゃあ、魔法使いちゃん。早く服を着て、一緒にお風呂に行きましょ」

魔法使い「そうですね、着替えてきます」トテトテ

僧侶「勇者さま。魔法使いちゃんのこと、興奮せずに諭してくれてありがとうございます。また少し信じられるようになりました」

勇者「また少しって、今はどれだけ低いんだよ」

僧侶「あの、これはお昼に話していたサービスです」

勇者「……僧侶さん//」

僧侶「砂漠を渡っていたとき、魔法使いちゃんを守る姿がとても素敵でした。それに、私のことも助けてくれましたよね。とてもうれしかったです。これからも私たちのこと、よろしくお願いします」

勇者「ああ、分かった」


171
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 22:41:41 ID:ls3.YtYA
~宿・女湯~
魔法使い「はぁ、いいお湯ですね。明後日も遊びに行けるのですか?」

僧侶「船が出るまでの間だけね」

魔法使い「楽しみです♪」

僧侶「何だか、積極的に誘惑してたよね」

魔法使い「だって、ずっと僧侶さんの胸ばっかり見てるんだもん。私も負けません!」

僧侶「ふふっ、ちょっと刺激が強すぎたかな」

魔法使い「きっと今頃は、私たちの妄想でなさってますよ//」

僧侶「妄想だけなら自由だし、それは私たちで勇者さまを癒すことが出来たってことだよね」

魔法使い「はい、そうですね//」


172
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:00:08 ID:ls3.YtYA
魔法使い「ところで、僧侶さん。魔法は本当に必要なのでしょうか……」


軽い猥談で盛り上がった後、私は気落ちした面持ちで言った。
昼過ぎにあった事故のことが、ずっと心に引っかかっているからだ。
それを考えると、何も出来なかった自分がちっぽけな存在に思えてしまう。
だから、そんな気持ちを聞いて欲しかった。


僧侶「それって、どういうこと?」

魔法使い「昼過ぎに川で女性が溺れたとき、私はしびれくらげを追い払えずに、女性を浮かせることしか出来ませんでした。そのせいで、女性は亡くなってしまいました」

魔法使い「でもその後で、ライフセイバーの方が蘇生魔法を使わずに女性を生き返らせたんです。とても衝撃的でした」

僧侶「そのような蘇生術があることは、砂漠にいたときに話したでしょ」

魔法使い「はい……。でも魔法を使える私は、何も出来ませんでした」

僧侶「それを言うと、私も同じだよね。私がいなくても、あの女性は助かったはずだから」


173
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:06:00 ID:ls3.YtYA
魔法使い「じゃあ、やっぱり魔法は――」

僧侶「ねえ、魔法使いちゃん。ボトルシップを買ったお店の主人が、何と言っていたか覚えてる?」

魔法使い「たしか、『人間は魔法に頼らなくても、工夫をすれば色んなことが出来る』と言ってました」

僧侶「そうだね。ではなぜ、ライフセイバーさんは心肺蘇生術を学んでいると思う?」

魔法使い「魔法を使えないから……ですか」

僧侶「それでは、半分不正解かな」

魔法使い「他に理由があるんですか?」

僧侶「魔法を使えないけど、誰かを救いたいからです。だから彼らは教会で学び、努力をしているのよ」

魔法使い「誰かを救いたいから、か」


174
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:21:33 ID:ls3.YtYA
僧侶「じゃあ、魔法使いちゃんはどうして精霊魔術の勉強を始めたの?」

魔法使い「それは……村を困らせる魔物から、みんなを守りたかったからです。だから、熊退治の話を聞いたとき名乗り出たんです」

僧侶「でもそんな理由なら、剣術やナイフ術でも良かったはずだよね」

魔法使い「私は体術が全般的に苦手ですから」

僧侶「それが答えなのよ。魔法は誰かを守るための手段のひとつでしかないの」

魔法使い「魔法は手段のひとつ……」

僧侶「ねっ、魔法使いちゃんには魔法が必要でしょ。精霊魔術を使える魔法使いちゃんがいたから、溺れた女性は流されなかった。だからすぐに救助することが出来て、ライフセイバーさんの蘇生術で一命を取り留めることが出来た」

僧侶「お互いに出来ることをして女性が助かったんだから、それで良いじゃありませんか」

魔法使い「そう……ですよね。ありがとうございます」

僧侶「私は魔法使いちゃんがとても良い判断をしていて、すごくうれしかったよ」


175
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:29:15 ID:ls3.YtYA
魔法使い「あの……、もし僧侶さんが魔法を使えなかったら、何をしていましたか?」

僧侶「う~ん、薬師になっていたかも」

魔法使い「薬師か……。僧侶さんらしいですね。私、回復魔法も勉強してみたいです」


私には魔法が必要だ。
だから精霊魔術だけではなくて、人を癒やす魔法も覚えたい。
私はそう心に決めた。


僧侶「ふふっ、頑張ってね。そろそろ部屋に戻りましょうか」

魔法使い「はい。僧侶さん、いつもありがとう」


176
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/10(木) 23:31:38 ID:ls3.YtYA
第4話 おわり

(不可能物体)
・ボトルシップ

(数学パズル)
・からす算
・リンド・パピルスのパズル

・川渡り問題


勇者「ドーナツの世界?!」第5話を読む

勇者「ドーナツの世界?!」 第5話

178 以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:03:10 ID:pRId0q7A
第5話 忍び寄る闇
~海・客船~
港町から大河を下り、三日が過ぎた。
客船なのでゆったりとしていて、客室の内装もおしゃれな感じだ。
私は船内放送で海に出たことを知り、勇者さまと二人で甲板に上がった。


魔法使い「勇者さま、水平線が丸いです! この世界って、本当に球体なんですね!」

勇者「そうみたいだな。俺もはじめて見たよ」

魔法使い「私たち、一ヶ月後には南の大地に着くわけですよね。極南の地が闇に覆われているといううわさは、本当でしょうか?」

勇者「それを確認して来るのが、俺と僧侶さんの仕事だよ」

魔法使い「私は思うのですが、極夜ではないでしょうか。自転軸が傾いているので、日が昇らない世界があるのは当然のことだと思うんです」

勇者「それだと話が簡単で良いんだけどなあ。でも今は夏だから、日が沈まない白夜のはずだろ。パズルの意味とか、行けばすべて分かると思うよ」

魔法使い「そうですね」


179
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:07:20 ID:pRId0q7A
勇者「ところで魔法使いちゃん、髪が伸びてきたんじゃない?」

魔法使い「そうなんです。早く前髪を切りたくて、気になっているんです」

勇者「じゃあ、補給で街に停泊したときに美容室に行くといいよ」

魔法使い「はいっ、そうさせてもらいます。あの、勇者さまはどんな髪型が好きですか//」


私は基本的に髪を束ねたりはせず、いつもミディアムヘアにしている。
そのほうが楽だし、女魔法使いといえばストレートヘアというイメージがあるからだ。
だけど、この機会に髪型を変えてみるのも悪くない。
そしてそれならば、勇者さまが好きな髪型にしてアピールをしたい。


勇者「う~ん、ツインテールが似合いそうだと思う」

魔法使い「ツインテールですか? 参考にしてみます♪」


180
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:36:17 ID:pRId0q7A
僧侶「二人とも見ないと思ったら、甲板にいたんだ。もしかして、仲良くデートしていたの?」

魔法使い「えへへ//」

勇者「ちょっと風に当たろうと思ってね。それより、それはもしかして……」

僧侶「そうです、釣竿です!! 海に入ったんだし、美味しいお魚がいっぱい泳いでいるはずなんです!」

魔法使い「私もやりたいっ!」

僧侶「そう言うだろうと思って、もう一本持ってきたよ」

魔法使い「たくさん釣って、新鮮なお魚が楽しみです♪」

勇者「マイペースだな、この二人は――」


181
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:41:47 ID:pRId0q7A
僧侶「ところで勇者さま、豪華客船と海に相応しいシチュエーションパズルに挑戦しませんか?」

勇者「シチュエーションパズル?」

僧侶「出題者が問題を出して、回答者が出題者に『はい』または『いいえ』で答えられる質問をしながら、答えを推理するパズルです」

勇者「なるほど、了解」

僧侶「では問題です。ある日、水兵の男がレストランに行き、ウミガメのスープを注文しました。しかし、船で食べたスープとは味が違います。怒った男はシェフを呼び、問いただしました」


『何だこれは!』
『ウミガメのスープでございます』


僧侶「その日の夜、ショックを受けた男は自殺してしまいました。なぜでしょうか?」

魔法使い「うわぁ……」ゲンナリ

僧侶「知ってても、答えを教えてはいけませんよ。では勇者さま、質問タイムです」


182
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:46:48 ID:pRId0q7A
勇者「なぜショックを受けたんだろ?」

僧侶「それを推理してください」

勇者「船とレストランではシェフが違うのだから、味が違うのは当然だと思うけどなあ」

僧侶「はい、そうですね」

魔法使い「勇者さま。シェフによる味の違いは、美味しいか不味いかですよね。もっと別の理由があると思いませんか?」

勇者「あっ、なるほどね。男が船で食べたのは、ウミガメのスープですか?」

僧侶「いいえ」


この問題は、ウミガメ以外の肉をウミガメとして偽った理由がポイントになる。
なぜ偽る必要があったのか――。


183
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 22:56:33 ID:pRId0q7A
勇者「何の肉か知っていれば、男はスープを食べましたか?」

僧侶「いいえ。彼なら食べなかったと思います」

勇者「船で食料が不足しましたか?」

僧侶「はい」

勇者「その肉は人間ですか?」

僧侶「はい」

勇者「つまり自殺した理由は、船で人間の肉を食べていたことに気付いたからだ!」


184
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/11(金) 23:03:30 ID:pRId0q7A
僧侶「残念、惜しいけど不正解です。その答えでは、人間の肉を食べることになった理由が分かりません」

勇者「それもそうか」

僧侶「正解は『乗っていた船が遭難してしまい、そのときに食べていた肉が自分の仲間の肉だったことに気付いてしまい、男はショックで自殺した』でした」

勇者「ちょっと待て。これのどこが豪華客船と海に相応しいんだよ!」

僧侶「えへへ。そうならないように魚を釣りましょう♪」

魔法使い「そうですね」


そして私は、僧侶さんと魚釣りを始めた。
しかし一時間が過ぎ、二時間が過ぎても釣れることはなかった。
きっと航行中の客船からでは、動きが速くて食らい付く余裕がないのだろう。
残念ながら、遭難すると助かりそうにないようだ。


185
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:00:01 ID:/6tJWevM
~海の都~
一週間が過ぎた頃、客船は海の都に停泊した。
ここで食料や燃料を補給し、二日後に次の街に向けて出航する予定になっている。
その間は自由に観光が出来るので、私たちは客船を降りて街に出た。


魔法使い「やっと街に着きましたね」

勇者「船はまた明後日に出航だから、それまでこの街でゆっくりしよう」

僧侶「そうですね。海の幸を堪能するぞ~っ!」

魔法使い「この都は『ウニ』を使った海鮮丼がおすすめだそうですよ」

勇者「じゃあ、お昼は海鮮丼を食べに行こうか」

僧侶「それなら、このお店が良いですよ。ガイドブックでおすすめ店になっています」

魔法使い「この近くですね。勇者さま、早く行きましょう!」


186
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:01:01 ID:/6tJWevM
~海鮮屋~
おすすめの店に着き、みんなで海鮮丼を注文した。
そして運ばれてきた丼には、溢れんばかりの鮮魚が豪快に盛り付けられていた。


魔法使い「お刺身がキラキラしていて、すごく美味しそうですね。この黄色いのがウニなのかなあ」

僧侶「そうそう。黄金の輝きとコクがあって、口の中でとろける感じがすごく絶品だよ」

魔法使い「ほんとだ、すごく濃厚で美味しいです! 客船のビュッフェもおしゃれで美味しいけど、豪快な大衆料理も良いですよね」

勇者「何だか魔法使いちゃん、僧侶さんみたいになってきたなあ」

魔法使い「だって、村では食べられない料理ばかりで幸せなんだもん」

僧侶「そうだよね。せっかく旅をしているんだから、存分に楽しまないと!」

魔法使い「はいっ!」


187
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:03:00 ID:/6tJWevM
僧侶「そう言えば、この都にはダブルスキルの支援施設があるみたいですよ。観光地図に載ってました」

魔法使い「ダブルスキルの支援施設?」

僧侶「衛兵の軍事訓練をしたり、新しい能力を養成する施設のことだよ」

勇者「やっぱり、この国は底が知れないな。本格的な訓練施設は城下にあるのだろうけど、その施設の一部が他国の人も集まる場所に建設されているってことは、総合的な軍事力が高いことを知らしめることにもなるからな」

僧侶「そうですよね。だけど今は各国が協力体制を敷いているので、私たちも利用できるはずです。行ってみませんか?」

勇者「そうは言っても、一日二日で修得できる技術なんて何もないだろ」

僧侶「そうですが、ちょっと欲しいものがありまして……。それを買いたいのです」

勇者「そういうことなら、まあ寄ってみるか」


188
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:11:53 ID:/6tJWevM
~支援施設~
僧侶「お~、ありました! 私の暇つぶし」

勇者「受付を素通りしてどこに行くのかと思えば、欲しいものってパズルかよ!!」

僧侶「これはポリオミノの一種で、ペントミノというものです。正方形5個の辺同士がくっつきあって出来る、全12種類の形をピースとした詰め込みパズルなんですよ。ここでは立方体のものも販売されていました」

魔法使い「これって、神の遺産ですよね」

勇者「へえ、そうなんだ。どんな意味があるの?」

僧侶「ペントミノは、この6×10の長方形の枠に隙間なく詰める方法が、約2000通りあります。それが人間の能力の可能性を表しているのです」

勇者「人間の可能性か……」

僧侶「はい。でも本来の意味は、神様は世界を破壊して創りかえることが出来るという、絶対的な存在を畏怖するためのパズルだったんですけどね」

勇者「いくら何でも、それは変わりすぎだろ!」

僧侶「でもそういう訳で、支援施設には必ずペントミノが置いてあるんです」


189
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:24:16 ID:/6tJWevM
魔法使い「ちなみに正方形6個を使ったヘクソミノは、世界の扉を表しているそうです。そう言われる理由が面白くて、長方形の枠に詰め込もうとしても凸型になってはみ出してしまうからなんですよ」

勇者「世界の扉……ねえ。その先には、一体何があるんだろうな」

魔法使い「精霊神話の一節によれば、扉が閉ざされると魔法を失うらしいです。詳しい記述はありませんけど、この世界の外にはこことは違う世界があるのかもしれないですね」

勇者「たかがパズルなのに、壮大だなあ」

魔法使い「だから、私たち魔道師には欠かせない知識なんです」

勇者「ふうん……」

僧侶「あ、そうだ。ここって、1日体験入学みたいなことってしてないかな」

勇者「1日体験入学?」

僧侶「魔法使いちゃんが女僧侶に興味が湧いてきたみたいで、少しずつ魔法医学の勉強をしているんです。それで、国の施設で経験させてあげたいなと思いまして」

勇者「そういうことなら、受付で聞いてみようか。魔法使いちゃんはどうする?」

魔法使い「私、ぜひやってみたいです!」


190
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:46:19 ID:/6tJWevM
――「エルグの城の衛兵……おっと、勇者じゃないか」


受付に並んでいると、いかつい格好の男性が勇者さまに話しかけてきた。
彼が装備している鎧には、山すその都……つまりバロックの国の紋章が付けられている。
エルグの国と同盟関係なので、きっと知り合いなのだろう。


勇者「奇遇だな。こんな所で何をやってるんだ?」

僧侶「あの、勇者さま。この方はどなたですか?」

勇者「山すその都でお世話になっていた、バロックの城の兵士だよ。バトルマスターで、なかなかの腕前だよ」

僧侶「そうでしたか。こんにちは」

魔法使い「こんにちは」ペコ

バトマス「おうっ。こいつがうわさのロリっ子魔法少女か。なかなか可愛いじゃねえか」

魔法使い「ろ……ロリっ子魔法少女?!」アセアセ

バトマス「一丁前に照れやがって。ガハハ……」


191
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 20:54:04 ID:/6tJWevM
勇者「ところで、ここで何やってんだよ。まさか、お前もパズルを買いに来たのか?」

バトマス「何、馬鹿なこと言ってんだ。船旅ばかりだと身体が鈍るだろ。だから、郊外の施設で身体を動かしてきたんだ。お前も行っといたほうがいいぞ」

勇者「そんなものがあるのか。考えてみるよ」

魔女「バトマスさん、お待たせしました」

剣士「勇者、久しぶりだな」

賢者「あら、エルグの皆さん。お城でのお勤めが終わったのですね。ご苦労様です」

勇者「どうも、お疲れさまです……」


192
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:01:00 ID:/6tJWevM
魔法使い「魔女さん、こんにちは」

魔女「こんにちは。ちゃんと精霊魔法の練習してる?」

魔法使い「はいっ!」


魔女さんは私が山すその都に滞在していたときに、お城で精霊魔法の指導をしてくれた国家魔道師の一人だ。
最上級クラスの女魔道師で、精霊たちを使役して現象を支配することが出来る。
そしてスイーツのお店やファッションに詳しくて、訓練以外でも親しくしてくれたので仲がいい。


魔女「うんうん、偉いねえ」

魔法使い「魔女さんのおかげで、複数の精霊魔法を組み合わせて使えるようになりましたよ」

魔女「物理現象は複数の精霊が関わって引き起こされているの。だから、すべての精霊を自在に操れるようにならないと駄目だからね」

魔法使い「もっともっと頑張ります!」


193
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:03:00 ID:/6tJWevM
賢者「ところで、私たちは明日出航なんです。よろしければ、今夜は親睦を兼ねて食事に行きませんか?」

僧侶「いいですね。それなら気になる料亭があるので、そこに行きませんか!」

勇者「そんなことまで調べてるんだ」

僧侶「えへへ、当たり前です」ブイ

バトマス「お前らは家族旅行かよ、いい気なもんだな」

賢者「では店はお任せしますので、財布は任せてください。非公式の村娘が従軍していては、資金のやりくりが大変でしょう」

勇者「それは助かります」

魔法使い「……すみません」

バトマス「じゃあ、日没にここで落ち合おうか。また後でな」

勇者「おうっ!」


194
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:20:01 ID:/6tJWevM
魔女さんたちと別れた後、ようやく受付の順番が回ってきた。
そして女僧侶コースの体験入学について聞いてみると、講座は明後日だということが分かった。
どうやら、出航の日と重なっているようだ。


僧侶「残念だったね」

魔法使い「はい、受けたかったです……」

勇者「あの、先ほど知人から郊外の施設を使えると聞いたのですが、それは大丈夫ですか?」

受付「それでしたら、明日の午後に予約が空いております。実戦形式で行われるアトラクションとなりますので、装備を整えてご利用ください。予約されますか?」

勇者「じゃあ、お願いします」

受付「それでは技量に応じた登録が必要ですので、利用される方は適正検査をお願いします」

勇者「二人はどうする?」

僧侶「魔法使いちゃんは実戦経験が少ないし、私たちも参加しておきます」

魔法使い「女僧侶の講座がムリだったので、こっちを頑張りたいです」

勇者「そっか。じゃあ、三人で利用しよう」

受付「では、そちらのフロアにお願いします」


195
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:26:57 ID:/6tJWevM
~大神官の間~
魔法使い「何だか緊張しますね。適性検査って、どういうことをするのでしょうか」

勇者「きっと魔道具か何かで、レベルや魔力を測るんじゃないかな」

魔法使い「ああ、なるほど」

勇者「アトラクションだし、そんなに身構えなくてもいいと思うよ」

魔法使い「そうですよね」


今日は登録するだけだし、実戦形式というのもバロックの城で受けていた訓練メニューと同じようなものかもしれない。
私はそう思い、少し肩の力を抜いた。
それからしばらくして、勇者さまが大神官に呼ばれた。


勇者「それじゃあ、行ってくる」


勇者さまが別室に入っていき、僧侶さんと二人きりになる。
雑談を交わしながら順番を待ち、勇者さまが戻ってくると次は僧侶さんが呼ばれた。
そして最後に、私が別室に呼ばれた。


196
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:37:58 ID:/6tJWevM
大神官「それでは、魔法使い殿」

魔法使い「はいっ、失礼します」

大神官「勇者一行にしては、可愛らしいお嬢さんだ」

魔法使い「勇者さまに無理を言って、同行させてもらっています。色んな経験が出来て、今はとても楽しいです」

大神官「そうかそうか。では、始めよう」

魔法使い「お願いします」


そう言うと、大神官さまが手をかざした。
足元に魔法陣が展開されて、運命の断片を読み取る魔法が行使される。
どうやら、占いをしてくれるようだ。


大神官「魔法使い殿は、精霊魔法を使いこなせているようですな。可能性に溢れており、鍛錬を怠らなければ多くのことを修得することが出来るであろう」

魔法使い「そうなんですね。私、絶対に頑張ります!」

大神官「しかし、あなたには闇が見える。それを乗り越えてくれることを、わしは期待しておるぞ」ナデナデ

魔法使い「は、はい……。ありがとうございました」


197
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 21:41:17 ID:/6tJWevM
~受付ルーム~
受付「お疲れ様でした。以上ですべての登録が終わりました。明日、係りの者が誘導しますので、そちらで説明を受けて下さい」

勇者「はい、ありがとうございました」

魔法使い「アトラクションって、どんなことをするんだろ。何だか、楽しみになってきました」

僧侶「はあっ……そうだね」

勇者「どうしたの? 何だか落ち込んでいるみたいだけど」

僧侶「大神官さまに『闇に飲み込まれたら、すべてを滅びへと導くことになるだろう』と言われてしまったんです」

勇者「闇というのは、これから行くところのことだろうな。俺は真の勇者に『なりうる』と言われたし、そのためには二人の力が必要なんだ。僧侶さんが言われたことは、つまりはそういうことなんだろうと思う」

僧侶「そうかもしれないですね。闇に立ち向かって、勇者さまと一緒に未来を切り開きたいです」

勇者「そうだな、一緒に頑張ろう。ところで、この後どうする?」

僧侶「私は料亭を予約してきます」

魔法使い「私は美容室に行きたいです」

勇者「そっか。じゃあ、一度解散しようか」


198
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 22:55:54 ID:/6tJWevM
~美容室~
私は二人と別れて、美容室にやってきた。
スキンケアはいつもしているけど、髪の毛は自分でカットすると変になってしまう。


美容師「お客様。今日はどのようにセットなさいますか」

魔法使い「前髪を短くして揃えてほしいです。あと、ツインテールが似合うようにお願いします」

美容師「かしこまりました。お客様は旅の方ですか」

魔法使い「そうです。エルグ地方から来ました」

美容師「それは遠い場所から来られたのですね。ちなみに、どこに行かれるのですか?」

魔法使い「南の都です」

美容師「あそこは魔術の研究が盛んな街ですよね。もしかして、留学生なんですか」

魔法使い「いえ、そうではないんですけど――」


美容師さんと他愛ない会話を楽しむ。
そんな時間はあっという間に過ぎて行き、気が付くと髪型がツインテールにセットされていた。
そしてアレンジの仕方をアドバイスしてもらい、美容室を後にした。

勇者さまは可愛いと言ってくれるかなあ。
そう思うと、あまい期待で胸がいっぱいになった。


199
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/12(土) 22:59:54 ID:/6tJWevM
~支援施設~
日が傾き始め、待ち合わせの時間が迫ってきた。
すでに魔女さんたちは全員来ていて、支援施設の中で涼んでいる。
後は勇者さまだけとなり、私は待ちきれずに外で迎えることにした。

それから十分ほど待って、ようやく勇者さまが来た。
大きく手を振って、勇者さまに駆け寄る。


魔法使い「勇者さま、ずっと待ってましたよ!」

勇者「ごめんごめん、お待たせ。魔法使いちゃん、髪型変えたんだ」

魔法使い「はいっ// 勇者さまがツインテールが好きだと言うので、そうしてみたんです」

勇者「そうなんだ、すごく可愛いよ。似合ってると思う」

魔法使い「えへへ、うれしいです//」


やっぱり、この髪型にして良かった。
私は勇者さまに寄り添い、さり気なく手を繋いだ。


魔法使い「魔女さんたちは、もう中で待っています。早く行きましょ」

勇者「そうなんだ。じゃあ、行こうか」


200
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 19:42:05 ID:HEkQYNWI
~料亭~
勇者「何だか、敷居が高そうな料亭だなあ」

賢者「敷居が高そうって言うか、値段も高そうなんだけど……」


賢者さんはそう言うと、料亭を見上げた。
とても古風な佇まいをしていて、その外観からは風格さえ感じる。
私から見ても、ここの料理は高いんだろうなというのが容易に想像できる。


勇者「お金、大丈夫?」

僧侶「私たちは同盟国ですし、必要経費ってことで何とかなりますよねえ」

賢者「そ、そうね。このくらいなら許容範囲ですよ」


賢者さんは苦笑いをして、一番に料亭の門構えをくぐった。
その後を付いて中に入ると、お店の人が座敷部屋に案内してくれた。


201
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 19:49:55 ID:HEkQYNWI
座敷部屋では男女が別々のテーブルに分かれ、それぞれが談笑を始めた。
みんなで一緒に食べるのかと思っていたけど、そうではなかったようだ。
勇者さまと話をしたければ席を移動すれば良いだけだし、私は鮮魚料理を待つことにした。

やがて食事が用意され、男性席ではバトマスさんが武勇伝を語り始めた。
支援施設が行う実戦訓練は、想像していた以上にハードだったらしい。


バトマス「――それで、魔物どもを叩き斬ってやったんだ。あの模擬戦は、本気でやらねえと逆に殺されるんじゃねえかってくらいハードだったぜ」

剣士「あんな設備で訓練しているのかと思うと、この国の衛兵は敵に回したくないと考えるのも頷けるというものだ」

勇者「そんなにきついのか。大丈夫かな……」

バトマス「最初のフロアで全滅するんじゃねえか?」

勇者「いやいや、それはないから」

バトマス「でもお前んとこの女魔道師は、うちの魔道師連中が気に入ってるみたいだが、所詮は女子供だ。ろくに魔法を使いこなせないだろ」

勇者「それが中々の使い手で、もう並みの魔道師では勝てないと思う」

バトマス「本当かよ。それにもう一人は女僧侶だろ。精霊魔術の才能がなくて治癒しか出来ない、ただの能無しじゃないか。塔に入った瞬間、全滅しそうだな」

勇者「お前、飲みすぎだぞ。もう、それくらいにしとけ」


202
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 20:09:31 ID:HEkQYNWI
バトマス「お前はなあ、女僧侶と女子供なんかに好き勝手されて、男の威厳が足りないんだよ。女なんか力を誇示して、さっさと押し倒してしまえよ」

勇者「うちでそんなことをしたら、僧侶さんに瞬殺されるから」

バトマス「はあ? 能無しの女僧侶にそんなことが出来る訳ねえだろ」

剣士「それはともかく、俺も小隊としては不安が多いパーティーだと思う」

勇者「俺たちは少数精鋭なんだ」

バトマス「何が少数精鋭だ。使えるのは、お前くらいなもんじゃないか。仲良く観光旅行をしてるんじゃねえよ!」

勇者「まあ、旅は楽しいほうが良いだろ」

バトマス「うちの女みたいなことを言いやがって。これは遊びじゃなくて、任務だろうが!」

勇者「分かってるって」

魔法使い「……」


お酒に酔っているせいかもしれないけど、失礼な人だ。
女なんか押し倒してしまえばいいとか、僧侶さんが能無しとか、私たち女性を何だと思っているのだろうか。
少し不愉快な気分になってきたので、私は男性たちの会話に聞き耳を立てるのを止めることにした。


203
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 20:29:05 ID:HEkQYNWI
魔法使い「賢者さん、少し質問してもいいですか」

賢者「良いけど、どんなこと」

魔法使い「私は治癒魔法の勉強もしたいと思っているんですけど、賢者さんはどんな魔法が使えるんですか?」


私はお酒を飲んでご機嫌な様子の賢者さんに話しかけた。
精霊魔法と治癒魔法を使える職業といえば、女賢者が代表的だ。
どうすれば女賢者になれるのか、勉強のコツなどをぜひ教えてもらいたい。


賢者「私は治癒魔法がメインで、精霊魔法と電撃魔法を補助的に使える感じかしら。魔法使いちゃんも女賢者になりたいの?」

魔法使い「はい。魔女さんみたいな女魔道師になって、僧侶さんみたいな女僧侶になりたいです」

賢者「ええっ、それはもう女賢者じゃなくて聖人クラスですよ。それが実現できたら、歴史に名前を残せるんじゃないかしら」

魔法使い「そうなんですか?!」

賢者「そうですよ。僧侶ちゃんのことを女僧侶だからと馬鹿にしている方が多いですけど、彼女は神官クラスの実力者なの。精霊魔術と魔法医学を極めるなら、かなり努力しないと中途半端な実力になってしまいますよ」

魔法使い「そっか、そんなに大変なことなんですね」

僧侶「魔法医学は私が教えてあげるから、船の中でじっくり勉強していきましょ」

魔法使い「はい、お願いします!」


204
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 21:06:29 ID:HEkQYNWI
僧侶「ところで、話が変わるんだけど……。そっちのメンバーでは、殿方の性欲をどのように処理しているんですか?」

魔女「な……、何言っちゃってんのよ//」

僧侶「だって、そちらは殿方が二人もいらっしゃいますし、生理現象ですから避けて通れないですよね」

魔女「そんなの知る訳ないでしょ//」

僧侶「あれ、どうしているのか知らないんですか」

魔女「だって、あたしたちは任務で一緒にいるだけだし」アセアセ

賢者「逆に知りたいのですけど、そちらはどうされているのですか?」

僧侶「勇者さまと話し合って、一人でしやすいように工夫しています」

魔女「ええっ?!」

賢者「そちらは性に対して、親和的な姿勢なのですね」

僧侶「そうですか? 他のパーティーの方と話す機会は中々ないですし、普通はどうなのかなって思って」

魔女「そんなことを一緒に話し合うとか、絶対に有り得ないわ」


205
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 21:31:48 ID:HEkQYNWI
魔法使い「じゃあ、男性にエッチなことを我慢させているんですか? そんなの可哀想です」

魔女「可哀想って言われても、あたしには関係ないし。自分たちで勝手にしてるんじゃないの?」

賢者「あの二人は慰安所を利用して、そこで遊んでいるみたいです。費用がかさみますけど、仕方がないので容認してあげています」

魔女「うわっ、そんな所に行ってるんだ。あいつら最低ね」

賢者「私たちに迷惑を掛けるよりも、その方が良いではありませんか」

魔女「まあ、それもそうね」

魔法使い「あの……、慰安所って何ですか?」

魔女「えっ?! 魔法使いちゃんには、まだ早いんじゃないかな……」アセアセ

僧侶「慰安所っていうのは、殿方が金銭を支払って、公娼登録をした女性と性行為をして射精をする施設のことだよ」

魔法使い「あわわ// お金を払って女性と交わるんですか?!」

僧侶「勇者さまがいつも読んでいるエッチな本も、金銭を支払って購入したものでしょ。殿方は射精をしない訳にはいかないから、何らかの形で公娼制度を利用して性欲を解消しているの」

魔法使い「それは分かるけど、お金で女性と交わるのは駄目だと思います」


206
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 21:51:48 ID:HEkQYNWI
僧侶「魔法使いちゃん、殿方が頻繁に一人でなさるのはどうして?」

魔法使い「それは、相手がいないのに射精しなければならないからです」

僧侶「じゃあ女性と一緒に旅をしているけど、その女性とは愛し合う関係ではない場合、殿方はどうすればいいと思う?」

魔法使い「それは、もちろん一人でするべきです!」

僧侶「私も一人でするべきだと思う。だけど残念なことに、嫌がる女性を無理やり強姦する人もいるの。だから、女性を守るために慰安所が必要なんです。公娼の女性たちは、私たちのために頑張ってくれているんですよ」

魔女「ちょっと、そんなことまで教えちゃうの?!」

僧侶「隠したり誤魔化すよりも、ちゃんと教えたほうが良いと思うから」

賢者「確かに、そうかもしれませんね。私たちは公娼制度があるおかげで、今のところは強姦されずに済んでいるわけですし。魔法使いちゃんもお年頃だから、性犯罪に遭ってからでは遅いですものね」

魔法使い「教えてくれてありがとうございます。慰安所のおかげで傷付く女性が減るなら、私たちは感謝しないといけないですよね」

魔女「そうだね、本当に感謝しないといけないよね」

魔法使い「だけど、勇者さまが慰安所を利用するのは絶対にいやです!」

僧侶「じゃあ、また私たちの水着姿で満足してもらいましょうか//」

魔法使い「そう言いつつ、また勇者さまを誘惑するつもりですね。私、負けませんから!」


207
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 22:58:53 ID:HEkQYNWI
魔女「ああ、二人ともそういうことなんだ」クスクス

魔法使い「そ、そういうことって……//」

魔女「何だか、僧侶ちゃんたちは楽しそうでうらやましいわ。うちのリーダーは賢者さんなのに、あいつらが偉そうにしてて嫌になっちゃう!」

賢者「はあ、本当にそうですよね」

魔女「任務じゃなければ、絶対に一緒にはいたくないわ」

バトマス「おい、女ども。酒を注ぎに来い!!」

賢者・魔女「はいはい……、噂をすれば何とやら」

バトマス「お前らもだ! 女なら男をもてなせ!」

魔法使い「あ、あの……。女なら男をもてなせって、どういう意味なんですか?」

バトマス「隣に座って、俺にお酌をしろって言ってんだよ」

僧侶「それならそうと、もう少し言い方があると思うんですけど。美味しい料理とお酒を、みんなで楽しく食べましょうよ」

バトマス「女の癖に口答えするな! 金を払うのは俺たちだろうが!」

勇者「もういい加減にしろよ。みんな困ってるだろ!」


208
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 23:22:57 ID:HEkQYNWI
魔法使い「僧侶さん、私たちもお酌をしたほうが良いんですかねえ……」

僧侶「ううん、そんな必要はないから。睡眠魔法!」

バトマス「zzz」

僧侶「あらあら、飲み過ぎですよ。さっ、みんなで楽しく食べましょ」

魔女「そ……そうだね」

剣士「なるほど、確かに瞬殺されそうだな。今なら彼女のナイフでひと突きだ」ククッ

勇者「とりあえず、これでゆっくり食べられそうだ。僧侶さん、ありがとう」

僧侶「いえいえ。みんなで食べているのに、こういうモラルがない人は嫌いですから」

魔法使い「そうですよね! 勇者さま、そっちに行っても良いですか?」

勇者「いいよ。魔法使いちゃんは飲めないし、一緒に食べようか」

魔法使い「はいっ♪」


私は熟睡させられたバトマスさんを尻目に、みんなと鮮魚料理を楽しんだ。
そして食事が終わったときには、夜も遅い時間になっていた。


209
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 23:22:57 ID:HEkQYNWI
~訓練施設~
翌日の午後、私たちは予約をした訓練施設にやってきた。
街から少し外れた郊外にあり、敷地の中には建屋だけではなく、洞窟や塔のような建造物まで建っていた。
受付の女性によると、様々な状況で訓練を受けることが出来る本格的な施設とのことだ。


案内人「お待ちしておりました。勇者殿」

勇者「はい」

案内人「当アトラクションは実戦形式となっておりまして、勇者殿には塔を上っていただきます」

勇者「あの塔ですか」

案内人「はい。訓練メニューは、各フロアで戦いながら最上階の4階を目指すことです」

勇者「勝ち抜き方式ということですか?」

案内人「そうです。各フロアの者が結託して、総力戦を仕掛けるようなことはありません。それぞれのフロアで敵を倒し、階段を上って最上階を目指してください」

勇者「なるほど」


210
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/13(日) 23:34:40 ID:HEkQYNWI
案内人「それでは、皆様に身代わりの腕輪を支給します」

僧侶「強力な蘇生魔法が込められた魔道具みたいですね」

案内人「さすが僧侶殿。この腕輪には転移魔法も込められていますので、必ず装備してください。蘇生魔法と同時に発動して、塔の外に出られるようになっています」

僧侶「最上階まで行けた場合、この魔道具はいただけるのですか?」

案内人「差し上げることは出来ません。その場合は返却していただきます」

僧侶「そうなんですね。良いものなのに残念です……」

案内人「もう宜しいですか? 装備しなかったことによる損害は、一切責任を持ちません。こちらがその誓約書になります」

勇者「どうする、魔法使いちゃん。この訓練、冗談抜きで危ないみたいだけど」

魔法使い「あ、あの、頑張ります!」

勇者「そっか。じゃあ、頑張ろうか」

魔法使い「はいっ」


211
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 17:36:38 ID:jnI.Pdpo
~最初のフロア~
案内人「それでは扉を開けますので、中にどうぞ」

ギイィィッ
ガチャン

魔法使い「うわあ、広いですねぇ」


私は塔の中に入り、周囲を見回した。
玄関口は開放的なスペースになっていて、奥には通路が見える。
その先に、階段や別の部屋があるのかもしれない。


僧侶「魔法使いちゃん、迂闊に歩き回ると危ないわよ。実戦形式だということを忘れないで」

魔法使い「あ、はいっ」

勇者「ちっ……」


突然、勇者さまが剣を抜いて案内人を一閃した。
案内人は胸から血を噴き出し、悶絶しながら崩れ落ちる。
それは一瞬の出来事だった。


212
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 18:14:54 ID:jnI.Pdpo
・・・
・・・・・・
案内人「ぐおぉおぉぉっ!」

魔法使い「えっ、ええっ?!」

僧侶「ゆ、勇者さま、何を……!」


僧侶は唐突な出来事に驚き、勇者を問いただした。
しかしその瞬間、案内人の体内で得体の知れない変化が起きていることに気が付いた。
全身の生体エネルギーが収束していき、魔力と激しく融和しているのだ。
さらに、爆発的に発生しているエネルギーを全身に溜め込んでいる。

そう、
これは自爆魔法だ!


僧侶「うそでしょ、こんなの有り得ない――」


213
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 18:27:35 ID:jnI.Pdpo
自爆魔法を止める方法は、二つある。
その一つが即死魔法だ。

即死魔法を使えば、すべての生体エネルギーを霧散させることが出来るからだ。
つまり魔力と融和する反応が起きなくなるので、爆発的なエネルギーが発生しなくなるのだ。
しかし魂も霧散してしまい、案内人は蘇生できなくなってしまう。

もし生命を司る賢者の石があればそれを代償にすることで蘇生させることができるが、とても高価な魔道具なので持ち合わせてはいない。
従って、案内人に即死魔法を行使することは出来ない。
山賊たちに行使したときと違い、気絶させる程度では意味がないからだ。

僧侶は横目で魔法使いを見遣った。
血塗れの案内人を見て、動けずに立ちすくんでいる。
それは人が斬られたからか、それとも膨れ上がるエネルギーに気付いたからか。
どちらにしても、彼女には残酷なものを見せることになる。

自爆魔法を止める、もう一つの方法。
その魔法だけは、純粋な少女である魔法使いには見せたくなかった。
だけど、もう迷っている時間はない――。


214
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 18:45:28 ID:jnI.Pdpo
僧侶「破壊魔法!!」


その魔法が発動した瞬間、案内人の体組織が破壊された。
脳や内臓が潰され、次々と血管や神経が切断されていく。

ボキッ
グチャッ……

骨が砕ける音。
その砕けた骨で、人肉がかき混ぜられる音。
そして全身の体細胞が破裂して、肉塊がぐちゃぐちゃと流れ出す。

すべての核と細胞質。
自爆魔法を発動するためのユニットが破壊され、まるで汚物のようになっていく案内人。
どろりと溶けて、自爆することなく絶命した。

その直後、悲鳴が聞こえた。


魔法使い「いやあぁぁぁっ!!」


215
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:03:20 ID:jnI.Pdpo
・・・
・・・・・・
勇者「魔法使いちゃん!」

魔法使い「いやっ、いやあああぁぁっっ!」


私は勇者さまに取り押さえられ、強く抱きしめられた。
そして、たくさんの涙が溢れてきた。

私は精霊魔法が使えるので、村では小動物の狩りを手伝っていた。
そして港町では、生きたまま食べる残酷な鯉料理を食べたこともある。
そう、私はこの手でたくさんの命を奪ってきた。
だけどそれは生きるためで、食べられることに感謝していた。

しかし、今回は違う。
人が人を殺したのだ。
ついさっきまで、一緒に話をしていた人を――。


216
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:10:06 ID:jnI.Pdpo
私は今まで、人が死ぬところを見たことがない訳ではない。
冬が近付くと、村の畑にグリズリーが下りてくることがある。
そんなグリズリーに、農家のおじさんが畑で襲われて殺される姿を目撃した。

腹を抉られ、腕を噛み千切られ、全身が血塗れになっていた。
そしてそのまま、悶えながら死んでいった。
病気や寿命で亡くなった人も見たことがある。
村での生活は、ときどきそのようなことがある。

だけど、溶けて崩れ落ちていく死体は見たことがない。
骨が皮膚を突き破り、肉をかき混ぜながら砕けていく。
人が人ではない、どろどろの赤黒い肉塊になって溶けていく。
そんな無残な姿にして、人が人を殺せるなんて。
そんなの、普通じゃない――。

なぜそこまでする必要があったのか、その理由は分かる。
分かるけど……受け入れられない。

そう思った直後、私は膨大な魔力を感じて顔を上げた。
案内人が着けていた魔道具が、死んだことを感知して発動したのだ。
それは強力な爆発魔法だった。


みんな死ぬ――。


217
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:38:57 ID:jnI.Pdpo
魔法使い「火精霊っ!」


私は条件反射的に火精霊を召喚した。
その瞬間、腕輪の爆発魔法が解放された。


僧侶「全体防御魔法!!」

勇者「伏せろっ!」


その言葉と同時、私は勇者さまに押し倒された。
そして間髪入れずに、激しい爆風が襲ってきた。


ドゴオオォォーーンッッ


僧侶「きゃあぁっ!」

勇者「ぐっ、僧侶さんっ!」


僧侶さんが吹き飛ばされ、壁に激しく叩きつけられた。
さらに案内人だった肉塊が、爆発で飛び散って周囲に拡散する。
しかしそんな爆風が吹き荒れる中、激しい爆炎は渦を巻きながら虚空に消えていった。
私が召喚した火精霊が、爆炎を強引に相殺させたのだ。
やがて、すべてが収まり静寂が訪れた。


218
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 19:44:54 ID:jnI.Pdpo
僧侶「勇者さま、大丈夫ですか……」

勇者「俺は大丈夫だ。魔法使いちゃん、立てるか?」

魔法使い「……はい」


私は勇者さまの手を取り、力なく立ち上がった。
そして、全身に浴びた血肉に気付いて嫌悪感を感じた。
ローブがどろどろの血肉で汚れてしまい、生暖かいぬめっとした感触が気持ち悪い。

……!!
この血肉は、さっきまで生きていた案内人だったのだ。
それなのに気持ち悪いと思ってしまった自分に、嫌悪感を感じた。

そう思った瞬間、案内人が装備していた二つ目の魔道具が発動した。
すると飛び散った血肉がすべて集まり、体組織が作られていった。
ローブの汚れもきれいになり、その一方では器官が作られ人の姿を成していく。
やがて蘇生された案内人は、塔の外に転移された。


219
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 20:09:55 ID:jnI.Pdpo
勇者「何だよ、これ……。こんなことが許されるのかよ!」

魔法使い「私、人が死んだのに気持ち悪いって、気持ち悪いって――」

僧侶「魔法使いちゃん……」

勇者「よく頑張ったね、ありがとう」

魔法使い「勇者さまっ、うわああぁぁぁん!」


私は勇者さまの胸に顔をうずめて、激しく咽び泣いた。
溢れ出る感情は涙となり、頬を伝って流れていく。


僧侶「勇者さま、魔法使いちゃんはショックを受けています。私もまさか、非人道的な手段で襲ってくるとは思わなくて……。正直に言って、こんなのはつらいです。魔法使いちゃんの前で、攻撃魔法として人に向けたくなかったのに――」

勇者「僧侶さんは間違っていない。間違ってないから!」

僧侶「でも、私のせいで魔法使いちゃんは――」


220
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 20:29:57 ID:jnI.Pdpo
勇者「とりあえず、これからどうするか考えよう」

僧侶「そんなの、考えるまでもないじゃないですか。もう帰りましょう!」

勇者「そう……だな」

僧侶「きゃっ!」バチッ

勇者「まさか強力な結界魔法?! 僧侶さん、大丈夫か!」

僧侶「……大丈夫です。どうやら私たち、塔の中に閉じ込められたみたいですね」

勇者「そうなると、帰る方法は3つだけだな」


1、最上階の出口から出る。
2、予約時間が過ぎるのを待つ。
3、魔道具が発動する条件を満たす。


僧侶「私は予約時間が過ぎるのを待つほうが良いと思います!」

勇者「それがベストかもしれないな。だけど、俺は上に行くことも考えている」


221
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 20:39:42 ID:jnI.Pdpo
僧侶「ちょっと待ってください! 上に行くって、本気なんですか?!」

勇者「少し気になることがあるんだ」

僧侶「案内をしてくださっていた方が、いきなり自爆魔法を行使してきたんですよ! それを防いだら、爆発魔法の魔道具が発動したんですよ!」

僧侶「魔法使いちゃんが頑張ってくれなかったら、みんな死んでいたかもしれません。こんなの異常です! 私は反対ですっ!」

勇者「だから、実戦形式なんだろ。残念だけど、実戦は命の奪い合いだ」

僧侶「確かにその通りです。だけど、こんなやり方は訓練とは言いません。今のなんて、人間爆弾じゃないですか! 生き返るなら自爆をしてもいいんですか?! そんなの、戦争だとしても非人道的で常軌を逸しています」

勇者「僧侶さんの気持ちも分かる。だから、少し落ち着いてほしい」

僧侶「……この状況で、落ち着いていられるとお思いですか! 私たちだけなら、上に行っても良いです。でもこれ以上、魔法使いちゃんに残酷な場面を見せたくないんです!」

勇者「分かってる。だから、俺が一人で行ってくる」


222
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 21:21:44 ID:jnI.Pdpo
僧侶「ルール上、ここはもう安全です。一人で上に行くのは危険だと思います!」

勇者「もし異常事態が起きているなら、そのルールが守られる保障はないだろ。だから、確かめないといけないんだ」

僧侶「それは……」

勇者「昨日バトマスたちは、『本気でやらないと殺されそうだった』と言っていた。だけど、あいつは『模擬戦』と表現したんだ。何か印象が違いすぎると思わないか?」

僧侶「昨日、私たちの技量を測っていましたよね。レベルに応じた結果が、この仕打ちかもしれません」

勇者「そうかもしれないし、そうではないかもしれない。ひとつ不審な点があるんだ。案内人を蘇生させたあの魔道具、僧侶さんは何だと思う?」

僧侶「私には分かりません……。賢者の石や修復蘇生魔法、それらを超える何かだと思います」

勇者「おかしいだろ。そんな魔道具を使えば、支援施設は採算が取れないじゃないか。この腕輪も安全のために装備しているけど、発動させないほうが支援施設は利益が増えるんだ」

僧侶「利益って……。でも、そう考えるとそうですよね」

勇者「だから、俺は異常事態が起きていると思うんだ」

僧侶「そう……でしょうね」


223
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/14(月) 21:28:55 ID:jnI.Pdpo
勇者「とりあえず、採算度外視の実戦訓練の可能性もある。それを確かめるために、俺は2階の様子を見てくるよ。僧侶さんは魔法使いちゃんを頼む」


勇者さまはそう言うと、優しく抱き締めてくれていた腕を放した。
そして私は、ぼんやりと立ち尽くす。


僧侶「分かりました。もし何かが起きているなら、この先も卑劣な罠があるかもしれません。だから、このネックレスを持って行ってください」

勇者「これは?」

僧侶「私が作った、治癒魔法の装身具です。いざという時のために、魔法を込めているんです」

勇者「ありがとう。それじゃあ、行ってくるよ。僧侶さんも一応、外からの敵に警戒しておいてくれ」

僧侶「はい。勇者さま、必ず戻ってきてくださいね」


224
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 22:36:11 ID:7KqjtCnc
魔法使い「僧侶さん……」グスッ


勇者さまが通路に消えた後、私は沈うつな表情で呟いた。
その言葉を聞いて、僧侶さんが優しく手を差し伸べてきた。
しかし、私はその手を振り払った。


僧侶「あっ……」

魔法使い「どうして、あんな無残な殺し方をしたのですか?」

僧侶「それは……」

魔法使い「ごめんなさい、本当は分かっています。それ以外の手段がなかったことは分かっているけど、その……受け入れられないんです」


僧侶さんは今まで、命の大切さを教えてくれた。
優しくて慈愛に溢れていた。
だけど、あんな殺し方が出来るだなんて普通じゃない。
どっちが、あなたの本当の姿なの?

私はすがる様な視線を向けた。
するとややあって、僧侶さんは伏し目がちに話し始めた。


225
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 22:53:29 ID:7KqjtCnc
僧侶「魔法使いちゃん、聞いてくれる?」

魔法使い「……」

僧侶「以前、魔法は必要なのかなって言ってたでしょ。本当は、魔法なんてないほうがいいのかもしれない。だって、魔法は戦争で人を殺すための武器だから」

魔法使い「人を殺すため……」

僧侶「今は極南の地にある闇のおかげで国同士が協力しているけど、昔は魔族と人が殺し合い、国と国が戦争をして人々は殺しあっていたの」

魔法使い「魔族と人々が争っていたことは、精霊神話で勉強しました。魔法の発見と精霊たち。そして、魔族の侵攻と争いの歴史――」

僧侶「その争いで、人はすべての魔族を滅ぼしたの。魔法を使って、一匹残らず根絶やしにして……ね。職業として僧侶を選んだ人は、精霊魔術を学んで賢者になる人が多い。それはどうしてだと思う?」

魔法使い「……分かりません」

僧侶「攻撃する手段を持たなければ、敵兵に殺されてしまうからよ。だから私も、殺めるための魔法を身につけたの。教会でも蘇生させることが出来ない即死魔法を――」

僧侶「そして敵兵に捕まっても逃げられるように、拘束具の組成を研究したり、金属を破壊するために錬金術を学んだの。私が使う防御魔法は、それらの研究で編み出した魔法なんだよ。だって、壊せるなら強化も出来るはずでしょ?」

魔法使い「じゃあ、僧侶さんはどんな物でも壊せるんですね……」

僧侶「組成を理解している動植物や、防御魔法で強化できるものならね」


226
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:12:11 ID:7KqjtCnc
魔法使い「僧侶さんは、どうして女賢者にならなかったんですか」

僧侶「私は人を殺めるために精霊魔術を学ぶよりも、人間のこと、命のことをもっと深く知りたかったの。さっき見せた破壊魔法は残酷な魔法に見えるけど、正しく使えば命を救うために必要な魔法なんだよ。そのことは、魔法使いちゃんに分かってほしい」

魔法使い「やっぱり、僧侶さんは僧侶さんなんですね」


確かに、無残な殺し方が出来るかもしれない。
人を壊し、物を壊すことが出来るかもしれない。
だけどそれ以上に、命を救い、人を守ることを考えている。
それは、私がよく知っている僧侶さんの姿だった。


僧侶「もう何が言いたいのか分からなくなってきたけど、精霊魔術を得意とする魔道師は、治癒魔法を覚えて賢者になろうとはあまりしないの。なぜなら、やられる前に殺せば良いだけだから」

僧侶「だから魔法使いちゃんは、今の気持ちを大切にしてほしいと思う。無残な遺体を見て、気持ち悪いと思ったことも乗り越えて欲しい。その先に、魔法使いちゃんが目指す姿があると思うから」


227
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:16:30 ID:7KqjtCnc
魔法使い「はい……。でも、僧侶さんは一つだけ間違っています」

僧侶「間違ってる?」

魔法使い「魔法がなくても、剣やナイフがあります。魔法は攻撃手段のひとつでしかないんです。魔法が必要ないのではなくて、魔法を使う人の心が間違っているんだと思います。だって、魔法は誰かを守るための手段のひとつなんですから」

僧侶「そう……だよね」

魔法使い「はい。あの自爆魔法は、僧侶さんにしか止めることが出来ない魔法でした。そして、僧侶さんにはあれ以外の手段がなかった。私たちを守ってくれたのに、ごめんなさい……」


そう言うと、再び涙が溢れてきた。
そんな私に、僧侶さんがためらいながら腕を伸ばす。
一瞬、視線が交わる。
そして私は、柔らかい温もりに包まれた。


228
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:31:19 ID:7KqjtCnc
それからしばらくして、私は僧侶さんの腕を解いた。
そして顔を上げ、涙を拭った。


僧侶「魔法使いちゃん、気持ちは落ち着いた?」

魔法使い「はい……」

魔法使い「僧侶さんは今まで、私に命の大切さを教えてくれました。さっきのことはショックだったけど、自分なりに受け止めたいと思います。そして人が殺されて気持ち悪いと感じたことも、自分の心の醜さと向き合って改めていきたいです」

僧侶「うん、そっか……」

魔法使い「だから、私は逃げずにここを上ろうと思います」

僧侶「本当にそれでいいの? さっきみたいな事が、また待ち受けているかもしれないわよ」

魔法使い「分かっています。だけど、私たち三人で力を合わせないと乗り越えられないと思うんです」


229
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:35:19 ID:7KqjtCnc
僧侶「魔法使いちゃん、強くなったね」

魔法使い「まだ、そんな実感はわかないです」

僧侶「上に行くなら何が起きるか分からないし、この指輪を渡しておくわね。これにも治癒魔法を入れてあるから」


私は指輪を受け取ると、右手の小指にはめた。
赤いルビーがあしらわれていて、きらりと輝いている。
素材は普通の指輪なので、デザインがとても可愛い。


魔法使い「ありがとうございます」

僧侶「それじゃあ、行きましょうか。勇者さまのところに――」

魔法使い「はいっ」


230
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:40:02 ID:7KqjtCnc
~2階のフロア~
階段を上がると、1階に下りてこようとしていた勇者さまとすれ違った。
上ってきたことに驚いているのか、目を丸くしている。


勇者「二人とも、どうしてここに……」

僧侶「私たちも上ることにしました。2階の様子はどうですか?」

勇者「それが、何もなかったんだ。通路が入り組んでいてトラップが仕掛けてあると思ったんだけど、そういう物も何もなかった」

僧侶「奇妙ですね……」

勇者「本当に二人も上に行くのか? 何があるのか分からないぞ」

魔法使い「私は逃げずに最上階を目指したいです」

勇者「そうか……。それじゃあ、慎重に上っていこう」

魔法使い「はいっ、頑張りましょう!」


231
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:58:25 ID:7KqjtCnc
~3階のフロア~
私たちは入り組んだ通路を抜けて、3階への階段を上った。
足音を気にしながら慎重に進み、勇者さまがゆっくりと扉を開く。
そして部屋を覗くと、そこは1階のような中部屋になっていた。


勇者「誰もいないな」

魔法使い「そうですね。魔力は感じませんし、魔術系のトラップもなさそうです」

勇者「次で最上階だけど、どうなっているんだ」

僧侶「このまま、何も起きなければいいのですが……」


疑問に感じつつ、3階のフロアを抜けて階段を上る。
そして最上階の扉の前で、勇者さまが鋭い表情を見せて立ち止まった。


勇者「二人共、中に誰かいるぞ」

僧侶「そうみたいですね」

勇者「1階のことがあるし、本当に何が起きるか分からない。警戒を怠らないようにしよう」

僧侶・魔法使い「はいっ」


232
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/16(水) 23:59:25 ID:7KqjtCnc
~最上階のフロア~
扉自体がトラップであることも想定しながら、勇者さまがゆっくりと扉を開ける。
そして中を覗くと、最上階は大部屋になっていた。
吹き抜けになっていて、夏の青空が見えている。
そんな部屋の中央に、翼の生えた翼人が立っていた。


翼人「待っていたよ、勇者ご一行さん」

勇者「お前が最上階の相手か!」

翼人「そうです。自ら降りていこうかと思うくらい、待ちくたびれましたよ」

魔法使い「ね、ねえ、勇者さま。あの人、翼が生えていますよね……」

僧侶「もしかして、魔族……堕天使なんですか?!」

天使「失礼ですね、僕は大天使ガブリエルです」


233
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 22:21:04 ID:8Jtis6nY
僧侶「神の使いが、どうしてこんな所に……」

天使「女神さまの加護を受ける者と、それが選んだ者。その実力を見せてほしくて、ここに来た次第だ」

勇者「どういうことだ! 案内人の自爆は女神の意志なのか?!」

僧侶「えっ、まさか……」

勇者「少なくとも、この天使が何かを企んでいるのは間違いない。賢者の石を超える能力を持つ魔道具、僧侶さんでも知らなかったんだろ」

天使「今は問答をするつもりはない。まずは実力を見せてくれないかな」

勇者「魔法使いちゃん、戦える?」

魔法使い「はい、大丈夫です!」


私はそのために来たのだ。
戦わずに逃げるなんてことはしない。
しかも相手が大天使の一人である以上、三人で立ち向かわないと勝てはしないだろう。


234
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 22:31:36 ID:8Jtis6nY
天使「では始めようか。ゴーレムとサイクロプスを連れてきたから、二体まとめて倒してごらん!」

ゴーレム「ユウシャ、コロス!」

サイクロプス「ウガアァァッ」


二体の魔物が、どこからともなく召喚された。
全身が岩石でできた要塞のような怪物と、巨大な樫のこん棒を持っている一つ目の巨人だ。
それらは、精霊神話の時代に根絶やしにされたはずの魔族だった。


僧侶「うそっ、どういうことなの?!」

魔法使い「分かりません……」

勇者「二人とも、来るぞっ!!」


235
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:12:09 ID:8Jtis6nY
見上げるほどの巨体にもかかわらず、二体の魔族は俊敏に駆け出した。
その内の一体。
ゴーレムを見て、私は声を上げた。


魔法使い「岩石の怪物は任せてください!」


魔力で命を与えられた魔物ならば、すでに砂漠で戦闘済みだ。
岩石か砂か、所詮その程度の違いしかない。


魔法使い「土精霊召喚! 砂になれっ!!」


土精霊をゴーレムの身体に干渉させて、全力で魔力を注ぎ込む。
すると駆け出したゴーレムの脚が崩壊し、次の瞬間には大量の砂山に変化した。
そして崩れ落ちた砂山を石化させて、床に張り付けた。
これでもう、復活して動くことは出来ない。
ゴーレムだったものを見やり、私はサイクロプスを見据えた。


236
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:20:42 ID:8Jtis6nY
サイクロプス「ウグアァァッ!」


サイクロプスは雄たけびを上げながら、こん棒を振り回していた。
勇者さまはそれをかわし、間合いに飛び込んで右足を斬り払う。
しかし何事もなかったかのように、サイクロプスはそのまま勇者さまを蹴り飛ばした。


勇者「ぐはっ……」

魔法使い「勇者さまっ!」

僧侶「魔法使いちゃん、危ないっ!」


勇者さまを案じて目を向けると、僧侶さんの声が響き渡った。
はっとして振り返ると、サイクロプスが巨大なこん棒を大きく振りかぶっていた。
それが振り下ろされ、私は身体を硬直させる。

もう間に合わない。
このまま叩き潰されて死んでしまう――。

しかし覚悟を決めた瞬間、こん棒がガラスで出来ていたかのように砕け散った。


237
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:36:55 ID:8Jtis6nY
魔法使い「えっ?!」

僧侶「魔法使いちゃん、今は命がけの戦いなのよ! 敵から目をそらさないで!」

魔法使い「は、はいっ!」


どうやら、僧侶さんが破壊魔法でこん棒を壊してくれたらしい。
私は礼を言い、戦闘に集中した。
武器がなければ、サイクロプスはただの巨人だ。
身長差のせいで、もはや蹴るか踏みつけるくらいしか出来ないはずだ。


勇者「魔法使いちゃん、凍結頼むっ!」

魔法使い「はいっ、凍結魔法っ!!」


大気中の水分が凍りつき、サイクロプスは氷付けになった。
しかもここは海が近いので、水が豊富にあり完全に凍結させることが出来る。
そして凍結したサイクロプスは崩れ落ち、勇者さまがその隙に首を斬り払った。
断末魔の悲鳴が耳をつんざき、砕けた氷が血で赤くなる。
やがて案内人と同じ魔道具が発動したのか、サイクロプスは転移して消えてしまった。


238
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:38:55 ID:8Jtis6nY
天使「うわぁ、瞬殺だし。すごいすごい!」

天使「しかもゴーレムを土精霊で強引に破壊する人間なんて、はじめて見たよ。さすが、勇者ご一行の魔道師は一味違うねえ」

魔法使い「これは喜んでいいのでしょうか……」

天使「そうだね、褒めているつもり。なかなか出来ることじゃないからね」

魔法使い「あ、ありがとうございます」


私は戸惑いつつ、笑顔で返した。
大天使に褒められるだなんて、まるで夢みたいだ。
危ない場面もあったけど、すごく自信がわいてきた。


239
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:51:42 ID:8Jtis6nY
天使「でもねえ、人間でなければ殺しても良いのかい?」

魔法使い「えっ……」

天使「見てみなよ、砂にされて石化させられたゴーレムを――。魔法使いちゃんは、精霊魔法でゴーレムを破壊した。それは、彼女が見せてくれた破壊魔法と同じじゃないか。一体、何が違うんだろうね」

魔法使い「そ、それは……」

天使「サイクロプスだって、殺されて痛かっただろうにねえ」


私は石化させたゴーレムと砕け散っている氷片を見た。
僧侶さんの破壊魔法と私の土精霊による岩石破壊。
それは突き詰めると、まったく同じ行為なのだ。

私がしたことは、僧侶さんと何も変わらない。
人間か魔族かの違いがあっただけだ。
だけど、私は――。


勇者「お前は俺たちの実力を見たかったんじゃないのか! 殺すつもりで襲わせておいて言えることか!」

僧侶「魔法使いちゃん、耳を貸しては駄目です!」


240
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:54:56 ID:8Jtis6nY
天使「僕は彼女と話をしているんだ。少し黙っていてくれないか?」

魔法使い「そんな話をして、私に何をさせたいのですか」

天使「キミの答えを聞かせてもらおう」

魔法使い「答え?」

天使「どんな理由があろうとも、命を奪うことは未来を奪うことだ。魔法使いちゃん、ただの村娘に過ぎないキミに、その犠牲を背負う覚悟があるのかい?」


そう、私はただの村娘かもしれない。
だけど、この旅を通じてたくさんのことを学んできた。
僧侶さんから命の大切さを教わり、この塔では人を殺すことがどんなことか学んだ。
そして覚悟が出来たから、私は今ここにいるんだ!


魔法使い「私は無益な殺生で命を奪うことは、絶対にするべきではないと思います。だけど身を守るために、やむを得ない場合もあることを知りました。私は奪った命を無価値なものにするつもりはありません!」

天使「そうか、それがキミの答えなんだね」

魔法使い「はいっ!」


241
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/17(木) 23:54:56 ID:8Jtis6nY
天使「じゃあ、自分の身を守ってみせてよ。魔法使いちゃんに本当の魔法の使い方を教えてあげるよ」

魔法使い「えっ……?」

天使「土精霊は興味深い使い方だった。でもね、水精霊での攻撃は駄目だったよ。人間は誰もが、空気中の水蒸気を凍結させようとする。もっと思い切らなくちゃ。凍結魔法!」


強大な魔力を感じた瞬間、右腕に激しい痛みが走った。

筋肉と皮膚、血液、骨。
肩から指先に至るまで、『右腕そのもの』が完全に凍結している。
そして凍結により破壊された右腕は、肩の関節から折れてぼとりと落ちた。
その衝撃で落下した腕が肘で割れ、指先の関節が砕け散る。
さらに腕が落ちた右肩からは血が溢れ出し、耐え難い激痛に襲われた。


魔法使い「あがあぁああっ、いやあああぁぁぁぁっ!」


私はあらん限りの声で絶叫して、悶えながら崩れ落ちる。
そしてその瞬間、治癒魔法が発動して指輪が壊れた。
しかし、砕けた右腕は治癒魔法の限界を超えていた――。


242
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 01:00:11 ID:YbzwCgdU
魔法使い「やあっいやああぁぁっ、うぐうぅぅっ……!!」

天使「ほらっ。次は風精霊の攻撃方法を、その身に教えてあげるよ」

天使「人間は刃物のように攻撃するのが好きみたいだけど、そんな不確実な方法は駄目だよ。生物なんだからさあ、他にすることがあるだろ」

魔法使い「むぐぅぅっ……」


口と鼻から大量の空気が押し込まれる。
吐くことは許されず、次々と肺に空気が詰め込まれていく。
胸が膨らみ、叫ぶことも許されず、あっという間に肺が破裂した。

さらに空気の刃が心臓を切り裂き、食道から多量の空気が送り込まれる。
胃や小腸に侵入した空気が暴れ、次々と消化管を破裂させていく。
さらに切断された血管から気泡が入り込む。

空気の塊に体内が蹂躙されていく。
意識が朦朧として、もうどこが痛いのか分からない……。

吐き出される空気とともに血を噴き出しながら、私は力尽きた。


243
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 01:10:45 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
僧侶「魔法使いちゃん!!」


僧侶は魔法使いに駆け寄り、声を掛けた。
しかし、魔法使いはぴくりとも反応しなかった。

凍結して、砕けてしまった右腕。
苦悶の表情を浮かべたまま、定まっていない視線。
口元からは鮮血が溢れ出し、顔と床を赤く染めていく。
そんな彼女の虚ろな瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。

この一瞬の間で、魔法使いはどれ程の苦しみを味わったのだろう。
幸いにして脳が無傷なので、まだ生きてはいる。
しかし、それもすぐに機能が停止するだろう。


魔法使いは、もう死んでいる――。


244
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 22:06:21 ID:YbzwCgdU
勇者「僧侶さん! 早く魔法使いちゃんをっ!」

僧侶「はいっ!」


僧侶は気持ちを切り替え、魔法使いの蘇生に意識を集中させた。
支給された魔道具により蘇生することは分かっているが、欠損した右腕が再生するとは限らない。
しかも、どこに転移させられるのかも分かっていないのだ。
だから魔道具が発動するよりも早く、魔法使いを蘇生させなければならない。


僧侶「水精霊召喚。鎮痛魔法、修復蘇生魔法!!」


凍結した右腕を解凍し、魔法使いを包み込むように魔法陣を展開させた。
魔法医学を極めた女僧侶として、最上級の修復魔法を行使する。
その魔法に包まれて体組織が修復され、右腕や内臓が再生され始めた。
そして、魔法使いの小さな身体に命が戻っていく。


天使「へぇ、僧侶さんは生命を支配しているのか。人間を超える領域にまで達しているとは、実に素晴らしい。だけど人間の器を抜け出せない以上、そこに能力の限界がある」


245
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 22:19:05 ID:YbzwCgdU
勇者「これ以上、好きにさせるかっ!!」


勇者は何かしようとしていた天使へと、斬りかかった。
風精霊の力を宿し、二段構えの斬撃を飛ばす。
しかし天使はその風を反転させて、軽々といなした。


天使「駄目だね。そんな剣では僕には勝てないよ。土精霊!」


その言葉と同時、ゴーレムだった石山から強大な石槍が突き出された。
勇者はとっさに飛び退き、剣を構える。
そして土精霊の力を宿して、巨大な石槍を叩き壊した。


勇者「そっちこそ、その程度で俺を倒せるものか!」

天使「なるほど。では、次はよけられるかな?」


246
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:04:23 ID:YbzwCgdU
すると今度は、石のつぶてが飛んできた。
猛スピードで鎧に当たり、石が砕け散る。
それは、人の目では捉えることが出来ないスピードだった。
そんな速さで次々と射出された石つぶてが、勇者の手足に被弾していく。


勇者「ぐああぁっ!」

天使「その程度で俺を、何だって?」


僧侶から渡されたネックレスが崩れ、治癒魔法が解放された。
銃創が回復し、痛みが引いていく。
しかし、このままではじり貧だ。

もし通常の魔法銃であれば、相手の目を見ることで狙いやタイミングを推し量ることが出来る。
しかし石山全体から無秩序に放たれる弾丸では、相手の心理を読むことは出来ない。
避けることは困難となり、ただの的になるしかない。
それでも、まだ打つ手は残されている。


247
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:15:40 ID:YbzwCgdU
勇者「大地斬っ!!」


勇者は眼前の床に向けて、全力で剣を振り下ろした。
そして剣に宿された土精霊の力が、最上階の床を斬り裂いた。
次々と床が割れ、溝が広がっていく。
やがて石山の重量に耐えられずに、床の一部が階下へと崩落した。


天使「床を抜くとは面白い。だが、詰めがあまい!」


その言葉と同時、勇者の背後から石つぶてが飛んできた。
勇者は足を打ち抜かれ、血を滴らせながら膝を付く。
さらに石つぶてが弧を描き、勇者の腕を貫いた。


勇者「ぐっ、くそっ……」

天使「妙案のつもりだったのだろうが、すでにたくさん落ちているじゃないか。さあ、次はどんな策を見せてくれるんだい?」


248
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:15:40 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
魔法使い「ゼエゼェ……僧侶さん……」

僧侶「魔法使いちゃん、気が付いたのね!」

魔法使い「……はい」


どうやら、僧侶さんのおかげで一命を取り止めたらしい。
だけどまだ完全に治癒していないのか、猛烈な腹痛と虚脱感を感じる。
それに耐えながら周囲の情況を確認すると、勇者さまが血塗れで倒れているのが見えた。


魔法使い「私より勇者さまを……。早くしないと……し、死んじゃう」

僧侶「分かってるけど、まだ魔法使いちゃんのほうが危険な状態なのよ」

魔法使い「だい……じょうぶです。僧侶さん、勇者さまを助けて」

僧侶「分かった。無理はしないでね」


私はおぼつかない足取りで、ふらふらと立ち上がった。
そして、全力で爆発魔法を詠唱した。


249
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:15:40 ID:YbzwCgdU
魔法使い「……爆発魔法!!」


激しい爆発が天使を吹き飛ばし、その隙に僧侶さんが駆け出した。
しかし翼が吹き飛んだだけで、見る間に回復してしまった。
これでは、時間稼ぎにすらならない。


天使「良かった、無事に蘇生したんだね。少しやりすぎたかなって、心配したよ。それにしても、殺されても怯えずに攻撃する精神力。想い慕う力は強い――か」

魔法使い「ゼェゼェ……」

天使「ところで、キミたちはさあ、どうして魔法を使えると思う?」

魔法使い「そんなの、常識……だと思うんですけど」

天使「いや、よく考えてみるといい。燃焼には三つの要素が必要だし、空気中の水蒸気を凍結させて物質の三態までも操作している。さらには致命傷を一瞬で治癒したり、蘇生までしてしまう」

天使「それらを可能とするエネルギーは、一体どうやって調達しているんだろうね?」

魔法使い「どういう意味……ですか」

天使「世界の扉を閉めさせてもらうよ。封印魔法!」


250
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:32:55 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
僧侶「治癒魔法!」


魔法使いが天使の話を引き伸ばしてくれている間に、僧侶は勇者に治癒魔法を施した。
しかし、勇者の出血が止まることはなかった。


僧侶「えっ?! 魔法が使えない!」


天使が何かの魔法を発動した直後から、不思議な感覚に包まれている。
全身が魔力で満たされているのに、それを根こそぎ奪い取られたかのような虚脱感。

以前、魔術書で読んだことがある。
魔族との戦争時、堕天使が魔術を封じる魔法を使っていたことを――。

神の遺産が示す、世界への扉。
その扉が閉ざされたとき、魔法を失うと云われている。
つまり魔力や魔法の源は、向こう側の世界にあったのだ。


251
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:48:51 ID:YbzwCgdU
勇者「僧侶さん、大丈夫だ。これくらい問題ない……」

僧侶「大丈夫なわけがないじゃないですか! この髪留めに治癒魔法を込めています。今から、それを解放します!」


魔力を解放すると、治癒魔法が発動して髪留めが崩れた。
そして勇者の出血が止まり、傷がすべて回復した。
どうやら、すでに魔法の形で留めていたものは使えるようだ。

しかし、回復用の装身具を用意していたのは三人分。
ネックレスと指輪、髪留め。
それらをすべて使ってしまったので、僧侶はもう治癒魔法を使うことは出来ない。


252
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/18(金) 23:55:07 ID:YbzwCgdU
・・・
・・・・・・
天使「さて、最後は火精霊だ。人は皆、火を熾すことに満足して、最も効率よく燃焼させる方法に気付いていない。魔法使いちゃん、火炎魔法の炎の色は何色だと思う」

魔法使い「黄色……だと思います」

天使「それでは不完全だ。火炎魔法を使うなら、風精霊も組み合わせないといけない。それが、本当の火炎魔法なんだよ」

魔法使い「あ、青白い炎?!」


炎は赤いものだと思っていた。
強い炎ほど、黄色く輝きが増すものだと思っていた。
それが私にとって常識だった。

それなのに天使の火炎魔法は、青白い炎が鋭利に輝いていた。
この炎が具現化したとき、なすすべもなく焼き尽くされてしまうのではないか――。
そんな想像が脳裏をよぎる。

しかし、攻撃手段がないわけではない。
盗賊たちに魔力を空っぽにされた苦い経験から、宝石を使ったアクセサリーを買ってもらっているのだ。
それらのアクセサリーに四大精霊を封じ込めて、いつも身に付けている。


253
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 00:22:16 ID:yaa41MzQ
魔法使い「火精霊、風精霊、解放しますっ!!」


その言葉と同時、火精霊と風精霊の装身具が崩れた。
そして、天使が使役している火炎魔法を攻撃した。
あれが火精霊と風精霊から作られているのなら、こちらも同じ精霊をぶつけてしまえばいい。


天使「その程度の魔力では、力押しなんて無理だよ。しかも、これでは爆発魔法の魔力バランスじゃないか。どのように現象を支配しているのか、その身をもって知るがいい」

魔法使い「そんな……」

天使「火炎魔法!」


装身具だけの魔力では天使に敵うはずがなく、無常にも青い炎が放たれた。
今度は焼き尽くされて殺される。
そう思った瞬間、目の前で炎が弾け飛んだ。


254
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 00:23:16 ID:yaa41MzQ
勇者「精霊魔法なら、俺が斬り捨ててやる!」

魔法使い「勇者さまっ!」

天使「そうか、女神さまの加護か」


勇者さまには女神の加護があるので、状態異常に類する魔法は効果がない。
だから魔法剣を使うことが出来て、火炎魔法の精霊を斬ることが出来たのだ。
そして、もう一つ。
女神の加護を持つ者は、電磁気力を操る魔法を使うことが出来る。


勇者「電撃魔法っ! 食らえっ、雷神斬り!!」

天使「くっ!」


勇者さまは刀身に電撃をまとわせ、力強く振り下ろした。
そして放たれた稲妻と斬撃が、たじろぐ天使を両断した。


255
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 21:25:30 ID:yaa41MzQ
勇者「はぁはぁ、どうにか倒せたか――」

魔法使い「勇者さま、すごいです!!」


私はおぼつかない足取りで、勇者さまに歩み寄った。
そして、天使へと目を向ける。

すると突然、崩れ落ちた天使の身体が光り始めた。
まばゆい輝きを放ち、光の繭に包まれていく。
そして目がくらむほどの閃光が走ったかと思うと、何事もなかったかのように立っていた。


魔法使い「魔法を使わずに蘇生した?!」

天使「痛ててて……。さすが、女神さまに加護されているだけあるよ。あの魔法は、さすがに痛いな――」

勇者「くそっ、もう一撃!!」

天使「その必要はない。勇者ご一行の実力は分かったから、これで十分だ。キミ達に勝ちを譲ろう」

勇者「勝ちを譲る……だと?」

天使「人間では僕たち大天使には勝てない。だから、譲ると言ったんだ」


256
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 21:27:48 ID:yaa41MzQ
勇者「一体、何が目的なんだ!」

天使「そのことだけど、魔法使いちゃん。苦しい思いをさせてごめんね」


不意に名前を呼ばれ、私は戸惑った。
死ぬ思いをさせておいて、軽いノリで謝られても困ってしまう。


魔法使い「一体どういうつもりなんですか」

天使「どんな理由があろうとも、命を奪うことは未来を奪うことだ。だからこそ命を奪う重さ、奪われる苦しみを知っておいてほしかったんだ。他ならない、キミに――ね」

魔法使い「だから、私を――」

天使「そういうことかな。そして魔法使いちゃんは、『奪った命を無価値なものにするつもりはない』と誓ってみせた。その言葉、忘れないでいてほしい」

魔法使い「はい……」

天使「それにしても、キミの魔法は力強くて興味深い。だけど、魔法防御が課題かな。あの程度で死ぬようだと、人間止まりだよ」

魔法使い「すみません、もっと頑張ります」

天使「そうだね、期待しているよ」


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以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:10:56 ID:yaa41MzQ
僧侶「ふざけないでください! 魔法使いちゃんを殺しておいて、『命を奪われる苦しみを知っておいてほしかった』とか、あまりにも勝手が過ぎるんじゃないですか?!」

天使「それは心外だなあ。死んでも生き返るように、キミたちには魔道具を渡してあるじゃないか」

僧侶「そういう問題じゃないんです。どうして、こんなことをしたんですか! 1階の案内人も、自爆させましたよねえ!」

天使「目的のために犠牲は付き物だ。彼が自爆したことで、キミたちは命の大切さを考えた。そして彼女も殺されることで、命の大切さを深く知っただろう。それだけでも、大きな意義があったと言えるんじゃないかな」

僧侶「そうでしょうか。私には、その必要があったとは思えません!」

天使「大局が見えていないから、そう思うだけだよ。この塔で4つの命が消えた。それを価値のある犠牲に出来るかどうかは、キミたち次第だ。違うかい?」

魔法使い「そう……ですよね。私は誰の命も、無価値なものにしたくはないです」

僧侶「魔法使いちゃん……」

魔法使い「まだすごく苦しいけど、ここに来て良かったです」


258
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:14:05 ID:yaa41MzQ
勇者「大局が見えていないと言うなら、教えてもらおうか。女神はなぜ、俺に神託を下したんだ。こんな茶番をした目的は何なんだ!」

天使「キミたち三人に期待しているからだ。だからこそ、僕が会いに来たんだ。それ以外に、どんな理由があるというんだい?」

勇者「くっ……」

天使「それでは、試練を乗り越えたキミたちにメッセージだ」


天使はそう言うと、勇者さまにパズルを手渡した。
どうやら、ポリオミノ系の詰め込みパズルのようだ。


勇者「これがメッセージ?」

天使「それを解けば、おのずと分かるだろう。試される者よ、キミたちが成し遂げてくれることを期待しているよ」


その言葉と同時、世界が光に包まれた。
そしてそれが治まると、身代わりの腕輪とともに天使の姿が消えていた。


259
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:30:46 ID:yaa41MzQ
~支援施設~
受付「大変申し訳ありませんでした」ペコペコ


支援施設に戻ると、受付さんに頭を下げられた。
どうやら本来の担当者が何者かに襲われて、訓練施設を占拠されていたらしい。
そして救助に向かったものの、強力な結界でどうにもならなかったそうだ。


勇者「まあ、無事に帰れたから良いものの……」

受付「しかし、大天使ガブリエルですか。神の使いが興味を持たれるとは、よほど腕が立つ方々なのですね」

勇者「はは、それはどうだろ」

魔法使い「そんなことないです。勇者さま、格好よかったです!! 僧侶さんも、本当にありがとうございました!」

僧侶「魔法使いちゃんも、よく頑張ったね。それでは、そろそろ戻りませんか?」

勇者「そうだな」

受付「あの、こちらは無料サービス券となっております。またの機会にご利用ください」


260
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 22:43:27 ID:yaa41MzQ
~客船~
部屋に戻り、私たちはパズルと向き合った。
長方形が4つ又は5つ繋がったピースが11個あり、それらが長方形の枠の中にきっちり納められている。
そしてそれとは別に、1単位の長方形のピースが1つ、枠外に分けられていた。


勇者「天使に渡されたこのパズルは、どういう意味なんだろ」

僧侶「恐らくですけど、この枠外にある長方形のピースが、この中に入るのではないでしょうか」

勇者「いやいや。いくら何でも、それは無理だろ」

僧侶「正方形を切り分けて並べ替えることで、面積が増減する不思議なパズルがあるんです。これも図形消失パズルの一種かもしれません」

勇者「へぇ、そういうパズルがあるんだ」

僧侶「だけどこれはポリオミノ系で、枠の大きさが固定されているんですよね……」

魔法使い「とりあえず、試してみましょうよ」

僧侶「そうだね。暇つぶし暇つぶし♪」

勇者「これ、長方形の向きを統一しないと段違いになるな」

僧侶「そうですね」

魔法使い「なかなか納まりませんねえ……」


261
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 23:00:10 ID:yaa41MzQ
僧侶「えっと、これでどうかなあ」カチャカチャ

魔法使い「僧侶さん、入りましたよっ!」

僧侶「やっぱりね」

勇者「それにしても、すごいな……。枠にきれいに入っていたのに、さらにもう一つ入っちゃったぞ」

魔法使い「ですよね、興味深いです。最初に少しだけ余裕があったけど、それが利いているんでしょうね」

勇者「だけど、これにどんなメッセージが込められているんだ?」

魔法使い「もしかすると、ペントミノ系のパズルだということがヒントなのかもしれません」

僧侶「つまり、この枠は世界を表しているということ?」

魔法使い「そうです」

僧侶「だとすると、何者かが世界に侵入しているのかもしれないわね」


262
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 23:39:35 ID:yaa41MzQ
勇者「それって、どういうことだよ。俺にも分かるように説明してくれ」

僧侶「ポリオミノ系のパズルにとって、枠は世界なんです。そして世界の外側にあったピースが、中に入りましたよね」

勇者「なるほど、そういうことか」

僧侶「つまりですよ、このパズルは『何者かが世界に侵入している』ことを示すものではないでしょうか。そして私たちに、その何者かを倒してほしいのではないでしょうか」

勇者「もしそれがメッセージなら、極南の地には魔王がいるのかもしれないな。やはり、復活していたのか」

僧侶「でも、腑に落ちないことがあるんです」

勇者「腑に落ちないこと?」

僧侶「はい……。方法はどうあれ、天使は命の大切さを強調していましたよね。倒すことが目的ではないような気がするんです」

勇者「魔王を殺さずに和解することが、目的なのかな」

僧侶「分かりません。具体的なメッセージが欲しいですよね……」

魔法使い「とりあえず天使さんは、『期待している』と言ってくれました。今日起きたことを肝に銘じて、もっと頑張ろうと思います。魔法医学も本気で勉強したいです」

勇者「そうだな。何かが起きている事は間違いないし、向こうに着けば分かるだろう。今日のことを生かして、三人で頑張って行こう」

僧侶・魔法使い「はいっ!」


263
以下、名無しが深夜にお送りします:2013/10/19(土) 23:45:25 ID:yaa41MzQ
第5話 おわり

(シチュエーション・パズル)
・ウミガメのスープ

(ポリオミノ)
・ペントミノ
・ヘクソミノ

(図形消失パズル)
・正方形の並べ替え
・ワンダーパズル


勇者「ドーナツの世界?!」第6話を読む
勇者「ドーナツの世界?!」【後編】を読む
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